Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

仙人甘味紀行

2012/09/28 22:50:02
最終更新
サイズ
11.06KB
ページ数
1

分類タグ

「これが……紅魔館……!」
 ごごごごごご、という擬音を背中に背負って立つ、彼女は博麗神社のご意見番(?)仙人、茨城歌仙。
 彼女の足は目の前の紅の館の門をくぐり、その奥へと向かって進んでいく。
 ――ここは、悪魔の住む館として人々の間で、かつて、恐れられた場所であった。
 一歩足を踏み入れれば、決して生きて帰ってはこられない。それどころか、ここの者達は、夜な夜な人間狩りをしており、手に入れた獲物の血を、肉を貪る化け物どもの巣窟として知られていた。
 そんなところへと足を踏み入れた彼女の顔は緊張に満ちている。
 現れる、一人の妖精。彼女は、ここの館でメイドとして働いているのだと言う。
 その彼女に案内されるまま、華仙は広い食堂へと通される。
 真っ白なテーブル。真っ白な椅子。紅の館に似つかわしくない、白。それがかつては、この館の色と同じ、紅で彩られていたのだろう。
 華仙の喉が鳴る。
 ――メイドが戻ってきた。彼女は手に、銀色の円盤を持ち、それを華仙の前に並べていく。
 そうして、彼女は言った。
「お客様、どうぞご賞味くださいませ」
 ぺこりと頭を下げて去っていくメイド。
 それを見送ってから、華仙の瞳は、目の前のテーブルに向かう。
 その、テーブルの上に、銀色の円盤と共に載せられたもの、それは――!
「いっただっきま~す!」
 色とりどりの、美味しいケーキであったとさ、まる。


「ああ、美味しかった~!
 もう、霊夢ったらひどいわ。幽香さんのお店だけでなく、こんなに素晴らしいお菓子を食べさせてくれるお店があることを教えてくれないんだもの」
 ぷんすか怒る華扇ちゃん。
 さて、彼女が本日訪れた紅魔館が、『悪魔の住まう館』として恐れられていたのも過去の話。
 現在では、幻想郷に生きる人妖全てに親しみまくっている『紅のテーマパーク』である。
 そこが誇る『紅魔館レストランサービス』は幻想郷に生きるものなら、赤子以外ならまず間違いなく知っていると言われるほど有名なサービス。
 紅魔館が誇る料理やお菓子をお腹一杯、しかも金額控えめで食べさせてくれる、何とも良心的かつ人々に愛されるサービスであった。
 無論、最上級のコース料理ともなると、年に一回の贅沢程度に留めておく必要がある代金をとられるのは当然なのであるが、今回、華扇が頼んだ『お昼のお得ケーキセット』は10個のプチケーキと美味しい紅茶がセットになって、なんとお値段600円というものであった。
「どのケーキもとっても美味しかったわ~。
 仙人になって、早幾年月……ほんと、長生きしてよかったっ! 仙人ありがとう!」
 過去の己の事情など全部かなぐり捨てて、そもそも仙人というのは世俗にまみれず、己の欲望全てすら捨て去った、まさしく『世捨て人』な側面も空の彼方に投げ捨てて、今、華扇は己の人生を謳歌していた。
 ――要するに、今まで質素に暮らしていたことに加えて、己の知らない味覚にすっかりと魅了されてしまったと言うことである。
「また来ないと! 次はお昼のランチコースと、そのセットのロイヤルスイートケーキ! これね!」
 ちなみに、その『ロイヤルスイートケーキ』と言うのは、お昼のランチコースとセットでなければ頼めない逸品である。
 お味は――無論、言うまでもないだろう。
「さて……」
 紅魔館の入り口では、その館に勤めるもの達や門番が『いらっしゃいませ~』だの『こちらにお並びくださ~い』だのとやっている。
 その人の列はかなりのものであり、華扇も入場までに1時間待ったほどであった。
 それを見送り、そこに並ぶ者たちに、『この先には、あなたたちを幸せにしてくれるものが待ってますよ』と祝福を贈って、ふわりと空へと舞い上がる。
 ――舞い上がる、のだが。
「あら、茨華仙さま」
「……か、霍青娥……」
 それから5分もしないうちに、見慣れた相手と鉢合わせしてしまった。
「まあまあ、ごきげんよう。茨華仙さま。
 このようなところにまで説法を説きに参ったのでしょうか? 素晴らしいですわ。お疲れ様です」
「え、ええ。まぁ、そんなところ……です」
 本当は、紅魔館にケーキを食べにきました、というのが真実であるのは言うまでもない。
 そして、華扇はそれを、この場で口にするべきだっただろう。
 なぜなら、
「それにしても、さすがは茨華仙さまですわね。
 幻想郷のあちこちに足を運び、そこに住まうもの達に、素晴らしい説法を説いて回る――まさに仙人の鑑です。わたくしも、早くそのようにならなくてはいけませんね」
 と、この霍青娥なる邪仙に、やたらと敬われ尊敬され、同時に目標とされてしまっているからである。
「あ、あのですね、実を言うと私は――」
「説法を説いた後ですから。お疲れでしょう? 茨華仙さま。
 本日はわたくし、このようなものを持ってまいりました。
 ああ、そうだ。せっかくですから、ご試食、いかがですか? お腹に余裕がおありでしたら、ぜひともどうぞ」
 慌てて、『今度こそ、こいつの誤解を解かないと』と思って口を開いたのも後の祭り。
 青娥から差し出された、見事なケーキに目を奪われる。
「……これは?」
「はい。
 実は先日、人里に足を運んだ際に、そこにあったお店でお茶を頂いたときのことです。
 これは、何でも『ケーキ』と言う洋風のお菓子だそうでして。
 わたくし、不覚ながら感激してしまいました。これまで、わたくしが口にしてきた甘味と言うのはあんこがほとんど。
 このケーキも同じ甘味ではありますが、まぁ、何と申したらよろしいでしょうか。あんこの甘味とは全く違う、とろけるような味は、本当に新鮮でございました」
 それについては、華扇にも異論はなかった。
 青娥の言う通り、その、ケーキ独特の、和菓子とは全く違う甘さに心をわしづかみにされてしまったのだから。
 もう、ぎゅっと。むぎゅっと。がっしりと。
「そこで、お菓子を売っていました、アリス様……だったでしょうか?
 彼女から、このようなお菓子を作るにはどうしたらいいかを学び、つい先日、廟のものに披露してみたところ、大好評でして」
「……すごいですね」
「あら、何がでしょう?」
「あ、いえ。あなたは料理が得意なのですね、と」
「うふふ。ありがとうございます。
 それなりの腕前はあると自負しております」
 華扇もすでに、口と舌で得られた情報を基にケーキ作りに挑戦しているのだが、なかなかそれはうまくいっていない。
 ふんわりとろっとした甘さを再現できず、苦心しているのである。
 それなのに、青娥はそれをさらっとやってのけたという。それを販売していたものに話を聞いて、それをしっかりと把握し、自分のものとしてしまったのだという。
 それはとりもなおさず、スキルである。そして、そのスキルをほめない理由は、華扇にはなかった。
「さあさあ、どうぞ。きっと美味しいですよ」
「……あ、それでは。せっかくですので」
 さっき、お腹一杯、ケーキを食べたはずなのに、差し出されるフォークを取ってしまう。
 甘いものは別腹な華扇ちゃんであった。
「えっと……それじゃ、一口」
「はい」
 笑顔の青娥に何やら不安なものを感じつつも、彼女が差し出してきたケーキを一口。
 ――……うん。美味しい。
 そう納得するくらい、美味しいケーキであった。
 青娥が用意してきたのは、基本中の基本であるショートケーキ。
 スポンジのふわふわ感、クリームのしっとりとろける味、そしていちごの瑞々しい甘さ。
 どれもこれもが完璧だ。非の付け所のない、パーフェクトなできばえである。
「いかがでしょうか?」
「ええ、とても美味しいです。
 すごいですね。お見事です」
「やだ、ほめないでくださいな。照れちゃいます」
 うふふ、と頬を染めて返答してくれる青娥の笑顔は、なかなかチャーミングでかわいらしかった。
 年齢不相応、しかし、妙に青娥がそれをやると違和感のない仕草に、華扇も思わず笑みをこぼしてしまう。
「さあ、どうぞ。まだ余っていますよ」
「ああ、すみません」
 そんなこんなで、勧められたケーキ全部を平らげてしまう華扇ちゃんである。
 お腹一杯、と言わんばかりに彼女はケーキを食べ終えて、手にしたフォークを青娥に返す。
「それにしても、どうしてこんなところにケーキを持って来たのですか?」
 華扇が問いかける。
 青娥と鉢合わせしたのは、紅魔館の周囲を囲む湖の上だ。
 もしかしたら華扇が知らないだけで、たとえば紅魔館などに、青娥は知り合いがいるのかもしれない。とはいえ、疑問は疑問である。
 彼女の問いかけに、青娥はというと、
「ええ、実は――」
 そこで、しばしの沈黙。
 華扇が『?』と首を傾げた、その時だ。
「あっ、仙人のおねーちゃんだ!」
「わーい! おねーちゃんだおねーちゃんだ!」
「おねーちゃんおねーちゃん、おやつちょうだい! おやつ!」
「はいはい。そんなに慌てないでいいですよ。
 今日は、ほ~ら、ケーキを作ってきたんです。みんなでどうぞ」
「わーいわーい! ケーキケーキ!」
「あたし、いちごさん!」
「いただきまーす!」
 わらわらと、あちらこちらから、この湖を根城にしている妖精たちが青娥の周りへとやってくる。
 その妖精たちに、青娥は、一体どこにこれほどのケーキを隠し持っていたのかと思えるほどのケーキを取り出し、一人一人に手渡していった。
「どうですか? 美味しいですか?」
「うん! 美味しい!」
「おねーちゃん、大好き!」
「あらあら。
 あら、お口が汚れてますよ。今、ふいてあげますからね」
「へへ~」
 笑顔の妖精たち。
 皆、青娥から渡されるケーキを美味しそうに食べて、『おねーちゃんありがとう!』とお礼を言っている。
 そんな彼女たちの頭をなでながら、青娥は幸せそうに微笑んでいた。
 ――そして、そんな光景を見て、華扇は『……なるほど』とうなずいていた。



「……餌付けか」



 妖精というのは、ほぼ全てと言っていいくらいに、幼い女の子の姿をしている。
 何百何千年を経た妖精はさておきとして、ここ、紅魔館の湖に住まう妖精たちは、本気で、みんなロリロリしいようじょ達である。
 その彼女たちに囲まれる青娥の笑顔は……なるほど、非常に素晴らしい笑顔であった。
 やがて、妖精たちはケーキを食べ終えて、『おねーちゃん、ばいばーい!』と去っていく。
 彼女たちを笑顔で見送ってから、青娥は華扇を振り返る。
「……ふぅ」
「鼻血ふけ!」
「あらこれは失敬」
 その鼻から少女たちへの愛をだくだくあふれさせ、紅魔の湖を赤く染める邪仙は、どこから取り出したのか、真っ白なハンカチで鼻の周りをきれいにして、
「実は先日、こちらを訪れた際に、あのようにかわいらしい少女たちの姿を見つけまして。
 ああ、これは、わたくしがお世話してあげるべき存在であると確信いたしました」
 鼻にティッシュつめて笑顔で親指立てる青娥の姿に、華扇はめまいを覚えた。
「あのように、純粋でかわいらしい少女たちに『ありがとう』と言われる、この至福! 華扇さまならおわかりになりますわよね!?」
「ぜんっぜんわからんっ!」
「まあ、またそのような。
 大丈夫です、茨華仙さま。わたくし、わかっておりますから」
「一体何がわかってるってのよ!? っていうか、その『わたしの仲間』を見るような目をやめてくれませんか本気で!?」
「あのような少女たちは、やはり美味しいお菓子には目がないですから。
 美味しいものは少女たちの心を満たし、その顔に笑顔を浮かばせてくれます。そんな少女たちの笑顔が見たい――ただそれだけで、新たな領域に足を踏み入れ、スキルを身に着ける、それは悪いことではありませんよね!」
「悪いことじゃないけど動機が思いっきり不純よ!」
「実はこちらにこのような」
「何ですかその機械は」
「これは河童の方々に作成いただいた『ボイスレコーダー』というものでして。
 これをぽちっとすると」
『おねーちゃんだいすき!』『おねーちゃんだいすき!』『おねーちゃんだいすき!』………………(以下エンドレス)
「と、このように、少女たちの言葉をいつでも耳元に再生できるのです!
 おはようからおやすみまで少女たちに祝福される、これはまさに高天原ですわっ!」
「捨てろそんなものっ!」
「少女分充填120%! 今のわたくしは竜神にだって勝てますわ!」
「だからあなたは……!」
「あ、それではわたくしはこれで。
 今日は紅魔館で、新しいお菓子のレシピを学ぼうとしておりまして」
「妖精のみんな逃げてー!」
「ついでに、あそこの館のお嬢様方に、手作りのぬいぐるみをプレゼントする約束を……」
「その中身見せろ! 今の録音機ついてるでしょ絶対!」
「そのようなものは仕込んでおりませんわ。
 仕込んだのは、こちらにあります『ビデオカメラ』でして」
「犯罪でしょそれはぁぁぁぁぁぁっ!」
「それではごきげんよう~」
「あっ! ちょっと! ちょっと待ちなさい、霍青娥! あなた、ちょっと! こらちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!」
「おほほほほほほほほほ」

「ねぇ、大ちゃん。何あれ?」
「……さあ? 何だろうね?」
 そんな感じに、湖の上で大騒ぎする二人の仙人を見上げる氷精と、そのお目付け役の妖精が一人。
「ま、いいや。
 ねぇ、大ちゃん! あたい、お腹すいた! おやつまだ!?」
「今日は、はい。ブルーベリーのタルトだよ」
「わーい! いただきまーす!」
 まだ、空の上ではわいわい騒がしい声が響いている。
 それを見上げる妖精は、『……あの人たちって仙人だったよね……?』と、ちょっと呆れ顔だ。
「うん、美味しい! 大ちゃんの作ってくれるお菓子、あたい、大好き!」
「そう。ありがとう」
 その視線を、タルトをかじって口許をべったり汚している氷精に向けて、彼女は優しく微笑んだのだった。
少女を愛する紳士・淑女の皆様へ。
是非とも幻想郷に足を運んでみませんか? そしてわたくし、霍青娥と共に『幻想郷少女愛同盟』をもり立てていきましょう。
お申し込みはこちらまで。
連絡先:http://sukima.nyannyan.co.jp/
                                  幻想郷少女愛同盟会長 霍青娥
haruka
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
お、おっさんでも入れますかね!?
話し掛けたりしませんし、ましてや触ったりなんか絶対しません! 眺めるだけでいいんでオナシャス!
2.奇声を発する程度の能力削除
うん…まぁ分かってたけどね…
入りたいよ…
3.名前が無い程度の能力削除
通報した(キリッ
4.名前が無い程度の能力削除
ちょっとお姉さんな青娥さん?と思いましたが、いつもどおりでしたねw
姿勢が一貫してて清々しいです。
青娥さんのケーキ食べたい。
5.名前が無い程度の能力削除
最後の大ちゃんの笑顔が意味深w
同類の臭いがプンプンと
6.名前が無い程度の能力削除
小さい女の子はまさに芸術作品、霍青娥さんの気持ちもよくわかる。