Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

私は人間だがな

2011/05/16 03:02:08
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※『流れ星の消えない夜に』と『天の川の見えない森で』を読んでいた方がいいと思います。











「妖精同士の戦争? それで自信を持って妖怪に挑もうと?」
「そうそう」
「私は人間だがな」

 帽子を目深に被り直して、霧雨魔理沙はそう苦笑した。

「でも、もう力を使い果たしたー。帰って寝る! あたいの勝利だ! 妖精に最強あれ!」

 そう言い残して飛び立ったチルノの姿を見送って、魔理沙は息を吐く。

 ――本当に、妖精も馬鹿に出来ないな。
 いや、馬鹿だからこそ――か。

 その呟きを聞いている者は、そこにはいない。


        ◇


「ただいまー」

 玄関から同居人の声がして、アリスは読んでいた魔道書から顔を上げた。
 足音、そして部屋のドアが開き、姿を現すのは白黒の姿。

「おかえり。遅かったわね」
「あー、ちょっと馬鹿につかまってな」

 魔理沙はぼふんとベッドに身を投げ出して、天井に向かって大きく息を吐いた。
 アリスは椅子をきしませて、魔理沙の方へ向き直る。よく見れば、ちらほら生傷が増えていた。誰かとやり合ってきたらしい。肩を竦めて、アリスは上海に薬箱を持ってこさせる。

「今度は誰とやりあってたのよ」
「私の責任じゃないぜ。チルノの方から喧嘩ふっかけて来たんだ」
「チルノ?」
「いてて、しみるしみる」
「我慢なさい」

 傷口に消毒薬をしみこませたガーゼをあてながら、アリスは訊ねる。
 魔理沙は苦笑混じりに、花見の帰り道にチルノに喧嘩をふっかけられた話をした。

「で、負けて帰ってきたと」
「手加減してやったんだぜ。死なない程度のレーザーで。そしたらあの馬鹿、妙に強くなっててな。次はレーザーを最大出力にして返り討ちだぜ」
「本気出して負けたら後が無いわよ」
「うるさいな」

 はい、おしまい。最後に頬に絆創膏を貼って、アリスはその頭を撫でる。
 魔理沙は小さく唸りながらも、その手から逃れようとはしなかった。

「あの馬鹿――」
「うん?」
「妖精同士の戦争に勝ったから、妖怪を倒して最強になるって言ってたんだ」

 不意に顔を伏せて、ぽつりと呟くように魔理沙は言った。
 ベッドの上に投げ出された三角帽子を手にとって、魔理沙は――笑って見せた。

「私は人間なんだけどな」

 ――その言葉に、アリスは小さく息を飲んで。
 目の前に居る小柄な少女の、金色の髪に結ばれた、赤いリボンにそっと触れる。
 すると魔理沙は、その手から逃れるように身をよじって、部屋の中だというのに帽子を目深に被った。
 その横顔に、アリスは目を細めて、椅子から立ち上がった。

「貴方は、魔法使いよ」

 はっと、魔理沙が顔を上げる。その顔を覗き込んで、アリスは笑った。

「もう、立派な魔法使いだわ」

 魔理沙の赤い瞳に、アリスの顔が映り込む。
 そのあどけない顔が、くしゃりと不意に歪んで。
 泣き笑いのような顔で、魔理沙は――八重歯を覗かせて笑った。

「そうなのか?」
「そうよ。私が保証するわ」
「……そうなのか」

 その、今になっても抜けない口癖を、――霧雨魔理沙と過ごしていた頃からの口癖を、繰り返して。
 二代目霧雨魔理沙を名乗る少女は、ぎゅっと何かをこらえるように目をつむった。
 アリスはただ黙って、その隣に腰を下ろし。
 少女の背中に腕を回して、優しくさすった。

「……ルーミア」

 今はもうアリスしか知らない、目の前の少女の本当の名前。
 それを囁いて、アリスは少女の小さな身体をそっと抱き寄せる。

「アリス――」

 寂しがり屋の魔法使いは、アリスの身体にぎゅっとしがみついて、小さく身体を震わせた。
 赤いリボンの結ばれたその髪を撫でて、アリスはただ、その震えを抱き留める。

 ――悲しみは、ただ悲しみとして受け入れて生きていくしかないのだ。
 些細な言葉、何の気のないやりとりの中に潜んだ、喪失の残映に惑うとき。
 自分はただこうして、この子を抱きしめてあげることしかできないけれど。

「チルノの詳しい話を聞くときには、私も付き合うわ」
「ん……」
「次のお花見は、一緒に行きましょう」
「……うん」
「貴方がびっくりするような、美味しいお弁当も用意するわよ?」
「おー、そーなのかー。楽しみだぜ」

 魔理沙は――ルーミアは、顔を上げて、無邪気に笑った。
 それはきっと、彼女がいつか、大切な友達に向けていた笑顔で。
 今、それが自分に向けられていることに――アリスもただ、笑い返した。
妖精大戦争Lunatic全ルートクリア記念。
あの会話を見た瞬間どうしても浮かんでしまったネタでした。ルーマリ流行れ。
浅木原忍
[email protected]
http://r-f21.jugem.jp/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
「一人前」に成ったんですね。
2.名前が無い程度の能力削除
切ねぇ、切ねぇよ。

俺はまだ魔理沙倒せねぇよ。
3.名前が無い程度の能力削除
嗚呼切ない……
4.名前が無い程度の能力削除
泣くぞ?  流行るよ!流行んなきゃ困る
5.名前が無い程度の能力削除
涙腺にかなり来た
6.名前が無い程度の能力削除
ルーマリは流行っても2代目設定は流行らない
7.名前が無い程度の能力削除
あれ?文面が歪んで見えるよ?なんでだろ?
8.名前が無い程度の能力削除
いいルーマリだ