「あ、おじゃましてるわ」
境内の掃除から帰るとなんとも見慣れない奴がそこにいた。前に会った時は花の異変の時だっただろうか。
役職:ヤマザナドゥ、四季映姫が家の玄関前に座っていた。
何に座ってるの。え、キノコ?
何の因果か知らないが、縁側でお茶を振舞うことになった。二つの湯呑みをお盆に乗せて持っていく。
「ありがとう、客人をもてなすのは積むことのできる善行の一つよ」
礼を言われてるのに全くそんな気がしなかった。
彼女はそう言って手を伸ばし湯呑みを取る。取ったのはいつも私が使うほうのものだったが、まあ気にはしないしするまい。
私も隣に座る。思わずどっこいしょと言いそうになり、寸前でやめる。魔理沙なんかじゃないのだから別段からかわれることもないのだが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
湯呑みに口をつけ、お茶をすする。ズズという音が重なる。
「「‥‥‥ふぅ」」
「なんで真似するのよ」
「いえ、なんとなく」
微笑んでいる閻魔は意外とお茶目だった。もしかしたら仕事以外の場では案外気さくなのかもしれない。少しだけ彼女と近づけたような気がした。冥土に近づいているというのならお断りだが。
二人で呆けた様にのんびりと。どこを見るわけでもなく、何をしゃべるわけでもなく。
縁側に差し込む日の光を味わい、ゆったりとした風が肌を撫ぜていくのを感じる。
ときたまお茶を飲んで、その熱さを舌で転がし、喉を過ぎれば合わせたように二人で息を吐く。表情がだらだらに緩んでいるのが見なくてもわかった。
うららかな春の午後のことであった。
そんな風に時間を消費していくと、お茶が切れた。
ちょうどいい頃合かなと思って尋ねる。
「なんでキノコに座ってたのよ?」
「おや、そこを訊かれるとは」
「気になるわねぇ、閻魔様が毒々しい赤と紫のキノコもってたら」
「誰が持ってようと気にはすると‥‥‥。実はここによる前、魔法の森によって。魔法使いに会ったけれどこれをくれたらさっさとどこかに行ってしまったのよ」
「自分の近所で閻魔と出くわしたらそりゃ逃げるわよ」
「むむ、私はただ飛んでいただけなのに。必要以上に皆が怯え過ぎている」
彼女は寂しげに溜息をついた。
自分の肩書きゆえに、自分からは傍に行けず、相手は離れていってしまうというところだろうか。私的な感情を誰かに見せなさそうな彼女の気持ちを垣間見た気がする。
「っと、そういやどうしてここに?」
「やっと訊いてくれたわ。実はこっそり仕事を抜け出してきたのよ」
「へぇ」
「ぬぅ、反応が薄い。もっと驚くかと思っていたわ」
「色々と驚くような目には遭ってるもんで」
それにしても閻魔が仕事を抜けてくるなんてねぇ。ありゃ、仕事を抜け出してきた? つまりそれはサボタージュ。あの真面目一直の閻魔がサボタージュ!? よくよく考えてみると結構な珍事じゃないのこれ。天狗がネタにしそうな大事‥‥‥というほどのものでもないか。
隣を見ると彼女は内心少ししょげているように見えた。
ごめん、私ここ驚いておくところだったわ。
「しかし、また変なことするわね」
「ええ、自分でもよくわかってないわ、なぜこんなことをしたのか。一応理由らしきものがあるとすれば小町かしら」
「あの死神の」
「そう、なんで彼女があんなに怠けたがるのか私には理解できなかった。だから一度仕事を抜けてみれば何かがつかめるかもしれないと思って」
「そしたら他の人妖のことも少しはわかると思って?」
「! 驚いた。読まれていたのね。そうよ、閻魔としては変わっているかもしれないけど私は人や妖怪とも親しくなりたかった。人と妖怪が共存している幻想郷に在って、私のような閻魔も輪に入れると思ったのかもしれない」
「ふぅん。で、結局何かつかめたのかしら」
「わからないわ。霊が運ばれてこない職場を抜け出して、幻想郷を眺めて回って。確かにそれは素敵なことだった。けれど休みをとればいつでもできたこと。一つ言うならあなたのお茶に癒されたことくらいかしら」
「十分じゃない」
「?」
「さぼって飲むお茶は和む。こんなもんで十分なのよ、理由なんて。どうせさぼる理由に大した理由はいらないわ。休憩時間とは別に仕事の合間にゆっくりする。小さな癒しを得たり、発見をしたり。さぼることと人妖と仲良くするのがどうつながるかはよくわかんないけれど、あんた位気ぃはってそうな咲夜や妖夢もどこかで息抜きしてんのよ。ちゃんと息抜きして、肩肘張らないようにすればもっと柔らかく振舞えるんじゃない」
「‥‥‥」
「あれ」
「ふふ、ふふふっ。まさかこの私が逆に説教されてしまうとは」
「あんなもん説教と呼べるのかしら」
「少なくとも私には耳が痛かった。ありがとう博麗霊夢」
「‥‥‥、照れるじゃない」
少なくともさっきのありがとうよりは笑顔だった。
「私はもう行くわ。さすがに小町ももう霊を運んできていることでしょう。あと、あれはさぼり過ぎよね」
「本当にね。あと私からもあと一つ」
「‥‥‥何ですか」
「説教をしないというのなら私は逃げないわ。ここに来たらいつでもお茶を淹れてあげる。またなんかあったらいらっしゃいな」
彼女は大きく息を呑んで、そして今までで一番の笑顔を私に向け、
「あなたには本当にかないませんね」
そう言ってふわり、飛んでいった。
「はあ、かなわないねぇ」
本当はお賽銭をたくさん入れてってくれたからなんだけど‥‥‥、
‥‥‥お賽銭が無くてもいいや。
境内の掃除から帰るとなんとも見慣れない奴がそこにいた。前に会った時は花の異変の時だっただろうか。
役職:ヤマザナドゥ、四季映姫が家の玄関前に座っていた。
何に座ってるの。え、キノコ?
何の因果か知らないが、縁側でお茶を振舞うことになった。二つの湯呑みをお盆に乗せて持っていく。
「ありがとう、客人をもてなすのは積むことのできる善行の一つよ」
礼を言われてるのに全くそんな気がしなかった。
彼女はそう言って手を伸ばし湯呑みを取る。取ったのはいつも私が使うほうのものだったが、まあ気にはしないしするまい。
私も隣に座る。思わずどっこいしょと言いそうになり、寸前でやめる。魔理沙なんかじゃないのだから別段からかわれることもないのだが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
湯呑みに口をつけ、お茶をすする。ズズという音が重なる。
「「‥‥‥ふぅ」」
「なんで真似するのよ」
「いえ、なんとなく」
微笑んでいる閻魔は意外とお茶目だった。もしかしたら仕事以外の場では案外気さくなのかもしれない。少しだけ彼女と近づけたような気がした。冥土に近づいているというのならお断りだが。
二人で呆けた様にのんびりと。どこを見るわけでもなく、何をしゃべるわけでもなく。
縁側に差し込む日の光を味わい、ゆったりとした風が肌を撫ぜていくのを感じる。
ときたまお茶を飲んで、その熱さを舌で転がし、喉を過ぎれば合わせたように二人で息を吐く。表情がだらだらに緩んでいるのが見なくてもわかった。
うららかな春の午後のことであった。
そんな風に時間を消費していくと、お茶が切れた。
ちょうどいい頃合かなと思って尋ねる。
「なんでキノコに座ってたのよ?」
「おや、そこを訊かれるとは」
「気になるわねぇ、閻魔様が毒々しい赤と紫のキノコもってたら」
「誰が持ってようと気にはすると‥‥‥。実はここによる前、魔法の森によって。魔法使いに会ったけれどこれをくれたらさっさとどこかに行ってしまったのよ」
「自分の近所で閻魔と出くわしたらそりゃ逃げるわよ」
「むむ、私はただ飛んでいただけなのに。必要以上に皆が怯え過ぎている」
彼女は寂しげに溜息をついた。
自分の肩書きゆえに、自分からは傍に行けず、相手は離れていってしまうというところだろうか。私的な感情を誰かに見せなさそうな彼女の気持ちを垣間見た気がする。
「っと、そういやどうしてここに?」
「やっと訊いてくれたわ。実はこっそり仕事を抜け出してきたのよ」
「へぇ」
「ぬぅ、反応が薄い。もっと驚くかと思っていたわ」
「色々と驚くような目には遭ってるもんで」
それにしても閻魔が仕事を抜けてくるなんてねぇ。ありゃ、仕事を抜け出してきた? つまりそれはサボタージュ。あの真面目一直の閻魔がサボタージュ!? よくよく考えてみると結構な珍事じゃないのこれ。天狗がネタにしそうな大事‥‥‥というほどのものでもないか。
隣を見ると彼女は内心少ししょげているように見えた。
ごめん、私ここ驚いておくところだったわ。
「しかし、また変なことするわね」
「ええ、自分でもよくわかってないわ、なぜこんなことをしたのか。一応理由らしきものがあるとすれば小町かしら」
「あの死神の」
「そう、なんで彼女があんなに怠けたがるのか私には理解できなかった。だから一度仕事を抜けてみれば何かがつかめるかもしれないと思って」
「そしたら他の人妖のことも少しはわかると思って?」
「! 驚いた。読まれていたのね。そうよ、閻魔としては変わっているかもしれないけど私は人や妖怪とも親しくなりたかった。人と妖怪が共存している幻想郷に在って、私のような閻魔も輪に入れると思ったのかもしれない」
「ふぅん。で、結局何かつかめたのかしら」
「わからないわ。霊が運ばれてこない職場を抜け出して、幻想郷を眺めて回って。確かにそれは素敵なことだった。けれど休みをとればいつでもできたこと。一つ言うならあなたのお茶に癒されたことくらいかしら」
「十分じゃない」
「?」
「さぼって飲むお茶は和む。こんなもんで十分なのよ、理由なんて。どうせさぼる理由に大した理由はいらないわ。休憩時間とは別に仕事の合間にゆっくりする。小さな癒しを得たり、発見をしたり。さぼることと人妖と仲良くするのがどうつながるかはよくわかんないけれど、あんた位気ぃはってそうな咲夜や妖夢もどこかで息抜きしてんのよ。ちゃんと息抜きして、肩肘張らないようにすればもっと柔らかく振舞えるんじゃない」
「‥‥‥」
「あれ」
「ふふ、ふふふっ。まさかこの私が逆に説教されてしまうとは」
「あんなもん説教と呼べるのかしら」
「少なくとも私には耳が痛かった。ありがとう博麗霊夢」
「‥‥‥、照れるじゃない」
少なくともさっきのありがとうよりは笑顔だった。
「私はもう行くわ。さすがに小町ももう霊を運んできていることでしょう。あと、あれはさぼり過ぎよね」
「本当にね。あと私からもあと一つ」
「‥‥‥何ですか」
「説教をしないというのなら私は逃げないわ。ここに来たらいつでもお茶を淹れてあげる。またなんかあったらいらっしゃいな」
彼女は大きく息を呑んで、そして今までで一番の笑顔を私に向け、
「あなたには本当にかないませんね」
そう言ってふわり、飛んでいった。
「はあ、かなわないねぇ」
本当はお賽銭をたくさん入れてってくれたからなんだけど‥‥‥、
‥‥‥お賽銭が無くてもいいや。
ところでこのえーき様をお持ち帰りしてもいいですか? いいよね!
しかしまあ純粋なお方だ。
和むねぇ
茶啜っているシーンの空気が匂ってきた気がする
なんでだかGJ
小説でこのような空気感をだせるのはすごいなぁ。
会話テンポや物語雰囲気が私好みでした。
こういうの、好きです。