夏の暑さがまだまだ衰えを見せない葉月の終わり頃、僕は何時もの様に蒸し暑い店内で店番という名の読書をしていた。
基本客が来ないこの店において、こうも暑い日では客は全くと言っていいほど見込めない。来るのは店にとっては害でしかない常連だけだ。
それに、今日はその常連さえも見込めないだろう。何故なら……
「夏祭り……か」
そう、今日は年に一度の夏祭り。
少女達は普段食べられないようなものにはしゃぎまわり、様々な遊戯で遊びまわる事だろう。
「……祭り、か」
最後に参加したのは何時だっただろうか。……少なくとも三十年は覚えが無いな。
「……そうだな」
たまにならば、騒がしいのも悪くは無い。それに騒がない祭りなんてものは祭りではない。
「久しぶりに、行ってみるか……」
そう、呟いた時だった。
「あら、何処にですか?」
後ろから突然声を掛けられた。こんな芸当が出来るのは隙間妖怪と、もう一人……
「……今日はどういった御用でしょうか、お客様?」
本から顔を上げ、問う。
「今日はお客じゃありませんわ。ですから敬語と……その話し方も止めていただけると有難いのですが」
「そうか。それはすまなかったね……咲夜」
もう一人、紅魔館の完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜だ。
「それで……今日は何の用事かな?」
「特に用があるという訳ではないんですが……」
「遊びにでも来たのかい?」
「……駄目、でしたか?」
「いや、商品を壊さない限り自由にしてくれて構わないよ」
咲夜はしっかりと料金を払う上客だし、それくらいのサービスはあってもいいだろう。
「そうですか。……ところで、店主さんは本日何処かへお出かけで?」
「あぁ、今日は里で祭りがあるからね。久しぶりに顔を出してみようかなと思ったんだよ」
「お祭り……あぁ、確か今日でしたわね」
「花火も上がるそうだよ。騒がしいのは苦手だが、騒がない祭りは面白くないしね」
「今から行かれるので?」
「いや、流石にこんな時間から行っても何もないだろう。的屋だってもっと遅くから始まるよ」
「そ、そうですわね。変な事を聞いてしまいました」
「……?」
先程の言葉から察して、咲夜は今日がお祭りだという事を知っていた。恐らく何時始まるかも知っていただろう。そうでなくとも、今年の祭りは花火を押し出している。少し考えれば夜から、早くても夕刻からの開催という事は容易に推測できるだろう。
咲夜は少し天然だが、頭は良い。その結論にも辿り着きそうなものだが……
今日の彼女には何時もの冴えが無いな。
とそんな事を考えていると、咲夜が思考を言葉で遮った。
「て、店主さん、もう一つ聞いても良いでしょうか?」
「ん?あぁ。何だい?」
「だ……誰かと一緒に行く予定なのですか?」
「いや、一人だが……?」
「そう……ですか」
その時、咲夜はホッとした様な表情になった。気のせいかもしれないが、少なくとも僕はそう感じた。
「で、でしたら、一緒に行きませんか?」
「一緒に?」
「一人で回るのも味気ないと思いますし……」
「フム……」
少し考える。
さっきも既述したが、咲夜は上客だ。祭りには元々行くつもりだったし、それにこれは今後紅魔館とのパイプをより強くできるかもしれないのだ。僕としては一緒に行く事は全然構わない。
だが、そうなると一つ疑問が浮き上がる。
「レミリアは大丈夫なのかい?」
「え、えぇ。今日は休めと命令されてしまったものですから」
「フム」
成程、実にレミリアらしい。そう思った。
それに、『休めと命令した』という事は今日一日咲夜はレミリアの事を気にしなくていいという事でもある。
「なら、今日は花火に付き合ってもらおうかな」
「は、はい!」
返事の後、咲夜は「あっ」と呟き、
「で、では準備があるので、また後程」
「……ん?」
準備とは何なんだ?
問おうとした時、其処に咲夜の姿は無かった。
虚空に問うても仕方ない。咲夜が来るまで待つとしよう。
思い、読書を再開した。
***
日も沈みかけてきた頃、僕は店内で読書をしつつ咲夜を待っていた。
「遅いな……」
既に里の方では祭りが始まっているだろう。
「準備とは何なんだ……?」
というか、彼女なら時間を止めている間に準備など終わりそうなものだが……
本を読みながら頭の隅でそんな事を考えていると、扉の鈴が来客を知らせた。
「申し訳ありません、少し遅れてしまいました」
声の主は咲夜。
「少しというような時間かい? 全く……」
言って、本から顔を上げる。
「……え?」
時が、止まった。
修正、その瞬間時が止まった様な錯覚に襲われた。
「これを着るのに少々時間が掛かってしまいまして……時を止めればよかったんですが、何故かお嬢様が許してくれなくて……」
どうですか?と咲夜は続ける。
その身に纏っているのは何時ものメイド服ではなく、浴衣。
色は淡い赤の浴衣に黄色の帯と、何時ものメイド服とはほぼ正反対の配色と言ってもいい。
「……似合いませんか?」
「いや、似合っているよ」
「ふふ、有難う御座います」
そう言って咲夜は笑う。
「では……行きましょうか」
「あぁ、そうだね」
言って、立ち上がる。
「私の所為で出発が遅れてしまいましたから……何か一つ奢らせてもらいますね」
「ほう、それは嬉しいね」
矢張り咲夜は良識のある女性だな。霊夢や魔理沙ではこうはならないだろう。
「さ、早くしないと花火が終わってしまいますわ」
そう言うと咲夜は僕の袖を持って歩き出した。
「……引っ張らないでくれ、伸びる」
「あ……すみません。じ、じゃあ……」
「?」
「てっ……手を繋いでも……?」
「……あぁ、構わないよ」
袖が伸びるよりはるかにマシだ。
「で……では、失礼して」
言って、咲夜は僕の手を申し訳なさそうに持った。
「………………」
「?……顔が赤いが……大丈夫かい?」
「だ、大丈夫ですわ。早く行きましょう」
「あ、あぁ……」
何故か耳まで真っ赤な咲夜に手を引かれ、僕は里に足を進めた。
***
「さて……店主さん、何か食べたいものはありますか?」
「フム……ではあの鯛焼きでも貰おうかな」
「わかりました。少し待っていて下さい」
「あぁ」
「はい、買って来ました」
「早いな」
「えぇ、まぁ」
「では有難く頂くよ」
「はい、どうぞ」
◆◆◆
「飴細工……」
「食べたいのかい?」
「い、いえ! 珍しいなーと思っただけですわ」
「まぁ職人技というものはそうそう見れるものでもないからね。……一つ頂くよ」
「……ホントに凄いですわね、これ」
「ん?……確かに凄いな」
「お嬢様の形も飴一つで……」
◆◆◆
「あら、射的」
「弾幕ごっこでやってるじゃないか」
「まぁそうですが……店主さんはお上手なんですか?」
「……下手も下手、ド下手だよ」
「そうですか」
「あぁ……ん?」
「ちくしょー!取れないぜー!」
「……魔理沙?」
「何してるのかしら?黒白」
「ん……?あぁ咲夜か。いやな、あれが取りたいんだが取れないんだ」
「あらそうなの」
「咲夜、早く行こう……」
「おー香霖!珍しいとか何で咲夜と一緒だとか色々あるけどもうそんな事どうでもいいぜ!あれ取ってくれ元射的屋潰し!」
「それは忘れてくれと……」
「ふふ、随分と物騒な二つ名ですのね」
「ぐっ……」
「取ってくれ取ってくれ!」
「…………(バシッ!)……ほら」
「おーさんきゅーだぜ!これで毎晩もふもふ……うふ、うふ、うふふふふふふふ」
「クスクス……一発で当てるなんて、随分とお上手なんですね?」
「僕にとっての黒歴史だよ……」
◆◆◆
「お、霖の字じゃないか。奇遇だね」
「小町……仕事はいいのかい?」
「年に一度の祭りだよ?来なきゃ損だよ。それより……」
「……何でしょうか?」
「霖の字……メイドと出来てたなんて聞いて無かったよ?この色男!」
「な、な、何を言って……私と店主さんは、まだそんなじゃ……」
「小町、人をからかうのは余り良くないよ」
「やれやれ、霖の字は真面目だねぇ……じゃ、アタイはもう行くよ」
「あぁ、楽しんでおいで」
「ふふーん……お?飴細工……?美味そうだね!ちょっと……」
「審判『ラストジャッジメント』」
「イ゙ェアアアア!!!」
「「あ」」
***
「さて、ここらで良いだろう」
「そうですわね」
里から少し離れた所にある小さな丘。
人も少なく、周りは其処より低いので上を遮るものが無い。
花火を見るには絶好の場所だ。
「しかし……酒が売っていてよかった」
言って、足元に置いてある袋に目を向ける。
紫がやっていた的屋で購入した物だ。
外の世界の酒らしく、冷えた状態で売られていた。
年に一度の空の花。肴にすればまた違った楽しみ方がある。
「はい、どうぞ」
「あぁ、有難う」
言って、差し出された御猪口を受け取る。何処に仕舞っていたのだろうか。
袋から酒を取り出し、僕の御猪口に注いで行く。
「じゃあ、お返しだ」
言って、咲夜の御猪口にも酒を注いでやる。
「有難う御座います。……では、何に乾杯しましょうか?」
意地悪い笑みを浮かべ、尋ねてくる。答えは一択だ。
「……花火だね」
「ふふ……では、花火に乾杯」
「……乾杯」
言って、御猪口を上に上げる。
それと同時に、一発目の花火が上がった。
「お、始まったな」
「あら、そうですわね」
会話は途切れる。しかしそれは花火を見ているからであって、気まずくなった訳ではない。
花火の色彩を眼で楽しみ、空に爆ぜる音を耳で楽しみ、御猪口になみなみと注がれた酒に映る花火を飲み干す様に、一口をじっくりと楽しみながらそれを喉に流し込む。
何と風情があるのだろうか。これは現地に赴かなければ得られない至福のひと時だ。
その事を噛み締めながら、また酒を飲む……ん?
「……?」
何故、酒が入っている?今し方飲み干した筈だ。
杯なら酒が残っていてもおかしくはない。しかし、今手にあるのは御猪口。一口で飲み干せる量しか入らない筈だ。
「………………」
まさか。
何となく横を見る。
「あ……」
酒瓶を僕の御猪口に傾ける咲夜と、目が合った。
合点がいった。つまり咲夜は花火を見つつ、僕の御猪口を気にしていたという事か。
時を止めていたのかもしれないが……そんな事は本人にでも聞かない限り確認のしようがない。そして、このような場でそう言った事を聞くのは無粋だ。
「どうぞ?」
「あ、あぁ……有難う」
御猪口に酒を注がれる。そして咲夜は花火観賞に戻った。
「………………」
注がれた酒を見て、何となく思った。
常識があり、容姿も良く、家事は完璧で気配りもできる。
「咲夜は何時お嫁に行っても困らないだろうな」
「……ふぇっ?」
驚いた様な、呆れた様な、よく分からない声が横から聞こえたので見ると、咲夜は此方を見て顔を耳まで赤くしていた。
「……ん?どうかしたかい?」
「え、店主さん、そんな、お、お嫁だなんて……」
「……?」
最後の方は小声でよく聞こえなかったが、何かを呟いている。
「……どうしたんだい?」
「え……今何を言ったのか分かっていないのですか……!?」
「え、えぇ……?」
言葉から察するに、どうやら無意識に何か彼女を怒らせる様な事でも言ってしまったのだろう。
「……僕は何て言ったんだい?」
怒らせたのなら謝罪をしなければならない。
しかし、謝罪をしようにも何故怒っているのかが分からなければその謝罪も意味を成さない。
無礼を承知で聞いてみた。
「え、えぇぇぇ!?」
……何故か驚かれたが。
「ど、どうしたんだい?」
「え、だ、だってそんな、いきなり……」
「……咲夜?」
「は、は、はい!?」
「……???」
どうしたと言うのだろうか。とりあえず問いの返答を求めよう。こういう時にふざけてはいけない。
「え……あ……う……」
咲夜は数十秒程唸った後、こう言った。
「じ、時間を下さいっ」
言って、咲夜は消えた。時を止めて移動したのだろう。
「……?」
時間を下さい、とはどういう事だろうか。彼女なら時間などいくらでも作れそうなものだが……
それに、僕は僕が言った言葉を聞いただけなのに、何故それが時間を必要とするのだろうか……?
「彼女に何があったんだ……?」
どれだけ考えても、答えは見つからなかった。
「じ、時間を下さいっ」で自分は死にました
もうね良くやってくれましたとしか言いようがないですよ
そんでもって小町はまた元の場所に戻ったんですね、安心しました
華彩電波、恐ろしいな。
神奈川~近畿(中心部)までを軽く計測したら348.398 kmあったぜ。結構な範囲だ。
これを近距離で浴びてた下上は…
そして華彩電波恐るべしwwwww
そして7000番目おめでとう御座います!!
朝からいいものを頂きました、ご馳走様
華彩電波・・・そんなに強いものだったのか・・・
よし、華彩電波をもっと流せ!!
今話屈指の萌えゼリフだと思います。
>取り敢えず、名前で呼ぶ事から頑張ろう。
でも当分の間は名前で呼ぶどころか、霖之助の顔をまともに見ることすら出来ない咲夜さんを幻視してしまいました。
>霊夢と魔理沙が出てるのに咲夜さんがいないのはおかしいだろう。
その理屈だと早苗さんが出てないのもおかしいですな……はっっっ!!! もしや次は……。
あ。いけない、血が…
か、可愛くて死んだんですか!?
何の安心ですかw
>>華彩神護.K 様
萌え死にましたかw
取り敢えず華彩電波は最低でも関空までは飛んでくるんでしょうねwww
だから下上さんははぁぁぁぁぁぁぁんこまちぃぃぃぃぃぃぃぃぃってなったんでしょうねwww
>>奇声を発する程度の能力 様
華彩電波は恐ろしいですw
はわわ、言われるまで気付かなかった!まさかの7000番目!
何も考えずに投稿してました!
>>下上右左 様
死にそうになった後死んじゃったんですかw
強いです。だからはぁぁぁぁぁn(ryも仕方なかったんですwww
>>5 様
と き め い て し ん だ ! ?
それは華彩さんに言って下さいw
>>高純 透 様
萌えですかw
で、顔を見る度に真っ赤になってその度に時を止めて収まるまで一人ドキドキしっぱなしなんですね、分かります。
ぎくっ。ナ、ナンノコトカナ?
>>拡散ポンプ 様
本業はサボってるのにねw
>>けやっきー 様
絶対に似合う!うん!
大丈夫ですかぁー!?
>>9 様
昂ったんですかw
行ってらっしゃい!
読んでくれた全ての方に感謝!
めんこいですかw
読んでくれた全ての方に感謝!
ごちそうさまでした(^q^)←
乙女です。えぇ。
読んでくれた全ての方に感謝!