コイン一個じゃ人命は買えないらしい。
右手でコインをもてあそんでいたら、ずっと昔に魔理沙が言っていたのを思い出した。
そんなの嘘だぁ、と私は思わず笑ってしまった。
だって私はコイン一個で買われたんだ。愛しい愛しいお姉様にさ。
くるくるぱしん
裏。
ふと昔のことを考える。
その昔私は一人の男と暮らしてた。顔も名前も覚えてないが最低な奴だったのだけ覚えている。
私はその当時、今とは違って無口で無表情なお人形さんだった。みんながみんなそのことを望んでいたから。
早い話、私は見世物にされていた。虹色の翼がそんなに珍しいかい、はいはい。みたいな。
そんな時お姉様が現れたのだ。わーお、ベタ。
でもそんな、ベタな登場だったのに、私の脳裏にはその時のことがきっちりと、あますことなく焼き付けられている。
あの時のお姉様は、本当にカッコよくって、カリスマに満ち溢れていたんだ。
『その子、買ったわ』
『いくら出す?』
『コイン一個』
ああ、あの時のお姉様は本当にカッコよかった。お姉様がばさりと開いた翼に、あの男は本気でビビっていた。ザマミロってんだ。
まあそんなこんなで、私はお姉様にコイン一個で買われまして。
ほら、なにこれ。魔理沙との台詞に絶対的な矛盾が生じていて。
そっか、お姉様に聞いてくればいいんだ。
「ねえお姉様お姉様」
「なによフラン」
「好き。大好き。愛してる。壊しちゃいたいくらい」
「やっすい言葉ね」
「マジすか」
軽くジャブを打ったらカウンターで返された。そんでもっておすまし顔で本に目を落とされた。
これはちょっとひどいと思う。私は嘘なんてちっともついていないというのに。姉妹の愛の再確認必須!
いや。
いやいや。そんなことを私は言いに来たんじゃなかった。
「お姉様お姉様ー。お姉様はどうして私をコイン一個なんて貧乏丸出しなはした金で私を買ったのー?」
「フランは反抗期全開なのかしら?」
おおっと、うっかり。
「とにかくなんでなんでー」
「フランのことが大好きだからよ。愛してるからよ。殺しちゃいたいくらいに」
「やっすい言葉ー」
「お代は取らないでおいてあげるわ」
そう言ってまたお姉様は本に目をを落としてしまった。こちらのことなんて気にもかけていないふうに思える。
それを思うとどうしようもなく本が妬ましく思えてきて、気づけば右手を握りしめていた。
ぱぁん、という音がして紙吹雪が散る。きれーい、なんて感心してたらお姉様にジト目でにらまれた。
「ちょっと、そこの反抗期ちゃん」
「そっちが悪いんだからね。私の話も少しは聞いてよ」
「ごめんね、フラン。好き、大好き、愛してる、殺しちゃいたいくらいに」
「なにさいきなり」
「ご機嫌取りだけれど、なにか?」
相もかわらずひどい姉だこと。
こんな姉のことを愛しいと思っている自分がほんの少し情けなく思えた。
「というかさっき答えたじゃない」
「私を愛してるんならもっといい値で買ってよ」
「お金は愛じゃ買えないのよ」
「お姉様それ痛恨のミス」
逆じゃん。
「でもさあ、魔理沙がコイン一個じゃ普通こうもかないもんだって言ってた」
「私たちは人間じゃないでしょう?」
「そりゃあ確かに吸血鬼だけど」
「だってろくでなしだもの私たち」
あ。と思った。うっかりお姉様の目に見入ってしまう。
お姉様は時々こういう目をする。
真っ赤な、真っ赤な眼が何色かわからなくなってしまうような、そんな不思議な眼をする。それはきっとその目にいろいろなものを閉じ込めているからだと私は考える。
きっとお姉様はその言葉を紡ぎながら、悲しい、だとか、嫌だ、だとか思わない。私だって『ろくでなし』なんて言葉に何か思うほど純粋じゃない。
でもお姉様は、多分それ以外のなにかを思っている。悲しいとも嫌だとも思わなくても、それ以外に何か思っている。きっとそのはずだ。
けれど私にはそれがなにか分からない。
「お姉様ってば、辛辣ぅ」
心の中の疑問をごまかそうと、わざとふざけて言葉を紡ぐ。
「正直者なのよ」
ツン、とすました様子のお姉様はなんだかとっても美しくって、孤高の存在とでもいった感じだった。
ひとりぼっちだったのは私もお姉様もおんなじだけど、ベクトルが全く違った。私はいろんな人を引きずりこんで寂しさをごまかしているけど、お姉様まで手が届く人間なんて、いやしないのだ。
あ。
もしかして。
「お姉様、さびしい?」
「っはぁ?」
勢いよく怒鳴られた。
つい、とお姉様は私から顔をそらしてしまう。けれどそのほほはほんの少し紅いような気がして。
ああ本当にお姉様はかわいいなあ。愛しいなあ。
「お姉様の寂しがりやー」
「…………」
「地べたをはいずりまわって一緒に生きようよ」
「…………」
お姉様は何も答えない。
そりゃそうだ、ここで答えるようなのは、お姉様なんかじゃない。きっと誰か偽物だ。
私が今言えるのは、きっとたった一つの言葉だけ。あの日私を救い出したあの言葉だけ。
「ね、お姉様、買うよ」
「……いくら出す?」
ああこうやって答えてくれるお姉様はあの日のことを覚えていてくれたんだ!
ならば私は答えて見せよう。
「コイン一個」
「お釣りが出るわね」
「お姉様私より安いの?」
「五年の差はこうも大きいものなのよ」
「だったら安い愛の言葉もたんまりとおまけして」
歯をむき出して笑ってみせると、お姉様も小さく微笑んでくれた。
少し細められた目は、ルビーのように綺麗な、綺麗な紅。
「オーケイわかった。大好き愛してるわフラン。フランは世界一愛しい私の大好きな大好きなかわいい妹よ」
「だったらキスして。私の世界で一番大切なかわいくて美しいレミリアお姉様」
「かわいいフランの頼みなら」
お姉様が私の額に優しく口づけを落とした。
たまらなくなってお姉様を抱きしめる。
ああ私の愛しいろくでなし。
もう絶対にひとりぼっちになんてさせるものか。
右手でコインをもてあそんでいたら、ずっと昔に魔理沙が言っていたのを思い出した。
そんなの嘘だぁ、と私は思わず笑ってしまった。
だって私はコイン一個で買われたんだ。愛しい愛しいお姉様にさ。
くるくるぱしん
裏。
ふと昔のことを考える。
その昔私は一人の男と暮らしてた。顔も名前も覚えてないが最低な奴だったのだけ覚えている。
私はその当時、今とは違って無口で無表情なお人形さんだった。みんながみんなそのことを望んでいたから。
早い話、私は見世物にされていた。虹色の翼がそんなに珍しいかい、はいはい。みたいな。
そんな時お姉様が現れたのだ。わーお、ベタ。
でもそんな、ベタな登場だったのに、私の脳裏にはその時のことがきっちりと、あますことなく焼き付けられている。
あの時のお姉様は、本当にカッコよくって、カリスマに満ち溢れていたんだ。
『その子、買ったわ』
『いくら出す?』
『コイン一個』
ああ、あの時のお姉様は本当にカッコよかった。お姉様がばさりと開いた翼に、あの男は本気でビビっていた。ザマミロってんだ。
まあそんなこんなで、私はお姉様にコイン一個で買われまして。
ほら、なにこれ。魔理沙との台詞に絶対的な矛盾が生じていて。
そっか、お姉様に聞いてくればいいんだ。
「ねえお姉様お姉様」
「なによフラン」
「好き。大好き。愛してる。壊しちゃいたいくらい」
「やっすい言葉ね」
「マジすか」
軽くジャブを打ったらカウンターで返された。そんでもっておすまし顔で本に目を落とされた。
これはちょっとひどいと思う。私は嘘なんてちっともついていないというのに。姉妹の愛の再確認必須!
いや。
いやいや。そんなことを私は言いに来たんじゃなかった。
「お姉様お姉様ー。お姉様はどうして私をコイン一個なんて貧乏丸出しなはした金で私を買ったのー?」
「フランは反抗期全開なのかしら?」
おおっと、うっかり。
「とにかくなんでなんでー」
「フランのことが大好きだからよ。愛してるからよ。殺しちゃいたいくらいに」
「やっすい言葉ー」
「お代は取らないでおいてあげるわ」
そう言ってまたお姉様は本に目をを落としてしまった。こちらのことなんて気にもかけていないふうに思える。
それを思うとどうしようもなく本が妬ましく思えてきて、気づけば右手を握りしめていた。
ぱぁん、という音がして紙吹雪が散る。きれーい、なんて感心してたらお姉様にジト目でにらまれた。
「ちょっと、そこの反抗期ちゃん」
「そっちが悪いんだからね。私の話も少しは聞いてよ」
「ごめんね、フラン。好き、大好き、愛してる、殺しちゃいたいくらいに」
「なにさいきなり」
「ご機嫌取りだけれど、なにか?」
相もかわらずひどい姉だこと。
こんな姉のことを愛しいと思っている自分がほんの少し情けなく思えた。
「というかさっき答えたじゃない」
「私を愛してるんならもっといい値で買ってよ」
「お金は愛じゃ買えないのよ」
「お姉様それ痛恨のミス」
逆じゃん。
「でもさあ、魔理沙がコイン一個じゃ普通こうもかないもんだって言ってた」
「私たちは人間じゃないでしょう?」
「そりゃあ確かに吸血鬼だけど」
「だってろくでなしだもの私たち」
あ。と思った。うっかりお姉様の目に見入ってしまう。
お姉様は時々こういう目をする。
真っ赤な、真っ赤な眼が何色かわからなくなってしまうような、そんな不思議な眼をする。それはきっとその目にいろいろなものを閉じ込めているからだと私は考える。
きっとお姉様はその言葉を紡ぎながら、悲しい、だとか、嫌だ、だとか思わない。私だって『ろくでなし』なんて言葉に何か思うほど純粋じゃない。
でもお姉様は、多分それ以外のなにかを思っている。悲しいとも嫌だとも思わなくても、それ以外に何か思っている。きっとそのはずだ。
けれど私にはそれがなにか分からない。
「お姉様ってば、辛辣ぅ」
心の中の疑問をごまかそうと、わざとふざけて言葉を紡ぐ。
「正直者なのよ」
ツン、とすました様子のお姉様はなんだかとっても美しくって、孤高の存在とでもいった感じだった。
ひとりぼっちだったのは私もお姉様もおんなじだけど、ベクトルが全く違った。私はいろんな人を引きずりこんで寂しさをごまかしているけど、お姉様まで手が届く人間なんて、いやしないのだ。
あ。
もしかして。
「お姉様、さびしい?」
「っはぁ?」
勢いよく怒鳴られた。
つい、とお姉様は私から顔をそらしてしまう。けれどそのほほはほんの少し紅いような気がして。
ああ本当にお姉様はかわいいなあ。愛しいなあ。
「お姉様の寂しがりやー」
「…………」
「地べたをはいずりまわって一緒に生きようよ」
「…………」
お姉様は何も答えない。
そりゃそうだ、ここで答えるようなのは、お姉様なんかじゃない。きっと誰か偽物だ。
私が今言えるのは、きっとたった一つの言葉だけ。あの日私を救い出したあの言葉だけ。
「ね、お姉様、買うよ」
「……いくら出す?」
ああこうやって答えてくれるお姉様はあの日のことを覚えていてくれたんだ!
ならば私は答えて見せよう。
「コイン一個」
「お釣りが出るわね」
「お姉様私より安いの?」
「五年の差はこうも大きいものなのよ」
「だったら安い愛の言葉もたんまりとおまけして」
歯をむき出して笑ってみせると、お姉様も小さく微笑んでくれた。
少し細められた目は、ルビーのように綺麗な、綺麗な紅。
「オーケイわかった。大好き愛してるわフラン。フランは世界一愛しい私の大好きな大好きなかわいい妹よ」
「だったらキスして。私の世界で一番大切なかわいくて美しいレミリアお姉様」
「かわいいフランの頼みなら」
お姉様が私の額に優しく口づけを落とした。
たまらなくなってお姉様を抱きしめる。
ああ私の愛しいろくでなし。
もう絶対にひとりぼっちになんてさせるものか。
某お方は知らないけどサーカスレヴァリエの添え文を思い出したかな
次はもっと甘いのを書きたいと思っています。毒量産します。メディのような気分です。
>>過酸化水素ストリキニーネ様
え……これ夢じゃね?某お方さまというのはあなた様の事でした。あなたの作品でフラレミにはまりました。
ふられみは本当に良いものですよね!
量産態勢が早く整うと良いですね。