窓を撫でると、冷たい水が指の腹をなぜていく。
きゅうっとそれを握りながら、意味もなく、空を眺める。
一面の雪の反射が、少し目に痛くて。
灰色に曇った泥のような積雲が、なんだか優しいように思えた。
外の冷たさに反して、あんまりにも暖かすぎるこの部屋にいると、私はなんだか蒸されているような気持ちになる。
私が見つめる人形遣いはあんまりにも、いろんなことが上手すぎる。人形作りに、料理に、お話。
だから、つい、私も手のひらで踊らされているんじゃないかって。
そんなふうに勘繰ってしまうことのほうが、最近多いのだ。
「―――」
そりゃ、そういう気持ちがある相手を疑うのは悪いことだよ。
だけどアリスが、あんまりにも器用で、綺麗で、飄々としてるから。
私以外にも、ひょっとしたら、とか。そんなこと、考えちゃうんだ。
あいつはまだ、私の隣で寝てる。
飾り気のないこんな寝顔だけが、たぶん心の底から、アリスを信じることができる表情で。
疑ったままは嫌なはずなのに。
ずっと引きずって、拭えないまま。
胸を上下させながら、深い呼吸で眠るあいつの頭を、やんわりと撫でてみた。
「……んぅ」
起きぬけはいつだって、憂鬱で不安なんだ。
恒温を手に入れた鳥といえど、寝起きは低血圧で低体温。
ひとはだの温度が欲しくて、だれかの温かみに触れて、確かめたくなって。
その延長に、あいつに愛されてるって保証が欲しいとか、そんなことを思ってしまう私がいるんだ。
悪いって、わかってるつもりなのに。
胸の奥がざわついて、苦しくなる。
お互いに想いあっているのは、ただの思いこみなのか、なんて。
意味もない不安に駆られて、胸元までシーツを引き寄せる。
アリスは。
私のことを、どう思っているんだろう。
「……都合のいい玩具、とかだったりして」
どこまでも深みにはまるマイナス思考。
わからないのは怖い。
覚り妖怪みたいな確証があるのも怖いけど。
どこまでつきつめても曖昧なまま、誤魔化すことができるのも、落ち着かない。
問い詰めてもかわされてしまう。
抱きしめれば応えてくれるのに、愛してるって言ったら笑われる。
心がある限り。心が見えでもしない限り。
ひととひとの関係は、どこまで行っても、境界線なんか見えやしないんだ。
たまたま、タイミング良くそこにいただけ?
ちっちゃい身体が思ったより気に入ったから?
いやむしろ、私はそういう趣味のひとつなのか?
ベッドに深く身体をうずめて、シーツの中のあいつをぎゅっと抱きしめる。
どうしたってあいつの心には触れられない。
わかりきった当たり前のことのはずなのに、今はどうしてか、無知であることが怖かった。
「あり、す……?」
問いかけるように。
縋るように。
その胸へ、顔をうずめる。
ただ、むしょうに寂しくて、それを埋めてほしいだけ。
アリスじゃないとやだ。
そんな我がままじみた感情を、ぶつけるくらいに、抱きしめる。
きっと、愛なんて高尚なものじゃない。
わかっていて、私は言いたいんだ、愛してるって。
大好きじゃ収まらない。
穿ってみれば依存そのものだけど。
私の気持ちを表すのにきっと、そんなものじゃ足りない。
「アリスは、ねえ。私のこと、好きかなあ……」
抱きしめて呟いたそれは、たぶん、自己満足のためで。
だんだん卑屈になっていく自分を許したくて、吐露しているだけ。
言葉なんて信用できないもので、この憂鬱は晴れないから。
せめてそんなことを考えないように、すこしずつ、目を逸らそうとしていたんだ。
―――どうしてかなあ。
こんなに好きなはずなのに。
なんか、届いてる気がしないよ。
愛されたいのは、強欲なのかな。
一方的な感情が、なんで、こんなに、苦しいのかな。
「……っぅ、うぅ」
気持ちが足りないなら、一挙一動で。
私の全身全霊で、愛してるって、伝えるのに。
どうしてこんな、自分も、アリスも、わからなくなっていくんだろう。
好きでいることに、代償なんて求めちゃいけないのに。
どうして、私は、そんなこと、解ろうとしてるんだろう―――。
「―――五月蠅いなあ」
ぽん。
思考の袋小路におちてしまったところで、予想だにしないところからのつっこみ。
割と本気で起きてくるなんて思わなくて、思わず身体が跳ねる。
「……え」
「うるさいっていってんの、さっきから、変なことばっかり」
「聞いてたの!?」
「さあ。でも五月蠅いのは確か」
「う、あ、ごめん」
私の不安は、アリスにとって五月蠅いものなのか。
そんなふうに変な繋がり方がたたって、何か、涙が止まらない。
そんなわけない、ただの妄想だってわかってても。
思ったより、その言葉が、深く突きささっているみたいで。
無意識のうちにふるふると揺れている身体を、アリスは、くるむように抱えて。
その優しさが、なんか、痛くて。
関が切れて、涙が、止まらなくなる。
「アリス、ぅ」
「はいはい。そうよ私よ」
「アリス、アリ、スぅあぁぅあぁあ」
壊れたおもちゃみたいに叫びながら、無茶苦茶にアリスをかき抱く。
好き、好き、大好き。
そうやって言葉にしきれないところを、まるでそれ以外で表そうとするみたいに。
アリスが、ここにいる。そのことを確かめるように。
あらんかぎりの気持ちを込めて、泣きながら、抱きしめた。
背中にあった手が頭に回って、やんわりと髪を撫でつける。
子供をあやすみたいなその行為に、少しずつ、気持ちが落ち着いているのを感じて。
またなんか、ていよく誤魔化されてるような感じがする。
悔しい。アリスはいつもそうだ。それにほいほい吊られてる私も私だけど。
「私がこんなすっぴん晒すの、あんたくらいなのよ」
「なによ、私なんて、全部見られてるのにぃ」
「お互い様でしょ。そこまでできる相手は、ひとりいれば十分」
本当に。
軽くあしらわれてるみたいで。
どうしてこいつは、こんなに余裕しゃくしゃく何だろうって。
ほんとに、すごく、悔しいんだ。
これくらい大人になれたら、あいつの気持ちが、少しはわかるかもしれないし。
こんなふうに、思い悩むこともなくなるだろうし。
「……それにさ」
きゅう。
音が鳴るくらいに、喉が締まって。
その時の、アリスの表情が。
たまらなく、切なくて。
どうして、こんな顔ができるんだ。
まるで、ほんとに、恋する乙女みたいに。
「私だって、一人前に恋、しちゃってるの。
そんなふうに思われてたなんて、何か心外」
「―――」
……ほら。
ほら、また。
こんな気持ちにさせられて、迷いは吹っ切れてしまって。
ぜんぜん大したことないじゃないかって、そんなふうに考えてしまうんだ。
あいつの手のひらで、踊らされているだけかもしれないのに。
いつだって私は、アリスの言葉で、一喜一憂してしまうんだ。
ああ。
だけど。
そういうことが、好きになるってことかもしれない。
きゅうっとそれを握りながら、意味もなく、空を眺める。
一面の雪の反射が、少し目に痛くて。
灰色に曇った泥のような積雲が、なんだか優しいように思えた。
外の冷たさに反して、あんまりにも暖かすぎるこの部屋にいると、私はなんだか蒸されているような気持ちになる。
私が見つめる人形遣いはあんまりにも、いろんなことが上手すぎる。人形作りに、料理に、お話。
だから、つい、私も手のひらで踊らされているんじゃないかって。
そんなふうに勘繰ってしまうことのほうが、最近多いのだ。
「―――」
そりゃ、そういう気持ちがある相手を疑うのは悪いことだよ。
だけどアリスが、あんまりにも器用で、綺麗で、飄々としてるから。
私以外にも、ひょっとしたら、とか。そんなこと、考えちゃうんだ。
あいつはまだ、私の隣で寝てる。
飾り気のないこんな寝顔だけが、たぶん心の底から、アリスを信じることができる表情で。
疑ったままは嫌なはずなのに。
ずっと引きずって、拭えないまま。
胸を上下させながら、深い呼吸で眠るあいつの頭を、やんわりと撫でてみた。
「……んぅ」
起きぬけはいつだって、憂鬱で不安なんだ。
恒温を手に入れた鳥といえど、寝起きは低血圧で低体温。
ひとはだの温度が欲しくて、だれかの温かみに触れて、確かめたくなって。
その延長に、あいつに愛されてるって保証が欲しいとか、そんなことを思ってしまう私がいるんだ。
悪いって、わかってるつもりなのに。
胸の奥がざわついて、苦しくなる。
お互いに想いあっているのは、ただの思いこみなのか、なんて。
意味もない不安に駆られて、胸元までシーツを引き寄せる。
アリスは。
私のことを、どう思っているんだろう。
「……都合のいい玩具、とかだったりして」
どこまでも深みにはまるマイナス思考。
わからないのは怖い。
覚り妖怪みたいな確証があるのも怖いけど。
どこまでつきつめても曖昧なまま、誤魔化すことができるのも、落ち着かない。
問い詰めてもかわされてしまう。
抱きしめれば応えてくれるのに、愛してるって言ったら笑われる。
心がある限り。心が見えでもしない限り。
ひととひとの関係は、どこまで行っても、境界線なんか見えやしないんだ。
たまたま、タイミング良くそこにいただけ?
ちっちゃい身体が思ったより気に入ったから?
いやむしろ、私はそういう趣味のひとつなのか?
ベッドに深く身体をうずめて、シーツの中のあいつをぎゅっと抱きしめる。
どうしたってあいつの心には触れられない。
わかりきった当たり前のことのはずなのに、今はどうしてか、無知であることが怖かった。
「あり、す……?」
問いかけるように。
縋るように。
その胸へ、顔をうずめる。
ただ、むしょうに寂しくて、それを埋めてほしいだけ。
アリスじゃないとやだ。
そんな我がままじみた感情を、ぶつけるくらいに、抱きしめる。
きっと、愛なんて高尚なものじゃない。
わかっていて、私は言いたいんだ、愛してるって。
大好きじゃ収まらない。
穿ってみれば依存そのものだけど。
私の気持ちを表すのにきっと、そんなものじゃ足りない。
「アリスは、ねえ。私のこと、好きかなあ……」
抱きしめて呟いたそれは、たぶん、自己満足のためで。
だんだん卑屈になっていく自分を許したくて、吐露しているだけ。
言葉なんて信用できないもので、この憂鬱は晴れないから。
せめてそんなことを考えないように、すこしずつ、目を逸らそうとしていたんだ。
―――どうしてかなあ。
こんなに好きなはずなのに。
なんか、届いてる気がしないよ。
愛されたいのは、強欲なのかな。
一方的な感情が、なんで、こんなに、苦しいのかな。
「……っぅ、うぅ」
気持ちが足りないなら、一挙一動で。
私の全身全霊で、愛してるって、伝えるのに。
どうしてこんな、自分も、アリスも、わからなくなっていくんだろう。
好きでいることに、代償なんて求めちゃいけないのに。
どうして、私は、そんなこと、解ろうとしてるんだろう―――。
「―――五月蠅いなあ」
ぽん。
思考の袋小路におちてしまったところで、予想だにしないところからのつっこみ。
割と本気で起きてくるなんて思わなくて、思わず身体が跳ねる。
「……え」
「うるさいっていってんの、さっきから、変なことばっかり」
「聞いてたの!?」
「さあ。でも五月蠅いのは確か」
「う、あ、ごめん」
私の不安は、アリスにとって五月蠅いものなのか。
そんなふうに変な繋がり方がたたって、何か、涙が止まらない。
そんなわけない、ただの妄想だってわかってても。
思ったより、その言葉が、深く突きささっているみたいで。
無意識のうちにふるふると揺れている身体を、アリスは、くるむように抱えて。
その優しさが、なんか、痛くて。
関が切れて、涙が、止まらなくなる。
「アリス、ぅ」
「はいはい。そうよ私よ」
「アリス、アリ、スぅあぁぅあぁあ」
壊れたおもちゃみたいに叫びながら、無茶苦茶にアリスをかき抱く。
好き、好き、大好き。
そうやって言葉にしきれないところを、まるでそれ以外で表そうとするみたいに。
アリスが、ここにいる。そのことを確かめるように。
あらんかぎりの気持ちを込めて、泣きながら、抱きしめた。
背中にあった手が頭に回って、やんわりと髪を撫でつける。
子供をあやすみたいなその行為に、少しずつ、気持ちが落ち着いているのを感じて。
またなんか、ていよく誤魔化されてるような感じがする。
悔しい。アリスはいつもそうだ。それにほいほい吊られてる私も私だけど。
「私がこんなすっぴん晒すの、あんたくらいなのよ」
「なによ、私なんて、全部見られてるのにぃ」
「お互い様でしょ。そこまでできる相手は、ひとりいれば十分」
本当に。
軽くあしらわれてるみたいで。
どうしてこいつは、こんなに余裕しゃくしゃく何だろうって。
ほんとに、すごく、悔しいんだ。
これくらい大人になれたら、あいつの気持ちが、少しはわかるかもしれないし。
こんなふうに、思い悩むこともなくなるだろうし。
「……それにさ」
きゅう。
音が鳴るくらいに、喉が締まって。
その時の、アリスの表情が。
たまらなく、切なくて。
どうして、こんな顔ができるんだ。
まるで、ほんとに、恋する乙女みたいに。
「私だって、一人前に恋、しちゃってるの。
そんなふうに思われてたなんて、何か心外」
「―――」
……ほら。
ほら、また。
こんな気持ちにさせられて、迷いは吹っ切れてしまって。
ぜんぜん大したことないじゃないかって、そんなふうに考えてしまうんだ。
あいつの手のひらで、踊らされているだけかもしれないのに。
いつだって私は、アリスの言葉で、一喜一憂してしまうんだ。
ああ。
だけど。
そういうことが、好きになるってことかもしれない。
アリスもみすちーが感じているほど余裕綽々じゃないんでしょうね。
アリミスか……、これは流行る!
最高でした
良い話でした
少女同士って感じが極端にでていて、微笑ましいですよね
素敵でした
雛鳥がただひたすらに親鳥を求めて鳴くような…そんな一途なみすちーもかわいいよみすちー!
そこにアリスは惹かれたのかなと思います。