※ この作品は甘リアリシリーズの続きになりますが、基本的には魔理沙とアリスが相思相愛であることさえ分かっていれば大丈夫です。
―ある春の幻想郷のお話だ。
エイプリル=フールという慣習は、当然幻想郷にもある。天狗の新聞には博麗神社の賽銭箱に金塊をぶちこまれて破壊されるだとか、てゐが嘘をつかない事を宣言するとか、輝夜と妹紅がクロスカウンターで相討ちになって二人とも帰らぬ人になったとか、こいしの第三の目が開眼したなどといったジョークニュースが踊ったりするし、私もちょっとしたウソでアリスをからかったりして、エイプリル=フールを満喫したりもしてた。
今日はそのエイプリル=フール。と、言う訳で、一つアリスをからかってみようと思う。
「おはよう、アリス。」
「おはよう、魔理沙。」
少しだけ整理整頓がなされた私の家の私の寝室、いつものように私達は共に目覚めた。朝の挨拶を交わして、おはようのキスをする所までは全くもって普段と変わらない朝だ。本当に良い朝だが・・・
「今日も、良い朝【ね】・・・素敵な一日になりそう【だわ】」
「!?」
ようし、アリスが面食らった顔をしてやがる。予想していた通りのリアクションだ。一人でお出かけする時に内緒で練習した甲斐があったようだ。
「ど、どうしたの・・・魔理沙、変なキノコでも拾い食いしたの?」
「え?やだなぁ、アリス、私は普通【よ】。」
ここまでは完璧だ。練習に練習を重ねた結果に私は満足していた。だが、ここで止めてはいけない。アリスは普段は冷静だが、想定外の事態が発生した場合はパニックに陥りやすい。そんなアリスはかなり可愛い。いや、すごく可愛い。そこでとっておきの殺し文句を用意しておいたからこれをアリスに聞かせればどうなるのかな・・・?物は試しということでさっそくやってみた。
「今日から、アリスのお嫁さんになるために、女の子らしく喋ろうって決めたのよ!」
アリスにトドメを刺すべく、この日の為だけに練習してきた必殺の乙女スマイルを浮かべておいた。顔がにやけるのを抑えるのが大変だ、アリスの奴、鳩が豆鉄砲食らったような顔してやがるぜ。
「どうだ?効くだろう?これが私の4月⑨だー。」
そして勝利宣言。朝からアレだけ戸惑うアリスの顔が見れて幸せなんだぜ。いつも色んな表情のアリスを見ているけど、たまには驚いて呆然としているアリスというのも悪くない。とりあえず困惑するアリスを堪能し満足したので、私は身を起してベッドサイドに置いていた着替えに手を伸ばそうとしたが・・・・
「なに・・・これ、すっごく、くぁわいい!!」
「お、おい、よせ、止めろ!」
「あぁ・・・もう、可愛すぎて仕方無いわ!」
「むぐぅ、こらー!人の着替えを邪魔するなー!!」
「その必要はないわよ・・・魔理沙・・・・・頂きます。」
「アッー!!」
これは予想外だった。鼻息の荒いアリスに朝から思いっきり愛されるなんて思っても見なかった。いきなり朝からそれはどうかとも思う。でもアリスに撫でて貰うととっても心地いいんだぜ?突然されたのはくやしい・・・けど、相手がアリスだから・・・・断る理由は無い。
私は、されるがまま、たっぷり30分ほどアリスの寵愛を受けた。
「うぅ・・・朝からそんな・・・・・」
「魔理沙は可愛い女の子だけど、その喋り方がいけなかったのよ。」
「謀ったな、アリス!!」
抗議する私にそっと耳に顔を近づけるアリス。もう散々されている事なので既に慣れてはいるが、やっぱりアリスが近くにいると凄くドキドキする。
「今日は男言葉禁止ね。もし破ったら、結婚式にはタキシードを着て出て貰うわ。」
「そ、そんなぁ!ドレスを着たら良いって言ってくれたのは嘘だったのか。」
「ドレスは女の子の着るものよ、女の子がだぜだぜ言うものかしら?」
「確かにそれは、そうだけど・・・」
反論しかけたが、アリスの意見にも一理ある事に気が付いた。
私は普段からこうやって男言葉を放す。その理由は、孤独で弱かった私が自分を強く見せるためだ。それが何時しか口癖になっちゃって、普段の生活では特に問題も無かったのでそのままにしてた。
でも、やっぱりアリスは気にしてたのかな・・・。
アリスにもお願いされたし・・・今日だけは、男言葉を喋る私を封印して女言葉で過ごしてみよう。幸い、今日はエイプリル=フール。少々の事ならエイプリル=フールの嘘だと言えば、照れ隠しもしやすいしな。そう、ココロに決めて、ぎゅっと目を閉じる。
今日は、女言葉でいいんだ。偽りの強さの象徴である男性的な側面を出さなくても良いんだって・・・
「・・・わかったわ。」
「やけに素直ね?どうしたの?だぜだぜ言って抵抗するかと思ったわ?」
私の反応にアリスはまたも驚いている。私の性格をよく知っているから尚の事なんだろうな。
「ん?アリスの前だし、別にいいかなって、ね。」
「そう、ありがとね。魔理沙。」
「えへへ。」
私の封印していた一面が、どんどんココロから染み出して来る。自分に素直になれることがとても心地よかった。
―それから数時間後、私の部屋にて。
「じゃあ、始めるわね。服を脱いで。下着は良いわよ。」
「はーい。」
先日の約束通り、新しいドレスの採寸作業に入った。まぁ、採寸作業だから衣類は邪魔だよな?私は、エプロンドレスを脱いで、キャミソールとドロワ姿になる。この出で立ちは幼少期より全く変わっていない。そろそろ、大人の女になったのだから変えてみようかなとは最近思う・・・けど、見られた時に恥ずかしいのはやだな・・・
「ふふっ、はは・・・あ、アリス、くすぐったいよぉ。」
「ほら、動かない。次、胸回り行くわよ。」
まぁ、ぶっちゃけた話何度も触られているので、既に慣れてはいるものの、やっぱり愛するアリスに身体を触られるのはすこし心地よくも照れくさく、くすぐったい。メジャーとアリスの手が私を滑るたびに、言いようの無いくすぐったさが私を襲う。笑いをこらえながら暫く耐えていると、私が一番気にしている所の採寸が終わった。
「・・・まぁ、最初に出会った時から、少しは大きくはなってるわね。」
「そう?アリス位は欲しいと思うんだけどな・・・」
「揉めば大きくなると聞いた事あるけど、本当かしらね。」
「なら、少しは効果が出始めてもいいんじゃないかしら?」
手を置いて、私を撫でるアリス。そして、自分の胸元に目をやる。決して貧相ではないと言われるが、同年代の早苗や咲夜と比較すると、やっぱり気になってしまう。咲夜は一説では詰めものだとか、防弾用の下着を付けているからなんとか等と言う噂はあるにはあるが、昨年温泉に一緒に行った時に見た限りでは十分な大きさがある事を確認している。
後は霊夢だが・・・霊夢とは五十歩百歩のお話だから、敢えて省略する。
「良ければ、今からでもマッサージするわよ?」
「えぇっ、それは・・・・ねぇ。」
アリスの手が怪しく動いている。しかし、私の体は動かない。きゅっと口をつぐんだ。だが、次の言葉を発する前に、異変は起きた。
「魔理沙ー、アリスー、遊びに来てやったわよー」
アリスの声並みに聞き覚えのある明朗な声、その主の事も私は良く知っている。私の親友、霊夢である。その霊夢が採寸している私の部屋の窓から入ってきたのである。
だが、今の状況は非常にマズイ。キャミソールとドロワ姿で、アリスの手が私の胸に置かれているこの状況を見てしまった霊夢は、顔を真っ赤にして、首の後ろに手を回して口を尖らせて口笛を吹く素振りをしてる。そして、その場で180度ターンを決めて
「すまん・・・ごゆっくりしていってね!!!」
と恥ずかしさが交じった叫びを残して部屋を飛び出そうと大地を蹴った。
「れ、霊夢!!」
「ああぁ、アリス、誤解されちゃったじゃないかよ!とりあえず霊夢をなだめてあげてやらなくっちゃいけないわ。」
混乱の余り、男言葉と女言葉が交じったセリフが出てしまった。実際にはいたって真剣に採寸をしていただけだし、そもそも私とアリスが恋仲にあるのは先日の新聞で百も承知じゃないか。メジャーで手がふさがっていたアリスに代わって私は、指輪の機能を使って人形を動かし、霊夢を抑えた。
「・・・とりあえず制圧したわ。」
「上出来ね、魔理沙。変わって、事情を説明してくるから。その内に着替えて。」
「うん。」
一つ頷いて、私は魔力の糸をアリスに譲った。ちらと横目で見ると、取り押さえていた霊夢を起ちあがらせてソファーに座らせる動作を正確に、素早く行っている。やはり本職には敵わないのかな、と思いながら私はエプロンドレスの袖に手を通した。
「・・・何回もノッカー鳴らしたけど、出てこない物だから、そのまま入っちゃった。」
「魔力施錠は?」
「魔力施錠なんて、私にはどうにもできないわ。それに、魔理沙が、入れない時は、私の部屋の窓が通用口だって言ってたし。」
「なるほど、で、どうしてここに?」
「たまには、遊びにいってみようかなぁ・・・なんて。ちょくちょくウチには二人とも来てくれるけど、私が二人の所に遊びに行った事はあんまり無かったから。」
「それもそうねぇ、まぁ、ゆっくりしていきなさいな。」
「人の・・・いや、そうか。今は二人で住んでるもんね。」
居間でアリスと話す霊夢、白昼堂々「事」に及んでいたのではないかという誤解は解けたようだ。着替え終わった私は、起ち上がる緑茶の香りを楽しみながらお茶の準備をしていた。
「お茶が入ったよー霊夢。」
「お、ありがと、魔理沙・・・?」
「どうしたの霊夢?何か可笑しかった?」
「い、いや、別に何でも・・・」
私は、用意した急須をテーブルの中央に置いて椅子に腰かけた。真ん中に置かれたマカロンは私のお手製だ。緑茶にマカロンの組み合わせがミスマッチだったかなぁ、と思ったりもしたのだが、今日の客は緑茶が大好きな霊夢なのだ。お客を持て成すのもレディの仕事だと私は思っている・・・普段は客になってばかりだが。
「あ、そーだ。今日はお土産があるのよー」
「えっ、なになに?」
「最近人里で評判の番場屋のおはぎよ、魔理沙もアリスも好きでしょ?」
「あら、ありがとう。開けて良い、霊夢?」
「どうぞ、アリス。」
霊夢は最近の人里で流行っているスイーツをお土産に持ってきてくれた。それだけでも、既になんか嘘っぽい。泥団子じゃないかな?と疑っていたが、アリスが包みを開けた時にそれは杞憂に終わった。小豆色・黄金色・抹茶色をしたおはぎが鎮座しているその様を見て、私は思わず感嘆の声をあげた。
「うわぁい!これ、美味しいんだよねー!ありがと、霊夢ぅ。」
「・・・魔理沙?」
「どうしたの霊夢?」
どこかいぶかしむような目を向けた霊夢。私は、この口調に原因がある事をすぐに理解した。霊夢と友達始めたときからずっと男言葉だったしな。しばらく思案の素振りを見せせつつ顎に手を乗せた霊夢であったが、やがて言葉を発する。
「あんた、口調が変よ?変なキノコでも食べた?」
「いや、そんなのは食べて無いよ。」
「じゃあ、アリスに何か盛られたとか?」
「アリスはそんな事しないよ!ねぇ、アリス!!」
「ええ。私は妻の食事に一服盛るような卑劣な真似は絶対にしないわー」
「ふーん」
そう言って霊夢が、小豆色のおはぎにかぶりついた。私も、黄金色のおはぎを食べる。品の良い甘みが私の舌の上に広がる、美味しい。流石は霊夢、美味しい物を良く知っている。おはぎに舌鼓を打っていると、再び霊夢が。
「じゃあ、どうして今日の魔理沙の口調がだぜだぜしてないの?」
「それは「私が、今日一日女言葉で喋りなさいって言ったからよ。」」
私の言葉を遮るようにアリスが言った、おかげで説明が省けた。私の今の口調で説明してたら時間だけがかかると思ってたから丁度良かったんだぜ。しばらく霊夢が頷いていたかと思ったら、目をカッと見開いてアリスの方を見てちょっと興奮気味に言葉を発する。
「グッジョブ!!いや、ゴッドジョブと言っても過言じゃないわ!!」
「でしょ、霊夢!!魔理沙の可愛さが如何なく発揮されるしょう!!!」
サムズアップにサムズアップで答えるその様子に呆気に取られる私。どういうことなの・・・。だが、可愛いと言われて嬉しくない筈はない、私だって女の子だ。男性的なカッコよさを追求していた節はあるけれども。
「いやー、長年友人させてもらってるけど、こんなに破壊的に可愛い魔理沙は始めてよ。」
「霊夢もそう思ってくれたのね、いやー流石は霊夢よね。」
「あぁ、ホントお持ち帰りしたいわ。アリス、一日貸して?」
「ダメ。いくら霊夢の頼みでも、それだけはダメ。」
「うん。それだけはダメなの。ごめんね、霊夢。」
「ちぇー」
三人寄れば姦しいとは言うが、まさにその通り。神社の縁側が私の家のテーブルに引っ越しただけのような、様々なお話の羅列。私のアリスの関係が変わっても、霊夢と話す内容は変わっていない。神霊がわらわら湧き始めた事が最近の話題だったが、その事を三人で話をして。アリスも妖怪に括られる存在ではあるが、元が人間だったためか、こうした異変には興味があるようだ。ただ、解決にはあんまり行かないけど。
そんなこんなで、すっかり日も暮れて。ぐぅ、とお腹の虫が鳴った。
「お腹空いたなぁ・・・」
「魔理沙、今日は何が食べたい?」
「そうねぇ・・・何がいいかな。」
「生姜焼きでお願い、アリス。」
「霊夢、気持ちは分かるけど、フライングはダメよ。」
「私は空飛ぶ巫女よ、フライングなんてお手の物よ。空飛ぶだけに、ね。」
しれっと言う霊夢、上手い事いったつもりか。だが、私の答えはもう半分出ている、後はアリスが乗ってくれるかだなー。
「私、ハンバーグがいいなっ!!」
本日二度目の満面の乙女スマイル。言い終わった後、アリスと霊夢がぽーっとした表情を浮かべて頬を赤らめている。効果はあったようだ。私は、膝を付いて顎の横に両手をぐーにして置きアリスのリアクションを待つ。アリスは暫くぽーっとしていたが、咳払いをしてから、腕組みをして口を開いた。
「・・・厳正なる選考の結果、ハンバーグが2票、生姜焼きが1票で今日のおゆはんは、ハンバーグに決定致しました。」
「どうしてそうなるのよ?」
「私は魔理沙の妻(予定)よ。妻の意見に従うのは当然の事じゃない。」
「とんだ民主主義ね・・・」
「郷に入れば郷に従え、という言葉もあるわ。さぁ、すぐに作っちゃうからねー」
「私も手伝うー」
「魔理沙、ありがとう。でも今日は良いわ。ゆっくりしてなさい。」
「はーい。」
アリスはそう言うと、上海やその他の人形を伴って居間を後にした、居間に残された私と霊夢は、再び取りとめの無い話を始める。
「魔理沙、ほんと、ハンバーグが好きよね。」
「うん、大好きだよ。」
「アリスとどっちが好き。」
「れ、霊夢の意地悪!アリスに決まってるだ・・・・もん。」
「おぉ、あついあつい。いやー、ホントに仲が良いのね。」
おおっと、危ない危ない。感情に任せて男言葉を発してしまう所だったぜ。
そんなアリスの料理の腕前だが、素晴らしいの一言に尽きる。特にこのハンバーグは私の大好物である。最初食べた時はこんなに美味しい物が世の中にあるのかと思う位の衝撃を受けたものだ。それ以来、定期的に作ってもらってるし、私自身も作り方を覚えた。アリスから教えて貰ったものにキノコのソースをあしらう等と言った、自分なりの工夫もしている。
―まぁ、今日はキノコを採りに行ってないので、キノコのソースは期待できないだろうが。
キッチンからハンバーグの焼ける良い香りが居間に抜けると、ワクワクが止まらなくなってくる。霊夢の表情もゴキゲンそのもの。人形達が春の野菜がぎっしり入ったサラダボールやスープ皿を持ってきてくれたので、私は人形からそれを受け取り、テーブルに並べる。霊夢も一緒になって、食卓の準備をすれば、すぐにメインディッシュの受け取り準備は万全の物となる。
「はーい、出来たわよー」
「うわぁ、美味しそう。」
アリスが運んできたお皿の上に鎮座するハンバーグに目を輝かせる私。俵型のハンバーグの上に、白い塊が一つちょこんと乗った今日のそれに私は疑問をぶつけた。
「ねぇねぇ、アリス?これ・・・?」
「霊夢が和食をリクエストしたから魔理沙の希望との間を取ってみたの、早苗に教えて貰ったおろしポン酢ソースにしてみたわ。」
そして、周囲への気配りを忘れないのがこのアリスである。霊夢のリクエストに添えなかった分をこうやって配慮してくれる。私はこういう所まで気が回らない事があるから、このアリスの振る舞いは見習うべきだなって・・・思う時がある。
「流石アリス、料理上手ね。いつも食事はアリスが?」
「違うわ、魔理沙と交代で作ってる。洋食か和食か気分で交代制、かな。」
「和食は私が作るんだ、アリスは洋食ね。」
「ふーん。意外とどっちかに押し付けずに、ちゃんと分担してるのね。魔理沙が亭主関白やってるのかとばかり思ってたわ。」
「うちには亭主はいないわ。二人とも嫁だもの、ね、魔理沙。」
「うん。」
「それもそっか、なるほどねー。」
そう言ってうんうんと関心する霊夢。アリスがエプロンを外して、私の隣に座れば、楽しい団欒の出来上がり。今日もご飯が食べられる事に感謝して、私達は手を合わせた。そして始まりの挨拶を揃って告げる。
―いただきまーす。
・・・結局ぶーたれてたものの霊夢は、おろしポン酢ハンバーグを美味しいと言いながら綺麗に平らげ、豪快にお代わりを三杯した。まぁ、それでも、こうやって嫁さんと友達に囲まれた食卓はいつもと違う賑やかさがあった。一人より二人、二人より三人の方が、食事だって美味しい。いつかは、私の子供を囲んで食事をする日も訪れるのであろうか・・・
私が忘れかけていた家庭の団欒に再び混ざる事の出来る日が。
この家で・・・・アリスと、子供に囲まれた私が笑っている日が。
食後のお茶を楽しみながら、私はずっとそんな事を考えていた。かちかちと言う壁時計の音に交じって、ボーンボーンと鐘の音が8回鳴った所で霊夢が起ち上がった。
「そろそろ帰るわね。」
「あら、別にいいのに。遠慮なんていらないわよ、霊夢。」
「まぁ、らぶらぶのお二人さんの夜のお邪魔にならぬようにしないとね、ねっ、アリス。」
「な、何言ってるのよ・・・」
「冗談よ、冗談。」
そう言って玄関先に移動した霊夢は靴を履いた。その姿を見守る私とアリス。
「あ、そーだ。結婚式やるなら、私の所でしなさいよ。格安にしとくから」
「そこは・・・友達のよしみで安くならないの?霊夢。」
「乙女な魔理沙に免じて・・・と言いたいけど、そんな事は日取りとか全部決まってからね。」
「また幻想郷中巻きこんで馬鹿騒ぎになるんでしょうね。」
「そうね、アリス・・・でもあんたららしい賑やかな式になると思うわ。」
コンコンと床を蹴って、靴と踵のずれを修正。よしと頷く霊夢。踵を返した先にあるのは、魔法の灯りで照らされた桜の蕾。もうすぐ、花になるその蕾を見て色んな事があった冬の終わりを実感した。
「そろそろ桜も咲くから、お花見の段取りもしないとね。」
「そのときは、霊夢、よろしくー!」
私は霊夢の肩を叩いてそう言った、すると霊夢は少しだけ呆れたような困ったような顔をしてから。
「また会場は私の所か・・・たまには早苗の所も使ってよ。じゃ、またね!」
セリフの内容にしては爽やかな表情を浮かべた霊夢は、そう言うとふわりと飛び上がり、夜空へと消えて行った。その姿を見送りながら、私とアリスはお互いを見合って笑った。
「お花見にはドレス、間に合わせなきゃね。」
「うん!」
「さぁ、今日も遅いわ。早く寝ましょうか。」
「そうだね!!」
家に入った私とアリスはお風呂に入る。いつものように、髪を洗い、身を清めれば一日の疲れが吹っ飛んで行く。風呂から上がって、お揃いのパジャマに着替えれば、後は眠って、明日と言う日を楽しむ準備をするだけだ。と、言う訳でアリスと共に寝室に移動する。
「どうだった、アリス?一日女言葉で過ごしてみたけど・・・変じゃなかったか?」
「抱き締めて独り占めしたい位に可愛かったわよ。あら、男言葉。」
「あ・・・・しまった。」
ここに来て、しっかりと男言葉で喋った事を聞かれてしまった。折角ここまで頑張ったのに・・・。悔しさのあまり、目の端に涙を浮かべた私を見たアリスは、くすりと笑ってから。
「・・・今日はエイプリル=フールよ。嘘に決まってるじゃない。」
「あ、アリス!?」
「魔理沙・・・私が嘘を付けないって例外は無いわよねー」
完全に失念していた。私は朝に早々に嘘をついて目的を達成していたから、きれいさっぱり頭の中から抜け落ちていた。四月馬鹿を忘れた⑨だ。チルノならやりかねないが、私もやるとは思わなかった。
「おいーアリス、それは無いぜー。ついつい本気になっちゃったじゃないかー」
一度自分の封印していた側面を出して一日過ごしてみようと決めていたから、怒る理由は無いのではあるが、一応言っておく。すると、アリスは両頬に手を添えて、顔を近づけてきた。目と目が合って、アリスの瞳に私が映る。穏かな眼差しで私を撃ち抜いたアリスは優しく受け止めるような口調でそっと言った
「魔理沙はだぜだぜ言ってても、うふうふ言ってても、私の大好きな愛する人には変わりないわよ。それは、嘘じゃない。紛れもない事実よ。」
―うん。こつんとおでこをぶつけて、目を閉じる。私を受け入れてくれるという、アリスの言葉が、とっても嬉しかった。思わず泣きそうになった、それくらい。でも、こんな所で泣いてたら、涙がいくらあっても足りないんだぜ?だから、私は、微笑みを浮かべてアリスを見つめ直す。
「しかし、アリスもジョークが上手くなったな・・・冗談なんて言わなかったのに。」
「お嫁さんの癖が移ったのよー、明日は私が、だぜだぜ言っちゃおうかしら?」
「それは魅力的な提案だが、それもジョークだろ?」
「ええ。ジョークだぜー。」
笑うアリス。この笑顔で私も笑顔になれる。そして、だぜだぜ言ってても、うふうふ言ってても大好きと言う言葉をぎゅっ、と噛みしめた。その言葉が、ココロにじんわりと染みて、広がって行く。
―私は私らしくあればいいんだ。
胸に手をやると、ゆっくりと脈動する心臓が私にそう、語りかけて来るような気がした。
「さぁ、明日からドレス作りに入るわよ。早く寝ましょう。」
「あぁ、そうだな。」
胸元に当てた手に、そっとアリスの手が添えられる。その手に導かれるようにして、私はアリスの後に続いてベッドに潜り込む。
「今後も、気分でいいから女の子言葉で喋って欲しいな・・・魔理沙。」
「善処するんだぜー」
「お休み、魔理沙、良い夢を。」
「ああ、アリス・・・お休み。」
パチンと指を鳴らせば、私の部屋を煌々と照らす魔力の照明が消え、代わりに広がるのは静かな暗闇の世界。暗闇の世界でかつて見ていた恐怖や、孤独はここには無い。私を否定された結果、独りで生きる事になって見た世界・・・
親父に否定された・・・私が見た、恐怖と孤独に満ちた世界なんてものは・・・・・
今、こうして否定された生き方、そして私が選択してきた生き方を一緒に歩いてくれる大切な愛する人が居る。私を抱きとめてくれている。その事実に感謝しながら、私は、眠りに落ちた。
―繋いだ手の先、閉じた瞳の向こうで眠るアリスに感謝しながら。
・・・To be continued
相変わらずのラブラブぶりで甘かったです。
どうなるか楽しみです
あぁ、甘かった!