宴会の合間に出た、アリスが魔理沙に洋菓子の作り方を教えているという話。
よかったら妖夢もどう?と誘われたのは昨日のことだった。
友達の家に遊びに行くという期待半分、幽々子の舌を喜ばせることになればという興味半分で了承したものの、
お呼ばれして友達の家に行く、というシチュエーションに妖夢は弾む心を抑えられない。
だがそれも、アリス宅のドアを叩くまでのこと。
今では自分は場違いのように思えて仕方が無かった。
「げ、アリスまた新しいエプロン作ったのかよ」
「この子達に新しいの作ってあげるつもりなの。その試作よ」
ね、と傍らの上海人形に微笑みかけるアリスをみてため息をつく魔理沙。
二人が身に着けているのは、洗練されたデザインのエプロンだ。
魔理沙はいつものスカートだけを覆うエプロンをはずして、胸の前まであるものをつけている。
フリルやレースが所々についていて、服飾に詳しくない妖夢にも手の込んだものであることが分かる、
とても可愛らしいものだ。
アリスのエプロンは魔理沙とは逆にシンプルなデザインだが、体にうまくフィットさせることで
スタイルのよさが強調されるような工夫がされている。
試作というだけあって、いつものアリスとはちょっと違った、格好いいデザインだ。
だが、自分といえば。
二人が着ているエプロンを見て、妖夢はいたたまれなかった。
今まで妖夢は、前掛けといえば、服に汚れがつかないようにするためのもの、という認識しかなかった。
しかし、どうも二人の様子を見ていると、友達といっしょに料理を作る際には、エプロンで着飾るものらしい。
二人の女の子らしい華やかな様子を見ると、自分の持ってきたものがどうにもみすぼらしく思えてしまう。
妖夢はしばらく逡巡した後、結局こう言った。
「えっと、ごめん。私、エプロン忘れてきちゃったみたい」
握り締めた布を、そっと荷物の奥に押し込んで。
白玉楼にて
幽々子がそれを見たのはほんの偶然だった。
ちょっとおなかが空いて、何か無いかと台所を覗きに行ったところ、
白い布を前にため息をついている妖夢が居たのだ。
食材を漁りに来たのが後ろめたく、おもわずこそこそと隠れてしまったが、
どうも何か悩んでいるようである。
それにはまったく気づかず、妖夢は布を手に取り。
ぱん、と広げて右手、左手、と袖を通す。
後ろの紐を結んだら……。
割烹着妖夢の出来上がりである。
ゆったりとした造りで、妖夢をすっぽりと覆う白い布。
角ばった襟周りから覗く、黒いリボン。
洗いざらしの清潔な布に包まれて、妖夢はそれをしっとりと着こなしていた。
だが本人は不満のようだ。
あちらをひっぱったりこちらをひっぱったりして形を整えたかと思うと、
せっかく結んだ紐を何度も結びなおしたりしている。
さまざまな場所をいじりまわして結局変わらなかったのか、もう一度妖夢はため息をついた。
「妖夢、そんなに割烹着が好きなの?」
「ゆ、幽々子様!」
幽々子はつい声をかけてしまった。
妖夢の様子は何かに悩んでいるようで放っておけなかったのだ。
「え、ずっと見ていらっしゃったんですか?」
「ずっと、ってわけじゃないけど。どうしたの?そんなに割烹着をいじくりまわして」
幽々子がそう言うと、妖夢は下を向いてぼそぼそとしゃべりだした。
「この間、アリスの家にお邪魔したんですけど……」
聞き終えた幽々子は言った。
「あら、そのまま割烹着を着ればよかったのに」
「でも! 二人とも凄くお洒落で、私だけこんな、おばさんみたいな格好で……」
また下を向く妖夢。
幽々子はその頭に手を置いてゆっくり撫でてやった。
「大丈夫よ。今の妖夢はかわいいわ。
ほんと、どこのお嬢さんかと思っちゃうくらい」
「……」
「それにね、その割烹着はどこから見ても洗いざらしで、真っ白。
きちんと家事に手を抜かない人だってことが一目で分かるわ。
こんな人がお嫁さんだったらなって、誰もが思うような可愛いものなのよ」
妖夢がゆっくり顔を上げる。
だが、その瞳にはまだ不安が揺れていた。
「もう、心配性ね。じゃあもうひとつ私が魔法をかけてあげるから。
次に呼ばれたら今度はそれを着てみなさい?」
アリス宅にて
妖夢はもう一度アリスの家でお菓子作りを教えてもらうことにした。
先日はついに取り出すことの無かった割烹着に袖を通す。
やっぱり変じゃないだろうか、と気になってあちこちをさわっていると、アリスに声をかけられた。
「あら、妖夢は割烹着派なのね。そのすみっこの蝶の刺繍、可愛いわよ」
最初は、え、という驚き。
次は、それを理解して、顔が赤くなり。
最後には、じわじわと喜びが広がる……。
「ええ、実は、幽々子様がですね……」
以降、その割烹着は妖夢の宝物になったという。
ごめんちょっと新世界開けそうになったw
魔理沙の割烹着も……ありかもしれません!
割烹着はステータスさ!
ああたまらん!!