静かな森の中、突然に木が揺れ出した。
ガサガサ、ガサガサと大きく揺れる。
少しして、うおっという声が聞こえたかと思うと黒い少女が落下してきた。
黒い帽子にこれまた黒をベースにしたふわふわのワンピース、透き通るような金の髪。
「ってて……どこだ、ここは」
少女、魔理沙がこれまでの行動を振り返る。
早めのランチを食べてから、紅魔館で少し遊んで、本を借りようとして、今日は失敗。仕方がないから少し森できのこでも採ろうかと思い……。そこからの記憶がない。
推測すると森の上を飛んでいるときに木にでも引っ掛かって落下した、というところか。
「かっこわる……霊夢やアリス辺りに見られてなくてよかったぜ」
ばんぱんと手をはたいて立ち上がる。
くるりと周囲を見回すと未だかつてみたことのない風景。普通なら怯えるところだが魔理沙は違った。
みたことがない、ということは、新しい発見がある、ということだからだ。
事実、魔理沙の周囲は見たこともない植物や茸があり興奮していた。
採集した状況や色形をメモしながら、次々と採集していく。すぐに手には持ちきれなくなり、帽子を脱いでその中に集める。
ドンッ、前から走ってきた何かに強くぶつかられしりもちをついた。俯いて作業をしていたので気が付かなかったらしい。ぶつかってきた相手はよろけるも、かすれた声で謝罪するとすぐに立て直して走り去っていった。
「危ないだろー!気を付けろよ!」
走り去る背中に向かって怒鳴る。一瞬足が止まったかと思うと森の闇に溶けるように消えていった。
周囲の植物は手当たり次第採集し終え、そろそろ移動しようと立ち上がる。ずっとしゃがんでいたためか、一瞬目眩に襲われたが振り払うようにしゃんと立つ。
収集物の入った帽子を大事に抱え持ち歩き出そうとする。
「そうだ」
髪止めに使っていたリボンをほどき付近の木にくくりつけようとした。
「なんだ、これ」
元の色さえわからぬほどに黒ずんで綻びているが
、周辺の木には沢山の布きれが結びつけられていた。そっと手で触れてみると砂になったようにさらさらと崩れ去った。
推測するにこのはよっぽど迷いやすいらしい。恐らく過去同じように迷った人がここに布をくくりつけ目印としていたのだろう。きっとそうだ。と一人納得しリボンをくくりつけ手を払う。
時おり立ち止まり採集しつつふらふらと進む。
木々が多い繁り薄暗く時間の経過は分からなかった。かなりお腹が空いていることに気がつき、そんなに時間がたったのか、と上を見る。
「あれ?」
木々が多い繁り、光は殆ど入ってきていない。
しかし周囲の様子はある程度把握できている。今までは疑問に思っていなかったのに気が付くと次々と気にかかることが出てきた。
ずっと微かな明かりがあるが、空腹から推測される時間にしては明るすぎるのだ。
森に落ちたのが日が暮れる直前、空が赤く染まっていた頃だ。それから日が暮れるまでこんなにも時間がかかるなんてことがあるのか?
……いや、そもそも本当に森に落ちたのか?
森に落ちたというのは推測でしかない。記憶が飛んでいて事実はわからないからそう推理したのだ。
ゾッとした。回れ右をして飛び出す。しかし上に上がろうとすると木が邪魔をして飛び上がれない。低空飛行で、急いで、急いで。
早く、早く、リボンのところへ。
「おい!おーい!アリス!いないのか!?助けてくれ!」
恐怖で恥なんてどこかに行ってしまった。森へ落ちたことよりも見られていなかったことに安堵していたさっきとは違い、ただ森から出たかった。
どうすれば見つけてもらえるか試行錯誤し、周囲にマスタースパークを乱射した。木は倒れず、エネルギーを無駄に使うだけだった。やがて八掛炉も使えなくなってしまった。
森に入ったときに出会った人を思い出す。痩せこけ、ボサボサの髪。ふらふらと危なっかしく杖をつき走っていた。あの人もこの森に閉じ込められた被害者だったのか。
興奮していたから仕方がないとはいえ、情報交換ができればよかった。しかし後悔してももう遅い。
何時間飛び続けたのか、魔力も体力も底を付き、箒は木にぶつかって真っ二つに折れてしまった。
魔理沙は折れてしまった箒の棒を杖に、歩き続けていた。大事に集めていた食べてもいいのか怪しいきのこから、木に止まっていた虫も食べた。何度も腹を壊したし、幻覚を見たりもした。
八卦炉、箒、研究材料であるきのこ、更にはプライドも失った自分が生きる意味があるのか。そこまでして何故生に執着するのか。自分でもわからないままにただただ死にたくなかった。
いったい何日が過ぎたのか。魔理沙は安全な虫に気付き、虫ばかりを食べて、地べたを這いずりながら生きていた。
もうそんな生活にも慣れてきた、そんなときだった。光が見えた。
仄かであったが森の暗闇に慣れた目では眩しく輝いて見え、きっとあれが出口だ!と最後の力を振り絞り、走り出した。
足の力だけでは足りず元は箒だった杖をつき、必死に駆ける。
ドンッとなにかにぶつかり、よろけた。虫以外の生き物と接触するのは久しぶりだったが今はそんなことどうでもいい。邪魔なところにいるなと八つ当たりをしそうになった。同じように迷った人だったとしてもアドバイスをくれてやる義理はないだろう。とにかく、森から出たい。その一心だった。
すまん。
かすれた声で囁くと体制を立て直して再び走る。
家に帰ったところで箒も八卦炉も持たない、魔法も使えるのか怪しい、プライドの欠片もない今の魔理沙が、前の魔理沙と同じ振る舞いをできるかと言うと怪しいところであったが、ただ虫以外のものを安心して食べたかった。霊夢に、みんなに会いたかった。
体が光に包まれる。
ああ、これで帰れる……。
ふと振り返ると森では金髪で黒い帽子の少女がうずくまっていた。
見覚えがある、顔。
こちらに向かって口を開く
「危ないだろー!気を付けろよ!」
ガサガサ、ガサガサと大きく揺れる。
少しして、うおっという声が聞こえたかと思うと黒い少女が落下してきた。
黒い帽子にこれまた黒をベースにしたふわふわのワンピース、透き通るような金の髪。
「ってて……どこだ、ここは」
少女、魔理沙がこれまでの行動を振り返る。
早めのランチを食べてから、紅魔館で少し遊んで、本を借りようとして、今日は失敗。仕方がないから少し森できのこでも採ろうかと思い……。そこからの記憶がない。
推測すると森の上を飛んでいるときに木にでも引っ掛かって落下した、というところか。
「かっこわる……霊夢やアリス辺りに見られてなくてよかったぜ」
ばんぱんと手をはたいて立ち上がる。
くるりと周囲を見回すと未だかつてみたことのない風景。普通なら怯えるところだが魔理沙は違った。
みたことがない、ということは、新しい発見がある、ということだからだ。
事実、魔理沙の周囲は見たこともない植物や茸があり興奮していた。
採集した状況や色形をメモしながら、次々と採集していく。すぐに手には持ちきれなくなり、帽子を脱いでその中に集める。
ドンッ、前から走ってきた何かに強くぶつかられしりもちをついた。俯いて作業をしていたので気が付かなかったらしい。ぶつかってきた相手はよろけるも、かすれた声で謝罪するとすぐに立て直して走り去っていった。
「危ないだろー!気を付けろよ!」
走り去る背中に向かって怒鳴る。一瞬足が止まったかと思うと森の闇に溶けるように消えていった。
周囲の植物は手当たり次第採集し終え、そろそろ移動しようと立ち上がる。ずっとしゃがんでいたためか、一瞬目眩に襲われたが振り払うようにしゃんと立つ。
収集物の入った帽子を大事に抱え持ち歩き出そうとする。
「そうだ」
髪止めに使っていたリボンをほどき付近の木にくくりつけようとした。
「なんだ、これ」
元の色さえわからぬほどに黒ずんで綻びているが
、周辺の木には沢山の布きれが結びつけられていた。そっと手で触れてみると砂になったようにさらさらと崩れ去った。
推測するにこのはよっぽど迷いやすいらしい。恐らく過去同じように迷った人がここに布をくくりつけ目印としていたのだろう。きっとそうだ。と一人納得しリボンをくくりつけ手を払う。
時おり立ち止まり採集しつつふらふらと進む。
木々が多い繁り薄暗く時間の経過は分からなかった。かなりお腹が空いていることに気がつき、そんなに時間がたったのか、と上を見る。
「あれ?」
木々が多い繁り、光は殆ど入ってきていない。
しかし周囲の様子はある程度把握できている。今までは疑問に思っていなかったのに気が付くと次々と気にかかることが出てきた。
ずっと微かな明かりがあるが、空腹から推測される時間にしては明るすぎるのだ。
森に落ちたのが日が暮れる直前、空が赤く染まっていた頃だ。それから日が暮れるまでこんなにも時間がかかるなんてことがあるのか?
……いや、そもそも本当に森に落ちたのか?
森に落ちたというのは推測でしかない。記憶が飛んでいて事実はわからないからそう推理したのだ。
ゾッとした。回れ右をして飛び出す。しかし上に上がろうとすると木が邪魔をして飛び上がれない。低空飛行で、急いで、急いで。
早く、早く、リボンのところへ。
「おい!おーい!アリス!いないのか!?助けてくれ!」
恐怖で恥なんてどこかに行ってしまった。森へ落ちたことよりも見られていなかったことに安堵していたさっきとは違い、ただ森から出たかった。
どうすれば見つけてもらえるか試行錯誤し、周囲にマスタースパークを乱射した。木は倒れず、エネルギーを無駄に使うだけだった。やがて八掛炉も使えなくなってしまった。
森に入ったときに出会った人を思い出す。痩せこけ、ボサボサの髪。ふらふらと危なっかしく杖をつき走っていた。あの人もこの森に閉じ込められた被害者だったのか。
興奮していたから仕方がないとはいえ、情報交換ができればよかった。しかし後悔してももう遅い。
何時間飛び続けたのか、魔力も体力も底を付き、箒は木にぶつかって真っ二つに折れてしまった。
魔理沙は折れてしまった箒の棒を杖に、歩き続けていた。大事に集めていた食べてもいいのか怪しいきのこから、木に止まっていた虫も食べた。何度も腹を壊したし、幻覚を見たりもした。
八卦炉、箒、研究材料であるきのこ、更にはプライドも失った自分が生きる意味があるのか。そこまでして何故生に執着するのか。自分でもわからないままにただただ死にたくなかった。
いったい何日が過ぎたのか。魔理沙は安全な虫に気付き、虫ばかりを食べて、地べたを這いずりながら生きていた。
もうそんな生活にも慣れてきた、そんなときだった。光が見えた。
仄かであったが森の暗闇に慣れた目では眩しく輝いて見え、きっとあれが出口だ!と最後の力を振り絞り、走り出した。
足の力だけでは足りず元は箒だった杖をつき、必死に駆ける。
ドンッとなにかにぶつかり、よろけた。虫以外の生き物と接触するのは久しぶりだったが今はそんなことどうでもいい。邪魔なところにいるなと八つ当たりをしそうになった。同じように迷った人だったとしてもアドバイスをくれてやる義理はないだろう。とにかく、森から出たい。その一心だった。
すまん。
かすれた声で囁くと体制を立て直して再び走る。
家に帰ったところで箒も八卦炉も持たない、魔法も使えるのか怪しい、プライドの欠片もない今の魔理沙が、前の魔理沙と同じ振る舞いをできるかと言うと怪しいところであったが、ただ虫以外のものを安心して食べたかった。霊夢に、みんなに会いたかった。
体が光に包まれる。
ああ、これで帰れる……。
ふと振り返ると森では金髪で黒い帽子の少女がうずくまっていた。
見覚えがある、顔。
こちらに向かって口を開く
「危ないだろー!気を付けろよ!」
この話面白かったのですが途中でオチが予想できてしまう内容だったのが残念でした