博麗神社での宴会。いつもの如く人妖が集い、酒を酌み交わしながらお喋りを楽しむ者、芸事を始める者、それを囃し立てる者とそれぞれ思い思いに宴を満喫している。
そんな中、境界の大妖が式、八雲藍はあちらこちらに酒を給し肴を給しと忙しなく働いていた。
やがて皆の酒も進み、鬼が大盃から斗樽へと器を換える頃になってようやく藍は杯を傾け始めたのだった。
「らん~」
「む、どうされたチルノ嬢。今宵の酒肴は口に合わなんだか?」
「んう、あたいおさけいや、辛いから」
「趣向が合わぬか……致し方あるまい。して、得心がいかぬといった面相だ、何
ぞ問いたき議でもおありかな?」
「うん、あたいって……んんう、あたいにおかーさんっていないのかな?」
「ふむ……」
目の前にちょこんと座る氷精の頭を撫でてやりながら、藍は暫し瞑目して思考を巡らせる。
程なくして眼を開けると、心地良さそうに眼を閉じるチルノを抱き上げる。
「野を渡る風からは風の妖精、地より萌え出る草木からは草木の妖精。嬢は冷気冴え渡る氷結より生まれし妖精、と言う具合に妖精とは天然自然より生まれ来る者、つまりは自然そのものが嬢の母という事になる」
「“しぜん”があたいのおかーさんか。でもあたいおかーさん分かんないよ?」
「それは道理、自然にも目に見える物と見えぬ物が有るからな。見えぬ物を抱くも抱かれるも容易くはあるまい。さりとて案ずるな、嬢よ、此処には目に見える自然が暗天に瞬く星の如く居る」
「おかーさんがいっぱい!? どこ? あたい抱っこ!」
きょときょと辺りを見回すチルノを茣蓙に座らせると、藍は立ち上がり一口上。
「宴も闌宵の口、集いし人妖神魔に魑魅魍魎、天人竜宮の皆様方に相願い奉る! 此処に在りし氷精は、知らぬ母御に恋い焦がれ、空しき浮き世の瀬に独り肩を落として苦み酒。酔えども見えぬ母の影、抱けぬ胸に涙する……方々の御心が許せば其が胸を褥とし、今宵一夜の母と成ってやっては頂けまいか?」
「なぁーんだ、なんか元気ないなって思ったら人恋しかったのね。いつでもいらっしゃいな」
七色の人形使いが微笑めば。
「はっはっは、どうだチルノ? 魔理沙さんの胸に飛び込むか? 私は離したりしないぜ~」
黒白の魔法使いが胸を叩いて笑いかけ。
「あんたの胸じゃ大事故になるわよ。ほらチルノ、こっちいらっしゃい」
紅白の巫女が膝をポンと叩いてお出迎え。
「如何かな? 此処におられる方々も概ね自然より生まれた者、人恋しければ幾らでも胸を貸して頂けよう」
「んうっ! らん! ありがと~」
にっこり笑顔のチルノ、藍の胸に飛び込んでお礼のすりすり。
「うむ、祝着祝着。しかし抱かれるお相手が違うのではないか? チルノ嬢」
「すみませーん! ちょっとすみませーん! チルノちゃーん」
「あ! 大ちゃんだ!」
人妖神魔を掻き分けて出てきたのは、妖精達のまとめ役、大妖精。ゆっくりチルノの前に立つとはにかみながら照れながら本日二度目の
一口上。
「チルノちゃん……私小さいからうまく抱っこ出来ないけど……私じゃだめかな?」
頬を赤らめた妖精が精いっぱい両手を広げる。
「ほらチルノ、本命がOK出してるわよ? 思いっきり甘えてあげなさい」
花の大妖怪に背中を押されて飛び込む優しき母の胸。
「大ちゃーん!」
「うわぁ! おっとと……」
「大ちゃん! 大好きっ」
「ち、チルノちゃん……」
「妬けるねぇ。ほれ早苗、甘えてごらん? 昔みたいにさ」
「八坂様…な……何をおっしゃってるんですか!」
「おーおー照れちゃってまぁ。早苗ってば小さい時と変わんないね」
「洩矢様まで~、お二方共大っ嫌いです! 明日はおやつ抜きですっ」
「そ、そんなぁ……」
「じょ、冗談だよ早苗。ほら、機嫌直して」
「知りませんっ!」
「どーしよ? 明日からどうやって生きていけばいいんだ?」
「落ち着いて神奈子。まずは深呼吸よ!」
「ケロ、ケロ、ケロ、ケロ、ケロケロケロケロくわっくわっくわ」
「そりゃ輪唱だろーが!」
「ふふっ」
「「笑った! 早苗が笑った!」」
「まったく……酔いが醒めたわ。美鈴、帰るわよ!」
「美鈴っ、今日は一緒に寝よーね!」
「あら妹様、今日は私が一緒に寝る番ですわ」
「だーめっ、今日は私と!」
「ええーい! 皆で一緒に寝れば良いでしょ!?」
「お姉様あったまいいー!」
「ナイスアイディアですわお嬢様! もう今日から毎日一緒よ美鈴」
「ってな訳で右側ゲット~」
「ああ~! ズルイわよフラン! そこは私の特等席よ!」
「いくら相手がお嬢様といえど譲れないですね」
「な、さくやまで~」
「喧嘩をなさるなら私は一人で寝ますよ?」
「あ、あ、ゴメン。今のナシ!」
「うわーん、めーりん嫌いにならないでー!」
「どうしよう? お母さん一緒に寝てくれない!」
「ふふ、みんなで仲良く寝ましょうね」
「大ちゃん、今日からいっしょにねよ!」
「うん! 私もチルノちゃん大好き!」
あちらこちらで睦みあう、母との触れ合い抱きあい。こうして幻想郷の夜は更けていくのだった。
――おまけ――
「そういや幽香は何で立候補しなかったんだ? チルノとよく遊んでるじゃないか」
「そうね、ちょっと興味あるわね。信念かなんか? それとも熟すまで待ってから刈り取るの?」
「アリス……そういう本の見過ぎだぜ……」
「私は大ちゃん派なのよ」
「「なんですと?!」」
心温まるお話をありがとうございます。
……はっ!?ごめんなさい、意識が遥かな世界に跳躍しておりました。
大幽ですね分かります。
「ねぇ?今日位良いでしょ大ちゃん、チルノは霊夢のトコにお泊まりだし」
「だだだだだ駄目ですっ!チルノちゃんが『そういう感情』を理解出来る様になってからって言ったじゃないですか!」
「ふふ、それは残念、でもだからって浮気は『めっ』よダーリン(はぁと)」
「……浮気なんかしませんし出来ませんしする必要も意味も在りませんよ、ハニー(はぁと)」
このお二人に近付くモノは砂糖の柱と化すとか何とか。
まぁ前置きはさておきまして。
あと藍様の「チルノ嬢」って呼称にもし億に一つ、いえ黄河沙に一つの確率でワタクシめの昔のコメントが一役買わせて頂けて居るのであれば恐悦至極、我が人生の春爛漫、宇宙天地与我力量天下無敵に有頂て『ロマーン』サタデーナイトに\キャーイクサーン/、で御座いますがそんな事は原子の一つ分も無いのであつた。とっぴんぱらりのぷぅ。
チーちゃんが可愛いとかそんな次元を突破して幻想郷が可愛いとか流石は「チルノ嬢を究めし波動の勇者」万葉さんです、得意技は不屈の心と見た!(違)
長くて本当にごめんなさい。
チルノの笑顔の前には些細なことですが。
>>1様
お読み頂き有り難うございます。まだまだ肌寒いこの季節。貴方のお言葉で私が暖まりました、感謝致します。
>>2様
お読み頂き有り難うございます。橙さんはチルノちゃん達お子様軍団のお姉さんです、例え藍様が他の子達にかまけていてもしっかりと紫様や幽香さんに甘えていますから大丈夫です……きっと。
>>謳魚様
お読み頂き有り難うございます。貴方様から頂く二つ名がどんどんと人間離れしている気がするのは……気のせいですね。いつもコメント有り難う御座います。これからもよしなに。
>>4様
お読み頂き有り難うございます。あふぁ! ううむ……宴の席でこの登場人数は確かに少なかったですね。ご意見有り難うございます。宴や集まりを書く際に気を付けたいと思います。
>>5様
口調的には里の守護者……稲荷は葉山葵入りが好き! しかしてその実体は!
「境界の大妖、八雲紫が式……八雲藍。推して参る!」
何処ぞの親分ですね、注意書きかタグにキャラ崩壊を追加致します。後になりましたがお読み頂き有り難うございます。
心は移ろいやすいといいますが浮気性だなと思ってしまいましたよ
チルノと幽香のCPはけっこう好きなもんなんで…
普段あんまり優しくされないキャラが(笑)大事にされてる感じで好きですv
…しかし本音を言えば霊夢の「あんたの胸じゃ大事故になるわよ」発言に作者様のセンスが一番表れていると思います(爆)
>>名無しの権兵衞様
お読み頂き有り難うございます。
幽香さんは漂泊の妖怪、宛ても無くさ迷うその身もその心もまた移ろい易く……いや、まごうことなく浮気ですね。大ちゃんも好きなので幽香さんとの絡みをおまけとはいえ書かせて頂いたのですが……お気に召さぬ様で、まことに申し訳ないです。これに懲りずに見てやって頂ければ幸いです。最後に、過去作も読んでいただき有り難う御座います。
>>8様
お読み頂き有り難うございます。
我が幻想郷のチルノちゃんは皆から大切にされています。
いいじゃない、愛されても。可愛いんだもの。 まよう
言葉のセンスを褒めて頂けるとは……嬉しい限りです。ありがたや~
こちらこそせっかくの作品に…
なんというか自分チルノ狂といっていいくらいと自負しており、
チル○○or○○チルのCPを日々探しています
なのであなた様の作品は楽しみにしているのです これからもがんばってください
>>名無しの権兵衛様
お気になさらないで下さいな。同じチルノ大好きっ子同士ではありませんか! 応援感謝致します! さてさて……遅筆故お待たせ致しております。