フランの手が私の顔を撫でる。鼻、頬、唇、額。
あちらこちらに触れてくる、細くて冷たい指がこそばゆい。
彼女の指が瞼に触れたところで声をかける。
「あっ、目は止めてね。痛いから」
「えっ…………うん、分かった……!」
フランが必要以上に元気よく答える。その反応に、少しだけ体が震える。
時々、彼女のことを怖く感じることがある。
フランドール・スカーレットは、人の痛みがよく分かっていない。
495年間もの歳月を地下に幽閉されていた彼女は、姉以外の人物とほとんど接していなかったという。
だから、こんな風に触れ合っているときに思わず力が入りすぎて、相手が痛い思いをしてしまうことがある。
まぁ、わたしならば滅多なことでは壊れないから、実験台にはちょうどいいのかもしれないけど。
「ルーミア」
「ん?」
フランが私の名前を呼ぶ。満足したのか、もう手はわたしの顔から離れている。
「やっぱり、わたし達って似てるの?」
「触っただけじゃ分からなかった?」
「うん。正直、自分の顔形なんて未だによく分からないし。普段から鏡を見る生活を心がければ良かったわ」
「いやいや、吸血鬼は鏡に映らない、っていうから、触って確かめようとしたんでしょうが」
おっと、そうだね。と、フランはクスクス笑う。
わたしとフランは似ている。
金色の髪。白い肌。そして紅い瞳。
かたや、野に生きる宵闇妖怪。
かたや、高貴な血筋の吸血鬼。
力も立場も何もかも違うのに、わたし達はこんなにも似ている。
「ねぇ、具体的にはどの辺りが似ているの?」
フランの顔が近付く。濃い血の匂いを感じて、人食い妖怪としての本性と、別の何かが疼きそうになる。
「え、えーとねー……」
わたしとフランは似ている。
けれども、何から何まで瓜二つというわけではない。
わたしの髪は彼女みたいに綺麗にカールしていないし、彼女の人形のような肌に比べれば、わたしなんて大根みたいな物だ。
答えに窮していると、フランが不安げに首を傾げる。
「例えばさ、目とかどうなのかな?」
「目? うーん、そこはあんまり似てないかな。フランのほうがもっと綺麗な紅色だよ」
わたしがそう言うと、フランはパッと顔を輝かせる。
「そう!! この目はね、お姉様が、自分と似ている唯一の部分だって教えてくれたところなの。へぇ~、そうなんだぁ……」
精いっぱいの親しみを込めて、フランは姉の名を呼ぶ。
彼女の姉、レミリアのことはよく知らないけど、きっとそうなんだろうなと思う。
だって、そこが彼女の中で一番恐ろしい部分だから。
何となしに、フランの頬に手を伸ばす。
「どうかした?」
「ううん、何でもないの。ただ、フランは綺麗だなーと思って」
「えー何それ」
わたしの瞳はほおずきみたいだと言われる。
暗闇にぼうっ、と浮かんでは人々を恐怖させる、赤い果実だ。
だが、それが何だと言う。
吸血鬼の瞳は真紅だ。何の混じり気もない純粋な紅がわたしを見つめてくる。
赤よりも紅くて、この美しい少女との儚い夢を見せてくれる、素敵で蠱惑的な瞳。
そんなわたしを魅了する、恐ろしい宝石を前にして、人肉の味がするだけの果実に何の意味があるというのか。
「でも、わたしはルーミアの目好きだよ」
不意に彼女が口を開く。
目と目が合い、真紅の中にわたしが見える。
「あったかくて、優しい気がする」
彼女はわたしから目を逸らさない。
彼女の瞳の中のわたしは、目を丸くして、言葉を探している。
「……そーなのかー」
結局言葉は見つからなかった。
すると、彼女は楽しそうにクスクスと笑う。
「そーなのよ?」
その笑い声に、わたしの心は蕩けていった。
あちらこちらに触れてくる、細くて冷たい指がこそばゆい。
彼女の指が瞼に触れたところで声をかける。
「あっ、目は止めてね。痛いから」
「えっ…………うん、分かった……!」
フランが必要以上に元気よく答える。その反応に、少しだけ体が震える。
時々、彼女のことを怖く感じることがある。
フランドール・スカーレットは、人の痛みがよく分かっていない。
495年間もの歳月を地下に幽閉されていた彼女は、姉以外の人物とほとんど接していなかったという。
だから、こんな風に触れ合っているときに思わず力が入りすぎて、相手が痛い思いをしてしまうことがある。
まぁ、わたしならば滅多なことでは壊れないから、実験台にはちょうどいいのかもしれないけど。
「ルーミア」
「ん?」
フランが私の名前を呼ぶ。満足したのか、もう手はわたしの顔から離れている。
「やっぱり、わたし達って似てるの?」
「触っただけじゃ分からなかった?」
「うん。正直、自分の顔形なんて未だによく分からないし。普段から鏡を見る生活を心がければ良かったわ」
「いやいや、吸血鬼は鏡に映らない、っていうから、触って確かめようとしたんでしょうが」
おっと、そうだね。と、フランはクスクス笑う。
わたしとフランは似ている。
金色の髪。白い肌。そして紅い瞳。
かたや、野に生きる宵闇妖怪。
かたや、高貴な血筋の吸血鬼。
力も立場も何もかも違うのに、わたし達はこんなにも似ている。
「ねぇ、具体的にはどの辺りが似ているの?」
フランの顔が近付く。濃い血の匂いを感じて、人食い妖怪としての本性と、別の何かが疼きそうになる。
「え、えーとねー……」
わたしとフランは似ている。
けれども、何から何まで瓜二つというわけではない。
わたしの髪は彼女みたいに綺麗にカールしていないし、彼女の人形のような肌に比べれば、わたしなんて大根みたいな物だ。
答えに窮していると、フランが不安げに首を傾げる。
「例えばさ、目とかどうなのかな?」
「目? うーん、そこはあんまり似てないかな。フランのほうがもっと綺麗な紅色だよ」
わたしがそう言うと、フランはパッと顔を輝かせる。
「そう!! この目はね、お姉様が、自分と似ている唯一の部分だって教えてくれたところなの。へぇ~、そうなんだぁ……」
精いっぱいの親しみを込めて、フランは姉の名を呼ぶ。
彼女の姉、レミリアのことはよく知らないけど、きっとそうなんだろうなと思う。
だって、そこが彼女の中で一番恐ろしい部分だから。
何となしに、フランの頬に手を伸ばす。
「どうかした?」
「ううん、何でもないの。ただ、フランは綺麗だなーと思って」
「えー何それ」
わたしの瞳はほおずきみたいだと言われる。
暗闇にぼうっ、と浮かんでは人々を恐怖させる、赤い果実だ。
だが、それが何だと言う。
吸血鬼の瞳は真紅だ。何の混じり気もない純粋な紅がわたしを見つめてくる。
赤よりも紅くて、この美しい少女との儚い夢を見せてくれる、素敵で蠱惑的な瞳。
そんなわたしを魅了する、恐ろしい宝石を前にして、人肉の味がするだけの果実に何の意味があるというのか。
「でも、わたしはルーミアの目好きだよ」
不意に彼女が口を開く。
目と目が合い、真紅の中にわたしが見える。
「あったかくて、優しい気がする」
彼女はわたしから目を逸らさない。
彼女の瞳の中のわたしは、目を丸くして、言葉を探している。
「……そーなのかー」
結局言葉は見つからなかった。
すると、彼女は楽しそうにクスクスと笑う。
「そーなのよ?」
その笑い声に、わたしの心は蕩けていった。