「月の都を滅ぼすわよ」
そんな唐突な事を、畳の上でごろりと横にったままで、紫様が宣言なさられた。
私――八雲藍はつい先程お夕飯の支度を終えたばかり。割烹着を着ながら、卓袱台の上にお茶碗とお箸を並べている最中だ。
紫様は何時も妙な事を口走りになられる。話半分で聞くくらいが丁度良い。
荒唐無稽なお話には、話半分の聞き方が相応なのだ。
「ふむ……。第三次月面戦争をなさられるおつもりなのですか?」
「いえ。今回は賢者らしく、謀略によって月の都を滅ぼす事にします」
「ほほぅ。流石は妖怪の賢者であらせられる紫様。悪魔、いえ、妖怪の智恵の出番と言う事ですね」
「えっへん。もっと褒めて良いのよ」
「ええ。実に恐ろしい事をお考えになられます」
お櫃の中から白米をしゃもじで装いつつ。
私は、紫様の話しを聞き流す。どうせ、冗談に決まっているのだから。
「して、その謀略とは一体?」
コトリ、コトリと。
規則的なリズムに従って茶碗と湯呑み、おかずの取り皿を卓袱台に並べながら、肝心の質問をした。
月の都――月人統べている近代都市。かつての月面戦争では近代兵器に破れ、二次侵攻では白兵戦でも頭脳戦でも破れてしまった相手。
そんな相手をどうやって滅ぼすと言うのだろうか。仮にそれが冗談だとしても、どんな方法を紫様がお考えになられたのか、純粋に興味があったのだ。
私の言葉が終わり、お夕飯の準備が整ったと同時に、
「これよ」
紫様が、先程の質問に対する回答を示して下さった。
回答――眼前の中空に開いた隙間から差し出されたのは、一本のカセットテープだった。
カセットテープ。もう数年程前から境界を越えて幻想郷に入って来たという、音楽を録音・再生する能力を持った式神の一種。
定められた時間の範囲内であれば、自由に録音と編集、再生が可能。
さらに、表と裏を入れ替える事で二倍の時間だけ使用が可能だという。
なんとも便利な代物だ。
「カセットテープ……ですね」
「そう。カセットテープ。当然、そのテープそのものが重要なのではないわ。重要なのは、録音されている中身」
「仰る通り。重要なのは依り代ではなく、その内に付けられた式。当然の事です」
「その中にはね。とても恐ろしい音楽が封じられているの」
「恐ろしい……?」
「そう。恐ろしい音楽」
フフフ、と。
含みを持たせた笑みを浮かべた後に、紫様は言葉を続ける。
「月の姫の片割れの有する道具。森を一瞬で素粒子の単位にまで浄化するという、あの扇子を覚えているかしら」
「ええ。覚えています。紫様が土下座をしてまで、どうか使わないで欲しいと懇願をしていた、あの扇子ですよね」
「余計な事は覚えていなくて宜しいっ」
ぺちん、と隙間ごしにデコピンをされてしまった。
ごろんと転がって、顔をこちらに向けていないせいでその表情は伺えないが……
どうやら紫様、照れている様だ。よっぽど、忘れたい記憶なのだろう。勝利の為とは言えども、屈辱的な行為をしてしまった記憶なのだから。
「……え、えっとね。話を戻すけれど」
「はい」
「件のカセットテープの中には、生物の無意識に語りかけて、「扇子を振らせる」動作を強要すると言う音楽が封じられているのよ。
もしも、この音楽を例の姫に聞かせたとすれば……どうなるかしら?」
「どうって――」
分かりきった回答をしようとして。
それよりも早く、紫様が言葉を続けられていた。
「当然、例の姫は己の武器。あの、恐ろしい扇子を振ってしまうでしょうね。
そこが例え、月の都のど真ん中であったとしても」
成程。
月のテクノロジーが強大だと言うならば、それを逆手に取ってしまえば良い。
合気道の達人が相手の膂力を利用して大きな力を発揮するが如く。
あるいは、呪術師が放った呪詛を、呪詛返しで強大にして炸裂させるが如く。
紫様は、月人のテクノロジーの強大さを逆手に取り、それを月の都の中心で炸裂させようとしておられるのだ。
なんとも恐ろしい事をお考えになられる。
「確かに、それならば目的が達成出来るでしょう。恐ろしい作戦です。流石は紫様」
「でしょう? でしょうっ!?」
つい先程は機嫌を悪くなさられていたと言うのに、紫様はもう機嫌を直しておられる様子。
お夕飯が冷めない内に機嫌を直して欲しかったので、こちらとしても都合が良い。
「それで、その音楽とやらですが……一体、どんな音楽を封じているのですか?」
「ふふん、それはね――」
紫様が告げられた音楽の名。
それは……賢者の策とは思えぬ、突拍子も無い音楽の名前だった。
アホか。バカか。耄碌したのですか。
思わず、主を罵倒する言葉が一瞬の内に五十以上も浮かんでは消え、続いて呆れの感情が浮かんでしまう。
「……え。それ、マジ?」
つい、敬語ではなく、素面の調子で口を聞いてしまった。
「本気と書いてマジ。本気も本気の大本気よっ!」
けれども、紫様は本気なのだ。
阿呆かこの人は。
ボケたのか。介護の付き添いが必要なんじゃないだろうか。
「……もしかして、私の策を疑っているのかしら?」
「い、いえっ。決してそんな事は、」
「どうでも良いけど。藍って、昔から嘘を吐いている時には尻尾の先が逆立つだよねぇ」
「ギクッ」
思わず、ベタベタな台詞を口に出してしまった。
もはや言い逃れは不可能。ボケてしまわれたと言うのに、紫様は私の考えをお見通しなのだ。
「ああもうっ。腹が立つわねぇ。せっかく考えた作戦なのに、まさか式に馬鹿にされるとは思わなかったわ」
「え、ええっ!? まさかさっきの策戦って、本気だったんですか?」
「言ったじゃない。大本気だって」
「いやいやいやいやいや……」
阿呆だ。いや、馬鹿なのか。どっちでも良い。
口には出さないけれども、紫様はついにボケてしまわれたのだ。
「あ、ああっ! その顔は絶対疑ってるっ!」
「いえいえ。疑ってはいませんとも。ただ、ありえないなあと思っているだけであって」
「同じよ同じっ! 藍ってば、私の策略に異を唱えるとは随分と大きく出たじゃないの!」
「いえいえ。ですから――」
「もし失敗したら、鼻からスパゲッティ食べてやるわよ!」
「は、はぁっ!?」
「その代わり、もしも成功したら藍が鼻からスパゲッティを食べなさいよね!」
「い、いえ。だからどうして――」
「どうしてもっ!」
もはや、紫様の怒りを止める事は不可能。
自慢の策を侮辱されたとお考えになられているのだ。
その後。結局私は、紫様の荒唐無稽な策が成功するか否かの賭けに乗る事になってしまった。
なんともはや。阿呆な勝負に乗ってしまった。
せめて、紫様への罰ゲームのスパゲッティは、懲りて頂く為にも激辛ペペロンチーノの極太麺にするとしよう。
鷹の爪を山盛りにして、オリーブオイルとにんにくは山盛りのてんこ盛りだ。
紫様の鼻の穴にフォークを突っ込むのを想像したせいだろう。
不謹慎な笑みがこぼれてしまう私だった。
◆ ◆ ◆ ◆
あれから数日後。
久々にマヨヒガを抜け出して、人里へと出向いた私は食糧の買出しをしている最中の事。
野菜。穀類。魚類。調味料。
不足している物を買い集めていると、見慣れない薬売りの四人組を発見した。
先頭に立つのは、四人組のリーダー役をしている小柄な黒髪の兎。その後ろに居るのは、ブレザーを着た長髪の兎。
そして、その後ろで荷物持ちをしている二人組みは、妙にぼろぼろの、小汚い洋服に身を包んでいて。
「ほらほらっ! もっと声を出さないと、お客さんも寄って来ないよ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……私が、扇子をついうっかり……」
「良いのですよ、お姉様。幸いにして、大きな怪我人は出なかったではないですか。それだけで、私は十分です」
「ああ、ごめんね依姫。あの時、貴女が私を第一宇宙速度で蹴飛ばしてくれて、本当に良かったわ。貴女のおかげで死者が出なかった様な物……本当に、良かった……」
「何とおいたわしや! 豊姫様と依姫様っ……。一日も早く月の都の復興資金を貯めて、必ずやかの地にて返り咲いて下さいまし!」
「あーもうっ。月出身者って、どうしてこうも変なのが多いのかしらっ」
刹那。理解してしまう。
賭けは紫様が勝ったのだ。否。私だけにではない。ついに、紫様は月人に勝利をなさられたのだ。
扇子を振るはずがない――そんな事を考えていた、かつての私が阿呆だった。紫様の智恵と知識は、私の常識の遥か斜め上を突き進み、見事勝利を射抜かれたのだ。
今夜はお祝だ。腕によりをかけて、ご馳走にしよう。
ついでに、スパゲッティも茹でようじゃないか。鼻腔粘膜を傷つけない様に、細麺のクリームパスタを。
食料品店へと、追加の食材を買うべく足を向けた私の傍らを、
「それにしても、どうしてあの日、机の上に牛丼音頭が録音されたカセットテープが置かれていたのかしら……ううっ。あれさえ、聞かなければ……」
「仕方がありませんよお姉様。あの音楽を聴いてしまえば、私とて扇子を振ってしまでしょうからっ……」
風に乗せられたのだろうか。
月の姫の姉の方が恨めしげに、悔しげに呟いた声が、吹き抜けて聞こえていた。
そんな唐突な事を、畳の上でごろりと横にったままで、紫様が宣言なさられた。
私――八雲藍はつい先程お夕飯の支度を終えたばかり。割烹着を着ながら、卓袱台の上にお茶碗とお箸を並べている最中だ。
紫様は何時も妙な事を口走りになられる。話半分で聞くくらいが丁度良い。
荒唐無稽なお話には、話半分の聞き方が相応なのだ。
「ふむ……。第三次月面戦争をなさられるおつもりなのですか?」
「いえ。今回は賢者らしく、謀略によって月の都を滅ぼす事にします」
「ほほぅ。流石は妖怪の賢者であらせられる紫様。悪魔、いえ、妖怪の智恵の出番と言う事ですね」
「えっへん。もっと褒めて良いのよ」
「ええ。実に恐ろしい事をお考えになられます」
お櫃の中から白米をしゃもじで装いつつ。
私は、紫様の話しを聞き流す。どうせ、冗談に決まっているのだから。
「して、その謀略とは一体?」
コトリ、コトリと。
規則的なリズムに従って茶碗と湯呑み、おかずの取り皿を卓袱台に並べながら、肝心の質問をした。
月の都――月人統べている近代都市。かつての月面戦争では近代兵器に破れ、二次侵攻では白兵戦でも頭脳戦でも破れてしまった相手。
そんな相手をどうやって滅ぼすと言うのだろうか。仮にそれが冗談だとしても、どんな方法を紫様がお考えになられたのか、純粋に興味があったのだ。
私の言葉が終わり、お夕飯の準備が整ったと同時に、
「これよ」
紫様が、先程の質問に対する回答を示して下さった。
回答――眼前の中空に開いた隙間から差し出されたのは、一本のカセットテープだった。
カセットテープ。もう数年程前から境界を越えて幻想郷に入って来たという、音楽を録音・再生する能力を持った式神の一種。
定められた時間の範囲内であれば、自由に録音と編集、再生が可能。
さらに、表と裏を入れ替える事で二倍の時間だけ使用が可能だという。
なんとも便利な代物だ。
「カセットテープ……ですね」
「そう。カセットテープ。当然、そのテープそのものが重要なのではないわ。重要なのは、録音されている中身」
「仰る通り。重要なのは依り代ではなく、その内に付けられた式。当然の事です」
「その中にはね。とても恐ろしい音楽が封じられているの」
「恐ろしい……?」
「そう。恐ろしい音楽」
フフフ、と。
含みを持たせた笑みを浮かべた後に、紫様は言葉を続ける。
「月の姫の片割れの有する道具。森を一瞬で素粒子の単位にまで浄化するという、あの扇子を覚えているかしら」
「ええ。覚えています。紫様が土下座をしてまで、どうか使わないで欲しいと懇願をしていた、あの扇子ですよね」
「余計な事は覚えていなくて宜しいっ」
ぺちん、と隙間ごしにデコピンをされてしまった。
ごろんと転がって、顔をこちらに向けていないせいでその表情は伺えないが……
どうやら紫様、照れている様だ。よっぽど、忘れたい記憶なのだろう。勝利の為とは言えども、屈辱的な行為をしてしまった記憶なのだから。
「……え、えっとね。話を戻すけれど」
「はい」
「件のカセットテープの中には、生物の無意識に語りかけて、「扇子を振らせる」動作を強要すると言う音楽が封じられているのよ。
もしも、この音楽を例の姫に聞かせたとすれば……どうなるかしら?」
「どうって――」
分かりきった回答をしようとして。
それよりも早く、紫様が言葉を続けられていた。
「当然、例の姫は己の武器。あの、恐ろしい扇子を振ってしまうでしょうね。
そこが例え、月の都のど真ん中であったとしても」
成程。
月のテクノロジーが強大だと言うならば、それを逆手に取ってしまえば良い。
合気道の達人が相手の膂力を利用して大きな力を発揮するが如く。
あるいは、呪術師が放った呪詛を、呪詛返しで強大にして炸裂させるが如く。
紫様は、月人のテクノロジーの強大さを逆手に取り、それを月の都の中心で炸裂させようとしておられるのだ。
なんとも恐ろしい事をお考えになられる。
「確かに、それならば目的が達成出来るでしょう。恐ろしい作戦です。流石は紫様」
「でしょう? でしょうっ!?」
つい先程は機嫌を悪くなさられていたと言うのに、紫様はもう機嫌を直しておられる様子。
お夕飯が冷めない内に機嫌を直して欲しかったので、こちらとしても都合が良い。
「それで、その音楽とやらですが……一体、どんな音楽を封じているのですか?」
「ふふん、それはね――」
紫様が告げられた音楽の名。
それは……賢者の策とは思えぬ、突拍子も無い音楽の名前だった。
アホか。バカか。耄碌したのですか。
思わず、主を罵倒する言葉が一瞬の内に五十以上も浮かんでは消え、続いて呆れの感情が浮かんでしまう。
「……え。それ、マジ?」
つい、敬語ではなく、素面の調子で口を聞いてしまった。
「本気と書いてマジ。本気も本気の大本気よっ!」
けれども、紫様は本気なのだ。
阿呆かこの人は。
ボケたのか。介護の付き添いが必要なんじゃないだろうか。
「……もしかして、私の策を疑っているのかしら?」
「い、いえっ。決してそんな事は、」
「どうでも良いけど。藍って、昔から嘘を吐いている時には尻尾の先が逆立つだよねぇ」
「ギクッ」
思わず、ベタベタな台詞を口に出してしまった。
もはや言い逃れは不可能。ボケてしまわれたと言うのに、紫様は私の考えをお見通しなのだ。
「ああもうっ。腹が立つわねぇ。せっかく考えた作戦なのに、まさか式に馬鹿にされるとは思わなかったわ」
「え、ええっ!? まさかさっきの策戦って、本気だったんですか?」
「言ったじゃない。大本気だって」
「いやいやいやいやいや……」
阿呆だ。いや、馬鹿なのか。どっちでも良い。
口には出さないけれども、紫様はついにボケてしまわれたのだ。
「あ、ああっ! その顔は絶対疑ってるっ!」
「いえいえ。疑ってはいませんとも。ただ、ありえないなあと思っているだけであって」
「同じよ同じっ! 藍ってば、私の策略に異を唱えるとは随分と大きく出たじゃないの!」
「いえいえ。ですから――」
「もし失敗したら、鼻からスパゲッティ食べてやるわよ!」
「は、はぁっ!?」
「その代わり、もしも成功したら藍が鼻からスパゲッティを食べなさいよね!」
「い、いえ。だからどうして――」
「どうしてもっ!」
もはや、紫様の怒りを止める事は不可能。
自慢の策を侮辱されたとお考えになられているのだ。
その後。結局私は、紫様の荒唐無稽な策が成功するか否かの賭けに乗る事になってしまった。
なんともはや。阿呆な勝負に乗ってしまった。
せめて、紫様への罰ゲームのスパゲッティは、懲りて頂く為にも激辛ペペロンチーノの極太麺にするとしよう。
鷹の爪を山盛りにして、オリーブオイルとにんにくは山盛りのてんこ盛りだ。
紫様の鼻の穴にフォークを突っ込むのを想像したせいだろう。
不謹慎な笑みがこぼれてしまう私だった。
◆ ◆ ◆ ◆
あれから数日後。
久々にマヨヒガを抜け出して、人里へと出向いた私は食糧の買出しをしている最中の事。
野菜。穀類。魚類。調味料。
不足している物を買い集めていると、見慣れない薬売りの四人組を発見した。
先頭に立つのは、四人組のリーダー役をしている小柄な黒髪の兎。その後ろに居るのは、ブレザーを着た長髪の兎。
そして、その後ろで荷物持ちをしている二人組みは、妙にぼろぼろの、小汚い洋服に身を包んでいて。
「ほらほらっ! もっと声を出さないと、お客さんも寄って来ないよ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……私が、扇子をついうっかり……」
「良いのですよ、お姉様。幸いにして、大きな怪我人は出なかったではないですか。それだけで、私は十分です」
「ああ、ごめんね依姫。あの時、貴女が私を第一宇宙速度で蹴飛ばしてくれて、本当に良かったわ。貴女のおかげで死者が出なかった様な物……本当に、良かった……」
「何とおいたわしや! 豊姫様と依姫様っ……。一日も早く月の都の復興資金を貯めて、必ずやかの地にて返り咲いて下さいまし!」
「あーもうっ。月出身者って、どうしてこうも変なのが多いのかしらっ」
刹那。理解してしまう。
賭けは紫様が勝ったのだ。否。私だけにではない。ついに、紫様は月人に勝利をなさられたのだ。
扇子を振るはずがない――そんな事を考えていた、かつての私が阿呆だった。紫様の智恵と知識は、私の常識の遥か斜め上を突き進み、見事勝利を射抜かれたのだ。
今夜はお祝だ。腕によりをかけて、ご馳走にしよう。
ついでに、スパゲッティも茹でようじゃないか。鼻腔粘膜を傷つけない様に、細麺のクリームパスタを。
食料品店へと、追加の食材を買うべく足を向けた私の傍らを、
「それにしても、どうしてあの日、机の上に牛丼音頭が録音されたカセットテープが置かれていたのかしら……ううっ。あれさえ、聞かなければ……」
「仕方がありませんよお姉様。あの音楽を聴いてしまえば、私とて扇子を振ってしまでしょうからっ……」
風に乗せられたのだろうか。
月の姫の姉の方が恨めしげに、悔しげに呟いた声が、吹き抜けて聞こえていた。
この言葉にひどく興奮したのは俺だけでいい。
発想の勝利としか言えねえよ!
扇子で音楽って言うからジュリアナかと思ったのに……どっちにしオッサンか。
なんちってw