「う……ん」
そんな声をもらしながら目を覚ます。隣を見ると妹分である霊夢がすでに起きていた。
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはようございます。霊夢」
時計を見ると少し遅い時間だった。
「先に起きていたなら起こしてくれてもよかったのに」
「ごめん、お姉ちゃんの寝顔が綺麗だったから見惚れていたの」
「な、な、綺麗ですって。この私が、お姉様の方が私なんかよりもずっと綺麗だと思います」
「そんなことない、豊姫も綺麗だけどお姉ちゃんの方がずっと綺麗だよ」
自分は主に戦闘訓練を担当しており、それゆえに、玉兎達に厳しく接していたためそのようなことを言われたことがなかった。むしろ綺麗という言葉は姉である豊姫の方に似合う言葉だと思っていたため、『綺麗』と言われて嬉しくなってしまう。特にそう言ってくれたのが自分を姉のように慕う霊夢からだったので余計に嬉しくなってしまう。
「あ、ありがとうございます」
だから、そんな言葉を口にした。
「食堂でお姉様が待っていると思いますからすぐに着替えて行きましょう」
「うん」
そう言って寝間着を脱いで着替え始めると、霊夢も寝間着を脱いで着替えを始めた。着替え終わって隣を見ると霊夢もすでに着替え終わっていて、いつもの、いや着替えがなくなった彼女のために自分が彼女の巫女服に似せて作らせた服に着替えていた。
「最近、その服を着ることが多いですけど、気に入ったのですか?」
「うんっ。だって、お姉ちゃんが私のために用意してくれた服だから。気に入らないわけがない」
「気に入ってくれたなら結構です。それよりもお姉様が待っているでしょうから早く食堂に行きましょう」
「うん、そうだね」
そんなことを言いながら部屋を出て食堂に向かう。食堂に着くと姉である豊姫が待っていた。
「二人ともおはよう」
「おはよう、豊姫」
「おはようございます、お姉様」
朝の挨拶をしてから椅子に座り、朝食を食べることにした。
「二人とも行ってらっしゃい」
「行ってきます、お姉様」
「行ってくるわ、豊姫」
朝食を食べ終えたあと姉に見送られながら屋敷を出た。
無言で霊夢に手を伸ばすと彼女は意図を察して手を握った。そのまま霊夢と手を繋ぎながら歩き始めた。
「このあたりでいいでしょう。じゃあ今日も頼みますよ」
「分かったわ」
そう言って霊夢は踊り始めた。それを見るためにたくさんの物が自分たちの周りに集まり彼女の踊りを見物した。
彼女の踊りは最初のころに比べると嫌々やっている風ではなくやる気に満ち溢れた非常に美しいものだった。自分の謀反の疑いを晴らすためという目的も忘れて見とれてしまっていた。
やがて、彼女が踊り終わると見物人たちが一斉に拍手した。踊り終わった霊夢に近づいて声をかける。
「最初の頃に比べるととてもよかったですよ」
自分がそう言うと霊夢は少し顔を赤くした。
「だって、私がこうしないとお姉ちゃんが疑われるんでしょ。だから、踊らないと」
「ありがとうございます。まだほかにも回らないといけないところがあります。行きましょう」
そう言って彼女の手を差し出す。
「うんっ」
彼女は満面の笑みでそう言うと自分の手を握った。
そのまま彼女と手を繋ぎながら次の場所を目指して歩くことにした。
「ふー、疲れたわ」
最後の場所で踊り終わった霊夢はそんなことを言った。
「お疲れ様です。よく頑張ってくれましたね」
だから、労いの意味を込めてそう言い、彼女の頭を撫でた。
「えへへ」
自分に頭を撫でられて彼女は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑う。その笑顔を見てなぜかドキッとしてしまう。
(今のは一体)
そんなことを考えていると、
「さっきからぼーっとしているけどどうしたの?」
霊夢が顔を近づけてそう言った。
「な、なんでもありません。お姉様が屋敷で待っているから帰りましょう」
そう言って霊夢の手を握って、屋敷に向けて歩き始めた。霊夢の手を握っている間心臓がドキドキしっぱなしだった。
屋敷に帰り昼食を食べ終わり、本を読んでいると近くにいる霊夢が「ふあぁー」と大きな欠伸をもらした。
「霊夢眠いのですか?」
「たくさん踊って疲れたから眠くなっちゃったみたい」
「じゃあ、少し眠りますか?膝枕をしてあげますよ」
そう言って自分の膝のあたりを指さす。
「いいの?」
「別に構いません」
「じゃあ遠慮なく眠らせてもらうわ」
そう言って霊夢は自分の膝に頭を載せて目をつむった。少しすると霊夢は寝息を立て始めた。
(可愛い寝顔)
彼女の髪を触りながらそんな事を思う。
(この髪もすごく綺麗)
自分は何だかおかしくなってしまっていた。彼女と一緒にいて彼女の笑顔を見ると胸のあたりがドキドキしてしまう。いまも彼女の寝顔を眺めていると胸のあたりがドキドキしてしまう。この気持は何なんだろうと考える。
「う……ん、お姉ちゃん」
不意に彼女がそんな声をもらした。彼女が自分の夢を見ている。そう思うと嬉しかった。
「大好き」
「っ!?」
『大好き』。そう言われて心臓が早鐘を打つ。彼女が自分を姉のように思っていて大好きでいてくれている。とても嬉しかった。けれど、自分は彼女にとって姉でしかないとも思った。そう思うと少し悲しかった。
(私は一体どうしてしまったのかしら)
なぜ悲しいのかその理由が分からなかった。
夕方になり、姉の豊姫の呼ぶ声が聞こえた。夕食ができたのだろう。自分の膝で眠っている霊夢を起こすことにした。
「霊夢、起きなさい」
そう言って霊夢の肩をゆする。しばらく彼女の肩をゆすっていると、
「う……ん」
そんなことを言って目を覚ました。
「目が覚めましたか。夕食ができたそうですから行きましょう」
「う……ん。分か……った」
彼女はまだ眠そうだった。
しょうがないから彼女の手を引いて食堂まで歩いた。食堂に着くころには彼女の目は完全に覚めており、手を話すと椅子に座った。
夕食を食べ終えるとお風呂に入ることにした。数日前、霊夢が自分を『お姉ちゃん』と呼ぶようになった日から霊夢も一緒にお風呂に入るようになっていた。今までは霊夢と一緒にお風呂に入っても平気だったのだが、何故か今日は霊夢と一緒にいるとドキドキしてしまうようになった。もしも、今の状態で彼女の裸を見てしまったらどうなるのだろう。そう思うと一緒に入ることはできなかったので断ろうとした。
「お姉ちゃん、私と一緒にお風呂に入るの嫌になったの?」
上目遣いで見つめられドキッとしてしまう。
「べ、別にそんなことはありません」
「じゃあ一緒に入ろ」
可愛い妹分のお願いを断ることはできず、一緒にお風呂に入ることになった。
できるだけ霊夢の方を見ないようにして湯船につかっていると声をかけられた。
「お姉ちゃん、さっきからこっち見ようとしていないけどどうしたの?」
「べ、別になんでもありません」
「じゃあ、なんでこっち見ないの?」
「そ、それは……その」
あなたと一緒にいるとドキドキしてしまうからですとは言えなかった。
「お姉ちゃん、もしかして私のこと嫌いになったの?」
「そ、そんなことありません。あなたのことは好きです。妹のように思っています」
それは偽らざる本心。そのつもりだったのだが妹のようにと言った時なぜか胸が少し痛んだ。
お風呂から出て寝間着に着替えて寝室に行くとやはり霊夢も付いてきていた。自分と一緒に寝るつもりなのだろう。霊夢の頼みを断りきれる自信がなかったのでそのまま霊夢と一緒の布団で眠ることにした。
できるだけ早く眠ろうと思っているのだがすぐ近くに霊夢が居るのだと思うとドキドキしてしまいなかなか寝付けなかった。それでも頑張って眠ろうとした。やがて眠気が訪れ眠ってしまった。
しばらく眠っていると不意に柔らかい感触がして目が覚めた。目を開けると少し離れたところにいたはずの霊夢が自分に抱きつく形で眠っていた。吐息がかかるほど近いところに霊夢の顔があり胸がドキドキしてしまう。
「う……ん」
霊夢の口からそんな声がもれてきて、それだけでドキドキが止まらなくなってしまう。
そのまま霊夢のことを意識しすぎるあまり眠れなくなってしまった。
気がつくと朝になっていた。昨夜はあまり眠れなかったのでとても眠かった。それでも眠るわけにはいかなかったので気合を入れるために頬を叩いて強引に目を覚ました。
「うわっ」
頬を叩く音に驚いたのか霊夢がそんな声を発して目を覚ました。
「おはようございます、霊夢」
「おはよう、お姉ちゃん。ところで今の音なに?すごい音がしたけど」
「なんでもありません。さあ早く着替えて食堂に行きましょう」
「うん、そうだね」
そう言って霊夢は寝間着を脱ぎ始めた。霊夢の普段は見えない部分が見えてしまい、心臓の鼓動が速くなってしまう。
(やっぱりおかしい。どうしてこんなに心臓の鼓動が速くなってしまうの)
「お姉ちゃんさっきから着替えていないけどどうしたの?」
「な、なんでもありません」
「昨日から少し様子がおかしいよ。熱でもあるんじゃない?」
そう言って霊夢は顔を近づけて来て額を重ね合わせた。
霊夢の顔が近付いた。それだけのことで心臓の鼓動がさらに加速してしまった。
「熱は無いみたいね」
そう言って霊夢の顔が離れた。心臓の鼓動の加速が少し弱まった。
「でも、少し調子が悪そうだよ。今日は休んだ方がいいと思うわ」
「いえ、そういうわけにもいきません」
「無理はしないでね」
霊夢に心配されてしまった。自分は姉失格だと思いながら着替えを終わらせ、食堂に向かい朝食を終わらせた。
それから、霊夢と一緒に屋敷を出て、昨日とは違う場所で霊夢に神降ろしの踊りを披露させた。昨日よりもさらにたくさんの者達が見物していた。彼女の踊りは昨日よりも一段とやる気に満ちており昨日よりもさらに美しかった。彼女は他の場所でも同じように踊り、たくさんの見物人を集めた。彼女の頑張りによって自分の謀反の疑いは晴れた。それは同時に彼女を月の都にとどめる理由がなくなったということであり、彼女が地上に帰ってしまうということであった。彼女と一緒に過ごすうちにできれば地上に帰ってほしくない。自分とずっと一緒にいてほしいと思うようになっていた。霊夢のことは妹のように思っている。だが、本当にそうなのだろうか。妹のように思っているだけならば彼女のことを考えて胸がドキドキしたり痛んだりしないはずである。本当は彼女にどのような想いを抱いているのか。考えても分からなかった。
寝室で霊夢と一緒に過ごしていると「開けて―」という声がした。ドアを開けると姉の豊姫がいくつかのお酒と二つのグラスが載ったお盆を持っていた。
「一体どうしたのですか?お姉様」
「二人にはいい思い出を作ってもらおうと思ってとびっきりのお酒を持ってきたの」
何をしに来たのか尋ねたら姉はそう言った。よく見たらお盆に載っているお酒は屋敷にあるお酒の中でもかなり古いものだった。
「お姉様。ありがとうございます」
姉の好意を無下にするわけにもいかずお盆を受け取った。
「依姫のグラスはこっちだからね」
そう言って姉は部屋を出て行った。グラスを指定してきたことに少し首をかしげるが気にせずにお盆を霊夢のところまで持ってくる。
「霊夢、お姉様がお酒を持ってきてくれました。一緒に飲みましょう」
そう言って霊夢にグラスを手渡す。
「わかったわ」
自分もグラスを手に取った。
「「かんぱーい」」
霊夢とグラスを合わせてお酒を飲むことにした。
「やっぱり月のお酒はすごく美味しいわね」
「長い時間をかけて漬けたのだから当然です。まだまだいっぱいありますよ」
「有り難くいただくわ」
そう言って霊夢は早いペースでお酒を飲んでいった。
自分は自分のペースで飲めばいいと思い始めた時、唐突に変化が訪れた。体が熱くなってきたのである。さらにそれだけでなく霊夢と口付けなどの色々な事をしたいと思うようになっていた。そうして気付く。自分が霊夢に抱いている思いの正体に。自分は霊夢に恋をしているということに。だから、霊夢に想いを伝えることにした。
「霊夢好きです」
自分の告白に霊夢少しの間きょとんとし、それから口を開いた。
「私もお姉ちゃんのことは好きだよ」
それから、そう言った。おそらく、霊夢の言った『好き』とは姉としてという意味であり、自分の言った『好き』とは違う意味での『好き』だった。
「ちがいます、そういう意味で言ったんじゃありません私は……」
そのまま霊夢に近づき、顔を近づけて目を閉じ霊夢の唇を奪った。
「私はあなたを愛しているということです」
唇を離し、目を開けてからそう言った。霊夢の顔は驚きに満ちていた。当然であろう姉のように思う者にそう言われたのだから。やはり、彼女にとって自分は姉でしかないのだ。それでもこの想いを抑えることはできなかった。我慢できなかった。だから、彼女を押し倒しもう一度唇を重ね合わせた。そのまま舌を入れ、深く口づけ、霊夢の口内を堪能する。ひととおり霊夢の口内を堪能した後、唇を離す。すると煌めく銀の糸が垂れて霊夢の顔にかかる。綺麗だと思った。
「霊夢、いっぱい愛してあげます」
そう言って霊夢の寝間着に手をかけそのまま……。
翌朝、目が覚めると自分は一糸纏わぬ姿になっており、すぐ隣には同じく一糸纏わぬ姿になっている霊夢がいた。霊夢は向こうを向いていてここからじゃ表情は分からない。もしかしたら怒っているのかもしれない。
(昨夜はどうしてあんなことをしてしまったのかしら)
自分は確かに霊夢に恋をしている。だが、なぜあんなことをしてしまったのか分からなかった。昨夜は姉が持ってきたお酒を飲んでからおかしかった。そこまで考えて気付く、姉は自分のグラスに入っていたお酒に何かを入れたのだと、それで霊夢にあんなことをしてしまったのだと。後で姉を問い詰めなければいけないと思ったがその前にやらなければいけないことがある。自分は彼女を傷つけてしまったかもしれない。だから、謝らないといけないと思い、霊夢に声をかける。
「霊夢、その昨夜はあんなことをしてごめんなさい。謝って済む問題じゃないと思いますが、私にできることなら何でもしますから許してください」
「じゃあ…………して」
「え?今なんと言いましたか?」
霊夢が発した声は小さくて聞き取れなかったのでそう答える。
「私をずっと月にいられるようにしてって言ったの」
「怒っているんじゃないんですか」
「怒ってなんかいないわ。それに好きじゃなかったらあんなことさせないわよ。ばか」
「え?それってつまり」
「私も……。私も愛して……いるということよ」
「霊夢っ!」
霊夢も自分と同じ思いを抱いている。そのことが嬉しくて霊夢にこっちを向かせ、そのまま抱きつく。彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
「霊夢、愛しています」
「私も……。私も愛している」
そのまま見つめ合ってから唇を重ね合わせた。
「どうやらうまくいったみたいね」
モニターに表示されている映像を見てそう呟く。モニターに表示されている映像は妹の部屋にこっそり仕掛けたカメラが撮影したものだ。妹の依姫が地上の巫女である霊夢に対して恋心を抱き始めていることに気付いていた。
しかし、彼女は自分の想いの正体に気付いていない様子だった。このままではいずれ後悔してしまう。そう思い昨夜、妹に昔八意様が作った薬の一つ自分の想いに素直になれる薬を混ぜたお酒が入ったグラスを渡した。ちゃんと想いが伝わるか不安だったので前もって監視カメラを仕掛け、見守る事にしたのだが杞憂のようだった。妹は自分の思いに気付き霊夢と結ばれた。モニターに映っている妹は愛する者と一緒で本当に幸せそうだった。 今日から家族が一人増えるのでお祝いをしなければいけない。時間はあるだろうかと思ったがモニターの映像を見る限りでは二人が食堂に来るのは遅くなりそうだった。これならお祝いの準備をする時間もあるだろう。そう思い朝食の準備をすることにした。
この日綿月家に新しい人間が加わった。
済む?
甘くて微笑ましくて良かったです
ヒャア!ちゅっちゅだ…一線越えたんですか!やったー!
この感じが何とも面白かったです。
そして甘い!糖分摂取過多になってしまいそうですw
そして朝チュンktkr。
でも霊夢が月に永住したら幻想郷はどうするんだろう。
次代の博麗の巫女が継ぐだけかな…。霊夢がいる時とは違った幻想郷になって行きそうな。
この後、第三次月面侵攻(別名:霊夢救出大作戦)が紫の手によって行われるんですね、分かりますw