『深さないでください』
ちゃぶ台に残された置き手紙は朝の命蓮寺に混乱をもたらした。一体なんの暗号だろう?寅丸とナズーリン
は頭にクエスチョンマークを乱舞させながら互いの顔を見つめ、白蓮は両手で抱えた煮干をポリポリ齧ってい
た。
クエスチョンマークが在庫切れを起こし、市場価格にも影響が見られるかと思われた矢先、後れて目覚めた
一輪さんが置き手紙に書かれた小さな署名を見つける。
『深さないでください 村紗水蜜』
なんだムラサ船長か、驚かしやがって。きっと漢字に弱い船長が、探さないでと書こうとして間違えたんだ
な、うん十分に有り得るなにせ船長だもん。
そうするとこの置き手紙は、家出をすることの意思表示となるわけだ。命蓮寺の一同には心当たりがあった。
昨日、些細なことでムラサ船長と喧嘩してしまったのだ。
・昨日の回想
夏の暑さは全ての者に平等に訪れる。毘沙門天の庇護を受けている命蓮寺だって例外ではない。
梅雨明け宣言直後のこの日の幻想郷は、最高気温35℃を軽く突破し、ちょっとした灼熱地獄の様相を現して
いた。
居間では寅丸がぐったりしていた。起き上がる気力も無いどころか、ところどころ溶けて液状になっている。
完全に溶けてしまったらきっとサイケデリックな色彩のスライムが出来てしまい、誰も寅丸だとは気づかない
だろう。現に虎柄の腰巻あたり、黄色と黒が混ざりはじめてとても微妙な雰囲気になっている。
その隣りでぐったりしているナズーリンは、まだ原型を保っている。頭から湯気が出ているぐらいしか普段
との違いはない。
死屍累々の様相を見かねたムラサ船長が、グロッキーな二人を団扇で扇いでいる。この人は幽霊なので暑さ
寒さも関係ない、便利な体だ。
「そういえば聖の姿を朝から見てないんですが」
溶けかけてネチャっとした寅丸がネチャっと指差す。その先には、ちゃぶ台に座った全長10㎝ほどの白蓮が
ブロック氷を両手で抱えてガリガリ齧っていた。
「え、え?そんなに小さくなっちゃって、どうしちゃったんですか!?」
「それが、暑いので目減りしてしまったようなのです」
普段より1オクターブ高い声で答える白蓮。前から不思議系のお人なのだろうと認識はしていたが、気温で
目減りする不思議生物だったとは流石にムラサ船長の想像を超えている。
雲ひとつ無い青空に容赦なく照りつける日差し、庭では蜃気楼が見える。蝉が鳴いてないのが不思議なくら
いの文句なしの真夏日だ。
居間には半溶けの寅丸と頭から湯気のナズーリン、目減りした白蓮。こんな状態では命蓮寺が寺として機能
できない。
「困りましたね。どうでしょ聖、雲山さんにお願いして、寺の上空を覆ってもらうというのは」
「雲山さんも目減りしてましたよ」
ああそうか雲山さんも目減りするのか。じゃあ白蓮は雲に近いなにかなんだろうか?雲みたいに掴み所が無
い感じではあるしな。
雲山さんが役立たずなら、自分でどうにかするしかない。ムラサ船長は団扇を脇に置いてひょっこりと立ち
上がる。
「打ち水してきます。あんまり意味ないでしょうけど」
「はーい、お願いします」
ナズーリンはこの一言に「嫌な予感がした」と、後に振り返っている。もしこの時ナズーリンが満足に動け
る状態にあったら歴史は変わっていたであろう。しかし当時のナズーリンは湯気の出る鼠でしかなかった。
異変の兆候はすぐに現れた、湿度が急上昇したのである。湿度計は100%を目指してぐんぐんと数字を増し
ていき、それに足並みを揃えて不快指数も急激な伸びを見せた。
打ち水してもやっぱり暑ぃよなー、と暢気に構えていた命蓮寺のみなさんも、サウナ状態に陥ったところで
異常事態に気付く。なんだかとっても蒸し暑いです。
「うふふうふふ、沈め、うふふ、沈んじゃえ、うふふうふふ」
半溶けの寅丸と頭から湯気のナズーリンがムラサ船長を発見した時、命蓮寺は小さな小さな諏訪湖に囲まれ
ていて、当のムラサ船長は偽諏訪湖の中で白目を剥いて不気味に笑いながら打ち水を繰り返していた。
なにしろ船幽霊である。手にする柄杓はなにかいろいろと不思議な具合で瀬戸内海と繋がっている。つまり
船幽霊の本能が目覚めてトランスしたムラサ船長は、相手が沈むか瀬戸内海が干からびるかするまで打ち水を
止めない。
瀬戸内海って太平洋や日本海とも繋がってるよな確か……
「やめるんです村紗さん!」
寅丸は半溶け状態にありながらも決意する、命蓮寺が沈められるのは困るからその前にムラサ船長を沈める
しかない。
ザバザバと助走をつけて、ムラサ船長にネチャっとしたハングリータイガーを見舞う寅丸。半溶け状態にあ
りながらもその瞬間加速度は3Gを叩き出し、ムラサ船長に衝突時の速度は320㎞/hを僅かに超え、それに加え
てネチャっとしていた。
「え、ちょ、ネチャっとするキモい!」
微妙な叫び声をあげて、ムラサ船長は小さな小さな諏訪湖(打ち水でできた水溜り)に沈んで気絶してしま
った。海水なのでしょっぱかった。
「わ、私のせいで寺がサウナに!私のせいで!わぁーん!!」
正気に戻ったムラサ船長、今度は責任を感じて号泣してしまう。全身で瀬戸内海の海水に浸かったはずなの
に、その白い服はやはり透けていない、どころか水を弾いてさえいる。いや透けるべきだろそこは!
「村紗さんが良かれと思ってやってくれたのだと、みんな分かっています。ですからそう自分を責めないで」
「いいえ駄目ですっ!私は聖の教えを忘れて自分を見失い、あまつさえ命蓮寺を沈めようとしてしまいました!
死んで詫びるしかありませんっ!」
船長もう死んでるじゃん、と喉元まで出かかったナズーリンだったが、暑さと湿度でそれを口にする気力も
無く代わりに湯気を出した。
泣きながら柄杓を手にしたムラサ船長は、それを手首にあてがい必死の決意で自害を試みる。え、それ柄杓
だけどそんなので手首切れるの?やってみなけりゃ分からない?そう?じゃあまぁとりあえずやってみようか
レッツリストカット!あ、やっぱりダメ柄杓じゃ切れない?うんうんそうだよね安心した。
「ううっ、死ぬことも許されないなんて!わぁーん!!」
泣きながら駆け出したムラサ船長は自室に引き篭もり鍵を掛けて独りになりたい模様。おそらく抱き枕っぽ
い抱きアンカーにすがり付いて、さめざめと泣いていることでしょう。
どうせ晩御飯になれば出てくるだろうと白蓮は楽観していた。しかし、日が暮れて流しそうめんを流す頃合
になっても、ムラサ船長は部屋から出てこなかった。
昼間に打ち水した小さな小さな諏訪湖は、天日で乾燥してミネラルたっぷりな瀬戸内海の粗塩となっていた。
・回想が終わって、再び今日
探さないでくださいと置き手紙を残すという事は、探してほしいという事だろう。探し物となると私の仕事
ということになるだろう。今日も外は暑いよな、やれやれ、とナズーリンは気分が落ち込むのを感じていた。
「ナズーリンさん」
白蓮の声、さっそく来たか。
「ナズーリンさんは探し物が得意でしたよね」
「まあ、そうだね」
「ではお願いです、村紗さんの代わりが勤まる素晴らしい船長を探してきて下さい」
ナズーリンだけでなく、その場の全員が白蓮の予想外な発言に驚いた。
「え、村紗さんを探してきて下さいの間違いじゃ!?」
「残念ですが、村紗さんは探さないでくださいと書置きをしてますから」
「それは、探してほしいという気持ちの裏返しなんじゃ!?」
「私は本人の意思を尊重します。例えば……そうですね、寅丸さんが後から食べようとプリンを一つ冷蔵庫に
残しておいたとします。それだけじゃプリンは食べられてしまう恐れがありますね、では、食べるなと書置き
を付けておいたとしましょう。もし誰かが、例えば一輪さんが、この書置きは食べていいよという気持ちの裏
返しだと解釈してプリンを食べてしまったとしたら、寅丸さんならどうしますか」
「とりあえず一輪さんの首を刎ねます」
「え!?」
寅丸の即答にビクッとする一輪さん。せめて言い訳ぐらい聞いて欲しいです。
「首を刎ねますか……ならば、やはり村紗さんも探すべきではないと、そう思いませんか」
白蓮に真摯な眼差しで問われて、寅丸は考える。白蓮の言ってることが間違っているのは分かる。この話に
プリンは関係無い。しかし、もし間違っていると指摘してやはりムラサ船長を探すべきだとなった場合、恐ら
く寅丸も捜索に参加させられることだろう炎天下の中。
一方、白蓮の言う事に頷いておけば、ムラサ船長は探さず次の船長を探すということになり、炎天下に晒さ
れるのはナズーリンだけとなる。
「そうですね、本人の意思を尊重するべきですね」
「わかってくれましたか!」
「というわけで、がんばれナズーリン」
「ご主人、あのさぁ……」
厄介ごとを一人で背負わされたようなわだかまりを強く感じるナズーリンだったが、探し物をするのが彼女
の能力である以上、どちらにしろ炎天下での捜索は逃れられないだろう。探す対象がムラサ船長か次期船長か
の違いなだけで。
諦め気分でしぶしぶ重い腰を上げるナズーリンの背中に、白蓮が声をかける。
「村紗さんがいつ帰ってきてもいいように、門と玄関は開けておいて下さいね」
ナズーリンは頭から湯気を出して返事とした。
・捜索
身支度を整えたナズーリンは猛暑に足を引き摺るようなダウナーな気分を醸し出しながらガレージへと向か
う。ガレージというとカッコ良さそうだが常識的な目で見れば納屋に見える。
カメラの三脚とか子供用の滑り台とかチャイルドシートとかVHSビデオデッキとか宝塔とかタナ落ちした3S-
GTEとかの邪魔なガラクタをどかして、ナズーリンは納……ガレージの奥からピカピカに輝く愛車を引きずり
出す。
夏の強い日差しを照り返す、グラマラスな黒いボディのオープンカー ―――ラットモービル
クリストファー・ノーランのあの映画に強く影響を受けたナズーリンが、八方手を尽くして調達した自慢の
愛車だ。いや、あの映画っていっても15分しか記憶が持たない男のやつじゃなくて、年甲斐もなく蝙蝠の扮装
をした金持ちが金に飽かせて街の平和を守るほうのやつな。
初めは命蓮寺の兵器開発部に圧力をかけてラットモービルを秘密裏に開発しようとしたナズーリンだったが
冷静に考えたら命蓮寺には兵器開発部も無いしラットモービルを開発するような余剰予算も無かった。
しかし彼女は幸運だった。体育の授業で使うスクール水着を買い求めに立ち寄った香霖堂の軒先に、黒くて
イカス素敵な車が並べられているのを見つける。
物があれば入手は簡単だ。霖之助に賭けポーカーを持ちかけ、手も足も出なくなったところで負債の支払い
の代わりとして押収。スターリングラード時代に鍛えたサマの腕前はまだ衰えていない。
その霖之助から巻き上げた車をベースにして、ナズーリンのような一流の諜報員の要求に応える改造を施さ
れた物が、ラットモービルだった。チューンドバイにとり。
「しかし本当に暑いな、麦わら帽子を被ったほうがいいかな」
ぶつくさと文句を言いながらナズーリンはラットモービルに乗り込む。ラットモービルはF-1などのレーシ
ングカーと同じでシングルシーター、つまり一人乗りだ。機能性のみを追及した設計のため、当然ながらエア
コンは装備されていない。
ペダルに足をかけ、力を込めて踏み込むとラットモービルはゆるゆると前進し始めた。往復運動を回転運動
に換える通常のレシプロエンジンと異なり、ラットモービルは回転運動が直結して車輪の回転力となる。ギア
ボックスすら無い、まさにダイレクトなドライブフィールはまるでドライバーと車が一体になったかのよう。
車体が前進し始めたのを感じて、今度は左足のペダルを踏み込む。ラットモービルは更に前進しそれに伴い
右足のペダルが持ち上がってくる。今度はその右足のペダルを踏み込む。右足、左足、右足、と繰り返すうち、
徐々に速度を増していくラットモービル……キコキコという駆動音を伴いながら。
ナズーリンは風を感じていた。全力で加速するラットモービルは、今や美鈴が急ぎ足で歩いたとしても追い
つけるか追いつけないかといった速度で巡航していた。
「しかし次期船長か、とりあえずダウンジングロッドの導くままに探せばそのうち見つかるかな」
ナズーリンはダウンジングロッドを接続したカーナビを起動する。ポーンと小気味良い音がカーナビから聞
こえてきた。
「次の信号を左折です」
幻想郷においてどこまで行けば次の信号に辿り着くのかは分からなかったが、ダウンジングロッドの指示の
通りにしておけば間違いは無いだろうと考え、ナズーリンはラットモービルをひたすら漕い……前進させた。
やがてラットモービルは急な登り坂に差し掛かる。心臓破りの坂として幻想郷の全てのナズーリンに恐れら
れる坂だ。
以前のラットモービルはこの坂を登り切るだけの性能が無かった。いや、ラットモービル自体には十分な性
能があったのかもしれない。しかしドライバーの身体への負担がリミッターとなってしまい、坂の途中で立ち
往生してしまっていた主に息が上がって。
これを課題点として、ナズーリンとにとりはラットモービルの改良に踏み切った。にとりによる登坂能力の
改良を受けた新ラットモービルには、心臓破りの坂といえども脅威とはなりえない。
ナズーリンは坂の麓でラットモービルから降りると、フロントバンパーからフックを取り出す。フックを手
にしたナズーリンは駆け足で心臓破りの坂を登り、頂上にある木に引っ掛ける。フックからはラットモービル
までワイヤーが伸びている。
再び駆け足でラットモービルまで戻ったナズーリンは、ダッシュボードに取り付けられたスイッチを入れる。
するとワイヤーがラットモービルに巻き取られ、ラットモービルは心臓破りの坂をゆっくりとではあるが登り
始めた。
「この装備さえあればどんな登り坂でも走破可能!ラットモービルは常に進化しているのさ」
坂の中ほどまで登ったところで予告なくラットモービルは止まってしまった。同時に、ダッシュボードの警
告灯が赤く点灯する。
「なっ!電池切れ、だと!!」
坂の途中で動かないラットモービル、照りつける夏の日差しが暑かった。
・神社にて
ダウンジングロッドが指し示した先は博麗神社であった。こんな所に次期船長が居るのだろうか?ナズーリ
ンは若干の不安を感じながらもキコキコとラットモービルを境内に乗り入れる。石段を登るのは苦労した。次
の課題なのかもしれない。
「あら珍しい、お寺の鼠じゃない。なにか用だった?」
境内の掃き掃除をしていた霊夢と立ち話中の魔理沙。
「おっ、なんか懐かしい玩具に乗ってるじゃないか。私も子供の頃にそういうの乗ってたぜ」
「ナズーリン小さいからそういう玩具似合うわね」
「馬鹿にしてるだろキミたち、これは玩具じゃない!」
「え、玩具だろ?」
「玩具よね」
「玩具じゃないっ!これは……」
ナズーリンはばつが悪そうに俯き、小声で呟く。
「……ラットモービルだ」
その小声を聞いた霊夢と魔理沙は、二人して後ろを向いてしまう。二人の肩が小刻みに震えている。
「ばっ、馬鹿にしてるだろやっぱり!!」
「そんな……ぷっ……馬鹿になんてしてないわよ」
「全然……ぷぷっ……全然馬鹿にしてないから」
「似合ってるし……ぷぷぷっ……カッコいいじゃない、ラットマンカーだっけ」
「ラットモービルだ!!」
「ああ、ラット……ぷぷぷぷっ……モービルなモービル」
ナズーリンは泣きそうなのを我慢した。がんばれナズーリン!
「でも、それ乗るよりも飛んだほうが速いわよね」
「キミたちはわかってない、暢気に空を飛んでたらRPG-7の格好の的だろうが」
聞き慣れない単語に霊夢はきょとんとする。
「RPG-7って、魔理沙知ってる?」
「あー、まあ一言でいうと自機狙い弾だな」
「自機狙いなら低速でちょんちょん避けてれば当たらないわ」
「少し誘導するかな」
「なら高速で一気に動くかな、どのみち当たらないわ」
ナズーリンはやれやれといった態度を表す。
「素人はこれだから困る。携帯性の高いRPG-7はどこから撃ってくるか予想もつかない。気づいた時には手遅
れ、避けるヒマなんて無いんだよ」
「なんだよ偉そうに、でもそのラットマンモービルだって一発で粉々だろ!」
「ラットモービル!これは巡航モードだから!!戦闘時にはちゃんと……」
喋りながらラットモービルから降りたナズーリンは、トランクから黒く塗ったダンボールの様な物を取り出
す。再びラットモービルに乗り込むと、折りたたまれていたダンボールを広げて屋根のように被せる。
「戦闘時には、ちゃんとこのようにチョバムアーマーで……ちょ、やめ……やめないか!……ちょ!……痛い
いたいいたい!やめていたい!!」
戦闘モードのラットモービルを嬉々として箒で叩く霊夢と、楽しそうに箒で叩く魔理沙。
「箒も防げないようじゃ、なんとかアーマーも役に立たないじゃないか」
「う、うるさい!!」
「あ……ところであんた、うちに何の用だったの」
ナズーリンはようやく本来の目的を思い出した。
「ああ、そうだった忘れていたよ。キミたちのうちのどちらか、ウチで船長をやらないか」
「え、船長ってあの柄杓で水撒いたりたまにカレー作ったりする船長か?」
どちらも船長本来の仕事ではないです。
「船長やらないかって、ムラサ船長は辞めちゃうの?」
「まあその辺はいろいろとあってな」
「いろいろねぇ……どうする魔理沙」
「ん、私は魔法使いだぜ、船のことなんてさっぱりわからん」
「大丈夫、船長なんてカレーを作るだけの簡単な仕事です」
それは船長じゃなくてカレー屋さんです。
「だったらあなたが船長になればいいじゃない」
「私は諜報員だ!諜報員が船長を兼任だなんて、なんかそれはちょっと微妙にカッコ悪いじゃないか」
「なら、私も巫女だから無理ね。神社の巫女がお寺で船長してカレー作ってるなんて本格的に何者だか解らな
いじゃない」
「そうか、そちらの白黒は?」
「年棒2億円なら船長になってもいいぜ」
「あ、年棒2億なら私がやるわ。巫女なんて辞める」
「おい、今交渉してるのは私だぜ!」
「なによ私のがカレー作るの上手いんだから!」
欲に目が眩んだ二人をそのままにして、ナズーリンは博麗神社を後にした。
その後もナズーリンはダウンジングロッドに導かれるまま幻想郷各地を訪れ次期船長を探した。しかしどこ
に行っても、快く船長を引き受けてくれる者はそうそう居るもんじゃなかった。
天界や月の都を訪れた時はダウンジングロッドを疑いもしたし、閻魔様を勧誘した時は自分でも何をしてい
るのかわからなくなりそうだった。
長い捜索の旅だった。しかし苦労はいつか報われるもの。ナズーリンは一人の船長候補を無事命蓮寺まで連
れてくることに成功した。
「ご主人、ちょっと手伝ってくれないか」
ラットモービルに積まれているのはズタ袋、もごもごと元気に動くズタ袋。
「そっちの足のほうを持って、そう、そのまま降ろして」
「え、足、いま足って言った?これ荷物じゃないの!?」
「ああもう人でも荷物でもどっちでもいいじゃないか」
露骨に犯罪の匂いがする積荷に、寅丸は不安を感じる。口笛を吹きながらナズーリンが陽気に梱包を解くと
中から現れたのは金髪の少女。
「ちょ、ナズーリンこの人は!?」
「お望みの、ムラサ船長の代わりの船長」
「いや船長はいいけど、何でその船長が袋に入ってるの!」
「話せば長くなるけど、要約すれば空をふわふわ飛んでたので袋に入れて持ってきた」
言い逃れが不可能なくらい完全に誘拐です。
「犯罪じゃないですか駄目です返してきなさい」
「いやでもご主人、船長にぴったりな逸材なんだよ?これを逃すともう次は無いよ」
「駄目だったら駄目です、誘拐はいけません」
ナズーリンと寅丸の言い争いを、誘拐されてきた金髪の少女はぼーっと眺めている。
「わかったご主人、じゃあ本人に聞いて船長がやりたいと答えたら問題は無いね!」
「ええ、それなら私も返してこいだなんて言いません!」
「アーユー船長オーケー」
ナズーリンの問いかけに金髪の少女は小さく頷いた。
「よし、キミは今日からこの命蓮寺の船長だ!」
「あ……あ、はじめまして、私ここで毘沙門天代理をやっとります寅丸星という者です、以後よろしくお願い
します。えーと、失礼ですがお名前は」
ペコペコとお辞儀をする寅丸に問われて、金髪の少女は答える。
「はじめまして……ルナサ・プリズムリバーです」
ルナサ船長
ルナサ船長。
・船長育成
ムラサ船長が家出中のため代わりに船長を務めることになったルナサ船長。早く一人前の立派な船長になれ
るように、寅丸とナズーリンが熱血指導をすることに。
「で、ルナサさんだっけ、君いままで船長の経験は?」
何故かパイプ椅子にふんぞり返って無駄に偉そうな寅丸。ルナサ船長は雰囲気に飲まれたのか若干硬くなっ
ている様子。
「いえ、今まで音楽ばかりだったんで船長の経験は無いです」
「あ、そう。じゃあなんか特技とかある?」
「特技ですか、そうですね手足を使わずにヴァイオリンを弾けます」
「ふーん、ちょっとやってみてよ」
小さく頷くルナサ船長。パイプ椅子に座ったまま微動だにしないのだが、宙に浮いたヴァイオリンが重々し
い旋律を奏でだす。そのメロディはとても気分が落ち着く……いや落ち込むメロディ。
「う、なんで、なんであの時私は聖を助けに行かなかったんだろう……」
「なんでこんな失くし物ばかりする人をご主人なんて呼んでるんだろう……」
おのおの心の傷を思い出して酷く落ち込んでるのを見て、ルナサ船長は演奏をやめる。
「こんな感じですけど」
「うん……わかった。でもその特技は船長をやる上ではあまり役に立たないね」
「え、じゃあどうすればいいんでしょう」
「うーんそうだなぁ」
寅丸とナズーリンは在りし日のムラサ船長の姿を思い出す。
「船長ならば柄杓から水を出して船を沈めないとね」
「え、柄杓から水?」
「キミの場合はヴァイオリンから水だね」
じっと宙に浮くヴァイオリンを眺めるルナサ船長。
「できませんよそんなの」
「挑戦する前から諦めてどうするんだ!キミもムラサ船長と同じで幽霊じゃないか。同じ幽霊なら出来るさき
っと」
「幽霊だから出来るなんて無茶苦茶じゃない」
少し機嫌の悪くなったルナサ船長の瞳をまっすぐ見つめるナズーリン。
「キミも音楽家ならわかるだろう?自分のやりたい音楽だけをやってるうちは半人前。本当の音楽家は嫌いな
音楽だろうと、お客さんの望む物を最高の形で提供する、そうなって初めて一人前の音楽家だと言える。今キ
ミが望まれてる物は何だい?ヴァイオリンから水を出すことだろ?」
なんだか微妙に格好いいことを言ったからなのか、ドヤ顔のナズーリン。横で聞いていた寅丸が慌ててナズ
ーリンを押しのけて、ルナサ船長の瞳をまっすぐ見つめながら語り始める。
「これは、あるロックミュージシャンの言葉 ――ヤザワ、ビートルズになりたかったんだ、でも、気がつい
たらヤザワになってたんだ。……どういう事かわかる?つまりね、ヤザワ、ビートルズになりたかったんだ、
でも、気がついたらヤザワになってたんだ――」
寅丸のなんだか名言っぽいわけのわからない発言にナズーリンは危機感を覚える。ていうかあるロックミュ
ージシャンじゃなくてヤザワってはっきり言っちゃってるじゃん。名言っぽい雰囲気になっちゃってるけど、
それご主人が偉いんじゃなくてただのヤザワパワーじゃん。言葉の中身はチンプンカンプンじゃん。でもヤザ
ワパワーでなんか納得させられちゃうじゃんズルいよご主人。このままじゃルナサ船長の中の位置づけがご主
人は名言を言う凄い人で私は変な鼠になっちゃうじゃんでもそれもご主人の力じゃなくてヤザワパワーじゃん
ズルいよ。どうにかしなきゃ、えーと、えーと。
「私、小さい頃に両親と死に別れててね」
唐突に重い告白を始めるナズーリンに、寅丸とルナサ船長は戸惑いの表情を浮かべる。
「電車の事故かバスの事故かは忘れてしまったけど、私が留守の間に街まで買い物に出かけてね。連絡を受け
た時は手遅れだった。父親の死に目に会えたのだけが不幸中の幸いだった。私には祖父母も親戚も居なかった
から、その事故で天涯孤独の身となってしまってね。どうすることもできずに孤児院へ身を寄せることとなっ
た。だけど、この孤児院が酷いところでね。当時の孤児院は預かってる子供の数に応じて政府から補助金が支
払われたんだけど、私のいた孤児院はその補助金だけが目当てだったから、子供たちには人権も無い。ただひ
たすら無意味な計算だけを延々とやらされて、会話することも許されない。しかも教官による虐待が横行して
て、私も他の子も教官の気分次第でだいぶ苛められたよ。毎日が地獄だった……それで、自暴自棄になってた
のもあって、私は他の子たちと協力してその孤児院から脱走したんだ。山の中を教官に追われてひたすら逃げ
て、疲労困憊、もう限界だってところで、私は父親が今わの際に言い残した大事なことを思い出したんだ。父
親の恩師にあたる人の連絡先でね、私は縋る思いで、その人に電話をした。肝心の私の居場所を伝えられずに
私は教官に捕まってしまったんだけど、私が酷いことになる前に、その人は私を探し出して、私を引き取って
くれた」
「……ナズーリン」
静かに首を振るナズーリン。
「ナズーリンは諜報員としての名前、本当の名前じゃない。私の本当の名前は……田無美代子」
「田無……美代子……」
「……それ、ひぐらしじゃねぇかよ!!」
・その後
それから幾ばくかの月日が流れた。
成り行きで命蓮寺の船長となってしまったルナサだったが、やるからにはと彼女は努力を惜しまなかった。
ヴァイオリンから水を出すという無理難題を彼女は見事達成し、時価3億円のストラデヴァリウスからシャワ
ートイレのような水を出せるまでに成長を遂げていた。立派な船幽霊となった彼女は今や誰からも認められる
命蓮寺の船長として、今日もカレーを煮込んでいる。
白蓮は気温による目減りも秋には回復し、いつもどりの生活を送っている。目減りしたほうが食費が少なく
て済むのだが、自分ではコントロールできないらしく自然の流れに身を任せている。
寅丸はあれ以来、ヤザワパワーに心酔してしまい事あるごとに謎の名言を残すようになった。行動に拍車が
かかり、S.TORAMARUタオルを自作するに至り、周囲の猛反対を受けて目を覚ますこととなった。あとは普通。
ナズーリンはその後、ラットモービルに乗ったまま飛べば坂も石段も関係が無いと思いつき、飛行訓練を繰
り返しながらにとりとラットモービルの改造に勤しんでいたが、ふと冷静になってラットモービルに乗らずに
飛ぶのが最善だと気づいてしまう。不要になったラットモービルは命蓮寺のガレージで埃を被っている。
家出したムラサ船長は、ムラサ・プリズムリバーとして活躍していると風の噂で聞こえてきた。彼女も努力
の末に、手足を使わずに柄杓からヴァイオリンの音を出す能力を会得して、立派な騒霊となったようだ。どこ
からどう見ても柄杓なのにヴァイオリンの音が出ることに当初はネタ扱いされたが、やがてファンの間でも、
じゃあそもそもヴァイオリンは必要無かったんだとの結論が出され、やがて音楽的に評価されるようになる。
ルナサ在籍時の重くるしい世界観と、ムラサ移籍後の壮大な海原を思わせる音楽性はプリジリアン(熱狂的
なプリズムリバーファン)の中に派閥を作る結果となった。
だが、ムラサ・プリズムリバーというミュージシャンの才能だけは、ファンの誰しもが認める物であった。
一輪さんについては特に記述するべき事は無い。
終
ちゃぶ台に残された置き手紙は朝の命蓮寺に混乱をもたらした。一体なんの暗号だろう?寅丸とナズーリン
は頭にクエスチョンマークを乱舞させながら互いの顔を見つめ、白蓮は両手で抱えた煮干をポリポリ齧ってい
た。
クエスチョンマークが在庫切れを起こし、市場価格にも影響が見られるかと思われた矢先、後れて目覚めた
一輪さんが置き手紙に書かれた小さな署名を見つける。
『深さないでください 村紗水蜜』
なんだムラサ船長か、驚かしやがって。きっと漢字に弱い船長が、探さないでと書こうとして間違えたんだ
な、うん十分に有り得るなにせ船長だもん。
そうするとこの置き手紙は、家出をすることの意思表示となるわけだ。命蓮寺の一同には心当たりがあった。
昨日、些細なことでムラサ船長と喧嘩してしまったのだ。
・昨日の回想
夏の暑さは全ての者に平等に訪れる。毘沙門天の庇護を受けている命蓮寺だって例外ではない。
梅雨明け宣言直後のこの日の幻想郷は、最高気温35℃を軽く突破し、ちょっとした灼熱地獄の様相を現して
いた。
居間では寅丸がぐったりしていた。起き上がる気力も無いどころか、ところどころ溶けて液状になっている。
完全に溶けてしまったらきっとサイケデリックな色彩のスライムが出来てしまい、誰も寅丸だとは気づかない
だろう。現に虎柄の腰巻あたり、黄色と黒が混ざりはじめてとても微妙な雰囲気になっている。
その隣りでぐったりしているナズーリンは、まだ原型を保っている。頭から湯気が出ているぐらいしか普段
との違いはない。
死屍累々の様相を見かねたムラサ船長が、グロッキーな二人を団扇で扇いでいる。この人は幽霊なので暑さ
寒さも関係ない、便利な体だ。
「そういえば聖の姿を朝から見てないんですが」
溶けかけてネチャっとした寅丸がネチャっと指差す。その先には、ちゃぶ台に座った全長10㎝ほどの白蓮が
ブロック氷を両手で抱えてガリガリ齧っていた。
「え、え?そんなに小さくなっちゃって、どうしちゃったんですか!?」
「それが、暑いので目減りしてしまったようなのです」
普段より1オクターブ高い声で答える白蓮。前から不思議系のお人なのだろうと認識はしていたが、気温で
目減りする不思議生物だったとは流石にムラサ船長の想像を超えている。
雲ひとつ無い青空に容赦なく照りつける日差し、庭では蜃気楼が見える。蝉が鳴いてないのが不思議なくら
いの文句なしの真夏日だ。
居間には半溶けの寅丸と頭から湯気のナズーリン、目減りした白蓮。こんな状態では命蓮寺が寺として機能
できない。
「困りましたね。どうでしょ聖、雲山さんにお願いして、寺の上空を覆ってもらうというのは」
「雲山さんも目減りしてましたよ」
ああそうか雲山さんも目減りするのか。じゃあ白蓮は雲に近いなにかなんだろうか?雲みたいに掴み所が無
い感じではあるしな。
雲山さんが役立たずなら、自分でどうにかするしかない。ムラサ船長は団扇を脇に置いてひょっこりと立ち
上がる。
「打ち水してきます。あんまり意味ないでしょうけど」
「はーい、お願いします」
ナズーリンはこの一言に「嫌な予感がした」と、後に振り返っている。もしこの時ナズーリンが満足に動け
る状態にあったら歴史は変わっていたであろう。しかし当時のナズーリンは湯気の出る鼠でしかなかった。
異変の兆候はすぐに現れた、湿度が急上昇したのである。湿度計は100%を目指してぐんぐんと数字を増し
ていき、それに足並みを揃えて不快指数も急激な伸びを見せた。
打ち水してもやっぱり暑ぃよなー、と暢気に構えていた命蓮寺のみなさんも、サウナ状態に陥ったところで
異常事態に気付く。なんだかとっても蒸し暑いです。
「うふふうふふ、沈め、うふふ、沈んじゃえ、うふふうふふ」
半溶けの寅丸と頭から湯気のナズーリンがムラサ船長を発見した時、命蓮寺は小さな小さな諏訪湖に囲まれ
ていて、当のムラサ船長は偽諏訪湖の中で白目を剥いて不気味に笑いながら打ち水を繰り返していた。
なにしろ船幽霊である。手にする柄杓はなにかいろいろと不思議な具合で瀬戸内海と繋がっている。つまり
船幽霊の本能が目覚めてトランスしたムラサ船長は、相手が沈むか瀬戸内海が干からびるかするまで打ち水を
止めない。
瀬戸内海って太平洋や日本海とも繋がってるよな確か……
「やめるんです村紗さん!」
寅丸は半溶け状態にありながらも決意する、命蓮寺が沈められるのは困るからその前にムラサ船長を沈める
しかない。
ザバザバと助走をつけて、ムラサ船長にネチャっとしたハングリータイガーを見舞う寅丸。半溶け状態にあ
りながらもその瞬間加速度は3Gを叩き出し、ムラサ船長に衝突時の速度は320㎞/hを僅かに超え、それに加え
てネチャっとしていた。
「え、ちょ、ネチャっとするキモい!」
微妙な叫び声をあげて、ムラサ船長は小さな小さな諏訪湖(打ち水でできた水溜り)に沈んで気絶してしま
った。海水なのでしょっぱかった。
「わ、私のせいで寺がサウナに!私のせいで!わぁーん!!」
正気に戻ったムラサ船長、今度は責任を感じて号泣してしまう。全身で瀬戸内海の海水に浸かったはずなの
に、その白い服はやはり透けていない、どころか水を弾いてさえいる。いや透けるべきだろそこは!
「村紗さんが良かれと思ってやってくれたのだと、みんな分かっています。ですからそう自分を責めないで」
「いいえ駄目ですっ!私は聖の教えを忘れて自分を見失い、あまつさえ命蓮寺を沈めようとしてしまいました!
死んで詫びるしかありませんっ!」
船長もう死んでるじゃん、と喉元まで出かかったナズーリンだったが、暑さと湿度でそれを口にする気力も
無く代わりに湯気を出した。
泣きながら柄杓を手にしたムラサ船長は、それを手首にあてがい必死の決意で自害を試みる。え、それ柄杓
だけどそんなので手首切れるの?やってみなけりゃ分からない?そう?じゃあまぁとりあえずやってみようか
レッツリストカット!あ、やっぱりダメ柄杓じゃ切れない?うんうんそうだよね安心した。
「ううっ、死ぬことも許されないなんて!わぁーん!!」
泣きながら駆け出したムラサ船長は自室に引き篭もり鍵を掛けて独りになりたい模様。おそらく抱き枕っぽ
い抱きアンカーにすがり付いて、さめざめと泣いていることでしょう。
どうせ晩御飯になれば出てくるだろうと白蓮は楽観していた。しかし、日が暮れて流しそうめんを流す頃合
になっても、ムラサ船長は部屋から出てこなかった。
昼間に打ち水した小さな小さな諏訪湖は、天日で乾燥してミネラルたっぷりな瀬戸内海の粗塩となっていた。
・回想が終わって、再び今日
探さないでくださいと置き手紙を残すという事は、探してほしいという事だろう。探し物となると私の仕事
ということになるだろう。今日も外は暑いよな、やれやれ、とナズーリンは気分が落ち込むのを感じていた。
「ナズーリンさん」
白蓮の声、さっそく来たか。
「ナズーリンさんは探し物が得意でしたよね」
「まあ、そうだね」
「ではお願いです、村紗さんの代わりが勤まる素晴らしい船長を探してきて下さい」
ナズーリンだけでなく、その場の全員が白蓮の予想外な発言に驚いた。
「え、村紗さんを探してきて下さいの間違いじゃ!?」
「残念ですが、村紗さんは探さないでくださいと書置きをしてますから」
「それは、探してほしいという気持ちの裏返しなんじゃ!?」
「私は本人の意思を尊重します。例えば……そうですね、寅丸さんが後から食べようとプリンを一つ冷蔵庫に
残しておいたとします。それだけじゃプリンは食べられてしまう恐れがありますね、では、食べるなと書置き
を付けておいたとしましょう。もし誰かが、例えば一輪さんが、この書置きは食べていいよという気持ちの裏
返しだと解釈してプリンを食べてしまったとしたら、寅丸さんならどうしますか」
「とりあえず一輪さんの首を刎ねます」
「え!?」
寅丸の即答にビクッとする一輪さん。せめて言い訳ぐらい聞いて欲しいです。
「首を刎ねますか……ならば、やはり村紗さんも探すべきではないと、そう思いませんか」
白蓮に真摯な眼差しで問われて、寅丸は考える。白蓮の言ってることが間違っているのは分かる。この話に
プリンは関係無い。しかし、もし間違っていると指摘してやはりムラサ船長を探すべきだとなった場合、恐ら
く寅丸も捜索に参加させられることだろう炎天下の中。
一方、白蓮の言う事に頷いておけば、ムラサ船長は探さず次の船長を探すということになり、炎天下に晒さ
れるのはナズーリンだけとなる。
「そうですね、本人の意思を尊重するべきですね」
「わかってくれましたか!」
「というわけで、がんばれナズーリン」
「ご主人、あのさぁ……」
厄介ごとを一人で背負わされたようなわだかまりを強く感じるナズーリンだったが、探し物をするのが彼女
の能力である以上、どちらにしろ炎天下での捜索は逃れられないだろう。探す対象がムラサ船長か次期船長か
の違いなだけで。
諦め気分でしぶしぶ重い腰を上げるナズーリンの背中に、白蓮が声をかける。
「村紗さんがいつ帰ってきてもいいように、門と玄関は開けておいて下さいね」
ナズーリンは頭から湯気を出して返事とした。
・捜索
身支度を整えたナズーリンは猛暑に足を引き摺るようなダウナーな気分を醸し出しながらガレージへと向か
う。ガレージというとカッコ良さそうだが常識的な目で見れば納屋に見える。
カメラの三脚とか子供用の滑り台とかチャイルドシートとかVHSビデオデッキとか宝塔とかタナ落ちした3S-
GTEとかの邪魔なガラクタをどかして、ナズーリンは納……ガレージの奥からピカピカに輝く愛車を引きずり
出す。
夏の強い日差しを照り返す、グラマラスな黒いボディのオープンカー ―――ラットモービル
クリストファー・ノーランのあの映画に強く影響を受けたナズーリンが、八方手を尽くして調達した自慢の
愛車だ。いや、あの映画っていっても15分しか記憶が持たない男のやつじゃなくて、年甲斐もなく蝙蝠の扮装
をした金持ちが金に飽かせて街の平和を守るほうのやつな。
初めは命蓮寺の兵器開発部に圧力をかけてラットモービルを秘密裏に開発しようとしたナズーリンだったが
冷静に考えたら命蓮寺には兵器開発部も無いしラットモービルを開発するような余剰予算も無かった。
しかし彼女は幸運だった。体育の授業で使うスクール水着を買い求めに立ち寄った香霖堂の軒先に、黒くて
イカス素敵な車が並べられているのを見つける。
物があれば入手は簡単だ。霖之助に賭けポーカーを持ちかけ、手も足も出なくなったところで負債の支払い
の代わりとして押収。スターリングラード時代に鍛えたサマの腕前はまだ衰えていない。
その霖之助から巻き上げた車をベースにして、ナズーリンのような一流の諜報員の要求に応える改造を施さ
れた物が、ラットモービルだった。チューンドバイにとり。
「しかし本当に暑いな、麦わら帽子を被ったほうがいいかな」
ぶつくさと文句を言いながらナズーリンはラットモービルに乗り込む。ラットモービルはF-1などのレーシ
ングカーと同じでシングルシーター、つまり一人乗りだ。機能性のみを追及した設計のため、当然ながらエア
コンは装備されていない。
ペダルに足をかけ、力を込めて踏み込むとラットモービルはゆるゆると前進し始めた。往復運動を回転運動
に換える通常のレシプロエンジンと異なり、ラットモービルは回転運動が直結して車輪の回転力となる。ギア
ボックスすら無い、まさにダイレクトなドライブフィールはまるでドライバーと車が一体になったかのよう。
車体が前進し始めたのを感じて、今度は左足のペダルを踏み込む。ラットモービルは更に前進しそれに伴い
右足のペダルが持ち上がってくる。今度はその右足のペダルを踏み込む。右足、左足、右足、と繰り返すうち、
徐々に速度を増していくラットモービル……キコキコという駆動音を伴いながら。
ナズーリンは風を感じていた。全力で加速するラットモービルは、今や美鈴が急ぎ足で歩いたとしても追い
つけるか追いつけないかといった速度で巡航していた。
「しかし次期船長か、とりあえずダウンジングロッドの導くままに探せばそのうち見つかるかな」
ナズーリンはダウンジングロッドを接続したカーナビを起動する。ポーンと小気味良い音がカーナビから聞
こえてきた。
「次の信号を左折です」
幻想郷においてどこまで行けば次の信号に辿り着くのかは分からなかったが、ダウンジングロッドの指示の
通りにしておけば間違いは無いだろうと考え、ナズーリンはラットモービルをひたすら漕い……前進させた。
やがてラットモービルは急な登り坂に差し掛かる。心臓破りの坂として幻想郷の全てのナズーリンに恐れら
れる坂だ。
以前のラットモービルはこの坂を登り切るだけの性能が無かった。いや、ラットモービル自体には十分な性
能があったのかもしれない。しかしドライバーの身体への負担がリミッターとなってしまい、坂の途中で立ち
往生してしまっていた主に息が上がって。
これを課題点として、ナズーリンとにとりはラットモービルの改良に踏み切った。にとりによる登坂能力の
改良を受けた新ラットモービルには、心臓破りの坂といえども脅威とはなりえない。
ナズーリンは坂の麓でラットモービルから降りると、フロントバンパーからフックを取り出す。フックを手
にしたナズーリンは駆け足で心臓破りの坂を登り、頂上にある木に引っ掛ける。フックからはラットモービル
までワイヤーが伸びている。
再び駆け足でラットモービルまで戻ったナズーリンは、ダッシュボードに取り付けられたスイッチを入れる。
するとワイヤーがラットモービルに巻き取られ、ラットモービルは心臓破りの坂をゆっくりとではあるが登り
始めた。
「この装備さえあればどんな登り坂でも走破可能!ラットモービルは常に進化しているのさ」
坂の中ほどまで登ったところで予告なくラットモービルは止まってしまった。同時に、ダッシュボードの警
告灯が赤く点灯する。
「なっ!電池切れ、だと!!」
坂の途中で動かないラットモービル、照りつける夏の日差しが暑かった。
・神社にて
ダウンジングロッドが指し示した先は博麗神社であった。こんな所に次期船長が居るのだろうか?ナズーリ
ンは若干の不安を感じながらもキコキコとラットモービルを境内に乗り入れる。石段を登るのは苦労した。次
の課題なのかもしれない。
「あら珍しい、お寺の鼠じゃない。なにか用だった?」
境内の掃き掃除をしていた霊夢と立ち話中の魔理沙。
「おっ、なんか懐かしい玩具に乗ってるじゃないか。私も子供の頃にそういうの乗ってたぜ」
「ナズーリン小さいからそういう玩具似合うわね」
「馬鹿にしてるだろキミたち、これは玩具じゃない!」
「え、玩具だろ?」
「玩具よね」
「玩具じゃないっ!これは……」
ナズーリンはばつが悪そうに俯き、小声で呟く。
「……ラットモービルだ」
その小声を聞いた霊夢と魔理沙は、二人して後ろを向いてしまう。二人の肩が小刻みに震えている。
「ばっ、馬鹿にしてるだろやっぱり!!」
「そんな……ぷっ……馬鹿になんてしてないわよ」
「全然……ぷぷっ……全然馬鹿にしてないから」
「似合ってるし……ぷぷぷっ……カッコいいじゃない、ラットマンカーだっけ」
「ラットモービルだ!!」
「ああ、ラット……ぷぷぷぷっ……モービルなモービル」
ナズーリンは泣きそうなのを我慢した。がんばれナズーリン!
「でも、それ乗るよりも飛んだほうが速いわよね」
「キミたちはわかってない、暢気に空を飛んでたらRPG-7の格好の的だろうが」
聞き慣れない単語に霊夢はきょとんとする。
「RPG-7って、魔理沙知ってる?」
「あー、まあ一言でいうと自機狙い弾だな」
「自機狙いなら低速でちょんちょん避けてれば当たらないわ」
「少し誘導するかな」
「なら高速で一気に動くかな、どのみち当たらないわ」
ナズーリンはやれやれといった態度を表す。
「素人はこれだから困る。携帯性の高いRPG-7はどこから撃ってくるか予想もつかない。気づいた時には手遅
れ、避けるヒマなんて無いんだよ」
「なんだよ偉そうに、でもそのラットマンモービルだって一発で粉々だろ!」
「ラットモービル!これは巡航モードだから!!戦闘時にはちゃんと……」
喋りながらラットモービルから降りたナズーリンは、トランクから黒く塗ったダンボールの様な物を取り出
す。再びラットモービルに乗り込むと、折りたたまれていたダンボールを広げて屋根のように被せる。
「戦闘時には、ちゃんとこのようにチョバムアーマーで……ちょ、やめ……やめないか!……ちょ!……痛い
いたいいたい!やめていたい!!」
戦闘モードのラットモービルを嬉々として箒で叩く霊夢と、楽しそうに箒で叩く魔理沙。
「箒も防げないようじゃ、なんとかアーマーも役に立たないじゃないか」
「う、うるさい!!」
「あ……ところであんた、うちに何の用だったの」
ナズーリンはようやく本来の目的を思い出した。
「ああ、そうだった忘れていたよ。キミたちのうちのどちらか、ウチで船長をやらないか」
「え、船長ってあの柄杓で水撒いたりたまにカレー作ったりする船長か?」
どちらも船長本来の仕事ではないです。
「船長やらないかって、ムラサ船長は辞めちゃうの?」
「まあその辺はいろいろとあってな」
「いろいろねぇ……どうする魔理沙」
「ん、私は魔法使いだぜ、船のことなんてさっぱりわからん」
「大丈夫、船長なんてカレーを作るだけの簡単な仕事です」
それは船長じゃなくてカレー屋さんです。
「だったらあなたが船長になればいいじゃない」
「私は諜報員だ!諜報員が船長を兼任だなんて、なんかそれはちょっと微妙にカッコ悪いじゃないか」
「なら、私も巫女だから無理ね。神社の巫女がお寺で船長してカレー作ってるなんて本格的に何者だか解らな
いじゃない」
「そうか、そちらの白黒は?」
「年棒2億円なら船長になってもいいぜ」
「あ、年棒2億なら私がやるわ。巫女なんて辞める」
「おい、今交渉してるのは私だぜ!」
「なによ私のがカレー作るの上手いんだから!」
欲に目が眩んだ二人をそのままにして、ナズーリンは博麗神社を後にした。
その後もナズーリンはダウンジングロッドに導かれるまま幻想郷各地を訪れ次期船長を探した。しかしどこ
に行っても、快く船長を引き受けてくれる者はそうそう居るもんじゃなかった。
天界や月の都を訪れた時はダウンジングロッドを疑いもしたし、閻魔様を勧誘した時は自分でも何をしてい
るのかわからなくなりそうだった。
長い捜索の旅だった。しかし苦労はいつか報われるもの。ナズーリンは一人の船長候補を無事命蓮寺まで連
れてくることに成功した。
「ご主人、ちょっと手伝ってくれないか」
ラットモービルに積まれているのはズタ袋、もごもごと元気に動くズタ袋。
「そっちの足のほうを持って、そう、そのまま降ろして」
「え、足、いま足って言った?これ荷物じゃないの!?」
「ああもう人でも荷物でもどっちでもいいじゃないか」
露骨に犯罪の匂いがする積荷に、寅丸は不安を感じる。口笛を吹きながらナズーリンが陽気に梱包を解くと
中から現れたのは金髪の少女。
「ちょ、ナズーリンこの人は!?」
「お望みの、ムラサ船長の代わりの船長」
「いや船長はいいけど、何でその船長が袋に入ってるの!」
「話せば長くなるけど、要約すれば空をふわふわ飛んでたので袋に入れて持ってきた」
言い逃れが不可能なくらい完全に誘拐です。
「犯罪じゃないですか駄目です返してきなさい」
「いやでもご主人、船長にぴったりな逸材なんだよ?これを逃すともう次は無いよ」
「駄目だったら駄目です、誘拐はいけません」
ナズーリンと寅丸の言い争いを、誘拐されてきた金髪の少女はぼーっと眺めている。
「わかったご主人、じゃあ本人に聞いて船長がやりたいと答えたら問題は無いね!」
「ええ、それなら私も返してこいだなんて言いません!」
「アーユー船長オーケー」
ナズーリンの問いかけに金髪の少女は小さく頷いた。
「よし、キミは今日からこの命蓮寺の船長だ!」
「あ……あ、はじめまして、私ここで毘沙門天代理をやっとります寅丸星という者です、以後よろしくお願い
します。えーと、失礼ですがお名前は」
ペコペコとお辞儀をする寅丸に問われて、金髪の少女は答える。
「はじめまして……ルナサ・プリズムリバーです」
ルナサ船長
ルナサ船長。
・船長育成
ムラサ船長が家出中のため代わりに船長を務めることになったルナサ船長。早く一人前の立派な船長になれ
るように、寅丸とナズーリンが熱血指導をすることに。
「で、ルナサさんだっけ、君いままで船長の経験は?」
何故かパイプ椅子にふんぞり返って無駄に偉そうな寅丸。ルナサ船長は雰囲気に飲まれたのか若干硬くなっ
ている様子。
「いえ、今まで音楽ばかりだったんで船長の経験は無いです」
「あ、そう。じゃあなんか特技とかある?」
「特技ですか、そうですね手足を使わずにヴァイオリンを弾けます」
「ふーん、ちょっとやってみてよ」
小さく頷くルナサ船長。パイプ椅子に座ったまま微動だにしないのだが、宙に浮いたヴァイオリンが重々し
い旋律を奏でだす。そのメロディはとても気分が落ち着く……いや落ち込むメロディ。
「う、なんで、なんであの時私は聖を助けに行かなかったんだろう……」
「なんでこんな失くし物ばかりする人をご主人なんて呼んでるんだろう……」
おのおの心の傷を思い出して酷く落ち込んでるのを見て、ルナサ船長は演奏をやめる。
「こんな感じですけど」
「うん……わかった。でもその特技は船長をやる上ではあまり役に立たないね」
「え、じゃあどうすればいいんでしょう」
「うーんそうだなぁ」
寅丸とナズーリンは在りし日のムラサ船長の姿を思い出す。
「船長ならば柄杓から水を出して船を沈めないとね」
「え、柄杓から水?」
「キミの場合はヴァイオリンから水だね」
じっと宙に浮くヴァイオリンを眺めるルナサ船長。
「できませんよそんなの」
「挑戦する前から諦めてどうするんだ!キミもムラサ船長と同じで幽霊じゃないか。同じ幽霊なら出来るさき
っと」
「幽霊だから出来るなんて無茶苦茶じゃない」
少し機嫌の悪くなったルナサ船長の瞳をまっすぐ見つめるナズーリン。
「キミも音楽家ならわかるだろう?自分のやりたい音楽だけをやってるうちは半人前。本当の音楽家は嫌いな
音楽だろうと、お客さんの望む物を最高の形で提供する、そうなって初めて一人前の音楽家だと言える。今キ
ミが望まれてる物は何だい?ヴァイオリンから水を出すことだろ?」
なんだか微妙に格好いいことを言ったからなのか、ドヤ顔のナズーリン。横で聞いていた寅丸が慌ててナズ
ーリンを押しのけて、ルナサ船長の瞳をまっすぐ見つめながら語り始める。
「これは、あるロックミュージシャンの言葉 ――ヤザワ、ビートルズになりたかったんだ、でも、気がつい
たらヤザワになってたんだ。……どういう事かわかる?つまりね、ヤザワ、ビートルズになりたかったんだ、
でも、気がついたらヤザワになってたんだ――」
寅丸のなんだか名言っぽいわけのわからない発言にナズーリンは危機感を覚える。ていうかあるロックミュ
ージシャンじゃなくてヤザワってはっきり言っちゃってるじゃん。名言っぽい雰囲気になっちゃってるけど、
それご主人が偉いんじゃなくてただのヤザワパワーじゃん。言葉の中身はチンプンカンプンじゃん。でもヤザ
ワパワーでなんか納得させられちゃうじゃんズルいよご主人。このままじゃルナサ船長の中の位置づけがご主
人は名言を言う凄い人で私は変な鼠になっちゃうじゃんでもそれもご主人の力じゃなくてヤザワパワーじゃん
ズルいよ。どうにかしなきゃ、えーと、えーと。
「私、小さい頃に両親と死に別れててね」
唐突に重い告白を始めるナズーリンに、寅丸とルナサ船長は戸惑いの表情を浮かべる。
「電車の事故かバスの事故かは忘れてしまったけど、私が留守の間に街まで買い物に出かけてね。連絡を受け
た時は手遅れだった。父親の死に目に会えたのだけが不幸中の幸いだった。私には祖父母も親戚も居なかった
から、その事故で天涯孤独の身となってしまってね。どうすることもできずに孤児院へ身を寄せることとなっ
た。だけど、この孤児院が酷いところでね。当時の孤児院は預かってる子供の数に応じて政府から補助金が支
払われたんだけど、私のいた孤児院はその補助金だけが目当てだったから、子供たちには人権も無い。ただひ
たすら無意味な計算だけを延々とやらされて、会話することも許されない。しかも教官による虐待が横行して
て、私も他の子も教官の気分次第でだいぶ苛められたよ。毎日が地獄だった……それで、自暴自棄になってた
のもあって、私は他の子たちと協力してその孤児院から脱走したんだ。山の中を教官に追われてひたすら逃げ
て、疲労困憊、もう限界だってところで、私は父親が今わの際に言い残した大事なことを思い出したんだ。父
親の恩師にあたる人の連絡先でね、私は縋る思いで、その人に電話をした。肝心の私の居場所を伝えられずに
私は教官に捕まってしまったんだけど、私が酷いことになる前に、その人は私を探し出して、私を引き取って
くれた」
「……ナズーリン」
静かに首を振るナズーリン。
「ナズーリンは諜報員としての名前、本当の名前じゃない。私の本当の名前は……田無美代子」
「田無……美代子……」
「……それ、ひぐらしじゃねぇかよ!!」
・その後
それから幾ばくかの月日が流れた。
成り行きで命蓮寺の船長となってしまったルナサだったが、やるからにはと彼女は努力を惜しまなかった。
ヴァイオリンから水を出すという無理難題を彼女は見事達成し、時価3億円のストラデヴァリウスからシャワ
ートイレのような水を出せるまでに成長を遂げていた。立派な船幽霊となった彼女は今や誰からも認められる
命蓮寺の船長として、今日もカレーを煮込んでいる。
白蓮は気温による目減りも秋には回復し、いつもどりの生活を送っている。目減りしたほうが食費が少なく
て済むのだが、自分ではコントロールできないらしく自然の流れに身を任せている。
寅丸はあれ以来、ヤザワパワーに心酔してしまい事あるごとに謎の名言を残すようになった。行動に拍車が
かかり、S.TORAMARUタオルを自作するに至り、周囲の猛反対を受けて目を覚ますこととなった。あとは普通。
ナズーリンはその後、ラットモービルに乗ったまま飛べば坂も石段も関係が無いと思いつき、飛行訓練を繰
り返しながらにとりとラットモービルの改造に勤しんでいたが、ふと冷静になってラットモービルに乗らずに
飛ぶのが最善だと気づいてしまう。不要になったラットモービルは命蓮寺のガレージで埃を被っている。
家出したムラサ船長は、ムラサ・プリズムリバーとして活躍していると風の噂で聞こえてきた。彼女も努力
の末に、手足を使わずに柄杓からヴァイオリンの音を出す能力を会得して、立派な騒霊となったようだ。どこ
からどう見ても柄杓なのにヴァイオリンの音が出ることに当初はネタ扱いされたが、やがてファンの間でも、
じゃあそもそもヴァイオリンは必要無かったんだとの結論が出され、やがて音楽的に評価されるようになる。
ルナサ在籍時の重くるしい世界観と、ムラサ移籍後の壮大な海原を思わせる音楽性はプリジリアン(熱狂的
なプリズムリバーファン)の中に派閥を作る結果となった。
だが、ムラサ・プリズムリバーというミュージシャンの才能だけは、ファンの誰しもが認める物であった。
一輪さんについては特に記述するべき事は無い。
終
ナズリーンが博麗神社に行き霊夢たちとの掛け合いが好きです
しかしルナサが船長か… 金髪の少女と聞いたらルーミアかと思った。
楽しかったです
生煮えさんが笑わしすぎるからいけないんだ!(クワッ)
これから創想話覗く時は貴方の名前をチェックさせてもらいます センキュゥウー!
それはそうと一輪さんに優しくしてあげて><
船ではなく気分を沈めるとはこれ如何にw
とりあえず、キコキコ漕ぐナズかわいいよナズw
(一輪さんを除く)
いろいろとシュールですがこの味わい深さ、くせになりそうです。
一輪さんェ……。
ナズ、なんで足漕ぎの車で天界や月まで行けるんだ! そしてスク水を何故に古道具屋で求める!
聖、暑さで小さくなるな!
星、言ってる事メチャクチャや!
村紗、お前はそれで良いのか!
雲山出番ネェ!
霖之助、は通常運転か。
取り敢えず一言。
暑さグッジョブ!