「おや?」
「おっ」
「あら」
時は長月、重陽も過ぎて銀杏の実も辺りに散らばる季節。その秋の長夜の暗がりの道を、はたと出くわす三人がいた。
紅美鈴、小野塚小町、水橋パルスィである。
「あなた方が外を歩いてるなんて珍しい……やっぱり、アレ、ですか?」
「そりゃ、仕事の後にはやっぱりコレ、だろ?」
「奇遇ね。それなら折角だし……」
「一杯やりましょう!」
――
「いらっち~ん」
幻想郷の宵に灯る提灯の赤。夜雀の切り盛りする八ツ目の屋台に三人は陣取っていた。
「それじゃあ取りあえず、鰻三つと焼酎、熱燗で」
「あたいはロック」
「あ、ウーロン茶で」
(飲めよ……)
(飲めよ……)
一人だけアルコールを避けると、直ぐさま隣りから殺気の瞳が二人分飛んできたが、パルスィはそれを特に気にしなかった。その様子をミスティアは苦笑しながら眺め、はいはいと下準備に取りかかった。
やがて一先ず飲み物が出されると、三人はそれを手に乾杯をした。
「っかぁ、仕事の後の一杯は美味いねぇ!」
「それじゃ、お二人も門番みたいな仕事やってるんですか?」
「まあねぇ。いつもちょいと昼寝しちゃ映姫様にどやされてるけどさ」
「あは、同じ。私も咲夜さんに今日だって殺人ドール仕掛けられそうになりましたよ」
「あんた達よくクビにならないわねぇ……。そんだけサボってても定職に就けるとか妬ましいわ」
パルスィはウーロン茶を啜りながら毒づいた。かく言うパルスィも縦穴を通る者が楽しそうにしていると邪魔をしたりする常習犯であるが。
「そうそう、咲夜さんといえば! パルパルちゃん嫉妬心を操れるんでしたっけ?」
「パルパ……ッ!? ま、まあ一応そうだけど」
「それがね、いつも咲夜さん私の方を嫉妬深く見てるんですよ……。それ何とかできないです?」
「あぁ……確かに妬ましいわ。主に胸の辺りが」
紅美鈴は高い身長と豊満な胸を備えている。そういえばそこの小野塚もタッパと胸のデカいこと。対してパルスィはといえば、決して体躯が悪いわけではないものの、格の違いすぎる二人と並べばどうしても小さく、寂しく見えてしまう。
「まあでも、私が出来るのは嫉妬心を煽る方だけよ。それでいいならするけど?」
「えー、じゃあ遠慮しときます……」
「しかし嫉妬心を煽るって恐ろしいねえ。上手くやれば敵を戦わずして内部分裂させることだって出来るんじゃないのかい?」
「まあね。地下の住人の能力なんてどれも忌まわしいものばかりよ」
「へー……それに比べると、映姫様の能力は『白黒つける』! だもんなあ。あっはっは!」
「あれってただ優柔不断性が無いだけにしか見えないんですけど、実際どういう能力なんですか?」
「ああ、まあ要するにだね……」
「 小 町 ! ! 」
「はいッ!?」
酒も廻り、饒舌になり始めたというその時、突如として三人の後ろから怒鳴り声が響いた。その叫び声に一息遅れ、驚いてミスティアが落としたグラスの割れる音が鳴った。一向が恐る恐る背後を振り返ると、そこに居たのは叫び声の大きさに反比例する小さな、けれど恐ろしく威圧感のある……映姫であった。
「げ、ちょ、何でこんな所まで……」
「無論溜まりに溜まった貴女の始末書を書かせる為ですよ……。そう、あなたは毎度毎度……」
「分かった! 分かりましたから人の耳引っ張って説教するのは止めて!」
「素直で宜しい! では直ぐに帰りますよ!」
「あ痛だだだだ!?」
小柄な少女が大柄な女の耳を引っ張り闇夜に消えていく、そんな滑稽な様子を見送った後、パルスィはぽつりと呟いた。
「……黒!」
「黒ですね」
宵の黒に包まれつ、背の黒く焼けた鰻を頬張りながら幻想郷の何でもない夜はまた過ぎていくのであった。
小町:三途の川の舟渡
パルスィ:地底と地上を結ぶ橋の橋姫
確かに人の行き来する(行ったきり含む)とこに3人ともいるね。
パルスィ、ウーロンハイ頼もうぜ……。
それでお酒の飲める皆が妬ましいので
嫌がらせにイナゴの佃煮を頼む(自分は好物なので気にしないww)
黒か…
黒、ねぇ… 悪くない