Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

紅魔門番逃走記 7

2007/11/27 11:52:16
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 夜は妖怪の時間、うかつに人が歩けば
 文字通りに帰らぬ人になる
 
 そして妖怪達が多く住んでいる魔法の森に来る
 なんてことは、自殺行為そのものである

 故に、夜の魔法の森は静かである……
 しかし、今日は違った
 
「ぎゃ~!!!」
 悲鳴が聞こえる
 これが人ならおかしい事ではない……だが

「たっ……助け…」
(ゴッ!!!)
 なにか鈍器のような物で叩きつけられた音が聞こえ
 そして、妖怪がまた一人地面に叩きつけられる

 
 倒れて居る妖怪達に向かってその人物は
「……聞きたい事がある…」
 静かに問いただした
「最近、この辺に外から妖怪がやってこなかったか?」
 その問いかけに、妖怪の一人が答えた
「シ、シラネ……ソレニ、外カラ来ル奴ナンテ…」
 そう答えた妖怪に対して、その人物が近付く
「そうか……」
 これで開放される……
 妖怪がホッとした次の瞬間だった
「……ならばお前に用はない…」
(ゴッ!!!)
 鈍器のような音と共に
 答えた妖怪の意識が消えた
 その光景を見ていたほかの妖怪達が
 恐怖に慄く
「……誰か、知っているものは居ないか?」
 そして、そう言われれば
 知っている事を言うしかなかった



 それからしばらくして
「ふむ……」
 その人物の姿が月に照らされる
「どうやら、ここに紅美鈴の事を知っている奴が居るみたいだな」
 慧音だった……
「こいつらでは、これ以上の情報を得られそうにないか」
 そう言って、目の前で倒れている妖怪達を置きっぱなしにして
 さらに森の奥へと向かった


 慧音が居なくなってからしばらくして
 倒れた妖怪達の前に何者かが現れた
「こっ、これは?」
 頬についた傷が特徴の妖怪の男だった
 紅龍(美鈴)の舎弟にしてくれと言ってきた
 妖怪の代表の男だった
 急いで、倒れている妖怪達に駆け寄ると 
「おい!なにがあった!」
 一体なにがあったのかを聞くために
 一人一人に聞いて回った
「ウウッ……」
 倒れている妖怪の一人が意識を取り戻した
「おい!……なにがあった?」
 意識を取り戻した妖怪の肩を揺さぶる
 妖怪は少しだけ意識をはっきりさせる
「里ノ守護者……白沢ガ…」
 慧音 上白沢……名前を知っていない者は、この幻想郷にいないだろう。
 人間を守る守護者として、妖怪達を里から守っている者だ
「白沢が?なんでここに!」
 里を守るはずの者が、魔法の森に来るだけでなく
 妖怪に攻撃を仕掛けるなんて事が異常だった
「ワカラナイ……タダ……誰カ探シテイルヨウダッタ……グッ…」
 そういうとその妖怪はまた意識を落とした
「おい!……くっ、だめだ完全に意識を失っている」
 その妖怪を地面に寝かすと
 他に誰か話を聞ける奴はいないか探し出そうとした
 その時、後ろからうめき声が聞こえた
「ウウッ……龍ノ兄貴…」
 その言葉を聞いて、うめき声をあげた妖怪の元に近づいた
 そこに倒れていたのは、紅龍(美鈴)の舎弟になりたいと言った
 妖怪達の一人であった
「おい!しっかりしろ……龍の兄貴がどうした!?」
 うめき声をあげた妖怪が倒れたままで喋り始める
「龍ノ兄貴ガ危ナイ……白沢ガ探シテイルノハ
 ……最近コノ森ニ来タ……妖怪ダト言ッテタ…多分兄貴ダ…」
 喋り終えると、その妖怪もまた倒れた
 
「……いかん! 兄貴に報告しなければ」
 そう判断した頬に傷を持った妖怪は
 その場から駆け出した







 その頃の慧音は
「む、誰も出てこなくなってしまったな」
 妖怪達を探していた
「……まだ少ししか頭突きをしていないのに…」
 生徒にお仕置きとして行う物ではない
 妹紅や、輝夜などに向かって放つ強烈なものを
 その辺の妖怪に放った際に放たれた音
 それが先ほどの鈍器のような物に叩きつけられた音であった
「もう少し奥に行ってみるか……」
 慧音がさらに森の奥に向かった




「これでよし……後は鰻が来るのを待てばいいね」
 ミスチーが屋台を出していた
 美鈴が、鰻を取りに行ってくれたので
 その間にミスチーは屋台を出す準備をしていた
 後は、鰻を下ごしらえを済ませればお店が出せる所まで来ていた
 その時、何者かがお店にやってきた
「ごめんなさい、まだお店は開いて…」
「すまねえ、紅龍の兄貴は居ないか?」
 昨日の、頬に傷を持つ妖怪がやってきた
 なにやら、尋常でない様子なので
 ミスチーも驚きながら
「今は、居ないけど…どうしたの?」
 そう答えた
 すると、頬に傷を持つ妖怪がなにやら考え込み
「そうか……兄貴が来たらすぐに逃げるように言ってくれ」
 そういって表に出て行こうとした
「ちょ、ちょっと待って!いきなりどうしたの?」
 いきなり『逃げろ』なんて物騒な話に
 ミスチーが頬に傷を持った妖怪を止めた
「……白沢が…兄貴を探しているらしい…」
「!?」
 その答えにミスチーも驚く
 ミスチーも人間に悪戯をしようとして
 懲らしめられた覚えがあるからだ
 その時は、弾幕バトルだったおかげで命は助かったが
「……今、何人もの妖怪が怪我をしている」
 今回は弾幕ではない
「龍の兄貴を……白沢に売るなんて事はできねえ…
 お願いだ、兄貴が来たら…ここから速く逃げてくれと
 言っておいてくだせえ」
 男はそういうと、いつの間にか屋台の周りに集まっていた
 妖怪達と共に外に出て行った

「おめえら! 兄さんを逃がすまで 
 うちらが体張ってでも時間稼ぐぞ!」
 その言葉に周りの妖怪達が声を張り上げた






「……どうしよう…」
 確かに、美鈴を慧音に渡すなんて事はしたくない
 だが、もしあのままにしておけば
「……あの人たち死んじゃうよ」
 死にはしないまでも、再起不能になる事は
 免れないだろう
 ミスチーはどうするか悩んでいた









「むっ?」
 森の奥に、行こうとしていた慧音が立ち止まった
「……誰だ?」
 慧音が振り向いた方向から
 一人の妖怪が出てきた
 おもむろに構えを取ると
 慧音の前に立ちはだかった
「お前を……紅の兄貴の所には行かせん!」
 そういうと慧音に向かって
 突っ込んでいった
 だが、慧音はそれを体捌きだけでかわす
「……風…か?」
 確かに避けたはずだが、慧音の頬が少し切れていた
「お見事……わが能力は『風を友にする程度能力』」
 再び構えを取ると
 慧音の前に突っ込む
「くらえ!」
(とった!)
 妖怪がそう思った瞬間だった

(ゴッ!!!)
 気がつけば、妖怪は地面に倒れていた

「……確かにすごい早さだが
 冥界の庭師はもっと早く鋭かったぞ?」
 前から突っ込んできた妖怪に
 頭突きでカウンターをあわせた慧音が
 そのカウンターをまともに受けた妖怪に
 そうつぶやいて
 森の奥へと歩いていった





「少し遅くなっちゃったね」
 美鈴が鰻を持って、屋台に向かっていた
「でも、これだけあれば十分だよね」
 右手に持った鰻の魚籠を覗くと
 そこには、大量の鰻が入っていた
「さて急がないと」
 目の前に屋台の明かりが見えた

「鰻とってきましたよ」
 美鈴が鰻を持って屋台の中に入っていった
「あっ……お帰り」
 ミスチーが入ってきた美鈴に気づく
「どうかしました?」
 美鈴がミスチーに話しかけた
 美鈴に先ほどの事を、言おうか、言うまいか
悩んでいるのを見透かされたようだった
「な、なんでもないよ?」
「そうですか?なら良いんですけど」
 そういいながら美鈴が料理の用意をしようとする
 その姿を見ながらミスチーは悩んでいた
(……言わなきゃ…でも…)
 今ひとつ踏ん切りが着かなかった
 言ってしまうと、美鈴が居なくなると思ったからだ







「まて!」
 森の中を歩いていた慧音に、またも何者かが現れた
「誰だ?」
 慧音が問いかけると、そこにはまた一人の妖怪が現れた
「……紅の兄さんの前には行かさん…」
「先ほども同じ事を聞かれたが?」
 慧音の問いかけに、その妖怪が怒りをあらわにする
「いかにも……あいつは俺の弟分…よくも俺の弟分を…」
 怒りをそのまま表に出したかのように
 全身が真っ赤に燃え上がる
「この俺の怒りの炎で燃え尽きるがいいわ!!!」
 慧音に対して炎の塊を投げつけてくるが
 慧音には一切当たらない
「ふむ、お前は燐を使うのか」
 燐を燃やした特有の匂いが辺りに広がる
「そうだ! わが怒りの業火受けるといい!」
 そういって妖怪が再び炎を放とうとした
 だが炎は全く飛ばない
「なに?」
「お前の火が『飛ぶ』と言う歴史を消した
 ……さて?色々聞かせてもらおうか」
 何か情報を持っていると思われる妖怪に慧音が詰め寄る
「……ならば!」
「!?」
 突然、妖怪の全身が炎に包み込まれる
「我が身体を炎になりても!お前をここで止めてくれる!!!」
 炎をその身にまとい、慧音に向かって飛び込んでいった


「……まったく…まさか妹紅と同じような奴が妖怪にも居るとはな」
 妖怪に抱きつかれたはずの慧音は、一切燃えていなかった
 目の前には、火傷を負っているが何とか生きている妖怪が倒れていた
「残念だが私を燃やしたくば、不死鳥ぐらいは持ってこないとな」
 相手の『全身が燃える』と言う歴史を消した慧音は
 全身を焼けどした妖怪にトドメを刺すことなく
 森の奥に消えていった
「…一体どんな奴なんだ?紅の兄貴とは?」
 倒れていった妖怪達が言っていた言葉を思い浮かべながら







(言わなきゃいけない……でも)
 ミスチーが苦悩をしているその時
「そういえば……この前の妖怪達…どうしたんでしょうね?」
「!?」
 多分それが、本当のことを言う最後のチャンスだったのだろう
(……うん…言わなきゃね…)
 ミスチーは覚悟を決めた
(これが…正しい事なんだから)
 美鈴に全てを話す事を


(どん)
「ん?どうしたんですか?」
 美鈴が、この前の妖怪達の事をなんとなしにつぶやいた時だった。
 後ろからミスチーが抱き付いてきた
 体が震えているのがわかる
「……どうしたんですか?」
 美鈴がミスチーの正面を向くと
 改めて聞きなおした
「……あのね…」

 ミスチーは全てを話した……
 白沢がこの森にやってきている事……
 美鈴を探しているかも知れない事…… 
 そして、舎弟になりたいと言っている妖怪達が
 美鈴を逃がそうと勝ち目のない戦いをしている事も

「そうでしたか……」
 全てを話したミスチーの頭に手を乗せる
「ありがとう……なら行かなくちゃ」
 美鈴が自分を逃がそうとしてくれる妖怪達を
 助けるために、慧音の前に急いだ
 



「お前で最後か?」
 慧音の目の前に居たのは
「くっ!……」
 頬に傷を持った、紅龍の舎弟になりたいと言った
 あの妖怪だった
「……少しばかり骨が折れたが…」
 慧音と彼の周りには、大量の罠が壊れていた
「永遠亭にウサギに比べれば、まだまだだな」
 その罠の全てを慧音は一気に破壊した
 いや、作動させてそれを無かった事にしたのだ
「さて?お前たちが守っているのは…誰だ?」
 慧音の解答に
「くっくっく……兄さんはもういねえよ」
「なに?」
 頬に傷を持った妖怪が笑いながら答えた
「俺達は時間稼ぎだ!すでに兄さんはこの森から居ないはずだ!」
「……そうか、ならば…」
 慧音がその妖怪に頭突きを食らわそうと
 頭を固定する

(ああ、俺は……これで死ぬんだな
 兄さん……俺は兄さんのようになりたかった)
 覚悟を決めて目を瞑る

(ズガン!!!)
 鈍器に対して鈍器をぶち当てたような音がした

「……?」
 いつまでたっても、自分に対して痛みが来ないので
 不思議に思っていると
「間に合った…」
 目の前には
「このまま居なくなったってしまったら」
 逃げてくれたと思っていた人が
「情けない妖怪として、歴史に名前が残ってしまいますからね」
 自分を助けてくれたのだ


「龍の兄さん!?なんでここに?早く逃げてください!」
「すまないが、それはできない…」
 紅龍の前には、慧音白沢がうずくまっていた
 だが、その目は怒りながら笑っていた
「貴方達は、舎弟ではないが…私を命を賭けて逃がそうとしてくれた
 ……いわば…」
 慧音の前で、紅龍が構えを取る
「ポンヨウだ…」
 頬に傷をもった妖怪には、その言葉はわからなかったが
 なぜか、目から涙が流れた
「兄さん…」
「早く逃げなさい……」
「…オッス!」
 頬に傷を持った妖怪がその場から姿を消した
 今、この場に居るのは
 紅龍と慧音だけだった 

「申し訳ない、しばらく待ってもらって」
 紅龍が、慧音に対して挨拶をする
「……いやいや…こちらも貴方を探していた所だ」
 慧音は、怒りと喜びでいっぱいだった
(この私に……頭突きで来るだと?)

 先ほど、頬に傷を持った妖怪に頭突きを食らわそうとした瞬間だった
 自分の頭に対して目の前の人物が頭から突っ込んできた
 それが、鈍器に対して鈍器をぶつけた音の正体である
 しかも、先ほどは慧音のほうが頭が痺れて立てなかった
 ……慧音上白沢が始めて体験した
ナックルダウン…いや、ヘッドダウンというわけである

「……紅魔館の門番を見つけるために、お前を探していた…」
 慧音が、語りかけるように話し始めた
「初めは魔理沙に頼まれて、何か門番の事を妖怪達に話を聞こうとした…」
 慧音の顔がうれしそうに喜ぶ
「だが! 今はそれよりもお前と勝負がしたい」
 その言葉に、紅龍が理由を尋ねた
「……なぜ? 貴方ここにきたのは、紅魔館の門番を探しに来たのであって
 戦いに来たのではないはず?」
 美鈴を探しに来たのであれば、むやみに戦うのは得策ではない
 それを認識した上で、慧音上白沢が何のために戦いを望むのか
  
「初めてだからな……私に対して頭突きで対抗できる者は」
 慧音の頭突きを受けて、立てた者は居なかった
 それが、妖怪や蓬莱人などであっても……
 慧音自身も、全力で放てる事などないだろうと思っていた
 叶うはずのない夢だった
 ……だが、目の前の人物なら
 その夢をかなえる事が出来るかもしれない

「もしも……断ると言えば?」
「その時は……何度でもこの森にやってくるまでだ」 
 もしそうなれば、この森の妖怪達は
 居なくなってしまうだろう
「……初めて会う者に対して失礼かもしれないが
 これは、里の守護者、白沢としてではない
 唯一人の『上白沢 慧音』としてのお願いだ」
 里を守るものであり、人間のため以外に
 慧音が、初めて己のためにわがままを言ったのだ


「受けてくれないか?」
 慧音が、紅龍に向かってそう問いかける
 それに対して紅龍が悩む
 そしてしばらく経って
 悩んだ末に、紅龍が沈黙を破った
「条件がある……」
「なんだ?」
 慧音がその条件についてたずねた
「一つは、この森の妖怪達に危害を加えない事
 ……里に攻撃してきた者は仕方ないが
 二つ目は、私は余り人目に触れたくない
 観客は、出来るだけいないようなところで戦いたい
 ……この二つだ…時間は、そちらに合わせよう」
 その条件に対して、慧音は首を縦に振る
「ああ、それでいいだろう
 だが、こちらからも条件を出したい」
「……聞こう」
 慧音が出した条件
「戦うのは、明日の夜で場所は……この場でいい、 
 そして……」
 慧音が出した最後の条件
「戦い方は、頭突きだけのデスマッチだ」
 それこそが慧音が望んでいた事であった
「……受けよう…」
 紅龍がそれを受けた
「そうか……感謝する」
 慧音がそういうと、後ろを向き
 森の外に向かって出て行く
 
 その途中で、歩みが止まる
「……すまない…もう一つだけ聞きたい」
 慧音がそういうともう一度
 紅龍の方を向いた
「お前は、紅美鈴という者が
 何処に居るのか知っているのか?」
 その答えに、紅龍はなにも喋らなかった
 ただ、首を縦に振ったのは慧音にもしっかりと伝わった




 慧音が、里に戻った時にはもうそろそろ
 夜明けが近づいていた
「慧音…お帰り」
 里の入り口には妹紅が待っていた
「ああ、ただいま……」
「どうしたの?慧音……やけにうれしそうだけど?」
 その答えに慧音が微笑む
「ああ、妹紅…やっと会えたんだ」
 一体誰に?と妹紅が聞く前に
「私が全力で頭突きが出来る奴が」
「!?」
 妹紅は驚愕した
「そういうわけで、申し訳ないがもう一日里を頼む」
 今日も妹紅は里を守る羽目になった










「……大丈夫かな…」
 美鈴が、妖怪達を救いに行った後 
 ミスチーは、心配しながら屋台で待っていた
「…あの人も強いけど……里の守護者はまた別格だから…」
 なぜ、里に人が安心して暮らせるのか
 それは長い年月を、あの守護者が守ってきたからである
(無事に生きてくれれば……)
 ミスチーがそう思っていた時
「……戻りましたよ」
「あっ!」
 美鈴が戻ってきたのだ
「よかった!無事で……あの妖怪達は?」
「…うん…実はね…」
 美鈴が事の経緯を話そうとしたときだった
「ぐっ!?」
 突然、胸を押さえて美鈴が苦しみだす
「どっ、どうしたの?」
 余りに突然の事に、ミスチーがうろたえる
 美鈴が胸を押さえながらしばらくすると
(ぼん!)
 体から煙が出て
 美鈴の体が、漢から元の姿に戻った
「はあ…はあ……」
 それと同時に胸の痛みが引くが
 意識が薄れてその場に倒れた
「ちょっと?ねえ……?」
 ミスチーの声だけが少しだけ響いた




「ぐっ……?ここは?」
 美鈴が目を覚ました先は
「…よかった…目を覚ましてくれて」
 ミスチーの住処でした
 目の前にミスチーが居て
 自分が、女性に戻っていて
 なおかつ布団の上に眠っていた
「…えーと……確か倒れて」
 美鈴は何故自分が倒れたのかを考えていた
「…確か、苦しんでいて元に戻ると同時に
 意識が無くなって…」
「ここまでつれてきたんだよ……」
 あの後、屋台をしまうと
 ミスチーは、大急ぎで美鈴を自分の住処につれて行ったのだ
「ごめんね……」
 もし、あのままにしておけば
 誰かに見つかり、紅魔館に連れ去られていたかもしれない
 美鈴はミスチーに感謝した
「そんなのは構わないよ……それより丸一日眠っていたんだよ?」

 その言葉に、美鈴が起き上がる
「丸一日? いけない!」
 いきなり起き上がった美鈴にミスチーが驚く
「どっ、どうしたの?」
「昨日の事なんだけど……」
 美鈴は、昨日起こった事を話し始めた

 妖怪達を助けた事
 慧音の目的
 そして、今日の対決の事

「そっ、そんな……無理だよ!そんな病み上がりの身体で」
 ミスチーが叫ぶ
 無理もない、丸一日眠っていたのだ
 まだ、身体も本調子でないかもしれない
 その状態で、里の守護者と戦うなんて自殺行為だ
「でも、約束だからね……」
 慧音との戦いに向かうために、美鈴が表に出ようとした
「だめ!」
 だが、ミスチーが後ろから抱き付き
 行かせまいとする
「行ったら……やられちゃうかもしれないんだよ?」
 慧音の前に行けば、美鈴といえかなりの苦戦を強いられるだろう
 そして、場合によっては紅魔館に連れ戻されるかもしれない
 紅魔館に戻されたら、おそらく処刑されるであろう

「そうかもね……」
 美鈴がそういいながら抱きついているミスチーの手を外した
「でもね……」
 そのまま、薬を手に取る
「待っててくれる人が居るから…」
 それを一気に飲み込む
「だから……行かなくちゃ」
 美鈴が漢の姿になると
 ミスチーを抱きしめる
「ありがとう……」
 そして、一言そう答えると美鈴は森の中に跳んで言った

 その日、夜雀の悲しい歌声が響いた





 真夜中の魔法の森……
 その場には人が居る事はない
 だが、本来あるはずの妖怪達の姿もない
「……遅いな…」
 慧音が、その場に立っていた
 実際にはそこまで遅くないのだが
 慧音にとっては、かなり長く感じられた

 その時、何者かが自分の前に現れた
「……間に合ったかな?」
「女性を待たせるとは、余りいい男ではないな」
 現れた人物の言葉に、慧音が口元をにやけさせながら答えた

「どうも、時間が余りないようなので挨拶は省かせてもらいたい」
 現れた人物の言葉に、慧音が首を縦に振る
「ああ、こっちの方もそのほうがいい」
 そういった次の瞬間


 (ごっ!!!)
 まず初めに攻撃したのは、紅龍からだった
 無言で慧音の前に移動すると同時に、
 慧音の額に頭突きを入れる
 いきなりの事に慧音がよろめくが
「ふっふっふっふ……うれしいぞ…」
 そのまま、慧音が紅龍の肩を掴むと
「ふん!!!」
 (ごつっ!!)
 鈍器で叩く音が鳴り響いた

 戦いは始まったばかり
 そうといわんばかりにお互いが距離を置き
 うれしそうに笑った

 こちらは慧音、いきなりの頭突きに少し戸惑ったが
(ふふ、こちらから仕掛けようと思っていたのだが…やってくれる)
 相手が、本当に約束を守ってくれるか眉唾ものだったが
(感謝せねばならないな……)
 今宵、本気で戦う事が出来る事を、感謝しなければならないようだ


 一方、紅龍
(奇襲はうまくいきましたが…まさかこれほどのものとは…)
 美鈴も拳法家として、頭突きを鍛えているのだが
(……仮面が壊れそうですね…)
 本気で、戦わないと大変な事になると思いながら
『頭突き以外の攻撃』という案はでてこない
 それは、相手との約束だからだ




「ふん!」
(ごっ!)
 慧音の頭突きが、紅龍にぶつかる
「くっ…せい!」
(がん!!)
「ぬっ?」
 だが、それに怯むことなく慧音の肩を掴み
 その額に頭突きを叩き込む
 
 そのようなやり取りがしばらく続いた
 そのうち、お互いが再び距離を置く

「はあ、はあ、はあ」
「ふう、ふう…」
 肩で息をしながらお互いの顔を見合わせる
「はあ、はあ……そろそろ辛くなって来たんじゃないですか?」
 紅龍の言うとおり
 慧音も肩で息をつき始めていた
 だが、その言葉を聞いた慧音は
「ふう……ははっ…ははははははっ!」
 いきなり笑い出した
 どうしたのかと、紅龍は身を固めた
 ひとしきり慧音が笑うと
「ふふっ……よもや…ここまで…戦ってくれるとはな…」
 突然の敗北宣言か?と思っていたら
 慧音の様子が変わる
「よもや…この姿になれるなんて…思ってもいなかった」
 その言葉に、紅龍が空を見上げた
 そこには……
「満月!?そうか、昨日でなく今日を選んだのは…」
 慧音に姿を映すと、そこにはすでに半獣と化した
「待たせたな! それでは続きを始めるとするか!」
「くっ!……(まずいですね)」
 里を守る半獣
 ハクタクがそこに居た

  



「……」
 ミスチーは空を飛んでいた
「~~」
 悲しみの歌を歌いながら

「……姉さん?」
 その様子を見ていた何者かが、ミスチーに声をかけてきた
「…だれ?」
 ミスチーが声のしたほうを向くと
 そこには、頬に傷を持ったあの妖怪が居た
「どうもすいやせん…兄さんは?どうなされてますか?」
 その言葉に、ミスチーが小さな声で話し始めた
「……もう居ない…」
「!?」
 いきなりの答えに頬に傷を持つ妖怪も驚く
「……なにがあったんですかい?」
 ただならぬものを感じたので
 ミスチーに何があったのか問いかける
「……」
 なかなか喋らないミスチーに
「……お願いしやす!兄さんに何が!」
 そういわれてミスチーが
 昨日と今日の事を話す

「なんだって! 兄さんが白沢と戦っているって!?」
 その事を聞いた、頬に傷を持つ妖怪が
「こうしていられねえ!」
 そういって、どこかに行こうとした
「…どうするの?」
 ミスチーがそう聞くと
 その妖怪は
「兄さんを助けに行く!」
「無理だよ…それにそういうのを一番怒るのは…」
 ミスチーの言う事は確かだった
 もし、誰かが邪魔をしたら一番怒るのは
 多分美鈴であるだろう
 そのことは、その妖怪にもわかっていた
「……だが、出来る事もある!」
「いったいなにが?」
 その答えは簡単だった
  





「ぐふっ…」
 いく度かの頭突きで、紅龍が吹っ飛ぶ
「はあ、はあ、はあ……流石だな…ハクタク状態の
 私の頭突きに、怯むことなく頭突きをしてくるとは…」
 だが、すでに紅龍は満身創痍で倒れていた
 仮面は砕け、額から血を流し、今は地面に倒れていた
 
 だが、慧音も肩で息をして、地面に方膝をついていた
 そして、その額から血を流していた
 
「礼を言う…ここまで戦ってくれた事を…」
 そういうと、慧音が立ち上がる
「……そろそろ…幕を引こう」
 最後の頭突きを紅龍にしようとした時だった

「兄貴!」
 何者かがその場に現れる
「間に合った!」
 そしてその後に続くように、大量の妖怪があつまる
「……ま…て…」
 その様子に、紅龍が起き上がる
 顔はすでに血まみれでわからない
 だが、それでも立ち上がる
「……集まった妖怪達に告ぐ…」
 すでに足元もおぼつかない
 だが、その声だけはさらに健在だった
「この聖戦を汚すものは私が許さない!」
 もしも、誰かがこの後慧音に襲い掛かるというのなら
 たとえ、この身体を呈しても慧音を救う覚悟だった
「違いやす…誰も兄さんの戦いを汚すわけじゃありやせん」
 だが、そうではない
 大量の妖怪達が
「紅龍! 紅龍! 紅龍!」
 皆が、紅龍の名前を呼んだ
「…これは…」
 慧音がその光景に驚く
 妖怪達が一人のためにここまで集まる事など
 力だけでは考えられない

「お前ら! もっと声をあげろ! 兄さんを応援するんだ」
「オッス!!!」
 
 それは応援だった……
 乱入でも助太刀でもない
 応援…それが彼らにできる事だった

「……慧音さん…」
 声援に支えられて、紅龍が起き上がる
「決着…つけましょう」
 その言葉に呼応して
「ふふふっ…そうだな…」

 二人の視線が交差する

「「おおおおおぉぉおぉぉおぉ!!!」」

 (ごっ!!!)
 二人の額がぶつかる
 もはや……ただの頭突きではない
 弾幕の光に劣らない程の感動がそこにあった

「……私の…負けですね…」
 紅龍が、その場に崩れ落ちる
「ふふっ……そうだな…」
 最後まで立っていた慧音もその場に崩れ落ちる

 その場にいた妖怪達から歓声があがる
 長かった決戦がここに終結したのだ 



「むっ……ここは?」
 慧音が目を覚ました時、そこには
「……」
 無言でにらんでいる夜雀の姿がありました
「…そうか…私は負けたのか?」
「…私の負けですよ?」
 慧音の問いかけに答えたのは
「お前は!?」
 魔理沙に頼まれて探していた人物が 
 そこに居た
「……これが、私の正体ですよ…」
 美鈴が取り出したのは
 頭突きで破壊された仮面だった
「ど、どういうことだ?」
 慧音は混乱した
 美鈴が何処に居るのかを教えてもらう相手が
 その美鈴本人であったのだ
「薬で男になっていたのですよ」
「だが! 紅美鈴は幻想郷に…」
 そういわれて、慧音が気がついた
「はい……紅美鈴は『今は』幻想郷に居ない…
 そういうことです…」
 考えれば簡単な事だったのだ
 そのような薬も手に入る所も色々あるのだ
「……そういうことだったのか…」
 慧音が納得している所に
 美鈴が静かに声をかけた

「……さあ…私の正体がばれてしまいましたね……
 紅魔館に連れて行くのでしょう?」
 突然の話に慧音が
 驚いていると
「だめ!」
 美鈴にミスチーが抱きつく
「……ありがと…でも、もう仕方がないんですよ」
 ミスチーの頭を撫でながら
 慧音の方を向く
「……さあ…」
 トドメをさせよ……
 といわんばかりに慧音に手を差し出す
 その手を慧音は
「なんのことだ?……私はただ紅龍という者と戦いに来た
 だけだ……紅魔館の門番の事はどうでも良いからな」
 取らなかった……そういって、立ち上がると
「ああ、それと……」
 慧音が美鈴の方を向くと
「今度……是非里の方に遊びに来てくれ
 お世話になった礼ぐらいはする」
 そういって外に出て行った

「……感謝しなければなりませんね…」
 慧音が出て行った後、美鈴はそう一言つぶやいた 



 後に、この頭突き合戦は魔法の森の伝説となる
「ハクタクに頭突きで引き分けた剛の者」として




「よう慧音」
「おや、魔理沙か……どうした?」
 歩いて森から帰ろうとしていた時に
 魔理沙に後ろから声をかけられた
「この前の話だが…どうなった?」
「この前の話?」
「ほら、魔法の森に門番が居るんじゃないか…ってやつ」
 そういわれて、慧音は
「いや?居たのは私と頭突きで勝負してくれた猛者だけだが?」
「げっ!?そんな奴居たのか?」
 そういうと慧音が笑った
「ああ、たぶんお前を気絶させたやつだろう」
 そういいながら、慧音は空を見上げた
「……ちぇ…門番は居ないか」
 そういった魔理沙に対して
「だが、幻想郷には居るみたいだな」
 慧音がそう答えた
「本当か?」
「ああ、お前の頼りにしている人にでも尋ねたら
 なにかわかるかもな」
 そう思わせぶりな事をいって
 慧音は里に向かった
 今回のは、三連休に書き上げた分だけ やけに長いです
 とりあえず、北斗やバキ…そのほかもちょっと入っています
 ……実は長くなりすぎて作品が十超えそうになったので
 これはいかんと思って一気に長くしました
 次の辺りで佳境に入ると思いますので
 末永く…(いやそろそろ完結か?)見てください





 おまけ
 ミスチーの悲しい歌声を聴いてやってください
「いとし~の~貴方は~遠い~ところ~へ~
 いろ~あせぬ~永久の愛~ 誓った~ばかり~に~」
 ミスチーが花束を持ってそれを投げ捨てた
 
 この後、虹川三姉妹がスカウトにやってきた
 幻想音楽 オペラ「アリア」 が出来上がる少し前の事だった
 


 訂正
 今の今まで慧音先生の事を
 慧音 上白沢 と思っていました
 指摘どうり 上白沢 慧音が正しいので
 以後そちらの方を書かせてもらいます 
脇役
コメント



1.欠片の屑削除
慧音の頭突きはとんでもないなぁ…
熱さが伝わりました!
2.名無し妖怪削除
面白い。続き期待していますよー!
3.イスピン削除
五車星の皆さんキター!
原作での名シーンを思い出して少し泣いた俺がいる。
4.名無し妖怪削除
慧音の名前は上白沢慧音だと思うのだが・・・
5.時空や空間を翔る程度の能力削除
深夜に響く除夜の音・・・
正しく名勝負ですね
流石に霊夢すら一発KOでしょうにね
慧音の頭突きには。
6.削除
>「お見事……わが能力は『風を友にする程度能力』」
風のヒューイ!風のヒューイじゃないか!……と思ってたら、フドウとジュウザ涙目。
あと頭突き勝負でナイフエッジデスマッチを思い出したのは、石板叩き割る鉄頭を思い出したのは私だけでいい。