アンコール! アンコール! アンコール!
鳴り止まないそのコールを受け、二人は流れる汗もそのままに、ステージへと飛び出した。
怒号にも似た歓声はとどまる事を知らないが、響子が腰を落とし、ミスティアがギターを構えれば、たちまちの内に静寂が訪れる。
「お前らのクッソうるせぇコールが耳障りで仕方ねえから! こうして出てきてやった次第でぇす! これマジ最後の曲だから! 終わったら大人しく帰って寝るか死ぬかママのパイオツしゃぶるかしろよな! ありがとう! 死ね!」
彼女のアイデンティティとも言える大声で、響子は罵倒なのか謝辞なのかよく判らないトークを繰り広げていたが、キュィイインという弦の音が響けば、それは開幕の合図である。
首にかけていたタオルを投げ捨て、響子は構えを取り、そして叫んだ…
「じゃあラストの一曲はこれだよ! 『鳥羽僧正がみてる』!」
ウォオオオオオオオ!!
それから少し後。
「ふぃー、お疲れちゃーん」
「うん、お客も大分増えて来たね…次はもすこし大きいハコでやろうか?」
タブクリアとメッコールで乾杯をしつつ、二人の心は既に次のライブへ向けて進み始めているようだ。
最初は路上での弾き語りであった。しんみりとしたバラードなんかも歌ってみた。だがそれは、彼女達にはまるで相応しくなく…挫折も、衝突もした。
だがそんな苦境を経て、今ここにいる。諦めずに続けてきたその矜持が、歌う事の楽しみを更に増幅させ、より良い方向へと彼女らを導いているのは間違いない。
「そうだねえ、Zepp Gensokyoとか行けちゃうかな」
「それは夢見すぎっしょー」
「あはは、そうかなー? じゃあスタジアムとかどう、どら焼きドラマチックパーク!」
「クリケットの前座でやらしてもらうの? それもいいか…」
そんな折である。
見果てぬ夢に暫し浸る二人の楽屋、その扉がノックされた。
「ん、なんだろ」
「はーい」
響子はタブクリアの缶をゴミ箱に入れつつ、ドアを開く。
「ホアアアアア!?」
「ぶっ!?」
ミスティアの位置からは、扉の向こうにいた人物が誰であるかを確認することは出来ない。しかし響子の素っ頓狂な絶叫から判断するに、恐らくは彼女の関係者…それも結構デンジャーな感じの、であろう。
咄嗟に立ち上がってギターを掴み、斧の如く構えたミスティアは、妖怪然としたオーラを放ちながらも突撃する。
「どうした響子! 行き過ぎたファンか! それはそれで嬉しいが死ね!」
「うわあ怖い! い、いやちょっと待って下さい! 響子の! 響子の身内です!」
「嘘つけぇ! どんなアメリカナイズされたパワーが働けば、響子の血筋にそんなパツキンでボインボインな外人が生まれるんだ!」
「酷いよミっちゃん! この人は確かに英語読みするとクラッシュのドラマーみたいだしでっかいおっぱいしかトリエがないけど、それは私に関係なくない!?」
「お前結構ひどいな!?」
その後数分の間、三人は傍から見れば頭のおかしなやり取りをし、そして何とか落ち着いた。
寅丸が白蓮に替わって自分達を叱責しにきたのではないと、響子が理解し、それをミスティアにも伝えただけなのであるが、いかんせんこのどうぶつ奇想天外達が、理性より感情で動くタイプなのが災いした。
せめてナズーリンがいればまた話も違っただろうが、それは置いておく。
「…で、そのショー・ストラマールさんは何用ですか、バターとコーンフロスティの差し入れですか、虎だけに」
ソファにどっかりと腰を下ろし、ミスティアは腕組みをしつつ寅丸を睥睨した。
一応敵ではないと認識してはいるようだが、さりとて油断をしている気配もない。騒音がどうだの、観客に与える影響がどうだの言い出そうものなら、即座に席を立つだろう。
「ああいえ、差し入れは生憎…でも、ライブを見せて頂いて、とても感動したので…失礼かなとは思いましたけど、こうやって楽屋に来てしまったという訳でして」
「はあ」
「ついでに物販でこれ買っちゃいましたよ、ほら」
若干困った笑みを浮かべつつも、寅丸は袖口からいくつかのグッズを取り出し、テーブルに置いた。
パンフレット、湯のみ、手ぬぐいなど…まだまだ手作り感溢れるそれらを買ってくれたとあれば、いかにミスティアとて邪険にする訳にもいかない。
「あ、ああ、それはどうも…良かったらサインとかさせて貰いますけど」
「本当ですか! じゃあお願いします、『星ちゃん江』って書いて貰えますか!」
「はいはい、しょー、ちゃん、え…と」
「ヤッターカッコイイー! ありがとうございます!」
◇
「と、まあそんな感じでして」
コトリ、と置かれた湯飲みには、『死ね!』というおよそ寺で使えるとは思えぬ文言が書き込まれており、そしてその横にはミスティア・ローレライの名が踊っていた。
寅丸は五つ目のみかんを手に取ると、素早く皮を剥いて口に放り込んだ。春はもうすぐそこまで来ていたが、猫科の動物としての習性がコタツを仕舞わせないでいる。
「まあ、響子も頑張ってるんだな」
「そうですね、あのミスティアさんという方も、大層しっかりとした方の様ですし」
「だがやり過ぎるとまた姐さんに説教くらうんじゃないのか? そこら辺しっかりクギ刺しておいた方がいいと思う、け、ど」
そう言って一輪はコタツから出、部屋の隅にある箱からみかんを持って戻る。
寅丸は放っておくと延々とみかんを食うマシンと化すので、冬の間はみかんがいくらあっても足りない。事実、補充したばかりのみかんを三つ手に取り、撫で擦る寅丸の姿がそこにはあった。
「ええまあ、響子の方にはそれっぽく言っておきましたから…それよりですね一輪」
「うん…?」
「私たちもああいったものをやってみたいとは思いませんか」
その言葉を受け初めは何事かと思案していた一輪であったが、やがて眉をハの字に寄せると、再びコタツから出ては窓際にある火鉢、その上に乗った鉄瓶を持って戻った。
湯が寅丸の差し出した急須へと注がれ、出がらしではあるが、それでも焙じ茶のよい香りが漂う。
「やめとけ」
「ええー…でも、楽しそ」
「やめとけ」
「いや、ちょっと待って下さいよ一輪! 話は最後まで聞くものです…短気は損気と言うじゃありませんか」
だばだばと手を動かし、寅丸は食い下がる。一輪もその勢いに押されてか、はぁ、とため息をついて居住まいを正し、そして茶をすすった。
「よし聞いてやろう。しかしね星、オチはもう大体見えてるんだよ」
「え、いやまさかそんな。宇宙人は水に弱いとか、ブルースウィリスは実は死んでいた、とかそういうのはありませんよ?」
「お前シャマラン好きだな!? ってそうじゃないよ、どうせ姐さんに怒られて終わりだよ」
「フフフ、甘いですね一輪…そんなお約束な結果になるとでも思ってますか?」
頬を紅潮させ、子供の様に目を輝かせて寅丸が言う。それが彼女の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、一輪はとりあえず続く言葉を待つ。
それを確認すると寅丸はすっと立ち上がり、空手で言うところの三戦(さんちん)にも似た構えを取って、これ以上無いくらいのドヤ顔でこう述べた。
「最終的に命蓮寺と鳥獣伎楽はシンクロします」
呼ッ!
…そんな効果音が何も無い空間に浮かび上がるのを一輪は見た…確かに見たのだが、すぐにそれを振り払うかの如く頭を振り、卓を叩いて叫んだ。
「テメーッ! ひっぱたくぞ! どこのZAZELだよ!」
「いえいえ、そういう子安的なものではなく…私たちがああいった…何です、バンド的な何かをすることによって、白蓮もその良さをただ否定するのではなく、徐々に受け入れていって…最後にはこの境内で盛大な競演ライブ的な何かをですね」
先ほどのZAZELめいた挙動と、脳内お花畑もいいところな未来予想図に、さすがに一輪も面食らったのか、こめかみの辺りを押さえて茶をすする。言うは易し行うは難し、という格言をまさか知らぬ寅丸でもあるまい。
とは言え、彼女はあくまで、響子とミスティア…つまり鳥獣伎楽のためを思っての案をぶち上げているつもりらしい。
隣の芝は何とやら、そんな根性での発案なら、一輪も本気で止めていただろう。
「ああ、まあ…うん…志はいいんじゃあないの…んで、バンド?」
「いかにも」
「そしたらお前、どのパートやるんだよ。楽器できるなんて聞いたことないよ?」
「…当方ボーカル。他パート募集!」
「お前音楽雑誌のあるあるネタかよ! ってか楽器もできねえのにバンドとか、どの口がほざいてんだ!」
一輪の言い分ももっともである。
楽器の演奏もおぼつかないのに、やれバンドがどうだの響子達のためだの言い出すその根性は、もはや勇気や義憤でなく単なる無謀である。
バカではあるが、面白半分でそういう事を言い出すような存在ではないと思っていたのに…とばかりに、一輪は心底情け無さそうに、寅丸の肩に手をかけた。
「いいか星、悪いことは言わない…やめておけ」
「でも一輪はタンバリンが上手いですよね?」
「は? …は? え、ああ、いや、それは関係ないだろ?」
「何故です、タンバリンだって立派な楽器ですよ。つまり今現在、ボーカルとタンバリン…表記で言うならVo.とTam.ですよ…どうです、ときめきますよね」
寅丸の目は金色の光を帯び、彼女の後背には何故か光が射す。
普段は欠片も見せないその威光が、まるでバンドヤリタイ…バンドヤリタイ…と言わんばかりの摩訶不思議イリュージョンとなって、室内をまばゆく照らしてゆく。
「思い出して下さい…群馬時代を…どんな暗いバラードでも瞬時に盛り上がる、一輪のタンバリンテクを…」
「う、うう…」
バラードを盛り上げたら駄目だろう、というツッコミさえ出来ず、一輪は頭を抱えた。それは群馬時代の淡い記憶か、あるいは──
「更に言うとタンバリンもまた輪…これ即ち一輪の支配下に置かれて然るべき楽器です。それを自在に操り、世間にその威光を示すのがウロボロスの円環の最後の使徒たるタンバリニストとしての使命ではないのですか…一輪や…ユービロンビローン…さよなら言えなっくてー」
寅丸は遂には浮き上がり、TMNのBGMをバックに結跏趺坐のかたちで説法…いや洗脳を始める。ちょっと強めに出ればすぐ黙ってしまう寅丸が、ここまで攻勢に出るのは大変珍しいことであった。
しかし思えば、彼女は代理とは言え毘沙門天である。
毘沙門天と言えば、この幻想郷では馴染みが薄いものの、七福神の一柱にも数えられ、同じ七福神である弁財天を肩を並べることもあるだろう。
代理である寅丸がそういった経験をすることは無いものの、知識としては当然の如く持っている。
そして弁財天といえば芸能の神としても知られ、琵琶リストであることも広く知られている。ともすれば子供の様に純真な寅丸が、響子達のライブを契機として、己が知識の内にある弁財天への憧れを抱くのも無理はない。
「キャーイチリンサンカッコイーー! ナイスタンバリーン! そんな黄色い歓声が、あの有名聖職者のB・Hさんから発せられるかもしれないんですよ…」
「あのBHさんが…!?」
先端に紐をくくり付けた宝塔をゆらゆらさせつつ、寅丸の洗脳は続いていた。そして一輪も、それに抗おうとは最早していない。
寅丸は袖からタンバリンを取り出すと、それをそっと一輪に握らせ、更に目を輝かせる。
「さぁいいですか、ここは高崎のカラオケボックスですよ一輪…今貴女はレディース仲間の皆さんとカラオケに来ているのです…おっと一曲目は…丹波哲郎さんの『元気健康一等賞』ですよ! タンバリンだけに。OK?」
「はい…雲居一輪、場を盛り上げます…」
もはや毘沙門天というよりは胡散臭い詐欺師と化した、寅丸の双眸がダメ押しとばかりにかっと輝くと、一輪はゆっくりとスタンスを取り、そしてタンバリンを構えた。
ヘイ! ヘイ! シャンシャンシャンシャン!
「!?」
白蓮との勉強を終えた古明地こいしが、部屋に入ろうとして留まったのは、そんな音と声が聴こえてきたからである。
それがタンバリンの音色と、多少荒っぽいが面倒見の良い雲居一輪、そして寅丸星の声であると認識してもなお、こいしの足は止まったままであった。
「…何してんの…?」
キャーッ! イチリーン! ナイスタンバー! キテル! イチ×タンキテルーッ!
シャンシャンシャンシャン!
「何してんの!?」
放っておくという選択も出来た彼女であったが、一応はこの寺に世話になっている身でもある。明らかな異常事態とあれば、スルーする訳にもいくまいと襖を開けた。
「あ、こいしちゃん! 丁度いいところに! 見て下さい、一輪のタンバライザー」
「タンバラ…タンバライザーって何…ダブルオーライザーの親戚?」
「さすがですね沙慈・閉じた恋の瞳ロード…大体あってます。イェイ。この一輪とタンバリンの融合っぷり、どう見てもタンバマイスターの所作ですよ」
虚ろな目でタンバリンを叩く一輪を見れば、それが正常な状態ではない、というのは明らかであった。
しかし何をどうするにせよ、この寅丸星という存在が、同じ寺の仲間を害するということは、まずあり得ないことだ。ここに関わるようになってまだ日は浅かったが、それくらいの事はこいしにも判った。
「…ナイスタンバ…?」
「イエスタンバ! そうでしょうとも! ああ、これはつまりですね」
◇
「…バンド」
「イエス。そういう訳なのでこいしちゃん、貴女何か楽器できますか?」
「…私も頭数に入ってるんだ!?」
「フフフ…いいじゃないですか、こいしちゃん可愛いし、きっと人気出ると思うんですよね…儚げな美少女に罵倒されたいって層は必ずおりますので」
「罵倒!?」
手をわきわきと動かしながら、寅丸が怪しい笑みを浮かべる。一輪の懐柔の成功(?)に気を良くしたのか、答えるまでは帰さない…そんな勢いでもあった。
こいしは幾らか逡巡したのち、袖口からやや大きな…フランスパンくらいのものを取り出してみせた。
「…それは」
「…ギロ」
「ギロ」
「こういうやつ」
そう言うとこいしはそのフランスパンを構え、木の棒でギザギザの表面を擦った。
「ア、アアアーッ! そのギコギコ音! それがそれから出る音だったんですね!?」
「うん」
「凄いですこいしちゃん! 言うなればギロリスト…いやギロリアンですよ!」
「…ギロリアン…! いいそれ…それイイそれ…」
「そうでしょうとも! 1.21ジゴワットの電流で過去とか未来に行けちゃうアレみたいでかっこいいでしょう!?」
こいしは何故かほっこりした表情で笑い、寅丸もギャキィ、と親指を立てつつ満足げに頷いた。
もはやこの流れは必然であり、容易に止まるものではない…そう思える。
それでは結成から僅か数十分で、三人に膨れ上がった寅丸バンド(仮)…が、その後どのようにしてメンバーを増やしていったかを、ダイジェストでお送りしよう。
村紗水蜜(Wad.)
「あの時のあいつは、今までにないくらいロックだった。托鉢、説法、ロックンロールとはまさにあいつの事を現していたね。そんなあいつの熱に当てられゃあ、和太鼓の経験がある私が参加しないなんてな、それはハードなクエスチョンだろう?」
二ツ岩マミゾウ(Harad.)
「楽器が出来るか、と聞かれた時は何だコイツと思ったね。狸ナメんなこの野郎ってさ(笑い) だってそうだろう? 腹太鼓の出来ない狸なんてな、コーヒーの入ってないクリープみたいなもんだからね。ちなみにコーンフレーク食べようとしたら牛乳が無くて、クリープを水に溶いて掛けて食った男を知っているんだけど、そいつは…(以下略」
封獣ぬえ(Unknown.)
「ああこれ? これはf3顧イ?#b8縣ヌ(聞き取れず)と言ってね、中央アフリカの7?L矧擁ヌ%??エ(聞き取れず)っていう国に伝わる伝統的な打楽器で…近年まで奏法も音階も正体不明だったっていう曰くつきの楽器でね…まあ私、これくらいしか演奏(や)れないからさ…」
ナズーリン(Metro.)
「まぁた馬鹿なことを言い出したな…そう思ったけど、私は一応、ご主人の部下だからね…協力してくれと言われればしない訳にもいかないだろう? ああでも楽器は出来ないので、このペンデュラムをメトロノームの代わりにして端っこに立っているよ」
出来た。
出来上がった。
これ以上無いくらいに出来上がった。
寅丸をリーダーとしたメンツは、白蓮に見つからぬよう、地下の即身仏体験コーナーへと集合していた。
「フフ…我ながら恐ろしいものです、この…何です…オーガ…オーガ…」
「オーガナイザーと言いたいのか」
「地上最強の生物のことかと思ったわ…まぁよい、してリーダーよ。いろいろと情報を整理せねばならんじゃろうが」
狭い空間に七名も集合すれば、密度は高まり、温度も上昇する。
マミゾウは上着を脱ぎ、同じように下着姿になった寅丸をそう言って促した。
「そうですね…まず、バンド名ですか」
「そうだね、何にでも名前はあるからね」
「ではお手元のフリップにそれぞれ書いて頂いて…挙手して発表してもらいましょう」
「バラエティめいてきた!」
「暑い…村紗お姉ちゃん、霧とか出せないの?」
「無理」
皆が黙り込み、フリップと向き合っているところ、最初に挙手したのはぬえであった。
「はいぬえさん!」
「えーとね…うちらほら、寺じゃん? 寺ってのとこう…近未来的なものを組み合わせた全く新しいバンド名をですね」
「ふむふむ…まさか寺フォーマーズとか言うんじゃなかろうなハハハ」
「それだと火星ゴキブリと戦う羽目になるよマミおばあちゃん…」
そんなマミゾウとこいしの会話を受けたぬえの顔面が、途端に青白くなる。更には無言でフリップをしまう村紗。
「あっ…」
「いや、ハハハ…いいんスよ、誰でも思いつくもんだし? たまたま昨日読んだだけで本気じゃないし? 本気出せばもっと凄いの考え付くし?」
「す、すまぬ…」
「(謝った…)」
微妙な空気が場を支配したが、それくらいでへこたれる寅丸バンドのメンバーではない。次に手を上げたのはマミゾウであった。
「奴らに対抗するべく結成されたバンドじゃろ? ならば奴らを凌駕する! 的な思いを込めるのが筋というもの…というわけでこれじゃい!」
熱のこもった前説が済み、そしてコトリと置かれたフリップには、流麗な文字で『超獣TERA』と書かれていた。
それを皆が、響子とミスティアのバンドである、鳥獣伎楽をもじったものである…と理解するのに、そう時間はかからなかった。
オシャレかつハイセンス! ヤッターカッコイイー! そんな声も飛び交う。あまりの暑さに投げやりになったわけではない。決して無い。
「あつい…伎楽とギガをかけて、その更に上の位のテラ…それにも寺がかかっているのですね!?」
「ウィーマドモワゼル…あと何となくウルトラマンAっぽいじゃろ?」
「さすがおばあちゃん、古いね。あと暑い」
いくら露見せぬ為とは言え、四畳半ほどの空間に七名が集まるのはきついと見え、特に対案が出るまでもなくバンド名は決定した。
「あとは?」
「あとはー…そうですねえ」
その時である。
ポクポクポク…と、寺にいる者にとって、とても馴染み深い音色が不意に聞こえてきた。
それは最初は遠くかすかであったが、ゆっくりと確実にこの地下室へと近づいてきている。
「木魚…!?」
「ここは寺じゃもの、木魚の音くらいしようもんじゃ。ええい暑い、離れんか一輪」
「はい…雲居一輪離れます…」
「いや、おかしいぞ皆…ここには聖と響子以外、全員いるだろう…」
ナズーリンの言葉に、場の気温が明らかに下がった。
この寺で木魚を叩くのは、一輪と寅丸、そして白蓮くらいものであるが、その内の二名はこの地下室にいるのだ。
では誰が…という疑問を抱くまでもなく、全員の脳裏に彼女のビジョンが浮かんだ。
「…で、出たほうが良さそうじゃないか?」
扉の側にいた村紗がそう言って立ち上がり、取っ手に手をかける。
しかし村紗は何か、強大な何かに行動を制限されたように、微動だにしなくなってしまう。
「…村紗?」
「…見てる」
「見てる…って…何が…」
ギギギと首を軋ませ、村紗が皆の方を向く。開いた空間の先には、僅かに開いた扉の隙間が見え、そしてそこには…
何か、得体の知れぬ何か…そこにいる誰もが、上手く言い表すことの出来ぬ雰囲気を纏った、何者かの目が輝いていた。
蛇に睨まれた蛙、という表現がしっくり来すぎる程に、誰も動かない。いや、動けないのだ。
「…びゃ、白蓮…こ、これはですね、その…」
やっとの思いで声を絞り出し、寅丸が弁明を始めた。だがその目は暗い光を湛えたまま、じっと皆を見つめたままである。
「や、やましい考えでやるのではなく…そのえっと…」
「…木魚」
「は…? は?」
「…木魚が演奏(や)れる」
抑揚の無い声がし、ついで聴こえてくる木魚の音に、寅丸たちは自分がもう死んでいて、来週もキリコと付き合って貰うことになるあの場所にいるのではという妄念に駆られ始めていた。
寅丸は混乱しつつも村紗を座らせ、扉の隙間から覗く目に対して語りかけた。
「あ、あの、白蓮…?」
「ノー。白蓮ノー。奴さん、以前この部屋に閉じ込めていたSCP-173と戦って死んだよ。私の名前は木魚マスク…いや…マスクド木魚といったところかな…貴方達の全く知らないただの木魚使いさ」
「(何その設定…!?)」
「(しかし話は合わせておいたほうが得策じゃないか、ご主人)」
「(ナズーリン…! なんという冷静で的確な判断力なんだ!)」
どこが、と言われればそれまでだが、昨日までキン肉マンを読んでいたぬえと村紗は感心することしきりである。
寅丸は頷き、ドアを開いて白蓮…いやマスクド木魚に入るよう促した。
どこにどう仕込まれているのかは判らないが、マスクド木魚が歩く度に、ポク、ポクという木魚の音が響く。
「フフ…よかったのかホイホイ招きいれちまって…私は敬虔なキリシタンやムスリムだって木魚使いにしてしまう人間なんだぜ」
「アッハイ そ、それでその…私どもの超獣TERAに参加して頂けるということでよろしいのですね?」
マスクド木魚は顎の辺りをモシャリと撫で、その後に頷いた。被った紙袋から覗く目はその峻厳さを和らげてはいるが、油断は出来ない。
寅丸が壁のスイッチを押すと、冷たい空気がそこかしこから吹き始め、更に天井のヒモを引けば、サーキュレーターがガコンと現れる。
「そんなんあったの!?」
「ええまあ…ここマンガとか読むのに最適でして…」
「なるほど…うわ、このジャンプ、モートゥルコマンドーガイ載ってるじゃん! ヒャアがまんできねえ!」
賢明なる読者諸兄ならばおわかりになるだろうが、掃除や整頓などをしている最中に、いつ買ったのかすら定かでない漫画や雑誌が出てこようものなら、人はそれをめくらずにはいられないのだ。
その理屈の結界にとらわれ、超獣TERAの面々は小一時間ほど無駄な時間を過ごすことに成功した。
「ってそうじゃなくてだな」
ナズーリンは読んでいたSPAを放り出し、立ち上がって手を叩いた。
月刊MOKUGYOなる謎の雑誌を静かに置いて、マスクド木魚も頷く。
「…えっと」
「いや、漫画喫茶もそれはそれでいいがね、一応はバンドとして成立したんだ。ライブやら作詞作曲やらしてみるのが道理というものじゃあ、ないかね?」
一輪というツッコミ役が寅丸の傀儡と化している今、まともに場を仕切れるのはナズーリンしかいなかった。
臆病者だが結構傲慢でもある彼女がそれに気づけば、たちまち態度に出る。
「…不思議そうな顔をするな! ご主人! 今後の動向を決めてくれ」
「えっと…んじゃライブでもやりますか。Zepp Gensokyoあたりで」
「よかろう。じゃあまずはそこに行ってみるとしようか…」
「さんせーい」
追い出された。
「バカな…」
「まあまともに考えればそうじゃよね、結成2時間で武道館ライブ的な無謀さじゃろこれって」
「判ってたなら止めろよ! めっちゃ怒られただろうが! ナズーリンさん怒られるのめっちゃ嫌いだかんな!」
「いやあメンゴメンゴ、星の財力でどうにかできっかなーと思ってた。ならんかった」
ぺろりと舌を出して謝るマミゾウの尻を蹴り、ナズーリンは改めて一同を見回した。
志は立派であったが、地下室でのプレミア漫画祭りが災いした。よく判らない打楽器のみで構成されたバンド活動より、あそこで漫画を読みふけっていた方がいい…そんな空気すら感じられる。
だがさすがにそれはまずいと悟ったのか、寅丸は咳払いを一つし、皆を見回す。
「えーでは、本職の人たちのとこを尋ねて、今後の指針についてアドバイスを貰いましょう」
「本職…響子のこと?」
「いえ、いるでしょう…プリティーリズム三姉妹でしたっけ?」
「ああ、私知ってる。幽霊コミュで何度かオフしたからね」
その言葉を受けた一行は、善は急げとばかりに飛び上がり、村紗の先導で空を駆けた。
ついでに言うとこいしはとっくの昔に飽きて寺へ帰っている。
着いた。尺にも優しい。
「ここがプリズンブレイク三姉妹の住処けぇ…なんともチンケな家(とこ)だのう!」
「いやいや…大豪邸じゃん…さすがに幻想郷のミュージックシーンを席巻し続けるだけのことはあるよ」
「では村紗、知り合いということで一つお願いしますね。さっきみたく追い出されたくないので賄賂を使うのもアリですよ」
「大丈夫だって…」
金、のハンドサインを示したナマモノ系本尊をわき目に、村紗は一歩進み出ると、呼び鈴を押してしばし待つ。
すると綺麗なメロディと共に門が開き、どこからともなく聴こえてくるのは「どうぞ~♪」といった風情のコーラスであった。
「キモイ!」
「無駄に凝った無駄な設備投資しとるのう…ひょっとしてトイレには音姫が…?」
「あり得る…」
無駄についての無駄話をしつつ、一行は門をくぐり邸宅のドアを開けた。
「…お話は判りました。私たちもプロの端くれ…少なからずアドバイスできることはあるかもしれません」
そう微笑み、ルナサ・プリズムリバーは言った。
しかし他の二人…メルランとリリカはあまり面白くないようで、その様子があからさまに見て取れる。
「ちょっと、二人とも…折角来てくれたのに、その態度は…」
「そうは言うがよ姉貴! こいつら結成してまだ半日も経ってないって言うじゃないか! あたしがセガールだったら即座に手首をへし折ってところだぜ」
「じゃあ私はチャック・ノリスかな」
「ハァ!? チャック!? リリカさぁん!? お前如きモヤシがチャック・ノリス!? 冗談じゃあない、SCP-173の前で瞬きしても平気なのはチャックとセガールくらいなもんだぜ、それを…」
「んだとテメーッ! 最初にセガールめいて手首キメるとかビッグマウス叩いたのは誰だってんだよォ!?」
「はいはい、チャックでもノリスでもいいから! ごめんなさいね、妹達が…」
人数分の紅茶を置きつつ、ルナサが詫びる。寅丸はニコニコと笑いながら首を振り、紅茶をゴズズと啜ったのち口を開いた。
「いえ気にしないで下さい、本当のことですし…でもチャック・ノリスやセガール自称しちゃう辺りは超ゴーマンですよね、やっぱバンドマンってそうでないと…ええとほら、言うでしょう、何でしたっけ、ックス…ックス…チャージアックス、メタルスラッグ、ロックンロール」
「あ、帰ったらゴアマガラ手伝ってー」
「一つしかあってねえよ! 大体それ褒めてねえからな!? 姉貴、ダメだこいつら! 出てってもらおう!」
「まぁまぁ…それで、ええと…早速ですけど、演奏して頂きましょうか。音楽を聴かないことにはアドバイスもなにもありませんし」
荒ぶる妹たちを抑えつつ、ルナサが言う。寅丸以下、他のメンツも異論は無い様で、各々が得意の得物を取り出しては構えた。
「お前ら何で3DS取り出してんの? 人ん家をリアル集会所にするつもりなの?」
「すいません間違えました」
各々は3DSを仕舞いこみ、改めて楽器を取り出す。根拠の無い自信が溢れ出てはドヤ顔に還元される様を見て、メルランは眉をひそめたが、それでも専門家の慧眼は鋭い。
「ふうむ…ええと…タンバリン…それに和太鼓…なるほど。ってお前何、腹出してどうするの? お腹痛いの?」
「主は狸について知らぬと見える。古来より狸と言えば腹太鼓もしくはきんた」
「狸くらい知ってるよクルルァ! 大体お前女じゃねえか! ええい、まぁいい、んで…メトロノームと…えっと…ごめん、何その…なに? 白奇居子(シロガウナ)みたいなの」
「いいよねABARA…ってそうじゃなくて、これは古代アフリカに伝わる伝統的な打楽器の一つで…その音域はおよそ人間の可聴領域を遥かに…」
「わかったわかったもういいよ。んで? そっちの紙袋は木魚か…ってウォイ! 全員打楽器かよ!」
その言葉に一同は顔を見合わせ、しばしのアイコンタクトの後に頷いた。
「言われてみればそうである」
「気づけよ! 打楽器オンリーでどうすんだよ!」
「例え楽器が無くとも、音楽をしたいっていう心が肝心だと思う」
「イイ事言った風な口利いてんじゃねえぞこのスコタコ! よーし、よし判った。んじゃあ演(や)ってみろよ、そこまで言うからには相当な自信があるんだろうからな」
下手な演奏をすれば、それこそここから蹴り出されかねない。怒りに震えるメルランと、とっくに飽きてモンハンを始めるリリカと、一応は見守るルナサを前に、超獣TERAの面々は意を決した。
見せてやろうぜ、私たちの音楽魂(スピリッツ)を…!
「えーでは聴いて下さい。般若心経・多重打楽器リミックス」
ポク…ポク…ポクポクポクポク
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。
シャンシャンシャンシャン
受・想・行・識亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖、遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。
ドンガドンガドンガドンガ
故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。
最後のフレーズを待たずして、プリズムリバー三姉妹は霧の如く散っていっているのであるが、陶酔しトランスした一同がそれに気づくはずもない。
神々しい何かが多分に含まれた歌声は更に音量を増して、場を埋め尽くしていく。
「あ…なんか…キモチええ…」
「うん…なんだろこれ…このアッパーなカンジ…アクエリオンみたいな」
「くっ…認めざるを得ないか…こいつらの熱いスピリッツを…大した新人共だぜ…」
寅丸はシュワシュワと薄くなっていく三姉妹を見ては頷き、マイク代わりの宝塔へ力を込める。
聴いて下さい、私の…私たちのロックンロール…
即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経───!
ゴバッ、と何かがはじける音に、一同は我に返った。
寺ならば馴染み深い、何の変哲も無い経であるが、やはり心を合わせて紡ぐのはいいものだ。
やり遂げた…そんな感慨もひとしおに、寅丸はステージから降りた。
「どうでしょうか…ってウワァアアアア!?」
「どうしたんじゃ素っ頓狂な叫び声を上げ…て…」
「いやいやいや、あれだ、三姉妹がボスヤスフォートに瞬殺されたリィ・エックス・アトワイトみたいになってる!」
「L.E.D.ミラージュの完成が遅れる! アア、今はツァラトゥストラ・アプター・ブリンガーだっけ?」
「永野仕事した結果がこれだよ…」
てんやわんやの騒ぎであるが、流石に死人が出るのはまずいと感じた一同は頷き、顔を寄せ合って相談を始めた。
「どうする? このままだと成仏しちゃうんじゃない?」
「それはさすがに問題がありますよ…僧侶が殺生だなんてにょはんぼ…じゃない、破戒僧もいいところですよ」
「ふっかつのじゅもんを唱えればいいと思う」
どうでもいい、といった風情のナズーリンが言うと、一同は目を輝かせて彼女を見た。
なんという冷静で的確な判断力なんだ…!
「いや、それはもういいから…で、般若心経でクリティカルなわけだから、その逆を行けばいいのだろ?」
何処から取り出したのか、牧師の格好をしたナズーリンが言う。その言葉に寅丸はふむ、と頷き、しばしの後に口を開いた。
「つまり、般若心経の逆再生ですか?」
「いやだよ! 何か変なメッセージとか再生されちゃったらどうすんのさ!」
「その時は改めて再生して悪霊退散すればいいじゃろ」
「それだとまたプリングルス三姉妹がしぬ」
「いや、発想の転換として…つまり般若心経の逆…要するに念仏とか有難いお経の逆というスタンスなら、デスメタルがいいのでは?」
一同が『それだ!』と目を輝かせるのを見て、寅丸は満足げに頷く。そして懐から宝塔を取り出し、コトリとテーブルに置いた。
「ええと…」
「最近知ったのですが、これ電灯と重力子放射線射出装置としての使い途以外に、色々あるみたいで」
「ほう…例えば」
「プラネタリウム」
パァー、と光が溢れ、ライブのために照明を落としていた室内に星空が浮かび上がった。
まさに神秘のテクノロジー、フォーザビューテフォー仏教ライフである。
「すごい! 他には?」
「キッチンタイマー」
「ラーメン延びない! 他には!?」
「貯金箱」
「いつの間にか30万円溜まってるっていうあれじゃな! 他には!?」
観光地によくある卓上おみくじ、シャチハタ、知的玩具、ボールペンなど枚挙していけば暇が無いが、寅丸はこほんと咳払いを一つして、側にあったケーブルと宝塔を繋いだ。
その先にはアンプがある。
「多機能音楽プレイヤー」
「ヤッターカッコイイー!」
もはやどういったテンションなのかも判らないが、とりあえずプリズムリバー三姉妹を復活させるという目的は忘れていないようで、寅丸は宝塔を操作して再びテーブルへと置いた。
少しして、アンプから耳をつんざくような轟音と、おどろおどろしい男の声が再生される。
「これは…?」
「さぁ、知りません…適当に受信してますので…」
「違法ダウンロードかよ!」
「いえいえ、これで彼女らが助かるのであれば、それは善行だと思いませんか…あ、一輪、タンバリンはいりませんよ」
「はい…雲居一輪タンバリンやめます…」
次々と変わる演目に、始めは耳を塞いで、あるいは棒立ちしていた面々も、次第にノリノリになっていく。
そして、奇跡が起きた。
「ふいー、死ぬかと思ったよ…でも何だ、心地よいBGMが…私たちを呼んでいて…」
「デスメタルだな、幽霊との親和性はバツグンだぜ…」
「ええ…身体中にちからみなぎる、わたしがあいてだ!」
イェエエエエエ!
熱狂的なオーディエンスと化した命蓮寺の面々を前に、プリズムリバー三姉妹は目を丸くしていたが、やがて己に課せられたサダメを理解したのか、各々が楽器を取り出し、轟く爆音に合わせて演奏を始める。
鳴り響く三種のメロディは大きなうねりとなり、場を取り込んでいく。
「へへっ…やっぱ私達って、悔しいけど音楽が好きなんだよね…」
「自分達を吹き飛ばした連中相手に演奏(や)るだなんてサ、これってロックじゃん」
「そうね…さぁまずは一曲目! 聴いて下さい!」
その後熱狂しすぎて暴徒と化した命蓮寺の面々は追い出されました。
「…やっぱ本職にはかなわないね!」
「うむ、音楽家には音楽家の、僧侶には僧侶の領分があるということじゃな…わかったらもう帰ろう」
「そうですね…超獣TERAはこの場で解散ということで…」
すっかり暮れた晩冬の空を見上げ、一同は満足げに頷きあった。
結局漫画読んで殺人未遂をしただけという事実には誰も触れなかったが、それもまたロックなのであろう。きっと。たぶん。
◇
「…というお話を元に作詞作曲したのがこの曲です…では聴いて下さい! 『バンド・オブ・ブッティスツ』!」
ワァアアアアアアア!
歓声は夜空に吸い込まれ、そして響子のシャウトもまた、轟いては消えてゆく──
鳴り止まないそのコールを受け、二人は流れる汗もそのままに、ステージへと飛び出した。
怒号にも似た歓声はとどまる事を知らないが、響子が腰を落とし、ミスティアがギターを構えれば、たちまちの内に静寂が訪れる。
「お前らのクッソうるせぇコールが耳障りで仕方ねえから! こうして出てきてやった次第でぇす! これマジ最後の曲だから! 終わったら大人しく帰って寝るか死ぬかママのパイオツしゃぶるかしろよな! ありがとう! 死ね!」
彼女のアイデンティティとも言える大声で、響子は罵倒なのか謝辞なのかよく判らないトークを繰り広げていたが、キュィイインという弦の音が響けば、それは開幕の合図である。
首にかけていたタオルを投げ捨て、響子は構えを取り、そして叫んだ…
「じゃあラストの一曲はこれだよ! 『鳥羽僧正がみてる』!」
ウォオオオオオオオ!!
それから少し後。
「ふぃー、お疲れちゃーん」
「うん、お客も大分増えて来たね…次はもすこし大きいハコでやろうか?」
タブクリアとメッコールで乾杯をしつつ、二人の心は既に次のライブへ向けて進み始めているようだ。
最初は路上での弾き語りであった。しんみりとしたバラードなんかも歌ってみた。だがそれは、彼女達にはまるで相応しくなく…挫折も、衝突もした。
だがそんな苦境を経て、今ここにいる。諦めずに続けてきたその矜持が、歌う事の楽しみを更に増幅させ、より良い方向へと彼女らを導いているのは間違いない。
「そうだねえ、Zepp Gensokyoとか行けちゃうかな」
「それは夢見すぎっしょー」
「あはは、そうかなー? じゃあスタジアムとかどう、どら焼きドラマチックパーク!」
「クリケットの前座でやらしてもらうの? それもいいか…」
そんな折である。
見果てぬ夢に暫し浸る二人の楽屋、その扉がノックされた。
「ん、なんだろ」
「はーい」
響子はタブクリアの缶をゴミ箱に入れつつ、ドアを開く。
「ホアアアアア!?」
「ぶっ!?」
ミスティアの位置からは、扉の向こうにいた人物が誰であるかを確認することは出来ない。しかし響子の素っ頓狂な絶叫から判断するに、恐らくは彼女の関係者…それも結構デンジャーな感じの、であろう。
咄嗟に立ち上がってギターを掴み、斧の如く構えたミスティアは、妖怪然としたオーラを放ちながらも突撃する。
「どうした響子! 行き過ぎたファンか! それはそれで嬉しいが死ね!」
「うわあ怖い! い、いやちょっと待って下さい! 響子の! 響子の身内です!」
「嘘つけぇ! どんなアメリカナイズされたパワーが働けば、響子の血筋にそんなパツキンでボインボインな外人が生まれるんだ!」
「酷いよミっちゃん! この人は確かに英語読みするとクラッシュのドラマーみたいだしでっかいおっぱいしかトリエがないけど、それは私に関係なくない!?」
「お前結構ひどいな!?」
その後数分の間、三人は傍から見れば頭のおかしなやり取りをし、そして何とか落ち着いた。
寅丸が白蓮に替わって自分達を叱責しにきたのではないと、響子が理解し、それをミスティアにも伝えただけなのであるが、いかんせんこのどうぶつ奇想天外達が、理性より感情で動くタイプなのが災いした。
せめてナズーリンがいればまた話も違っただろうが、それは置いておく。
「…で、そのショー・ストラマールさんは何用ですか、バターとコーンフロスティの差し入れですか、虎だけに」
ソファにどっかりと腰を下ろし、ミスティアは腕組みをしつつ寅丸を睥睨した。
一応敵ではないと認識してはいるようだが、さりとて油断をしている気配もない。騒音がどうだの、観客に与える影響がどうだの言い出そうものなら、即座に席を立つだろう。
「ああいえ、差し入れは生憎…でも、ライブを見せて頂いて、とても感動したので…失礼かなとは思いましたけど、こうやって楽屋に来てしまったという訳でして」
「はあ」
「ついでに物販でこれ買っちゃいましたよ、ほら」
若干困った笑みを浮かべつつも、寅丸は袖口からいくつかのグッズを取り出し、テーブルに置いた。
パンフレット、湯のみ、手ぬぐいなど…まだまだ手作り感溢れるそれらを買ってくれたとあれば、いかにミスティアとて邪険にする訳にもいかない。
「あ、ああ、それはどうも…良かったらサインとかさせて貰いますけど」
「本当ですか! じゃあお願いします、『星ちゃん江』って書いて貰えますか!」
「はいはい、しょー、ちゃん、え…と」
「ヤッターカッコイイー! ありがとうございます!」
◇
「と、まあそんな感じでして」
コトリ、と置かれた湯飲みには、『死ね!』というおよそ寺で使えるとは思えぬ文言が書き込まれており、そしてその横にはミスティア・ローレライの名が踊っていた。
寅丸は五つ目のみかんを手に取ると、素早く皮を剥いて口に放り込んだ。春はもうすぐそこまで来ていたが、猫科の動物としての習性がコタツを仕舞わせないでいる。
「まあ、響子も頑張ってるんだな」
「そうですね、あのミスティアさんという方も、大層しっかりとした方の様ですし」
「だがやり過ぎるとまた姐さんに説教くらうんじゃないのか? そこら辺しっかりクギ刺しておいた方がいいと思う、け、ど」
そう言って一輪はコタツから出、部屋の隅にある箱からみかんを持って戻る。
寅丸は放っておくと延々とみかんを食うマシンと化すので、冬の間はみかんがいくらあっても足りない。事実、補充したばかりのみかんを三つ手に取り、撫で擦る寅丸の姿がそこにはあった。
「ええまあ、響子の方にはそれっぽく言っておきましたから…それよりですね一輪」
「うん…?」
「私たちもああいったものをやってみたいとは思いませんか」
その言葉を受け初めは何事かと思案していた一輪であったが、やがて眉をハの字に寄せると、再びコタツから出ては窓際にある火鉢、その上に乗った鉄瓶を持って戻った。
湯が寅丸の差し出した急須へと注がれ、出がらしではあるが、それでも焙じ茶のよい香りが漂う。
「やめとけ」
「ええー…でも、楽しそ」
「やめとけ」
「いや、ちょっと待って下さいよ一輪! 話は最後まで聞くものです…短気は損気と言うじゃありませんか」
だばだばと手を動かし、寅丸は食い下がる。一輪もその勢いに押されてか、はぁ、とため息をついて居住まいを正し、そして茶をすすった。
「よし聞いてやろう。しかしね星、オチはもう大体見えてるんだよ」
「え、いやまさかそんな。宇宙人は水に弱いとか、ブルースウィリスは実は死んでいた、とかそういうのはありませんよ?」
「お前シャマラン好きだな!? ってそうじゃないよ、どうせ姐さんに怒られて終わりだよ」
「フフフ、甘いですね一輪…そんなお約束な結果になるとでも思ってますか?」
頬を紅潮させ、子供の様に目を輝かせて寅丸が言う。それが彼女の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、一輪はとりあえず続く言葉を待つ。
それを確認すると寅丸はすっと立ち上がり、空手で言うところの三戦(さんちん)にも似た構えを取って、これ以上無いくらいのドヤ顔でこう述べた。
「最終的に命蓮寺と鳥獣伎楽はシンクロします」
呼ッ!
…そんな効果音が何も無い空間に浮かび上がるのを一輪は見た…確かに見たのだが、すぐにそれを振り払うかの如く頭を振り、卓を叩いて叫んだ。
「テメーッ! ひっぱたくぞ! どこのZAZELだよ!」
「いえいえ、そういう子安的なものではなく…私たちがああいった…何です、バンド的な何かをすることによって、白蓮もその良さをただ否定するのではなく、徐々に受け入れていって…最後にはこの境内で盛大な競演ライブ的な何かをですね」
先ほどのZAZELめいた挙動と、脳内お花畑もいいところな未来予想図に、さすがに一輪も面食らったのか、こめかみの辺りを押さえて茶をすする。言うは易し行うは難し、という格言をまさか知らぬ寅丸でもあるまい。
とは言え、彼女はあくまで、響子とミスティア…つまり鳥獣伎楽のためを思っての案をぶち上げているつもりらしい。
隣の芝は何とやら、そんな根性での発案なら、一輪も本気で止めていただろう。
「ああ、まあ…うん…志はいいんじゃあないの…んで、バンド?」
「いかにも」
「そしたらお前、どのパートやるんだよ。楽器できるなんて聞いたことないよ?」
「…当方ボーカル。他パート募集!」
「お前音楽雑誌のあるあるネタかよ! ってか楽器もできねえのにバンドとか、どの口がほざいてんだ!」
一輪の言い分ももっともである。
楽器の演奏もおぼつかないのに、やれバンドがどうだの響子達のためだの言い出すその根性は、もはや勇気や義憤でなく単なる無謀である。
バカではあるが、面白半分でそういう事を言い出すような存在ではないと思っていたのに…とばかりに、一輪は心底情け無さそうに、寅丸の肩に手をかけた。
「いいか星、悪いことは言わない…やめておけ」
「でも一輪はタンバリンが上手いですよね?」
「は? …は? え、ああ、いや、それは関係ないだろ?」
「何故です、タンバリンだって立派な楽器ですよ。つまり今現在、ボーカルとタンバリン…表記で言うならVo.とTam.ですよ…どうです、ときめきますよね」
寅丸の目は金色の光を帯び、彼女の後背には何故か光が射す。
普段は欠片も見せないその威光が、まるでバンドヤリタイ…バンドヤリタイ…と言わんばかりの摩訶不思議イリュージョンとなって、室内をまばゆく照らしてゆく。
「思い出して下さい…群馬時代を…どんな暗いバラードでも瞬時に盛り上がる、一輪のタンバリンテクを…」
「う、うう…」
バラードを盛り上げたら駄目だろう、というツッコミさえ出来ず、一輪は頭を抱えた。それは群馬時代の淡い記憶か、あるいは──
「更に言うとタンバリンもまた輪…これ即ち一輪の支配下に置かれて然るべき楽器です。それを自在に操り、世間にその威光を示すのがウロボロスの円環の最後の使徒たるタンバリニストとしての使命ではないのですか…一輪や…ユービロンビローン…さよなら言えなっくてー」
寅丸は遂には浮き上がり、TMNのBGMをバックに結跏趺坐のかたちで説法…いや洗脳を始める。ちょっと強めに出ればすぐ黙ってしまう寅丸が、ここまで攻勢に出るのは大変珍しいことであった。
しかし思えば、彼女は代理とは言え毘沙門天である。
毘沙門天と言えば、この幻想郷では馴染みが薄いものの、七福神の一柱にも数えられ、同じ七福神である弁財天を肩を並べることもあるだろう。
代理である寅丸がそういった経験をすることは無いものの、知識としては当然の如く持っている。
そして弁財天といえば芸能の神としても知られ、琵琶リストであることも広く知られている。ともすれば子供の様に純真な寅丸が、響子達のライブを契機として、己が知識の内にある弁財天への憧れを抱くのも無理はない。
「キャーイチリンサンカッコイーー! ナイスタンバリーン! そんな黄色い歓声が、あの有名聖職者のB・Hさんから発せられるかもしれないんですよ…」
「あのBHさんが…!?」
先端に紐をくくり付けた宝塔をゆらゆらさせつつ、寅丸の洗脳は続いていた。そして一輪も、それに抗おうとは最早していない。
寅丸は袖からタンバリンを取り出すと、それをそっと一輪に握らせ、更に目を輝かせる。
「さぁいいですか、ここは高崎のカラオケボックスですよ一輪…今貴女はレディース仲間の皆さんとカラオケに来ているのです…おっと一曲目は…丹波哲郎さんの『元気健康一等賞』ですよ! タンバリンだけに。OK?」
「はい…雲居一輪、場を盛り上げます…」
もはや毘沙門天というよりは胡散臭い詐欺師と化した、寅丸の双眸がダメ押しとばかりにかっと輝くと、一輪はゆっくりとスタンスを取り、そしてタンバリンを構えた。
ヘイ! ヘイ! シャンシャンシャンシャン!
「!?」
白蓮との勉強を終えた古明地こいしが、部屋に入ろうとして留まったのは、そんな音と声が聴こえてきたからである。
それがタンバリンの音色と、多少荒っぽいが面倒見の良い雲居一輪、そして寅丸星の声であると認識してもなお、こいしの足は止まったままであった。
「…何してんの…?」
キャーッ! イチリーン! ナイスタンバー! キテル! イチ×タンキテルーッ!
シャンシャンシャンシャン!
「何してんの!?」
放っておくという選択も出来た彼女であったが、一応はこの寺に世話になっている身でもある。明らかな異常事態とあれば、スルーする訳にもいくまいと襖を開けた。
「あ、こいしちゃん! 丁度いいところに! 見て下さい、一輪のタンバライザー」
「タンバラ…タンバライザーって何…ダブルオーライザーの親戚?」
「さすがですね沙慈・閉じた恋の瞳ロード…大体あってます。イェイ。この一輪とタンバリンの融合っぷり、どう見てもタンバマイスターの所作ですよ」
虚ろな目でタンバリンを叩く一輪を見れば、それが正常な状態ではない、というのは明らかであった。
しかし何をどうするにせよ、この寅丸星という存在が、同じ寺の仲間を害するということは、まずあり得ないことだ。ここに関わるようになってまだ日は浅かったが、それくらいの事はこいしにも判った。
「…ナイスタンバ…?」
「イエスタンバ! そうでしょうとも! ああ、これはつまりですね」
◇
「…バンド」
「イエス。そういう訳なのでこいしちゃん、貴女何か楽器できますか?」
「…私も頭数に入ってるんだ!?」
「フフフ…いいじゃないですか、こいしちゃん可愛いし、きっと人気出ると思うんですよね…儚げな美少女に罵倒されたいって層は必ずおりますので」
「罵倒!?」
手をわきわきと動かしながら、寅丸が怪しい笑みを浮かべる。一輪の懐柔の成功(?)に気を良くしたのか、答えるまでは帰さない…そんな勢いでもあった。
こいしは幾らか逡巡したのち、袖口からやや大きな…フランスパンくらいのものを取り出してみせた。
「…それは」
「…ギロ」
「ギロ」
「こういうやつ」
そう言うとこいしはそのフランスパンを構え、木の棒でギザギザの表面を擦った。
「ア、アアアーッ! そのギコギコ音! それがそれから出る音だったんですね!?」
「うん」
「凄いですこいしちゃん! 言うなればギロリスト…いやギロリアンですよ!」
「…ギロリアン…! いいそれ…それイイそれ…」
「そうでしょうとも! 1.21ジゴワットの電流で過去とか未来に行けちゃうアレみたいでかっこいいでしょう!?」
こいしは何故かほっこりした表情で笑い、寅丸もギャキィ、と親指を立てつつ満足げに頷いた。
もはやこの流れは必然であり、容易に止まるものではない…そう思える。
それでは結成から僅か数十分で、三人に膨れ上がった寅丸バンド(仮)…が、その後どのようにしてメンバーを増やしていったかを、ダイジェストでお送りしよう。
村紗水蜜(Wad.)
「あの時のあいつは、今までにないくらいロックだった。托鉢、説法、ロックンロールとはまさにあいつの事を現していたね。そんなあいつの熱に当てられゃあ、和太鼓の経験がある私が参加しないなんてな、それはハードなクエスチョンだろう?」
二ツ岩マミゾウ(Harad.)
「楽器が出来るか、と聞かれた時は何だコイツと思ったね。狸ナメんなこの野郎ってさ(笑い) だってそうだろう? 腹太鼓の出来ない狸なんてな、コーヒーの入ってないクリープみたいなもんだからね。ちなみにコーンフレーク食べようとしたら牛乳が無くて、クリープを水に溶いて掛けて食った男を知っているんだけど、そいつは…(以下略」
封獣ぬえ(Unknown.)
「ああこれ? これはf3顧イ?#b8縣ヌ(聞き取れず)と言ってね、中央アフリカの7?L矧擁ヌ%??エ(聞き取れず)っていう国に伝わる伝統的な打楽器で…近年まで奏法も音階も正体不明だったっていう曰くつきの楽器でね…まあ私、これくらいしか演奏(や)れないからさ…」
ナズーリン(Metro.)
「まぁた馬鹿なことを言い出したな…そう思ったけど、私は一応、ご主人の部下だからね…協力してくれと言われればしない訳にもいかないだろう? ああでも楽器は出来ないので、このペンデュラムをメトロノームの代わりにして端っこに立っているよ」
出来た。
出来上がった。
これ以上無いくらいに出来上がった。
寅丸をリーダーとしたメンツは、白蓮に見つからぬよう、地下の即身仏体験コーナーへと集合していた。
「フフ…我ながら恐ろしいものです、この…何です…オーガ…オーガ…」
「オーガナイザーと言いたいのか」
「地上最強の生物のことかと思ったわ…まぁよい、してリーダーよ。いろいろと情報を整理せねばならんじゃろうが」
狭い空間に七名も集合すれば、密度は高まり、温度も上昇する。
マミゾウは上着を脱ぎ、同じように下着姿になった寅丸をそう言って促した。
「そうですね…まず、バンド名ですか」
「そうだね、何にでも名前はあるからね」
「ではお手元のフリップにそれぞれ書いて頂いて…挙手して発表してもらいましょう」
「バラエティめいてきた!」
「暑い…村紗お姉ちゃん、霧とか出せないの?」
「無理」
皆が黙り込み、フリップと向き合っているところ、最初に挙手したのはぬえであった。
「はいぬえさん!」
「えーとね…うちらほら、寺じゃん? 寺ってのとこう…近未来的なものを組み合わせた全く新しいバンド名をですね」
「ふむふむ…まさか寺フォーマーズとか言うんじゃなかろうなハハハ」
「それだと火星ゴキブリと戦う羽目になるよマミおばあちゃん…」
そんなマミゾウとこいしの会話を受けたぬえの顔面が、途端に青白くなる。更には無言でフリップをしまう村紗。
「あっ…」
「いや、ハハハ…いいんスよ、誰でも思いつくもんだし? たまたま昨日読んだだけで本気じゃないし? 本気出せばもっと凄いの考え付くし?」
「す、すまぬ…」
「(謝った…)」
微妙な空気が場を支配したが、それくらいでへこたれる寅丸バンドのメンバーではない。次に手を上げたのはマミゾウであった。
「奴らに対抗するべく結成されたバンドじゃろ? ならば奴らを凌駕する! 的な思いを込めるのが筋というもの…というわけでこれじゃい!」
熱のこもった前説が済み、そしてコトリと置かれたフリップには、流麗な文字で『超獣TERA』と書かれていた。
それを皆が、響子とミスティアのバンドである、鳥獣伎楽をもじったものである…と理解するのに、そう時間はかからなかった。
オシャレかつハイセンス! ヤッターカッコイイー! そんな声も飛び交う。あまりの暑さに投げやりになったわけではない。決して無い。
「あつい…伎楽とギガをかけて、その更に上の位のテラ…それにも寺がかかっているのですね!?」
「ウィーマドモワゼル…あと何となくウルトラマンAっぽいじゃろ?」
「さすがおばあちゃん、古いね。あと暑い」
いくら露見せぬ為とは言え、四畳半ほどの空間に七名が集まるのはきついと見え、特に対案が出るまでもなくバンド名は決定した。
「あとは?」
「あとはー…そうですねえ」
その時である。
ポクポクポク…と、寺にいる者にとって、とても馴染み深い音色が不意に聞こえてきた。
それは最初は遠くかすかであったが、ゆっくりと確実にこの地下室へと近づいてきている。
「木魚…!?」
「ここは寺じゃもの、木魚の音くらいしようもんじゃ。ええい暑い、離れんか一輪」
「はい…雲居一輪離れます…」
「いや、おかしいぞ皆…ここには聖と響子以外、全員いるだろう…」
ナズーリンの言葉に、場の気温が明らかに下がった。
この寺で木魚を叩くのは、一輪と寅丸、そして白蓮くらいものであるが、その内の二名はこの地下室にいるのだ。
では誰が…という疑問を抱くまでもなく、全員の脳裏に彼女のビジョンが浮かんだ。
「…で、出たほうが良さそうじゃないか?」
扉の側にいた村紗がそう言って立ち上がり、取っ手に手をかける。
しかし村紗は何か、強大な何かに行動を制限されたように、微動だにしなくなってしまう。
「…村紗?」
「…見てる」
「見てる…って…何が…」
ギギギと首を軋ませ、村紗が皆の方を向く。開いた空間の先には、僅かに開いた扉の隙間が見え、そしてそこには…
何か、得体の知れぬ何か…そこにいる誰もが、上手く言い表すことの出来ぬ雰囲気を纏った、何者かの目が輝いていた。
蛇に睨まれた蛙、という表現がしっくり来すぎる程に、誰も動かない。いや、動けないのだ。
「…びゃ、白蓮…こ、これはですね、その…」
やっとの思いで声を絞り出し、寅丸が弁明を始めた。だがその目は暗い光を湛えたまま、じっと皆を見つめたままである。
「や、やましい考えでやるのではなく…そのえっと…」
「…木魚」
「は…? は?」
「…木魚が演奏(や)れる」
抑揚の無い声がし、ついで聴こえてくる木魚の音に、寅丸たちは自分がもう死んでいて、来週もキリコと付き合って貰うことになるあの場所にいるのではという妄念に駆られ始めていた。
寅丸は混乱しつつも村紗を座らせ、扉の隙間から覗く目に対して語りかけた。
「あ、あの、白蓮…?」
「ノー。白蓮ノー。奴さん、以前この部屋に閉じ込めていたSCP-173と戦って死んだよ。私の名前は木魚マスク…いや…マスクド木魚といったところかな…貴方達の全く知らないただの木魚使いさ」
「(何その設定…!?)」
「(しかし話は合わせておいたほうが得策じゃないか、ご主人)」
「(ナズーリン…! なんという冷静で的確な判断力なんだ!)」
どこが、と言われればそれまでだが、昨日までキン肉マンを読んでいたぬえと村紗は感心することしきりである。
寅丸は頷き、ドアを開いて白蓮…いやマスクド木魚に入るよう促した。
どこにどう仕込まれているのかは判らないが、マスクド木魚が歩く度に、ポク、ポクという木魚の音が響く。
「フフ…よかったのかホイホイ招きいれちまって…私は敬虔なキリシタンやムスリムだって木魚使いにしてしまう人間なんだぜ」
「アッハイ そ、それでその…私どもの超獣TERAに参加して頂けるということでよろしいのですね?」
マスクド木魚は顎の辺りをモシャリと撫で、その後に頷いた。被った紙袋から覗く目はその峻厳さを和らげてはいるが、油断は出来ない。
寅丸が壁のスイッチを押すと、冷たい空気がそこかしこから吹き始め、更に天井のヒモを引けば、サーキュレーターがガコンと現れる。
「そんなんあったの!?」
「ええまあ…ここマンガとか読むのに最適でして…」
「なるほど…うわ、このジャンプ、モートゥルコマンドーガイ載ってるじゃん! ヒャアがまんできねえ!」
賢明なる読者諸兄ならばおわかりになるだろうが、掃除や整頓などをしている最中に、いつ買ったのかすら定かでない漫画や雑誌が出てこようものなら、人はそれをめくらずにはいられないのだ。
その理屈の結界にとらわれ、超獣TERAの面々は小一時間ほど無駄な時間を過ごすことに成功した。
「ってそうじゃなくてだな」
ナズーリンは読んでいたSPAを放り出し、立ち上がって手を叩いた。
月刊MOKUGYOなる謎の雑誌を静かに置いて、マスクド木魚も頷く。
「…えっと」
「いや、漫画喫茶もそれはそれでいいがね、一応はバンドとして成立したんだ。ライブやら作詞作曲やらしてみるのが道理というものじゃあ、ないかね?」
一輪というツッコミ役が寅丸の傀儡と化している今、まともに場を仕切れるのはナズーリンしかいなかった。
臆病者だが結構傲慢でもある彼女がそれに気づけば、たちまち態度に出る。
「…不思議そうな顔をするな! ご主人! 今後の動向を決めてくれ」
「えっと…んじゃライブでもやりますか。Zepp Gensokyoあたりで」
「よかろう。じゃあまずはそこに行ってみるとしようか…」
「さんせーい」
追い出された。
「バカな…」
「まあまともに考えればそうじゃよね、結成2時間で武道館ライブ的な無謀さじゃろこれって」
「判ってたなら止めろよ! めっちゃ怒られただろうが! ナズーリンさん怒られるのめっちゃ嫌いだかんな!」
「いやあメンゴメンゴ、星の財力でどうにかできっかなーと思ってた。ならんかった」
ぺろりと舌を出して謝るマミゾウの尻を蹴り、ナズーリンは改めて一同を見回した。
志は立派であったが、地下室でのプレミア漫画祭りが災いした。よく判らない打楽器のみで構成されたバンド活動より、あそこで漫画を読みふけっていた方がいい…そんな空気すら感じられる。
だがさすがにそれはまずいと悟ったのか、寅丸は咳払いを一つし、皆を見回す。
「えーでは、本職の人たちのとこを尋ねて、今後の指針についてアドバイスを貰いましょう」
「本職…響子のこと?」
「いえ、いるでしょう…プリティーリズム三姉妹でしたっけ?」
「ああ、私知ってる。幽霊コミュで何度かオフしたからね」
その言葉を受けた一行は、善は急げとばかりに飛び上がり、村紗の先導で空を駆けた。
ついでに言うとこいしはとっくの昔に飽きて寺へ帰っている。
着いた。尺にも優しい。
「ここがプリズンブレイク三姉妹の住処けぇ…なんともチンケな家(とこ)だのう!」
「いやいや…大豪邸じゃん…さすがに幻想郷のミュージックシーンを席巻し続けるだけのことはあるよ」
「では村紗、知り合いということで一つお願いしますね。さっきみたく追い出されたくないので賄賂を使うのもアリですよ」
「大丈夫だって…」
金、のハンドサインを示したナマモノ系本尊をわき目に、村紗は一歩進み出ると、呼び鈴を押してしばし待つ。
すると綺麗なメロディと共に門が開き、どこからともなく聴こえてくるのは「どうぞ~♪」といった風情のコーラスであった。
「キモイ!」
「無駄に凝った無駄な設備投資しとるのう…ひょっとしてトイレには音姫が…?」
「あり得る…」
無駄についての無駄話をしつつ、一行は門をくぐり邸宅のドアを開けた。
「…お話は判りました。私たちもプロの端くれ…少なからずアドバイスできることはあるかもしれません」
そう微笑み、ルナサ・プリズムリバーは言った。
しかし他の二人…メルランとリリカはあまり面白くないようで、その様子があからさまに見て取れる。
「ちょっと、二人とも…折角来てくれたのに、その態度は…」
「そうは言うがよ姉貴! こいつら結成してまだ半日も経ってないって言うじゃないか! あたしがセガールだったら即座に手首をへし折ってところだぜ」
「じゃあ私はチャック・ノリスかな」
「ハァ!? チャック!? リリカさぁん!? お前如きモヤシがチャック・ノリス!? 冗談じゃあない、SCP-173の前で瞬きしても平気なのはチャックとセガールくらいなもんだぜ、それを…」
「んだとテメーッ! 最初にセガールめいて手首キメるとかビッグマウス叩いたのは誰だってんだよォ!?」
「はいはい、チャックでもノリスでもいいから! ごめんなさいね、妹達が…」
人数分の紅茶を置きつつ、ルナサが詫びる。寅丸はニコニコと笑いながら首を振り、紅茶をゴズズと啜ったのち口を開いた。
「いえ気にしないで下さい、本当のことですし…でもチャック・ノリスやセガール自称しちゃう辺りは超ゴーマンですよね、やっぱバンドマンってそうでないと…ええとほら、言うでしょう、何でしたっけ、ックス…ックス…チャージアックス、メタルスラッグ、ロックンロール」
「あ、帰ったらゴアマガラ手伝ってー」
「一つしかあってねえよ! 大体それ褒めてねえからな!? 姉貴、ダメだこいつら! 出てってもらおう!」
「まぁまぁ…それで、ええと…早速ですけど、演奏して頂きましょうか。音楽を聴かないことにはアドバイスもなにもありませんし」
荒ぶる妹たちを抑えつつ、ルナサが言う。寅丸以下、他のメンツも異論は無い様で、各々が得意の得物を取り出しては構えた。
「お前ら何で3DS取り出してんの? 人ん家をリアル集会所にするつもりなの?」
「すいません間違えました」
各々は3DSを仕舞いこみ、改めて楽器を取り出す。根拠の無い自信が溢れ出てはドヤ顔に還元される様を見て、メルランは眉をひそめたが、それでも専門家の慧眼は鋭い。
「ふうむ…ええと…タンバリン…それに和太鼓…なるほど。ってお前何、腹出してどうするの? お腹痛いの?」
「主は狸について知らぬと見える。古来より狸と言えば腹太鼓もしくはきんた」
「狸くらい知ってるよクルルァ! 大体お前女じゃねえか! ええい、まぁいい、んで…メトロノームと…えっと…ごめん、何その…なに? 白奇居子(シロガウナ)みたいなの」
「いいよねABARA…ってそうじゃなくて、これは古代アフリカに伝わる伝統的な打楽器の一つで…その音域はおよそ人間の可聴領域を遥かに…」
「わかったわかったもういいよ。んで? そっちの紙袋は木魚か…ってウォイ! 全員打楽器かよ!」
その言葉に一同は顔を見合わせ、しばしのアイコンタクトの後に頷いた。
「言われてみればそうである」
「気づけよ! 打楽器オンリーでどうすんだよ!」
「例え楽器が無くとも、音楽をしたいっていう心が肝心だと思う」
「イイ事言った風な口利いてんじゃねえぞこのスコタコ! よーし、よし判った。んじゃあ演(や)ってみろよ、そこまで言うからには相当な自信があるんだろうからな」
下手な演奏をすれば、それこそここから蹴り出されかねない。怒りに震えるメルランと、とっくに飽きてモンハンを始めるリリカと、一応は見守るルナサを前に、超獣TERAの面々は意を決した。
見せてやろうぜ、私たちの音楽魂(スピリッツ)を…!
「えーでは聴いて下さい。般若心経・多重打楽器リミックス」
ポク…ポク…ポクポクポクポク
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。
シャンシャンシャンシャン
受・想・行・識亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖、遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。
ドンガドンガドンガドンガ
故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。
最後のフレーズを待たずして、プリズムリバー三姉妹は霧の如く散っていっているのであるが、陶酔しトランスした一同がそれに気づくはずもない。
神々しい何かが多分に含まれた歌声は更に音量を増して、場を埋め尽くしていく。
「あ…なんか…キモチええ…」
「うん…なんだろこれ…このアッパーなカンジ…アクエリオンみたいな」
「くっ…認めざるを得ないか…こいつらの熱いスピリッツを…大した新人共だぜ…」
寅丸はシュワシュワと薄くなっていく三姉妹を見ては頷き、マイク代わりの宝塔へ力を込める。
聴いて下さい、私の…私たちのロックンロール…
即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経───!
ゴバッ、と何かがはじける音に、一同は我に返った。
寺ならば馴染み深い、何の変哲も無い経であるが、やはり心を合わせて紡ぐのはいいものだ。
やり遂げた…そんな感慨もひとしおに、寅丸はステージから降りた。
「どうでしょうか…ってウワァアアアア!?」
「どうしたんじゃ素っ頓狂な叫び声を上げ…て…」
「いやいやいや、あれだ、三姉妹がボスヤスフォートに瞬殺されたリィ・エックス・アトワイトみたいになってる!」
「L.E.D.ミラージュの完成が遅れる! アア、今はツァラトゥストラ・アプター・ブリンガーだっけ?」
「永野仕事した結果がこれだよ…」
てんやわんやの騒ぎであるが、流石に死人が出るのはまずいと感じた一同は頷き、顔を寄せ合って相談を始めた。
「どうする? このままだと成仏しちゃうんじゃない?」
「それはさすがに問題がありますよ…僧侶が殺生だなんてにょはんぼ…じゃない、破戒僧もいいところですよ」
「ふっかつのじゅもんを唱えればいいと思う」
どうでもいい、といった風情のナズーリンが言うと、一同は目を輝かせて彼女を見た。
なんという冷静で的確な判断力なんだ…!
「いや、それはもういいから…で、般若心経でクリティカルなわけだから、その逆を行けばいいのだろ?」
何処から取り出したのか、牧師の格好をしたナズーリンが言う。その言葉に寅丸はふむ、と頷き、しばしの後に口を開いた。
「つまり、般若心経の逆再生ですか?」
「いやだよ! 何か変なメッセージとか再生されちゃったらどうすんのさ!」
「その時は改めて再生して悪霊退散すればいいじゃろ」
「それだとまたプリングルス三姉妹がしぬ」
「いや、発想の転換として…つまり般若心経の逆…要するに念仏とか有難いお経の逆というスタンスなら、デスメタルがいいのでは?」
一同が『それだ!』と目を輝かせるのを見て、寅丸は満足げに頷く。そして懐から宝塔を取り出し、コトリとテーブルに置いた。
「ええと…」
「最近知ったのですが、これ電灯と重力子放射線射出装置としての使い途以外に、色々あるみたいで」
「ほう…例えば」
「プラネタリウム」
パァー、と光が溢れ、ライブのために照明を落としていた室内に星空が浮かび上がった。
まさに神秘のテクノロジー、フォーザビューテフォー仏教ライフである。
「すごい! 他には?」
「キッチンタイマー」
「ラーメン延びない! 他には!?」
「貯金箱」
「いつの間にか30万円溜まってるっていうあれじゃな! 他には!?」
観光地によくある卓上おみくじ、シャチハタ、知的玩具、ボールペンなど枚挙していけば暇が無いが、寅丸はこほんと咳払いを一つして、側にあったケーブルと宝塔を繋いだ。
その先にはアンプがある。
「多機能音楽プレイヤー」
「ヤッターカッコイイー!」
もはやどういったテンションなのかも判らないが、とりあえずプリズムリバー三姉妹を復活させるという目的は忘れていないようで、寅丸は宝塔を操作して再びテーブルへと置いた。
少しして、アンプから耳をつんざくような轟音と、おどろおどろしい男の声が再生される。
「これは…?」
「さぁ、知りません…適当に受信してますので…」
「違法ダウンロードかよ!」
「いえいえ、これで彼女らが助かるのであれば、それは善行だと思いませんか…あ、一輪、タンバリンはいりませんよ」
「はい…雲居一輪タンバリンやめます…」
次々と変わる演目に、始めは耳を塞いで、あるいは棒立ちしていた面々も、次第にノリノリになっていく。
そして、奇跡が起きた。
「ふいー、死ぬかと思ったよ…でも何だ、心地よいBGMが…私たちを呼んでいて…」
「デスメタルだな、幽霊との親和性はバツグンだぜ…」
「ええ…身体中にちからみなぎる、わたしがあいてだ!」
イェエエエエエ!
熱狂的なオーディエンスと化した命蓮寺の面々を前に、プリズムリバー三姉妹は目を丸くしていたが、やがて己に課せられたサダメを理解したのか、各々が楽器を取り出し、轟く爆音に合わせて演奏を始める。
鳴り響く三種のメロディは大きなうねりとなり、場を取り込んでいく。
「へへっ…やっぱ私達って、悔しいけど音楽が好きなんだよね…」
「自分達を吹き飛ばした連中相手に演奏(や)るだなんてサ、これってロックじゃん」
「そうね…さぁまずは一曲目! 聴いて下さい!」
その後熱狂しすぎて暴徒と化した命蓮寺の面々は追い出されました。
「…やっぱ本職にはかなわないね!」
「うむ、音楽家には音楽家の、僧侶には僧侶の領分があるということじゃな…わかったらもう帰ろう」
「そうですね…超獣TERAはこの場で解散ということで…」
すっかり暮れた晩冬の空を見上げ、一同は満足げに頷きあった。
結局漫画読んで殺人未遂をしただけという事実には誰も触れなかったが、それもまたロックなのであろう。きっと。たぶん。
◇
「…というお話を元に作詞作曲したのがこの曲です…では聴いて下さい! 『バンド・オブ・ブッティスツ』!」
ワァアアアアアアア!
歓声は夜空に吸い込まれ、そして響子のシャウトもまた、轟いては消えてゆく──
ひじりんとぬえちゃんの扱いが大好きです
メッチャキュートね!
作者の頭はビョーキだな。だけど読んでた自分の頭の回路もどこかおかしい
>昨日までキン肉マンを読んでいたぬえと村紗は感心することしきりである。寅丸は頷き
この一文読んだら頭の中で頷いてたのが、寅丸(星ちゃん)じゃなくて虎丸 (龍次)が頷いてたんだ・・・・・・しょうがないだろ しょうがないじゃないかッ キン肉マンと男塾をが同じ紙面に載ってたころを読んでた人間だぞ俺
うん ロックとはそうゆうものだ。
とりあえず、ミスティアの湯飲みをこっちに寄越せええええええええええええぇ!
洗脳された一輪の終始ローなテンションがツボったw
鳥獣、メガの上位、寺、ウルトラマンエースとこの単語だけでいくつネタ突っ込んでんだw
ながいけんじゃねえんだぞw