Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

秋の大縁日に恋色の魔法は花咲いて

2011/12/10 21:56:10
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※ このお話は甘リアリシリーズの続きになります。

 














 

 
 これは、ある秋の幻想郷のお話。

 最初に聞いたのは一番鶏の鳴き声、そっと意識を覚醒させてまず感じるのは愛しの人の温もり。昨日の愛の余韻も残っているけど、私はアリスを起こさないように身を起して、手を伸ばす。愛しの人と、私の熱が生みだした温もりの外の秋の冷えた空気は、そこから私を現実に連れて行こうとする。
 今日という、人生においてたった一度しかない、素敵な一時だ。

 「チョウカンヨ、ダーリン」
 「私はハズバンドだってー」

 半自立人形であるアリスを模した人形が私に朝刊を届けてくれる。今は、たまにゴシップ的な内容も含むがジャンル問わず実に様々な情報が書いてある文々。新聞と元々の念写能力・・・まぁ検索のきめ細やかさが良い方向にシフトし、旬の話題を掘り下げてくれている花菓子念報の二紙を購読している。
 私は寒くないように頭と手だけベッドから出して、まずは二紙の一面を比較する。

「命蓮寺の大縁日は明後日だな・・・」

 まずは文々。新聞、すっかり秋の名物となったこの命蓮寺の縁日。ちなみにこういった縁日は幻想郷内でもまずまずの頻度で開催される。
 霊夢も五月ごろに例大祭を催すし、最近では早苗の神社でも例大祭がきちんと開催されるようになった。春夏秋冬、騒げるお祭りがあるのはとっても有難い話である。

「そして、紅魔館大運動会、かぁ」

 これまたレミリアなら考えそうなイベントである。
 まぁ、やる事は弾幕ごっこじゃなくて、フツーに身体を動かしてわいわい・・・という行事である事は大運動会という文面からでも想像出来る。まぁ、色々とイベントもあるけど、それよりも一番大切なのは・・・

 傍らで眠るアリスと共に今を楽しく生きる事だ。

 大縁日も大運動会も楽しもうと、ココロにそっと決める。アリスを近くに寄せて、新聞を斜め読みしながら異変が起きてないかとか、変わった事は無いかだとかを一つ一つチェックしながら、のんびりとした朝を過ごす。

「この仮面ミノリダーって・・・あの、特撮とかいう外の世界のお芝居をこっちで再現しているのか?」

 紅魔館の湖近くで、意気揚々と外の世界に行った時に見た事がある機械・・・ビデオカメラを構える早苗と、何か怪しげな装置に手をかけているにとり、そして、きぐるみを着たチルノと大妖精に、これまたフリッフリの可愛らしい衣装を着た穣子が綺麗に写真に収まっている記事に目が行った。
 特撮・・・早苗の家で何回か見せて貰ったが、ゴリアテ人形みたいなデカいロボットに乗って五色の戦士達が戦ったり、等身大のヒーローが異形の怪物と戦ったりと、その内容にはバリエーションに富む。色々と理解できない事は多かったが、結婚式の後にアリスと一緒に遊びに行った時に見せて貰った、魔法の家族のお話は感動的だったのは覚えている・・・・・一日中上映会をされるとは思っていなかったが。
 
「お母様の姿を追いかけて来た私も、お母さんになれる年齢だもんなぁ・・・結婚もしたし、着々と家庭を持つ事が現実的になっているんだよなぁ・・・」
 
 結婚してはや3カ月でこれかよ?と思われる位性急に進んでいるけど、これは私達が望んでいる事。新婚気分を味わいたいのと愛する人の子供と共に生きて行きたいっていう贅沢な二律背反、どっちでも幸せになれるのはアリスと一緒に生きているから・・・日常化した光景だけど、アリスと一緒に居られる事が何よりの幸せ。
 幸せな気持ちに満たされたまま、新聞をあらかた読み終えた私は大きく伸びをしてパジャマに袖を通す。仕事とかで最近慌ただしかったから、アリスにゆっくり寝て貰って美味しい朝ご飯を作ってあげようと思ったのだが・・・

 どうやら一緒に居たいのは私だけじゃないみたいだ。

「・・・えいっ。」
「うわっ!」

 直に触れるアリスの感触に思わず驚いてしまう。ふよふよとした感触が背中に当たる度に朝から理性がグレイズ寸前、そんなアリスは私に抱きついたまま笑顔を向けて来た。

「何処へ行こうとしてたの?」
「ん、今日はお前の為に朝ご飯をと。ここんとこ仕事や何やらでアリスがずっとやってくれたからお返しに・・・と思ったんだが。」
「まぁ、嬉しい。でも、せめて朝の挨拶だけは・・・」
「うん・・・」

 ―おはよう。

 そしていつもの口付け。

 既に日常化して慣例化しているが、この一瞬の素晴らしさは色あせない。今日と言う日を愛する人と共に生きているという喜び。そっと離れて抱きしめて、暫くそのままでちょっと肌寒い秋の空気で冷えた肌を暖めあう。

「ちょっと寒い?」
「寒いな・・・やっぱり、秋だからかな。」
「そうね、先月位までは汗ばむ事もあったのに。」
「季節は、巡る、か。」

そっと仲良くベッドに身を預ける。身を寄せてちゃんとシーツを被って暖を取る。私と同じように、規則正しく刻む心臓の鼓動が繋いだ手から伝わってきて、頬が自然と緩む。

「所で魔理沙、今日はお仕事無かったわよね?」
「ああ。私の方は、アリスの方はー」
「大丈夫よ、今日は何にも無いわ。ただ、明後日の縁日で使う弾幕花火の精製の仕上げがあるけどねー」
「それは私達の共同の仕事じゃないか?」
「ま、確認のためにね。」

 アリスは本当にしっかりしている。出会った当初は、そのしっかりした側面に辟易したことすらあった、でも、今はそんなアリスのしっかりさに物凄く助けられている。ともすればうっかりしがちな私の事を、良く見て、支えてくれるのは本当に嬉しい。
 身を寄せては居るがまだまだ肌寒く、更に擦り寄ってくるアリスを抱きとめて、そっと体温を分け合いながら、秋の朝の一時が流れていった。

「ま、今日はお互いお仕事無いから・・・もう少し・・・このまま、でもいいかな?」

 上目使い、アリスの眼差しが私をキュンとさせる。確かにこの所、仕事があったりしてちょっと二人で朝の一時をゆっくり過ごすのはご無沙汰だった。私も、アリスとこうやってのんびり体温と幸せな気持ちを分け合って、このまま心地良い空間に居たいなぁとブレイジングスターのスピードよりも早く判断、アリスのおでこにキスをしてから、そっとこう答えた。

「ああ。そうだな、今日はもう少しこのまま・・・アリスと、な。」
「ありがと、魔理沙・・・愛してるわ。」
「私も、愛してるぜ、アリス。」

今日はもう少しだけ、この甘い時間に浸って居よう。そういう朝も悪くない。もう一度キスをして、私達はまた少し愛を深め合った。


ミ☆


 のんびりとした雰囲気の中、魔理沙との愛で満たされた朝を過ごした私は、弾幕花火を作る作業に当たっていた。勿論、傍らには魔理沙も居る。火薬による花火も良いけど、魔法の光が織り成すイルミネーションも素晴らしい物である。
 元々は魔理沙が毎年、秋の祭りに合わせて生活費を得る為にやっている仕事との事なんだけど、今年は私達で引き受ける事になった。生活には不自由していないが、今後の事を考えると蓄えは幾らあっても困らない。
 新居の共同研究室で顔を突き合わせて、緑茶を飲みながらあーでもない、こーでもないと相談しながら弾幕花火の最終調整に入っていた。

「あー、アリス、ここの術式はこれで行こうと思うんだけど・・・」
「うーん、ここはこうした方が良いかな。魔法の糸との干渉があるかもしれないしね。」
「成程、まだまだ魔法の糸に付いては分かってないな。魔法の糸で指向性を持たせて魔法を打ち出す所までは良いんだけどさー」
「でも、魔法の糸の技術に関してはこの短期間で凄く上達したわよ。ビックリするくらいね。」
「先生がアリスだからだぜ。分かりやすいしな。ありがとなー」
「どういたしまして、魔理沙。」

 魔理沙の魔法はますます上達している。お母さんが魔法使いだったと言う生まれもあるが、人間の範疇を超えている事もしばしばある。凄まじい威力の魔法を発動させながら、魔法の糸を繰り誘導させる等と言った高度な詠唱もこなすようになったこの魔理沙。
 私との魔力のリンクを使いこなせるようになった結果、魔力を制御する能力が凄く上がっているのだ。
 指導を終えた私は、ノートにつづった花火の案を実現に移すべく魔法の術式を組み始めた。その様子を魔理沙が見ていたようで、興味深そうに覗きこんでくる。

「アリスも良い花火作ってるじゃないか。」
「魔理沙の話を聞いて、作ってみたんだけど、どうかな?」

 ノートに書きつづった術式を見てくる魔理沙。触れる何時ものお下げと、頬の感触がとっても心地よい。頬に手を当てて、その張りの良い頬に指を滑らせてゆっくり愛しの人の返事を待つ。頬をふにふにしていると、少しくすぐったそうな声を出して魔理沙が答えてくれた。

「人形達に吹き出し花火を持たせるのか・・・誘爆したらお前の大切な人形がー」
「大丈夫よ、爆薬は抜いた人形だから安心して。ただ、耐火性の高い服は着せてあげる予定だけどね。」
「なら良いけど。でも、ここの魔法は魔法の糸との同期をこうした方が良いんじゃないかな・・・」
「えっ、ああ・・・ホントだわ!早速やってみるわ。」
「おう、こっちも頑張ってやっとくぜー」

 そう言ってニッと笑う魔理沙、ノートに示された術式は実に無駄が無い。そして、何よりも豪快である。私と魔理沙の良さが凝縮された術式を魔法に反映させて、私は花火を完成へと近付けて行く。
 緑茶のお代わりが4杯目に突入するかしないかと言う所で、完成した弾幕花火の術式を空白のスペルカードに封入しながら、そっとこんな事を言ってきた。

「なぁ、アリス。浴衣、持ってるかー?」
「ううん、持ってないわね。」

 浴衣、縁日等では好んで着る人妖も多く、魔理沙もそうだが、霊夢や霖之助なんかは必ずと言っていい程浴衣で登場する。だけど、私はいつも洋服でバシッと決めてしまうため
浴衣は持っていないのが現状である。

「そうか、じゃあ、折角だから今回のお祭りは浴衣で行こうじゃないか。婦々揃って、浴衣と言うのも・・・素敵じゃないか。」
「そうね、でも、今から新調するの?浴衣は魔理沙のしか無かったはず・・・」
「いやー、嫁入り前に結婚に必要な道具を用意してた時の事なんだが・・・家の蔵から、お母様が生前、愛用していた浴衣が出て来てな?サイズもぴったりだったんだぜ。」
「あら、それは凄い。」
「それで、私のお下がりをアリスに着て貰おうかと思ったんだがー」
「成程。今の魔理沙なら私とサイズはほぼ一緒だしねー」

 背丈も殆ど変わらない魔理沙ではあるが、やっぱりホンの少し魔理沙の方が小さい。普段は帽子被ってるから気が付かないけど、何時も一緒にいるとそれはよーくわかる事なのだ。

「だから、アリスが良ければ・・・と思ったんだけど。どう、かな?」

 笑いかけてくる魔理沙に、私が返す答えは一つだけ。魔理沙の吸い込まれそうになる位綺麗な瞳を見て、私はその瞳に笑顔を映して

「ありがとう、魔理沙。その浴衣・・・ありがたく使わせて貰うわね。」

 と言ってあげる。魔理沙はぎゅって、私の事を抱きすくめてから、耳元でそっと言葉を返してくれる。

「どういたしまして、アリス。」

 最愛の人と感謝の気持ちを伝えあえるのは、どんな事よりも素敵な事だと思う。何かをしてもらったり、してあげたりした時に必ずありがとうと一言添えるのが私達流なのだ。
 抱きしめあったから、心臓の鼓動がより近くに感じられる。世界で一番愛してる人と全てを分かち合っている、その事への喜びが私のココロを満たしてゆく。
 暫く愛の抱擁を交わした後、自然と離れた私達は完成した弾幕花火のスペルカードをそっと一か所に集めて、作業台を綺麗に片づける。魔理沙も私に習ってせっせと掃除をしてくれるようになった、自分だけの部屋は相変わらずの様相だが、共用のスペースを散らかすような真似はしなくなった。それも、彼女の成長と言った所であろうか。
 作業スペースがあらかた片付いた所で魔理沙は大きく伸びをして、私の方を向いて。

「ようし、じゃあ、今からその浴衣を取りに行こうぜ。」

 窓から指す太陽の光の眩さにも負けない笑顔を見せる魔理沙。その笑顔に照らされて、私の表情も太陽のような輝きになる。鏡で見ると、きっと良い笑顔なんだろうなと思いながら、私は魔理沙の手を握った。

「行きましょう、魔理沙。」

 繋いだ手、軽やかな足取りで玄関に向かう私達。お気に入りのブーツをはきながら、ふと、玄関の下駄箱の上に飾ってあった結婚式のウェディングドレス姿の私達の写真が目に入る。太陽のような笑みを浮かべる、私と魔理沙の晴れ姿・・・あの時の一瞬が切り取られてここにあるのだ。
 その写真をちょっとだけ眺めてから、箒を構えて飛行準備に入る魔理沙の後に回ってぎゅっと腰を抱きしめる。こうすれば危なくないし、お互いの魔力の供給効率も上がり、お互いの魔力消費量を抑える事が出来るだけじゃなくて、温かい魔理沙の背中でぬくもる事が出来るのもある。
 しっかり腰を掴んで、空を飛ぶ体制を整えた私は、魔理沙に出発の準備が出来た事を知らせてあげた。
 
「魔理沙、良いわよ。魔力、そっちに送るわねー」
「ようし、良い感じに魔力も満ちて来た・・・じゃ、行くぞー」
「うん、安全運転でお願いね。」
「おう。でも、しっかり捕まってるんだぞ。」
「うん・・・」

 ふわりと宙を舞う私達、ゆっくりとスピードを上げて、私達は9色の魔法の光と共に人里は、霧雨屋の方へと進路を取った。
 
 
ミ☆


「じゃあ、いくよー」
「あれ、穣子?貴女も一緒に引いてよー」
「今回は私もお疲れなのー、いいでしょー」
「ま・・・私のせいだもんね、落ちないようにしっかり座ってて。」
「「「はーい」」」

 霧雨屋付近の喫茶・アミーゴの付近で、静葉が引く大八車に穣子とチルノと大妖精が乗っており、それを外の世界で見かけた機械に良く似ている物を向けて嬉しそうに撮影している早苗達の姿が眼下に見えた。

「見ろよ、ミノリダーの撮影やってるぜ。」
「あら、ホントだわ。状況から察するに、最後のシーンの撮影かな?」
「うーん、早苗の所で見た特撮の平均的な感覚だと、なんかラストのシーンっぽいな。」

 だいたいの特撮番組には流れがあって、最後はだいたいこういうのどかなシーンで終わるのが常である。こちらも無事に進んでいるんだなぁと思いを馳せながら、私は霧雨屋の軒先に降り立った。軒先に降り立つと、こちらも大縁日の用意をしている白と黒で分けたツインテールが印象的な真夢が出迎えてくれた。

「魔理沙お嬢様、アリスお嬢様、ご機嫌麗しゅう。」
「こんにちは、真夢。」
「よう、真夢。」
「今日はどう言った御用向きですか?」
「あぁ、この前蔵で見つけた物をアリスに、と思ってね・・」
「そうですかぁ。あ、でも今はご主人様はおられませんので私がー」

 そう言って重そうな荷物を置いて奥に引っ込もうとする真夢であったが、作業の手を止めさせるわけにもいかないので、私はそっと彼女の肩を掴んでから。

「おっと、それには及ばない。長年留守にしてても、生まれ育った我が家の事は分かるぜ。」
「真夢は作業に集中するといいわ。ありがとね。」
「お嬢様達のお心遣い、真夢は嬉しゅうございます・・・!」

 深々と頭を下げる真夢に会釈で答えて、私達は霧雨屋の横から奥の方の母屋に入って行った。つい先日も立ち寄った時もそうだったのだが、私が家出する前と全く変わらぬその構造、足が自然と目的の方向・・・蔵の方へと向いていく。アリスをエスコートしながら、静かな母屋を軽やかな足取りで進んでいった。ちょっと古びたドアを開けると、そこには色んな物が眠る、我が家の蔵が鎮座していた。

「まぁ、始めてマジマジと見るけど、凄く大きな蔵なのね。」
「ああ、色んな物が入ってるからな。お父様が集めた物がほとんどだけどな。」

 そう言いながら蔵の扉を開け放って、近くまで出しておいたお母様の浴衣の入った箱を取り出す私。少しだけ時の止まったような匂いのする蔵からその箱を担ぎ出して、そっと縁側に置く。置かれた箱の留め金を手慣れた手つきで外して、アリスの前にそっと差し出した。

「じゃあ・・・開けるぜ。」
「うん。」

 箱を開けて、幾年もの時を越えた筈なのに色あせず、あの時のままで保管されていた浴衣を取りだす私。それをアリスに見せると、ぱああと表情が明るくなった。

「まぁ、綺麗な浴衣ね。魔理沙のお母様、すごくハイセンスだわ。」
「だろ?私はこの浴衣をきたお母様に抱かれて、縁日に始めて行ったんだぜ?」
「思い出のある品ね。」
「ああ。」

 まだ右手で数えられるような年齢の頃、私はお母様に抱かれて博麗神社の縁日に行った事、そこでお父様にりんご飴を買って貰ったり、射的で景品を取って貰った事も今でも覚えている。
 浴衣を手に取りしげしげと眺める度、思い出がどんどん浮かび上がってきて、今は亡きお母様との会話がどんどん頭の中で再生されていく。目の奥にあるネジがゆるんでいくのが何となく分かった。
 だが、傍らにそびえるアリスが私の背中を指で突っついてきた。

「ねぇ、魔理沙?」
「ど、どうしたんだ、アリス。」
「ここに・・・封筒が入ってるわ。」

 アリスが一枚のお洒落な封筒を差し出して来た。かなりの年月が経っているにも関わらず綺麗なままのその手紙には非常に強い魔力を感じた。
 それがお母様の魔力である事はすぐに分かった。私の魔力と良く似た波長を持つその手紙の裏側には、魔法による封印が仕掛けてあったからだ。そして表面には、魔理沙へ、というお母様の文字が見える。

「お母様のだ・・・」
「強い魔力を感じる、封印、何とか出来そう?」
「ああ、この術式の外し方は共鳴させればいいからな。ここをこうして、こうして、と」

 私の魔力をそっと、封印に干渉させる。私の魔力がお母様の魔力にくっついて、一つとなって、その封印はあっと言う間に外れた。封印を解いた私は、震える手でその封筒の中身を取り出して目を通した。

 そこには、お母様の文字で書かれた文字がびっしりと書かれていた。綺麗で、それでいて凄く懐かしいお母様の文字が・・・その文字も魔力の籠ったインクで書かれているらしく、その事に気が付いた私は、魔力を通わせてみた。
 
 すると、魔力が膨れ上がって魔法が発動し、私の記憶の中にある声が再生された。

 大好きなお母様の、優しくて、それでいて暖かな声が・・・

 ―魔理沙、私の可愛い魔理沙。
 
 この浴衣を着る事が出来たのなら、貴女は立派な大人の娘になっている事でしょう。
 
 その時にはお母さんもお婆ちゃんと呼ばれるようになってたりするのかしらね。
 
 魔理沙の傍には素敵なお婿さんか、お嫁さんがいるのかしら。もし居たら、この浴衣を着て、かつてのお父さんとお母さんのように、仲良くお祭りに出かけて行ってね。

 これを見てる未来の私達家族が、そして未来の魔理沙が幸せでありますように・・・

 私の可愛い娘へ・・・

 魔法が切れた、私の視界が滲んでいる。アリスも泣いていた。お母様の色あせぬ私への気持ちがひしひしと伝わってくる。ココロの中から堰を切ったかのように、溢れ出すお母様への気持ちが、私の目からどんどん溢れ出して行った。

「・・・アリス。ごめん、少しだけ胸・・・借りる、ね。」
「良いわよ・・・魔理沙。」
「あ、ありがとう・・・うっ、ひっく・・・」

 ただ、涙が零れる。死してなお、お母様の愛が私に伝わったのだ。最愛の人の腕の中で声を出して、ただ涙を流す私。アリスの暖かくて優しい腕の中はまるでお母様のようだった。
 けど、違う。アリスの腕の中は、どんな人の腕の中よりも安らげて落ち着ける、愛に満ちた空間。私は泣くだけ泣いて、そっとアリスの腕から抜け出してアリスを見た。

「目が真っ赤・・・」
「気のせいだよ・・・」
「いいのよ、泣きたい時は泣けばいいのよ。魔理沙が教えてくれたじゃない。」

 見つめ合う。アリスの目に私の顔が映った。私はそっとアリスに近づいておでこをぶつけてみる、泣いた後の何とも言えない気分をアリスと共有し合っていたが、ちょっと距離を近付けてみる。
 ふふっと笑うアリスに涙を拭いて答えて、少し涙で濡らしてしまった浴衣を箱にしまっていると、ドスドスっと大きな足音が聞こえて来た。

「む、魔理沙か。どうした、目を晴らしているじゃないか、何があったんだ?」
「お母様のコレ・・・」
「うん?」

 浴衣を見せると、お父様は暫く何かを思い出すような素振りを見せた。そして、静かに頷いてから、私の肩を叩きながらこんな事を言ってきた。

「お母さんは、いつか魔理沙にこの素敵な着物を着て貰う為に、自分が着た後大切に保管していたんだよ。そして、手紙も早い段階で書いていたんだ。」
「そうなんだ・・・」
「儂が気が早いといっても、何時かは渡すのだからと言って書いてたのを思い出したぞ。お母さんは、お前の事を何時だって考えていたんだ。」
「お父様・・・」

 お父様が上を見上げながら言った。遠い目で秋の空を見上げるお父様の目が少し煌めいていたのは、気のせいじゃない。結婚し、アリスと言う素敵な妻を迎えたから良く分かる。世界で一番お母様を愛していたのは、お父様なのだから・・・・
 暫く物思いにふけっていたが、視線を元に戻すといつもの厳格だけど優しいお父様がそこに居た。そして、軽やかな口調で

「浴衣を取りに来たのは、明日の縁日に合わせたからだな。ちなみに、ウチも店出すから、是非寄って行ってくれ。」
「お義父様、どんなお店を出されるのですか?」
「おお、アリスさん。よく聞いてくれた・・・霧雨屋は道具の出張販売所ともう一つ出し物があるんだよ・・・今、ウチの丁稚達に準備させているんだがな。付いて来い。」

 ふふふと商売人の不敵な顔になるお父様、そのままそっと店の軒先まで付いて行くと、そこには何やら見かけない道具が置いてあった。材質は鉄である事は見ただけで分かったがそれ以上は分からない。機械に強いにとりなら何らかの結論を出すのかもしれないけど・・・とりあえずお父様に聞いてみる事にする。

「何に使う道具なんだ、お父様。」
「ふふふ、これはなぁ、真夢!」
「はい、ご主人様!こちらにおります!!」
「お米の装填は済んでいるかな。」
「はい、何時でも稼働させられる状態です。」
「結構、この道具のパワーを見せてあげなさい。」
「畏まりましたぁ。ぽちっとな。」

 私とアリス、それにその辺に居た丁稚やヤジ馬に見守られながらボタンを押すと、真ん中の丸い密閉された鉄の塊がぐーるぐると回転を始める。お父様がしきりにその片方の端に付いているメーターのような物を気にしている。

「圧力が10気圧になったら頃合いだな・・・籠は大丈夫かね?」
「はい、既に装着済みです。」
「ようし、籠の方向にいる皆を避難させてくれ。もしかすると、爆発するかもしれんからなー」

 言うか言わずか籠の方にいる野次馬を丁稚達が避難させていた。野次馬が居なくなった後、お父様が真夢から渡されたハンマーを機械に撃ちつけた。
 ポンっという耳をつんざく音と共にもうもうと煙が当たりに立ち込める。

「わっ、凄い煙だ!」
「あ、でもこの煙・・・凄く良い匂いだわ。」
「・・・ホントだ。すげー旨そうな匂いがするんだぜ。」

 煙が晴れて、籠の中には白いお米が膨らんだような物がたっぷりと入っていた。匂いはここから漂ってくる。香ばしい、未だかって嗅いだ事の無い美味しそうな匂いを充満させた機械を指差したお父様は、高らかにこう宣言してきた。

「ふふ、これぞ文献をヒントに開発した・・・霧雨屋謹製のポン菓子マシーンだ!」

 お父様は道具屋を営んでいるのもあって、こうした珍しい物への造詣が深い。しかも、文献等があれば、その知識を生かしてこうしてにとりのように道具を作り出してしまうのである。

「後は水あめをかけたら完成だ。真夢、やってくれるか?」
「はい。」

 さささっと、ポン菓子の入った籠を持って店に引っ込む真夢。一番最後に入った丁稚なので、何でも先輩たちより率先してやらなくてはならないのが霧雨屋のしきたりであるが、それでも嫌な顔一つせずに何でもこなしている彼女。
 仕事では非常に厳しい側面を見せる事があるあのお父様も、あれだけ可愛がってると言う事はよく仕事も出来るのだろう。そんな風に思いながら、アリスとポン菓子の完成を待っていると、霧雨屋の先に置いている大きな招き猫の後ろで脅えて小さくなっている白い塊が見えた。その塊の上にちょこんと乗っている帽子には見覚えがあったので、私はその持ち主の名前を言ってやった。

「・・・おい、布都、何で震えているんだ?オーバー過ぎるぞ。」
「えっ?ば、爆発するかもと聞いたので咄嗟に身を守っただけなのだが・・・な、なんとも無かったのか?」
「ある訳無いじゃないか、お菓子を作っていただけなんだぜ?」
「そ、そうか。大丈夫なのだな!これは情けない所を見せてしまった!!」
 
 物部布都、今回の霊廟の異変で知り合った(自称)道士である。出会った直後にいきなり勘違いをかましたりするユニークな発想の持ち主だ。そんな布都は、目にも止まらぬ速さで何時もの余裕さを取り戻し、私達を見て来た。

「まぁ・・・その程度の爆発でどうにかなるほど、私は軟ではないがな。」
「いや、アンタ、その割には脅えてたじゃん。」
「そ、それはだ、やはり爆発となれば身構えるのは当たり前ではないのかな。アリス。」
「私なんて、しょっちゅう人形を大量に爆発させてるし、妻の魔法も爆発したりするのが多いから、どって事無いわよ。」
「爆発をどって事無いと申すか、流石は9色の魔法使い婦々・・・恐るべし。」

 その布都とアリスのコメントを聞きながら私は頭を掻いた。アリスも盛大に人形を爆発させるが、それ以上に私の魔法は爆発を伴う物が多い。まぁ、婦々揃って爆発させまくる物なので、すっかり爆発に対する体制が出来ているのが今の私達である。
 布都は立ち上がりポン菓子マシーンを興味深そうな面持ちで眺めていたが、そんな布都を呼ぶ声が一つ。

「あっ、物部のふーちゃんじゃない。」

 水飴をからめ終わった真夢である。その呼び方は長年来の友人を呼ぶような親しさすら感じるものであった。その呼ばれ方をした布都は顔を真っ赤にして、恥ずかしさをあらわにしながら。

「ええい、真夢、皆の前でそのような呼び方をするな!!むず痒いではないか。」
「ええやーん、友達やからかまへんやーん。」

 普段私達に喋る丁寧語では無く、彼女の地が現れている喋り方である。陽気で人懐っこい彼女らしい喋り方だ。この真夢と布都は私と出会う前に親交があったのであろうか、ちょっと気になった私は訪ねてみる事にした。

「あ、真夢、彼女と親しいのか?」
「良く呑みに行ったりしますよ。親しみを込めて、あのように呼ばせて貰ってます。」

 呑み仲間ときたか。命蓮寺に弾幕修業に行ったりしてるのも加味すると、順調に真夢も馴染んでいる事が良く分かる。布都も、どんどん幻想郷に馴染んでいるみたいである事も分かった。

「まぁ、太子様の教えを熱心に聞いていたのが縁で一緒に呑んだりしているだけなのだ。まぁ・・・太子様が復活して間もない頃からの付き合いではあるんだがな。」
「ほうほう。友達は良いもんだぜ。仲良くやれよー」
「分かってますよ、一緒にお酒呑むの、楽しいですから。」
「無論、そのつもりだ。だが、ふーちゃんは止めてくれ・・・」
「気が向いたらやめるから・・・」

 と、言いかけて真夢はお父様の視線に気が付いた。待たせた格好になるため、少しだけ怒りの色が見える。だが、それを頭ごなしにしかり飛ばすような事はしない。
 その雰囲気から、何が言いたいか察知した真夢は頭を下げた。

「す、済みません。ご主人様。」
「うむ・・・仲が良いのは喜ばしいが、仕事はちゃんと出来てるかね?」
「はい、出来ましたよー。ご主人様、味見を。」
「おお、ありがとう・・・では」

 完成したポン菓子を一口食べるお父様、暫くもむもむとそれを噛みしめていたが、しばらくして、カッと目を見開いた。そして、暫くの為の後、周囲の野次馬達にもちゃんと分かるような勢いのある声を出した。

「うーまーいーぞー!!」

 横でまたしても布都がビクッとしていたが、流石に今度は隠れたりしない。腰を抜かしそうであったのは間違いないが。
 何時もの威厳ある雰囲気に戻ったお父様は、ポン菓子の入った容器を丁稚が用意したテーブルに置いてから、大きな声を張り上げた。

「ささ、皆様もどうぞ!!子供達は先に並ぶんだ!!」

 お父様の太っ腹には野次馬達も大喜び、お父様の指示通りに親子連れの野次馬達が先頭に並び、丁稚や真夢らがポン菓子を袋の中に詰めた物をどんどん渡して行く。ホクホクの顔で貰った野次馬達はそのポン菓子を口に運んでは口々に美味しいと言ってくれている。

「明後日の大縁日では色々種類も用意しておきますし、出張道具屋も出しております。霧雨屋に是非ともお越し下さい・・・!」

 渡した人へちゃんと売り込むのも忘れないのが商売人といった所か。かなりのやり手である事は今の霧雨屋の規模を見れば一目瞭然である。丁稚達がテキパキと働いて、どんどん親子連れの人達にポン菓子を渡して行く、渡された子供達はポン菓子を口にしては口々に美味しい等と言っている微笑ましい光景が広がっている。
 親子連れの最後尾より僅かに距離を置いて、私とアリス、そしてそわそわしている布都とその光景を見ながら、こう言うのどかで平和な世界が一番だなぁと思いながら順番を待った。幸い、順番が回ってくるのにはそんなに時間がかからなかった。

「ささ、魔理沙お嬢様、アリスお嬢様。これを・・・」

 真夢の差し出したカラフルな袋にびっちりと入ったポン菓子を受け取った私達は、そのままそれを口に運ぶ。水飴の甘い味とお米の軽い感じの味が絶妙に交じりあった味が口の中に広がっていった。

「あまーい!これは美味しいんだぜ。」
「ホントだわ、始めて食べる味ね。」

 そう言ってアリスは美味しそうにポン菓子をどんどん口に運んでゆく。気にいったようだ。私も気に行ったので、アリスに負けじと口に運ぶ。甘さとサクッとした食感を楽しんでいた時に、私はふと、いつものように食べさせあってみるのも良いかなと思いだす。
 思い立ったら、即行動!私はアリスに擦り寄りながらちょっとだけ乙女な声を出してお願いをしてみた。

「うーん、こんな形状だとついついアレをお願いしたくなるんだぜ・・・」
「えっ、でも・・・皆が見てるわよ?」
「むぅ、私達が愛し合ってるのは承知の事実だから良いだろー」
「確かにそうだけど、見られてるのは・・・恥ずかしいわ。」
「ほう、見られて無かったら良いのか。じゃあ、浴衣の置いてある場所に戻ろう。そこなら・・・な。」
「んもぅ、しょうがないわね。」

 ありがと、と短く返して私達はそっと腕を組む。手はポン菓子で塞がっている上に水飴のせいで少し手がべたついている故の措置である。手を繋ぐのとはまた違った充足感とアリスへの愛を感じながら、私達はこっそりと来た時と同じ道を通って店の奥へと向かった。

「これは・・・美味い。こんなお菓子、長く生きて来たが始めての味だ。」
「何でも、外の世界ではありふれたモンらしいけど。幻想郷では、多分ウチが始めて復元に成功したんじゃないかな。喜んで頂けたのなら、何よりだ。」
「我が外の世界に居た時にはそのような物は無かったな・・・」
「道具や技術は進歩してるのさ。いつだってね。」
「太子様達の分も貰っても良いだろうか。きっとお喜びになるだろう。」
「まだ沢山ある、今並んでいる皆に行きわたってからになるが、持って帰るといい。」
「ありがたき幸せ。」

 そんな布都とお父様の会話を後目に、浴衣を置いてあった場所に戻ってからアリスとポン菓子を仲好く食べさせあいっこしながら、アリスとの楽しい一時を満喫したのだった。


ミ☆


「やっぱり箒が無いと変なんだぜー」
「でもいいじゃない、手を繋いで空を飛べるから。」
「その点は良いんだけどなぁー。縁日で邪魔になるよりはいいかー」

 大縁日当日、秋の夕暮れを背に受けて浴衣姿の私と魔理沙は並んで空を飛んでいた。今日は魔理沙も箒無しでの飛行をしている。箒を持ったままだと、何か買ったりした場合手を繋げなくなるからと言う理由で、魔理沙は箒を置いてきたのだ。繋いだ手から伝わる温もりは、どんな物よりも暖かく、組んだ腕から伝わるのは優しい熱。
 そして秋の空気を一杯に吸い込んだ時に、私は先ほどから気になっている点を呟いた。

「ちょっと、胸元がきついかも・・・」
「むむぅ・・・アリス、それは言っちゃいけないんだぜ。」

 原因はお下がりの浴衣である。魔理沙と私の背丈はほぼ一緒だったのではあるが、胸回りだけは別問題。魔理沙がうらやむそれの事があんまり考慮されていなかったのである。魔理沙の視線が気にはなるが、こればっかりはお母さんに感謝するしかあるまい。

「しかし、アリスのは羨ましいな。私も追い付きたいぜ。」
「でも、肩こりと戦うハメになるわよ。それでも良いの?」
「それでもだ。アリスのようなふかふかのバストは憧れるんだよぉ・・・ゆくゆくはアリスに私のふかふかのバストを堪能してほしいんだぜ。」

 そこで溜息を一つ。別に魔理沙の胸が大きかろうが小さかろうが、私は魔理沙を心から愛しているし、今のままでも十分に魅力的だと思う。でも、女の子と言うのは例外無く、好きな子の前では可愛くありたいのも分かるし、私だってそうだから魔理沙の気持ちもちゃんと分かる。
 その上で、私は魔理沙の胸に頬を刷り寄せながら私はこう返してあげるのだ。

「とっても可愛いから・・・今のままで大丈夫よ。」
「あ、アリス?」
「うん、この感触。私・・・好きよ。」
「・・・アリスのばか。」

 真っ赤になって黙りこくる魔理沙。そのまま暫く甘いムードの中で飛んでいたが、やがて命蓮寺が視界に入る。広い境内の中には沢山の提灯が灯り、境内付近にステージが設けられており、その周りを大小様々なお店が埋めていると言った感じ。今年は出店店舗も多いようで、寺の参道付近にも店が立ち並んでいる。
 参道に立ち並ぶ店の最後尾を確認した私達は、ゆっくりと高度を落として地に足を付ける。子供達が我先に屋台に向かって走っていく姿や、色んな人妖が種族の垣根を越えて談笑している姿も見えた。

「うーむ、盛り上がってるなぁ。テンション上がってくるぜ。」
「年に一度の第縁日だもんね。こういう賑やかさは華があって好きだわ。」
「弾幕花火までにはまだ時間があるから、今のうちに色々見ておこうぜ。」
「賛成、さぁ、行きましょう。一緒にね。」
「おう、分かってるんだぜー」

 着地はしても繋いだ手はそのままで、私達はお店の物色を始める。爆ぜる脂の音や、綿飴作りの余波であろうザラメの焦げた香り等が、私の記憶の中にある食欲を刺激し、何か食べたいという反応となって脳にフィードバックされる。フィードバックされた情報は、カラダ中を駆け巡っていき・・・

 ぐう、とお腹の音が鳴った。

「アリス、珍しいな。お腹が空いたのか?」
「え、ええ。これだけ美味しそうな匂いを出してたら、つい、ね。」
「奇遇だな、私も同じだ。遊ぶのは後回しにして、先にご飯にしようぜ。」

 ヨーヨー釣りや金魚すくいの店などもあるが、まずは何か一緒に食べてお酒でもと思った私は食べ物の出店を中心に狙いを定める。どれも魅力的で目移りしてしまいそうな私と魔理沙であったのだが、そこで、知った声を聞いた。

「お腹が空いてるのなら、うちにおいでよ。」

 焼き鳥・鳳凰天翔と銘打たれた非常にハイセンスな看板を付けた屋台から香ばしい墨の香りと焼き鳥の香りを漂わせながら、妹紅が顔を出した。それを見た魔理沙は、おぉと一回言ってから返事をする。

「よぉ、妹紅?お前も店を出していたのか?」
「ああ、健康マニアの焼き鳥屋だからねぇ。たまにはこうして皆に振る舞ってみたいと思うんだよ。」

 熱源の近くに居るのにも関わらず汗一つ書いていない紅妹は、ねじり鉢巻きを締め直した。後ろで結った長い白の髪が普段と違う印象を与える。居酒屋のマスターのような風体の妹紅は気風の良い声を出して、私達に注文を促して来た。

「さぁ、恋色の魔法婦々さん。好きなのをどうぞ。安くしとくよ。」
「ようし、じゃあ・・・アリスから言ってくれ。」
「じゃあ私はささみと皮とつくねを二本ずつ貰おうかしら。あ、皮は塩でね。」
「アリスはそれで行くのか、じゃあ私は、ネギももとぽんじりと砂ずりな。ネギももだけタレで頼む。」
「あいよっ!」

 二本ずつ言うのは、お互いに半分こするためである。同じ味が続くのも勿体ないし、こうやって分け合うのも楽しい事なのだ。白く燃えた炭が煌々と熱を放ち、周囲を歪めている。ふと、近くにあったミスティアの屋台から謎の視線が送られていた事に気が付いた。 
 恐らく焼き鳥という店の形態に鳥の妖怪である彼女は抗議しているのだろう。だが、悲しきかな今日は大縁日。弾幕っこは御法度である。まぁ彼女も見てみれば、ヤツメウナギを始め、新鮮な魚を中心としたラインナップの炉端焼き屋さんの出店なので魚の妖怪にからまれる可能性があるから、どっこいどっこいと言った所か。
 そして最愛の魔理沙に視線を戻す。魔理沙はというと、上に掲げられた看板を見て溜息を漏らしていた。

「すげぇぞ、この看板。色遣いとかに独特のいいセンスを感じるんだぜ。」
「ハイセンスねぇ。だれが描いたのかしら?」
「これは自画だよ。」

 揺らめく蜃気楼の向こうで妹紅が微笑みながら言った。その辺の絵描きにも負けない実に見事な看板を描いた事に私はただただ感心するばかり。

「へぇ、妹紅にそんな趣味があったなんて。ちょっと意外ね。」
「長生きしてると、色々と趣味は増える物さ。ささ、焼けたよ、たんとお上がり。」
「「いただきまーす」」

 タレの香りが香ばしいが、敢えて私は先に塩だけで味を付けた皮の焼き鳥を一本口に運ぶ。口の中に甘い脂と肉汁のうまみが舌の上に広がる。これは、とっても美味しい・・・!

「あぁ、美味しい!パリパリの食感がたまらないわ。」
「おう、このぽんじりも美味いぞアリス、こいつはたまんねぇな!」
「お酒が欲しくなるわね。妹紅、ここのお店にはお酒は無いの。」
「ごめん、うちは焼き鳥だけなんだ。」
「残念、どっかで売ってねぇかなぁ。」

 魔理沙が少し辺りを見回した時の事である。私の横にしずしずと上品な佇まいで迫る見慣れた人の姿が見えたので、ちらとそちらを見る。見つけられた人はニッと笑ってこちらに話しかけて来た。

「はい、恋色の魔法婦々はっけーん。」
「よぉ、輝夜じゃないか。今日は引きこもってないんだな。」
「引きこもる原因もないのに、今日と言う大縁日の日に引きこもるなんて勿体ないわ。」
「それは結構、で、他のみんなは?」
「お寺の中で射的屋やってたり、救護班で活動してるわ。私も手伝おうとしたけど、姫様はお祭りを楽しむべきだって言って来てさぁ。別に気を使う必要なんてないのに~」

 元気も良い。ついつい境遇から引きこもりがちのように思われがちだが、実際には全くそんな事は無い。催し物を開催する回数は、レミリアに負けるとも劣らない位である。
 ただ、年季の違いか、レミリア程催し物の内容に突拍子さが無い点が大きく異なる。上品な笑顔を見せながら、気品のある仕草でそっと手を私達に向けて来た。

「まぁ、まずは一渾。そこで買った人里の酒造が作ったお酒で悪いけどねー」

 手には酒と書かれたひょうたんと竹のコップが握られている。人里の物だと言うが、全然悪くはない。私達は輝夜の差し出すコップを受け取り、お酒を入れて貰った。

「ナイスタイミングね。頂くわ。」
「いいおつまみには良い酒が必要なのよ。それは昔も今も変わらない事。」
「だな、輝夜。じゃあ、かんぱーい。」

 乾杯、杯を乾かす、その名の通りグイッと一気に呑んでみる。程良い口当たりで呑みやすく、アルコールが身体の中に広がっていく。私は魔法使いであるため、人間である魔理沙ほど早くは酔わないが、少し身体の芯があったまったような気がする。アルコールによるこの心地良い感覚はまぁ・・・ざっくばらんに言うと、魔理沙に抱かれてるみたいな感じにも似てる。
 
「うん、美味しいわ。」
「あぁ、五臓六腑に染みわたるんだぜ。」
「善哉、善哉。じゃあ、私も何か・・・」

 そう言いかけると、妹紅が大きく身を乗り出して来た。元々この二人には凄まじい因縁があると聞いていたのだが、最近では仲好くじゃれているようにしか見えなかったりするのが現状である。暫くなめ付けるように輝夜を見てから、妹紅は。

「か、輝夜!お前は、そこで焼きたての魚でも食べてろよー」
「えー、やだ。私だって妹紅の焼き鳥食べたーい。」
「お前はガキか!?蓬莱人の名が泣くぞ!」
「何とでも言いなさい。それとも、私を満足させられる焼き鳥を焼く自信がないの?」
「言ったな!見ているがいい、食べた途端に美味さで一回死んでリザレクションするような奴を拵えてやるぞ・・・!」
「へぇ、見せてごらんなさい。蓬莱人を殺す、焼き鳥とやらを。」

 口論に発展するも、当初のような派手な永久に決着の付かない殺し合いをする事は無い。だが、妹紅は黙々ととてつもなく長く大きな焼き鳥を焼きはじめている。私達は焼き鳥を折半しながら、やいのやいの

「・・・この二人、仲が良いのか悪いのか分からないんだぜ。」
「喧嘩するほど仲が良いって言うけどね。あ、火出した。」
「あの火力で焼くのか?消し炭にならなきゃいいが・・・」
「大丈夫さ、炎のコントロールはちゃんとやってる。消し炭食わす程、私は非道な女じゃないのさ。」

 妹紅の能力である、火を起こす能力もフル活用されて大きな焼き鳥の櫛が一瞬で上手に焼ける様は見ていてただただ凄いとしか言えない。その長さは軽く魔理沙の箒位はあるだろうかという焼きたての焼き鳥にたっぷりのタレをかけると、そこら中の人が振り向く食欲をそそる香りを放ち始めた。だが、それに反して当の輝夜は唖然としているのみ。

「名付けて、フジヤマスペシャルだ。さぁ、食べてみろ。」
「え、でも、これ凄く大きい・・・わよ?」

 大きさを指摘するも、喧嘩を売ったのは輝夜の方だ。怯む輝夜の顔を掴んだ妹紅は何とも言えない優しい笑みを浮かべながら、輝夜の口を開かせてからおもむろに焼き鳥を近付けて行く。

「・・・私のスペシャル焼きが食えないのなら、無理やりにでも食わす!!」
「らめぇ、そんなに大きいの入らないのぉおおおおお!こわれちゃうのおぉおおおおお!!」
「・・・・出ようか、アリス。美味かったが、あれは二人だけの世界でさせてあげよう。」
「そうね、でも良い子への影響が気になる所だわ・・・他の店で何か食べましょ。」
「だな、会計、ここ置いておくぞー」
「ありがとー、魔理沙、アリス」
「いとわろしー!!」

 年代物の口調で放たれる、輝夜の断末魔の悲鳴を聞きながら私達はお会計を置いて、店を立つ。焼き鳥だけでは物足りないと感じた腹ごしらえの続きを行うため、私達はあちこち物色したり、適当に食べ物を買ったりしながら命蓮寺の方へと歩いてゆく。
 命蓮寺の門を潜ると、境内の奥にステージが見え、既にプリズムリバー三姉妹のライブが開催されているのか凄く盛り上がっている。やはりお祭りはこうでなくてはならない。
 その熱気に負けじと盛り上がる出店も見ていて非常に心地良く、普段は静かな方が好きな私でも、今日はこれでいいかなぁとも思う。
 しっかり手を繋いで魔理沙と二人で練り歩いていると、またしても知った顔に呼びとめられた。

「ほうとう、ほうとうは如何ですかー!?あ、魔理沙にアリス、遠慮はいりません、是非是非見て行ってください。」
「し、星?おまえ、宝塔を売るつもりなのか。」
「はい。ほうとう屋ですから。」

 何と言う事だ、あれだけ大事そうにしていた宝塔を売るというのか。いっつも探しに駆り出されるナズーリンはどんな思いなのだろうか・・・私はその疑問を引きずったまま店の中を覗くと・・・そのナズーリンが大きな釜を前にして何かを網で掬っていた。

「宝塔じゃないよ・・・ここは、ほうとうと言う麺を売る店だ。」
「なるほど、【ほうとう】違いなのね。あんなに大切にしていた宝塔を売ると聞いてびっくりしたわ。」
「小傘のような能力を身に付けた覚えは無いが・・・だが、どうだい、こんなに平たい麺は始めてだろう?」
「うどんとはまた違うようだな。これは中々うまそうじゃないか。ナズーリン、私とアリスの分、二杯くれ。」
「毎度あり、すぐによそってあげるよ。」

 ナズーリンがほうとうを容器に入れて、横で似ていたお味噌の香りが素晴らしいスープを注げばあっという間にほうとうの完成、注がれたほうとうとおはしを星経由で受け取った私は、その細長い麺に唇を寄せる。
 すると、横で豪快にズルズルっと言うすする音がした。

「やだ、魔理沙。品が無いわよ。」
「ひぃじゃにゃいか!(良いじゃないか)みぇんはきょうしてきゅうにかぎる(麺はこうして食うに限る。)」
「んもぅ。」

 そんな魔理沙から視線を外して私はそっと麺を口の中に入れた。平たい麺によく味噌がからみ、甘く優しい野菜の味が口の中に広がっていく・・・非常に美味しい。

「あまーい」
「命蓮寺の畑で育ったかぼちゃやニンジンが入っている。」
「私達が愛情込めて育てたんですよー」
「そうそう、だから野菜の甘みだけじゃなくて愛の甘みもあるのかもしれないね・・・君たちのように。」
「ふふ、だが私達の愛の甘さにはどんな物も敵わないんだぜ?この野菜の甘さなんて目じゃないぜ。」

 魔理沙が堂々と言う横で、少し頬を赤らめながら照れ隠しに私も麺をすすってみる。麺の心地良い喉越しを感じる。成程、魔理沙はこれを味わっていたんだ。
 でも、あんまり大きな音を立てるのも少し恥ずかしいので、それなりの音に留めて私は麺をゆっくりとすする。
 そうしていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。

「相変わらず仲が宜しいですねぇ。」
「あら、白蓮じゃない。今日は浴衣なのね」
「ええ、折角ですのでしっかり決めさせて貰いましたわ。」

 独特のグラデーションに彩られた髪を後ろで結った白蓮がそこに居た。全てを包みこむような慈愛に満ちた表情は、ここ命蓮寺の人妖達の心のよりどころの一つである。その優しい声に魔理沙とナズーリンと星も思わず顔を向けた。

「聖。お疲れ様です、村紗のカレー屋も流行ってますか?」
「ええ、繁盛してるわよ。村紗のカレーは絶品ですものねぇ。」

 村紗達がやっているというカレーの屋台の話をしながら、私はほうとうのスープを飲みほした。少し遅れて魔理沙もほうとうを感触し、空になった容器を積んでそっと星に返してあげた。
麺類で十分にお腹に溜まった私と魔理沙はほうと溜息をついて、美味しい物を食べられた事に感謝しつつ、提灯の明かりに彩られた秋の夜の薄闇の空を仰いだ。
 ますますヒートアップする祭りの喧騒、幻想郷の各地から集まったのであろうか老若男女問わず色んな種族が堂々と闊歩し、思い思いに楽しんでいるのが聞こえる声だけでも分かる。
 視線を落として肩を寄せてくっつく私と魔理沙であったが、それを見た白蓮はどこか達観したような表情でこちらを見、それから天を仰いでから私達にこう語りかけて来た。

「しかし、本当に仲睦まじいですねぇ。」
「ああ、私はアリスの事、世界で一番愛してるもんなぁ。」
「ありがと、魔理沙。私もよ。」

 ちょっと恥ずかしかったけど、嘘を言っている訳じゃない。結婚して、夏の旅行を終えて、恋色に彩られた素敵な婦々生活を過ごし、順調に愛を育んでいる。世界で一番愛してるという言葉一つに、今の私達のあり方が凝縮されているのだ。
 ニコニコと微笑む白蓮であったが、次に放った言葉が私達を激しく動揺させた。

「先日の新聞でも見たのですけど・・・お子さんの顔が楽しみですね。私もあの生命創造の魔法に付いては知っているのですが、本当に実現させるなんて・・・・・」
「「!?」」

 まぁ、生命創造の魔法を使っている事自体が周知の事実である事はさして問題ではない。どうせ子供が出来たら、それは早かれ遅かれオープンになる事である。だが、白蓮が生命創造の魔法に付いて知っている事が意外だった訳で。

「び、白蓮もあの魔法を知っているのか?」
「ええ、使った事はありませんけどね。魔法使いの女性同士でないと意味を成さないと言う制約がありますので。」
「そ、そこまで知っているのね・・・」

 私達では普通のように使っているが、この生命創造の魔法には色々と制約がある。魔法使いの女性同士で無いと使えないと言うのは、発動には高度にリンクした二人の魔力が必要である事と、男性には女性のようにお腹で子供を育てる事が出来ないからである。
 それに、もう一つ・・・この魔法には問題があった。

「お子さん・・・とはいっても、女の子しか生まれないらしいからね。遺伝とか何とかの関係で。」
「その点だけは少しだけ残念だぜー。」

 魔導書の冒頭にも記されていたが、女性同士で結ばれる関係上、女性しか生まれない。遺伝上の問題で、男性か女性かを決める染色体は男系遺伝であるから故の事である。
 つまり、女性同士でそれを交換しても女性になる組み合わせしか出来ないからこのような事になるのである。
 それでも、私達の全てを受け継いで生まれてくる子供なのだ。これ以上に愛しい物があるだろうか・・・そんな事を考えていると、嬉しそうな表情をした白蓮は、うんうんと頷きながら話を続けて来た。

「でも、二人の子供でしたらきっと素敵な娘になりますわ。」
「するのよ。ちゃんと魔法使いとしての生き方と、人としての生き方を教えて、立派な魔法使いに・・・二人で育てて行くつもりだから。」
「ああ、9色を・・・恋色の魔法を受け継ぐ魔法使いの名に恥じない子供を・・・・私達は育てていくつもりなんだぜ。」
「私も長く生きて見て来ましたが、子育ては大変な事です・・・その大変さ故に、途中でそれを放棄し、お寺の前に泣き叫ぶ子を置いて去っていったのも見た事があります。」

 長く生きて来た故の事なのであろうか、その一言がとても重かった。私も言いようのない不安に駆られてしまう、子供を持ち育てるのは大変な事だと言う事が、まだ未経験ではあるが私のココロに重くのしかかる。
 不安そうな顔をしていると、魔理沙がポンポンと肩を叩いてきた。
 表情を見ると、僅かに不安そうだったけど、その奥には何時もの、絶対に何かをやり遂げ、そして完遂させる自信に満ちた表情があった。
 ハッとした。そうだ、どんなに困難な事があったとしても、今の私は独りじゃない。全てを分かち合える最愛の伴侶がいる。不安かもしれない、でも、それを払いのける確証もある。
 だから私は、魔理沙の手をそっと掴んだ。そして、白蓮に対してこう答える。

―私達には、不可能を可能にする、恋色の魔法があるから大丈夫。と

 喰らいボムのようなジャスト判定で放たれた私達の決意のセリフ。そのセリフは、一瞬だけ時間を止めた。
静かに頷き目元をハンカチで抑える白蓮、ナズーリンは頬を赤らめ必死に鍋をかき回しているし、横で星がお客様に渡すほうとうを手元に在るにも関わらず、どこどこ?と言う等、周囲がなんか凄い事になっている。
その事に恥ずかしくなった私達は、素早く目配せをしてここを立ち去る事で意見が一致。白蓮の方を向いて、別れの挨拶を切り出した。

「じ、じゃあ、私達はまだ色々回るから、今はここで。」
「あ、後で弾幕花火打ち上げるから、楽しみにしててくれよ。」
「ええ、お待ちしておりますわ。頑張って下さい、恋色の魔法使いさん・・・・」

ぺこりと礼をする白蓮に見送られ、私と魔理沙は足早に店を離れる。繋いだ手は、ほうとうによって暖まったのか、それともお互いのお互いを想う気持ちで温かくなったのか、はたまた、さっきの話で恥ずかしくなってかぁあとしちゃったのか定かでは無かったが、魔理沙の手はとても優しい温もりを持っていた。


ミ☆


「ああ、色々食べられて良かったぜ。」
「ホント、お祭り様々ね。ポン菓子、食べる?」
「いや、後で食べるよ。沢山食べてお腹一杯だぜー」

 白蓮と別れてからも、色々食べて呑んでしてすっかり良い気分の私達は腕を組んで練り歩いていたが、不意にアリスが頬を二の腕にすりつけながら言ってきた。その仕草が余りにも可愛くって、ついつい頬をつついてしまいそうになるがここでは我慢。
周囲の視線も気にせずに練り歩いていると、鈴仙達がやってる射的屋で三人組の見知った顔が、仲良く遊んでいるのを見かけた。

「太子様、お見事です。」
「偶然ですよ、布都もきっと上手く行くはずです。」
「分かりました、やってみます!」
「あれは・・・布都達だ。」
「あらホント、しかもヨーヨに金魚、あ、お面まで付けてる。」
「さしずめフルアーマー豪族とでも言った所かな。」

 お祭りを満喫していた名残であろうか、お面を頭にかけて、ヨーヨーやら色んな物を持ったまま射的に夢中になっている。
 真剣な眼差しで狙いを付ける布都を見ていると、ちょっとだけ悪戯心が芽生えて来たので、私は・・・真夢が彼女に対して言った、あの呼び方をしてみた。

「よっ、物部のふーちゃん!」
「なっ!?」

 パシンと言う金属音、空しく風を切り壁に当たって、ぽとりと落ちるコルクの弾丸。掴みはオッケー、中々に効果がある。真夢がどんな発想でふーちゃんと呼ぶようになったかは知る由もないが、なかなかに可愛い呼び方である。

「ま、魔理沙、お主のせいで手元が狂ったではないか・・・!」

わなわなと震える布都であったが、神子は落ち着きはらったままでこうなだめる。

「まぁまぁ、良いじゃないの。人に愛称で呼ばれるのは好かれている証拠じゃ。」
「ま、まぁそうであると良いのですが。」
「可愛くて良いと思うよ!ふーちゃん!」
「屠自古まで・・・あぁ・・・・・・」

 ふーちゃんの大連呼。本人の可愛さも相まって、可愛らしい感じがするこの呼び方。だが当の布都はぷくぅと頬を膨らませている。
 
「真夢のネーミングセンスには脱帽だぜ。」
「・・・うるさい。」

 ぽつりと呟いた後、銃を静かに置いて少しの間目を閉じて、空を見上げる。朧月が姿を見せ、夜も良い感じに更けて来ている空に浮かぶ星を見つめてから、私とアリスに。

「こうやって下の名前を呼び捨てで太子様達以外の物に呼ばれるなんていつ位ぶりだろうか。外の世界では、ずっと我々は様付けで呼ばれていたからのう・・・不思議な気分じゃ」

 布都達が眠りに付く前は、高貴な身分である事は異変解決後、パチュリーの図書館で調べてみて分かった。だが、現在の幻想郷にかような身分という制度は無く、全ての種族が気のままに暮らしている自由な世界。
 まだ、こちらにきて日も浅いから慣れて無くても仕方が無い、そう思った私は布都に。

「まぁ、その内に慣れると思うんだぜ。この世界は、身分とかそんなのは一切ない世界なんだ。愛があれば種族を越えて私達のように結婚できるし、家族同然の仲であれば、神と人が同じテーブルを囲んで食事をしたりできる世界だ。この世界は、自由なんだよ。」
「そうか・・・自由なのか。我々も、かつての身分に縛られずに好きに生きて良いと言う事なのか?」
「ええ、幻想郷の秩序を守っているうちは大丈夫じゃないかしら。妖怪を絶滅させようとしちゃったりしない限りはー」
「それは大丈夫だ、アリス。真夢のように、人の助けになる妖怪もおる。無暗には退治などせぬわ。」
「なら大丈夫だぜ。」

 そう言うと、布都の表情が明るくなる。やっぱり、復活したてで、まだこの世界に慣れてない不安があったのだろう。そんな布都は、普段の愛嬌のあるドヤ顔に戻してから、私に対して。

「それはそうとして・・・からかう目的でふーちゃんと呼んだのは頂けない。魔理沙、我と勝負じゃ。」
「ようし、勝負なら受けて立つ・・・」

 と言いかけてアリスが手を引いた。そして首を横に振る。周囲を見渡し、すぐに私もその趣旨を理解した。縁日の真ん中で弾幕やったら、負傷者が出るかもしれないし、お祭り自体が台無しになる恐れがある。

「分かってくれた?」
「ああ、済まない、アリス。」

 縁日を台無しにせずに布都と勝負する方法を模索する。まぁ、後日スペルカード戦を挑みに行けば万事解決か・・・と思っていたら、神子が暫く射的の様子を眺めてからポンっと手を打った。

「じゃあこうしましょう。この射的で勝負をしなさい。これなら被害は出ないでしょ?」
「確かにそうですが、どうやって勝敗を決するのですか?」
「まずは当てたか否か、両者とも当てた場合は、その点数の大きさで勝負する。これでどうでしょうかね?」

 即興で定めた神子のルールは実に公平であった。現代に蘇る前に彼女が作った物とされるルールも当時としては公平性のある物であったらしい、その事を鑑みるに、やはり優秀な指導者だったんだなぁと改めて思う。
 その与えられたルールに納得した私は、アリスの方に目をやり、頷くのを見てから元気よく宣言した。

「望むところだぜ。鈴仙、銃と弾を貸してくれ。」
「はーい、頑張ってね。」

 私は鈴仙から受け取った銃にコルクの弾を込めた。そして、構える。いつもは億劫になってもおかしくない位弾を撃っているのに、媒体が魔法から銃に変わるだけでこうも気分が変わるとは・・・不思議な発見をした私は、所狭しと並んだ大小様々な標的のどれを狙うか慎重に検討を重ねる。
 と、言うのは・・・

「さぁさ、高得点目指して頑張るウサ~」

ニコニコと笑顔を向けるてゐ。あれは嘘を付いている時の笑みだな、私の女の勘がそう告げている。イカサマを平気で仕掛けて来そうなてゐの事だから、そう簡単には景品を取らせてくれないだろうと私は考えていた。

「・・・魔理沙が魔法に頼らない勝負って始めて見るわ。」
「そうねぇ。ついつい何かあったらスペルカードで決闘しちゃうけど、こんな戦い方もたまには面白いわね。」

 アリスと鈴仙が談笑している。普段なら、フツーに語りかけたりもするのだろうが今日はそうはいかない。弾幕じゃなくて、不慣れな射撃で勝負する事にしたため、やっぱり緊張だってするし、いつも以上に気も立っちゃうわけで。

「あぁ、もぅ、気が散るんだぜ!狙撃ってすっげーむずいんだぞー」
「あ、それ分かる。私も経験者だからねぇ。でも、相手は制止標的よ、何とかなるなる。」
「まぁ、弾幕なら制止標的ほど楽なもんは無いが射撃はなぁ・・・」
「大丈夫よ、魔理沙はありとあらゆるものの専門家でしょ。」
「おう、アリス。だけど、狙撃はめちゃ難しいんだぜ。手の震えとかもあるしな。」
「リラックスするのよ、あ、脇を締めた方がもっと安定するかもしれないわ。」

 私の脇を直そうとしたアリスの胸が私の右肩に当たった、チチチチチとグレイズ音が頭の中でしたけど、そのアリスの手ほどきのおかげで震えが止まり少しだけ緊張がほぐれた。 
銃の扱いは、かつて香霖堂に置いてあった銃の模型で何度か練習した事がある程度、息を吸ったり吐いたりするレベルで出せる魔法に比べると、銃は本当に不慣れである。
 だが、相手も条件は一緒のはず。布都達が居た時代の日本には、まだ銃は伝来していなかった筈だ。
私は、勇気を出して深呼吸をし、手の震えを押さえてから、最上段にあった一番点数の高い的・デフォルメ化された霊夢の頭の上に100と書かれた的に向けて、射撃を敢行する・・・!

「射撃はパワーだぜ、いけぇっ!!」

カチリと言う金属の摩擦音と、パンというばねの音と共に飛び出したコルクの弾丸、狙いすましたその一撃は・・・若干どころか大きく右にずれて、デフォルメ化された寝そべる可愛い輝夜が書かれた30点と書かれた的に命中してしまった。

「うわぁ、あんなに誤差が出るとは思わなかったぜ。」
「でも当たりは当たりじゃない。」
「でも魔法の方がよっぽど当てやすいんだぜ。レーザーは基本、真っすぐ飛ぶからな。」
「最近は曲がるレーザーも多いって聞いてるけどねー」
「ああ。全く、レーザーを曲げるなんて邪道なんだぜ。」

 最近の弾幕戦で繰り拡げられるへにょりと曲がるレーザーに対する講釈を交えつつ、弾丸を放った銃を撫でながら、布都の方を見る。当たりはしたが小さい物に命中してしまったため、万が一横の魔導書でも取ってしまえば、その段階で私の負けが確定してしまう。
布都はここがチャンスとばかりに気勢を上げてきた。

「ふふふ、お主。そんなに小さい点を取ってしまって慌てておるだろう。」
「まぁ、当たらない事にはどうとも言えんがな。」
「見ておれ、我の射的術を・・・!」

布都は前を向き、しっかりと照準を見据える。そしておもむろに銃を的に向けたのだがだが、その姿が、弓矢を番えるかのようで実にユニークであった。
私は、思わず吹きそうになった。あのチルノでもやりそうにないような事を真顔でやってのける布都に私は、合いの手を入れる。

「布都、お前、なんか構えが可笑しいぞ。弓でも射る気か?」
「可笑しくとも、私の狙いは完璧だ。太子様、あの耳当てを・・・」
「集中するのね、頑張るのよ。」

耳栓まで付ける拘りとフォームの可笑さのコントラストが実に笑いを誘う。だが、布都の言う通り、ちゃんと当てられたらフォームなんてどうでも良い物である。それに・・・

「まぁ、ショーで観客を魅せるためにやるような曲撃ちの一種だと思えば。私もそう言うの、見た事あるし。」

 そういった事に詳しい、元・月の軍人である鈴仙の発言。成程、弾を撃つ時の姿勢でも相手を相手を魅了するという考え方があるのかなぁ。そんな事を考えながら、様子を見ていると、狙いが付いたのか布都はぴたっと銃を止め、トリガーを引いた。
 
「これは・・・手応えあり!」

 自信たっぷりの布都が放った弾は、霊夢をデフォルメ化した100点の的を正確に捕えていた・・・筈だった、だが・・・・

―おお、こわいこわい!

 霊夢型の的がそんな吹き出しを出してぽいんと音を立てて左に倒れる。その余りにシュールな光景に思わず吹いてしまった。

「ふふ、これぞ今日の日の為に用意した、河城工房謹製・移動標的れいむちゃん・タイプYウサ!」
「こ、こらー!てゐ!!なんてものを仕込んだの?」
「高得点の的にはアクシデントはつきものウサ。」

 抗議する鈴仙にしれっと言い切るてゐ。まぁ、これがてゐなりのジョークである事を良く知っている私達は、別に何とも思わないのであるが、まだこちらに来て日の浅い布都達はこの冗談を理解できなかったようである。

「唐突に動く的など卑怯なり!」

 布都がそう言うと、後ろで神子がうんうんと頷いた。まぁ、聖人に列挙されるだけの人物に、かようなズルをすればどうなるかなんて言わなくても分かる。てゐを取り囲んだ布都達は、口々にらしさを出したセリフをのたまった。

「たわむれは終わりじゃ!この者に我々が説法をして差し上げましょう。」
「ふふ、お主、そんなに怖がらなくても良いぞ。神子様の教えはきっと、素晴らしいものだからなぁ。」
「たっぷりと礼儀をおしえてやんよ!!いいよね?」
「ええ、はい。どうぞ。」
「ちょ、ちょっと鈴仙、そこはカッコよく弁護とかしてくれないの?」

 首を横に振る鈴仙、慌てふためくてゐを捕まえた布都は佇む神子と屠自古の前に突き出し、いつものドヤ顔。

「喜ぶがいい。我々の教えは多くの民を正しい方向へと導いてきた。」
「その考えに触れれば、かような卑劣な真似をする事も無くなるであろう。」
「さぁ、いってみよー!」

 屠自古の号令と共に三者三様の道徳説法が始まった。これは、映姫の小言以上に身に応えるのが容易に想像できる。だが相手も長年生きて来た因幡の白兎、一筋縄ではいかないだろう。私とアリスが複雑な表情を浮かべていると、どこからか大きな元気のよい声が聞こえて来た。

 ―10分後に、仮面ミノリダーの上映を開始します。縁日参加者各位のご来場をお待ちしております・・・

「そうだ、ミノリダーだ。見に行かなくちゃ。」
「ええ、早苗達がどんなお芝居を作ったか気になるしね。」

映姫のにも勝るとも劣らない見事な神子達の説教が懇々と続く射的屋を後にした私達は、中央に在るステージの近くへとアリスと共に赴く。

「わ、予想はしていたがすげぇ人だ。」
「大々的に里でロケをやってたし、新聞で宣伝されてりもしてたからみんな注目してたのかな?」
「ありうる。外の世界の、と銘打たれるだけで注目度が段違いだしな。」

 ステージ近くは既に様々な人妖で賑わっていた。外の世界という、幻想郷では凄く珍しい概念を導入したお芝居とあって、住民達の関心は非常に高いようだ。

「お、盟友達!来てくれたのか?」
「にとりか、来たぜ。婦々共々楽しみにしていたんだぜ。」
「そりゃありがたいね、すぐ案内するから、ここに並んで暫く待っていなよー」
「分かったんだぜ。」

にとりの指示で行列の最後尾に付いた私達であったが、整然と誘導が行われ、混雑の割にはすんなりと列は前に進んでいき私達の入場と相成った。にとりからパンフレットを一部づつ貰った私達は、彼女の誘導に従い観客席へと進んで行く。

「ねぇ、このお芝居って今ここで演じる訳じゃないのよね。」
「そうだぞ、あの前にあるスクリーンに映すんだって早苗が。」

 ステージには一枚の大きな白い布がかけられている。どのようにしてあのスクリーンに映すのかは定かではないが、夏に見た外の世界の技術ならそんな事も可能なのかなぁと思いつつ、パンフレットに目を通す。薄暗い中、懸命に文字を追いかけていると、アリスが魔法を唱えて手元を明るくしてくれた。

「ほぉら、魔理沙。暗い所で読んだら目に悪いわよ。」
「サンキュー、アリス、折角だから一緒に読むんだぜ。」
「相変わらずだなぁ~。羨ましいよ、盟友達が。」

 にとりがうりうりと私達に擦り寄ってくる。すると、アリスがこんな事を言いだした。

「にとりはどうなの、椛とは?」
「えっ!?ああ、椛かぁ・・・椛は大切な友達であってだなぁ・・・・・」
「この前、魔法の森の上空を二人で飛んでたじゃない。」
「あ、あれは椛が非番だったから人里の居酒屋に行こうかなぁと思って、ね。」
「成程、尻尾もふろうとしてたのも、偶然見てたわ。」
「いや、まぁ、そのぉ・・・」

 顔を真っ赤にして反論するにとり。まぁ、この二人は昔っから仲が良い事で知られており、私とアリスのような恋人同士と言うような関係では無い。スキンシップといった所であろうか。
 返答に詰まったにとりは照れ隠しのつもりなのか、足早に進んで、私達に席を当てがってくれた。

「こ、ここでお願いね。」
「おお、丁度良い感じにスクリーンが見えるんだぜ。」
「そうね。見上げる所でも無く見下す所でも無い。絶好の位置だわ。」
「気に言ってくれたらいいんだぞ~、じゃ、私はこれで。」
「ありがとな~にとりぃ。」
「椛と仲好くするのよー」
「ひゅぃいい!」

 何とも言えない声を出しながら脱兎のごとく去るにとりを見送りつつ、私達は用意された席に座る。魔力の灯りで照らされたパンフレットをじっくりと読みながら、私達はミノリダーの開演を待つ事にした。


ミ☆

「さいきょーのあたいは、何をすればいいの?」
「ミノリダーを倒し、幻想郷の秋を征服するのだー!」
「そうすれば、あたいがさいきょーの氷精になれるのね!」
「そうよ、頑張ってね。」
「よーし、頑張っちゃうぞ!」

「まぁ、凄いもこもこしたぬいぐるみね。暑そうだわ。」
「あんなの来て良くこけずに動けるよなぁ。やっぱり口だけじゃなくて、さいきょーに近づいているのかね・・・」

 穣子と静葉の物と思われる主題歌の後、タイトルが流れ本編が始まったミノリダー。チルノが大きなぬいぐるみを着用して動くコミカルな様には思わず笑みが零れる。隣にいる魔理沙もそうだが、他の人妖も声を出して笑っている。チルノの方へ目が行きがちな所を敢えてずらし、部屋の装飾などを見てみると実に手の込んだ物と分かる程度に作られており、その完成度の高さを窺わせる。

「部屋とかも作りこまれてるし、人形劇とはまた違った雰囲気が出てるわね。」
「だなぁ。こう言う舞台装置をつかった人形劇にも挑戦してみたらどうだ?」
「うーん、それは考えたんだけど、沢山の人形の制御の方で手が取られるから、難しいかも。」
「じゃあ、私が舞台装置を作動させてあげようか?なんなら制作もやるぞ?」
「気持ちは嬉しいけど、爆発物が多かったりしそうだわ。」
「普通だぜ?」

 チルノが基地を飛び出し、人里のアミーゴへと舞台が転換する。人形劇では一瞬で舞台転換は難しい。映像を切り返るといったような演習がマネが出来ないからだ。確かに、魔法でどうこうはある程度できる、でも、少なからず魔法には発動すれば何らかの反応があり、そのエフェクトを隠すのは極めて難しいのだ。
 新聞を読む静葉が斜め前から映し出される、パンフレットによれば早苗が撮影を担当したそうだが、綺麗に見えるアングルで撮影されている。魔理沙もこうして見たら、もっと綺麗に見えたりするのかなぁ。

「何してんだ?」
「んー、横のアングルから魔理沙を見てたの。どうすれば今以上に妻の魅力を引き出せるかの実験も兼ねて。」

 小声でしゃべる私達。前に置かれた機械・・・紫の別荘にあったスピーカーの親玉のような大きな機械から大音量で静葉達の声が出ているとは言え、煩くするのはあんまり宜しくないのである。

「でも、魔理沙ってホントに・・・大人なようで子供のような顔をしてる。」
「それ、どう言う事だ?」
「大人のように美しくて、子供のように可愛い顔って事よ。」
「あ、アリス、褒めても何も出ないぞ、それよりもほら、ミノリダーだ。」
「ちゃんと見てるわよ。でも、魅力的な妻の姿も見ないわけにはいかないわ。」
「アリスのばか・・・」

 顔を真っ赤ににして俯く魔理沙。それでも視線はスクリーンの方を向いており、大八車に乗った穣子と大妖精が顔面蒼白になりながら、そのスピードに耐えている姿が見えた。魔理沙の後ではそんな事にならなかった事を考えると、あの大八車は凄まじいスピードで巡航していた事になる。

「うわぁ、あんなスピードは私でも出そうとは思わないぜ。」
「スピードが信条なのに?」
「今は・・・私一人の身体じゃないからな、アリスが心配しない程度に抑えてるんだぜ。」
「・・・魔理沙。」
「でも、心配しないで良いようにスピードを出す訓練は怠ってないけどねー」

 美しい大人のような表情から無邪気な子供のような表情に一瞬で変化する魔理沙。んもぅと思うんだけど、私への心配りは本当にきめ細やかである。
 無茶は相変わらずだけど、絶対に無理をしなくなった。私に心配をかけるまいと振る舞うその姿がとっても愛しい。そっと手を重ねて、ぎゅっと握りしめる。

「豊穣の秋の力よ・・・私に力を、変身!とうっ!!」

「おぉ、衣装が変わるのか。しかも仮面まで付けてる。」
「なかなかハイセンスな衣装だけど・・・うーんごってりしすぎかも。」
「フリフリで可愛いじゃないか。アリス、冬用のドレスはあんなのが良いんだぜ。」
「そうねぇ。防寒性第一で作るけど。フリル沢山付けるのね。」
 
 コクリと頷く魔理沙。目をキラキラさせながらミノリダーを見ている当たり、ああいうのに憧れるのだろうか。そう思いながら、流れるような足技を極めて、戦闘員を張り倒し、集団で向かってくる戦闘員を整列させて湖に落とす所を笑いながら見る。

「それと、今日みたいに・・・お洒落してお出かけの時に不意討ち食った時にああやって何時もの服になれたらいいなって思うんだが。」
「あ、それはあるわね。お洒落して弾幕したら、服が破れるかもしれないし、汚しちゃうかもしれないしね。スペルに封入できるようにしときましょうか。」
「それは良いな。危なくなったら、スペルで変身!だぜ。」
「うん。魔理沙も力を貸してね、服装を変えたりする呪文は得意でしょ?」
「勿論だぜ。」

 そんな事を言いながら見ていると、今度はミノリダーが窮地に陥ってしまった。横で魔理沙が、危ない等とのたまっているし、私も危ないなって思っている。ここまで惹きこまれるお芝居と言うのも凄いなって思う。人形劇にかような要素をいれたらどんな感じになるんだろうか?上海達に早着替えでもさせてみるか・・・
 その方法を練り上げ、思考をこらしているうちに、ミノリダーが静葉を助け出し、二人がかりで敵への反撃を開始しているシーンへ移行していた。魔理沙はその様子に目を輝かせている。

「そこだ、行け!よし。」

 表情同様に、その様子は子供のように実に無邪気で純粋であるが、誰よりも大人な側面を持っていて、ココロの強さを感じるのが魔理沙なのだ。結婚するに当たり、魔理沙の心強さに助けられた部分も多い。でも、それにおんぶに抱っこでは良くないのもちゃんと分かってる。増して、これから子供を・・・と思っている以上は、私も強くならなきゃなぁっていつも思ってる。ちゃんと家庭を支えて、幸せな家庭にする。かつて、お母さんにして貰ったような家庭を作りたいって。
 
「W秋符 ダブルオータム・プリフィケーションパンチ!!」
「遠心重力ダイヤモンド・・・・・・・うひょぉおおおおおっ・・・・・・・!」

 魔理沙と作る過程の未来予想図を描きながら、ミノリダーを見ていると凄まじい重さのパンチがチルノ、いや氷精女に直撃して派手にぶっ飛んで茂みに突っ込んで大爆発した。大妖精も大爆発に巻き込まれているあたり、ちゃんと撮影の安全は確保されているのだろうか、少し心配になる。

「いやー、痛快だぜ。やっぱり姉妹愛による一撃もなかなか華があって良いな。」
「あのパンチ、本当に痛そうね。そういう風に見せられる演出ってホントに凄いわ。」
「でもまだまだだな、あのパンチじゃぁ・・・私達の恋色の魔法には及ばないんだぜ。」
「まぁ、全てを焼き尽くし浄化する9色の光線だとか、圧倒的な超火力を有するゴリアテと比べる方が問題かもしれないわね・・・」

 不敵な表情の魔理沙。でも、その裏には確かな実績がある、私達が魔力とココロを一つにして放つ愛の魔砲にゴリアテ人形。どちらも冗談では済まされない大火力を有する。お芝居のパンチとは訳が違う。
そんなこんなで、きぐるみが脱げて浄化が完了したと言う設定なのか、元に戻ったチルノと大妖精も交えて、アミーゴでお茶を飲み、家に帰るシーンで締めくくられたミノリダー。終了と同時に、観客席から割れんばかりの拍手が巻き起こる、私達もそれに合わせて拍手を送った。
 私的には人形劇の参考になる上に、純粋にお芝居としても痛快な内容で面白かった。と言うのが正直なところである。

「うん、面白かった。ああいう人質が取られる展開は、中々にハラハラするわね。」
「ああ。でも、追い込まれながらも華麗に救出するのは見事だった。私もあんな風に立ち回りたいぜ。」
「私が囚われた時の想像?バカバカしい、私はそんなヘマはしないわ。」
「まぁ、アリスなら大丈夫と思うけど、備えあれば何とやら・・・ってね。」

 優しい瞳が私を射抜く。この魔理沙は、もし私が劇中のように何かに囚われたら、死に物狂いで助けに来るだろう。それだけ私の事を愛している事は、ここまでの婦々生活でよく分かっている。
頼もしい妻に最高の笑顔で答えると、魔理沙は優しい瞳を向けたまま、私に対して。

「まぁ、私もそんなヘマはしないようにするが、もし、何かに囚われたら・・・その時はちゃんと助けてくれる・・・?」

 上目遣い。その可愛さは反則だ。でもそんな可愛さ云々では無く、世界で一番ココロから愛している妻のピンチとあれば・・・私はどんな手を尽くしてでも助けに行くし、救いだして見せる。その決意を胸に、魔理沙の頬に手を当ててから、魔理沙の目を見てしっかりと答えを返す。

「勿論よ、魔理沙が捕まったら【本気】で助けに行くわよ、妻だもの。」

 その答えを聞いた魔理沙は嬉しそうな顔をする。そして頬に当てた左手を左手でしっかりと包み込んでくる。薬指に付けた愛の証の結婚指輪に付けられたダイヤモンドが9色に煌めき始める。自然と魔力のリンクが繋がる位まで私達の息はぴったりである証拠でもあり、私達にしか出来ない愛情表現のやり方の一つなのだ。
 一緒に暮らしたり、いろんな気持ちを共有したりしてココロを暖めあったり、唇や身体を重ね、愛する人との一体感を感じたりする事はどのカップルにでも出来るけど、私達の素敵な力を、こうやって通わせ合える関係と言うのも、素敵だなって思う。
 魔理沙の魔力が私の魔力と混ざって、増幅したのがお互いの指輪に満ちたのを確認してから、そっと手を放した。
 頬を赤らめた魔理沙は、少しはにかみながら私にこんな事を言ってきた。

「ありがとなぁ~で、でも、ちょっとだけお姫様みたいに素敵な王子様に助けて貰うのは憧れちゃうんだぜ。」
「まぁ、私は王子様じゃないわよ。」
「分かってるんだぜ、私だけのお姫様だもんな。」
「・・・そうね。」
「あの・・・・いちゃついているのは宜しいのですが・・・・・」

 甘い空気を破壊する常識に囚われない声がした。その声をする方を向くと、これまた浴衣姿の早苗がそこに居た。長い髪を魔理沙のように結ってお団子のようにしているので何時もと雰囲気は違う。私達は慌てて離れて早苗の方に向き直り、平静を取り戻す事に務める。
 慣れと言うのは恐ろしい物で、付き合い始めた当初より遥かに短い時間で平静を取り戻す事に成功した私と魔理沙は視線を一回交わし、会話のリズムを確認してから早苗との会話に入った。

「おぉ、早苗か。すまんなぁ。」
「仲が宜しいようですね。良かったです。」
「ありがとう、で、急にどうしたの?」

 私がそう尋ねると、こほん、と可愛く咳払いをする早苗。そして、緊張した面持ちで私達におずおずと尋ねて来る。

「初めて作成した、幻想特撮劇・仮面ミノリダーは如何でしたか?」
「おお、早苗。すげぇの作ったな。ワクワクしながら見させてもらったぜ。」

 まずは魔理沙が素早く回答する。これは魔理沙の本音をストレートに表現していると言っても間違いじゃない、魔理沙は思った事を口にする時はすぐに言葉にする事を知っているからだ。早苗の顔が明るくなるのを見て、私も思った事を言う事にした。

「格闘戦をするかと思えば湖に落としたり、お話にメリハリが付いていたわ。」
「ああ、これは外の世界の伝説的なコントを参考にさせて貰ったんですが、気に行って頂けて何よりです。」
「えっ、特撮でこんな感じの作品があるの?」
「あります。ですが、この作品はレンタルショップでも取り扱ってませんから、我が家の古いビデオで確認したのをフル活用させて頂きました」
「成程ねー」

 どんな作品かは見当も付かないが、外の世界ではよっぽど受けの良かった話なんだろうな。そんな事を考えながら、ミノリダーの色んな事を放していたら魔理沙が月を一度見上げてから、私の方を向いて。

「アリス、そろそろ時間だぜ。」
「あ、もうそんな時間か。時間ってあっと言う間ね。」

 時を同じくして、響子の声が縁日に響き渡った。

―間も無く、霧雨・マーガトロイド婦々の打ち上げ花火大会が開始されます。お客様の皆様に置かれましては、見晴らしのいい場所への移動をお願いします。但し、神社の裏側付近には決して近寄らないで下さい・・・魔法が誘爆しても責任は負えませんので・・・・

 山彦の声に、ほうほうと頷く早苗。それを見た私達は、早苗に対し。

「さ、今度は私達の花火の時間だぜ。」
「今年は私も協力したのよー」
「はい、楽しみです。でも、花火の打ち上げ、やんなくて良いんですか?」

 その一言を聞いて私と魔理沙は目を合わせた。鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている早苗に、私達はすぐにニヤリとする。

「いちいち現地で魔力を充填して放つと体力を喰うんでな。今年は嫁の提案で時限発動型の魔法にしたんだ。」
「そういう事よ、無理せず最大限の効果を得るのも、恋色の魔法使いなのよ。」
「ほうほう・・・・って、あら、打ち上がり始めましたね。」

 ドン、ドドンと言う鈍い音が二三度して、ぱぁあっと空が大輪の弾幕の花の光で照らされる。そして、色とりどりの流れ星が小さな星の弾を放ちながら夜空を縦横無尽に切り裂いていった。

「時間・・・ね、ジャストよ魔理沙。」
「ふふ、上手く行ったんだぜ。」

 パチンとウインクをするアリスにウインクで返しながら、私達はどんどん打ち上がる花火を目に焼き付け始めた。


ミ☆


 ミノリダーが大盛況のうちに終わった余韻に浸る間もなく、私達の用意した弾幕花火の打ち上げが始まった。私の大きな花火が夜空を彩ったかと思えば、その横から人形達が編隊飛行をしながら秋の夜空に大きな絵を描いていく。人形劇ではないが、これも独りじゃ出来なかった演出である。

「綺麗ですね・・・」
「だろ、今年は妻が協力してくれたから、何時もより派手だぜ?」
「豪快さと繊細さが混ざり合って、美しさとなる、ですか。うん、魔理沙さん達らしいです。」

 確かにそうだ。今までの私は、とにかく大きく、そして豪快に派手に、そんな花火ばっかり作っていた。でも、今年は最愛の妻の意見を一杯取り入れて、より美しい物を作り出す事が出来た。繊細さ・・・それに緻密さをいつもそばにいて教えてくれる最愛の妻のサポートがどんなに嬉しかったか。
 アリスのサポートによって完成した、力に依る事も頭脳に依る事も無い、心からの信頼と愛情によって紡ぎ出される私達婦々だけが使える魔法。

それが、9色・・・いや、恋色の魔法だ。
 
 ありとあらゆる不可能を可能にし、夢を現実にできる私達の力なのだ。

 そんな事を思いながら夜空に彩られた花火を見ていると、唐突にエプロン姿のこいしが姿を見せた。

「じゃじゃーん!みんなー、アイスを貰って来たよー」
「お、さっきもミノリダーで言ってたな、それ。」
「お姉ちゃんに可愛く迫る為に練習してるんだよ~はい、皆。チルノにお礼を言ってね~」

 こいしから差し出されたアイスクリームを受け取る私達。程良く冷たいアイスは、食後のデザートにはまたとない良さがある。早苗とアリスがアイスに唇を寄せ始めた時、ふとこいしの方を見ると、あと二つ残っているのが見えた。
 一つはこいしが食べる分でも良いのだろうが、もう一つは誰のであろうか。まぁ、さとりにでも持って行くつもりであろう。

「あ、こいし。一つ余っているみたいだけど、どうしたの?」
「さとりにでも持って行ってあげるつもりなのか。」
「もうお姉ちゃんにはトリプルのをプレゼントしたよ。あれ・・・一つ多かった?」
「おう、私とアリス、早苗の分だけでいいんだぜ。」
「おかしいなぁ、無意識は確かに【4つ】あったんだけど。」

 首をひねるこいし、無意識で数勘定をするなよと言いたかったがこのさとり妖怪の妹君は何を考えているかは予想できない。比較対象になる同じような境遇のフランは、気が触れて暴走さえしなければ、無邪気で純粋、だけど気品もあって分かりやすい性格をしている。
 
そんな事を考えていると、トクン、と不自然に心臓が跳ねた。

一つ・・・多い、まさか・・・・・もしかすると、それはー

 思考を巡らせる私、答えが一つ喉元まで出かけた丁度その時、私の視界が押されたかのように一瞬だけ揺れる。だが、悲しきかな後頭部に残るひんやりとした余韻で犯人が誰かはすぐに分かった。

「へへ、あたい特製のアイスクリームの味はどーだー!」
「うわっ、チルノか、いきなり出てくるなよ。」
「・・・チルノ、店はどうしたの?」
「大ちゃんが頑張ってる。あたいもすぐに戻るよー」

 この前派手にぶっ飛ばしたチルノである。腕組みをして、得意気に振る舞うのはいつもの事である。

「さいきょーのあたいは、不意打ちを覚えたんだー、えっへん!」
「不意打ちと言うのは、相手が誰であるかも分からないようにしておかなきゃ意味が無いぞ。今のじゃチルノだってモロバレだ。」
「えー、でも冬になったらレティの可能性も出てくるよー。」

 切り返しが中々にツボを得ている。最近の弾幕戦でも頭脳プレーを見せて来ているので、いい加減⑨の称号を返上しようと懸命に努力しているのが見える。

「しかし、チルノはいったいどうしちまったんだ?最近随分と賢くなったようだが。」
「ああ、それはね。さいきょーになりたいと言ってたから、無意識を解き放って・・・私の仲間になるという条件で天才にしたの!」
「な、なんだって!!」
「・・・・と言うのは冗談で、さいきょーになりたいチルノのコーチを買って出たの。ミノリダーへの参加はその一環ね。」
「さいきょーになるためには、賢くって、皆に愛されるようにならないとダメなんだよね。ね、こいし。」
「そうよ。チルノはまずそこを覚えたら、もっと強くなれると思うよー」
「よーし、あたい、頑張っちゃうぞ!じゃ、そろそろ店に戻るねー」
「頑張ってねー」

 ふよふよと飛んで戻るチルノの後ろにも子供が一杯付いて来ている。そんな子供達に色々と語りかけたりしたりする姿を見て、何時もとは違うチルノの側面を見たような感じがした。しかし、また珍しい組み合わせであると思った私は、チルノと仲好くなったその経緯を聞いた、すると。

「えへへ、チルノちゃんは地上での友達第二号だよ。妹同士のお付き合いさせてもらってるフランドールの紹介ね。」
「ああ、フランが。なら納得ね。」
「そうよ、無邪気で一緒に遊んでる良い奴だーってフランドールが言ってたから。一緒にご飯食べたら、意気投合しちゃって。」
「それで、友達になったのね。」
「そう言う事よ。」

 一つ残ったアイスクリームを食べながらこいしは無邪気な笑顔を振りまいている。そして閉じて、反応の無いサードアイをさする。そして、空を見上げてから
 
「私もね、こうやってブラブラしてるだけなのを止めて、ね、色んな友達を作ってみたくなったんだよ。」
「こいし・・・」
「私達はその能力が故に忌み嫌われてきた、でも、今の幻想郷は違う。種族が違っても仲良くなれるし、それに・・・結婚だって出来る。だから、私も・・・」

 アンニュイな表情でぽつりと言う。私達はそうは思わないが、悟り妖怪というのはその能力の性質上、極端に嫌う者も少なくは無い。その結果として、その第三の目を閉じたと言うのは余りに有名な、悲しすぎる話である。
 暫く閉じたサードアイを撫でていたこいしだったが、すぐに表情を明るくして私達に語りかけて来た。

「それにね、私が地上の妖怪とうんと仲良くなって、お姉ちゃんに、今では悟り妖怪も昔ほど嫌われなくて済むよーって教えてあげたいだけなんだよ。」
「成程、こいしさんも色々考えてるんですねぇ。」
「まぁ、お姉ちゃんのためなら私、頑張れるし。これからも、色々やって地上の妖怪とも仲好くするよ!」
「うまく行くといいわね!私は応援するわよ。」
「うん、それに色んな妖怪と仲良くなれば、一杯の友達とお姉ちゃんと暗い地底の空じゃなくて、明るい地上の空の下を飛べるようになる。そしたら・・・むふふふん。」

 顔が怪しくにやついている。お姉ちゃんっ子はフランだけじゃないのは知っているが、姉に一定の敬意を持って接するフランと、この自由奔放な考えを持つこいしでは姉に対する接し方は違うんだろうなと思う。
 もし、私達の子供が姉妹になれば、姉妹毎に考え方が変わってくるのかなぁ。そんな事を考えていると、沢山の子供に囲まれている秋姉妹がやってきた。

「あぁ、子供は大好きだけど、ちょ、ちょっと大変かも。」
「ん、変身ポーズ?さっきもやったじゃな~い。」

 すっかりお疲れの様子だ、心地良い疲労の色を見せながらアイスクリーム屋の前にやってきた。あんなにカッコいい姿を見たら、幻想郷の子供も夢中になるだろう。私はそんな秋姉妹に声をかけた。

「よう、カッコ良かったぜ。」
「ありがとう、魔理沙。でも穣子ちゃんの方が、頑張ってたわよ。」
「でも、あんなに大立ち回りするのって大変じゃ無かった?」
「まぁまぁ、一応こう見えても神様だから。アレ位はノースタントでも出来るわ。」
「本当か?」
「よっと、はっ!」
「流石穣子ちゃん、良い動きね。」

 子供達の前で綺麗なバク転を披露、そしてそのままある程度の距離を移動する穣子。確かに運動神経は良いようだ。だが、これを綺麗に決め過ぎたせいか、子供達がますます穣子の方へと寄っていく。はにかんだ笑いをみせる秋姉妹を見やりながら、私達は早苗に。

「私達の子供が出来た時も、ミノリダーやって欲しいな。」
「勿論です、子供達に一定の評価は得られたようなので、また宴会等の出し物として制作させて頂きます。」
「その時は、魔理沙達も協力して欲しいんだなぁ~」
「でも、私、怪人役は嫌よ?」
「同じく。私達が出ても、怪人を逆に撃退しちゃいそうなんだぜ。」

 そんな話をしながら、私は視線を落とす。無意識の話がもやもやと私の中に引っかかり・・・ある一つの答えが導き出される。
 
その答えは・・・・・私とアリスが望み、そして願った事。
 
でも、確証も無いのにそれを言って皆を混乱させるのも良くない。この事を変にオープンにすれば、確実に周囲を巻き込んだ大騒動に発展するだろう。
 それに、それが起こったのは私じゃなくアリスの可能性だってあるのだ。だから私はここでは深く考えず、後日、そうと分かった時でも遅くは無いなと思いつつ、静かに視線を戻しながら、みんなとの談笑を続けた。

ミ☆

「ふう、今日も一日、楽しかったね。」
「ああ、お客さんも喜んでくれて私は嬉しいぜ。」

 そう言いながら魔理沙は魔力施錠を解除して新居のドアを開ける。私は、人形に命じて家の照明を灯した。魔法の照明がじりじりと闇を払い、すっかり慣れた広々とした部屋を明るく照らしてゆく。
 秋の夜の肌寒さを感じ、素早くドアを閉めて居間の大きなソファーに仲良くダイブを敢行する。柔らかなソファーに背中を預ければ、心地良い疲れがどっと出てくる。魔理沙の傍で肩を寄せ合って、じっと見つめ合う。絡まる熱い視線にココロが浮かされ、寄せた頬の感触の柔らかさがココロを落ち着かせる。
 ふわふわした心地良い無言のココロの交流をしていると、不意に魔理沙が立ち上がって。

「あ、そうだ。浴衣来てるから、一回やってみたかった事があるんだよ。」
「ん、それは何?」
「ふふ、それはなぁ・・・まぁ、アリスも立て。」
「分かったわ。」

 私を立たせた所で魔理沙が動いた。私に抱きついてから暫く胸に顔を埋める、その状態のままぐりぐりされて、少しだけくすぐったくなってきた。

「ちょ、ちょっと・・・くすぐったいよ。」
「ふふふ、良いではないか、良いではないか!」

 そして魔理沙の手が動く、私の帯をがしっと掴んで素晴らしい手癖の悪さで一気にほどいてしまう。得意気な表情の魔理沙は解いた帯の先をしっかりと握りしめ、迷わずに思いっきり引っ張った。

「あーれーぇ!」

帯を引っ張られた事でコマのように回転する私、帯を失った私の浴衣は、前がはだけてしまった。
とっさに前を押さえて、羞恥に顔を赤らめてしまうが、既に私の全てを見られているので今更という感じはある。そんな魔理沙は帯をきちんと畳んで置いて、そっと浴衣を脱がしてしまった。

「あ・・・」
「可愛いぜ、アリス。」

 そのままギュッと抱きしめてくる。下着しか身につけていない私を、すっぽりと包みこむように。そっと、目を閉じてその温もりを感じていると、魔理沙が私の手を取って魔理沙の浴衣の帯の方に導いて。

「私にも、して?」

 頬を赤らめる魔理沙が愛おしくてしょうがない。一見すればバカバカしく見えるかもしれないが、お互いに愛し合うからこそ、こういう事も楽しめるのだ。私は小さな溜息を付いて

「しょうがないわね、じゃあ、行くわよ!」
「お代官様、お戯れが過ぎますぞー」
「良いではないかー、良いではないかー!それぇっ。」
「あーれー」
 帯を握りしめ、そっと解いてから思いっきり引っ張ってあげる。くるりくると居間を舞う魔理沙から帯が離れ、浴衣の前がはだける。はだけた浴衣が足にからまるのが見えた、
 バランスを崩してよろめく魔理沙を私は慌てて抱きとめてあげた。

「へへ、楽しかった。アリス・・・あったかい。」
「んもぅ、強引ね。でも、昔の人はこうやってムードを作ったりしたのかしら・・・」
「多分、な。さ、この浴衣は大切に保管しなきゃ、だぜ。」
「あ、待って。今人形にさせるわ。」
「ナイスタイミング、だぜ。」

 浴衣を脱いだ私達は、そのまま派手に抱き合った。直に触れる肌がとってもあったかい。空気の冷たさがそれをより際立たせており、伝わるお互いの熱がよりあたたかく感じられる。目が合って、ドキドキが加速して、そのまま吸い込まれるように唇が重なる。
 息が苦しくならない程度の時間そのままで過ごし、愛でお互いを満たしあってから唇をそっと放して、しっかりとお互いを抱きとめる。
 
「無意識が一つ多い・・・か。」
「さっきのこいしの話ね。どうしたの、魔理沙。」
「・・・ん、いや。なーんか引っかかったんでな。」
「どう言う事?」

 私がそう言うと、魔理沙は少しだけ首を捻ってから何かブツブツと一人ごちていたが、しばらくして私の方を向いてから元気な声を出す。

「いーや、何でもないんだぜ。それよりも、このままじゃ寒い。お風呂に入ろうぜ、一緒にー」

 その笑みには何かを隠しているような素振り等は全く見えず、いつもの眩しい笑顔がそこに在った。私は、そんな魔理沙の頬に軽くキスをしてから私は答える。

「そうね、風邪引いちゃダメだしね。さ、行きましょ。」
「おう。しっかり二人で温もろうなー」

 そっと身を起こした私達は二人で脱衣所に駆け込んだ。入浴の準備を整えるなり浴槽に飛び込もうとする魔理沙を止めたりしながら、仲良く洗いあったりして穏やかな秋の夜の一時を過ごす。
 

 

 浴室の窓の隙間から見える、美しい朧月が静かに私達を見守っていた。

 


 こいしが何気なく呟いたこの「無意識が一つ多い」発言が、一つの重要な出来事を誰よりも早く読みとった事に気が付くのと・・・私と魔理沙が魔法の家族になる為の最大の試練の始まりであった事を知るのは、もう少しだけ先の話である。

 To be continued…
ちゃんと永琳のとこに行ってから、アリスに話そう・・・それまでは・・・・・
                            ―こいしが察知した魔理沙の無意識の一部

 もう12月、クリスマスまっしぐらですね。色々と忙しくしてたら、秋の連作が12月にずれ込んでしまっちゃった季節感にズレが生じちゃったロンリーボーイ・タナバン=ダルサラームどえす。

 秋の連作がいよいよスタートしました。この秋の連作は、この魔理沙とアリス婦々が、自分たちが望んだ恋色の魔法家族になるための最大の試練をテーマに、愛あり笑いあり、シリアスありで描いて行きます。まず、最初の第一回は、秋祭りに乗せてミノリダーを劇中劇として扱いつつ色んな人の関わり合いをテーマに書いて見ました。
 キャラ同士の関わり合いと言うのは、書いてて凄くごちゃごちゃしやすいテーマの一つですが、登場人物の多い東方ではどうしても避けられないと言うのはあります。登場人物を絞ってしまえば、その分書きやすくはなるのですが、好きなキャラばかりに偏ってしまいがちで、幻想郷らしさを引きだしにくくなってしまうのではないか・・・と思って、一つの方向性を打ち出して見ました。
 今回は布都ちゃんだけでなく、輝夜やこいしといったこれまでのシリーズで出番の無かった人妖に多数出演して頂きました。人物一人表現するだけでも難しいと思う当たり、まだまだ修行が必要ですね。

 次回以降ですが季節感がずれてしまいがちなのですが、良い作品に仕上げたいのでマイペースに更新させて頂きます。でも、次回の内容は決まってて・・・いよいよ、事態が動きだします。紅魔館大運動会という秋最大のイベントの一角で、恋色の魔法婦々にある変化が起きてしまいます。その変化に、魔理沙とアリスがどう立ち向かっていくのか・・・をいつものノリで描いて行く予定です。
 
 長かったこのシリーズも徐々に、クライマックスに近づいています。

 最高の読後感、そして、このシリーズを通して読んで良かった、と思えるような幸せな気持ちを届けられるように頑張りますので、応援の程よろしくお願いします。
 
 では、次回作でお会いしましょう。
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>元々の念射能力
念写?
>第縁日、大延日
何か所かなってました

賑やかで面白かったです
最後の部分と後書き…まさか?
2.名前が正体不明である程度の能力削除
さすがこいし!
3.名前が無い程度の能力削除
おお甘い甘い。
4.名前が無い程度の能力削除
さて、後少しか…
残念だな…
さとりやルーミアの登場を願ってるぜ!
5.名前が無い程度の能力削除
縁日の楽しさがビンビン伝わってきて、いいなーいいなーと思いながら読み進めていたらこいしちゃんの無意識パワー炸裂! 続きを待つ!
6.名前が無い程度の能力削除
>「ああ。全く、レーザーを曲げるなんて邪道なんだぜ。」
アリス「たくあんレーザーの何があかんのですか!!」