「暑い」
博麗神社の縁側で霊夢が汗をかきながら現状を簡潔に述べた。
そう言いながらも、淹れたての熱いお茶を飲んでいるのは彼女なりのポリシーなのだろうか。
それとも暑い時期に熱いものを食べると、発汗による新陳代謝が~等々考えているのかもしれない。
「夏だからなー」
と、霊夢の隣に座っている魔理沙が涼しげに答えた。
霊夢が腋全開の巫女服なのに対して、魔理沙は黒が主体のふわふわな服を着ているにもかかわらず、汗一つかいていない。
霊夢はというと先ほど汗がべたつくという理由でサラシも外してしまった。
夏服仕様なのでちょっと前かがみになると、腋の隙間からチラチラと白い幻想が見えたり見えなかったり。THE絶対腋領域。
「熱い」
「冷ませばいいじゃないか」
「茶葉が勿体無い」
「出涸らし何杯目だそれ」
「1/99」
「Sa○Gaのパンチみたく言うな」
「最強の出涸らしよ。他の出涸らしも装備したらずっと最強に……」
――「\アタイ/」
「なんか言った?」
「何も言ってないぜ気のせいだぜ暑さによる幻聴だぜ」
「幻聴と弁当って似てるわよね。あぁレティ食べたい」
「さすがに意味が分からないぜ……」
午前から午後に切り替わるひと時。
二人は同時にお茶を口に含み、「暑いわ」「暑いな」と声を掛け合う。
いつもと何も変わらない、のほほんとした空気が二人の間を流れていた。
時々魔理沙が被っている帽子の中から『\アタイ/』と聞こえたり、
上空をせわしなく飛び回っていた大妖精を、霊夢が蚊と間違えて打ち落としたり、
打ち落とされた大妖精を鴉天狗が、幻想郷最速のスピードでお持ち帰りしようとしたり、
その際に霊夢の腋からこぼれる幻想をシャッターにバッチリ収めたりしたが、
二人にとっては些細な事なのだろう。
虫も鳴かない静かな空間の中、まったりと湿気った煎餅を齧っている。
「なぁ…自分で言っておいてなんだが、今って夏だっけ?」
「この前食べた芋が美味しかったから秋ね」
そう。本来ならば現在は紅葉が綺麗な秋なのである。
しかし実際は木々は青々として、向日葵は太陽を向き、どこからどう見ても夏まっさかりなのだ。
所謂、『異変』というやつなのだが……
「いつから季節は逆に回るようになったんだ?」
「昨日まで秋だったはずなんだけどね」
霊夢は煎餅を掴もうと籠に手を伸ばすが、すでに最後の一枚は魔理沙の胃袋への片道切符を手に入れていた。
仕方が無いので虎の子のラストセンベイを腋の隙間から取り出し口に放り込んだ。ちょっとしょっぱい。
「秋の神様が夏の神様にじゃんけんで負けたのかねぇ」
「じゃんけんじゃなくて弾幕勝負よ」
「おいおい、私は冗談のつもりで言ったんだが」
「秋姉妹が放送コードに引っかかるくらいぼろぼろにされてたわ。すごかったわよ」
「別に詳細に教えてくれなくてもいいぜ。そも放送コードってなんだ」
霊夢が突如生き返った。目に光がやどり、口元からニヤリと効果音が鳴ったような気がする。
そしておもむろに立ち上がり、謡うかのように話し始めた。
「まず地面から生えた触手みたいな植物が秋姉妹の手足を自由を奪ったわ。そして邪魔な白い布を剥ぎ取って、
きゅっと閉じている蜜壷に沢山の触手が無理やり押し入ったの。まさに一瞬の出来事だったわ。
あんなところに異物を入れるなんて初めてだったのかしらね。
現状を理解した二人は悲鳴なんて言葉が生ぬるいほどに泣き叫んでいたわ。
さらには片方の穴だけでは入りきらず、余った触手達は我先にともう一つの穴へ・・・・・・」
「わかったストップそこまでよ、だぜ」
触手の動きを手で器用に表現する霊夢(1○歳)。
その手はやめろとばかりに霊夢の手を魔理沙が押さえようとするが、
ウネウネと動く霊夢の手が魔理沙の腕から体へと絡みつこうとする。
今までに感じたこと無い感触に魔理沙は思わず手で突き飛ばしてしまった。
むっとした顔になった霊夢は空へと浮かび上がり、先ほどよりも声のトーンを上げて続きを語り始めた。
「触手がまだ小さな穴の更に奥へ行こうとして蠢いていたわ。すると限界以上まで広がった穴から、
赤い血と一緒に、ねっとりとした液体が触手を伝って・・・・・・」
「ちょ、大声で熱弁するのは恥ずかしいからやめてくれっ」
「ずっと攻められてる内に限界がきたのか、二人同時にひときわ大きな悲鳴をあげてビクビクと体を痙攣させたわ。
全て終わった後の二人の目には光りが点ってなかった。生命力が尽きたのね。
そして触手達はゆっくりと鼻から抜けて満足そうに地中に帰って行ったのよ」
「うぅ・・・私が悪かったからもう簡便してくれ。溜まってるなら私がなんとかしてやるから・・・・・・って、鼻?」
「鼻よ。なんだと思っていたのかしら、思春期真っ只中な魔女っ娘さん?」
上から見下ろす霊夢の目が完全におっさんのソレになっている。しかも魔理沙の先のセリフを何度も繰り返している。
「溜まってるなら私がなんとかしてやるから♪ 私がなんとかしてやるから♪」
顔を真っ赤に染めた魔理沙は目をそらし、なんとか言葉を紡ごうと必死な様子だ。
「~~~っ! で、でも白い布を剥ぎ取るとかなんとか・・・」
「風邪でも引いてたのかしらね~。二人ともマスクをしていたのよ」
「マスクかよ……なんとも紛らわしい言い回しだぜ」
魔理沙は帽子を深くかぶり顔を隠した。まだ恥ずかしさが抜けないようだ。――\セマイ/
そして顔を伏せつつ、とある疑問を霊夢へ投げかけた。
「そういえば夏の神様ってどんなやつなんだ?」
「ゆうかりんよ」
「まじか!?」
「現人神とかいるんだから夏の妖怪が神様にクラスチェンジしても違和感ないわ」
幻想卿では常識に捕らわれてはいけないのよ。とでも言いたげである。
「そもそもアイツは夏の妖怪じゃないだろう。四季のフラワーマスターだったはずだぜ」
「そうだっけ。あいつ頭の中ひまわり(笑)状態だから、夏専用キャラと思っていたわ」
「確かに痛いところもあるけど、割と常識人だったはずだぜ?」
「でも声高らかに宣言してたのよ。こんな風に・・・・・・」
『秋姉妹の養分を使って幻想卿に向日葵を大量に咲かすわ。花度(かど)、つまり夏度(かど)を上げればもう一度私の季節到来よ!
むしろずっと私のターン!私は夏の神となる!あははははは!』
「前言撤回。確かにひまわり(笑)だぜ。それをマネするオマエの頭もな。にしても夏度って無理がありすぎじゃないか? あと四季のフラワーマスターなんだから万年オマエの季節だろう幽香さんよ」
さすがの魔理沙も幽香の言動には引いた、霊夢の行動にはさらに引いた。
自分の知らない間に霊夢は手の届かないところへ行ってしまったのかも知れない。
さようなら親友。はじめまして博麗さん。
そんな思いを帽子の中に詰め込み凍らせる。
全ては夏の暑さのせいにしておこう。そうしよう、そうしなければ、そうするべきだぜ。
「でも事実、夏になったのよね」
「まったく無茶苦茶だぜ。てか霊夢も異変を察知してたなら止めろよな」
「だって秋が終わったら冬が来ちゃうじゃない。」
急に真剣な顔になって魔理沙の隣に座り直す霊夢。「冬は嫌いなのよ」と小さく呟く。
遠くを見つめるその瞳には此処ではない何処かが映っているのだろう。
悲しみにも似た表情を見て、魔理沙は気が付いた。
「あーそうか。紫に会えないからか」
妖怪の賢者こと、八雲 紫。
冬になると冬眠するという特性を持っている。
ゆえにこの時期、秋の後半になると栄養を溜め込むため、表にあまり出てこなくなるのだ。
ほぼ毎日博麗神社に入り浸っている為、霊夢としてはいきなり家族がいなくなるような感覚なのかもしれない。
いや、霊夢にとって紫はもっと別な意味で特別な存在なのだろう。母か姉か、それとも……
霊夢はたっぷり30秒ほど考えた後、口を開いた。
「・・・・・・紫が食べ物持って来てくれなくなるからよ」
「そうか」
「そうよ」
魔理沙の言葉に対して完全には否定しない。
それは霊夢が少女から乙女へと、少しだけ成長した証なのかも知れない。
「暑いわ」
「暑いな」
幻想郷は今ジワジワと暑い夏が続いている。
でもセミの鳴かない夏というのもたまにはいいかもしれない。
だってほら、二人の後ろにもう一人、二度目の夏を楽しもうとする人が立っているんだから。
「ごきげんよう、お二人さん。今日は暑いわね」
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巫「秋姉妹がアンタが育ててた花を枯らして回ってるわよ」
花「何!?二度と立てないくらいに奥歯ガタガタ言わせてやるわ!」
霊夢だって年頃の女の子なんだもの。ワガママいってもいいじゃない?
その後、山茶花が見たくなったゆうかりんは、夏の神様をやめてロマンスの神様と名乗っているそうな。
あ、あと写真を一枚貰えませんか?
折角それなりの描写力あるんだから、そんな低空飛行しなくてもいいじゃないの。
ともあれ、空気は読むべき。
ありがとう、最高のほめ言葉ですわ!
>あ…あぅあ…せー…アウトーっ!
純粋な目で見てみるんだ。ほら、なにも卑猥じゃないよ?卑猥なのは見ている人の心なのさ。我の心は卑猥ちぃ覚えた
>あ、あと写真を一枚貰えませんか?
あの後霊夢が文ちゃんに電気按摩で取り返されたので残念ですが霊夢に直接交渉してくだち
>ともあれ、空気は読むべき。
OKボーダーライン把握
空気は衣玖さんの所で二人っきりで修行してきますね
>だ、大妖精っ!?
大丈夫だ。彼女には瞬間移動能力が…しかしEX文ちゃんのシャッターからは逃れられない