愛だなぁと思う。
愛だよ。
愛。
愛を知って、愛になる。
なんて甘美な時間なんだろう。
ああまるで、どこかの教会に飾られている一枚絵のようだ。
絶世といっていい美少女ふたりが、あのさとり様とこいし様が、言葉もなく、ああやって一時間以上沈黙して、笑ったり、突然プッとふきだしたり、なんだかとろけた視線でうっとりしたり、モナリザさんのように微笑したり、時々意味不明なリアクションとったり……。
いや――
ないから。
やっぱり、ないから。
それ、ただふたりがソファに対角線上に座って、沈黙して、顔芸しているようにしか見えませんから。
パントマイムですか。
わかります。パントマイムの練習をしているのですね。
目指すは伝統的な白黒映画、チャップリンとかの方向性なわけですね。
ふたりとも息ぴったりだから、パントマイム姉妹芸人としてやっていけそうです。
なんせ、新機軸ですから!
ふぅ。
いまさらながらなんで私はこんな気分になってるんだか。
さとり様とこいし様の仲が良いのは喜ばしいこと。
考えるまでもないことだ。
ペットに過ぎない私でも家の中が安寧とした状態に保たれるのは喜ばしい。
当然のこと。
たぶん、三歩ですべてのことを忘れるお空ですら理解できることだ。
しかし、この状態はいったいどうしたことだろう。
覚りははっきり言えば、会話がいらない種族だ。テレパス同士がわざわざ不具合の多い言葉なんかに頼る必要性がないのだ。
結果として、言葉を通してしか想いを伝えられない私はつまはじきにされてしまう。
沈黙に潰される。
ほら、きまずい沈黙ってあるじゃない。
ああいうのがずっとずっと続く感じといえば少しはわかるかなぁ。ふたりだけの世界というか。
もちろん、さとり様にとっては今まさに悲願を達成なされたときであって、こいし様もひとつの契機を迎えたのだから、ふたりの世界にこもるのはわかることだし共感できることでもあるのだけど。
ちょっと――
なんていうかさ……。
この置いてきぼり感はなんと表現すればよいのだろう。
難しい。
まるで、矛盾を題材に書いたのに盾について議論が白熱しているのをぼーっと眺めている作者な気分だ。
すんごい置いてきぼり感。
いや、まぁ、それもありえない設定だと思うのだが――。
「寂しいのですね」
「あわわ。さとり様」
「お燐のことを寂しがらせるつもりはまったくなかったのですけど、不便なものですね」
「言葉がですか?」
「いいえ。心がです。しかし、だからこそ、こんなにもいとおしいのです」
さとり様は小さな身体で私の身体を後ろから抱きしめていた。
今の私は人間の格好をしていたから、そうならざるをえなかったのだ。
「お燐が人間の形をするときは寂しいときでしたね」
「いや……そういうわけでは」
「うん? 寂しいという言葉ではうまく伝えきれてないですね。やはり言葉は不便です。よろしい。完全に説明しましょう。お燐は私の気を引くために人間の形を取れるように努力した。そういった努力の結晶である人化の術であるからこそ、いざというときには人の形をとりたいと思ってしまう。そうして、私の寵愛を得るというのがあなたにとっては一大事というわけね」
「まぁ……その」
なんでこんなに細かいのだろう。
さとり様にはデリカシーが足りないと思う。
「ふふふ。ごめんなさいね。確かに神経が足りませんでした」
「わかってておっしゃるのですから性質が悪いですよ」
「でもですね。お燐。言葉というのは不思議なもので、時々心を読むよりもずっと強い力を発揮するものですね。言葉を発することで、言葉にひきずられて想いが強化されるということもあるようです」
「ええ、わかります」
「だからはっきり言いますね」
今もまだ抱きしめられている格好だ。
うなじのあたりにさとり様の息が当たってドキドキしてしまう。
「あいしていますよ。お燐」
「にゃ~ん」
私は猫になった。
全部あとがk(ry
好きなようにやって下され
憑いていける所までついて行く
素で気づかなかった