久しぶりの魔理沙から霊夢への酒盛りの誘いだった。
いや、酒盛りなど毎日のように繰り広げられているのだが、サシで霊夢と飲みたいという。
酒盛りが少人数だろうと多人数だろうとどちらでもいい霊夢であるが、魔理沙のほうが多人数の宴会を好む。
そのため、二人の長い付き合いの中でも一対一で飲んだ回数など数えるほどしかなかった。
その数えるほどの機会も、予定していた参加者が来られなくなった等の突発的な出来事で、初めから二人だけで飲む、という席はこれが最初と言って良かった。
そんな少し特殊な状況で始まった宴会は、やはりいつもとは少し違った展開を見せた。
時間が経つにつれ、魔理沙の口数が減っていくのだ。
初めのうちこそいつも通り陽気に振舞っていた魔理沙だったが、少しずつ大人しくなり、そろそろお開きが見えてこようという頃には
残りが少なくなった酒瓶を睨む様にして思考に耽り、話しかける霊夢への返答も上の空になっていた。
「飲み足りない? もう少し萃香が持ってきた酒が残ってるけど」
「ん…いや…うん」
否定とも肯定とも付かぬ物言いに少し苛ついた様子の霊夢は、魔理沙が睨みつける酒瓶をちゃぶ台から降ろし、魔理沙の正面に陣取る。
「飲まないならそろそろ帰ったら? 」
苛立ちを隠そうともしない皮肉めいた言葉だったが、魔理沙の反応は異常なくらいに過敏だった。
「い、厭だ! 絶対に帰らない!」
不機嫌そうに細められていた眼を見開き、縋る様な顔をして叫ぶ魔理沙に圧倒された様子の霊夢。
「…何よ。なんかあったの?」
「……」
魔理沙は視線を霊夢から逸らすと、ゆっくりと息を吐き出し、そして再び霊夢に向き直った。
「――厭なんだ、帰るのが」
しぱしぱ、と眼を瞬かせる霊夢。
「…えーと、魔理沙のことは好きだけど」
「いきなり何を言い出す」
「初めからそういう関係を持つのは急すぎると思うのよ」
「何を言ってる」
「私達まだキスもしてな――」
「違う! そういう意味で言ったんじゃない!!」
顔を真っ赤にして首を振る魔理沙。
そいつは残念、と平然と言ってのける霊夢。
「じゃあ何よ。また部屋がゴミに埋もれちゃって帰るのがイヤになったの? それはただの逃避よ」
「埋もれてないしそもそもゴミじゃない。全部お宝だ」
「よく言うわね…どう見てもゴミ屋敷の癖に」
「とにかく厭なんだよ」
「だから何がって訊いてるんでしょうが。理由も言わずにイヤだイヤだって繰り返しても」
とにかく厭なんだよ――
魔理沙はそう繰り返すとちゃぶ台に突っ伏して、おでこをぐりぐりと自分の重ねた手の甲に押し付けている。
話が中断されて手持ち無沙汰な霊夢は、落ち着かない様子で指を組んだり、髪を弄ったりしている。
しばらくして、不意に魔理沙が呟いた。
――茸なんだよ。
魔理沙が呟いたとき、霊夢は自らのつむじをぐりぐりするのに夢中になっていた。
「魔理沙そんなに激しくしないでじゃなかった茸? 茸がどうしたのよ」
「どうしたのはこっちの台詞だぜ。私が何を激しくした」
「魔理沙につむじをぐりぐりされてると妄想しながら自分で――茸が何よ」
「……」
霊夢の言葉の得体の知れなさに、魔理沙は再び沈黙に沈んだ。
再び手持ち無沙汰になった霊夢は自分の臍を指でなぞり始めたが、魔理沙の浮上は先程よりも早かった。
「――こないだ森で取ってきた茸がな」
「ハァハァ魔理沙のおなかやわこいそれで?」
「それで? じゃない。もう帰るぜ」
「いやゴメンゴメン。真面目に聞くから。ここで止められても気になるわよ」
霊夢は自分の臍を魔理沙の臍に見立てて弄っていたようである。不気味だ。
魔理沙は道に落ちているミミズの死骸を見るような目つきで霊夢をしばらく見つめていたが、重いため息をついてからぽつぽつと話し出した。
その内容を要約すると――
森で魔法に使える茸を探していて、見たことも無い茸を見つけた。
魔法の森に生えてるという点を差っ引いても、不思議なくらいに魔力を持った茸だった。
純粋に魔力を抽出するだけでもかなりの量が採れそうだったが、周囲を見渡しても同じ種類の茸は見当たらなかった。
そこで魔理沙は、その茸を栽培してみることにしたのだという。
もし量産できれば魔法の研究にも随分役立つし、茸自体も研究対象として非常に興味をそそられる物だった。
だから、魔理沙はその茸を採取して――
「家に持ち帰った、筈なんだ」
「ハズ?」
「帰ってから採集鞄の中を漁っても、無かった。煙になって消えたみたいにな」
「はあ、それで?」
魔理沙は落ち着かないように部屋を見渡すと、声をひそめて言った。
――夢に出るんだ。
霊夢は眼を瞬かせると、馬鹿馬鹿しいという表情を隠そうともせずに言った。
「夢に茸が出るってだけなのに、なんでそんなに回りくどい話をしなきゃならないのよ」
「だから、それが厭なんだよ」
「は? 夢に茸が出るから帰りたくないの?」
「そうだぜ」
霊夢は上体を後ろに倒し、ばったりと仰向けに寝転がる。
「あほらし」
「私は真面目に困ってるんだ。厭で厭でたまらないんだよ」
「大体夢に出るならウチに居たって一緒でしょうが。ウチで寝ないつもりなの? ああ、寝かさないで欲しいっていう遠回しなおねだりね!」
「お前の頭の中はどうなってるんだ。家以外の場所で寝ると夢に出ないんだよ。紅魔館とか永遠亭に泊めてもらった夜は出ないんだ」
「またアンタは各所に迷惑を撒き散らして…」
「まぁ私くらいになると各方面から引っ張りだこだからな。レミリアの妹君の相手とか月のお姫様の相手とかな」
しれっと言い放つ魔理沙に、霊夢は「体良く厄介者の相手させられてるだけじゃないの…」と突っ込んだ。
「あんまり同じところに厄介になるのも気が引けるだろ。だから三日どこかに泊まって、家に帰ると――」
夢に出る。
失くした筈の茸が夢に出る。
「さっきから夢に出る夢に出るってそればっかりじゃないのよ」
出るからって何がイヤなのよ、と霊夢は言う。
「出るのが厭なんだ」
「ああもう! 具体的にどうイヤなのよ! さっぱり要領を得ないわ!」
魔理沙はしばらく考えた後、寝るとき霊夢はどうしてる、と訳の分からないことを訊ねた。
「は? 寝るときって、普通に布団に入って…」
「その布団に茸が入ってたらどうする」
「――え?」
霊夢は虚を突かれたように口をぽかんと開けた。
「夢の中で私は普通に生活をしてるんだ。本を読んだり、魔法の研究をしたり、料理を作って食べたり」
その悉くに、茸が出るのだという。
「茸なんて使ってない料理なんだ。でも口の中に茸の味がする。食感も茸そのままだ。見てくれは魚を食べてるのに口の中では茸だ。
本を読んでいても挿絵が茸なんだ。スリッパに足を突っ込むと森で茸を踏んだような感触がする。でもスリッパの中は空だ。
掃除をすると家具の隙間から干からびた茸が出てくる。夢の中で布団に入ると枕がひんやりしていて、
まるで茸に触れたみたいな感じがする。何か物を取ろうとして手を伸ばすと、手の中には茸が納まってるんだ。厭だ。厭なんだよ」
それは――
厭だ。
厭だろう。
「ええと…魔理沙、その」
「分かってるぜ。私だって考えたくはないが、自分が狂ってるんじゃないかと思った。でも家以外の場所で寝ると何もないんだよ。
昨日は永遠亭に泊めてもらったんだが、輝夜の蓬莱の玉の枝を颯爽と盗み出す いや、穏便に私の物にする夢を見た」
まったく夢で残念だぜ、と魔理沙は笑った。
その顔に狂気の影などまったく見えない。
「魔理沙、疲れてるのよ。それか、それこそ悪い茸でも食べたのよ。もしかすると何者かの呪いのような物かも知れないし」
怪奇な話など向こうから出向いてくるのが幻想郷だ。
罷り間違って何かしらの厄介事に巻き込まれることも珍しいことではない。
「まぁいいわ。そういうことなら泊まっていきなさい。今日はもう遅いし、明日対策を考えましょ」
「ん、悪いな」
口調はいつもの魔理沙だか、その表情にはあからさまにホッとした笑みが浮かんでいた。
「布団はひとつでいいかしら」
「二つ敷け」
夜半を過ぎても、魔理沙はまんじりともしなかった。
いくら自分が自宅に居ないと分かっていても、眠るのが少し怖かった。
もし、自宅以外の場所でも茸が出たら――
逃げ場所が無い、ということになる。
床に入ってからずっと、その恐ろしい想像が拭い切れない。
たまらず、寝返りを打つと暗闇の中に、隣の布団で眠る霊夢の横顔が見えた。
――例えそうなっても、霊夢と居れば何とかなるか。
今までも何とかなってきたし。
根がポジティブな魔理沙はそう考え、くすっと笑った。
「…起きてる?」
霊夢の声が夜の静寂を押しのけた。
「…起きてるぜ」
「不安かもしれないけど、寝ときなさいよ。明日になればきっと私が何とかするわ」
「頼もしいぜ。よろしく頼む」
霊夢の布団の端から、手が伸びてくる。
心細くなっていた魔理沙も、そっと手を伸ばす。
二つの布団の間で、二つの手がそっと繋がれた。
「ひ――」
「どうか、した?」
繋いだ霊夢の手は、今まで布団の中に入っていたにも拘らず、少しひんやりとして、わずかに湿り気を感じた。
それはまるで、
魔理沙は懸命に前の日の自らの行動を思い起こしていた。
確か、永遠亭を出て、神社に行く前に自宅へ酒を取りに行って、
それはまるで、
魔理沙は自宅を出た記憶が無い自分に愕然とした。
それはまるで、
それはまるで、 それはまるで、
霊夢の手は、茸のような、
――厭だ。
.
いや、酒盛りなど毎日のように繰り広げられているのだが、サシで霊夢と飲みたいという。
酒盛りが少人数だろうと多人数だろうとどちらでもいい霊夢であるが、魔理沙のほうが多人数の宴会を好む。
そのため、二人の長い付き合いの中でも一対一で飲んだ回数など数えるほどしかなかった。
その数えるほどの機会も、予定していた参加者が来られなくなった等の突発的な出来事で、初めから二人だけで飲む、という席はこれが最初と言って良かった。
そんな少し特殊な状況で始まった宴会は、やはりいつもとは少し違った展開を見せた。
時間が経つにつれ、魔理沙の口数が減っていくのだ。
初めのうちこそいつも通り陽気に振舞っていた魔理沙だったが、少しずつ大人しくなり、そろそろお開きが見えてこようという頃には
残りが少なくなった酒瓶を睨む様にして思考に耽り、話しかける霊夢への返答も上の空になっていた。
「飲み足りない? もう少し萃香が持ってきた酒が残ってるけど」
「ん…いや…うん」
否定とも肯定とも付かぬ物言いに少し苛ついた様子の霊夢は、魔理沙が睨みつける酒瓶をちゃぶ台から降ろし、魔理沙の正面に陣取る。
「飲まないならそろそろ帰ったら? 」
苛立ちを隠そうともしない皮肉めいた言葉だったが、魔理沙の反応は異常なくらいに過敏だった。
「い、厭だ! 絶対に帰らない!」
不機嫌そうに細められていた眼を見開き、縋る様な顔をして叫ぶ魔理沙に圧倒された様子の霊夢。
「…何よ。なんかあったの?」
「……」
魔理沙は視線を霊夢から逸らすと、ゆっくりと息を吐き出し、そして再び霊夢に向き直った。
「――厭なんだ、帰るのが」
しぱしぱ、と眼を瞬かせる霊夢。
「…えーと、魔理沙のことは好きだけど」
「いきなり何を言い出す」
「初めからそういう関係を持つのは急すぎると思うのよ」
「何を言ってる」
「私達まだキスもしてな――」
「違う! そういう意味で言ったんじゃない!!」
顔を真っ赤にして首を振る魔理沙。
そいつは残念、と平然と言ってのける霊夢。
「じゃあ何よ。また部屋がゴミに埋もれちゃって帰るのがイヤになったの? それはただの逃避よ」
「埋もれてないしそもそもゴミじゃない。全部お宝だ」
「よく言うわね…どう見てもゴミ屋敷の癖に」
「とにかく厭なんだよ」
「だから何がって訊いてるんでしょうが。理由も言わずにイヤだイヤだって繰り返しても」
とにかく厭なんだよ――
魔理沙はそう繰り返すとちゃぶ台に突っ伏して、おでこをぐりぐりと自分の重ねた手の甲に押し付けている。
話が中断されて手持ち無沙汰な霊夢は、落ち着かない様子で指を組んだり、髪を弄ったりしている。
しばらくして、不意に魔理沙が呟いた。
――茸なんだよ。
魔理沙が呟いたとき、霊夢は自らのつむじをぐりぐりするのに夢中になっていた。
「魔理沙そんなに激しくしないでじゃなかった茸? 茸がどうしたのよ」
「どうしたのはこっちの台詞だぜ。私が何を激しくした」
「魔理沙につむじをぐりぐりされてると妄想しながら自分で――茸が何よ」
「……」
霊夢の言葉の得体の知れなさに、魔理沙は再び沈黙に沈んだ。
再び手持ち無沙汰になった霊夢は自分の臍を指でなぞり始めたが、魔理沙の浮上は先程よりも早かった。
「――こないだ森で取ってきた茸がな」
「ハァハァ魔理沙のおなかやわこいそれで?」
「それで? じゃない。もう帰るぜ」
「いやゴメンゴメン。真面目に聞くから。ここで止められても気になるわよ」
霊夢は自分の臍を魔理沙の臍に見立てて弄っていたようである。不気味だ。
魔理沙は道に落ちているミミズの死骸を見るような目つきで霊夢をしばらく見つめていたが、重いため息をついてからぽつぽつと話し出した。
その内容を要約すると――
森で魔法に使える茸を探していて、見たことも無い茸を見つけた。
魔法の森に生えてるという点を差っ引いても、不思議なくらいに魔力を持った茸だった。
純粋に魔力を抽出するだけでもかなりの量が採れそうだったが、周囲を見渡しても同じ種類の茸は見当たらなかった。
そこで魔理沙は、その茸を栽培してみることにしたのだという。
もし量産できれば魔法の研究にも随分役立つし、茸自体も研究対象として非常に興味をそそられる物だった。
だから、魔理沙はその茸を採取して――
「家に持ち帰った、筈なんだ」
「ハズ?」
「帰ってから採集鞄の中を漁っても、無かった。煙になって消えたみたいにな」
「はあ、それで?」
魔理沙は落ち着かないように部屋を見渡すと、声をひそめて言った。
――夢に出るんだ。
霊夢は眼を瞬かせると、馬鹿馬鹿しいという表情を隠そうともせずに言った。
「夢に茸が出るってだけなのに、なんでそんなに回りくどい話をしなきゃならないのよ」
「だから、それが厭なんだよ」
「は? 夢に茸が出るから帰りたくないの?」
「そうだぜ」
霊夢は上体を後ろに倒し、ばったりと仰向けに寝転がる。
「あほらし」
「私は真面目に困ってるんだ。厭で厭でたまらないんだよ」
「大体夢に出るならウチに居たって一緒でしょうが。ウチで寝ないつもりなの? ああ、寝かさないで欲しいっていう遠回しなおねだりね!」
「お前の頭の中はどうなってるんだ。家以外の場所で寝ると夢に出ないんだよ。紅魔館とか永遠亭に泊めてもらった夜は出ないんだ」
「またアンタは各所に迷惑を撒き散らして…」
「まぁ私くらいになると各方面から引っ張りだこだからな。レミリアの妹君の相手とか月のお姫様の相手とかな」
しれっと言い放つ魔理沙に、霊夢は「体良く厄介者の相手させられてるだけじゃないの…」と突っ込んだ。
「あんまり同じところに厄介になるのも気が引けるだろ。だから三日どこかに泊まって、家に帰ると――」
夢に出る。
失くした筈の茸が夢に出る。
「さっきから夢に出る夢に出るってそればっかりじゃないのよ」
出るからって何がイヤなのよ、と霊夢は言う。
「出るのが厭なんだ」
「ああもう! 具体的にどうイヤなのよ! さっぱり要領を得ないわ!」
魔理沙はしばらく考えた後、寝るとき霊夢はどうしてる、と訳の分からないことを訊ねた。
「は? 寝るときって、普通に布団に入って…」
「その布団に茸が入ってたらどうする」
「――え?」
霊夢は虚を突かれたように口をぽかんと開けた。
「夢の中で私は普通に生活をしてるんだ。本を読んだり、魔法の研究をしたり、料理を作って食べたり」
その悉くに、茸が出るのだという。
「茸なんて使ってない料理なんだ。でも口の中に茸の味がする。食感も茸そのままだ。見てくれは魚を食べてるのに口の中では茸だ。
本を読んでいても挿絵が茸なんだ。スリッパに足を突っ込むと森で茸を踏んだような感触がする。でもスリッパの中は空だ。
掃除をすると家具の隙間から干からびた茸が出てくる。夢の中で布団に入ると枕がひんやりしていて、
まるで茸に触れたみたいな感じがする。何か物を取ろうとして手を伸ばすと、手の中には茸が納まってるんだ。厭だ。厭なんだよ」
それは――
厭だ。
厭だろう。
「ええと…魔理沙、その」
「分かってるぜ。私だって考えたくはないが、自分が狂ってるんじゃないかと思った。でも家以外の場所で寝ると何もないんだよ。
昨日は永遠亭に泊めてもらったんだが、輝夜の蓬莱の玉の枝を颯爽と盗み出す いや、穏便に私の物にする夢を見た」
まったく夢で残念だぜ、と魔理沙は笑った。
その顔に狂気の影などまったく見えない。
「魔理沙、疲れてるのよ。それか、それこそ悪い茸でも食べたのよ。もしかすると何者かの呪いのような物かも知れないし」
怪奇な話など向こうから出向いてくるのが幻想郷だ。
罷り間違って何かしらの厄介事に巻き込まれることも珍しいことではない。
「まぁいいわ。そういうことなら泊まっていきなさい。今日はもう遅いし、明日対策を考えましょ」
「ん、悪いな」
口調はいつもの魔理沙だか、その表情にはあからさまにホッとした笑みが浮かんでいた。
「布団はひとつでいいかしら」
「二つ敷け」
夜半を過ぎても、魔理沙はまんじりともしなかった。
いくら自分が自宅に居ないと分かっていても、眠るのが少し怖かった。
もし、自宅以外の場所でも茸が出たら――
逃げ場所が無い、ということになる。
床に入ってからずっと、その恐ろしい想像が拭い切れない。
たまらず、寝返りを打つと暗闇の中に、隣の布団で眠る霊夢の横顔が見えた。
――例えそうなっても、霊夢と居れば何とかなるか。
今までも何とかなってきたし。
根がポジティブな魔理沙はそう考え、くすっと笑った。
「…起きてる?」
霊夢の声が夜の静寂を押しのけた。
「…起きてるぜ」
「不安かもしれないけど、寝ときなさいよ。明日になればきっと私が何とかするわ」
「頼もしいぜ。よろしく頼む」
霊夢の布団の端から、手が伸びてくる。
心細くなっていた魔理沙も、そっと手を伸ばす。
二つの布団の間で、二つの手がそっと繋がれた。
「ひ――」
「どうか、した?」
繋いだ霊夢の手は、今まで布団の中に入っていたにも拘らず、少しひんやりとして、わずかに湿り気を感じた。
それはまるで、
魔理沙は懸命に前の日の自らの行動を思い起こしていた。
確か、永遠亭を出て、神社に行く前に自宅へ酒を取りに行って、
それはまるで、
魔理沙は自宅を出た記憶が無い自分に愕然とした。
それはまるで、
それはまるで、 それはまるで、
霊夢の手は、茸のような、
――厭だ。
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あと所々霊夢が残念すぎるwww
『厭な家』が大本ですかね?
魔理沙が怖いという以前に
ちゅっちゅの幻覚はちゅっちゅがちゅっちゅなちゅっちゅっちゅ
誰か詳しく説明プリーズ
全く予想していなかった。
はっちゃけ霊夢のせいで、何も気付けないっていう。
もしそうでないならすごく厭……でもないな。