Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Pの旅立ち ~或いはPの溺死~

2011/06/01 18:00:37
最終更新
サイズ
8.46KB
ページ数
1

分類タグ

拝啓 レミリア・スカーレット様


 お手紙有難うございます。貴女からの手紙というのは初めてのことで大変驚きました。でも、考えてみればそう不思議なことではありませんね。あの人の交友関係からみれば私に辿り着くのは必然ですから。
 やはり、貴女もあの人の死が自殺なのか他殺なのか、はたまた事故なのか悩んでいるのでしょう。普段の貴女ならば冷静に運命を覗き、結果から遡り、因果律を捻じ曲げることなんて造作も無いのでしょうけど、古くから知るあの人のことだから運命を覗くこともできず、不意にやってきた別れに戸惑い、心が引き裂かれる思いなのでしょう。ですから、貴女は力を使うことできないのではないでしょうか。そのような中、私のことを思い出し、お手紙を下さったことに、私は嬉しく思います。
 あの人がおかしくなったのは、これは推測に過ぎませんが、間違いなく霧雨魔理沙が亡くなった日からでしょう。あの人のみならず、霊夢もあれからめっきり老け込み、にとりも暫く山に姿を現すことはありませんでした。幻想郷中が悲しみに沈んだといっても間違いないと思います。その中であの人だけがいつもどおりに振舞っていました。私は気丈にも哀しみをこらえていたと思っていたのですが、気付けばその時にあの人の中で何かが変わったのだろうと、今なら思えるのです。
 あの満月の綺麗だった晩に、あの人が湖で物言わぬ姿で浮かんでいたと聞いたとき、実は私は「失敗したのね」と思ってしまったのです。無論、私もあの人が悲しみに耐え切れずに自殺したとは思えません。そんな弱い心の持ち主ならば貴女の眼鏡にかなう魔女では無いでしょう。むしろ、彼女こそそんなことを否定する魔女でした。
 ですが、これも私の推測に過ぎませんが、自殺という手段を選んだのは間違いないと思います。魔理沙の死を最も動揺したのは、付き合いの長い霊夢や私、幼い頃から知る霖之助さんでもなく、あの人でしょう。だからこそ、あの人は普段どおり振舞っていたと思えるのです。
 あの人は自殺を試みました。しかし、それは死ぬためではありません。生まれ変わるため、と言えば大げさに聞こえますが、生きるための、より上位の魔女になるためのイニシエーションとして自殺を選んだのだと思います。貴女には馬鹿なことと聞こえるでしょう。ですが、私は気は触れてはいませんし、理由は自分でも分からないのですが、そう思える確固たる信念があります。
 私は、あの人には親友、或いは家族といえる定命の存在との触れ合いが今まで無かったと考えています。私はあの人が種族魔法使いになるまでのことを知りません。ですが、これだけははっきりと言えます。あの人は死別という経験を殆どしてこなかった、と。このことに関しては、貴女も同意してくださることと思います。
 不意にやってきた死別という別れ、それも彼女の中でも大きな存在であった魔理沙の死に戸惑ったことだと思います。勿論、私は、彼女は哀しみを知らなかった、初めての死別だったなどという馬鹿なことは思っていません。ですが、そのあまりの大きさにどう対処するか分からなかったと推測するのはあながち間違いではないでしょう。

 話は変わりますが、妖怪の中には哀しみを強く感じてしまうものとそうでないものがあります。チルノやルーミアたちは、精神的な幼さから哀しみに対しる感受性が弱いようです。喜びや嬉しさという正の感情を強く受容し、反対に負の感情には抵抗するという、ある種の防御本能でしょう。また、月人はその存在のありようから哀しみに押しつぶされることはないようです。
 一方、私のような種族魔法使いや貴女のような吸血鬼は哀しみを一際強く覚えるそうです。私は妖怪ですが、家族の中で愛されて育ちました。その家族との離別という経験を経て哀しみの対処を覚えました。貴女もフランドールという家族を幽閉したことから、別離のそれとは違いますが、哀しみというもの理解しておいででしょう。他にも幽香は毎年愛する花々の別れから、レティは毎年再会する顔ぶれの変化から……。
 また、人間なら心の脆弱さから精神を崩壊させてしまうことがあります。幸いなことに実際には崩壊まで至っていませんが、人里の守護者や月人の薬師が言うには以前、藤原妹紅にその予兆があったそうです。また霊夢が急激に老け込んでしまったのもこのことに関係があるのかもしれません。

 話を戻しますが、あの人は哀しみを強く覚えるにも関わらず、その経験の乏しさから感情の対処を知りませんでした。また、種族魔法使いであったため、崩壊するほど脆弱な心を持ち合わせておりませんでした。大きな哀しみを抱えたまま、それを発散することもできずにいたのでしょう。
 不幸なことにそれを彼女自身の弱さによるものだと考えてしまいました。実は、魔理沙の死の二週間後、湖のほとりでこんな会話をしたのです。
 彼女は私に問いかけてきました。
「死を乗り越えることによって成長するという俗説、貴方はどう思う?」
 私は輝夜や妹紅を引き合いに出して反論しました。
 もしそうなら、永遠亭の姫君や竹林の蓬莱人なんて、今頃は紫を脅かす存在よ。そんな馬鹿なこと、貴女が信じてるなんてね、と。
 彼女は私の反論に笑いながら答えました。
「確かにそうね。でも、それは彼女らが生きても死ぬことも無い人間だから意味が無いだけのこと。もし、定命の者だったらどうかしら」
 その時の彼女はなんとも言えないものでした。優しくて、柔らかで、まさしく聖母といってよいものでした。私は怖く感じました。彼女は、そのまま言葉をつなげました。
「外の世界で偉人といわれる者の中には九死に一生を得るような出来事から、見違えるような働きをしたものが少なくないわ」
 私は何も言い返せなくなりました。別に彼女は私にプレッシャーを与えてはいませんでしたし、ただ普通に話していただけでした。でも、普段と全く違う、いいえ、別人と思えて仕方ありませんでした。
「それに、何度も自殺を試みては失敗した者もいるのよ。確か、太宰治といったかしら。彼は外の世界では文豪と呼ばれるほどの作家だけど、度々、妻や愛人と心中をはかっていたの。四度目の心中で亡くなったわ。心中の理由については色々と論議されてるわ。自身の健康を悲観して、息子の障害を苦にして、筆が進まなくなり絶望して、などとね。でもね、中にはそれはある種のイニシエーションという意見もあってね、あながち間違いではないと思うの。不安、孤独、絶望、そんな負の感情を死をもって捨て去る、というのかな。まるで、自身の炎で己を燃やしつくし、生まれ変わるというフェニックスのようではないかしら」
 わたしはもう彼女の言葉が辛くて泣いて抗議しました。
 お願いだから止めて、魔理沙が死んでそんなに経ってないのに、こんな話は聞きたくない、と。
 そんな私を見て彼女は謝って、その話しをすることはありませんでした。でも、今思うと、彼女はその時、既に決意してたのでしょうね。私に話したのは同じ魔法使いだったから、家族同然の貴女にしなかったのはあなたが哀しむと思っていたからだと思います。それに彼女自身、哀しみをどう対処すればよいのか分からなかったのでしょう。だから、自身が弱いから、と考えたのでしょうね。

 霧雨魔理沙は不思議な方でしたね。礼儀も知らず、身の程を弁えず、ヅカヅカと押し入っては泥棒同然の行為を行う極悪人でした。にも関わらず、優しくて憎めなくて。あの人も魔理沙と知り合ってから、今まで経験したことのない楽しい日々を過ごしたことだろうと思います。前に書きましたが、彼女は今まで人と触れ合うことがあまり無かったと推測できます。数百年経験しなかったそれを魔理沙がもたらしてくれました。彼女の心の中を急激に魔理沙の色に塗り替えられ、突然いなくなってしまった。彼女はそれをどう対処したら分からなくて、自分が弱いと結論付けてしまいました。

 そして、あの満月の晩に彼女はとうとうその恐ろしい行為を決行してしまいました。満月は私達魔法使いにも吸血鬼にも力を与えてくれます。彼女はこう考えたのでしょう。自分の力を高めるにはうってつけであり、普段は冷静で注意深い貴女が力に酔いしれるとと同時に、同じ吸血鬼である貴女の妹への警戒を強めなければならない、よって自分への注意が弱まり下手な行動をしても気付かれにくいと。結果として、彼女の目論見通り、貴女はフランドールに全神経を向けてしまい、彼女の行動に気付くことはありませんでした。
 ここからは私の勝手な想像ですが、月が南中する子の刻近くに、彼女は湖のほとりに足を向けます。真夜中近くですから歩くものはいません。咲夜は年齢的に館全てを見回るのは無理ですし、小悪魔は召喚主として命令を与えておけば邪魔しません。美鈴は門番の責務として離れるわけに行きませんし、満月の晩にしかできない実験があると言えば大丈夫でしょう。ほとりで誰かに会うとしても、チルノやルーミアといった精神的に幼い妖精や妖怪です、事前にお菓子などで買収しておけばついて来ることもないはずです。彼女はそのまま歩を進め、紅魔館の対岸まで行きます。対岸に着いたら今度はそのまま湖に向かって歩んで行きます。一歩ずつゆっくりと歩んでいきます。服が濡れて重くなりますが、それを気にすることなく湖へ歩んでいきます。やがて、足だけでなく頭まで水に浸かり、口や鼻から湖水が彼女の身体に浸入し、肺の中まで満ちていきます。呼吸が出来なくなりますが彼女は精一杯我慢して歩むの止めません。そして、まもなく意識を失い、身体を湖に委ねます。感覚は無に帰り、肉体は湖に導かれ、魂は徐々に乖離していき、彼女は自身の目的とは裏腹に此岸を離れ彼岸へ旅立ってしまったのです。
 彼女は最後に何を思ったのか、私には分かりません。ただ、魔理沙の後追いではないのは確かです。魔理沙の死という悲しみから自分を解放するため、弱い自分を捨てて強くなるため、魔理沙の死を受け入れて彼女の分まで笑って生きるためだったと思うのです。

 悔やんでも悔やみきれません。彼女を助けることができたはずなのに、私はそれを見過ごしてきたのですから! 貴女にも何と言って謝ればよいのか分かりません。でも、彼女を、パチュリー・ノーリッジを責めないで下さい。彼女は死ぬために死んだのではなく、生きるために失敗して死んでしまったのですから。これが私の、アリス・マーガトロイドの願いです。


かしこ
アリス・マーガトロイド
ここでは初めまして、桜田晶と申します。
初のパロディを書いてみましたが、元ネタとはかけ離れてしまった感が強いです。
変則パチュマリを狙いましたが、どうでしょうか?
桜田晶
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ちょっと読みづらいかな。
2.名前が無い程度の能力削除
高校生の頃に読まされたなぁ
なつかしい