Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

二つの意味

2010/06/19 12:45:25
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夏の日差しが照りつける中、僕はとある場所で本来は絶対に自ら進んでは余りしない仕事をしていた。

「なんで僕がこんなことを……」

「ほら霖之助、止まってないで動いて。まだまだ仕事は一杯あるんだから。」

そう言うのは僕の横で一緒に仕事をしている咲夜だ。普段僕の店に居る時と口調や態度が違うのには訳がある。それは僕が此処で仕事をしている事にも関係がある。




「それでもこの紅魔館の執事なの?此処は貴方のお店とは違うんだから、此処のルールに従ってもらうわよ。」



そう。今の僕は『香霖堂店主 森近霖之助』ではなく、『紅魔館の執事 森近霖之助』だ。


何故僕が紅魔館で執事をしているのか、その理由は一日前に遡る。





***




僕が何時もの様に読書という名の店番をしていると、昼にしては珍しい方がやって来た。この香霖堂の上客である十六夜咲夜の主人、レミリア・スカーレットだ。

「いらっしゃい……おや、君が来るとは珍しい。明日は槍が降るのかな?」

「別に降らせてほしいならやってあげましょうか?此処に集中砲火。」

「止めてくれ。神話上君の持つ槍は狙って投げれば絶対に狙ったものを仕留めると言い伝えられている。そんな物を投げられれば僕の死は確定してしまう。」

「大丈夫よ、運命操って死なないようにしてあげるから。それに運命操作が間に合わなくても一瞬よ。」

「……本当に止めてくれよ。」

「ふふ、分かっているわ。」

全く……彼女が言うと冗談に聞こえない。それに彼女の場合時々冗談じゃないから余計にたちが悪い。

「……で、本日は何をお求めですか?紅魔のお嬢様。」

僕がそう問うと、彼女は僕に指を突きつけ、



「貴方。」



と言い放った。


「……はぁ?」

我ながら間抜けな声が出てしまった。

「聞こえなかったのかしら?貴方よ、貴方。」

「……それは、僕を購入するという事かい?」

「そ。それ以外に何が?」

「……生憎、香霖堂では生物は取り扱っていないのですが。」

「関係無いわ。私はどんな手段を使ってでも貴方を手に入れるつもりよ。」

駄目だ、どうも彼女のペースに乗せられている。……というよりは、ただ我侭に巻き込まれただけのような気もするが……。

「ねぇ、私のモノになりなさい。悪い様にはしないわ。」

「僕は誰のものでもない。僕の人生は僕が決める。」

「……何で?」

「ん?」

その瞬間、彼女の纏う空気が変わった。
























「何でなのよーーーーーーーーーー!!!私のモノになりなさいよーーー!?ヤダヤダヤダ、りんのすけが私のモノになるまで居座り続けてやるんだから!!うわーーーーーーーん!!!」









「………………」



レミリアは泣きながら床に寝転がり、手足をばたつかせて駄々をこねている。……普段の彼女からは想像できないカリスマの欠片も無い姿に驚いた。だがずっとこのままにしておく訳にもいかないだろう。



「……取り敢えず、話だけでも聞こうじゃないか。」

僕がそう言うと、レミリアは泣き止み、僕に飛びついてきた。

「うわっ……!」

「わーい、りんのすけ大好きー☆」

……カリスマは無くなったままだったが。

「で、何で僕を買おうとしたんだい?」








「うん、あのね、笑わないで聞いてほしいんだけど……、笑わないでね?」

「あ、あぁ……」

この先の話には笑わない自信がある。笑うとするなら未だにカリスマが戻らないレミリアに笑ってしまいそうだ。



「その……、さくやの事なんだけど……。」

「咲夜?彼女がどうかしたのかい?」

「さくや、さいきん疲れてるみたいなの。」

「まぁあそこを一人で切り盛りしているならね……」

咲夜から聞いた話だと、紅魔館は妖精のメイドが居るが物覚えが悪く、優秀な者は十人以下だという。つまり紅魔館の家事は実質咲夜一人で成り立ってると言っていい。

「でね、お休みをあげたいんだけど、さくやが休むとこーまかんがたいへんなことになっちゃうでしょ?」

「まぁそれはそうだね。」

「だからあなたが居ればいいかな、って。」

「待て。」

何をどうすればそんな結論に至るんだ。

「え?だってあなたひまでしょ?だったら数日ぐらいうちではたらいても大丈夫かなって。」

「僕は此処の店主だぞ?お客が来た時に店主が居ないじゃ話にならないじゃないか。」

「おきゃくなんて来ないじゃない。」

「お客として来た君が言える台詞かい?」

「うっ……」

「それに、仮に僕がその話を受けたとして、その間に来れなかったお客達の分の利益はどうするんだ?」

「そ、それくらい出してあげるわ!」

「ふむ……」

そこまで言われて少し考える。

……執事をしてみれば、今までに無い発見があるかもしれないな。
そうすれば、外の世界の道具についても何か新しい発見があるかも知れない。
それなりの利益も見込めるし、やってみる価値はある、か。

「……分かった、商談成立だ。」

こうして、僕は一週間紅魔館の執事になった。

「わーい、りんのすけ大好きー☆」

「………………」

……駄目だ、笑うな。





***




で、今に至る。執事の仕事も意外と楽しいものだ。
ちなみに今僕がやっている仕事は窓拭き。妖精メイドでもこれくらいは出来るそうなものだが……、妖精はそこまで知能が低いのだろうか?あの氷精を見る限りそうなのかも知れないな。

「あ……そこ、拭き残しが……」

「あ、済まない。……いや、すみません。」

「全く……、私がやるから霖之助は上の方をお願いね。」

この口調は何かむず痒いものがあるな。彼女は今まで僕にはもっとやんわりした話し方だったんだが……仕方ないか。今の僕達は『店主と客』ではなく、『上司と部下』なのだから。

「よいしょ……」

咲夜が僕の拭き残しを掃除する為に僕と窓の間に入り込んでくる。そうすると必然的に僕の胸と彼女の背中がぴったりと合わさる事になる。

「…………」

「(ん……?)」

上からなのでよく分からないが、咲夜の顔は耳の端まで真っ赤になっていた。

「咲夜……さん、どうかしましたか?」

「えっ!!?ななな、何でも無いわ!」

「そうですか?顔が少し赤い様な気がしたのですが……」

「き、気のせいよ。そんな事気にする暇があるならちゃんと仕事しなさい!」

「す、すみません……」

「全く……」

そう言って、僕も咲夜も仕事に戻る。そのまま窓拭きが終るまでの間、互いに終始無言だった。
……余談だが、咲夜は僕がどれだけ念入りに窓を拭いても「拭き残しがある」と言って、僕と窓の間に割り込んできた。やはり常日頃から掃除をしているとどんな小さな汚れも見逃せないのだろうか。



***



窓拭きが終わり次に僕が任されたのは、中庭にある花壇の草むしりだった。簡単そうに見えて、これがかなりの重労働なのだ。

「流石に……、ずっとこの姿勢は疲れるな……。」

一度立ち上がって大きく伸びをする。とその時、視界の隅に一つの花が映った。

「ん?」

それは中庭の隅に群生していた菫(すみれ)だった。この種類は毒のある物もあるから、食べる時は注意しなければならない。まぁ今は仕事中だ。そんな事を考える時じゃない。しかし……

「……綺麗だな。」

「そうね。とっても綺麗だわ。」

「あぁ、そうだね……って、何時からそこに居たんですか?」

振り返ると、そこには咲夜がいた。

「今よ。」

「そうですか。」

「でも、本当に綺麗ね。」

「えぇ、そうですね。……あ、そうだ。」

いい事を思いついた。菫を引き抜き、水で綺麗に土と虫を落とした後、

「はい、どうぞ。」

咲夜にプレゼントした。

「えっ……」

すると、咲夜は途端に顔を真っ赤にして、俯いてしまった。

「綺麗だと思うなら、部屋に飾ってみては如何ですか?無理にとは言いませんが。」

「あ……そ、そうね。飾ってみようかしら。」

「そうですか。では植木鉢を用意します。」

「い、いいわ!自分でするから!」

「そうですか?では、お任せします。」

言って、咲夜に菫を渡す。

「では自分は仕事があるので失礼します。」

「え、えぇ。」

そう言うと、咲夜は館に戻っていった。僕もそれを確認し、草むしりに戻った。




***




「霖之助さんが花をくれるなんて……」

どうしよう、勢いとはいえ貰ってしまったこの菫。
まぁ普通に綺麗だし、部屋に飾るくらい……、そ、そう。綺麗だから飾るのよ、綺麗だから!それ以外の気持ちなんてこれっぽっちも無いんだから!

「そういえば、花言葉はなんていうのかしら?」

花を送るときは、相手に似合う、もしくは伝えたい思い等の花言葉の花を選ぶって言うけど……この菫はなんていう花言葉なのかしら?今は丁度休憩時間だし、パチュリー様の図書館で調べさせてもらいましょう。
そう思って、私は地下の大図書館に向かった。



***



「小悪魔、花の図鑑を持って来てくれるかしら?」

「はーい。」

待つこと二十三秒、

「どうぞ~。」

「速いわね。ありがとう。」

驚異的な速さだわ。流石にこの図書館の本全てを管理しているだけあるわね。

「いえいえ~」

小悪魔はパチュリー様の所へ戻って行った。さて、菫……菫……っと、あった。
ご丁寧に写真付きで解説されてるわ。

「え~~っと……?」


























名称:スミレ(菫)
花言葉:純潔、愛、誠実

























顔が館と同じ色に染まるのが自分でも分かった。
「さて、こんな物か。」

一段落つき、大きく伸びをする。先程の菫が視界に入った。

「咲夜は喜んでくれたかな?」

咄嗟の思いつきとはいえ、なかなか良い事をしたと思う。






「菫の花言葉は誠実。
レミリアに尽くす完全で瀟洒な彼女にはピッタリだな。うん。」




何故かこの後レミリアに怒られた。「私の咲夜をとるな!」とはどういう事だろうか?執事の期間が終わった今でもまだ分からない。



投稿五発目。唯です。
五日連続投稿成功。そろそろ自重したほうがいいかな?
前作で華彩神護様に頂いたシチュとカプでした。素晴らしき設定をくださり、ありがとうございます!
今回も誤字や脱字、アドバイス等ありましたらご報告下さい。
最後に、此処まで読んで下さり有難う御座いました。

※追記・修正しました
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
すげー!霖之助とのカップリングでこんなにお話を作るなんて…本当に凄いです!
お嬢様可愛いよ!咲夜さんも可愛いよ!霖之助の執事服姿が見たいよ!
そして華彩さんもナイス!
2.名前が無い程度の能力削除
ほのぼのしました
貴公と華彩さんに感謝ですな

さあ、紫霖を書く作業に入るんだ
3.華彩神護削除
早!!まだ半日ぐらいしか経ってないのに…。
自重はしなくていいですよ~。
GJです!!
4.名前が無い程度の能力削除
毎日、新作が無いのか見るのが日課になってるんだけど、
今回はさすがに展開的に無理があるでしょ・・・。執事にする云々が強引過ぎる

・・・原因は>五日連続投稿成功・・・時間不足による編集不足だよな・・・、
5.幽香霖削除
乙です。
無理して投稿してるなら頻度を下げた方が…
例えば、三日に一作でも早い方だと思います。

でも楽しみにしてるんで、このシリーズ?は続けて欲しいです。
6.削除
コメ返しで~す。
>>奇声を発する程度の能力 様
この話は華彩さんあっての作品ですw

>>2 様
紫霖ですか?
頑張ってみますw

>>華彩神護 様
貴方のご助力のお蔭でこの作品は完成しました。
最大限の感謝を!

>>4 様
深夜のテンションで書いたんで荒削りでした。後々書き直します。すいません。

>>幽香霖 様
楽しみにしていただけるとは……うれしいです!
そうですね、もうちょっと時間かけて良いの書けるようにします。

>>華彩神護 様
カコイイな畜生!
こんな絵想像して書いてました。

>>7~10 様
仲良いですねwww

読んでくれた全ての方に感謝!
7.薬漬削除
これは・・・エクセレンツッ!!!!!!!!!
8.名前が無い程度の能力削除
執事の霖之助がもっと見たくなってしまったよw