「おーい、吾作ぅー。
お前さん、今年のバレンタインチョコレートはどうするんだい」
「ああ……信兵衛……。
いや、すまねぇなぁ……」
「おう、どうしたどうした。何か悩みでもあんのか。
お前、俺っちはお前の友人だろ? 遠慮せずに話せって」
「紅魔館のあれは……今年は遠慮したくてな……」
「何! 何かあったのか!
まさか、お前、女が出来たか! いや、めでたいなぁ!」
「……そうじゃない。
実は先日、『かざみ』の『先着200名様限定 風見幽香手渡しチョコレート』(頬染めオプションつき)の購入が、当たったんだよっ!」
「何……だと……」
「……ふふふ……。
……悪かったな、信兵衛。今年の俺は、幽香さんの頬染めオプションつきのチョコレートを手渡ししてもらうんだっ!」
「貴様、裏切ったな!? メイドさん達の、あの、『あなたへの心のこもったプレゼントです』チョコレートを!
一生、メイドさん達のために尽くそうと誓った、あのときの夕日の誓いを!」
「ああ、そうだ! だが、それの何が悪い!?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うおおおおおおおお!」
――さて、ここはとあるどっかにある『忘れられた土地』幻想郷。
そんなところであっても、時節のイベントはどこからともなく輸入されてくる。
今年の二月も、それは同じ。
あちこちで人々が何やら一喜一憂する中、今年のそれは、どうにも毛色が違う様子で。
「なぁ、晋作よぉ。
今年のチョコレートはどうするんだ」
「おう、俺はな、今年から販売の始まる永遠亭のチョコレートを買いに行くんだ」
「永遠亭? あの病院で、そんなハイカラなもん売ってんのかぃ。
そいつぁ、今になって知ったが、驚きだな」
「何でも『チョコレートっていうのは程度を守って食べれば、とても体にいい食品』ってことでな。
今年はほら、風邪が流行っているだろう?」
「風邪……というか、あれだろ? 『いんふるえんざ』とかいう。
あれにかかった奴らぁ、大変らしいなぁ」
「おう、知ってる知ってる。
喜兵衛さんちのお孫さんが、危うく死にかけたって話じゃねぇか」
「何だ、そのチョコレートはその病気にも効くってぇのかい」
「いいや、そいつはわからねぇんだが、何でもあそこの永琳先生がな、色んな薬草なんかを使って『滋養強壮』にいいチョコレートを作ったって話でさぁ」
「さすが、先生は一味違うねぇ」
「俺ぁ、先生のファンだからな! こいつぁ、一つ買ってやって先生に恩返ししてやんねぇと」
「なぁに言ってんだい。あの先生は確かに美人だが、そこまで入れ込む程のもんでもねぇだろう」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。大人の女性の色気がわかんねぇのかい」
「そいつぁ、まるごとそっくりお前さんに返してやるぜ。普段は『あの病院のうさぎさんたちがかわいくてなぁ』って言ってるのによ」
「だがお前もむちむちの大人の女は――」
「――大好物だ」
「おーい、田助ぇー! 待ってくれぇー!」
「千太ぁー! 諦めんなぁー! もう少しだぞぉー!」
「くっそぉー! 手が、手がもう動かねぇー!」
「そらぁ、こっちだ! こっちに手ぇ伸ばせぇ!」
「うおおおお! 負けてたまるかぁぁぁぁぁ!」
「掴んだぞぉぉぉぉぉ!」
『ぬおおおおおおおおお!!』
「はぁ……はぁ……。つ、ついたぞ……」
「ああ、ついたな……」
「ここが……『妖怪の山 特別チョコ販売所……』」
「山のあちこちに作られた、『販売所』の一つだ……!」
「俺達が求めているものは、ここにあるっ!」
「行くぞ!」
「応っ!」
「扉を開けるんだっ!」
「任せろぉー!」
『いらっしゃいませー。特別チョコ販売所、「天狗絶景処」へようこそ!』
『黒髪お姉さん天狗きたぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「こちら、当販売所のチョコレートでございまーす」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「よし、千太! ここのお姉さん販売所は制覇した!」
「スタンプだ! スタンプを押せ!」
「次の販売所は、あちらになりますよ。がんばってくださいね」
「よし、行くぞ、田助!」
「応! この妖怪の山の美人天狗、全てを制覇して回るんだ!」
『いってらっしゃーい』
「……どれがいいんだろうなぁ」
「うーん……一杯あるなぁ……」
「しかも、どれもこれも『手作り』って書いてあるけど、本当にこれ、手作りなのかい」
「さあなぁ……」
「いやいや、『ちれいでん』のお土産を疑うわけじゃねぇけどなぁ」
「おう、あの姉さんに聞いてみようぜ」
「いいこと言うな。
すんませーん。今年の『地底のチョコレート』ってのは、本当に全部、手作りなんですかい」
「ええ、もちろんですよ。
ほら、箱の裏側を見て下さい。作った人の名前が入っているでしょう?」
「おお、本当だ」
「し・か・も。
ほら、これ見て下さい。なんと、チョコレート一個一個に、入っている『地底美人』の写真が違うんですよ」
「何っ!? 本当か!?」
「お、おい、田蔵! お前のそれ、見せてみろ!」
「あ、それはダメですよ。
ちゃんと買ってから、中を確かめてみてくださいね」
「くっ……! こ、この名前の子の写真が入っているのかい!?」
「それは何とも」
「くそっ! 俺は、この旅館の配膳係の子が一押しなんだ! それはどこだ!?」
「俺ぁ、湯殿のあかすりの姉ちゃんだ! くっ……どこに……どこに入っている!?」
「結構、皆様、頑張って探すのですけど。
なかなか手に入らないということで、『列買い』とか『箱買い』される方も……」
「お、俺もだ! この1ダース分をくれ!」
「俺は2ダース買うぞ!」
「まいどありー」
「……こいし様の考えた、『限定グッズつき手作りチョコ』、売上すごいね」
「何でも山の上の巫女さまに『商品をたくさん売るコツ』っていうことで教えてもらったみたいよ」
「入ってたぞぉぉぉぉぉぉ!」
「くっ……俺のには入っていないっ! もう1ダースだ! もう1ダースくれぇ!」
「まいどありー♪」
「……何か悪どくない?」
「……お客さんが自分からお金出してるんだし、いいんじゃない? 人件費、ものすごいかかってるらしいから……」
「あれ? ねぇ、星。聖はどこへ? 今年は確か、『檀家の方々に日頃のお礼として、チョコレートを配りましょう』とか言っていたと思うんだけど」
「ああ、村紗……。
いえ、聖なのですが、一ヶ月ほど前に『チョコレートを作るには、「かかお」というものが必要と聞いています。それを取りに行ってきます』と旅に出て……」
「またか。」
「誰も止めなかったんですよね……」
「おーい、ふたりともー。聖が帰ってきたよー」
「ぬえ、でかした」
「聖、お帰りな……どうしたんですか、そんなずたぼろになって」
「はい。これは……とても大変な旅でした……。
荒れ果てた荒野を歩いていると、『かかお』の種籾を持ったおじいさんをモヒカン達が襲っていたのでそれを撃退して、ようやく『かかお』を手に入れました」
「そもそも『種籾』って時点でそれ違うし」
「その後、魔界の知り合いの農家さんに『かかお』の育て方を教えてもらったんです」
「いや育て方って」
「さあ、星、村紗。
まずは『かかお』を育てるための土地を作るための土を作るための里山づくりから始めましょう!」
「ねぇ、村紗。わたし、チョコレート、いつ食べられるの?」
「10年は待て」
「甘い匂いがする」
「美味しそうな匂いだな。
知っているか、こころ殿。これは『チョコレート』というお菓子の匂いだ」
「チョコレート。美味しい?」
「うん。すごく美味しいぞ! びっくりする!」
「……美味しそう」
「ん? あの子供たち、どこへ行くのだ?」
「何かあっちに『チョコレートをくれる人がいる』って言ってた」
「行ってみよう」
「おー」
「おお、あれか」
「お姉ちゃん、チョコレートちょうだい!」
「あたしも、あたしも!」
「はいはい、皆さん、並んでくださいね。全員の分、ありますから」
「美味しそうなチョコレートだ。我らも並ぼう!」
「うん。
けど、あの人何処かで見たような」
「そうか? どこから見ても、ただの町娘のようだが」
「そっか」
「そうだぞ」
「はい、どうぞ。
あら、次は……」
「我にもチョコレート一つ!」
「わたしにもー」
「あらあら、布都ちゃんにこころちゃ……じゃなくて、げふんげふん。
チョコレートですわね? はい、どうぞ」
「やったー」
「わーい」
「お姉ちゃん、次、ぼくもー!」
「あたしもー!」
「はいはい。うふふ、押さないでね。はい、どうぞ」
「朝から、霊夢さんは何を作ってるんですか?」
「お、よく聞いたな、針妙丸。
今、霊夢は愛を作っているんだ」
「え?」
「まぁ、今のお前には早い話だろう。
そりゃ、王手だ」
「逆王手」
「なぬっ!?」
「魔理沙さんは攻撃ばっかりで守りを固めないから、いくらでも左右からつく隙があるんです」
「くっ……お、おのれ……!」
「また針妙丸に負けたのね、魔理沙」
「ま、まだ負けてないやい!」
「けど、その状態で、どうやって王は逃げるのよ」
「こ、ここなら……!」
「そこ、香車が効いてるです」
「ならこっちなら!」
「そこ、角がいるわよ」
「うぐぐぐ……!」
「輝夜だの静葉だのに揉まれて強くなったんじゃない?」
「はい! もう負けないです!」
「そういう子には、ほれ、チョコレートだ」
「くんくん……。
甘くていい匂いがします。いただきまーす」
「ほれ、魔理沙。あんたにも。
義理というか、ついでで」
「くっ……! そう言うなら、霊夢! あとで私と勝負だ!」
「いいわよ、別に。
今まで何回やって、あんた、何回負けたっけ?」
「なんだとぅ!」
「霊夢さんも、こういう勝負、強いですよね」
「紫に仕込まれたからね。
そんじょそこらの奴には負けない、負けない。
で、美味しい?」
「はい! 美味しいです!」
「霊夢は普段、洋菓子食べないくせに、時期によっては食べるよな。あと作るし」
「な、何よ。いいじゃない、別に」
「誰にあげるんだ? ん?」
「夢想封印―湯煎したチョコレート―!」
「あっちー!?」
「……霊夢さん、それ弾幕じゃなくて物理攻撃です……」
「博麗霊夢からのお願い♪ 食べ物は粗末にしないでね♪」
「誰に向かって言ってるんですか」
「すいませーん。霊夢さん、いますかー?」
「は、はーい! こっちこっちー! あ、いや、私から行く! 待っててー!」
「霊夢さんが急にそわそわしだしたです」
「よく見ろ、針妙丸。あの左手を」
「あ、何か持ってるです」
「そういや、私も、今年は誰からもチョコもらってないな。あとで紅魔館とアリスのところにもらいにいこう」
「行ったらもらえるんですか!?」
「おう、もらえるぞ。お前も来るか」
「はい! お供します!」
「こんにちは。
あら、針妙丸ちゃんと魔理沙さん。将棋してたんですか?」
「わたしの圧倒的勝利です! えへん」
「魔理沙さん、そういう知的遊戯弱いですよね」
「うるさいやい」
「あ、早苗さん、その左手の」
「ふふふ。
ちなみに、わたしも右手にこんなものを」
「霊夢にやるのか?」
「ええ。まぁ、手作りじゃなくて買ってきたものですけど」
「あれは何ですか? 魔理沙さん」
「あれも『愛』だ」
「はあ」
「さて、針妙丸。チョコをもらいにいくぞ」
「はい! いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
「あれ? 魔理沙と針妙丸は?」
「さあ?」
お前さん、今年のバレンタインチョコレートはどうするんだい」
「ああ……信兵衛……。
いや、すまねぇなぁ……」
「おう、どうしたどうした。何か悩みでもあんのか。
お前、俺っちはお前の友人だろ? 遠慮せずに話せって」
「紅魔館のあれは……今年は遠慮したくてな……」
「何! 何かあったのか!
まさか、お前、女が出来たか! いや、めでたいなぁ!」
「……そうじゃない。
実は先日、『かざみ』の『先着200名様限定 風見幽香手渡しチョコレート』(頬染めオプションつき)の購入が、当たったんだよっ!」
「何……だと……」
「……ふふふ……。
……悪かったな、信兵衛。今年の俺は、幽香さんの頬染めオプションつきのチョコレートを手渡ししてもらうんだっ!」
「貴様、裏切ったな!? メイドさん達の、あの、『あなたへの心のこもったプレゼントです』チョコレートを!
一生、メイドさん達のために尽くそうと誓った、あのときの夕日の誓いを!」
「ああ、そうだ! だが、それの何が悪い!?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うおおおおおおおお!」
――さて、ここはとあるどっかにある『忘れられた土地』幻想郷。
そんなところであっても、時節のイベントはどこからともなく輸入されてくる。
今年の二月も、それは同じ。
あちこちで人々が何やら一喜一憂する中、今年のそれは、どうにも毛色が違う様子で。
「なぁ、晋作よぉ。
今年のチョコレートはどうするんだ」
「おう、俺はな、今年から販売の始まる永遠亭のチョコレートを買いに行くんだ」
「永遠亭? あの病院で、そんなハイカラなもん売ってんのかぃ。
そいつぁ、今になって知ったが、驚きだな」
「何でも『チョコレートっていうのは程度を守って食べれば、とても体にいい食品』ってことでな。
今年はほら、風邪が流行っているだろう?」
「風邪……というか、あれだろ? 『いんふるえんざ』とかいう。
あれにかかった奴らぁ、大変らしいなぁ」
「おう、知ってる知ってる。
喜兵衛さんちのお孫さんが、危うく死にかけたって話じゃねぇか」
「何だ、そのチョコレートはその病気にも効くってぇのかい」
「いいや、そいつはわからねぇんだが、何でもあそこの永琳先生がな、色んな薬草なんかを使って『滋養強壮』にいいチョコレートを作ったって話でさぁ」
「さすが、先生は一味違うねぇ」
「俺ぁ、先生のファンだからな! こいつぁ、一つ買ってやって先生に恩返ししてやんねぇと」
「なぁに言ってんだい。あの先生は確かに美人だが、そこまで入れ込む程のもんでもねぇだろう」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。大人の女性の色気がわかんねぇのかい」
「そいつぁ、まるごとそっくりお前さんに返してやるぜ。普段は『あの病院のうさぎさんたちがかわいくてなぁ』って言ってるのによ」
「だがお前もむちむちの大人の女は――」
「――大好物だ」
「おーい、田助ぇー! 待ってくれぇー!」
「千太ぁー! 諦めんなぁー! もう少しだぞぉー!」
「くっそぉー! 手が、手がもう動かねぇー!」
「そらぁ、こっちだ! こっちに手ぇ伸ばせぇ!」
「うおおおお! 負けてたまるかぁぁぁぁぁ!」
「掴んだぞぉぉぉぉぉ!」
『ぬおおおおおおおおお!!』
「はぁ……はぁ……。つ、ついたぞ……」
「ああ、ついたな……」
「ここが……『妖怪の山 特別チョコ販売所……』」
「山のあちこちに作られた、『販売所』の一つだ……!」
「俺達が求めているものは、ここにあるっ!」
「行くぞ!」
「応っ!」
「扉を開けるんだっ!」
「任せろぉー!」
『いらっしゃいませー。特別チョコ販売所、「天狗絶景処」へようこそ!』
『黒髪お姉さん天狗きたぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「こちら、当販売所のチョコレートでございまーす」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「よし、千太! ここのお姉さん販売所は制覇した!」
「スタンプだ! スタンプを押せ!」
「次の販売所は、あちらになりますよ。がんばってくださいね」
「よし、行くぞ、田助!」
「応! この妖怪の山の美人天狗、全てを制覇して回るんだ!」
『いってらっしゃーい』
「……どれがいいんだろうなぁ」
「うーん……一杯あるなぁ……」
「しかも、どれもこれも『手作り』って書いてあるけど、本当にこれ、手作りなのかい」
「さあなぁ……」
「いやいや、『ちれいでん』のお土産を疑うわけじゃねぇけどなぁ」
「おう、あの姉さんに聞いてみようぜ」
「いいこと言うな。
すんませーん。今年の『地底のチョコレート』ってのは、本当に全部、手作りなんですかい」
「ええ、もちろんですよ。
ほら、箱の裏側を見て下さい。作った人の名前が入っているでしょう?」
「おお、本当だ」
「し・か・も。
ほら、これ見て下さい。なんと、チョコレート一個一個に、入っている『地底美人』の写真が違うんですよ」
「何っ!? 本当か!?」
「お、おい、田蔵! お前のそれ、見せてみろ!」
「あ、それはダメですよ。
ちゃんと買ってから、中を確かめてみてくださいね」
「くっ……! こ、この名前の子の写真が入っているのかい!?」
「それは何とも」
「くそっ! 俺は、この旅館の配膳係の子が一押しなんだ! それはどこだ!?」
「俺ぁ、湯殿のあかすりの姉ちゃんだ! くっ……どこに……どこに入っている!?」
「結構、皆様、頑張って探すのですけど。
なかなか手に入らないということで、『列買い』とか『箱買い』される方も……」
「お、俺もだ! この1ダース分をくれ!」
「俺は2ダース買うぞ!」
「まいどありー」
「……こいし様の考えた、『限定グッズつき手作りチョコ』、売上すごいね」
「何でも山の上の巫女さまに『商品をたくさん売るコツ』っていうことで教えてもらったみたいよ」
「入ってたぞぉぉぉぉぉぉ!」
「くっ……俺のには入っていないっ! もう1ダースだ! もう1ダースくれぇ!」
「まいどありー♪」
「……何か悪どくない?」
「……お客さんが自分からお金出してるんだし、いいんじゃない? 人件費、ものすごいかかってるらしいから……」
「あれ? ねぇ、星。聖はどこへ? 今年は確か、『檀家の方々に日頃のお礼として、チョコレートを配りましょう』とか言っていたと思うんだけど」
「ああ、村紗……。
いえ、聖なのですが、一ヶ月ほど前に『チョコレートを作るには、「かかお」というものが必要と聞いています。それを取りに行ってきます』と旅に出て……」
「またか。」
「誰も止めなかったんですよね……」
「おーい、ふたりともー。聖が帰ってきたよー」
「ぬえ、でかした」
「聖、お帰りな……どうしたんですか、そんなずたぼろになって」
「はい。これは……とても大変な旅でした……。
荒れ果てた荒野を歩いていると、『かかお』の種籾を持ったおじいさんをモヒカン達が襲っていたのでそれを撃退して、ようやく『かかお』を手に入れました」
「そもそも『種籾』って時点でそれ違うし」
「その後、魔界の知り合いの農家さんに『かかお』の育て方を教えてもらったんです」
「いや育て方って」
「さあ、星、村紗。
まずは『かかお』を育てるための土地を作るための土を作るための里山づくりから始めましょう!」
「ねぇ、村紗。わたし、チョコレート、いつ食べられるの?」
「10年は待て」
「甘い匂いがする」
「美味しそうな匂いだな。
知っているか、こころ殿。これは『チョコレート』というお菓子の匂いだ」
「チョコレート。美味しい?」
「うん。すごく美味しいぞ! びっくりする!」
「……美味しそう」
「ん? あの子供たち、どこへ行くのだ?」
「何かあっちに『チョコレートをくれる人がいる』って言ってた」
「行ってみよう」
「おー」
「おお、あれか」
「お姉ちゃん、チョコレートちょうだい!」
「あたしも、あたしも!」
「はいはい、皆さん、並んでくださいね。全員の分、ありますから」
「美味しそうなチョコレートだ。我らも並ぼう!」
「うん。
けど、あの人何処かで見たような」
「そうか? どこから見ても、ただの町娘のようだが」
「そっか」
「そうだぞ」
「はい、どうぞ。
あら、次は……」
「我にもチョコレート一つ!」
「わたしにもー」
「あらあら、布都ちゃんにこころちゃ……じゃなくて、げふんげふん。
チョコレートですわね? はい、どうぞ」
「やったー」
「わーい」
「お姉ちゃん、次、ぼくもー!」
「あたしもー!」
「はいはい。うふふ、押さないでね。はい、どうぞ」
「朝から、霊夢さんは何を作ってるんですか?」
「お、よく聞いたな、針妙丸。
今、霊夢は愛を作っているんだ」
「え?」
「まぁ、今のお前には早い話だろう。
そりゃ、王手だ」
「逆王手」
「なぬっ!?」
「魔理沙さんは攻撃ばっかりで守りを固めないから、いくらでも左右からつく隙があるんです」
「くっ……お、おのれ……!」
「また針妙丸に負けたのね、魔理沙」
「ま、まだ負けてないやい!」
「けど、その状態で、どうやって王は逃げるのよ」
「こ、ここなら……!」
「そこ、香車が効いてるです」
「ならこっちなら!」
「そこ、角がいるわよ」
「うぐぐぐ……!」
「輝夜だの静葉だのに揉まれて強くなったんじゃない?」
「はい! もう負けないです!」
「そういう子には、ほれ、チョコレートだ」
「くんくん……。
甘くていい匂いがします。いただきまーす」
「ほれ、魔理沙。あんたにも。
義理というか、ついでで」
「くっ……! そう言うなら、霊夢! あとで私と勝負だ!」
「いいわよ、別に。
今まで何回やって、あんた、何回負けたっけ?」
「なんだとぅ!」
「霊夢さんも、こういう勝負、強いですよね」
「紫に仕込まれたからね。
そんじょそこらの奴には負けない、負けない。
で、美味しい?」
「はい! 美味しいです!」
「霊夢は普段、洋菓子食べないくせに、時期によっては食べるよな。あと作るし」
「な、何よ。いいじゃない、別に」
「誰にあげるんだ? ん?」
「夢想封印―湯煎したチョコレート―!」
「あっちー!?」
「……霊夢さん、それ弾幕じゃなくて物理攻撃です……」
「博麗霊夢からのお願い♪ 食べ物は粗末にしないでね♪」
「誰に向かって言ってるんですか」
「すいませーん。霊夢さん、いますかー?」
「は、はーい! こっちこっちー! あ、いや、私から行く! 待っててー!」
「霊夢さんが急にそわそわしだしたです」
「よく見ろ、針妙丸。あの左手を」
「あ、何か持ってるです」
「そういや、私も、今年は誰からもチョコもらってないな。あとで紅魔館とアリスのところにもらいにいこう」
「行ったらもらえるんですか!?」
「おう、もらえるぞ。お前も来るか」
「はい! お供します!」
「こんにちは。
あら、針妙丸ちゃんと魔理沙さん。将棋してたんですか?」
「わたしの圧倒的勝利です! えへん」
「魔理沙さん、そういう知的遊戯弱いですよね」
「うるさいやい」
「あ、早苗さん、その左手の」
「ふふふ。
ちなみに、わたしも右手にこんなものを」
「霊夢にやるのか?」
「ええ。まぁ、手作りじゃなくて買ってきたものですけど」
「あれは何ですか? 魔理沙さん」
「あれも『愛』だ」
「はあ」
「さて、針妙丸。チョコをもらいにいくぞ」
「はい! いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
「あれ? 魔理沙と針妙丸は?」
「さあ?」
布都ちゃんが若干お姉ちゃんしていてかわいいと思いました。
チョコときいて仙人がいない訳がなかった