どこまでも深く、暗い部屋。
ただ、振り子時計の音が響いていた。
カチッ、カチッ、カチッ、
この地下室は薄暗く、する事もない。
カチッ、カチッ、カチッ、
私はすでに冷め切った紅茶を啜ると、溜め息をはいた。
カチッ、カチッ、カチッ、
まるで紅茶に熱を奪われるかのようね。
カチッ、カチッ、カチッ、
鬱々とした空気にも、もう慣れた。小さい頃はいつも闇を恐れていたけど、今はただ、暇なだけ。
カチッ、ボーン、ボーン、
コン、コン、
時計に混じり、ノックの音。
おや、時間きっかり。あいつは変な所で生真面目だね。
ギギギギギギギギギギギギ・・・・・・・・・
「フラン。退屈でしょう?色鉛筆を持ってきたわ。これで好きなモノを描くと良いわ」
声という音が時計の音をかき消す。
率直にうるさい、と思った。こんなにうるさいのでは気が狂う。
あいつはいつものように紅茶のおかわりと茶菓子を持ってきていた。
それで?色鉛筆?なんでそんなもの持ってきたのかしら。描けるモノなどない私を皮肉ってるのかしら。
しかし、事実、私は色を知らなかった。
空の色も知らない。木々の色も知らない。人も鳥も虫も魚も山も川も雨も雲も草も、私にとってはモノクロでしかなかった。
私の世界は狭く、広がる事はないのだろう。
「要らないわ」
だから、そんなものあっても私には意味を成さない。
「まぁ、そう言わず」
あいつは私の事を知ってか知らずか、クスクス笑いながら色鉛筆をテーブルの上に置いて、部屋を出て行った。
・・・今日は随分、早々に切り上げたわね・・・確か神社に行く日だったか・・・?
だが、うるさいあいつが居なくなったのは悪くない。妙な置き土産をしなければだが。
色鉛筆に右手を伸ばし、破壊しようとする。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・色、か。
地下室から出ない私にも1つ、知っている色があった。
それは、あいつ。
あいつの、青みがかった銀髪。どこまでも深い紅瞳。ライトピンクのドレス。
漆黒の翼。
どれも、鮮やかな色なのだろう。だが、私にしてみれば憎しみの色でしかない。
・・・だけど。
あいつへの怨嗟の念を込めて絵を描いてやろうじゃないか。
私の恨みの丈を見せてやろうじゃないか。
心の中の私が囁く。
カチッ、カチッ、カチッ、
それから日が暮れても、私は何かにとりつかれたように絵を描いた。
あいつへの憎しみが、私の手を動かしている。そう思っていた。
カチッ、カチッ、カチッ、
完成してはまた別の紙に。完成してはまた別の紙に。完成してはまた別の紙に。完成してはまた別の紙に。完成してはまた別の紙に。完成してはまた別の紙に。
ただ、あいつへの想いを描いていく。
カチッ、カチッ、カチッ、
やがて、あいつを描いた絵は地下室の狭い床を埋めた。
スケッチブック全てを使い終わり、私はある種の達成感を味わっていた。
カチッ、カチッ、カチッ、
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
来るんだろ?早く来なよ。
私の想いの丈を見て、吃驚するがいいさ。
カチッ、ボーン、ボーン、
コン、コン、
相変わらず、生真面目な奴だな。
さぁさぁ、早く入って来なよ。
ギギギギギギギギギギギギ・・・・・・・・・
「な・・・フラン・・・これは一体・・・」
あいつは、この有様を見て、心底驚いているように見えた。
あはは、驚いてる。驚いてる。あははははははははは。
ざまあみろ、だ。
ああ、楽しいなぁ、嬉しいなぁ、・・・・・・物足りないなぁ。
そうだ、
・・・・・・私の大好きな『紅色』を見せて?お姉様・・・?
私はお姉様に右手を伸ばした。
砂糖入れすぎですよ…物凄く甘い!!
振り子時計の音が何だかいい味を出してた気がします。
レミリアお嬢様は喜ぶにちがいない…
貴方今までですでに味覚マヒしてますから!
不味いからってなんで砂糖足すのー!!