「皆さん、おはようございます」
『おはようございます』
「ちょっと、声が小さいですね。もっと元気に、はい」
『おはようございます!』
「はい。結構です。
皆さん、ようこそ紅魔館へ。先日の採用試験はお疲れ様でした。
本日から、皆さんは紅魔館のメイドとして、この館にご奉仕して頂くわけですが――」
朝もまだ、朝もやが覚めやらない頃に、ここ、紅魔館のお仕事は始まります。
あ、初めまして。わたし、名もない一妖精です。仮に、妖精なので『よーちゃん』とでもお呼びください。
わたしは本日から、ここの館にお勤めすることになりました。
理由はと言いますと、わたしのお友達の『せーちゃん』(仮)が、こちらの館に勤め始めたことによります。
せーちゃん、毎日楽しそうに、ここでお仕事をしているんです。そのお話を色々と聞いていたら、何だかわたしも働きたくなりまして。
妖精仲間の間でも、紅魔館のメイドのお仕事はとても大変だけどやりがいがあって楽しいと有名です。
ちなみに雇用条件もかなりいいんですよ。お給料も一杯もらえますし、朝昼夜のご飯に、あったかい寝床だってついてきます。
破格の雇用条件として、今年の妖精就職フェアでも一番、多くの人たちが熱心に説明を聞いていたのを覚えています。
「私たち、紅魔館のメイドは、一に忠義、二に礼節、三に義理人情を持ってお仕事に――」
わたしを始めとした、今年の新入りメイド達に講釈してくださっているのは、この館のメイドさん達の中でも、かなり地位の高い方だそうです。
その見た目もとっても素敵。すらっと背が高くて、スタイルもとてもよくて。もちろん、お顔立ちだって慈愛に満ち溢れています。こんな人なら、きっとたくさんの方々に慕われているんでしょう。
……だけど、ちょっと話が長いかな? 朝も早いことから、隣の子がうつらうつらしてます。
「はい。以上が、ここで働く上での心構えです。
ご理解頂けましたか?」
『はい!』
「大変結構。
それでは本日より、皆さんにはお仕事に当たって頂きます。ですけれど、初めての職場で、右も左もわからないあなた達に、最初からお仕事の全てに責任を持って、ということは申しません。
皆さんには、先輩のメイド達が一人ずつ、インストラクターとして接します。そして、彼女たちが、責任を持って、あなた達を一人前のメイドとして育て上げてくれるでしょう」
そのお言葉の後、わたし達の後ろから、合計5人の先輩メイドさん達が歩いてきます。
お話によりますと、彼女たちは、わたし達より50年ほど上の先輩とのことでした。つまり、それくらいにならなければ、後輩を任されることはないということなのでしょう。
やっぱり、なかなかお仕事は大変そうです。
「紅魔館は年功序列となっております。
あなた達にとって、全てのメイドが先輩です。敬意と愛情を持って、先輩の方々は『お姉さま』とお呼びしてください。
また、この5名は、その中でも特別な『お姉さま』方です。愛情たっぷりに育ててもらってくださいね」
それでは解散です。
そのお言葉に、わたし達はぺこりと頭を下げました。振り返った先には、わたしの『お姉さま』。
妖精仲間から『よーちゃんってぼーっとしてるところあるよね』と言われる、間抜けなわたしには不釣合いな感じがする、きりっとした目鼻立ちが特徴的なお方です。
「初めまして」
「あ、はい。初めまして。あの、これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。誰かを指導するなんて初めてだから、色々至らないところはあると思うけれど、そんな時はびしっと叱ってね」
「い、いえいえ、そんな。
あの、わたしの方こそよろしくお願いします。お……お姉、さま……」
……何だか気恥ずかしいです。頬がかーっと熱くなってしまいます。
わたしのお姉さまは、にこっと微笑まれると、「それじゃ、お仕事の案内をするわね」と歩き出しました。
その後を、てこてことついていきます。後ろをちらりと見ると、わたしと同輩の子達も、それぞれの『お姉さま』にご挨拶しているところでした。
「今日のお仕事は館のお掃除。
はいこれ」
「モップ、ですね」
「そうよ。これで廊下がけ」
「はい。どこからどこまでですか?」
「ここをずっとよ」
……え?
その一言に顔を引きつらせてしまいます。
廊下。まっすぐ続いています。というか反対側の壁が見えません。
何かのご冗談……でしょうか。これを一日でやるのでしょうか……?
「紅魔館は広いから、メイドごとに担当エリアが決まっているの。この廊下が、私たちと……」
と、そこでお姉さまが言葉を切られました。
しばらくしますと、
「どいてどいてどいてーっ!」
「掃除の邪魔よーっ!」
向こう側から、土煙を上げて走ってくるメイドさん達がいます。わたしの先輩なのは間違いないので、お姉さま、とお呼びするべきなのでしょう。
ただ……その……顔が鬼気迫っていて、とてもじゃないけどそんな雰囲気ではありません。
彼女たちはそのまま、わたし達の横を走っていってしまいました。だけど、驚くべきことに、床はぴっかぴかです。
「さあ、頑張りましょう。
あなたにあそこまでのことをやれとは言わないから、この辺りからゆっくりね。大丈夫、時間はたっぷりあるわ」
だけど、サボったりしちゃダメよ、とお姉さまがわたしに笑ってくださいました。
何だか、そのお顔を見られるだけで嬉しくて、『無理かも』と思っていたわたしの弱気はどこかへ吹き飛んでしまいました。
「はい! 頑張ります、お姉さま!」
よーちゃん、頑張ります! はい!
「窓を磨く時は、割らないようにすることは当然だけど、しぶきにも気をつけるのよ。あなた以外にもお仕事してる人がいるんだから」
「はい」
一日目のお掃除は、とっても大変でした。何だかもう足腰立たなくなりました。
情けないけれど、へばってしまったわたしはお姉さまにおんぶされてお部屋まで連れて行ってもらいました。
だけど、今日はそんなへまはしません。
今日のお仕事は窓拭きです。ふよふよ空を飛んで、一枚一枚、丁寧に磨いていきます。お姉さまが仰られた通り、わたし以外のメイドの方々も窓拭きのお仕事をなさっています。その彼女たちに、汚れた水をかけてしまうなんてもってのほかです。
気をつけないと……。
よいしょよいしょ、きゅっきゅっきゅ。
一生懸命頑張ったおかげでしょうか。わたし達に任されたエリアの窓拭きは、何とか午後の3時ごろまでに終わらせることが出来ました。
「頑張ったわね。あなた、筋がいいわ」
「は、はい。ありがとうございます」
わたしのお仕事なんて、他の方々に比べたら、スピードも遅いし、まだまだですけれど、それでもお姉さまはわたしのことをほめてくださいました。
何かもうそれだけで嬉しくて。
今日一日の疲れが吹っ飛んじゃいました。
「あら、今日はお仕事、早く終わったんですね」
「あ、はい」
「お疲れ様です。今日は早く上がっていいですよ」
そこに、一人のメイドの方が現れました。
身に着けている衣服の色が、わたし達とは違います。金糸で縁取りのなされた、真っ白な、上品な衣装です。その衣装にも負けないくらい、その方はお美しくて。
思わず、ぽーっと見惚れていると、お姉さまが『こら』と小突いてきました。
「ちゃんとご挨拶しないと」
「あ、は、はい!」
「もう行っちゃったわ」
あぅ……。
「あ、あの、お姉さま。あの方は……」
「あの方は、もうずっと、長い間、ここにお勤めになっているの。何をやらせても、私たちより、何でも完璧にこなす方々で、お嬢様の信任もとても厚いのよ」
「……そんなにすごい方なんですか」
「あの方だけじゃなくて、合計で7人、あの方と同じ地位の方々がいらっしゃるわ。
その方々にお会いになったら、ちゃんと敬意を持って、『マイスターのお姉さま』とお呼びするのよ」
「は、はい。わかりました」
……何かすごい人がいるんですね、ここ。せーちゃんはそんなこと教えてくれませんでした。
あ、ちなみに、せーちゃんとは今日のお仕事で会うことが出来ました。わたしが『お姉さま』って呼んだら、『やめてよ、照れくさいから』なんて笑ってましたけど。
「昨日、あなた達をお迎えしたのもマイスターのお姉さまよ。ちなみに、メイド長補佐なの。うちのメイド達の中で二番目に偉い人」
「……わ、そうだったんですか」
「そういうことも、これからきちんと教えていくから。
今は、『そういうすごい人がいるんだ』くらいに覚えておいてね」
「わかりました。お姉さま」
……紅魔館のお仕事、とても奥が深いです。はい。
今日のお仕事はお洗濯です。
何十、何百枚というお洋服にベッドや枕のシーツに、と。今日は特にお洗濯ものが多いということで、お姉さまも『ついてないわね』なんて仰っておられました。
けれど、これもわたしのお仕事です。きちんと頑張ります。
「よい……しょ、よい……しょ」
両手に持ったかごの中はお洗濯物で一杯。重たくてふらふらしているわたしに、回りから『大丈夫?』と声がかけられます。
大丈夫です、とお答えはするのですが……、
「……はぅ」
つい、一休みしてしまいます。
これをお外まで運ばないといけないのですが……大変です。わたし、あんまり重たいものとか持ったことがなかったので……。
あまりお仕事が遅いとお姉さまに叱られてしまいます。急がないといけません。
「よいしょ……」
両手にずしっと来る重さに前のめりになりそうになりながら、それを運んでいると、廊下の角から初めて見る方がこちらにやってきました。
「重たそうだね。手伝おうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。あなた以外のメイドさん達、もう外に出てるし」
「……わたし、そんなに遅かったんですね……」
「あなた、初めて見る顔だね。新人?」
「は、はい。ついおととい……」
「そっか。それなら仕方ないよね。
じゃ、ほら」
なんて、わたしの返答を待たずに、わたしの荷物を持って『行くよ』と歩いていってしまいました。
わたしは、慌ててその後を追いかけます。その方に続いてお外に出て、庭の一角、お洗濯物がはためくところへと。
「これ、ここでいい?」
「あ、門番長! すいません、ありがとうございます!」
「いいのいいの。この子が大変そうにしてたから」
「はい! ありがとうございました!」
じゃあね、と手を振って去っていく……えっと……門番長さん?
役職の名前から察すると、館の門のところでお仕事をなさっているのでしょうか。あいにく、わたしはお見かけしたことはありませんけれど……。
「あの……」
「あとで、あなたのお姉さまと一緒に、ちゃんとお礼に行ってね。あの方は外勤のメイド達を一手に取り仕切っている方なの。
とても気さくな方で、お優しい方なのだけれど、誠意は忘れないようにね」
「はい。わかりました」
「よろしい。
じゃあ、こっちに持ってきて。さっさと、それ、干しちゃいましょう」
紅魔館には色んな方々がいらっしゃいます。
けれど、昨日といい今日といい、その方々も、みんなとても優しい、いい人たちばかりのようです。
そういう方々に囲まれて、期待されているんです。わたし、もっともっと、頑張ります!
……今日は、とてもじゃないけど、明るく振舞うことは出来ませんでした。
お勤めを始めるようになって、まだ一週間も経ってないのに、わたしは早速、お仕事でへまをしてしまいました。
今日、回されたお仕事は厨房でのお皿洗いの仕事だったのですが、本当に目が回るくらいにお仕事が忙しくて。
それで、積んであったお皿を崩してしまったのです。
当然、そのお皿は全部割れてしまいました。それだけならまだよかったのかもしれませんが、音の大きさと事態の規模に驚いた、他のメイドの方々が鍋をひっくり返してしまったりで、何名かけが人が出てしまったのです。
……けれど、わたしが落ち込んでいるのは、その失敗だけが原因ではありません。
本来ならわたしが怒られるべきなのに、わたしは皆さんから『大丈夫?』『ケガしなかった?』と気遣われ、代わりにわたしのお姉さまが『監督不行き届き』としてお叱りを受けたのです。
必死になって、頭を下げるお姉さまの姿は見ていられませんでした。
わたしが悪いんだからお姉さまを怒らないで、って言いたくても言えなくて……。
「……お姉さま、ごめんなさい。わたしのせいで……」
「いいのいいの。気にしないで」
夜。
わたしはお姉さまのお部屋を訪ねました。お姉さまはいつも通りの笑顔でわたしを出迎えてくれて、早速、『気にしないでいいんだから』と気遣ってくれました。
「わたしが怒られるべきなのに、お姉さまが……」
「いいんだって。
ちゃんとあなたを指導できてない私が悪いのよ。ああいう場面はね。
私があなたをちゃんと管理していれば、少なくとも、被害はお皿だけですんだんだし。回りにまで波及させてしまったのは、私があなたの仕事を管理してなかったせいよ。
だから、あなたは悪くない。謝らないで」
「……ごめんなさい……!」
もう、それ以上、言葉が続きませんでした。
わたしは頭を下げたまま、声をかみ殺して泣いてしまいました。
本当に、ふがいない自分が情けなくて。そんなわたしを気遣ってくれるお姉さまを見ていられなくて。こんなに優しいお姉さまに、わたしはなんてことをしてしまったんだろう、って。
……わたしは、お姉さまの顔を見ることが出来ませんでした。いいえ、そんなこと、わたしに許されるはずもありませんでした。
「お姉さま……わたし……」
わたしは、このお仕事を続けていていいのでしょうか。ふと、そう思いました。
きっと、この先、わたしはへまをたくさんたくさんやってしまうでしょう。そうして、そのたびに、わたしだけじゃなくて、きっとお姉さまも叱られてしまいます。
お姉さまは何も悪くないのに……わたしのせいで……。
……それなら、わたしは、ここにいてはいけないんじゃないか。そう思いました。
お姉さまにご迷惑はおかけ出来ません。だから……。
「……何か、昔の私を見てるみたい」
その時、そんな呟きが聞こえました。
お姉さまの手が、わたしの頬に触れました。そのまま、そっと、顔を持ち上げられて。目許をハンカチがぬぐっていきました。
「私もね。ここに来た時、同じようなことをやったのよ。
その時もあなたみたいに、お姉さまに謝りに行ったの。そしたら、全く怒られなくて。気にしなくていいのよ、って」
「……はい」
「悲しくて情けなくて、もう今日限りで辞めようと思ったんだけどね。
だけど、何で、まだこの仕事を続けているか、知りたい?」
「……え?」
それはね、とお姉さまがささやいてくれました。
「あ……」
わたしの体を、お姉さまがしっかりと抱きしめていてくれました。
それはとても、あったかくて、優しくて。
「こんな風にしてくれたからなの。
たくさん、優しい言葉をかけてくれたわ。最初はみんな、失敗するんだ、って。そんなこと気にしなくていいんだ、って。
そうしてね、言ってくれたの。
『そこまで真剣にお仕事に向き合っていて、そして、誰かのことを想うことの出来るあなたは、立派な人になれる』って。
それで、『私はこの人のためにも一人前にならないといけないんだ』って思って。そこまで私のことを大切に想ってくれている人にかっこ悪いところなんて見せられなかったからね。
あなたはどう?」
「……」
「ん?」
「……はい」
わたしもお姉さまの背中に手を回して、ぎゅうっと抱きつきました。
お姉さまから伝わってくる、とても優しい心に、体が溶けていくのを、その時、感じました。そして、その昔、お姉さまがそのお姉さまに感じたであろう気持ちも、とてもよく理解できました。
「ここで辞められたらさ、私、きっともっと怒られると思うの。
だから、私も怒られるのやだからさ。もうちょっとだけ、ここで一緒に働いてみない? お互い、ちゃんとフォローしあって」
「はい……」
「よしよし。
ありがとう。そんなに私のこと、慕ってくれて。
だから、もう泣かないでね。あなたは泣いているより、笑っている方が、ずっとずっとかわいいから」
そのお姉さまの言葉が嬉しくて。
わたしはお姉さまの胸に顔をうずめて、小さく「……はい」と返事をしました。
わたしはこの時、思いました。
この館に勤め、この館のために働くことが、わたし達にとっては何よりも大切なことである。だけど、わたしにとっては、それと同じくらい大切なものがここにあるんだ、って。
わたし、頑張ります。
一生懸命頑張って、早く一人前になって。そして、この館と、お姉さまにご奉仕できる立派なメイドになります!
「『そうして決意して、早一年が過ぎました。今では、色んなお仕事をわたし自身に任されるようになり、大きく成長できたと思っています。まだまだ、わたしが学ぶことはたくさんありますけれど、その一つ一つを全部吸収して、一日も早く、一人前のメイドになりたいと思います』」
「いかがでしょうか。お嬢様。
今年の、『紅魔館メイド新規採用者募集』のパンフレットは」
「……………………」
館のお嬢様、レミリアは手に持ったパンフレットを一読した後、その視線を、何だかやたらと誇らしげに胸を張っている従者に向けた。
「……ねぇ、咲夜」
「はい」
「確かに言いたいことはわかるの。うちで働いたらこんないいことがありますよとか、こんなに働きやすい職場なんですよとか。
だけどね、咲夜。
どう見てもパンフレットよりおまけ漫画の方が分厚いんだけど」
彼女が持ってきたパンフレットは、両面印刷で全8ページ。
紅魔館の紹介、仕事内容について、就職条件、そして先輩メイドの体験談、みたいな形でページが並べられている。
そして、もう一冊、それの『おまけ』としてつけられている『あるメイドのエピソード』を扱ったおまけ漫画(監修:パチュリー・ノーレッジ 作画:小悪魔)が、全28ページの大作だったりするのだ。ちなみにフルカラーである。
「こうした方式を採用してから、応募してくる方が爆発的に増えたんです。もう、私達も嬉しい悲鳴を上げるしかなくて。
毎年、優秀な方を選別するのが大変で仕方ないんですよ」
「いやいやいや。おかしいでしょ。どう考えても。
それってパンフレットはどうでもよくて漫画の方がってことじゃない? ってことは、うちの仕事なんてどうでもいいって思われてるんじゃないの?」
「否定できませんわね」
「否定しなさいよ!?」
「ですけど、それでうまく回っているわけですし」
それは事実だった。
事実を言われて否定できず、さすがのレミリアも黙り込む。
「……うちはカップル養成所じゃないんだけど」
それでも精一杯の抵抗をしてみせる。
……してみせるのだが、
「ご安心を、お嬢様。紅魔館では不純異性交遊は禁止しております」
「同性は?」
「その証拠に、紅魔館の百合ップル成立確率は、『就職から半年以内に理想の相手を見つけた……80%』と、非常に高い確率を示しております。現在の百合ップル率は99.996%ですわ」
「わたしの質問無視?」
「それにすでに印刷所も動いておりますので」
「事後承諾!?」
「今年の就職説明会にいらして頂けました方々、全員に、この『お嬢様カリスマクッション』をプレゼント予定ですわ」
「何その肉まん」
「ここを押すと『うー☆』って鳴くんですよ」
「わたし鳴かないし!?」
「あと、過去のエピソードをまとめた総集編冊子の販売も予定してますわ」
「もううちだけ別のことやってない!?」
「それではそういうわけで」
「待ちなさい咲夜ちょっとわたしまだ許可出してないんだけど咲夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちなみに、今回、おまけ漫画とパンフレットの主役となりました『よーちゃん』ですが、その後、それはそれは幸せな日々を送っているそうです。
「お姉さま、お姉さま! 見てください! このお料理! わたしが作ったんですよ!」
「上手になったじゃない。やっぱり、あなた、筋がいいのよ。
どう? あの時、辞めなくてよかったでしょ?」
「はい!」
ここ、紅魔館では、たくさんのメイドが、日々、働いています。
その日々には、辛いことや大変なこともたくさんあるでしょう。
けれど、ご心配なさらないでください。
ここで働くものは、皆、仲間。そして、あなたには、他の誰よりも心を許せる、素敵な『お姉さま』がいらっしゃいます。
皆さんも、紅魔館で働いてみませんか?(執筆:十六夜咲夜)
『おはようございます』
「ちょっと、声が小さいですね。もっと元気に、はい」
『おはようございます!』
「はい。結構です。
皆さん、ようこそ紅魔館へ。先日の採用試験はお疲れ様でした。
本日から、皆さんは紅魔館のメイドとして、この館にご奉仕して頂くわけですが――」
朝もまだ、朝もやが覚めやらない頃に、ここ、紅魔館のお仕事は始まります。
あ、初めまして。わたし、名もない一妖精です。仮に、妖精なので『よーちゃん』とでもお呼びください。
わたしは本日から、ここの館にお勤めすることになりました。
理由はと言いますと、わたしのお友達の『せーちゃん』(仮)が、こちらの館に勤め始めたことによります。
せーちゃん、毎日楽しそうに、ここでお仕事をしているんです。そのお話を色々と聞いていたら、何だかわたしも働きたくなりまして。
妖精仲間の間でも、紅魔館のメイドのお仕事はとても大変だけどやりがいがあって楽しいと有名です。
ちなみに雇用条件もかなりいいんですよ。お給料も一杯もらえますし、朝昼夜のご飯に、あったかい寝床だってついてきます。
破格の雇用条件として、今年の妖精就職フェアでも一番、多くの人たちが熱心に説明を聞いていたのを覚えています。
「私たち、紅魔館のメイドは、一に忠義、二に礼節、三に義理人情を持ってお仕事に――」
わたしを始めとした、今年の新入りメイド達に講釈してくださっているのは、この館のメイドさん達の中でも、かなり地位の高い方だそうです。
その見た目もとっても素敵。すらっと背が高くて、スタイルもとてもよくて。もちろん、お顔立ちだって慈愛に満ち溢れています。こんな人なら、きっとたくさんの方々に慕われているんでしょう。
……だけど、ちょっと話が長いかな? 朝も早いことから、隣の子がうつらうつらしてます。
「はい。以上が、ここで働く上での心構えです。
ご理解頂けましたか?」
『はい!』
「大変結構。
それでは本日より、皆さんにはお仕事に当たって頂きます。ですけれど、初めての職場で、右も左もわからないあなた達に、最初からお仕事の全てに責任を持って、ということは申しません。
皆さんには、先輩のメイド達が一人ずつ、インストラクターとして接します。そして、彼女たちが、責任を持って、あなた達を一人前のメイドとして育て上げてくれるでしょう」
そのお言葉の後、わたし達の後ろから、合計5人の先輩メイドさん達が歩いてきます。
お話によりますと、彼女たちは、わたし達より50年ほど上の先輩とのことでした。つまり、それくらいにならなければ、後輩を任されることはないということなのでしょう。
やっぱり、なかなかお仕事は大変そうです。
「紅魔館は年功序列となっております。
あなた達にとって、全てのメイドが先輩です。敬意と愛情を持って、先輩の方々は『お姉さま』とお呼びしてください。
また、この5名は、その中でも特別な『お姉さま』方です。愛情たっぷりに育ててもらってくださいね」
それでは解散です。
そのお言葉に、わたし達はぺこりと頭を下げました。振り返った先には、わたしの『お姉さま』。
妖精仲間から『よーちゃんってぼーっとしてるところあるよね』と言われる、間抜けなわたしには不釣合いな感じがする、きりっとした目鼻立ちが特徴的なお方です。
「初めまして」
「あ、はい。初めまして。あの、これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。誰かを指導するなんて初めてだから、色々至らないところはあると思うけれど、そんな時はびしっと叱ってね」
「い、いえいえ、そんな。
あの、わたしの方こそよろしくお願いします。お……お姉、さま……」
……何だか気恥ずかしいです。頬がかーっと熱くなってしまいます。
わたしのお姉さまは、にこっと微笑まれると、「それじゃ、お仕事の案内をするわね」と歩き出しました。
その後を、てこてことついていきます。後ろをちらりと見ると、わたしと同輩の子達も、それぞれの『お姉さま』にご挨拶しているところでした。
「今日のお仕事は館のお掃除。
はいこれ」
「モップ、ですね」
「そうよ。これで廊下がけ」
「はい。どこからどこまでですか?」
「ここをずっとよ」
……え?
その一言に顔を引きつらせてしまいます。
廊下。まっすぐ続いています。というか反対側の壁が見えません。
何かのご冗談……でしょうか。これを一日でやるのでしょうか……?
「紅魔館は広いから、メイドごとに担当エリアが決まっているの。この廊下が、私たちと……」
と、そこでお姉さまが言葉を切られました。
しばらくしますと、
「どいてどいてどいてーっ!」
「掃除の邪魔よーっ!」
向こう側から、土煙を上げて走ってくるメイドさん達がいます。わたしの先輩なのは間違いないので、お姉さま、とお呼びするべきなのでしょう。
ただ……その……顔が鬼気迫っていて、とてもじゃないけどそんな雰囲気ではありません。
彼女たちはそのまま、わたし達の横を走っていってしまいました。だけど、驚くべきことに、床はぴっかぴかです。
「さあ、頑張りましょう。
あなたにあそこまでのことをやれとは言わないから、この辺りからゆっくりね。大丈夫、時間はたっぷりあるわ」
だけど、サボったりしちゃダメよ、とお姉さまがわたしに笑ってくださいました。
何だか、そのお顔を見られるだけで嬉しくて、『無理かも』と思っていたわたしの弱気はどこかへ吹き飛んでしまいました。
「はい! 頑張ります、お姉さま!」
よーちゃん、頑張ります! はい!
「窓を磨く時は、割らないようにすることは当然だけど、しぶきにも気をつけるのよ。あなた以外にもお仕事してる人がいるんだから」
「はい」
一日目のお掃除は、とっても大変でした。何だかもう足腰立たなくなりました。
情けないけれど、へばってしまったわたしはお姉さまにおんぶされてお部屋まで連れて行ってもらいました。
だけど、今日はそんなへまはしません。
今日のお仕事は窓拭きです。ふよふよ空を飛んで、一枚一枚、丁寧に磨いていきます。お姉さまが仰られた通り、わたし以外のメイドの方々も窓拭きのお仕事をなさっています。その彼女たちに、汚れた水をかけてしまうなんてもってのほかです。
気をつけないと……。
よいしょよいしょ、きゅっきゅっきゅ。
一生懸命頑張ったおかげでしょうか。わたし達に任されたエリアの窓拭きは、何とか午後の3時ごろまでに終わらせることが出来ました。
「頑張ったわね。あなた、筋がいいわ」
「は、はい。ありがとうございます」
わたしのお仕事なんて、他の方々に比べたら、スピードも遅いし、まだまだですけれど、それでもお姉さまはわたしのことをほめてくださいました。
何かもうそれだけで嬉しくて。
今日一日の疲れが吹っ飛んじゃいました。
「あら、今日はお仕事、早く終わったんですね」
「あ、はい」
「お疲れ様です。今日は早く上がっていいですよ」
そこに、一人のメイドの方が現れました。
身に着けている衣服の色が、わたし達とは違います。金糸で縁取りのなされた、真っ白な、上品な衣装です。その衣装にも負けないくらい、その方はお美しくて。
思わず、ぽーっと見惚れていると、お姉さまが『こら』と小突いてきました。
「ちゃんとご挨拶しないと」
「あ、は、はい!」
「もう行っちゃったわ」
あぅ……。
「あ、あの、お姉さま。あの方は……」
「あの方は、もうずっと、長い間、ここにお勤めになっているの。何をやらせても、私たちより、何でも完璧にこなす方々で、お嬢様の信任もとても厚いのよ」
「……そんなにすごい方なんですか」
「あの方だけじゃなくて、合計で7人、あの方と同じ地位の方々がいらっしゃるわ。
その方々にお会いになったら、ちゃんと敬意を持って、『マイスターのお姉さま』とお呼びするのよ」
「は、はい。わかりました」
……何かすごい人がいるんですね、ここ。せーちゃんはそんなこと教えてくれませんでした。
あ、ちなみに、せーちゃんとは今日のお仕事で会うことが出来ました。わたしが『お姉さま』って呼んだら、『やめてよ、照れくさいから』なんて笑ってましたけど。
「昨日、あなた達をお迎えしたのもマイスターのお姉さまよ。ちなみに、メイド長補佐なの。うちのメイド達の中で二番目に偉い人」
「……わ、そうだったんですか」
「そういうことも、これからきちんと教えていくから。
今は、『そういうすごい人がいるんだ』くらいに覚えておいてね」
「わかりました。お姉さま」
……紅魔館のお仕事、とても奥が深いです。はい。
今日のお仕事はお洗濯です。
何十、何百枚というお洋服にベッドや枕のシーツに、と。今日は特にお洗濯ものが多いということで、お姉さまも『ついてないわね』なんて仰っておられました。
けれど、これもわたしのお仕事です。きちんと頑張ります。
「よい……しょ、よい……しょ」
両手に持ったかごの中はお洗濯物で一杯。重たくてふらふらしているわたしに、回りから『大丈夫?』と声がかけられます。
大丈夫です、とお答えはするのですが……、
「……はぅ」
つい、一休みしてしまいます。
これをお外まで運ばないといけないのですが……大変です。わたし、あんまり重たいものとか持ったことがなかったので……。
あまりお仕事が遅いとお姉さまに叱られてしまいます。急がないといけません。
「よいしょ……」
両手にずしっと来る重さに前のめりになりそうになりながら、それを運んでいると、廊下の角から初めて見る方がこちらにやってきました。
「重たそうだね。手伝おうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。あなた以外のメイドさん達、もう外に出てるし」
「……わたし、そんなに遅かったんですね……」
「あなた、初めて見る顔だね。新人?」
「は、はい。ついおととい……」
「そっか。それなら仕方ないよね。
じゃ、ほら」
なんて、わたしの返答を待たずに、わたしの荷物を持って『行くよ』と歩いていってしまいました。
わたしは、慌ててその後を追いかけます。その方に続いてお外に出て、庭の一角、お洗濯物がはためくところへと。
「これ、ここでいい?」
「あ、門番長! すいません、ありがとうございます!」
「いいのいいの。この子が大変そうにしてたから」
「はい! ありがとうございました!」
じゃあね、と手を振って去っていく……えっと……門番長さん?
役職の名前から察すると、館の門のところでお仕事をなさっているのでしょうか。あいにく、わたしはお見かけしたことはありませんけれど……。
「あの……」
「あとで、あなたのお姉さまと一緒に、ちゃんとお礼に行ってね。あの方は外勤のメイド達を一手に取り仕切っている方なの。
とても気さくな方で、お優しい方なのだけれど、誠意は忘れないようにね」
「はい。わかりました」
「よろしい。
じゃあ、こっちに持ってきて。さっさと、それ、干しちゃいましょう」
紅魔館には色んな方々がいらっしゃいます。
けれど、昨日といい今日といい、その方々も、みんなとても優しい、いい人たちばかりのようです。
そういう方々に囲まれて、期待されているんです。わたし、もっともっと、頑張ります!
……今日は、とてもじゃないけど、明るく振舞うことは出来ませんでした。
お勤めを始めるようになって、まだ一週間も経ってないのに、わたしは早速、お仕事でへまをしてしまいました。
今日、回されたお仕事は厨房でのお皿洗いの仕事だったのですが、本当に目が回るくらいにお仕事が忙しくて。
それで、積んであったお皿を崩してしまったのです。
当然、そのお皿は全部割れてしまいました。それだけならまだよかったのかもしれませんが、音の大きさと事態の規模に驚いた、他のメイドの方々が鍋をひっくり返してしまったりで、何名かけが人が出てしまったのです。
……けれど、わたしが落ち込んでいるのは、その失敗だけが原因ではありません。
本来ならわたしが怒られるべきなのに、わたしは皆さんから『大丈夫?』『ケガしなかった?』と気遣われ、代わりにわたしのお姉さまが『監督不行き届き』としてお叱りを受けたのです。
必死になって、頭を下げるお姉さまの姿は見ていられませんでした。
わたしが悪いんだからお姉さまを怒らないで、って言いたくても言えなくて……。
「……お姉さま、ごめんなさい。わたしのせいで……」
「いいのいいの。気にしないで」
夜。
わたしはお姉さまのお部屋を訪ねました。お姉さまはいつも通りの笑顔でわたしを出迎えてくれて、早速、『気にしないでいいんだから』と気遣ってくれました。
「わたしが怒られるべきなのに、お姉さまが……」
「いいんだって。
ちゃんとあなたを指導できてない私が悪いのよ。ああいう場面はね。
私があなたをちゃんと管理していれば、少なくとも、被害はお皿だけですんだんだし。回りにまで波及させてしまったのは、私があなたの仕事を管理してなかったせいよ。
だから、あなたは悪くない。謝らないで」
「……ごめんなさい……!」
もう、それ以上、言葉が続きませんでした。
わたしは頭を下げたまま、声をかみ殺して泣いてしまいました。
本当に、ふがいない自分が情けなくて。そんなわたしを気遣ってくれるお姉さまを見ていられなくて。こんなに優しいお姉さまに、わたしはなんてことをしてしまったんだろう、って。
……わたしは、お姉さまの顔を見ることが出来ませんでした。いいえ、そんなこと、わたしに許されるはずもありませんでした。
「お姉さま……わたし……」
わたしは、このお仕事を続けていていいのでしょうか。ふと、そう思いました。
きっと、この先、わたしはへまをたくさんたくさんやってしまうでしょう。そうして、そのたびに、わたしだけじゃなくて、きっとお姉さまも叱られてしまいます。
お姉さまは何も悪くないのに……わたしのせいで……。
……それなら、わたしは、ここにいてはいけないんじゃないか。そう思いました。
お姉さまにご迷惑はおかけ出来ません。だから……。
「……何か、昔の私を見てるみたい」
その時、そんな呟きが聞こえました。
お姉さまの手が、わたしの頬に触れました。そのまま、そっと、顔を持ち上げられて。目許をハンカチがぬぐっていきました。
「私もね。ここに来た時、同じようなことをやったのよ。
その時もあなたみたいに、お姉さまに謝りに行ったの。そしたら、全く怒られなくて。気にしなくていいのよ、って」
「……はい」
「悲しくて情けなくて、もう今日限りで辞めようと思ったんだけどね。
だけど、何で、まだこの仕事を続けているか、知りたい?」
「……え?」
それはね、とお姉さまがささやいてくれました。
「あ……」
わたしの体を、お姉さまがしっかりと抱きしめていてくれました。
それはとても、あったかくて、優しくて。
「こんな風にしてくれたからなの。
たくさん、優しい言葉をかけてくれたわ。最初はみんな、失敗するんだ、って。そんなこと気にしなくていいんだ、って。
そうしてね、言ってくれたの。
『そこまで真剣にお仕事に向き合っていて、そして、誰かのことを想うことの出来るあなたは、立派な人になれる』って。
それで、『私はこの人のためにも一人前にならないといけないんだ』って思って。そこまで私のことを大切に想ってくれている人にかっこ悪いところなんて見せられなかったからね。
あなたはどう?」
「……」
「ん?」
「……はい」
わたしもお姉さまの背中に手を回して、ぎゅうっと抱きつきました。
お姉さまから伝わってくる、とても優しい心に、体が溶けていくのを、その時、感じました。そして、その昔、お姉さまがそのお姉さまに感じたであろう気持ちも、とてもよく理解できました。
「ここで辞められたらさ、私、きっともっと怒られると思うの。
だから、私も怒られるのやだからさ。もうちょっとだけ、ここで一緒に働いてみない? お互い、ちゃんとフォローしあって」
「はい……」
「よしよし。
ありがとう。そんなに私のこと、慕ってくれて。
だから、もう泣かないでね。あなたは泣いているより、笑っている方が、ずっとずっとかわいいから」
そのお姉さまの言葉が嬉しくて。
わたしはお姉さまの胸に顔をうずめて、小さく「……はい」と返事をしました。
わたしはこの時、思いました。
この館に勤め、この館のために働くことが、わたし達にとっては何よりも大切なことである。だけど、わたしにとっては、それと同じくらい大切なものがここにあるんだ、って。
わたし、頑張ります。
一生懸命頑張って、早く一人前になって。そして、この館と、お姉さまにご奉仕できる立派なメイドになります!
「『そうして決意して、早一年が過ぎました。今では、色んなお仕事をわたし自身に任されるようになり、大きく成長できたと思っています。まだまだ、わたしが学ぶことはたくさんありますけれど、その一つ一つを全部吸収して、一日も早く、一人前のメイドになりたいと思います』」
「いかがでしょうか。お嬢様。
今年の、『紅魔館メイド新規採用者募集』のパンフレットは」
「……………………」
館のお嬢様、レミリアは手に持ったパンフレットを一読した後、その視線を、何だかやたらと誇らしげに胸を張っている従者に向けた。
「……ねぇ、咲夜」
「はい」
「確かに言いたいことはわかるの。うちで働いたらこんないいことがありますよとか、こんなに働きやすい職場なんですよとか。
だけどね、咲夜。
どう見てもパンフレットよりおまけ漫画の方が分厚いんだけど」
彼女が持ってきたパンフレットは、両面印刷で全8ページ。
紅魔館の紹介、仕事内容について、就職条件、そして先輩メイドの体験談、みたいな形でページが並べられている。
そして、もう一冊、それの『おまけ』としてつけられている『あるメイドのエピソード』を扱ったおまけ漫画(監修:パチュリー・ノーレッジ 作画:小悪魔)が、全28ページの大作だったりするのだ。ちなみにフルカラーである。
「こうした方式を採用してから、応募してくる方が爆発的に増えたんです。もう、私達も嬉しい悲鳴を上げるしかなくて。
毎年、優秀な方を選別するのが大変で仕方ないんですよ」
「いやいやいや。おかしいでしょ。どう考えても。
それってパンフレットはどうでもよくて漫画の方がってことじゃない? ってことは、うちの仕事なんてどうでもいいって思われてるんじゃないの?」
「否定できませんわね」
「否定しなさいよ!?」
「ですけど、それでうまく回っているわけですし」
それは事実だった。
事実を言われて否定できず、さすがのレミリアも黙り込む。
「……うちはカップル養成所じゃないんだけど」
それでも精一杯の抵抗をしてみせる。
……してみせるのだが、
「ご安心を、お嬢様。紅魔館では不純異性交遊は禁止しております」
「同性は?」
「その証拠に、紅魔館の百合ップル成立確率は、『就職から半年以内に理想の相手を見つけた……80%』と、非常に高い確率を示しております。現在の百合ップル率は99.996%ですわ」
「わたしの質問無視?」
「それにすでに印刷所も動いておりますので」
「事後承諾!?」
「今年の就職説明会にいらして頂けました方々、全員に、この『お嬢様カリスマクッション』をプレゼント予定ですわ」
「何その肉まん」
「ここを押すと『うー☆』って鳴くんですよ」
「わたし鳴かないし!?」
「あと、過去のエピソードをまとめた総集編冊子の販売も予定してますわ」
「もううちだけ別のことやってない!?」
「それではそういうわけで」
「待ちなさい咲夜ちょっとわたしまだ許可出してないんだけど咲夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちなみに、今回、おまけ漫画とパンフレットの主役となりました『よーちゃん』ですが、その後、それはそれは幸せな日々を送っているそうです。
「お姉さま、お姉さま! 見てください! このお料理! わたしが作ったんですよ!」
「上手になったじゃない。やっぱり、あなた、筋がいいのよ。
どう? あの時、辞めなくてよかったでしょ?」
「はい!」
ここ、紅魔館では、たくさんのメイドが、日々、働いています。
その日々には、辛いことや大変なこともたくさんあるでしょう。
けれど、ご心配なさらないでください。
ここで働くものは、皆、仲間。そして、あなたには、他の誰よりも心を許せる、素敵な『お姉さま』がいらっしゃいます。
皆さんも、紅魔館で働いてみませんか?(執筆:十六夜咲夜)
間違いなくエデン
ちと幻想入りしてくる
紳士は黙ってちゅっちゅwatching
主以外はイチャイチャ状態なパラダイス紅魔館。
そもそもこの百合ップル率なるものがどのように計算されているのかも怪しい。
99.996%ということは25000分の1が反することになる。母集団が不自然に大きい。
「現在の」という談からは、既に紅魔館に存在しない妖精による水増しとは考えにくい。
ここで考えてみてほしい。恋愛には様々な形が存在しないだろうか、モノガミー、ポリアモリー……。
そう、「合格率120%!!」のカウントのからくりをついでに思い出していただければ幸いである。
だいたいAM3:00~6:00までの空白の時間帯、主が眠りに着こうかという一日の重要な節目に、
妖精メイドを休ませて他の従業員は一体何をしているのだろうか。ここまでの疑問点を
無理にでも収束させると一つの結論に行き着く、即ち、咲夜さんがよなよな不夜城レッド――
などと意味不明な供述を繰り返している模様
ゆかりんページ作成を急ぐんだ