※注意!
この作品は深夜脳が暴走して生まれたものです。
ご覧になる方は早苗さんの様に常識に囚われない大らかな心で見てやって下さい。
では、以下よりどうぞ。
妖怪の山がすっかり赤と黄色に染まった神無月の初め。
僕は相変わらず客が来ない店内で店番という名の読書をしていた。
季節は本格的に秋へと移り変わり、やがて紅葉は葉を散らせ、厳しい冬が訪れるだろう。
商家にとって冬は余り良い季節ではない。寒さで客足は遠のき、そのくせ暖を取る為の薪や保存の効く食料等、出費ばかりが嵩んでいくのだ。
そして、それは年中客足が少ない香霖堂とて例外ではない。
「……ハァ」
思わず溜息が漏れる。
暖の方はストーブがあるから何の問題も無いが、それでも帳面は赤一色になる事も珍しくない。
理由は単純、常連――といっても、主に霊夢と魔理沙――が訪れた際に発生する大小なりの被害だ。
本人達がその事を理解し、以後気をつけてくれるなら何の問題も無いのだが……霊夢と魔理沙は、日本語が通じていないのではないかと思ってしまう程それをしてはくれない。
その場では謝るが、数日すればまた似た様な事を繰り返すのだ。全く、困った妹分だ。
……まぁ、それを余程の事でない限り許している僕が甘いのかもしれないのだが。
とそんな事を考えていると、扉に取り付けた鈴がカランカランと心地良い音色を奏で、来客を知らせた。
店に訪れた者を利益をもたらす客か、或いは常連かを確認するために顔を上げた。
「やっほー、来てあげたわよー」
「……君か」
これは……非常に微妙な存在が来店したものだ。
「む、な、何よその態度は。天人の私がわざわざこんな所に来てあげたんだから、も、もっと嬉しそうにしなさいよ!」
そう、天人。
僕の目の前にいる人物は、博麗神社倒壊という前代未聞の異変を起こした張本人。
「香霖堂は人も妖も神も分け隔て無く受け入れる古道具屋だ。それは天人だろうと例外じゃあない。実入りが少ない冬へと移行するこの時期、客なら喜んだのだが……今日の君はお客様かい?それとも冷やかしかい?……天子」
不良天人、比那名居天子だ。
「何よ、冷やかしはお断りなの?」
「お断りではないが、冷やかしよりは客のほうが有難いね」
客がずっと店内にいると、僕は客が何を探しているのか?不審な行動を起こさないか?そういった事を確認するために客を見ておく必要がある。
それが収入の期待出来ない冷やかしなら時間の無駄でしかない。
まぁ、冷やかしはどの様な商品がそこにあるかを見定めている時もあるから、別にお断りという訳ではない。
だがそれは客が金銭の類を持っていた場合の話だ。
天人である天子が住んでいるのは言わずもがな天界だ。天界とは欲を取り払った穢れ無き世界。そこに金銭が流通しているかどうかはかなり怪しい。
だが反面、天界には独自の発展を遂げた道具が数多く存在する。彼女が持っている天人しか使えない秘宝……緋想の剣がいい例だろう。
その様な道具は僕からしてみれば垂涎物。地上に生きている限り決してお目に掛かれない様な至宝の数々だ。
……尤も、その中でも恐らく最上級に値するであろう緋想の剣を彼女が自由に持ち出せるのだから、天界では道具の価値が低いのかもしれないが。
だが、それなら等価交換で思いもよらない宝が手に入る可能性がある。しかしそうはいかない可能性も同時に存在する。
故に微妙な存在なのだ。比那名居天子という常連は。
「じ、じゃあ今度はお客として来てあげるわ。感謝しなさい!」
「今度は、という事は今日は冷やかしなのか」
「論点をずらすんじゃないわよ!」
「先にずらしたのはどっちだか……」
「べ、別にそんな事はどうでもいいのよ!」
「自分から言い出しておいてそんな事とはね……」
余程刺激しない限り、天子は大丈夫か。
思い、目線を本へと戻す。
「な、何で読書に戻るのよ!客人の相手ぐらいしなさいよ!」
「物を壊さない限り自由にしていてくれて構わないよ」
「何でほっとく事前提で話してるのよ!聞いてるの!?」
「聞いてないよ」
「聞けぇー!」
だんだんと勘定台を叩きながら天子は抗議の声を上げる。
これでは煩くて読書が出来ないではないか。
止めさせる為に、再度本から顔を上げる。
「ハァ……ハァ……」
「……何だい?」
「き……客人の相手ぐらい……しなさいよ……っ」
動きつかれたのか、肩で息をする天子がそう告げる。
「フム……」
……また騒がれては面倒だな。
思い、茶を入れに行くため席を立った。
***
天子が来店して、二時間程経っただろうか。
僕としては放っておいて読書に耽りたかったのだが、そうすると煩いので仕方なく相手をする。
天子はそれが嬉しいのか、三十分程前からずっと話し続けている。まるで長篠の戦で織田軍が用いた三千丁の鉄砲による三段撃ちの様だ。
「……でね?だからホント天界って……ってちょっと!聞いてるの!?」
「ん?あぁ……済まない」
少し考え事をしていた所為で聞き逃してしまったな。
「……何だったか」
「もう……天界はつまんないって言ってたのよ」
呆れたような声で天子はそう告げる。
「つまらないのかい?」
「えぇホントに。毎日の様に宴会ばっかり!」
「それはこっちも同じ様な気がするが……」
「こっちは良いわよ。肴も美味しい物が沢山あるんだから」
「僕は景色を肴に一献やる方が性に合ってるんだが……まぁ美味い肴が多いというのは同意しておこうか」
「でしょ?なのに天界の宴会は酒の肴といったら桃。そればっかりよ」
「ほぅ……」
……どうやら、天界とは僕が想像していた世界とは随分かけ離れているようだな。
天界とは欲を取り払った穢れ無き清らかな世界。そう思っていたが……
「……本当に無欲なら、宴会をする事も無いからな」
「ん?……あぁ、まぁそうね」
独り言だったが、天子は意味を察したらしく同意してくれた。
其処まで思い、僕の思考は新たな道へと進んでいた。
「しかし……」
「え?」
「いや、なら天界とはどういう所なのかと思ってね」
無欲ではない天界。其処がどういう場所なのか……興味が無いと言えば嘘になる。
そう問うと、天子は語れるのが嬉しいのか、喜々として話し始めた。
「天界は……ま、一言で言えばつまんないわ。毎日宴会だし、美味しい物は無いし、毎日役にたたない様な事ばっかり教えられるし……宴会だって、飲んで歌って……こっちと大差無いわ。舞ったりもするけど、それだってこんなのよ」
言って、天子は片足で立ちその場でくるりと回ってみせる。
その時だった。
「あっ」
天子は今まで勘定台に圧し掛かる様な体勢で僕の方を向いていた。つまりそれは足元が勘定台に遮られて見えないという事。
そして起き上がってその場で片足回転。上げた方の片足は円の軌跡を辿り、勘定台へ激突。
ゆっくりと回ったのでそうダメージは少ないだろう。だがここで問題なのは天子がそれを予測していなかったという事だ。
とっさに体勢を戻そうと上げた足を下に下ろすが、その時には既に彼女の重心は後ろに傾いていた。
結果、天子は何かに掴まる事で落下を防ごうとするが、後ろに倒れかけている時にその行動をするのは受身を取るという選択肢を捨てる為、大概の場合悪い結果しか生まない。
そして、今回はその大概の場合に該当した。
「にゃうっ!?」
尻尾を踏まれた猫の様な声を出して天子は倒れる。
それだけなら何の問題も無かったが、悪い事は続くものだ。
天子は倒れた時、棚に頭をぶつけていた。
その衝撃は棚の上へと伝わり、上に乗っている物が大きく揺れる。
そして。
「あっ……」
上に乗っていた壷が重力に従い、ガシャンという音と共に無数の破片へと姿を変えた事に僕が気付くのはその数秒後だった。
「………………」
「………………」
いきなりの事に頭がついて行けなかった。気が付けば天子が倒れ、気が付けば壷が割れていた。
「………………」
「………………」
天人は体が丈夫だと霊夢と魔理沙から聞いている。痛がっている様子も無いし、怪我は無いだろう。
心配はしなくても大丈夫そうだ。
「………………」
「ぁ…………」
何となく、天子に目を向けた。
天子は此方を向き、うろたえている。
「………………」
「………………」
……さて、どうしようか。取り敢えず破片を片付けなければ。
そう思い席を立った時、天子が言葉を発した。
「……御免、なさい」
思わず振り向いた。
見ると、天子は俯き蚊の鳴く様な小さな声で呟いていた。
桃の飾りが付いた帽子は落下の衝撃で落ちたらしく、傍に転がっていた。
僕の視線には気付かずに、天子は言葉を続けていく。
「御免なさい……そんな、つもりじゃ……」
「………………」
正直、天子が謝罪の言葉を述べた事に僕は驚いていた。
天子はかなりの我侭娘だと霊夢と魔理沙から聞いていたし、その我侭っぷりは僕も何度かこの目にしている。
だから謝罪の言葉ではなく、何故助けなかったのかと言う様な内容の怒気を纏った言葉が飛んでくるものだと思っていた。
だが実際に飛んできたものは、怒りとは対極の弱弱しい声だった。
「御免なさい、御免なさい……弁償でも、何でもするから……だから……」
「………………」
「……私の事、嫌いにならないで……っ」
その呟きが、耳元で囁かれたかの様に耳に残った。
「………………」
無言で天子の傍に歩み寄り、腰を屈める。
「……君は自分の非を認め、謝罪をした。何時もの様に我侭に振舞う事なく、ね」
「ぇ…………」
「自分の非を認めると言うのは、簡単な様で難しい。己の過ちと言うものは、どうしても目を背けたくなるからね」
「ぁ……ぇ……?」
「僕は……そういう子を嫌ったりは、しないよ」
「―――ッ」
そこまで言って、天子は顔を上げた。
両目一杯に涙が溜まっており、今にも溢れそうだった。
「わ、私……っ、嫌われると、思、って……、もう……っ、来ちゃ、駄目なんじゃ、ないか、って……」
「……そんな事は無い。最初に言っただろう?香霖堂は誰でも分け隔て無く受け入れる……と」
「う……うん……っうぁあ……」
そこまで言って、天子はとうとう泣き出してしまった。
「やれやれ……困った客人だ」
呟き、頭を優しく撫でてやる。小さい時の魔理沙はこれで泣き止んだものだ。
「えぐ……スン……」
「よしよし……」
天人とはいえ、まだ精神的に子供なのだ。
子供なら、多少の失敗は多めに見てやるべきだろう。
そんな事を考えながら、僕は天子の頭を撫で続けた。
それはともかくてんこかわいい。こいつぁ嫌いになれないね。
ニヤニヤが止まらないですよ・・・
天子可愛いよ天子
良いぞ天子、やってやれ
兎にも角にも最高の天霖でした
これでまた生きられる!
マイジャスティス。
よきお話でした!
>>奇声を発する程度の能力 様
天子は可愛いです!
>>K-999 様
素直に謝る子は嫌いにはなれませんよね~。
>>下上右左 様
ニヤニヤしましたかw
>>投げ槍 様
天霖でしたか!良かった!
>>はみゅん 様
ま、また!?一回死んだんですか!?
>>淡色 様
自分もそんなのがジャスティスですw
>>7 様
しおらしいのもいいですよね!
読んでくれた全ての方に感謝!
素敵な天霖だったと思います!
>上げた方の片足は円の奇跡を辿り、勘定台へ激突。
円の軌跡、ですか?
何時も誤字報告有難う御座います!
どうして何度確認しても出てくるんでしょうね……?
読んでくれた全ての方に感謝!