その提案は、咲夜からのちょっとしたプレゼントだった。
「美鈴の仕事を変える?」
咲夜からの提案にレミリアは首を傾げる。
「はい」
「どうして?」
「近頃門番として以前のように働けていませんから」
「それは魔理沙にだけでしょう?
それを除けば十分な働きをしているわよ」
「そうなのですが、もう一つ理由がありまして」
「なにかしら?」
「美鈴が門番として働き出してゆうに百年を越していると聞きます。
例えば昔は当たり前だったことも、今では異端なんてこともあり、時間が経てば変わることなどざらです。
ですので長期間同じ仕事についていても向き不向きが出てくるのではと」
「だから変えると提案したのね」
「はい。
といってもやはり門番に一番向いているということもありますので、短期間に色々な職場体験をさせて、その仕事ぶりを見てから決めようと考えています」
「ふむ……反対する理由もないし、やってみるのも面白いかもね。
いいわ、許可する」
「ありがとうございます。
では、このことを美鈴に伝えてきます」
咲夜が消え、レミリア一人となった部屋。
椅子から窓の外を見ると、雲に覆われた夜空から雪がちらついていた。
寒さをしのぐためレミリアは、美鈴に作ってもらったコウモリのぬいぐるみを抱えてベッドにもぐりこむ。
常人で例えるならば昼寝。
心地よいぬくもりに包まれてまどろみ、あどけない幼女となんら変わらぬ表情で眠りにおちていった。
「配置換えですか?」
美鈴は不思議そうに首を傾げている。さらりと真紅の髪が動きにそって流れている。
「そうよ。お嬢様からの許可はもらっているから、今日から一日ごとに職場を異動するのよ」
「どうしてですか?」
「聞かなくてもわかるんじゃない?
門番として仕事を果たせている?」
「そ、それは」
目を逸らし誤魔化すように苦く笑う。
「もしかしたら門番に向いていないのかもと考えてね、それを知るためにほかの仕事もこなしてもらおうと思っているのよ」
「自分で言うのもなんなんですけど、この仕事が一番向いてるかと。それに気に入ってもいますし」
「もう決まったことだから、なに言っても決定は覆らないわ。
明日から早速ほかの仕事をしてもらうから」
「……はい」
「明日から数日は屋敷内メイドよ。朝食後、私のところに来なさい。
ほかの仕事はメイドの仕事が終ったら指示する。いいわね?」
「了解です」
「それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
夜が明け、美鈴は指示通りに咲夜のところに行く。
そこでメイド服を受け取り、着替える。
朝のミーティングの場に現れたメイド服姿の美鈴を見て、他のメイドたちは驚いた。
「今日から数日、美鈴には屋敷内メイドの仕事を体験してもらうことになっているわ。
各部署の仕事をしてもらうつもりだから、そのつもりでいるように」
了解、と威勢のいい返事が返ってくる。
メイドたちは見慣れない美鈴のメイド姿を見て、眼福眼福といった様子だ。
その予想通りの反応に咲夜は満足そうに頷いている。
咲夜としては自分と同じものを着せたかったのだが、さすがにそのミニスカートは恥ずかしいと断られていた。
メイドとしての仕事が始まる。
美鈴は長くレミリアに仕えてる。長期間仕えていれば、自分の仕事だけではなくほかの仕事を手伝うこともあり、メイドとしての経験もあって、どの仕事もつつがなくこなしていた。
メイドたちは美鈴に教えるということができずに残念そうではあったが、共同作業ということで楽しそうに仕事をしている。
こうして美鈴は咲夜の指示に従い動き、屋敷中の仕事を手伝って回る。
図書館で小悪魔を手伝い喜ばれ、厨房で調理を手伝い、事務室で経理を手伝い、新人指導の補佐に回ってみたり、ときに倉庫の門番になったり、なぜか里で露店を出してみたり。
露店を出したときは、里人についに首になったのかと驚かれ心配され、天狗にからかわれたりとにぎやかだった。
いろいろなところに出向いて仕事をこなしていく。美鈴のすごいところはどこに行ってもある程度のことができたことだろう。
今日も仕事が終わり、美鈴は明日の予定を聞くために咲夜を探す。
館内のあちこちを探し、紙袋を持った咲夜をみつけた。
「探しましたよー咲夜さん」
「ごめんなさいね。ちょっとこれを取りに自室に戻っていたから」
紙袋の口を広げ中身を見せる。
中身はいくつかの色の丈夫な布と綿だった。
「これでグングニルとレーヴァテインのぬいぐるみを作りなさい。
それが明日の仕事よ」
「はあ」
頷き紙袋を受け取る。
「どれくらいでできる?」
「そうですね……丸一日使えば明日の夜にはできるはずですよ」
「それならいいわ。
ああ、手を抜いては駄目よ。明日明後日は作業に使っていいから丁寧に作りなさい」
「わかりました」
美鈴は余裕ある時間を使い、こりにこったぬいぐるみを作り上げる。
ついでに時間が余ったので、デフォルメ化した銀ナイフ、丸っこい三日月、毛糸で繋がった黒い双翼も作り上げた。
いい仕事したと出てもいない汗をぬぐい、集中して少し硬くなった肩をほぐしたあと、咲夜に渡すため自室を出た。
「完成したの?」
「はい! 会心のできです」
自信満々に二つのぬいぐるみを渡す。
「うん、これなら十分ね」
咲夜も満足した笑みを浮かべる。
「あと時間が余ったんで、これも作ってみました」
紙袋からデフォルメ化した銀ナイフぬいぐるみを取り出し渡す。
「……これはもらってもいいのかしら?」
「どうぞ、拙いものですが」
「嬉しいわ、大事にする」
本当に嬉しそうに咲夜は受け取り、ギュッと胸に抱いた。
「それで明日の仕事なんですが」
「朝食後、私の部屋に来てくれる?
そのときに話すわ」
「わかりました。
では私は図書館に行って、作ったぬいぐるみ渡してきます」
「まだ作ってたの?」
「はい。パチュリー様の分と小悪魔さんの分を」
図書館組みにも喜ばれるだろうと、咲夜は簡単に予想し、それは的中した。
パチュリーは表情が変わらずわかりづらかったが、小悪魔が気持ち代弁しそれをパチュリーは否定しなかった。
美鈴が部屋をノックする。咲夜が扉に近づく気配を感じ取る。
咲夜が扉を開け、招き入れる。
机の上に白いファーつきの真っ赤な衣装が置いてあるのが目に入る。そのそばに赤白ストライプな包装紙で包まれた何かがある。美鈴の作ったぬいぐるみと同じ大きさだ。
ベッドの上には銀ナイフのぬいぐるみが置かれている。
「今日で仕事は最後よ」
「そうですか」
「今日の仕事は、これを着てお嬢様とフランドール様にばれないように枕元にプレゼントを置いてくることよ」
「ばれないように?」
「そう、ばれないように」
「……いやまあいいんですけどね?」
なぜこんなことをするのかと不思議に思いつつ、着替えていく。
数分で白ひげをつけた美鈴ミニスカサンタverが完成した。
「スカート丈が」
恥ずかしそうに頬を赤く染め裾を押さえている。
「それしかなかったから我慢してちょうだい」
真顔で嘘をつく。どうしてもミニスカート姿を見たかったらしい。
「これを持って行ってきなさい」
プレゼントを入れた袋を持って美鈴は部屋を出て行った。
そっと扉を開け、気配をできるだけ消して部屋に侵入し、枕元に置く。
たったそれだけなのだが、自分よりも実力が上な人たちなので、いつ気づかれるかと内心ひやひやとしながら動いていた。
時間にして一時間もかかっていないはずなのに、倍以上働いた疲れを感じながら仕事を終えた。
「お疲れ様。
これで異動は終わりよ。
明日からまた門番として頑張ってちょうだい」
「戻れるんですね」
元の服装に戻った美鈴はほっとしたように言った。
「門番として働くのが一番と判断したからね。
それと今日はもう休んでいいわ」
「いいんですか?」
「ええ。ゆっくり休んで明日からの仕事に備えなさい」
その言葉に甘え美鈴は、普段はしない仕事をしたことで溜まっていった疲れをとるため、のんびりと一日を過ごす。
夜、枕元に置かれたプレゼントに驚き喜ぶ吸血鬼の姉妹がいた。
姉妹が喜んだことで、咲夜の計画は成功した。
咲夜は本当に美鈴の門番としての仕事ぶりを疑っていたわけではない。
皆を驚かすために美鈴を利用したのだ。
ことの始まりは咲夜が、用事で里に出て早苗に出会ったことにある。
外の世界には、クリスマスという馬鹿騒ぎをする日があって、プレゼントを贈ったりすると、早苗から聞いたのだ。
サンタというメルヘンからのプレゼントなど、近頃めっきり幼さが前面に出てきたレミリアが喜びそうだと思った咲夜は、密かに計画を練り実行に移すことにした。ついでに屋敷の皆にもプレゼントしてあげようではないかと考えたのだ。
パーティは日頃から開いているのでしなくていいと判断していた。
そして美鈴を各部署に出向させる。どこでも喜ばれたことから成功したといえるだろう。
露店を出させたのは、ぬいぐるみを作る材料を美鈴に稼がせるため。屋敷のお金を使うよりも、美鈴自身が稼いだお金で材料を買ったほうが気持ちがこもるのではと考えた。
ぬいぐるみを作らせたのも思いをこめるためだ。自分にも作ってもらえるとは予想外だったが。思わぬ嬉しいクリスマスプレゼントとなった。
咲夜は美鈴にもプレゼントを用意していた。
魔理沙に負けがこんでいて、表に出ないストレスが溜まっているのではと予想した咲夜は、様々なことをさせることで気晴らしをもくろんだのだ。これについては美鈴に聞かないことには成功したのかわからない。
ちなみに姉妹を驚かすため、サンタという存在が12月25日にいい子にプレゼントを配って回ると事前に吹き込んでおくという小細工も使って、驚かすための最大限の努力をおしんでいなかった。
こうして咲夜のどっきりクリスマスプレゼント計画は、自分自身にも利益を得て終る。
誰にもこういったことを考えていたと知られずにいたが、十分な自己満足を得てやってよかったと思えていた。
緩急が無くて落ち着きがある作品だ
ただ、最後に全部一気に文章で説明書きを入れるのは、ちょっともったいないなと思いました。