Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

死神の日常一人語り

2011/02/08 10:36:51
最終更新
サイズ
4.96KB
ページ数
1

分類タグ

 その日私はいつも通り死神の舟に乗り、業務をこなしていた。余りサボり過ぎると、いつクビにされるかわからないからねぇ。ちなみに今日の幽霊(おきゃくさん)はやけにおどおどした少女の霊だっ。まあ、このやっこさん。前世は良い事したっぽいから、運賃はがっぽり採取出来たから彼岸まではちゃんと着けるけど……ふむぅ。
 幽霊が乗った事を確認した私は、柄をゆっくり動かし舟を漕ぎ始める。ざぁ……と億劫な流水の音。光は無い。三途の川は現世と彼世の間の道だからだ。さぁて、あとはいつもように私の独り語りでもするとしようかねぇ。

「あの世とこの世は案外近いようで短い。それはどうしてかって? それは生物の命っていうのは儚い物なのさ。例えばだ。幻想郷に迷い込んだ一人の人間、つまり外来人が入るとしよう。大抵の人間は、この世界がどういう場所なのか知らない。妖怪を見た際、恐怖に怯え、そして喰われる。まあ最近の妖怪は余り食わないようにしているが、あのルーミアっていう妖怪には注意したほうがいい。ルーミアは美味しそうな人間を見た瞬間、『食べていい?』と必ず聞いてくる。大抵の相手は是非を答えるまで数分間考え込む。が、そいつが命取りって奴だ。気がついたばっくりと丸呑みされてるかもしれないからな。
いい? ルーミアに遭遇したら一目散に逃げるんだ。逃げるなら、博麗神社か人間の里がいい。其処まで逃げきったら後は助けを買うたらいいだけだ。ただ博麗神社に行くにはちょいと難所があってね。必ずある獣道を通らないと行けないのさ。いわゆる獣道って奴さ。獣道には沢山の妖怪が住み着き、人間をいつ襲おうかジッと身を潜めてる。怖い、いや恐ろしいね。特に夜の時間帯だと奴らは活発になり、辺り全体を散策し、獲物を見つけた瞬間襲いかかって来るしね。あ、そうそう。さっき話したルーミアもそうたが、秋の時期になると非常に厄介な奴が現れるよ」

 私の独り語りはまだ続いた。舟はゆっくりと彼岸に向かって進んで行く。幽霊は何も言わず、ただ黙って私の話を聞いている。

「その妖怪の名前は釣瓶落としって言うんだが、コイツはまた厄介でね。噂じゃあ妖怪の山近くの森中に潜み、幼い少年少女を襲い掛かるって話だ。最近じゃ、ある女の子の片靴が山中のある場所で見つかって話だ。怖いねぇ、恐ろしいねぇ。
ちなみに、その子供喰い釣瓶落としは、白い服を身にし、緑髪のおさげをした可愛い少女らしいよ? いやはや、そんな少女妖怪に教われたら、たちまちびっくりするどころか、仲良しになりたいと思うよねぇ。
たが油断は禁物だ。あの釣瓶落としだけはマジで気を付けな。天狗らの話じゃ、高いところから桶をぶつけ人間を気絶させてから、人間食べるらしいよ? 幻想郷の妖怪は人間を襲わなきゃ生きてはいけないからねぇ。ちなみに妖怪の中には肉食系と精神系に別れ、大抵の妖怪は肉食系に分類されてる。まあ、地上の妖怪は肉食といっても、ちゃんと"スキマ妖怪"から食料の配給を受けてるから、早々人間を襲う事はないんだけどね」

 すると少女の幽霊は人の形に変わり、私に何かを訴えて来た。そして両手を顔に当て、しくしくと泣き始め、いつのまにか号泣した。未だに自分自身の運命を受け入れる事が出来ないのだろう。数ヶ月前。私は玄武の沢で白骨化した人間をみつけた。既に死後数年は経過し異臭は一切無かったが近くに地縛霊が居座っていた。
 地縛霊と言うのは、死んだ人間の魂が思いを馳せぬまま、その場に居続ける霊の一種で、大抵は陽気な奴が多い。たが稀に怨みを持つ地縛霊が悪さをし、人間たちを脅かすと言う話も少なくは無く、その場合本人の思いを成し遂げない限り成仏する事はないのが現状だ。儚いね。儚いないったらありゃしないよ。

「でも安心しな。お前(少女)は立った今、成仏出来たんだ。ようやく彼世へ行けるだよ?」

 私は泣きじゃくる少女の霊の肩をそっと叩いた。
 人間死んだら生まれ変わる。コレを輪廻転生と言い、人間にしかない特権である。が、それは方便で実際はその上の存在、つまり天界に住み着く為に行為であり、それまである善行を積めば多少の罪を犯したとしても、報われる場合がある。ちなみに私が言う罪と言うのは、外の世界に存在する法律ではなく、人本来が持つあるまじき行為を犯す事をさす。
 これはまあ四季映姫さまから聞いた話だが、外の世界の地獄はかなりえげつないらしい。現世で自らの命を絶った人間、金欲に溺れた人間などは必ず地獄に落ち、想像を絶する苦痛を何億年以上、いやそれ以上かもしれないね。まあ、私が知ってる地獄は楽園だけど、其処まで酷くわないけどねぇ……。
 あれだな。人間、次何に生まれ変わるかは、誰にも解らないな。解る奴がいるとするならばそいつきっと神様かもしくは仏様もしれないねぇ。
 そういやあの方はいつから幻想郷に赴任したのだろうかね?

「さて着いたよ、此処から先はあの方(四季映姫さま)が待つ道だ。振り返らず真っ直ぐ行きなよ?」

 少女の霊は舟から降り彼岸の地に立ち深々と私に礼をした。霊が礼ねぇ……いやギャグじゃなく真剣な意味かもしれないねぇ。

「有難うございます」
「どう致しまして」

 そして私は少女の霊を見送り舟を漕ぎ始め元の場所に戻った。
 達者でなー名無しの幽霊さんよ。次あんたが生まれ変わる時は多分、輪廻転生の輪から外れてると思うね。多分、永久な人間になるかもしんないね?

 人間。欲に溺れば、奈落に墜ちる。道具に憑かれた人間は、無意識に命を絶つ。いやはや人間、死に際に必ず欲は捨てなきゃいかんねー、こりゃ。
 性、金、怨恨、嫉妬……負の欲は人の心を邪悪に染め上げる。おお、怖い、怖い。さてと今日の仕事が終わったらどうしようか?
 久しぶりに神社に遊びに行こうかねぇ……それとも、あの仙人の寝首を取ろうか否か。まあ仙人の寝首は冗談だけどねぇ。

――人間いつ死ぬかぁ分からない。けど運が良い奴は何故か長く生きる。なあ、お前さん。そこのあんたも死んだらちゃんと運命を受け入れなよ? 


 でないと……、現世で地縛霊になって一生苦しい思いをするよ? ふふ。






(おしまい)
小町の日常を描いてみました。オチ一つもありませんが、ちょっぴりブラックなネタを仕込んでます。
雨宮由佳
http://
コメント



0. コメントなし