「悪戯をしに来た」
「うん?」
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが森の人形師アリス・マーガトロイドの前に現れて唐突にそう言い放ったのは既にハロウィーンの文字がすでに忘却の彼方へと消え去ってしまったかのような或る夕暮れであった。
いずこにも知れずに溜息を吐いていたところに急にそんなことを言われる他のでアリスは驚いたかのような仕草を見せる。何せレミリア・スカーレット本人がアリスの家に来るのは本当に久方ぶりのように思えたのだ。
「なにしに来たのよ」
「え、え…いや、その」
カリスマたっぷりに近寄ってくるレミリアをアリスはそっけなく突き放した、途端にレミリアはさっきまでの威厳はどこへやら、慌てふためいてきょどきょどしてしている、どうやら想定外の反応だったようだ。
「この間手紙あげたでしょ?ほら、ハロウィーンの日に」
「ああ。あの無駄に豪華なやつね」
『アリス・マーガトロイド様宛』
そう書かれた手紙がアリスの元に送り届けられたのはハロウィーンの夜であった
丁度ハロウィーンの料理をしているときにいつの間にか手紙が机の上に置いてあったのでアリスは一瞬何事かと思ったが『レミリア・スカーレットより』と書かれているのを見るとははあ、咲夜が持ってきたなと納得した。
しかし無駄に豪華な手紙である、便箋には金縁が付いて中に入っている手紙は羊皮紙で書かれているようだ。
どうしてあんなに目立ちたがり屋なのか、アリスは嘆息するがそれはまあ、あの吸血鬼が貴族然としているからだろうと一人心地に納得する。
しかし態々手紙をよこすとはどういった了見なのか、自分が来ればいいじゃないか。
ペーパーナイフで手紙を開封すると案の定そこには羊皮紙で書かれた手紙とフィナンシェが入っていた、手紙内容は一行、もったいない。
『お菓子を用意してなくちゃ悪戯しちゃうぞ レミリアより』
アリスは嘆息した
「あれね」
「あれよ」
「知らないわ」
「ええっ!?」
アリスは相変わらずそっけない対応をする
レミリアはそこで初めて自分が何か怒らせるようなことをしてしまった事に気が付いた、ここまで気が付かないのは流石と言うべきか。
しかしレミリアは自分がなぜ怒られるのか皆目見当がつかない、仕方がないので過去自分がやってきたことを反復していく事にした。
まずレミリアが最初に思いついたのはこの間夜分に眠りについていたアリスの家に忍び込んで夜這いをかけようとした時の事だ、魅了の瞳で堕としてしまおうとしたが生憎避けられた上に起こしてしまったので大人しくバードキスを交わした後一緒に眠ることに留まった。
次に思いついたのはこの間紅魔館に招いた時に食事に睡眠薬を混入して今度こそ夜這いを仕掛けようとした時の事だ、しかし首筋を舐めた瞬間そういった薬に対して薬毒体制のあったアリスが覚醒してしまいその時は仕方なしに首筋を一舐めされておあいことされた後布団に引っ張り込まれて抱き枕と化した。
その次に思いついたのは宴会においてしこたま酒を飲ませて普段聞き出せないことを聞き出そうとした時の事である、この作戦はうまく行くと思われたが生憎自分の方が先に酔っぱらってしまい気が付くとアリスに膝枕されて髪を撫でられていた。
そこまで考えてレミリアは考えるのを止めた
駄目だ、思いつかない 今まで散々接触は試みた物のその度にアリスは許してくれたはずだ、しかし今回怒り出した理由が皆目見当もつかないのである。
その接触は狼藉と言うがレミリアの辞書にそんな言葉は乗っていなかった。
アリスは相変わらず不機嫌そうな顔をしている
レミリアはそこで再び試行を開始する、このままではいけないと
自分が何をやってしまったかは検討が付かないが相手が気を悪くしてしまったら謝るのは当然である。
しかし理由も分からないのに「何をやってしまったかは分からないけどこめんなさい」というのはあまりにも無様な反応のようにレミリアには思えたのだ。
う~う~と必死に考え込んでいるレミリアを見てアリスは仕方ないと言った風に嘆息した。
どうやらこの小さな吸血鬼は自分が何をやらかしてしまったのか見当がつかない様だ、このままでは一生かかっても思い出すことは無いだろう。
しかしただ教えるだけでは物足りない、何か仕返しじみた物が無いとうまみと言った物が無い、アリスは再び脳細胞をフル回転させて考える。
そうしてアリスはある一つの仕返しを思いついた、なかなかにいいアイディアなので思わずにっこりとする、しかしその笑みは後レミリアに聞いたところによると“にっこり”と言うよりどう見ても“にまぁっ”と言う笑みだったという。
「ねえ、レミリア あなたがハロウィーンパーティをしていた時私が何をしていたか分かる?」
レミリアはその言葉を聞いた時漸くするとどういった了見でアリスが怒っているか見当がついた様であった。
「家であなたを迎える準備をしていたのよ?どうせ来るだろうと思って、だけど招待状は寄こさないわ代わりにそっけない手紙一枚寄こすわ…怒るのも当然だと思わない?」
アリスはハロウィーンの夜に備えて様々な料理やら菓子やらを用意したのである、どうせ来るだろうと思って。
だがそんな時に限って来たのは立った一文の、しかし明確に行く意思の無い手紙のみ、この時ばかりは流石のアリスと言えどへこんだ。
「私はてっきりあなたが来ると思って用意していたんだけどね、招待状ぐらいくれても良いじゃない」
「そ、それは…その…」
実はレミリアの方も作戦を練っていた
ハロウィーン当日には敢えて姿を現わさずにその数日後姿を現わしてこう言うのである「お菓子をくれなかったら悪戯するぞ」と。
当然アリスは用意できていないに違いない、何でそんな事をとか聞かれたら「手紙に用意しておいてくれと書いていたじゃないか」と言う、自分はもう渡してあるのでこれで完璧、完璧でパーフェクトに悪戯を仕掛けられる、しかも普段と違って半公認なのでやりたい放題できるに違いない。
そういった考えがあってレミリアは当日アリスの家に行かなかったのである、来るべき日に備えて。
ところがレミリアは今その策が完全に裏目となった事に気が付いた、アリスのスペシャルディナーだと、アリスのハロウィーン仮装だと、レミリアは心の中で嘆き悲しみながら血涙を流した。
しかしどれだけ嘆き悲しもうともはや遅い、アリスはディナーを片付けてしまったに違いない、衣装も着る事は無いに違いない、もはや遅すぎたのだ。
「まあ、用意はできてるんだけどね」
「へっ?」
「作り過ぎちゃったのよ、それにあなたが来るかもしれないと思って保存用の魔法をかけておいたし折角の衣装が着られないまま放置されているのも忍びないでしょ?」
要するにアリスはこう言っているのだ、全てをやり直しにしてもう一度ハロウィーンができると。
レミリアは輝かしい笑顔と共にこくこくと頷いた、何という僥倖、何という幸運、これは運命じみたものを感じる。
「やりましょう、私達だけのハロウィーン」
「ええ、じゃあこの後の事は分かるわね?」
レミリアは再び困惑した
この後?この後何かあるというのだろうか。
アリスは相変わらずにっこりとした笑みを浮かべたまま手を広げてレミリアに差し出した。
「トリック・オア・トリート?」
「へっ?」
不意打ちであった
その時になってようやくレミリアは気が付いた、これは罠だと
成程、もう一回ハロウィーンをやり直すというのであればお菓子を持ってこなくてはいけないという事になる、当然ながらレミリアは持ってきていない。
アリスの方はこれから食事をご馳走するから良いのだろう、だがレミリアはあくまで言われる側である。
しかし紅魔館に戻る事が出来るだろうか?いやできないだろう、例え戻れたとしてもハロウィーンパーティーでお菓子の材料などは粗方使い切ってしまったのだ、幾ら時を止められようと物を生み出す事はできはしない。
レミリアはチェックメイトをかけようとしていたらいつの間にか自身がチェックメイトをかけられたことに気が付いた。
アリスはにっこりと笑ったままレミリアを抱え上げ、もう一度問う。
「トリック・オア・トリート?」
「……………………ぅ」
もはやレミリアは俎板の上の鯉だ、この後はもはやアリスの独壇場、いたずらの名のもとに好き勝手やられるに違いない。
当のアリスは普段見せない満面の笑みを浮かべているし。
「んー…お菓子はくれないらしいわね、じゃあ仕方ないわ」
レミリアを抱え上げたまま、アリスはくるっと右回りして家の中へと入って行った。
「お菓子をくれないから“いたずら”しなきゃね~♪」
ドアがゆっくりと締められて、後に残ったのはもう斜陽を僅かに残すのみとなった夕日だけだった。
そしてもうじき二人だけのハロウィーンの夜が幕を開ける、それを知っているのはアリスとレミリア、そしてアリスの傍に居た上海と蓬莱のみであった。
.
レミリア?
いやぁ、ニヤケが止まりませんな!
それってレミアリも書けって言う人が増えゲフンゲフン
攻めっ気あるアリスもいいと思うよ!よ!
巧みにお嬢を言いくるめるアリスさんまじ都会派。というかもう貴女方は早く結婚して下さい
二人だけで何をしていたのか、詳しくお聞きしたいですねぇ……。
悪戯の内容をkwsk(殴