幻想郷の日も完全に沈もうとしているある日の夕暮れ、事は起こった。
ここは紅魔の森のどこかにある一軒家。
そこには宵闇の妖怪、ルーミアが住んでいた。
しかし、いつもはのんびりとして他人の話などうわの空の彼女も、今ばっかりはそうしている訳にもいかなかった。
どこから嗅ぎつけたのかは知らないが、家に鼠が現れたのである。 しかも複数匹。
それを捕まえようとルーミアは奮闘しているのだが、どうにも捕まえられそうにない。
奴らはすばしっこく家中を駆け回り、物陰に隠れてしまう。
これでは奴らは家に居座り、ルーミアの食糧を喰い荒してしまうかもしれない。
「もー、なんなのよー! よくそんなチョロチョロ走って疲れないわね!」
「そりゃあそうさ 鼠達は生き延びる為に必死なんだからね」
「!? 誰よ??」
聞きなれぬ声にとっさに振り向いたルーミアの視線の先には、彼女の見知らぬ妖怪鼠が立っていた。
「その子達を捕まえるには全く速さが足りないな、ルーミアとやら」
「な、なんで私の名前を?」
「表にも書いてあったし、この家の中にもチラホラ書いてあるじゃないか、名前」
ルーミアと同じ位の背丈をしたその妖怪は、壁にもたれ腕を組みながら続けた。
「私だけが名前を知るのは不公平だな 私はナズーリンだ」
「誰も名前なんて聞いてないわよ それよりこの鼠達をなんとかしなさいよ」
「なんだ、君は礼儀をわきまえてないな」
「勝手に上がりこんで来るような奴に礼儀がどうこうなんて言われたくないわ」
こうしている今も鼠達が家を物色していると思うとルーミアは気が気ではなかった。
「心配しなくてもこの子たちは食糧と珍しいモノ以外には興味が無いから大丈夫だ」
「・・・それを泥棒と言わず何と言うのよ」
「ダウザー・・・とでも言っておこうか」
自分が正しいはずなのになぜコイツはこうも平然としているんだ?
そんな疑問がルーミアを悩ませている時、一匹の鼠がナズーリンの肩に飛び乗った。
「どうやら探査が終了したらしいな」
「んで、どうだったのよ 私の家を嗅ぎ回った結果は」
「安心しろ 君の家の中にはめぼしい物は何一つ無い」
「どう喜んでいいか分からないわよ、その言い方」
そんな変なやりとりをしていると、ルーミアは自分がまだご飯を食べて無い事を思い出した。
「もう、変な鼠共のせいでご飯食べるの忘れてたわ お腹空いた」
「そんな事知るか 私達を無視して食べてれば良かったものを、君が食べて無かっただけに過ぎん」
「貴方、なんなら私と一緒にご飯食べる?」 「・・・ん?」
「私と一緒にご飯を食べるかって聞いてんのよ」
不意を突かれたナズーリンは、どう返答すればいいか困った。
「・・・ねえ、聞いてる?」 「え? ああ、その・・・・・何故だ?」
「へ?」 「何故初対面で、しかもあまり良い出会い方でもない私を誘おうとする?」
「なんでって・・・変に食い荒らされるよりかはマシかなと思って さっき食糧も狙うとか言ってたし」
「ほう、なかなか賢明だな ではお言葉に甘えて一緒に食うか」
その日に会って色々物色したにも関わらずこういった言葉をかけられたナズーリンは思わず宝を発見した時の様な笑顔になった。
宝を見つけた時だけが喜べる瞬間では無いんだと、彼女は改めて感じた。