魔法の森の近くにある一軒の店。香霖堂と書かれた看板を掲げるこの店はいつも通り開店休業だった。
店内はとても静かで店主である森近 霖之助さんは自分の特等席でいつもの姿勢で本を読んでいる。
私は棚の品物を一つずつ確認しながら店内を歩き回っている。
ここでアルバイトを始めてから早くも一ヶ月が経つ。
アルバイトを取る気は無いという霖之助さんに土下座までして働かせてもらっている私だ。
ほんの少しのミスも命取りになりかねないのだから、仕事にも気合が入る。
しかし知っての通りこの店はほとんど客が来ない。
最初は空振りしていた気合も今では別の使い所を見つけていたので問題は無い。
店内をぐるぐると回っているとふとした違和感を覚える。丁度気合の使い所が現れてくれたらしい。
私は店内を見回し足を進める。多分ここら辺…。
「そこか!」
「ぎゃー!」
「うわっ!?」
「見つかった!?なんでー!?」
両腕で何も無い場所に掴みかかると、あるはずのない柔らかい感触を感じる。
各々に叫び声を上げたそれは姿を現し三匹の妖精の形を成した。
霖之助さんは一瞬だけ驚いた様子で、しかしすぐいつもの表情に戻ると溜め息をついて私の所へ歩いてきた。
「また来たのかい?ここには悪戯する物なんて無いのに」
「い、いいじゃない!妖精が何処で何してようがそっちには関係無いでしょー!」
飴色の髪の妖精が犬歯を光らせて叫ぶ。
「それはそうだが、ここは僕の店だぞ。僕の店で好き勝手されると僕が困るんだ」
「妖精が人を困らせるのは当然のことじゃない」
長い黒髪の妖精がツンとした顔で言う。
「あの、そろそろ下ろしてもらえると助かるんだけど…」
金髪の妖精が恥ずかしそうに俯きながら呟く。
私が霖之助さんの方を見ると、彼は一つ頷いたので解放してやる。
すると脱兎の如く店の玄関へ走り、最後にあっかんべーを残して出て行った。
「やれやれ…ありがとう、君のお陰で助かったよ」
「いえ、これくらいならお安いご用です」
本当に困ったような顔で霖之助さんは言った。そんなこんなで、この人の気苦労は耐えない。
「やっほー!霖之助遊びに来たよー!」
新しい気苦労の元が現れたのと同時に店内の気温が少し下がる。
玄関の扉を無作法に押し開けた氷の妖精はにっと笑いながら店内へ入ってくる。
後ろにはいつも連れている緑髪の妖精。名前は…忘れた。
「やぁチルノに大妖精。今日は何の本を見るんだい?」
「霖之助が読んでるやつ!」
「これは君たちには少し難しいかな。すまないがこの子たちに何か良い本がないか探してくれないか」
霖之助さんに頼まれて妖精二匹に合いそうな本を選ぶことになった。
妖精相手ならば絵本が良さそうだが、最近では毎日来るこの二匹の妖精はほとんどの絵本を読み終わってしまっている。
「あ、この前仕入れた本って何処にありましたっけ」
「この前?あぁ、あれなら倉庫にしまっていたはずだ」
私は倉庫に目当ての本を取りに行く。外の世界から流れ着いた“漫画”という娯楽用の本らしい。
本を箱ごと持って行くと霖之助さんは珍しい客の対応をしていた。仕方ないので妖精の相手は私がすることになった。
「やだ!あたいは霖之助と一緒に読みたいのに」
「そんな事言っちゃ悪いよ…」
子供故の素直さが私には痛い。しかし霖之助さんの手を煩わせるわけにもいかない。
「この本は霖之助さんが君たちに読ませようと思って仕入れた本なんだよ」
「霖之助が?じゃあ読む!」
これくらいの嘘なら許されるだろう。そう勝手に思いつつ妖精たちに漫画を読み聞かせることにした。
霖之助さんが私たちのところに来る頃には本は大分読み進めていた。
「ありがとう。ここからは僕が代わるよ」
「では私は店内の掃除をしてきますね」
心底嬉しそうにする妖精二匹を横目に見ながら掃除用具を取り出し店内の掃除を開始する。
毎日私が掃除しているので大して汚れてはいないのだが、最初の頃は正に四角い部屋を丸く掃いたような有様だった。
あれでよく店など開いてるな、と感心すらしたのをよく覚えている。
彼曰く、大抵の人間は見える範囲にしか目がいかないものだ。らしい。
「ありゃ、洗剤が切れそうだな…霖之助さん、ちょっと買い物行って来ますね」
「あぁ、財布はいつもの所に置いてあるから持って行ってくれ」
いつもの所に置いてある財布を拝借して店を出る。
ここは里より少し離れていて時間は掛かるが、そこまでというほどでもない。
里で洗剤と他に必要な雑貨を買うと、帰り道に知り合いの女性と出会った。
「やぁ、買出しか?ご苦労様」
慧音さんは軽く笑って私を労った。
寺子屋を営む彼女は私も小さい頃お世話になった。
慧音さんはあの時と全く変わっていない。純粋な人間ではない彼女は私とは全く違う時間の中で生きている。
霖之助さんと同じ時間を歩める数少ない人間である。
ちなみに私の初恋の女性でもあるのだが、残念ながら彼女の目には一人の男性しか映ってないのだ。
「そういえばあいつは元気か?最近こちらでは見ないから少し心配でな。あれは放っておくと飯も食わずにやれ素晴らしい道具だ珍しい古書だと…」
これが始まると慧音さんは止まらない。彼女は何かに付けて私を使って霖之助さんとのコンタクトを取ろうとする。
こちらからすればたまったものではない。だから私は魔法の言葉を唱えることにした。
「そこまで心配なら直接会いに行けば良いじゃないですか」
「う、うむ…そうだな、明日辺り伺わせてもらうとしよう」
慧音さんは頬を少し赤くしながら言った。
店に帰ると妖精は既に帰った後らしく、店内では霖之助さんと薬売りの兎が話に華を咲かせていた。
「おかえり。丁度彼女も来たところなんだ。君も一息入れたらどうだい?」
お言葉に甘えて休憩を取ることにした。
私は三人分のお茶と茶菓子を用意してその一つを客人に差し出す。
「粗茶ですが」
「お構いなく」
彼女は少し素っ気無く答えると、すぐさま霖之助さんの方を向いた。
私に対する態度とは裏腹な満面な笑顔で話をする。霖之助さんはいつもの穏やかな表情で彼女の話を聞いている。
それを外から傍観しながら茶を啜っていると、店の外に一つの気配がする。
扉を開けると小さな素兎が複雑な表情で立っていた。
「何か用?」
「別に」
「じゃあ放っといてよ」
「お互い大変だね」
「何がよ」
「別に」
「ふん…」
そして私たちはどちらからともなく想い人の愚痴で華を咲かせた。
「あれ、てゐ?いつからいたの?」
店から出てきた鈴仙さんがもう一匹の兎を見つけて少し驚いた様子だった。
「帰りが遅いから迎えに行けって永琳様に言われて来たのよ」
「そっか。ごめんね、それじゃまた来ますから」
玄関まで送りに来た霖之助さんに笑顔で言うと、私には会釈すらせず帰っていった。
思えば辺りは夕暮れに染まっている。もうこんな時間なのか。
「君と彼女は仲が良いみたいだね」
「てゐさんですか?仲が良いというか、同病相哀れむってところですかね」
「病気なのか?それなら彼女たちと一緒に行って診てもらった方が…」
真剣そうな顔で私を見る。
この人こそ何処かで診てもらった方が良いかも知れないというのに。
今日の業務を終えると陽は完全に落ち、空には月が昇っていた。
「一日ご苦労様。また明日頼むよ」
「いえ、それではまた…」
「夜道には気を付けて」
「霖之助さんこそ、寝る前には戸締りをお忘れなく。まぁ相手によっては無意味でしょうけど」
「うん?あぁ、気を付けるよ」
夜道を一人で歩くのには結構慣れている。
しかしやはり妖怪に対する恐怖心は完全には拭えないもので、目の前の人食い妖怪に私は怯えていた。
「あんたは食べれる人類なのかー?」
「食べれるというか、一応変な病気を持ってなければ全般食べれるけど…」
「じゃああんたは変な病気は持ってる?」
「いや、多分健康体だと思うけど…」
「じゃあいただきまーす♪」
可愛らしい顔が怪しく歪み私を噛み殺そうとその口を大きく開ける。
だがその妖怪の脅威が私に届くことはなかった。
私と妖怪の間に黒い亀裂が走り、そこからまた新しい妖怪が現れた。
賢者と呼ばれる大妖、八雲紫である。
流石に彼女には敵わないと思ったのか宵闇の妖怪は一目散に飛んで逃げていった。
「気を付けなさいな。今回は助かったけど、次はこうまで上手くはいかないわよ」
それだけ言うと八雲紫はまた亀裂の中へ消えていった。
翌日、私が出勤すると店には一人の客人が来ていた。
昨日の大妖である。
ただ昨夜の威厳は何処へやら、目の前の彼女は恋に恋する乙女のような瞳で霖之助さんを見ていた。
「おはよう。もう店は開けてるから適当に始めていてくれ」
そう言われて私は手始めに棚の整理を始めた。
適当に済ませて霖之助さんと八雲紫に茶を出す。
彼女は相変わらず霖之助さんを見つめていた。はずだったのだが今日は少し違っていた。
何やらチラチラと私の方を見ている。なるほど、私はダシに使われたわけだ。
「そういえば昨日の帰りに妖怪に襲われたんですが、そちらの八雲さんに助けてもらったんですよ」
「そうなのかい?ありがとう、助かったよ」
「べ、別に礼を言われるほどの事ではありませんわ」
そう言いつつも顔は嬉しそうに綻んでいる。大妖と謳われる八雲も彼には敵わないらしい。
「それにしても君は大丈夫かい?怪我はしなかったのか?」
「大丈夫ですよ、転んだ時に少し擦り傷を作った程度ですし」
しかしどうやら彼の関心は八雲紫への敬意より私の安否が先立ったらしい。
八雲紫は面白くなさそうにした表情で私を見る。そんな目で見られたって私にはどうしようもないのに。
「霖之助はいるか?」
そう言って店の戸を開けたのは慧音さんだった。どうやら本当に来たらしい。
既に来ていた八雲紫と目が合うと露骨に敵対心の宿った目になる。私は昨日魔法の言葉を使ったことを少しだけ後悔した。
「霖之助ー!昨日の続き読みに来たよー!」
昨日と全く同じように扉を無作法に開け放ったのは昨日と全く同じ笑顔のチルノと全く同じ困った顔の…名前は忘れたが緑髪の妖精だった。
「…すまないが、今日も頼む」
「はい」
頭を抱える霖之助さんの頼まれた私は店の前に出て本日休業の札を立てる。
店内から聞こえてくる口喧嘩とか駄々をこねる声を聞き、私は今日は何の茶を出すか考えながら店に入っていった。
店内はとても静かで店主である森近 霖之助さんは自分の特等席でいつもの姿勢で本を読んでいる。
私は棚の品物を一つずつ確認しながら店内を歩き回っている。
ここでアルバイトを始めてから早くも一ヶ月が経つ。
アルバイトを取る気は無いという霖之助さんに土下座までして働かせてもらっている私だ。
ほんの少しのミスも命取りになりかねないのだから、仕事にも気合が入る。
しかし知っての通りこの店はほとんど客が来ない。
最初は空振りしていた気合も今では別の使い所を見つけていたので問題は無い。
店内をぐるぐると回っているとふとした違和感を覚える。丁度気合の使い所が現れてくれたらしい。
私は店内を見回し足を進める。多分ここら辺…。
「そこか!」
「ぎゃー!」
「うわっ!?」
「見つかった!?なんでー!?」
両腕で何も無い場所に掴みかかると、あるはずのない柔らかい感触を感じる。
各々に叫び声を上げたそれは姿を現し三匹の妖精の形を成した。
霖之助さんは一瞬だけ驚いた様子で、しかしすぐいつもの表情に戻ると溜め息をついて私の所へ歩いてきた。
「また来たのかい?ここには悪戯する物なんて無いのに」
「い、いいじゃない!妖精が何処で何してようがそっちには関係無いでしょー!」
飴色の髪の妖精が犬歯を光らせて叫ぶ。
「それはそうだが、ここは僕の店だぞ。僕の店で好き勝手されると僕が困るんだ」
「妖精が人を困らせるのは当然のことじゃない」
長い黒髪の妖精がツンとした顔で言う。
「あの、そろそろ下ろしてもらえると助かるんだけど…」
金髪の妖精が恥ずかしそうに俯きながら呟く。
私が霖之助さんの方を見ると、彼は一つ頷いたので解放してやる。
すると脱兎の如く店の玄関へ走り、最後にあっかんべーを残して出て行った。
「やれやれ…ありがとう、君のお陰で助かったよ」
「いえ、これくらいならお安いご用です」
本当に困ったような顔で霖之助さんは言った。そんなこんなで、この人の気苦労は耐えない。
「やっほー!霖之助遊びに来たよー!」
新しい気苦労の元が現れたのと同時に店内の気温が少し下がる。
玄関の扉を無作法に押し開けた氷の妖精はにっと笑いながら店内へ入ってくる。
後ろにはいつも連れている緑髪の妖精。名前は…忘れた。
「やぁチルノに大妖精。今日は何の本を見るんだい?」
「霖之助が読んでるやつ!」
「これは君たちには少し難しいかな。すまないがこの子たちに何か良い本がないか探してくれないか」
霖之助さんに頼まれて妖精二匹に合いそうな本を選ぶことになった。
妖精相手ならば絵本が良さそうだが、最近では毎日来るこの二匹の妖精はほとんどの絵本を読み終わってしまっている。
「あ、この前仕入れた本って何処にありましたっけ」
「この前?あぁ、あれなら倉庫にしまっていたはずだ」
私は倉庫に目当ての本を取りに行く。外の世界から流れ着いた“漫画”という娯楽用の本らしい。
本を箱ごと持って行くと霖之助さんは珍しい客の対応をしていた。仕方ないので妖精の相手は私がすることになった。
「やだ!あたいは霖之助と一緒に読みたいのに」
「そんな事言っちゃ悪いよ…」
子供故の素直さが私には痛い。しかし霖之助さんの手を煩わせるわけにもいかない。
「この本は霖之助さんが君たちに読ませようと思って仕入れた本なんだよ」
「霖之助が?じゃあ読む!」
これくらいの嘘なら許されるだろう。そう勝手に思いつつ妖精たちに漫画を読み聞かせることにした。
霖之助さんが私たちのところに来る頃には本は大分読み進めていた。
「ありがとう。ここからは僕が代わるよ」
「では私は店内の掃除をしてきますね」
心底嬉しそうにする妖精二匹を横目に見ながら掃除用具を取り出し店内の掃除を開始する。
毎日私が掃除しているので大して汚れてはいないのだが、最初の頃は正に四角い部屋を丸く掃いたような有様だった。
あれでよく店など開いてるな、と感心すらしたのをよく覚えている。
彼曰く、大抵の人間は見える範囲にしか目がいかないものだ。らしい。
「ありゃ、洗剤が切れそうだな…霖之助さん、ちょっと買い物行って来ますね」
「あぁ、財布はいつもの所に置いてあるから持って行ってくれ」
いつもの所に置いてある財布を拝借して店を出る。
ここは里より少し離れていて時間は掛かるが、そこまでというほどでもない。
里で洗剤と他に必要な雑貨を買うと、帰り道に知り合いの女性と出会った。
「やぁ、買出しか?ご苦労様」
慧音さんは軽く笑って私を労った。
寺子屋を営む彼女は私も小さい頃お世話になった。
慧音さんはあの時と全く変わっていない。純粋な人間ではない彼女は私とは全く違う時間の中で生きている。
霖之助さんと同じ時間を歩める数少ない人間である。
ちなみに私の初恋の女性でもあるのだが、残念ながら彼女の目には一人の男性しか映ってないのだ。
「そういえばあいつは元気か?最近こちらでは見ないから少し心配でな。あれは放っておくと飯も食わずにやれ素晴らしい道具だ珍しい古書だと…」
これが始まると慧音さんは止まらない。彼女は何かに付けて私を使って霖之助さんとのコンタクトを取ろうとする。
こちらからすればたまったものではない。だから私は魔法の言葉を唱えることにした。
「そこまで心配なら直接会いに行けば良いじゃないですか」
「う、うむ…そうだな、明日辺り伺わせてもらうとしよう」
慧音さんは頬を少し赤くしながら言った。
店に帰ると妖精は既に帰った後らしく、店内では霖之助さんと薬売りの兎が話に華を咲かせていた。
「おかえり。丁度彼女も来たところなんだ。君も一息入れたらどうだい?」
お言葉に甘えて休憩を取ることにした。
私は三人分のお茶と茶菓子を用意してその一つを客人に差し出す。
「粗茶ですが」
「お構いなく」
彼女は少し素っ気無く答えると、すぐさま霖之助さんの方を向いた。
私に対する態度とは裏腹な満面な笑顔で話をする。霖之助さんはいつもの穏やかな表情で彼女の話を聞いている。
それを外から傍観しながら茶を啜っていると、店の外に一つの気配がする。
扉を開けると小さな素兎が複雑な表情で立っていた。
「何か用?」
「別に」
「じゃあ放っといてよ」
「お互い大変だね」
「何がよ」
「別に」
「ふん…」
そして私たちはどちらからともなく想い人の愚痴で華を咲かせた。
「あれ、てゐ?いつからいたの?」
店から出てきた鈴仙さんがもう一匹の兎を見つけて少し驚いた様子だった。
「帰りが遅いから迎えに行けって永琳様に言われて来たのよ」
「そっか。ごめんね、それじゃまた来ますから」
玄関まで送りに来た霖之助さんに笑顔で言うと、私には会釈すらせず帰っていった。
思えば辺りは夕暮れに染まっている。もうこんな時間なのか。
「君と彼女は仲が良いみたいだね」
「てゐさんですか?仲が良いというか、同病相哀れむってところですかね」
「病気なのか?それなら彼女たちと一緒に行って診てもらった方が…」
真剣そうな顔で私を見る。
この人こそ何処かで診てもらった方が良いかも知れないというのに。
今日の業務を終えると陽は完全に落ち、空には月が昇っていた。
「一日ご苦労様。また明日頼むよ」
「いえ、それではまた…」
「夜道には気を付けて」
「霖之助さんこそ、寝る前には戸締りをお忘れなく。まぁ相手によっては無意味でしょうけど」
「うん?あぁ、気を付けるよ」
夜道を一人で歩くのには結構慣れている。
しかしやはり妖怪に対する恐怖心は完全には拭えないもので、目の前の人食い妖怪に私は怯えていた。
「あんたは食べれる人類なのかー?」
「食べれるというか、一応変な病気を持ってなければ全般食べれるけど…」
「じゃああんたは変な病気は持ってる?」
「いや、多分健康体だと思うけど…」
「じゃあいただきまーす♪」
可愛らしい顔が怪しく歪み私を噛み殺そうとその口を大きく開ける。
だがその妖怪の脅威が私に届くことはなかった。
私と妖怪の間に黒い亀裂が走り、そこからまた新しい妖怪が現れた。
賢者と呼ばれる大妖、八雲紫である。
流石に彼女には敵わないと思ったのか宵闇の妖怪は一目散に飛んで逃げていった。
「気を付けなさいな。今回は助かったけど、次はこうまで上手くはいかないわよ」
それだけ言うと八雲紫はまた亀裂の中へ消えていった。
翌日、私が出勤すると店には一人の客人が来ていた。
昨日の大妖である。
ただ昨夜の威厳は何処へやら、目の前の彼女は恋に恋する乙女のような瞳で霖之助さんを見ていた。
「おはよう。もう店は開けてるから適当に始めていてくれ」
そう言われて私は手始めに棚の整理を始めた。
適当に済ませて霖之助さんと八雲紫に茶を出す。
彼女は相変わらず霖之助さんを見つめていた。はずだったのだが今日は少し違っていた。
何やらチラチラと私の方を見ている。なるほど、私はダシに使われたわけだ。
「そういえば昨日の帰りに妖怪に襲われたんですが、そちらの八雲さんに助けてもらったんですよ」
「そうなのかい?ありがとう、助かったよ」
「べ、別に礼を言われるほどの事ではありませんわ」
そう言いつつも顔は嬉しそうに綻んでいる。大妖と謳われる八雲も彼には敵わないらしい。
「それにしても君は大丈夫かい?怪我はしなかったのか?」
「大丈夫ですよ、転んだ時に少し擦り傷を作った程度ですし」
しかしどうやら彼の関心は八雲紫への敬意より私の安否が先立ったらしい。
八雲紫は面白くなさそうにした表情で私を見る。そんな目で見られたって私にはどうしようもないのに。
「霖之助はいるか?」
そう言って店の戸を開けたのは慧音さんだった。どうやら本当に来たらしい。
既に来ていた八雲紫と目が合うと露骨に敵対心の宿った目になる。私は昨日魔法の言葉を使ったことを少しだけ後悔した。
「霖之助ー!昨日の続き読みに来たよー!」
昨日と全く同じように扉を無作法に開け放ったのは昨日と全く同じ笑顔のチルノと全く同じ困った顔の…名前は忘れたが緑髪の妖精だった。
「…すまないが、今日も頼む」
「はい」
頭を抱える霖之助さんの頼まれた私は店の前に出て本日休業の札を立てる。
店内から聞こえてくる口喧嘩とか駄々をこねる声を聞き、私は今日は何の茶を出すか考えながら店に入っていった。
この説明不足が続編の複線ならば、期待して待っています。
文章も苦なく読めたんですがキャラのやり取りが若干薄めだったかと…。
逆にそれが狙いなら自分の意見はお節介な一言だと思ってスルーして下さいw
新しい視点で楽しめました、オリキャラのことについて若干説明がほしかったぐらいです
霖之助はニンキモノ
あまり見ない作風ですが凄くおもしろかったです
てゐ→うどんげ=オリ主→霖之助
てゐ→霖之助=オリ主→うどんげ
こうなるかな?
甘酸っぱい片思い話なのか、ガチホモなのか気になりますw
私はガチホモ続編を希望したいですね