それは風のない、穏やかに晴れた月夜のことであった。
「さとり、妹さんとはどう?」
「最近は一緒に食事する回数が増えました。心が読めない分、会話の量も増えて、少しずつだけどわだかまりが解けていくのが分かります。
何よりこいしと目を合わせて話せることが嬉しいですよ」
「良かったわね。今度は一緒に来たらどう? うちのフランも喜ぶと思うわ」
「ええ、誘ってみますね。レミリアさんはどうですか?」
「モノを壊す回数が減って経済的にも精神的にも喜ばしいわね。たまに天気の良い晩は一緒に散歩しながらお話しするの。
外へ出ることがあの子にとって良い刺激になってるのが手に取るように分かって嬉しいわ」
「散歩、いいですね。私も今度こいしと旧都を散歩したいものです」
地底の嫌われ者と紅い悪魔の楽しいお茶会。二人はひょんなことから交流を持つようになり、今では定期的に互いの身の上話や近況……もとい、妹溺愛を語るようになっている。その時々で場所は変わるが、紅魔館だったり地霊殿だったり。二人は互いに強大な力を有する妹を持つが、それすらも超えて慈しみ、愛している。めっちゃ愛している。とりあえず妹LOVEな姉馬鹿であった。それも重度の。
「この前フランが『お姉さま!』って言いながら抱き着いてきてくれたのよ!」
「あら、こいしは『お姉ちゃん一緒に寝よう?』って真夜中にベッドまで来てくれましたよ。ふふふ」
「ぐぬぬ…まぁ、それでね、フランの笑顔はすごくは可愛いの。
あの八重歯がちらちら見える感じが堪らないわ。すごく機嫌がいいと甘噛みしてくるのよ」
「ううぅ…うらやま、いえ、まぁ牙は吸血鬼の専売特許ですからね。
こいしはフランドールさんのように活発ではないので、こっそり現れて私に目隠しをしては『だーれだ!』って言う、可愛い悪戯しかできないような大人しい子です」
「こ、この前フランとお風呂に入ったわ! シャワーの流水を怖がるたびに震えるロリボディに私の理性がどうにかなるところだったわねぇ…
すっぽんぽんのフランまじ可愛い。可愛い」
「レミリアさん、顔面崩壊してますよ」
「おっと失敬」
レミリアは口の端から溢れていたよだれをフリルたっぷりの袖で拭った。その行動からは貴族らしさなど微塵も感じられない。思い出してはニヤけ、鼻の下を伸ばしている。
さとりはおもむろに自分の指を口にくわえてちゅっちゅしはじめた。そのゆったりとした薄ブルーのスモックにしか見えない衣服のせいで幼児の指しゃぶりと寸分違わぬ格好になっている。
「こいしは歯が痛いと言ってすごく心配そうだったので確認してあげたところ、親不知が生えて他の歯を圧迫しているようでした」
「それはどうやって確認したのかしら?」
「もちろんこう…指をつっこんで」
「つっこんで?」
「触って確認したあと、こいしのベロや唾液であったかくなった指を舐めました」
「姉として当然のことね。ちゃんと手は洗ってないのかしら?」
「ええ、もちろんです。お空やお燐に話しても理解してもらえないのですが…
レミリアさんは話の分かるできた方です」
「全ての姉は妹を愛すようにプログラムされているのよ。
私はその本能に従っているだけ。そうでしょ? さとり」
レミリアがその薄い胸の内から取り出したるはフランドール日常ショットの数々。眺めるたびにニヤニヤし、写真にキスをしだした。
そして鼻の下を伸ばすだけに飽き足らず、その小さな鼻からは真紅の血がぽたり、ぽたりとだらしなく垂れ始めた。
おべべが真っ赤に染まっていく。これこそスカーレット・デビル。
「もちろんですレミリアさん」
さとりは袖の膨らみから花柄のシールに『こいし』と名前が書かれたお茶碗やスプーン、コップなどを取り出してペロペロしはじめた。
その姿やまるで本能のままに動く幼児。黄色い帽子を被せたらさぞや似合うことだろう。小五ロリなど生ぬるい。まさしく園児。
「あーフランの虹色宝石羽根ぺろぺろしたいわ…」
「こいしのスカートの膨らみで一生暮らしたいわ…」
「フランのぱんつになりたい」
「こいしのスポブラになりたい」
「あら、妹さんまだスポブラなの?!」
「……えぇ、でもこれからブラジャーを一緒に買いに行くという楽しみがありますから」
「ぐぬぬ」
さて、今宵のお供だったはずの薫り高いアールグレイと上品に焼かれたスコーン、添えられたジャムやクロテッドクリーム。
市松模様の可愛いクッキー、小腹が空いたとき用のサンドウィッチ…。
これらはろくに手をつけられることはなくそれぞれ渋く出過ぎるまで、表面がかぴかぴになるまで二人の会話は続けられたそうな。
ルナ姉や静姉はまともであってほしい…。
豊姫「自然…いえ、摂理ね」