この作品は、筆者の拙作の設定が引き継がれています。
故に、一部まりりんあーたんと呼び合ったりする事がございますが、仕様です。
微量の破壊成分と多量の糖分を含みます、服用の際はこれらの点に注意し、危ないっ!と感じたら、モドリ玉を使用するなり緊急回避するなりしてブラウザバックを推奨いたします。
ちょっとでもクスリと笑って頂けたらこれ幸いです。
↓以下本文
幻想郷にもクリスマスはある。
お祭りムード一色の幻想郷の中にあって地底に向かうラブラブのアベックを誘導しながら、橋姫が盛大にパルパルしていた頃の幻想郷のお話である。魔法の森にある霧雨亭の入り口付近で、問答をしている魔法使い達がいた。
「魔理沙、本当にやるの?」
「おう、アリス。ここまでやったんだ、やるしかないだろう。ルビコン川は渡るためにあるんだぜ。」
「丁度この時期に同じような作戦名付けて、ゴリアテ人形みたいなのがクリスマスの町を襲撃するお話があるのを思い出したわ・・・早苗が懇切丁寧に説明してくれたヤツだけど。」
「あいにくだがその話は私も知っている。私は魔法使いであって闘士じゃない。それに今は魔法使いでもない。」
そんな事を言いながら魔理沙はその場で一回転、彼女が好むいつもの白黒のドレスではなく紅白のドレスを身にまとっている。ついでに言うと、帽子も紅白の物に変えている。
所謂一つのサンタルックである。
「今の私はサンタクロースだぜ。サンタクロースが攻撃するなんて前例は聞いた事はないよ。」
「それよりも不審者扱いされないか心配だわ・・・主に私が。」
対してアリスは、頭に角の付いたカチューシャを付け、茶色の愛らしいワンピースを着ている。それはどこから見てもトナカイを連想させるルックであった。
「大丈夫、サンタにトナカイは付き物だろう?それこそ、正月とお年玉みたいなもんでさ。」
「確かに一理あるけどねぇ・・・」
そもそもクールで合理主義者と周囲から言われるアリスが、こんな格好を自発的にすると考える人妖は稀有である。しかし、彼女にはそれを曲げてでも着なくてはいけない理由が存在していたのである。
「みんなの前であーたんと言われても良いというのであれば、別にいつもの服でも・・・」
「もう、恥ずかしいから止めてよ。愛称は2人の時限定って約束だったのに。」
魔理沙が人の話を聞かないのはいつもの事だ。アリスはそれを熟知している。だから諦めてはいたのだが、実際にそれをされると世間体が気になってしまい人前での愛称使用を躊躇っていたと言うのは余談である。そんな話をしていると、辺りに夜の帳が降り、満天の星に彩られた空が2人を包む。
「さぁ、プレゼント積んで・・・そろそろ行くぜ。」
「ええ、始めましょう。」
魔理沙に促されたアリスは、人が2人乗ってもお釣りの来る大きなソリに腰かけた。その先には、かわいらしいトナカイのぬいぐるみが2頭繋がれている。アリス特製の品であるそれにそっと手を伸ばして触ると、心地よい手触りが帰って来た。しばらくその感覚を楽しんでいると、魔理沙が何処からか大きな袋を持って来てソリの後ろに置いた。
「図書館から盗む時にもその袋、使うの?」
「借りる時に、だぜ。」
にっと白い歯を見せて魔理沙が笑った。アリスは苦笑したが表情自体はすぐに穏やかな物に変わった。それを確認してから魔理沙はトナカイの手綱をしっかりと握って深呼吸。
しばしの間を置き、いつもの元気な声でこう言った。
「さぁ、エアレード・クリスマスの始まりだぜ!」
ふわりと浮くトナカイとソリ。サンタクロースが乗ってやってくると言うそれを再現した物を箒代わりに、魔法使い達は星空に舞い上がる。色とりどりに仕上げた魔力の残滓が尾を引き、森の木々に吸いこまれる。心地良いベルの音が回りにこだました。
~数日前~
「たまには、子供達に夢を見せてあげようと思うんだ。」
魔理沙は唐突にそんな事を言った。それを聞いたアリスはあっけに取られるしか方法が無かったのか、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして魔理沙を見つめる。
「まりりん、あんた変な物でも食べた?特にキノコとか。」
「何でもキノコのせいにするのは良くないぜ、薬草を強化するキノコだってあるんだぜ。」
ああそうですか、そんな感じで頷くアリス。魔理沙は神妙な顔をしたまま、話を続ける。
「サンタクロースに扮して、お菓子とかプレゼントとか空から撒いて回ってみたいんだ。パチュリーんとこで読んだサンタクロースに関する文献にはそんな記述が残っててね。」
「それ、絶対何か間違ってない?」
その指摘をさらりと魔理沙はスル―。その勢いを維持したまま、話を続ける。
「他の文献では、夜中に煙突から家宅に侵入してプレゼントを枕元に置くというやり方もあるが、コソ泥みたいでなんか嫌でな。私は、前者の説を採用したいと思っている。」
「アンタが言っても、説得力が無いわ。」
ジト目を向けられたが、魔理沙は全く意に介していない。まぁ、都合の悪い話は受け流すこの魔理沙にそんな事をしても意味が無い事をアリスは良く知っていたから、諦めはしていたようで、話をするように無言で促した。
「それとは別なんだが、文の新聞とかはたての新聞とかって魔法による破壊をネタにした記事をメインに取り上げるだろ?あとは、ありもしない色恋沙汰とか。」
「後段部分には同意するわ。前段はだいたいアンタの仕業でしょ?」
「パワーが信条とはいえ、魔法が破壊的な物でしか無い事をアピールするつもりはあんまり無い。例えていうなら、お前が人里で人形劇をするような感じに近いかな?私はそんな事滅多にしないから、たまには盛大にやってみようかと。」
「なるほど。それなら分かるわ。」
アリスは頷いた。自分も里で魔法の糸で繰る人形劇をしていて、魔法によって人妖を喜ばせている。今回の魔理沙は、魔法によって人妖を喜ばせようとしているのが分かったからだ。しかし、アリスの中には疑問があった、配るプレゼントの問題である。魔理沙の家は確かにお宝(と言う名のゴミ)の山であるため、見つくろえば十分な量はあるかも知れない。しかし、その中には盗品等が混ざっている可能性がある。その事を考慮したアリスは魔理沙に確認を取った。
「盗品をプレゼントするのは良くないわよ。」
「だから、借りてるだけだぜ。」
「借りた物をプレゼントするのも良くないわ。」
「それもそうだ。」
しばらく思案する魔理沙。腕組みをして、思考を巡らせると何かを思いついたのであろうか、ポンっと手を打ってからアリスにこう告げた。
「私はお菓子作って、ばら撒くぜ。金平糖とかは里の子供が喜んでくれるだろう。」
いたって普通の返答が帰って来た事にアリスは驚いた。居直るかと思っていたが、どうやらそのつもりも無さそうである。その事に感心したアリスは、これなら手を貸してみようと思った。永夜異変、地底での間欠線騒動では魔理沙をけしかけてばかりだったから、これで埋め合わせができるとも考えたからである。
「まりりんにしては名案ね。じゃ私は、ぬいぐるみと人形を作ろうかな。」
「気前が良いな、あーたん。てか、協力してくれるのか?」
「まともな発想をしたまりりんに、少し早目のクリスマスプレゼントってとこかしら?」
首を縦に振りながら答えるアリス。魔理沙は目をぱぁあと輝かせながらこう告げた。
「私はいつだって、まともだぜ。」
上機嫌の魔理沙は、そのまま自分の机から一冊のノートを取り出した。そのノートには何も書かれていなかったが、羽ペンを持った魔理沙は意気揚々と表紙に書きつづった。
「エアレード・クリスマス」と。
~クリスマス・イブ~
そんな会話から始まった魔法使い二人のエアレード・クリスマス作戦ではあったが、その話をしたところ、にとりとパチュリーからプレゼントの供与を受ける事が出来た。その結果が、パンパンに膨らんだ袋の中身である。それぞれ「盟友のやりたい事に協力させてもらうよ!以前、私の地底探査に付き合ってくれたから」だとか「同じ魔法使いのよしみで助太刀させてもらうわ。魔理沙の地底探査のお礼も兼ねてね」と言っていた。
「あいつらにも感謝しないとな。いい仲間だぜ、ホント」
「アンタに貸しを作りたくないだけかもよ?」
「それでも、好意は受け取って損なしなんだぜ。」
上空の冷たい寒気に負けぬよう、八卦炉の出力を上げる魔理沙。十分な暖を取りながら、手綱を握る魔理沙とアリス。目指す先はと言うと・・・
「見えて来たわ。そろそろ博麗神社ね」
「幻想郷の隅から潰す、そうすれば時間も短縮できるもんな。」
夜の内にプレゼントを配り終えなくてはならないサンタクロースにあって、タイムリミットという概念は永夜事変を想起させるものであった。季節が秋ではなく現在は冬のため朝は若干遅い物の、回る範囲が幻想郷の主要施設全部と拡大されているので総飛行距離は増加している。幻想郷でも屈指のスピードを誇る魔理沙であったとしても、今回は大きなソリに魔力を充填して飛ばしているので、スピードは少し控え目。故に効率の良いルートで回る事を決めたのだ。
「ターゲット、射線軸上に捕えたわ。」
「了解、そいじゃ、ちょっくら失礼して・・・と!」
魔理沙は包みをいくつか投げた。ちょっとだけ自由落下の後、包みの中から魔法で出来た落下傘が出現して狙った地点にゆっくりゆっくり落ちて行く。
狙ったポイントは博麗神社の縁側と、裏にある妖精の住処である。
「どうだ、アリス、上手くいったかな?」
「ええ、目標ポイントへの着弾を今確認したわ。」
「じゃぁ次だ。時は金なりだぜ・・・と、その前に。」
何かを思い出したかのように、魔理沙はもう一個包みを落とした。最近博麗神社に出入りするようになった片腕有角の仙人の分である。
「年々、知り合いが増えて行くからな、私も。」
「また来年も増えるのかしらね?」
「異変があれば、な。」
そのまま博麗神社の裏手に回り、地底に突入する二人の魔法使い。
「そーらよっと!サンタ様のお通りだ!!」
いつにも増して凄まじい星屑を輝かせ旧都を飛びながらプレゼントを投下してゆく。旧都は騒然となっていたが、その様子に満足そうな表情を浮かべながら魔理沙は頷いていた。するとアリスが慌てて指摘する。
「魔理沙、地霊殿にもプレゼントを置いていかなきゃ!」
「了解、地霊殿のどの辺狙う?」
「お燐の火車を狙いましょう。」
「よし、的には丁度良いだろ。」
魔理沙は袋を手に持ち、狙いを慎重に定めた。
「うにゅ?何アレ?」
空が空を指差した、星の無い地底の空に彩られた一条の星の列。その星が徐々にこちらに向かって来てー
「それっ!」
魔理沙が投げた袋はふんわりと落下傘降下し、見事お燐の火車にホールインワン。近くにいたさとりとこいしが慌てて中身を確認すると大量のプレゼントが満載されている事に気が付き、地霊殿で騒いでいた人が総立ちして拍手喝采という事態が発生。その様子を見て満足した二人は、静かに地底を後にした。
―橋姫がこっそり回収していたプレゼントとクリスマスカードを眺めながら、穏やかな顔をしていたのは余談である。
所変わって、紅魔館上空。
こちらでも、身近に居た人妖がドンチャン騒ぎをやっていた。悪魔の眷属として恐れられる吸血鬼の住まいにあって聖者の生誕を祝う姿はどうかと思う意見もあったが、当主のレミリアの意向が「楽しかったら、それでよし」な物であるからなし崩し的に開催されたドンチャン騒ぎである。そんな光景を双眼鏡越しに眺める魔法使いの姿が2つ。
「そんじゃ、美鈴には悪いけど・・・FOX2!!」
今度は、ソリの下部からマジックミサイルを発射。マジックミサイルは、七色の星を放出しながら
下降線を辿り・・・クリスマスイブと言うのに警備を一任されていた美鈴の目の前に見事着弾した。
「なっ!!何ですか?コレ?」
モノ言わぬマジックミサイル。返事変わりにミサイルの後部から、花火が打ち上がり夜空を彩る。そして落ちてくる大量のプレゼントの包み。慌てて美鈴が一つ拾うと、綺麗に瓶詰めされた金平糖と手書きのクリスマスカードが添えてあった。それを見て誰の仕業か把握した美鈴は、まだ季節外れの花火の余韻が残る星空に大きく手を振った。その姿を見ていたパチュリーは誰にも気づかれないように微笑んでいた。
「全く、美鈴の真正面5センチに着弾してプレゼントの包みを打ち上げるミサイルとかって難しい注文付けやがって・・・」
「まぁまぁ、魔理沙の魔法の腕ならそれ位は朝飯前かと思ったし。」
飛び去る魔法使い二人のひそひそ話は花火の音にかき消され、後には炸裂音の余韻だけが残っていた。
次いで彼らが向かったのは、竹林。永遠亭へのルートを辿りながら竹に激突しないようにトナカイとソリをコントロールする魔理沙。徐々に近づいてくる永遠亭を確認したところで、アリスは魔理沙に尋ねた。
「今回はどこに落とす?」
「鈴仙の尻を狙おうぜ!」
「絶対、それ何かウケを狙って言ってるでしょ。」
「そんな事は無いのぜ。ほれ、アリス、後は投下するだけだから宜しく。」
口笛交じりにはぐらかす魔理沙はアリスに、魔法の発動を促した。
「ちょっと早いけど落とし弾よっ!」
半ばやけくそ気味に叫びながらアリスが投下したプレゼントの包みが入ったマジックナパームは見事に鈴仙のお尻の後ろ38.9センチの所に投下された。
「何・・・この爆弾?」
マジックナパームである事に気が付いた周囲の兎達はてゐを殿にすでに一回り離れている。その様子を眺めていた輝夜と妹紅はの一気飲みによる殺し合いを展開していると言う始末。その状況下で唯一冷静だったのが、永琳だけであった。
「離れなさい。不発弾だったら大変よ。」
「わ、わかりました。」
その心配はすぐに杞憂に終わった。永琳が調べた直後、マジックナパームの中からプレゼントが大量に飛び出し、最後に花火が上がった為である。花火の直後はパニックになったが、花火の後のメッセージを見た鈴仙は、すぐに空に向けてありがとーと叫んでいた。兎達は落ちて来たプレゼントの争奪戦を開始、それに輝夜と妹紅も参加して収集が付かなくなったのは余談である。
二人はそのまま竹林を抜け、妖怪の山へ。その頂にある守矢神社でもドンチャン騒ぎが起きていた。周囲の人妖混ざっての盛大なパーティーで、神様等の種族関係なく和気藹藹とした様子である。
「えへへ~地球が回ってますねぇ~」
「誰、早苗にシャンパン飲ませたの~?早苗はお酒弱いんだから!!」
諏訪子の抗議に耳を貸す人妖は居ない。変わりにコップに酒が並々と注がれる。そんな混沌とした飲み会となりつつあった守矢神社のクリスマスパーティ。
「ゆるさなえ!!ゆるさなえ!!!」
道行く人妖の頭を脇で挟みながら闊歩する、傍から見れば迷惑、人によってはされてもいいかなっていう早苗の暴走っぷりを上空から眺める魔法使い達の姿があった。
「早苗のやつ、酔っぱらってるな。」
「あの子、お酒弱かったわよね?」
「ああ、多分最高クラスの下戸だろう。先祖が蛙の神なのも頷ける。」
「ゲコゲコ鳴くからとか言ったら、魔理沙を投下するわよ。」
「くわばら、くわばらだぜ。」
守矢神社との距離を縮めながら、魔理沙がどのパーティー用弾幕を使うか思案していた所、アリスが魔理沙の肩を叩いて微笑みながらこう告げた。
「そろそろ私の仕掛けも使おうか。」
「そいつはいい、それは私のより凄いのか?」
「ええ、もちろんよ。さぁ、行きなさい!」
アリスはお得意の人形躁術を使い、多数の人形を一気に展開した。人形達もサンタルックに衣替えを済ませている。人形達は、我先に守矢神社に降下して行き・・・
「メリークリスマース」
「わっ!!」
突然現れた人形に早苗は腰を抜かした。そして、そのまま皆にプレゼントを渡して去っていく人形達にさらにビックリ。そのやり方に小傘が感銘を受けていたが、自分に真似ができるかなーと考えたときに難しそうだという考えが先に立った小傘は酒を一気して思考を止めた。
「大丈夫かい、早苗」
「は・・・はい。すみません、神奈子様。」
刹那、人形達の爆発による花火が夜空を彩った。その光景に守矢神社に集った皆様は、しばらくの間は言葉を失っていたが、どよめきが始まりやがて拍手と歓声に代わっていった。サプライズとしての効果は十分であったと考えられる結果にはアリスもしたり顔。魔理沙も感心した様子で。
「お見事。」
「当然よ。都会派の実力を見くびらない事ね」
「だが、幻想郷では2番目だぜ。」
笑い声を残して、二人の魔法使いはさらに高度を上げ、天界へと向かって行く。その後ろ姿を見ていたにとりは誰にも悟られないようにサムズアップをして見送った。
天界でも当然のように宴会が行われており、飲めや歌えの大騒ぎ。中央の人だかりの中心に艶やかな身のこなしを披露し、軽快に踊る衣玖の姿があったのを魔理沙は確認した。その傍らには楽しそうにお酒を飲みながら踊る天子の姿も見える。その姿に何かの悪戯心が芽生えてしまった魔理沙は狙いを天子の近くに定めた。
「天子とダンスでもしてなっ!!」
そう言うや否や魔理沙はスターダストミサイルを発射した。ミサイルは美しい星を放出しながら、ダンスの輪の中に入っていって・・・・・弾着を確認。そこまでは良かったが、二人の計算の範疇に無かった事が発生してしまった。
「あ、天子に当たったか・・・」
「こ、心なしか喜んでるみたいだけど・・・」
「何時ぞやの要石のお返しには十分かとは思うんだが。」
「それもそうね。」
「まぁいいや、さァ、行くか。」
天子に着弾したまま花火が打ち上がるなどという深刻な事が起きては居たが、足を止めている時間的余裕が無かったので、セリフだけでも綺麗に纏めてから、冥界へと向かう。
長い階段に沿って高度を上げながら、白玉楼へと迫る二人。しかし、灯りは付いていない。ここは既に寝静まっているようである。確認のため、辺りを偵察しながら飛んでいると、サンタ姿の老人がこっそりこっそりと歩を進めている姿を二人は見つけた。
「あ、既に先客がいたか。」
「そうね、ここはそっと・・・置いておきましょ。寝ている人をわざわざ起こす必要はないわ」
「そうだな・・・」
アリスが物体転移の魔法をかけて、プレゼントの包みを居間と幽々子、そして妖夢の部屋に送り届けた。渡すプレゼントが消えたのを確認してから、ソリは方向転換、冥界を後にした。その一部始終を見ていた老人は、再び忍び足で歩を進める。目指す先は、ここの庭師である妖夢の部屋である。
「・・・可愛い孫娘の為になら、この魂魄妖忌、サンタにもなろう!!」
人知れず里帰りをしていたおじい様。妖夢が枕元に置かれた祖父からのプレゼントに喜び転げまわって、幽々子に笑われる事になるのも余談である。
冥界を後にした2人は、無縁塚を経由、彼岸へと向かって行った。
「あーぁ、また映姫様が優しい呼び方してくれないかねぇー」
小町がかったるそうに眼を閉じて眠りながら夜風に当たっていた、それを眺めていた魔理沙とアリスは苦笑した。
「彼岸にはクリスマスも無いのか。」
「暑さと寒さは彼岸までって言うけどね。」
「だとするとちょっと悲しいな。」
寝ている小町に接近、プレゼントの包みを投下。ドスンという鈍い音で流石に目を覚ます。寝ぼけ眼をさすり、プレゼントの包みの上に添えてあったクリスマスカードを手に取って開くと、ぱぁっと光が広がり、メッセージが浮かび上がった。
―サボってたらダメだぞー。彼岸のみんなで分けてくれよな。メリークリスマス!!
「わかったわかった、この事は内緒にしといておくんなよ。」
クリスマスカードをそっと胸元にしまった小町は、落ちて来た大きなプレゼントの包みと集まってきた魂を船へと誘導し、彼岸を渡り始めた。翌日、プレゼントの一つだったかわいい熊のぬいぐるみに映姫が人目を忍んで抱きついていた姿が天狗に撮られたという噂が立ったとかなんとか。
彼岸を後にし、中身が減り最初の半分ちょっと以下くらいまで縮んだ白い袋を乗せたソリは、この旅の終着点である人里へとさしかかろうとしていた。その時の事である、魔理沙が一つだけ包みを投げた。
「こいつは、ソリのお礼だぜ。」
落下点は香霖堂、今回のソリを作成したのは、他ならぬ霖之助であった。魔理沙がこの作戦の話をした時に店の商品を勝手に持ち出す事を恐れてはいたが、盗品は扱わないと聞いて安心した彼は、マジックアイテムを提供する事にしたのである。
・・・魔法の箒と同じ仕組みで、空を飛べる、魔法のソリ。
その時ばかりは流石の魔理沙もありがとーと年頃の少女らしい素振りを見せた。その事にツッコミを入れたら真っ赤になって弁明していた魔理沙の姿を思い出したアリスは、口の端を少しだけ緩めて魔理沙の横顔を見た。どちらかと言えば、少年のような好奇心に満ちた表情を備えた魔理沙の視線の先には、人里がはっきりと映り始めていた。時は既に早朝にさしかかった頃で、里の人間は騒ぐものも居れば、酔いつぶれて寝ているものもいた。
しかし、命蓮寺では修業の一環である朝の掃除が粛々と行われていた。
「今日も一段と冷えるなぁー」
ナズーリンが、床掃除をしながら空を眺めていた。幾人かの修業僧も拭き掃除や掃き掃除に追われ、静かながらも慌ただしい雰囲気の命蓮寺。
「この分だと、また雪が降りそうですね。」
埃避けのほっかむりをした星が、箒を片手に現れてナズーリンに声をかけた。ナズーリンは、微笑みながら自分の主に答える。
「雪かきはごめんこうむる。程々に降ってくれたら、風情があってよさそうだけど。」
「みんなでやればすぐですよ。ね、船長。」
屋根の掃除をしていた村紗がえーとか言いながら、反論する。そんな村紗ではあったが、ふと彼女が空を見上げると白い物がふらふらと落ちて行く様が目に入った。
「ほら、ナズーリンに星、何か見えない?」
「・・・噂をすれば何とやらだな。」
空を見上げると、小さな白い物体が今度ははっきりと見えた。
「降ってきましたか。」
「にしては、大きくない?」
白い物体は、落下傘を展開。ふわふわと宙を舞って、見事星の頭にポスンと収まった。近くにいたナズーリンが星の頭から下ろして包みを開けると、包みの中には、チーズケーキと小さな鼠と虎の可愛らしい人形が入っていた。
「チーズケーキとお人形さんだ。あはっ、魔法使いからのメリークリスマスだって。」
「良かったですね、ナズー。」
「その呼び方は止めてって言ったじゃないか!御主人!」
大騒ぎを始めるナズーリンと星、近くにいた村紗とぬえも仲裁に入るが騒ぎが収まる気配も無い。その様子を見ていた魔理沙はほくそ笑み、アリスは呆れた顔で双眼鏡を覗きこんでいる。
「見事な反応だ、私の思惑通りだぜ。」
「あらそう、別に他の人を狙っても良かったんじゃないの?」
「一番物を無くす奴に一番最初に渡しておけば、他の皆が証人になる。無くした事すら忘れてクレームを付けられる心配もこれで皆無だ。」
「クレーム付けるような性格かしら?」
どうかな?魔理沙は大きく伸びをした、八卦炉の効果で暖房は効いているが、長くソリの上に腰かけていたせいか、足の感覚が微妙におかしくなっている事にも気が付いた。アリスと交互に立ったり座ったりしながらプレゼントを配りはしていたものの、夜空に長時間座りっぱなしは初めての経験である。少し屈伸運動を挟んでから、様子を眺めていたアリスに、話題を提供した。
「余談だが、私特製の濃厚キノコエキス入りなんだぜ・・・あのチーズケーキ。」
「そんなの配ってどーすんのよ!」
「冗談だよ、冗談。ちゃんとした材料で、全部作ってたのお前も見てただろう。」
「確かにそうだけど、手癖の悪さと目を盗むのは得意分野でしょ?」
魔理沙の返事は無かった。変わりに命蓮寺からのどよめきが聞こえてくる。次々と落ちてくるプレゼントを受け取り喜ぶ弟子や仲間達の様子を白蓮が見て微笑んでいた。
「あらあら・・・皆で仲良く分け合って下さいね。」
「見る限りウチの弟子達の分は十分ありそうですよ、姐さん。」
後ろに控えていた一輪の返答に、白蓮は安心した。様々な種族からなる弟子たちは、教えに従って分け隔てなくプレゼントを分配し、全員がホクホク顔。白蓮の目尻は下がるばかり。
「私達の教えにはクリスマスはありませんでした・・・ですが、こうやって皆で笑えるなら、私の掲げる理念に一致しますね。」
「そうですね。」
一輪の同意の後、静かに雲山が頷いた。そして・・・
「さぁ、せっかくですので私達も混ざりましょう。」
「はい姐さん。プレゼントの箱の回収は雲山にも手伝わせます。」
白蓮達の参加でより一層境内が騒がしくなった命蓮寺上空を去り、人里の中心部に停止した二人。ここで魔理沙がスペルカードを取り出し魔力を充填していた。
「ようし、仕上げは盛大に行こう。アリス、魔力を貸してくれ。」
「わかった。慧音から教えてもらった子供の家の場所は、全部間違いないわね?」
「ああ、大丈夫だろう。本人の裏も取ってある。」
「上出来ね。」
アリスもスペルカードに魔力を充填し、発動の準備を整える。十分に魔力がたまった事を確認してから、二人はタイミングを合わせて上空にスペルカードを投げる。
「イッツ、ショータイムだぜ!」
その言葉が大魔法発動の合図であった、大きな大きな魔法陣が空に広がり爆ぜたかと思うと、大量の煌めく星が辺り一面に広がった。そして星と一緒に落ちてくるプレゼントの包みと粉雪が黒い夜空を切り裂いていく・・・。上空からその光景を眺めながら、魔理沙とアリスは息を上げていた。
「成功したみたいだな。」
先に話したのは魔理沙だった。あれだけ魔力を消費して飛行した後に、大きな魔法を使って息を荒げただけで済んだのは本当に凄いなと素直に思った。
「ええ、バッチリ。」
「喜んでくれるかな?」
「さぁ、それは明日になったらきっと分かるわ。」
「・・・そうだな。」
短い問答ではあったが、この二人には十分な問答である。伝えるべき事を伝えるだけの会話だが、それだけで気持ち等も良く伝わってくる。長くつるんだ結果がこれなら、悪くは無い。そんな事をお互いに考えながら、息を整えていた。
「さぁ、帰りましょう。魔法の森へ」
「ああ。」
プレゼントが配られ、様々な色で輝く流れ星とそれを彩る弾幕花火が炸裂し、早朝にも関わらず歓声でにぎわう人里を背景に、大きな袋がしぼんで小さくなって軽くなったソリが高速で飛び去って行くのを、新聞を配っていた天狗達が目撃していた。
「号外、作るよね文?」
「勿論よはたて、その前に、取材を敢行しますけどね。」
「どこから行くつもり?」
「はたての反対方向からですよ。」
そんな事を言いながら天狗達は、散会して事の真相を探り始めた。クリスマスにあっても彼女らは特ダネを探しているのは職業人としての悲しき性であろうか・・・
「・・・これで私達の夜間飛行も終わりだな。」
「ええ。これで幻想郷一周ね。」
既に西の空が明るくなり始めている。そろそろ天狗も新聞を配り終える頃だろう。徐々にスピードを落としながら、ソリは魔理沙の家の前に着陸してゆく。しばしの沈黙の後、どちらからともかく笑顔を浮かべお疲れ様とだけ軽く返す。座りっぱなしで足が固まったような錯覚を覚えながら魔理沙は立ち上がり、アリスの手を取って、優しく立たせる。
「とりあえず、風呂入って寝るか。パーティーはそれからでも遅くは無いだろ。」
「そうね。また博麗神社でドンチャン騒ぎになるだろうけど・・・もう遅いから、お風呂とか寝床とか借りるわよ。」
「ご自由にどうぞ、だぜ。」
仕事の後の達成感を携えた表情を浮かべる魔理沙とアリスは、お互い笑いあって霧雨邸に入って行った。
~二人だけのクリスマス・イブ(延長戦)~
「・・・寝てる寝てる。」
魔理沙は静かに客間のドアを開けて寝息を立てるアリスを起こさないよう、そっとそっと忍び足で近づく。その手には、小さなプレゼントの包みがあった。
「メリークリスマス、アリス。」
小さな声で言って、赤い靴下に入れたプレゼントをそっとベッドサイドにかけて、気づかれないように部屋を後にした。途中一回、ギシリという床の音がしてドキリとはしたものの、多分気づかれてないだろうと思いつつ、再び寝床に入った。
「・・・アリス、喜んでくれるかな?」
魔理沙はそんな事を一人ごちて、達成感と満足感と共に掛け布団を思いっきり頭にかぶって夢の世界へと意識を沈めて行った。
「・・・魔理沙、お手洗いかしら?」
かすかに軋む床の音でアリスは目を覚ました。気配を感知する魔法をそっとかけて、魔理沙が再び眠りに就いた事を確認してから、もう一つの魔法を発動させる。魔理沙のベッドの脇にかけられた赤い靴下に、プレゼントを送り込む魔法を・・・
「メリークリスマス・・・魔理沙。」
枕元でささやいた言葉は、誰にも聞かれる事は無かった。
でも、クリスマスを祝う気持ちと、プレゼントは確かに、魔理沙の枕元に届けられた。アリスは充実した気持ちで、再び夢の世界に戻って行った・・・
―今日も幻想郷は平和である。
す?
>霖之介
霖之助
とっても面白かったです!!