Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

グレーゾーン・キーパー

2011/02/25 01:20:12
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窓を撫でると、冷たい水が指の腹をなぜていく。
きゅうっとそれを握りながら、意味もなく、空を眺める。
一面の雪の反射が、少し目に痛くて。
灰色に曇った泥のような積雲が、なんだか優しいように思えた。

外の冷たさに反して、あんまりにも暖かすぎるこの部屋にいると、私はなんだか蒸されているような気持ちになる。
私が見つめる人形遣いはあんまりにも、いろんなことが上手すぎる。人形作りに、料理に、お話。
だから、つい、私も手のひらで踊らされているんじゃないかって。
そんなふうに勘繰ってしまうことのほうが、最近多いのだ。

「―――」

そりゃ、そういう気持ちがある相手を疑うのは悪いことだよ。
だけどアリスが、あんまりにも器用で、綺麗で、飄々としてるから。
私以外にも、ひょっとしたら、とか。そんなこと、考えちゃうんだ。

あいつはまだ、私の隣で寝てる。
飾り気のないこんな寝顔だけが、たぶん心の底から、アリスを信じることができる表情で。
疑ったままは嫌なはずなのに。
ずっと引きずって、拭えないまま。
胸を上下させながら、深い呼吸で眠るあいつの頭を、やんわりと撫でてみた。

「……んぅ」

起きぬけはいつだって、憂鬱で不安なんだ。
恒温を手に入れた鳥といえど、寝起きは低血圧で低体温。
ひとはだの温度が欲しくて、だれかの温かみに触れて、確かめたくなって。
その延長に、あいつに愛されてるって保証が欲しいとか、そんなことを思ってしまう私がいるんだ。
悪いって、わかってるつもりなのに。

胸の奥がざわついて、苦しくなる。
お互いに想いあっているのは、ただの思いこみなのか、なんて。
意味もない不安に駆られて、胸元までシーツを引き寄せる。

アリスは。
私のことを、どう思っているんだろう。

「……都合のいい玩具、とかだったりして」

どこまでも深みにはまるマイナス思考。
わからないのは怖い。

覚り妖怪みたいな確証があるのも怖いけど。
どこまでつきつめても曖昧なまま、誤魔化すことができるのも、落ち着かない。
問い詰めてもかわされてしまう。
抱きしめれば応えてくれるのに、愛してるって言ったら笑われる。

心がある限り。心が見えでもしない限り。
ひととひとの関係は、どこまで行っても、境界線なんか見えやしないんだ。

たまたま、タイミング良くそこにいただけ?
ちっちゃい身体が思ったより気に入ったから?
いやむしろ、私はそういう趣味のひとつなのか?

ベッドに深く身体をうずめて、シーツの中のあいつをぎゅっと抱きしめる。
どうしたってあいつの心には触れられない。
わかりきった当たり前のことのはずなのに、今はどうしてか、無知であることが怖かった。

「あり、す……?」

問いかけるように。
縋るように。
その胸へ、顔をうずめる。
ただ、むしょうに寂しくて、それを埋めてほしいだけ。
アリスじゃないとやだ。
そんな我がままじみた感情を、ぶつけるくらいに、抱きしめる。

きっと、愛なんて高尚なものじゃない。
わかっていて、私は言いたいんだ、愛してるって。
大好きじゃ収まらない。
穿ってみれば依存そのものだけど。
私の気持ちを表すのにきっと、そんなものじゃ足りない。

「アリスは、ねえ。私のこと、好きかなあ……」

抱きしめて呟いたそれは、たぶん、自己満足のためで。
だんだん卑屈になっていく自分を許したくて、吐露しているだけ。
言葉なんて信用できないもので、この憂鬱は晴れないから。
せめてそんなことを考えないように、すこしずつ、目を逸らそうとしていたんだ。

―――どうしてかなあ。
こんなに好きなはずなのに。
なんか、届いてる気がしないよ。
愛されたいのは、強欲なのかな。
一方的な感情が、なんで、こんなに、苦しいのかな。

「……っぅ、うぅ」

気持ちが足りないなら、一挙一動で。
私の全身全霊で、愛してるって、伝えるのに。
どうしてこんな、自分も、アリスも、わからなくなっていくんだろう。

好きでいることに、代償なんて求めちゃいけないのに。
どうして、私は、そんなこと、解ろうとしてるんだろう―――。



「―――五月蠅いなあ」



ぽん。

思考の袋小路におちてしまったところで、予想だにしないところからのつっこみ。
割と本気で起きてくるなんて思わなくて、思わず身体が跳ねる。

「……え」

「うるさいっていってんの、さっきから、変なことばっかり」

「聞いてたの!?」

「さあ。でも五月蠅いのは確か」

「う、あ、ごめん」

私の不安は、アリスにとって五月蠅いものなのか。
そんなふうに変な繋がり方がたたって、何か、涙が止まらない。
そんなわけない、ただの妄想だってわかってても。
思ったより、その言葉が、深く突きささっているみたいで。

無意識のうちにふるふると揺れている身体を、アリスは、くるむように抱えて。
その優しさが、なんか、痛くて。
関が切れて、涙が、止まらなくなる。

「アリス、ぅ」

「はいはい。そうよ私よ」

「アリス、アリ、スぅあぁぅあぁあ」

壊れたおもちゃみたいに叫びながら、無茶苦茶にアリスをかき抱く。
好き、好き、大好き。
そうやって言葉にしきれないところを、まるでそれ以外で表そうとするみたいに。
アリスが、ここにいる。そのことを確かめるように。
あらんかぎりの気持ちを込めて、泣きながら、抱きしめた。

背中にあった手が頭に回って、やんわりと髪を撫でつける。
子供をあやすみたいなその行為に、少しずつ、気持ちが落ち着いているのを感じて。
またなんか、ていよく誤魔化されてるような感じがする。
悔しい。アリスはいつもそうだ。それにほいほい吊られてる私も私だけど。

「私がこんなすっぴん晒すの、あんたくらいなのよ」

「なによ、私なんて、全部見られてるのにぃ」

「お互い様でしょ。そこまでできる相手は、ひとりいれば十分」

本当に。
軽くあしらわれてるみたいで。
どうしてこいつは、こんなに余裕しゃくしゃく何だろうって。
ほんとに、すごく、悔しいんだ。
これくらい大人になれたら、あいつの気持ちが、少しはわかるかもしれないし。
こんなふうに、思い悩むこともなくなるだろうし。

「……それにさ」

きゅう。
音が鳴るくらいに、喉が締まって。
その時の、アリスの表情が。
たまらなく、切なくて。

どうして、こんな顔ができるんだ。
まるで、ほんとに、恋する乙女みたいに。

「私だって、一人前に恋、しちゃってるの。
 そんなふうに思われてたなんて、何か心外」

「―――」

……ほら。
ほら、また。

こんな気持ちにさせられて、迷いは吹っ切れてしまって。
ぜんぜん大したことないじゃないかって、そんなふうに考えてしまうんだ。
あいつの手のひらで、踊らされているだけかもしれないのに。
いつだって私は、アリスの言葉で、一喜一憂してしまうんだ。


ああ。

だけど。

そういうことが、好きになるってことかもしれない。
アリミスっていいですね。
何か、ミスティアが必至そうで。
携帯砲
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あぁ、なるほど。最後まで読むと、このタイトルが凄くしっくり来る。
アリスもみすちーが感じているほど余裕綽々じゃないんでしょうね。
2.奇声を発する程度の能力削除
朝から甘い物を読ませて頂きました
3.名前が無い程度の能力削除
雰囲気がとても良い!
アリミスか……、これは流行る!
4.今無づい削除
アリミス!アリミスうおおおおおお
最高でした
5.名前が無い程度の能力削除
好きで、だから不安で。みすちー頑張れ超頑張れ。
良い話でした
6.名前が無い程度の能力削除
アリミスってなんかこう…
少女同士って感じが極端にでていて、微笑ましいですよね
素敵でした
7.ぴよこ削除
乙女だねぇ。かわいいねぇ。
8.名前が無い程度の能力削除
アリミスktkl!もっとはやってもいいと思う

雛鳥がただひたすらに親鳥を求めて鳴くような…そんな一途なみすちーもかわいいよみすちー!
そこにアリスは惹かれたのかなと思います。
9.名前が無い程度の能力削除
現時点で、創想話唯一のアリミス作品!その唯一の名にふさわしいくらい、話もおもしろい。頑張って!