◆ボッチ
幻想郷に端はない。あるのだが辿り着けない。鳥や獣は元より人間もそんなところだ。多芸な妖怪でも幻想郷の端をみつける芸をもたぬ。ただのひとり八雲紫のみがそんな芸に通じている。
ところが近頃みょうな噂が流れている。どこの悪戯好きな妖怪が言い出したものか、幻想郷の外から音が聞こえるというのだ。今では妖精も人間も音の話を知っている。噂は病気のように伝わるものだ。
あんまりざっくばらんに音と言われては想像もおぼつかぬ。そのため伝わえられている話は一つでない。あるろくろ首の妖怪は「ドオンドオンと聞こえた」と言う。他方の山の巫女は「オオオンゴオオン」だそうだ。さらに墓場の僧侶は「グワンゲグワンゲ」ときたものだ。
火のないところから煙はたたぬ。そうと踏んだ者たちは音を確かめに向かった。だが彼らは必ず、憤然としていたり釈然とせぬ顔になって戻ってきた。口を揃えていうには「相変わらず端は見当たらない。けど音は聞こえた」
噂は次第に方向を違えていった。音の正体を議論しあうより、端への行き方がもっぱら語りの種となった。特別な術を用いるのだとか、八雲紫に頼みこむだとか。
しかしこれは定めて凡庸な議論といえる。そも端の話は幻想郷のそこいらで四六時中口にされているのだ。術だとか紫だとかなんべん語り尽くされたことやら知る由もない。結論も決まっていて、紫に頼むのが適当だろうといったところで幕が閉じられる。
音の噂はだんだんと鳴りを潜めていった。もはや寺子屋の子供は新しい怪談話で盛り上がっている。老人どもは昔話の何十回目かに戻りつつある。
さて、噂のピイクは過ぎたけれども、ちょいと遅れてその波を浴びた者がいた。妖怪の山にいる射命丸文だった。彼女はまず噂がとっくに飽きられたことを知った。記者として活きの悪い噂に食い付く義理は一文もない。だが一応は近況の話題ということもあり、下調べをしておこうとしたのだ。
枝分かれに広がった噂の種類をまとめあげ、出所におおよその見当をつけたりした。するうち文は、どうもこれは単なる噂ではないと気付いた。特に自ら端まで向かった者たちの証言は、受け流すには惜しいものがあった。なおかつ話がかたまると、ある一種の予想が文の頭にもうもうとたちこめはじめた。
音の正体とは、ひょっとすると生き物ではないか。音の種類を類推してみるとそんな気がしてならなかった。幻想郷の端にいる生き物とは、いよいよ奇天烈というほかない。
というわけで、文は取材の体で幻想郷の端へ向かうことにした。
とある日の早朝のことだ。幻想郷のあちこち朝霧がたちこめて秘密の空気に満ちていた。そんな中、射命丸文は息をひそめて飛行していく。まだ眠っている者を起こさぬようという気遣いではない。朝には、天狗といえども大きな音を立てることに後ろめたさを感じるものだ。
妖怪の山を離れて数分、文の見立てではもう数分もすれば端の間近だ。なのでひとまずカメラを構えた。
白みがかった森を写し取ったのは記事のネタにしようというつもりではない。あんまり能天気に進み過ぎると、端を越えてしまうやもしれないのだ。端に辿り着けないのに端を越えてしまう、はなはだ奇妙な言に思えるだろう。ところが実際そうなのだから他に書きようがない。
文は慎重に進んでいった。目をじろりと見開いて周囲を見渡していく。しばらくすると空が薄明るくなってきた。そこで文は止まって振り返る。人間や注意力のない妖怪ではわからないだろう。空の様子や森の微細な変化を文は見逃さない。彼女の目には、ほんの一寸前とはまるで違う景色がみえている。
これこそ八雲紫が設けた幻想郷の神秘の一つ。幻想郷の端は他方の端につながっている。つまり東の端にいけば西の端に出る。南の端を渡れば北の端を拝めるという寸法だ。今の文ならばちょうど妖怪の山とは真逆の場所にいる。
文はかつての挑戦者と同様に、端と似て非なる場所でため息をついた。やはり尋常の方法では辿り着くことができないらしい。境目が来たなとさえ感ずることもできなかったのは、かすかな敗北の念を受ける。
文は再びカメラを眼下にむけたが、シャッターを切る前に手放してしまう。馬鹿らしい。記事の予定もない写真を撮ってなんになる。
かわりに手帳を取り出して折り目のついたページから開いた。二十行ほど仕切られているその十一行目に「音の正体」と殴り書きされていた。文はこの上にペンをさっと二回走らせた。
ちょうどそのとき、正面から低い音が聞こえてきた。顔を上げた文の目が見開かれる。音は腹の底まで響き渡り、霧を震わせているかのような錯覚をさせた。森閑とした朝焼けの中にあって、異様に耳につく。
しばらくして音は収まっていった。顔を覗かしかけている太陽に遠慮しているかのようだ。文は消えいく最後までじっと聞き入った。噂では様々に形容されていた音だが、今の文にはそのどれにも聞こえない。書き表すと「モオオンモオオン」だろうか。
どこから湧いて出た音か。方向を探ると空の彼方からのような気がする。しかし音源が遠すぎるので判然としない。だが直に聞いてみると、予想の通り声に思えてならなかった。
文はカメラを構えて何かの接触に備えた。そうして来た道を引き返しはじめる。もちろん森の景色を見逃さない。ところが文の注意力むなしく、数分もすれば景色は妖怪の山の近辺を表していた。
昂りかけていた文の心が早くも醒めていく。ところがそれを嘲笑うかのように背後から例のモオオンが鳴り響いた。今度こそ見逃さぬという気概で文が振り返れども、相変わらず幻想郷の端は曖昧なままだった。ただし今度のはいくぶん近づいていて、音の大きさ細やかさも明瞭だ。ことによるとモオオンよりゴオオンのほうが的確かもしれない。
文はもう音の発信源にほとんど見当をつけていた。彼女の妖怪的感覚によれば、距離も位置も数字にできるほどなのだ。これなら必ず見つけられる。文は再び端を目指した。
ここにきて、とある不思議なことが起きる。あるいは文の熱心が幻想郷の力場に働きかけたものだろうか。
三度引き返した文を待っていたのは見知らぬ景色だった。森も朝霧も白みかけの空も変わりないが、あきらかに文の見知らぬ場所であった。なので文はちょっとまごついて周りの景色をしつこく眺め渡した。奇怪だった。前方に急に空間が広がったのだ。
ゴオオンの気配が肌で感じ取れるようだった。文のカメラ持つ手に力がこもる。さほど期待していなかったぶん緊張が跳ねあがっていた。
未開の地へさらに踏み込んでいく。晴れかかっていた朝霧が濃厚になってきた。文の視界にさえかかってくる始末だ。ゴオオンゴオオンはそんな霧を破るようにますます大きくなっていく。
と、音が止んでしまった。文は息を潜めて音の残滓にすがりついた。文の聴覚が正しければ発信源は正面にいるはずなのだ。だがそうやって怪しんでいるうちに音はどんどん小さくなって、しまいには消えてしまった。
霧深い謎めいた領域は静まりかえる。文は自分のいる場所を急に意識するようになった。端ともどことも知れぬ場所にただ一人浮かんでいるのが、かように心細いものだったとは。できればもう一度ゴオオンゴオオンと吹かしてほしいものだったが、周囲は鳥のさえずり一つせぬ。そのうち文は自分が妙な場所に閉じ込められたのではと考えはじめる。帰り路はあるだろうか。ないと困るのだが。しだいに不安な心が文の顔に表れてきて、眉根は情けなくくねっていた。
何度目かしれぬゴオオンゴオオンがやってきた。それと共に霧の奥から何やら黒々としたものが浮かび上がってくる。あまりに突然でてきたものだから文はすっかり魂消てしまった。
黒々としたものは山のように巨大だった。そのくせ音は一つもさせず文の目の前を横切ろうとしていく。真正面までやってくると視界をふさがんばかりだった。極めつけにはそいつが音を鳴らしているらしかった。
ところが文は記者特有の図太さを発揮して、すぐさま気持ちを切り替えてみせた。カメラはもう手前に焦点を絞っている。挨拶代わりにパシャリと二三枚やってみた。全貌が掴みがたくどこを中心に撮ればよいか分からない。
何枚目かの写真を撮り終えたとき黒々としたものが動かなくなる。立ち止まったかのようだった。そう思い立ってみると、彼の全体は人の形に見えなくもない。文の脳裏に、一本だたらとかダイダイラボッチとか、古々しい妖怪の名が浮かび上がる。
人型の霞がかったものがこちらを観察するように動かないのは不気味だ。しかしいざとなれば逃げる自信もあったので、文は構わず写真を撮ってメモ書きを続けた。すると背後から別の音が響きはじめて、これには文も純粋に驚いてしまう。
振り返ると別の黒い巨人がいるではないか。それも二つ、いや三つの頭が並んでいる。右に振り向いてみると四つ目だ。左からも息遣いがしたので首を回せば五つ、六つ。もしやと思って周囲を見渡した文は、合計八つの不気味を確かめ得た。
なんということだろう。才も力もある天狗の文ともあろう者が、まったく気付かぬうちに巨人に囲まれていたのだ。
巨人たちは一同に唸りとも嘆きとも憤りともつかぬ声を漏らしている。一つでさえ大きな音が重なりに重なって嵐の真っただ中にでもいるような轟音だった。にも関わらず文は耳を塞ごうとはしない。なぜだろう、音には一種独特の心地があり耳奥をじんじんと揺さぶってくる。その何とも言えぬこそばゆさが、もう少し聞き続けていたいような昂りとなるのだった。
文はうなされたような気分になってしまった。自分でも気が付かぬうちに飛行の力が弱まって森へとゆっくり降りていく。すなわち視界も下っていく。巨人を見おろす形になっていく様子は、あたかも彼らがさらなる巨大化を成し遂げているかに見えた。
こうなると文はわけのわからぬ恐怖に陥ってしまう。何も考えられなくなってきて、視界にうつる朝霧と巨人が一緒くたに混ざりはじめる。
ちょうどそのとき、文の体はずるんと下に引き寄せられた。景色が暗転するや否や、強烈な光に目を遮られる。怖々とまぶたを開いてみると夢心地の朝霧はいずこ。青々とした森が広がり空はさっぱりと晴れ渡っている。光の正体は昇り切った太陽だ。遠方には妖怪の山が見通せる。
右肩が痛む。右肩をたしかめるため首をふってみた文は、ほのかに得体の知れぬ香水の香りを感じた。嗅いだことのない香り。いったい、何があったのだろう。文は記憶こそ鮮明だったがそれらについて説明をつけることができなかった。
妖怪の山に帰った文、その日は住居から出なかった。明日になればけろっとした顔で取材活動に励んだが、この出来事は決して口に出さなかった。口に出さないのだから記事にしようはずもなかった。いずれ幻想郷のそこら中から、もう音の噂は囁かれないようになった。
この話の大事なところはこれで語り終えた。これでは何の話だか到底納得ができぬという方がいるだろう。文の体験はこれで終わりなのだから仕様がない。とはいえ結末にちかい話がないこともない。
文はひょんなことからこの噂を蒸し返すことになる。もう文自身あの朝を忘れ果てていた時分だ。「八雲紫の美容学」なる体裁の記事を書くことになって、紫と対談をすることになったのだ。そこでこんな展開になった。
「……だからその香水をつかっているわけですね。けど出所はどこから?」
「そこなのよ。ここでは原料の花が咲いてないでしょ。だから外からもってくるしかないの」
「ははあ、外っていうと、あの外ですね」
「この記事を呼んでいるあなた、私の香水がほしいからって外にいこうとしちゃだめよ。結界の管理が大変なんだから」
「出た場合はどうするおつもりで」
「別に連れ戻しはしないわよ。たまに面倒なことになるし」
「というと?」
「結界の力が強すぎるのよ。たまに幻想郷でも外でもない場所に出るときがあるの。あそこ嫌いなのよね。言葉が通じないし」
「それは、どういう場所ですか」
「あら覚えてないんだ。まあ、幸運なことね」
※以降の2作は夏に書いたもの※
◆髪飾り。どうだった
「お姉ちゃん、髪飾りが」
「ああアレ、なくしたの」
お姉ちゃんがつい数か月前からつけていたコスモスの花飾りを、今日は見ることができなかった。なくしたと言うが、ならどこになくしたのだろうか。お姉ちゃんは私と目を合わせると神妙な顔でこう言った。
「こいし、探さなくていいからね」
それで私は探そうと思った。
その日のうちに地霊殿を抜けて旧地獄に向かった。お姉ちゃんは髪飾りをきっと昨日なくしたはずだ。昨日はお姉ちゃん、旧地獄に出かけていたっけ。私はそのことを覚えている。
旧地獄の役所みたような場所にいって、髪飾りの落し物はありませんかと尋ねたら、六つや七つや表に出された。どれもお姉ちゃんのものじゃない。仕方がないのでお姉ちゃんが通ったかもしれない道を片っ端から探していく。
途中で鬼の勇儀に出会った。探し物があるんだと話したらこの人、うるさく笑ってこう言った。
「この地底で消えた物はな、地獄へ行くか、もっと深いところへ転がっていくか。どっちにしてももう帰ってこないさ」
私は今までに自分がなくしたものを思い出した。それらがもう二度と帰ってこない遠い所に行っているのだと思うと胸がキュッとなった。けど物といっても足が早いわけではないだろうし、どこかへ行くにしたって限りがあるだろう。お姉ちゃんがなくした髪飾りは、まだそこらをうろついているはず。
地獄へいくのは気が進まない。けど地底の底なら行ってもいい。きっとそこには地球の中心があるだけだろう。私は中心にいくだけだ。だから地底の底に行くことにした。
旧地獄を出て、道をどれも無視して、薄暗く湿った地底の穴をもぐっていった。後ろを振り返るたび、旧地獄の華やかな明かりがすぼまっていく。すこし高いところにうっすら光っているものはパルスィの守っている橋だろう。もうしばらく進むと、天井に遮られて橋は見えなくなってしまった。
じっとりとした風が胸を撫でる。奥には人魂がぽつぽつと漂っている。人魂を目印に進むのは絵本のよう。
しばらくは霊の気配と騒がしさがあった。けど気付いたときには私一人、さびしく底へと下っている。私は術で明かりを灯した。岩肌が浮かび上がってぼうっと私を包み込む。
あるとき地面に何かが転がっているのを見つけた。明かりを近づけてみるとスニーカーだった。白い生地は土で汚れて見栄えが悪い。私の足よりも小さくて誰のものか見当もつかない。紐はちょうちょ結びで、つま先が地上のほうを向いている。
私はいろんなことを考えた。なぜこのスニーカーは片一方しかないのだろうか。持ち主はどんな人だったのだろうか。元々はどこに転がっていたのだろうか。
もう少し先に進んでみたけれども、スニーカーのつがいは見つけられなかった。たぶんここにはない。
さらに進むと、また目立つものが転がっていた。黒ずんだダルマだった。目が書かれていないので、お祝いのまえに捨てられたんだ。背中のあたりにひどい亀裂があって、奥は虫が住んでいそうなほど腐っている。
私はダルマをこえてまだ止まるつもりはない。気になって振り返ってみるとダルマはそのままだ。少し進んで、また振り返ってみると、やはりダルマはそのままだ。けど動いているような気がする。亀裂が目に見えなくもない。
景色がずっと変わらないので進んだ距離もわからない。こんな奥底に来たのは初めてだ。空気は相変わらず湿っていて居心地が悪い。景色は変わり映えがない。けどちらほら落し物が増えてきた。
勇儀は言っていた。もっと深いところに転がっていくんだと。あれは真実なんだ。そんな気がしてきた。
黒電話、万年筆、くすんだジャージ、落し物は次々と増えていく。戸のないタンス、ふたのないヤカン、ちぎれた布団、お姉ちゃんの髪飾りはどこだろう。
不思議なことにお姉ちゃんの髪飾りが見つからない。目につくのはどれも古くて捨て置かれた感じのものばかり。つい数日前まで人の頭の上に澄ましていたって、そんな風なものはどこにもない。私が見逃したのか、もっと奥深くにいってしまったのか。
さらにいくと手元の明かりが弱まってきた。気を抜いたからだと思って力を込めても一向に元の強さを取り戻せない。私はそのうち、まわりが暗すぎるからだと気がついた。
地底の床壁はもはや近づいて目をこらさないと見分けもつかない。それでも私は進み続けた。地面を這うようにして、落し物を熱心に確かめていく。けど進めば進むほどそれが難しくなっていく。
このままでは地面を舐めないといけない。私は諦めて地面から離れた。けどまだ希望を捨てきれないので、地底の底の暗闇をじっと睨みつけた。ひょっとしたらこの先、ほんのちょっと進んだ先に、目当てのものが落ちているとも限らない。
暗闇を見つめていると、おだやかにただよっていた空気が止まった。そのときにはもう自分の作る明かりはほとんど意味をなしていなかった。手の平さえ見えなくなっている。
私は心臓の縮むようなただただ緊張した思いで暗闇を見続けた。自分の鼓動と息遣いと、あちこちから音が聞こえてくる。ズズ……ズズ……引きずるようなかすかな音だ。足元からまんべんなく聞こえてくる。
私は目が飛び出そうなほど見開いていた。体はすっかりこわばっていた。身の周りで何が起きているのか確かめようと必死だった。聞こえるものに注意を払い、見えないものを見ようとした。
一張羅が引っ張られている気がする。帽子がずれる。何度か直してもすぐにずれるのでしまいには手で支えた。なぜか髪の毛が顔に張り付く。
また空気が動き出したようだ。けど今までとは違う。なぜだろうと思ってしばらく、ハッと気がつく。空気は止まったままだ。風が吹いているのではない。自分の体が動いているんだ。地底の底へむかって、引っ張られているんだ。
地底の奥、真っ暗やみの穴はどんなところか。私の目には何も見えない。しかしそこには何かがいる。地底の落し物を底の底へと引き寄せるものがいる。私の体を引っ張っているのもそいつかな。私はちょうど、落し物に間違われているのだ。
落し物が最後にどうなるのか想像もできない。単に集めてまとめられているだけなのか、それとも不気味な目に合うのか。私が最後のところに辿り着けば、落し物と同じように扱われてしまうのか? だとしたら、どんな目に?
私はすっかり怖くなった。くるりと振り返って元来た道を矢になって引き返した。暗闇のなかですっかり方向を見失っていた。何度か壁にぶつかって腕や顔をすりむいたけども、しばらくすれば感覚がつかめてぶつからなくなった。
あるところまで戻ってから、私は明かりを灯した。眩しい光が床壁を浮き上がらせる。目をパチパチさせながら周りを見ると、足元に片一方のスニーカーが落ちていた。だいぶん戻ってきたみたい。ため息がでる。
スニーカーを見ていると、なんだかおかしい。つま先は地底のほうを向いていたっけ? 紐はちょうちょ結びで結ばれていたはずなのに、ほどけている。
さらに引き返していくと人魂と出会う。さらに戻れば旧地獄の遠望が見えてくる。
旧地獄に戻った私は、街を満たす活気を受けて気分が悪くなった。ずっと静かな場所にいたせいだ。なので寄り道をせず地霊殿に戻ることにした。
まっさきに向かったのは自分の部屋のベッド。飛び込んでシーツにくるまって自分の匂いを嗅ぐ。そうしていると部屋にお姉ちゃんが入ってきた。枕元に腰をおろしたお姉ちゃんは、私の髪をなでながらこう言った。
「探しにいったんでしょう。髪飾り。どうだった」
「怖かった」
「でしょう。だから探さなくていいって言ったの」
「あそこには何がいるの」
「知りたいの?」
私はシーツにうずめていた首をふった。お姉ちゃんは私の髪を何度もなでて、ばんそうこうを取ってくると言った。
◆たぶんお客じゃない
ある日、博麗神社に参拝客がやってきた。
笑いもせず怒りもしない老人で、黙々と石畳を渡ってくるとさい銭をやらずに手を合わせて頭を下げた。霊夢は神社の裏から老人を見つめていた。
とても暑い日で、神社は陽をさえぎり巨大な影を落としていた。老人の影はほとんど飲みこまれていた。霊夢は老人がいつまで頭を下げっぱなしでいるか測っていた。
ふいに老人の影が大きくなったように見えたが、瞬きする間に元に戻ってしまった。その後老人は頭を上げて元来た道を引き返していった。
ある日、霊夢は何気なく顔をあげてあるものを見つけた。
陽が木漏れ日を落として神社の石畳をまだら模様にしている。苔むした狛犬の裏に人影が立っていたのだ。
霊夢はお客かと思ってじっと眺めたが、人影は狛犬のそばを離れそうにない。夏風がさっと吹いて木漏れ日がひときわ大きく揺れ動いても、人影は微動だにしない。霊夢は目元に溜まった汗を手でぬぐった。
もういちど狛犬を見ると人影はいなくなっていた。
ある日、霊夢は縁側に座りながら冷やした甘酒を飲んでいた。昼の陽ざしはいよいよ鋭く、裏庭の砂利はどこまでも白い。近くの林にひそむセミの音がじりじりと肌を焦がしてくるようだ。
そんな中で霊夢はまた見つけた。
林が織りなす縞模様のあいだをぬって、人影が右に左に歩を刻む。木をよけながら歩いているのかもしれない。
霊夢は口をひらいたまま凝視した。人影は裏庭に近づいてきているようだった。ひょっとすると妖怪かもしれないと思って、見た目を覚えておこうとしたがうまくいかない。何を着ているのか分からないし、どんな髪型なのかも分からない。
そんなに遠くにいるのだろうかと思って見ていた。セミが鳴いたり止んだりまた鳴いたりした。ふと気がつくと人影がいない。いつ見失ったのか自分でも釈然としない。
様子をたしかめようとした。裏庭をよこぎる。砂利からの照り返しが草履の足に突き刺さってくる。とても熱い。拷問のようだ。水を播かないといけない。霊夢は水桶の居場所を思い出そうとした。
林に近づいてみたが何もいなかった。あるのは木の皮に張り付いたセミの抜け殻だけだ。
ある日、霊夢がさい銭箱についたクモの巣を払っていると魔理沙がやってきた。
「里にかき氷食べにいこうぜ。暑いだろ」
「一人でいきなさいよ」
「あれ、誰かいるのか」
「どこ」
「神社の中に誰かいるじゃん。正座してる」
「あれはたぶんお客じゃないわよ」
「じゃあ知り合いなのか」
「かき氷食べにいきましょ」
「え、あの人放っといていいのか。あの、あれ、どこいった」
「だから気にしないでいい奴なんだって」
「どういうことだよ」
霊夢は魔理沙と一緒に空をとぼうとした。その際、ちらりと本殿に目をやってみた。陽の当らないひっそりとした内部が見える。もちろん誰もいない。
ある日、激しい雨が降る。霊夢は縁側の雨戸を閉めて、とめどなく叩きつける雨音を聞きながら居間で寝そべっていた。
うとうとしていると、雨戸がバタバタと小うるさくなりはじめた。霊夢は風が出てきたのかと思っていたが、音の鳴り方といえば子気味がよい。トントントン、トントントンと三回おき。人が叩いていないとこうは鳴らないだろう。
霊夢は上半身を起こして雨戸を見つめる。雨戸は揺れている。ほんのかすかな隙間から鈍い外の光が漏れているのだが、光がときおりさえぎられる。黒い影が左右を行ったり来たりする。
霊夢は影をずっと見つめていた。やがて音はなくなり、雨音だけがざあざあと聞こえてきたのでまた寝そべって天井に目をやる。昔からずっとある天井の隅の染みが、ほんの少しだけ大きくなっている気がした。こうして見ている間にも大きくなり続けているような気がした。だから横向けになって寝ることにした。
ある日、かくべつ日差しの強い一日で霊夢は裏庭の雑草取りをしていた。
裏庭にしきつめられた砂利は、放っておくとすぐに隙間から雑草の萌芽がのびはじめる。手で引き抜いて水桶にいれた。本当はちり取りがよいのだが、水桶しか見つけられなかったので水桶を使っていた。
手ぬぐいを頭に巻いているのだが、その手ぬぐいがたまらなく暑い。かがみ腰になっていると顔から汗がしたたり落ちる。腰まわりは汗をすった服がねばついて重みさえ感じられる。
後ろから奇妙な物音がした。霊夢が振り返ると水桶が横倒しになって、溜めておいた雑草が散らばっていた。風は吹いていない。
霊夢はムッとしながら周りを見て、気付く。
縁側から見通せる居間に誰かが立っていた。しかし外から見ると陽の加減のせいで、居間の中がひときわ暗く感じられる。本当にそこに誰かがいると、言いきることができない。あの一段と濃い影はたしかに人のはずだが。
霊夢は顔の汗をぬぐいながら居間に近づいた。軒下まで来た頃には、あんなに暗く感じられた居間が薄暗い程度になっていた。ところが人のようなものは立っていない。では何を見間違えたのかと言っても、霊夢はなんとも答えられない。タンスか、壁の柱か、なんだろうか。
霊夢はまた草むしりにもどった。終わるまでちらちらと居間を覗いたが、けっきょく人影らしいものを見つけることはなかった。
ある日、霊夢は洗濯物をとりこんでいて、魔理沙は縁側に座っていた。
魔理沙は唾広帽子を右手にして、顔へむかってあおいでいた。左手にはソーダの瓶を持っていた。ボタンを外したシャツが風をはらんで膨らんだり縮んだりしていた。風が吹いてもあおぎつづけていた。パタパタという音が霊夢の耳にも届いていた。
急にパタパタという音がやむ。少し間を置いてまた始まる。霊夢は何となく魔理沙へ目をやって、ソーダ水が減っていることを見てとった。霊夢は洗濯物に目を戻して、皺のあるバスタオルを取り込んでいく。
一枚、二枚、三枚、またパタパタという音がやむ。ソーダ水を飲み込むかすかな音が聞こえてきた。霊夢は手ぬぐいを取り込む。一枚、二枚、三枚、またパタパタという音がやむ。ソーダ水の音は聞こえない。そしてパタパタという音は途絶えたままだ。
霊夢は気になってもういちど振り返る。魔理沙は食い入るようにこちらを見つめてくる。何か言いたげに口をうすく開いていた。あまりにもじっと見つめてくる。ふいに目が合うと、魔理沙は首を動かして顎をゆするのだ。指図をしているようだ。
霊夢は自分の体を確かめたが気になるところはない。虫が飛んでいるわけでもないし、誰かがいるわけでもない。
もういちど魔理沙を見ると、魔理沙は山のほうを見つめながら熱心に帽子をパタパタやっていた。声をかけると返事は返してくれたが、しばらくは顔を霊夢に向けてくれなかった。
ある日、霊夢のもとに参拝客がやってきた。
若い男で面持ちは暗い。さい銭をやって鈴を鳴らして深く拝む。霊夢と、たまたまやってきていた魔理沙は、神社の裏からその様子を見守った。魔理沙が声を潜めて尋ねてくる。
「話しかけないのか」
「神頼みをしにきてる人に、巫女がでばってもね」
ずっと手を合わせて腰を曲げていた男だったが、やがて体を上げた。とぼとぼ元来た道をもどっていく。
その後ろ姿を見送ったとき、魔理沙がアッと小さな声を漏らした。霊夢は表情を変えなかったが同じ気持ちだった。
男のすこし後ろを薄ぼんやりした人影がついていく。手足の動く様は見てとれても、細かいところはぼんやりと曇りがかっていて不思議とハッキリしない。そんなものが男のさみしい背中を追いかけていく。
男と人影が鳥居をくぐり石階段を下りて見えなくなるまで、霊夢と魔理沙は口を閉じたままでいた。二人がいなくなってはじめて、魔理沙がこんなことを言いだした。
「実は私さ、ここ数日さ、神社でずっとへんな影を見てたんだよ」
「私も見てた」
「あ、霊夢も見てたのか。そんな素振りぜんぜんしてなかったじゃん。私、てっきりお前が呪われてたのかと」
「似たようなもんよ」
「男の人についていったぜ。放っておいていいのか」
「ああいう奴なの。色んな人の後を追っていく奴なの」
「いい奴なのか」
「さあね」
幻想郷に端はない。あるのだが辿り着けない。鳥や獣は元より人間もそんなところだ。多芸な妖怪でも幻想郷の端をみつける芸をもたぬ。ただのひとり八雲紫のみがそんな芸に通じている。
ところが近頃みょうな噂が流れている。どこの悪戯好きな妖怪が言い出したものか、幻想郷の外から音が聞こえるというのだ。今では妖精も人間も音の話を知っている。噂は病気のように伝わるものだ。
あんまりざっくばらんに音と言われては想像もおぼつかぬ。そのため伝わえられている話は一つでない。あるろくろ首の妖怪は「ドオンドオンと聞こえた」と言う。他方の山の巫女は「オオオンゴオオン」だそうだ。さらに墓場の僧侶は「グワンゲグワンゲ」ときたものだ。
火のないところから煙はたたぬ。そうと踏んだ者たちは音を確かめに向かった。だが彼らは必ず、憤然としていたり釈然とせぬ顔になって戻ってきた。口を揃えていうには「相変わらず端は見当たらない。けど音は聞こえた」
噂は次第に方向を違えていった。音の正体を議論しあうより、端への行き方がもっぱら語りの種となった。特別な術を用いるのだとか、八雲紫に頼みこむだとか。
しかしこれは定めて凡庸な議論といえる。そも端の話は幻想郷のそこいらで四六時中口にされているのだ。術だとか紫だとかなんべん語り尽くされたことやら知る由もない。結論も決まっていて、紫に頼むのが適当だろうといったところで幕が閉じられる。
音の噂はだんだんと鳴りを潜めていった。もはや寺子屋の子供は新しい怪談話で盛り上がっている。老人どもは昔話の何十回目かに戻りつつある。
さて、噂のピイクは過ぎたけれども、ちょいと遅れてその波を浴びた者がいた。妖怪の山にいる射命丸文だった。彼女はまず噂がとっくに飽きられたことを知った。記者として活きの悪い噂に食い付く義理は一文もない。だが一応は近況の話題ということもあり、下調べをしておこうとしたのだ。
枝分かれに広がった噂の種類をまとめあげ、出所におおよその見当をつけたりした。するうち文は、どうもこれは単なる噂ではないと気付いた。特に自ら端まで向かった者たちの証言は、受け流すには惜しいものがあった。なおかつ話がかたまると、ある一種の予想が文の頭にもうもうとたちこめはじめた。
音の正体とは、ひょっとすると生き物ではないか。音の種類を類推してみるとそんな気がしてならなかった。幻想郷の端にいる生き物とは、いよいよ奇天烈というほかない。
というわけで、文は取材の体で幻想郷の端へ向かうことにした。
とある日の早朝のことだ。幻想郷のあちこち朝霧がたちこめて秘密の空気に満ちていた。そんな中、射命丸文は息をひそめて飛行していく。まだ眠っている者を起こさぬようという気遣いではない。朝には、天狗といえども大きな音を立てることに後ろめたさを感じるものだ。
妖怪の山を離れて数分、文の見立てではもう数分もすれば端の間近だ。なのでひとまずカメラを構えた。
白みがかった森を写し取ったのは記事のネタにしようというつもりではない。あんまり能天気に進み過ぎると、端を越えてしまうやもしれないのだ。端に辿り着けないのに端を越えてしまう、はなはだ奇妙な言に思えるだろう。ところが実際そうなのだから他に書きようがない。
文は慎重に進んでいった。目をじろりと見開いて周囲を見渡していく。しばらくすると空が薄明るくなってきた。そこで文は止まって振り返る。人間や注意力のない妖怪ではわからないだろう。空の様子や森の微細な変化を文は見逃さない。彼女の目には、ほんの一寸前とはまるで違う景色がみえている。
これこそ八雲紫が設けた幻想郷の神秘の一つ。幻想郷の端は他方の端につながっている。つまり東の端にいけば西の端に出る。南の端を渡れば北の端を拝めるという寸法だ。今の文ならばちょうど妖怪の山とは真逆の場所にいる。
文はかつての挑戦者と同様に、端と似て非なる場所でため息をついた。やはり尋常の方法では辿り着くことができないらしい。境目が来たなとさえ感ずることもできなかったのは、かすかな敗北の念を受ける。
文は再びカメラを眼下にむけたが、シャッターを切る前に手放してしまう。馬鹿らしい。記事の予定もない写真を撮ってなんになる。
かわりに手帳を取り出して折り目のついたページから開いた。二十行ほど仕切られているその十一行目に「音の正体」と殴り書きされていた。文はこの上にペンをさっと二回走らせた。
ちょうどそのとき、正面から低い音が聞こえてきた。顔を上げた文の目が見開かれる。音は腹の底まで響き渡り、霧を震わせているかのような錯覚をさせた。森閑とした朝焼けの中にあって、異様に耳につく。
しばらくして音は収まっていった。顔を覗かしかけている太陽に遠慮しているかのようだ。文は消えいく最後までじっと聞き入った。噂では様々に形容されていた音だが、今の文にはそのどれにも聞こえない。書き表すと「モオオンモオオン」だろうか。
どこから湧いて出た音か。方向を探ると空の彼方からのような気がする。しかし音源が遠すぎるので判然としない。だが直に聞いてみると、予想の通り声に思えてならなかった。
文はカメラを構えて何かの接触に備えた。そうして来た道を引き返しはじめる。もちろん森の景色を見逃さない。ところが文の注意力むなしく、数分もすれば景色は妖怪の山の近辺を表していた。
昂りかけていた文の心が早くも醒めていく。ところがそれを嘲笑うかのように背後から例のモオオンが鳴り響いた。今度こそ見逃さぬという気概で文が振り返れども、相変わらず幻想郷の端は曖昧なままだった。ただし今度のはいくぶん近づいていて、音の大きさ細やかさも明瞭だ。ことによるとモオオンよりゴオオンのほうが的確かもしれない。
文はもう音の発信源にほとんど見当をつけていた。彼女の妖怪的感覚によれば、距離も位置も数字にできるほどなのだ。これなら必ず見つけられる。文は再び端を目指した。
ここにきて、とある不思議なことが起きる。あるいは文の熱心が幻想郷の力場に働きかけたものだろうか。
三度引き返した文を待っていたのは見知らぬ景色だった。森も朝霧も白みかけの空も変わりないが、あきらかに文の見知らぬ場所であった。なので文はちょっとまごついて周りの景色をしつこく眺め渡した。奇怪だった。前方に急に空間が広がったのだ。
ゴオオンの気配が肌で感じ取れるようだった。文のカメラ持つ手に力がこもる。さほど期待していなかったぶん緊張が跳ねあがっていた。
未開の地へさらに踏み込んでいく。晴れかかっていた朝霧が濃厚になってきた。文の視界にさえかかってくる始末だ。ゴオオンゴオオンはそんな霧を破るようにますます大きくなっていく。
と、音が止んでしまった。文は息を潜めて音の残滓にすがりついた。文の聴覚が正しければ発信源は正面にいるはずなのだ。だがそうやって怪しんでいるうちに音はどんどん小さくなって、しまいには消えてしまった。
霧深い謎めいた領域は静まりかえる。文は自分のいる場所を急に意識するようになった。端ともどことも知れぬ場所にただ一人浮かんでいるのが、かように心細いものだったとは。できればもう一度ゴオオンゴオオンと吹かしてほしいものだったが、周囲は鳥のさえずり一つせぬ。そのうち文は自分が妙な場所に閉じ込められたのではと考えはじめる。帰り路はあるだろうか。ないと困るのだが。しだいに不安な心が文の顔に表れてきて、眉根は情けなくくねっていた。
何度目かしれぬゴオオンゴオオンがやってきた。それと共に霧の奥から何やら黒々としたものが浮かび上がってくる。あまりに突然でてきたものだから文はすっかり魂消てしまった。
黒々としたものは山のように巨大だった。そのくせ音は一つもさせず文の目の前を横切ろうとしていく。真正面までやってくると視界をふさがんばかりだった。極めつけにはそいつが音を鳴らしているらしかった。
ところが文は記者特有の図太さを発揮して、すぐさま気持ちを切り替えてみせた。カメラはもう手前に焦点を絞っている。挨拶代わりにパシャリと二三枚やってみた。全貌が掴みがたくどこを中心に撮ればよいか分からない。
何枚目かの写真を撮り終えたとき黒々としたものが動かなくなる。立ち止まったかのようだった。そう思い立ってみると、彼の全体は人の形に見えなくもない。文の脳裏に、一本だたらとかダイダイラボッチとか、古々しい妖怪の名が浮かび上がる。
人型の霞がかったものがこちらを観察するように動かないのは不気味だ。しかしいざとなれば逃げる自信もあったので、文は構わず写真を撮ってメモ書きを続けた。すると背後から別の音が響きはじめて、これには文も純粋に驚いてしまう。
振り返ると別の黒い巨人がいるではないか。それも二つ、いや三つの頭が並んでいる。右に振り向いてみると四つ目だ。左からも息遣いがしたので首を回せば五つ、六つ。もしやと思って周囲を見渡した文は、合計八つの不気味を確かめ得た。
なんということだろう。才も力もある天狗の文ともあろう者が、まったく気付かぬうちに巨人に囲まれていたのだ。
巨人たちは一同に唸りとも嘆きとも憤りともつかぬ声を漏らしている。一つでさえ大きな音が重なりに重なって嵐の真っただ中にでもいるような轟音だった。にも関わらず文は耳を塞ごうとはしない。なぜだろう、音には一種独特の心地があり耳奥をじんじんと揺さぶってくる。その何とも言えぬこそばゆさが、もう少し聞き続けていたいような昂りとなるのだった。
文はうなされたような気分になってしまった。自分でも気が付かぬうちに飛行の力が弱まって森へとゆっくり降りていく。すなわち視界も下っていく。巨人を見おろす形になっていく様子は、あたかも彼らがさらなる巨大化を成し遂げているかに見えた。
こうなると文はわけのわからぬ恐怖に陥ってしまう。何も考えられなくなってきて、視界にうつる朝霧と巨人が一緒くたに混ざりはじめる。
ちょうどそのとき、文の体はずるんと下に引き寄せられた。景色が暗転するや否や、強烈な光に目を遮られる。怖々とまぶたを開いてみると夢心地の朝霧はいずこ。青々とした森が広がり空はさっぱりと晴れ渡っている。光の正体は昇り切った太陽だ。遠方には妖怪の山が見通せる。
右肩が痛む。右肩をたしかめるため首をふってみた文は、ほのかに得体の知れぬ香水の香りを感じた。嗅いだことのない香り。いったい、何があったのだろう。文は記憶こそ鮮明だったがそれらについて説明をつけることができなかった。
妖怪の山に帰った文、その日は住居から出なかった。明日になればけろっとした顔で取材活動に励んだが、この出来事は決して口に出さなかった。口に出さないのだから記事にしようはずもなかった。いずれ幻想郷のそこら中から、もう音の噂は囁かれないようになった。
この話の大事なところはこれで語り終えた。これでは何の話だか到底納得ができぬという方がいるだろう。文の体験はこれで終わりなのだから仕様がない。とはいえ結末にちかい話がないこともない。
文はひょんなことからこの噂を蒸し返すことになる。もう文自身あの朝を忘れ果てていた時分だ。「八雲紫の美容学」なる体裁の記事を書くことになって、紫と対談をすることになったのだ。そこでこんな展開になった。
「……だからその香水をつかっているわけですね。けど出所はどこから?」
「そこなのよ。ここでは原料の花が咲いてないでしょ。だから外からもってくるしかないの」
「ははあ、外っていうと、あの外ですね」
「この記事を呼んでいるあなた、私の香水がほしいからって外にいこうとしちゃだめよ。結界の管理が大変なんだから」
「出た場合はどうするおつもりで」
「別に連れ戻しはしないわよ。たまに面倒なことになるし」
「というと?」
「結界の力が強すぎるのよ。たまに幻想郷でも外でもない場所に出るときがあるの。あそこ嫌いなのよね。言葉が通じないし」
「それは、どういう場所ですか」
「あら覚えてないんだ。まあ、幸運なことね」
※以降の2作は夏に書いたもの※
◆髪飾り。どうだった
「お姉ちゃん、髪飾りが」
「ああアレ、なくしたの」
お姉ちゃんがつい数か月前からつけていたコスモスの花飾りを、今日は見ることができなかった。なくしたと言うが、ならどこになくしたのだろうか。お姉ちゃんは私と目を合わせると神妙な顔でこう言った。
「こいし、探さなくていいからね」
それで私は探そうと思った。
その日のうちに地霊殿を抜けて旧地獄に向かった。お姉ちゃんは髪飾りをきっと昨日なくしたはずだ。昨日はお姉ちゃん、旧地獄に出かけていたっけ。私はそのことを覚えている。
旧地獄の役所みたような場所にいって、髪飾りの落し物はありませんかと尋ねたら、六つや七つや表に出された。どれもお姉ちゃんのものじゃない。仕方がないのでお姉ちゃんが通ったかもしれない道を片っ端から探していく。
途中で鬼の勇儀に出会った。探し物があるんだと話したらこの人、うるさく笑ってこう言った。
「この地底で消えた物はな、地獄へ行くか、もっと深いところへ転がっていくか。どっちにしてももう帰ってこないさ」
私は今までに自分がなくしたものを思い出した。それらがもう二度と帰ってこない遠い所に行っているのだと思うと胸がキュッとなった。けど物といっても足が早いわけではないだろうし、どこかへ行くにしたって限りがあるだろう。お姉ちゃんがなくした髪飾りは、まだそこらをうろついているはず。
地獄へいくのは気が進まない。けど地底の底なら行ってもいい。きっとそこには地球の中心があるだけだろう。私は中心にいくだけだ。だから地底の底に行くことにした。
旧地獄を出て、道をどれも無視して、薄暗く湿った地底の穴をもぐっていった。後ろを振り返るたび、旧地獄の華やかな明かりがすぼまっていく。すこし高いところにうっすら光っているものはパルスィの守っている橋だろう。もうしばらく進むと、天井に遮られて橋は見えなくなってしまった。
じっとりとした風が胸を撫でる。奥には人魂がぽつぽつと漂っている。人魂を目印に進むのは絵本のよう。
しばらくは霊の気配と騒がしさがあった。けど気付いたときには私一人、さびしく底へと下っている。私は術で明かりを灯した。岩肌が浮かび上がってぼうっと私を包み込む。
あるとき地面に何かが転がっているのを見つけた。明かりを近づけてみるとスニーカーだった。白い生地は土で汚れて見栄えが悪い。私の足よりも小さくて誰のものか見当もつかない。紐はちょうちょ結びで、つま先が地上のほうを向いている。
私はいろんなことを考えた。なぜこのスニーカーは片一方しかないのだろうか。持ち主はどんな人だったのだろうか。元々はどこに転がっていたのだろうか。
もう少し先に進んでみたけれども、スニーカーのつがいは見つけられなかった。たぶんここにはない。
さらに進むと、また目立つものが転がっていた。黒ずんだダルマだった。目が書かれていないので、お祝いのまえに捨てられたんだ。背中のあたりにひどい亀裂があって、奥は虫が住んでいそうなほど腐っている。
私はダルマをこえてまだ止まるつもりはない。気になって振り返ってみるとダルマはそのままだ。少し進んで、また振り返ってみると、やはりダルマはそのままだ。けど動いているような気がする。亀裂が目に見えなくもない。
景色がずっと変わらないので進んだ距離もわからない。こんな奥底に来たのは初めてだ。空気は相変わらず湿っていて居心地が悪い。景色は変わり映えがない。けどちらほら落し物が増えてきた。
勇儀は言っていた。もっと深いところに転がっていくんだと。あれは真実なんだ。そんな気がしてきた。
黒電話、万年筆、くすんだジャージ、落し物は次々と増えていく。戸のないタンス、ふたのないヤカン、ちぎれた布団、お姉ちゃんの髪飾りはどこだろう。
不思議なことにお姉ちゃんの髪飾りが見つからない。目につくのはどれも古くて捨て置かれた感じのものばかり。つい数日前まで人の頭の上に澄ましていたって、そんな風なものはどこにもない。私が見逃したのか、もっと奥深くにいってしまったのか。
さらにいくと手元の明かりが弱まってきた。気を抜いたからだと思って力を込めても一向に元の強さを取り戻せない。私はそのうち、まわりが暗すぎるからだと気がついた。
地底の床壁はもはや近づいて目をこらさないと見分けもつかない。それでも私は進み続けた。地面を這うようにして、落し物を熱心に確かめていく。けど進めば進むほどそれが難しくなっていく。
このままでは地面を舐めないといけない。私は諦めて地面から離れた。けどまだ希望を捨てきれないので、地底の底の暗闇をじっと睨みつけた。ひょっとしたらこの先、ほんのちょっと進んだ先に、目当てのものが落ちているとも限らない。
暗闇を見つめていると、おだやかにただよっていた空気が止まった。そのときにはもう自分の作る明かりはほとんど意味をなしていなかった。手の平さえ見えなくなっている。
私は心臓の縮むようなただただ緊張した思いで暗闇を見続けた。自分の鼓動と息遣いと、あちこちから音が聞こえてくる。ズズ……ズズ……引きずるようなかすかな音だ。足元からまんべんなく聞こえてくる。
私は目が飛び出そうなほど見開いていた。体はすっかりこわばっていた。身の周りで何が起きているのか確かめようと必死だった。聞こえるものに注意を払い、見えないものを見ようとした。
一張羅が引っ張られている気がする。帽子がずれる。何度か直してもすぐにずれるのでしまいには手で支えた。なぜか髪の毛が顔に張り付く。
また空気が動き出したようだ。けど今までとは違う。なぜだろうと思ってしばらく、ハッと気がつく。空気は止まったままだ。風が吹いているのではない。自分の体が動いているんだ。地底の底へむかって、引っ張られているんだ。
地底の奥、真っ暗やみの穴はどんなところか。私の目には何も見えない。しかしそこには何かがいる。地底の落し物を底の底へと引き寄せるものがいる。私の体を引っ張っているのもそいつかな。私はちょうど、落し物に間違われているのだ。
落し物が最後にどうなるのか想像もできない。単に集めてまとめられているだけなのか、それとも不気味な目に合うのか。私が最後のところに辿り着けば、落し物と同じように扱われてしまうのか? だとしたら、どんな目に?
私はすっかり怖くなった。くるりと振り返って元来た道を矢になって引き返した。暗闇のなかですっかり方向を見失っていた。何度か壁にぶつかって腕や顔をすりむいたけども、しばらくすれば感覚がつかめてぶつからなくなった。
あるところまで戻ってから、私は明かりを灯した。眩しい光が床壁を浮き上がらせる。目をパチパチさせながら周りを見ると、足元に片一方のスニーカーが落ちていた。だいぶん戻ってきたみたい。ため息がでる。
スニーカーを見ていると、なんだかおかしい。つま先は地底のほうを向いていたっけ? 紐はちょうちょ結びで結ばれていたはずなのに、ほどけている。
さらに引き返していくと人魂と出会う。さらに戻れば旧地獄の遠望が見えてくる。
旧地獄に戻った私は、街を満たす活気を受けて気分が悪くなった。ずっと静かな場所にいたせいだ。なので寄り道をせず地霊殿に戻ることにした。
まっさきに向かったのは自分の部屋のベッド。飛び込んでシーツにくるまって自分の匂いを嗅ぐ。そうしていると部屋にお姉ちゃんが入ってきた。枕元に腰をおろしたお姉ちゃんは、私の髪をなでながらこう言った。
「探しにいったんでしょう。髪飾り。どうだった」
「怖かった」
「でしょう。だから探さなくていいって言ったの」
「あそこには何がいるの」
「知りたいの?」
私はシーツにうずめていた首をふった。お姉ちゃんは私の髪を何度もなでて、ばんそうこうを取ってくると言った。
◆たぶんお客じゃない
ある日、博麗神社に参拝客がやってきた。
笑いもせず怒りもしない老人で、黙々と石畳を渡ってくるとさい銭をやらずに手を合わせて頭を下げた。霊夢は神社の裏から老人を見つめていた。
とても暑い日で、神社は陽をさえぎり巨大な影を落としていた。老人の影はほとんど飲みこまれていた。霊夢は老人がいつまで頭を下げっぱなしでいるか測っていた。
ふいに老人の影が大きくなったように見えたが、瞬きする間に元に戻ってしまった。その後老人は頭を上げて元来た道を引き返していった。
ある日、霊夢は何気なく顔をあげてあるものを見つけた。
陽が木漏れ日を落として神社の石畳をまだら模様にしている。苔むした狛犬の裏に人影が立っていたのだ。
霊夢はお客かと思ってじっと眺めたが、人影は狛犬のそばを離れそうにない。夏風がさっと吹いて木漏れ日がひときわ大きく揺れ動いても、人影は微動だにしない。霊夢は目元に溜まった汗を手でぬぐった。
もういちど狛犬を見ると人影はいなくなっていた。
ある日、霊夢は縁側に座りながら冷やした甘酒を飲んでいた。昼の陽ざしはいよいよ鋭く、裏庭の砂利はどこまでも白い。近くの林にひそむセミの音がじりじりと肌を焦がしてくるようだ。
そんな中で霊夢はまた見つけた。
林が織りなす縞模様のあいだをぬって、人影が右に左に歩を刻む。木をよけながら歩いているのかもしれない。
霊夢は口をひらいたまま凝視した。人影は裏庭に近づいてきているようだった。ひょっとすると妖怪かもしれないと思って、見た目を覚えておこうとしたがうまくいかない。何を着ているのか分からないし、どんな髪型なのかも分からない。
そんなに遠くにいるのだろうかと思って見ていた。セミが鳴いたり止んだりまた鳴いたりした。ふと気がつくと人影がいない。いつ見失ったのか自分でも釈然としない。
様子をたしかめようとした。裏庭をよこぎる。砂利からの照り返しが草履の足に突き刺さってくる。とても熱い。拷問のようだ。水を播かないといけない。霊夢は水桶の居場所を思い出そうとした。
林に近づいてみたが何もいなかった。あるのは木の皮に張り付いたセミの抜け殻だけだ。
ある日、霊夢がさい銭箱についたクモの巣を払っていると魔理沙がやってきた。
「里にかき氷食べにいこうぜ。暑いだろ」
「一人でいきなさいよ」
「あれ、誰かいるのか」
「どこ」
「神社の中に誰かいるじゃん。正座してる」
「あれはたぶんお客じゃないわよ」
「じゃあ知り合いなのか」
「かき氷食べにいきましょ」
「え、あの人放っといていいのか。あの、あれ、どこいった」
「だから気にしないでいい奴なんだって」
「どういうことだよ」
霊夢は魔理沙と一緒に空をとぼうとした。その際、ちらりと本殿に目をやってみた。陽の当らないひっそりとした内部が見える。もちろん誰もいない。
ある日、激しい雨が降る。霊夢は縁側の雨戸を閉めて、とめどなく叩きつける雨音を聞きながら居間で寝そべっていた。
うとうとしていると、雨戸がバタバタと小うるさくなりはじめた。霊夢は風が出てきたのかと思っていたが、音の鳴り方といえば子気味がよい。トントントン、トントントンと三回おき。人が叩いていないとこうは鳴らないだろう。
霊夢は上半身を起こして雨戸を見つめる。雨戸は揺れている。ほんのかすかな隙間から鈍い外の光が漏れているのだが、光がときおりさえぎられる。黒い影が左右を行ったり来たりする。
霊夢は影をずっと見つめていた。やがて音はなくなり、雨音だけがざあざあと聞こえてきたのでまた寝そべって天井に目をやる。昔からずっとある天井の隅の染みが、ほんの少しだけ大きくなっている気がした。こうして見ている間にも大きくなり続けているような気がした。だから横向けになって寝ることにした。
ある日、かくべつ日差しの強い一日で霊夢は裏庭の雑草取りをしていた。
裏庭にしきつめられた砂利は、放っておくとすぐに隙間から雑草の萌芽がのびはじめる。手で引き抜いて水桶にいれた。本当はちり取りがよいのだが、水桶しか見つけられなかったので水桶を使っていた。
手ぬぐいを頭に巻いているのだが、その手ぬぐいがたまらなく暑い。かがみ腰になっていると顔から汗がしたたり落ちる。腰まわりは汗をすった服がねばついて重みさえ感じられる。
後ろから奇妙な物音がした。霊夢が振り返ると水桶が横倒しになって、溜めておいた雑草が散らばっていた。風は吹いていない。
霊夢はムッとしながら周りを見て、気付く。
縁側から見通せる居間に誰かが立っていた。しかし外から見ると陽の加減のせいで、居間の中がひときわ暗く感じられる。本当にそこに誰かがいると、言いきることができない。あの一段と濃い影はたしかに人のはずだが。
霊夢は顔の汗をぬぐいながら居間に近づいた。軒下まで来た頃には、あんなに暗く感じられた居間が薄暗い程度になっていた。ところが人のようなものは立っていない。では何を見間違えたのかと言っても、霊夢はなんとも答えられない。タンスか、壁の柱か、なんだろうか。
霊夢はまた草むしりにもどった。終わるまでちらちらと居間を覗いたが、けっきょく人影らしいものを見つけることはなかった。
ある日、霊夢は洗濯物をとりこんでいて、魔理沙は縁側に座っていた。
魔理沙は唾広帽子を右手にして、顔へむかってあおいでいた。左手にはソーダの瓶を持っていた。ボタンを外したシャツが風をはらんで膨らんだり縮んだりしていた。風が吹いてもあおぎつづけていた。パタパタという音が霊夢の耳にも届いていた。
急にパタパタという音がやむ。少し間を置いてまた始まる。霊夢は何となく魔理沙へ目をやって、ソーダ水が減っていることを見てとった。霊夢は洗濯物に目を戻して、皺のあるバスタオルを取り込んでいく。
一枚、二枚、三枚、またパタパタという音がやむ。ソーダ水を飲み込むかすかな音が聞こえてきた。霊夢は手ぬぐいを取り込む。一枚、二枚、三枚、またパタパタという音がやむ。ソーダ水の音は聞こえない。そしてパタパタという音は途絶えたままだ。
霊夢は気になってもういちど振り返る。魔理沙は食い入るようにこちらを見つめてくる。何か言いたげに口をうすく開いていた。あまりにもじっと見つめてくる。ふいに目が合うと、魔理沙は首を動かして顎をゆするのだ。指図をしているようだ。
霊夢は自分の体を確かめたが気になるところはない。虫が飛んでいるわけでもないし、誰かがいるわけでもない。
もういちど魔理沙を見ると、魔理沙は山のほうを見つめながら熱心に帽子をパタパタやっていた。声をかけると返事は返してくれたが、しばらくは顔を霊夢に向けてくれなかった。
ある日、霊夢のもとに参拝客がやってきた。
若い男で面持ちは暗い。さい銭をやって鈴を鳴らして深く拝む。霊夢と、たまたまやってきていた魔理沙は、神社の裏からその様子を見守った。魔理沙が声を潜めて尋ねてくる。
「話しかけないのか」
「神頼みをしにきてる人に、巫女がでばってもね」
ずっと手を合わせて腰を曲げていた男だったが、やがて体を上げた。とぼとぼ元来た道をもどっていく。
その後ろ姿を見送ったとき、魔理沙がアッと小さな声を漏らした。霊夢は表情を変えなかったが同じ気持ちだった。
男のすこし後ろを薄ぼんやりした人影がついていく。手足の動く様は見てとれても、細かいところはぼんやりと曇りがかっていて不思議とハッキリしない。そんなものが男のさみしい背中を追いかけていく。
男と人影が鳥居をくぐり石階段を下りて見えなくなるまで、霊夢と魔理沙は口を閉じたままでいた。二人がいなくなってはじめて、魔理沙がこんなことを言いだした。
「実は私さ、ここ数日さ、神社でずっとへんな影を見てたんだよ」
「私も見てた」
「あ、霊夢も見てたのか。そんな素振りぜんぜんしてなかったじゃん。私、てっきりお前が呪われてたのかと」
「似たようなもんよ」
「男の人についていったぜ。放っておいていいのか」
「ああいう奴なの。色んな人の後を追っていく奴なの」
「いい奴なのか」
「さあね」
ここ、「見あげる」では?
特別害になるでもなく、ただそこにいるだけというのが逆に不安を掻き立てられます。
それぞれのタイトルがまたいい味を出していて素敵でした。
私も三番目が好き。しかしこいしもかわいい。
確かにタイトルかわいい。可愛いものは良いもの
>子気味>小気味