「ぬえー、少しは準備手伝ってよ」
「いやだ、めんどい」
「そう言わずにさー」
部屋で寝っ転がりながら漫画を読む私をムラサは服の裾を引っ張り嘆願する。
いつものセーラー服の上にかもめ柄のエプロンをつけた姿は新鮮でちょっとどころでなく可愛い。
そのせいか、いつになくからかいたくなってしまう。
「頼むよー、一人で料理つくるのはつらいんだよー」
若干涙目になりながら言う彼女の姿はなんか、こう、苛めたくなる。
ああもう、なんでこんなに可愛いの? エプロンのせいかムラサだから?
「聞いてるのー? 手伝ってよう」
は、いかんいかん、見惚れてしまった。
私は誤魔化すように咳払いをする。
「だいたいなんで今日にパーティするのさ。クリスマスは昨日でしょ?」
「それは聖発案よ」
「ふぅん?」
「『仮にも毘沙門天様を信仰してる身では大っぴらにクリスマスを祝うわけにはいきません。けど、次の日ならただの宴会になりますね』って」
「はぁん……」
さすが破戒僧を言うべきか。トンチが聞いている。
まあ、毘沙門天もそんなことをいちいち気にするとは思わないが。
「で、私が食事担当になったんだけど……結構大変なのよ。だから手伝ってください」
もう恥も外聞もなく思い切り頭をさげるムラサ。
ああ駄目。苛めたくてしょうがない。
「んー、どうしよっかなー」
「お願い! 本当にお願い!」
わざとらしく悩む仕草を見せると、ムラサは必死に哀願してくる。
この時点で手伝ってやる気にはなっていたのだけど、折角の機会だ。
もうちょっといじめてやろう。
「タダじゃ嫌だなー、何か欲しいなー」
「うー……大きめのケーキを食べる権利は?」
「まあ、悪くはないわね」
「そ、それと! 今日、私が一緒に寝てあげるのはどう!」
Yeeeeees!
じゃないじゃなくて。それはまずい。
即答しそうになったが、翼を脚に突き刺すことで押しとどめる。
しかし、なんてことを言うのかこいつは。
涙に潤んだ目でそんな事言われたら自爆以外ならなんでもきいてやらあ。
「そそそそそそうね。ムラサが可愛いじゃなくて可哀想だからソレくらいで手を売ってあげないことも無きにもしもあらずよ」
よし大丈夫。なんとかごまかせた。
「本当! ああ、助かった……ありがとうぬえ」
「ま、まあたまにはね」
こっちの事情を何も知らない無垢な笑顔を向けるムラサが眩しすぎて私はそっぽを向く。
頬が熱いのは関係ない。ないったらない。
「けどさ、なんで私なの? 他の奴らでもよかったじゃない」
「んー? そりゃあ、ぬえと一緒がよかったから」
あっけらかんと応えるムラサ。
あまりにあっさりと応えるものだから理解が遅れて、理解したときには顔を枕に埋めていた。
「どうしたの、ぬえ?」
「うっさいハゲ」
「おおう、素直に傷つくわそれ」
うるさいうるさい。
本当に何なんだコイツは。どうしてそんな恥ずかしいことを素面で言えるんだ。
「あ、そうだ。先に渡しとくね」
「……なに?」
枕を抱いたまま起き上がり、差し出された物を受け取る。
照明を受けて銀色を反射させるそれは錨のキーチェーンだった。
大きさの割に重く本物の銀なのだろうか。
「クリスマスプレゼント。酔わないうちに渡したかったから」
「へ、へえ……あ、ありがと」
何分プレゼントなんてもらった経験はないせいで、気の利いた返しも出来ない。
私もなにか用意しておけばよかったかな。
「けど、錨か……ムラサらしいね」
「それは願いも込められてるんだよ」
「願い?」
「そう、ぬえが何処にもいかないように。気がついたらいなくなってるんだもの。ちゃんと繋ぎ止めてられるようにね」
ちょっと気障だったかな。
ムラサは照れくさそうに頬を掻く。
そんな反応をしないで欲しい。こっちまで恥ずかしくなる。
だけど、それ以上に嬉しくて頬がゆるむ。
だって、ムラサも側にいて欲しいって思ってるってことだから。
だめだだめだ。こんな顔は見られたくない。
私は再び枕に顔を埋めた。
「……これじゃ小さすぎるよ」
ムラサが気障ったらしいことを言うせいで。私も彼女を喜ばせたくなった。
「あはは……私じゃソレが限界だったんだ……」
そうじゃない。そういう事を言ってるんじゃない。
これから言おうとすることはかなり気障で恥ずかしい。
これも全部ムラサのがうつったんだ。ムラサの馬鹿。
私は真っ赤であろう顔をあげ、八つ当たりの感情のままにムラサの手を握る。
冷たいのに、嫌な感じはしない、安心する手。
「私の錨はもっと大きくて……馬鹿でにぶちんで脳天気で……」
頭の底まで熱くて苦しい。体中から汗も吹出して息もうまくできない。
しぼり出すように熱い吐息と一緒に言葉を吐き出す。
「だけど……優しくて……かっこ良くて……いい奴だから」
だから、ちゃんと繋いでいて。
強く、絡めるように手を握りしめた。
ああやだやだ。
もうこんなこと二度と言わない。こんなこと素面で言えるなんてやっぱりおかしいよ。
ムラサのバーカバーカ。
顔を逸らしたいけど、じっとムラサが見つめるから逸らせない。
なんか悔しかったので睨みつけてやる。
そしたら、難しい顔をしていた彼女はふっと表情を緩ませ微笑んだ。
「……ん、わかった。ちゃんと繋いでおくよ」
流石のにぶちんでも意味がわかったのか、頬を赤く染め手を握り返してくる。
冷たくてやさしいムラサの手に包まれて、胸の中からぽかぽかになる。
これなら暖房なんていらないや。
「ふふっ」
「えへへ……」
赤面した顔を合わせると、おかしくもないのに笑ってしまう。
どうしてだろう。ただ手を握ってるだけなのにすごく幸せだ。
ずっとずっと、これからも。彼女に触れていたい。
「それじゃあ、手伝いよろしくね」
「うん!」
しっかりと私は握り返す。
何処にもいかないように、離れたりしないように。
私を繋ぎ止めるのは大好きな彼女。
幸せです。
ええのぅ
だがGJ
鈍感ムラサが天然格好良くて素敵、ツンデレぬえがムラサ一筋で可愛くて素敵でした。
幸せになれよお前ら!
after:(・∀・)イイ!