「そのくらい教えてくれてもいいじゃん、ゆかりんのドケチ!」
「理由を知りたいのはこっちの方よ、このケロケロケ□ッピ!」
あれは先月のことだったかな。実にどうでもいい理由から神と妖怪とが喧嘩をおっ始めたんだ。
神の名は洩矢諏訪子――かつては1つの国を統治した坤を操る強力な1柱。対するは八雲紫――幻想郷の賢者とも称される境界を操る大妖怪だ。
どうしてそんなことになってしまったかって? それはとある宴席で神が放った一言に端を発する。
博麗神社境内。人里に近いながらも数多の妖怪その他が集うこの社は、それ故に宴会場として使われる事も多い。この日も『守矢神社分社勧請2周年記念祭』だかが厳かに執り行われ、本命である直会が盛大に催された。
問題の1柱と1体は八坂、八意、西行寺といった、そうそうたるメンバーを交えて盛り上がっていた。そんな最中に洩矢がよりにもよってとんでもないことを八雲に尋ねたのだ。
「ねぇねぇ、どうしたらゆかりんみたいに『ババァ』って呼んでもらえるのかなぁ?」
その一言に直接尋ねられた当の八雲は勿論、その場にいた面々も一様に凍り付いた。ただ1人、既に鬼籍にあって名実共に永遠少女を称して差し支えない某霊のみ大爆笑だった気がしないでもないが、次の瞬間には柱と矢玉に打ちのめされた轢死体の様に転がっていたから定かではない。
尤も、八雲以外は自分が名指しされなかったことに内心ホッと胸をなで下ろしていたことだろう。
「ケ、ケケケケェーロちゃん!? それはいったいどーゆー意味ナノカシラァー」
「言葉通りさね。外見に惑わされることなく歳相応に見抜かせる極意ってのを教えて欲しいのよ。ババァとまではいかなくても、せめてオバサンって呼ばれたいのだよぉ……」
珍しく引き攣った笑みと裏返った声で聞き直す八雲に、洩矢は真摯かつ切実な面持ちで応えた。
断っておくが洩矢には悪意の微塵も無かった。太古の昔より強大な祟り神を束ねる経産神。どんなに少なく見積もっても齢数万は下らないだろう彼女は、その外見故に何かとお子様扱いされてしまう。
同輩者からならともかく、現在の幻想郷では大多数を占める若年層(彼女からすればあの射命丸すら充分に若い)からもそういった扱いを受けることに常々不満を抱いていたようだ。
そうした一方、八雲は実年齢を棚に上げて自らを『永遠の17歳』と公言してはばからない少女大妖怪だ。そして当然といえば当然だが、日頃の胡散臭い言動や立ち居振る舞いが災いして何かにつけてお年寄り扱いされてしまう。
この両者の願望と現実のギャップが今回の悲劇(端から見れば喜劇以外の何ものでもない)を招いたのである。
こうして始まった冒頭の不毛な言い争いは、周囲のお祭り好きどもの後押しで弾幕ごっこに発展するのにさほど時間を要しなかった。しかし両者はExやらPhでボスを張る実力者で、耐久スペルなんぞを繰り出し始めたらそれこそ決着しそうにない。そこで手っ取り早く勝負をつけるため、双方が寄せ手という特殊ルールで行うことになった。
通常、弾幕ごっこは守り手(ボススタイル)と寄せ手(プレイヤースタイル)に分かれて行われる。守り手側は動きを制限されるが、持てる限りのスペルカードを用いて見た目にも派手な弾幕を存分に展開できる。一方、寄せ手側は連射の利く弾幕と高い機動性を得る代わりに、スペルカードの種類や仕様が制限されるほか1発1発の威力や耐久値が恐ろしく低くなる。
寄せ手が妖精の小粒玉1発でピチュるのに対して、守り手が何十発と撃ち込まれても平気なのはこの為である。
さて、このような条件下ならエキサイティング且つスピーディな撃ち合いを肴にできると踏んだ酔っぱらいどもだが、実際に蓋を開けてみるとプレイヤーは双方共々にとんだ食わせ者だった。
洩矢が放った蛙弾は八雲が纏う隙間の1つへと消え、他の隙間から多元的にリフレクトされてゆく。八雲と自らの弾幕に曝される洩矢も即座に創った巨石,巨木を盾に使い、防ぎきれない分は手にした鉄の輪で粉砕したり、どういった仕組みか不明だがケロ帽に吸い込ませてゆく(なんぞ咀嚼してるみたいだが酔っている所為だと思いたい)。
また、双方が決めボム気味にスペルを発動しても「ボム無効ww、テラワロスwww」等と実に大人げない上級ボスっぷりを発揮し合い、戦いはお互いに決め手を欠いたまま千日手の様相を呈していた。
さすがに観衆もあきれ果て、気の短い吸血鬼がいい加減にしろと横グングニルを入れようとした頃になって、ようやく試合が動いた。
それまで激しく撃ち込んでいた洩矢が射撃をやめて、カードを1枚取り出し厳かにかかげあげる。
「祟符『ミシャグジ様』。このままじゃ埒があかないからとっておきを見せてあげるよ」
「あら、耐久スペルは制限カードですわよ? ま、どちらにせよボムなんか効きませんけどネー」
「別に弾幕に使う訳じゃ無いんだけどね。霊夢-、ちょっと神社借りるよー」
「借りるもなにもとっくに宴会やってるじゃない。まぁいいけど……」
鼻で笑う八雲を無視するように、博麗の承諾を得た洩矢はカードを地面に投げつけるとそのまま二拝二拍一拝し、声高らかに宣告する。
「我、洩矢大神諏訪子はその権限を以てこの神域にミシャグジを降ろし、『境締め』を執り行う。以降、如何なるものとて境界を乱すこと能わず――かく成せっ!!」
次に手にした鉄の輪を打ち合わせると鈴のような澄んだ音が響き渡り、音に合わせるようにして境内の四隅に幣帛を備えた笹の葉の祭壇が生じる。その直後――
「っきゃあ!?」
なんとも可愛らしい悲鳴を上げたのはあろうことかあの八雲だった。間の抜けたことに普段腰掛けている隙間から転げ落ちたのだ。いや、転げ落ちたという表現は正確ではない。正しくは纏った隙間が全て消え失せ、支えを無くして落下したのである。
彼女は強かに打ちつけた臀部をさすりながら立ち上がると、したり顔で笑う洩矢を睨め付ける。
「イタタタタ……境界と誓約のモレヤ神ってわけか。なかなか面倒な事をしてくれましたわねぇ?」
「へへ~んだ、いっくら大妖怪でも神の理には逆らえないかんね~」
なるほど、つまり洩矢はその神徳によって博麗神社に境界を確定する結界を張ったというのだ。
境界を操ることができなければ八雲もただの大妖怪……まぁ、それでも大妖怪であるから即ピンチって事にはならないだろうが、少なくとも先ほどのような隙間戦術は使えなくなるだろう。
ちなみに禁を侵して境界を動かすこともできるそうだが、その場合ミシャグジ様の恐ろしい祟りが降りかかるという。具体的には巨大な白蛇が絡みつき、妖○教室みたいな触『そこまでよっ!』イの憂き目を見るとのこと。
「そんじゃ、ま。舞台も整ったことだし、正々堂々と撃ち合おっか?」
遮蔽物(七石七木)の陰に隠れてどの口が正々堂々かと小一時間問い詰めたくなるが、余裕綽々の洩矢に対して八雲の表情は険しいままだ。
先述したとおり特殊能力を制限されたところで八雲には他に戦うべき手段はあるだろう。ただ、その主力たる式神は撃ち合いの緒戦でダウンしてしまっている(そりゃ酒飲んであんなに激しく回わったら鬼でもヤヴァイんじゃないか?)。加えて相手はやる気満々の祟り神。さすがの大妖怪も分が悪い。
「藍、立てる?」
「な、なんとか。しかし、もう回るのはご勘弁を……」
「こうなった以上、こちらも正々堂々と奥の手を使わせてもらうわ。――アレを出しなさい」
「えっ、アレでございますか? ですがアレは……」
「良いから出しなさい。今此処で使わずして何処で使うというのよ」
式の式による介抱でなんとか立ち上がる程度に回復した最強の妖狐は、主の命に従いそのもっふもふの九尾から1枚カード……というより目録包を取り出して、恭しく八雲へと手渡す。そして、怪訝な表情で様子を窺う洩矢に取り出した目録を突きつける八雲の顔には、不遜で不敵な愉悦に満ちたいつもの胡散臭い笑みが浮かべていた。
「あのスキマめ。まさかアレを持ち出してくるとわな……」
「知っているのかレミリア!?」
「吸血鬼異変の時にちょっとね。この勝負、どうあってもケロちゃんの負けよ」
件の異変に於いてスカーレットは完膚無きまでの敗北を喫したという。その時にも用いられた八雲の奥の手とはいったいどのような物なのか?
「幻想郷を管理する立場として、このような手段を使うのは誠に遺憾でありますが……」
「あ……う……」
衆人環視の中、目録を掲げじわじわと間合いを詰める八雲。何を書き記してあるのかは我々の位置から確認できない。しかし、それを見る洩矢は先ほどまでの勢いが嘘だったかのように青ざめ、嫌な感じの汗を滝のように流している。まさか、蛙神相手だけに鏡面処理でもされていると言うのだろうか?
そして、手を伸ばせば触れるほどの距離に詰め寄った八雲は、おもむろに目録を読み上げた。
「請求書、守矢神社様江。ひとつ、神社移転の際に破損させた結界の修繕費。ひとつ、地霊殿八咫烏騒動における調査費及びに迷惑料。ひとつ、お家賃(妖怪の山借地料)相当分。以上、今すぐ耳を揃えて払ってもらいまsy――」
「スンマセンデシターーーッ!!!」
勝者 八雲紫。
つまり、『泣く子と地頭には勝てぬ』という話だったのさ。 by けーね
「いやぁ、参った参った。さすがは幻想郷の管理者だね。管理人さんとかユカリン夫人って呼んでも良い?」
「遠慮しておきますわ。私は未亡人じゃありませんし、なんと言ってもまだ17歳ですから~(はぁと)」
「自重しなさいよ、このスキマ。そのネタが判る時点で17歳とかマジで有り得ないから」
「あら? 偉そうな口をきくのは債務を完済してからにしなさないな」
「うー」
余興も終わって境内は再び酒宴の席へと相成った。件の1柱と1体とはまたも同様の面々と杯を酌み交わしている。先ほどからピクリともしない某霊をうっちゃって割り込んだ吸血鬼が決め手のアレについて噛みついてきたが(確かにどうかと思う)、当事者たる洩矢は全く気にしていない様子だ。
「それにしたって諏訪子が頭下げることないでしょ。実際に色々とやらかしたのは私なんだし……」
和気藹々と杯を仰ぐ両者に酌をしながら八坂がぼやく。関係者諸氏の話によれば、例の神社移転騒動も地霊噴出騒ぎも大元は八坂の独断専行が招いた異変だという。
「神奈子個神宛だったらね。でも、守矢神社宛となれば話は別よ。確かに今は神奈子名義の神社だけど、私も共同経営者の1柱だもん。実務に携わる立場がちゃんとバックアップしないと、安心して営業できないっしょ?」
「あー。まぁその、なんだ……頼りにしてるわ」
心底済まなそうに縮こまる八坂に返杯しながら洩矢が諭す。
「なんだ、充分カリスマってるじゃない。普段からそうしてればケロちゃんだなんて呼ばれないんじゃないの?」
「むぅ、割とそのつもりなんだけどなぁ。かく言うレミリアだって心当たりあるでしょ」
「そうなのよねぇ。年齢不詳な美鈴は別として、パチェや咲夜にまで子供扱いされるのは理不尽だわ」
「ある程度の見た目も必要――ということじゃありませんかしら?」
似たような悩みで愚痴をこぼし合う2人に八雲が思わぬ助け船を出す。幻想郷の管理者としての親心的なものか、或いは例のアレによる強引な決着に後ろめたさに因るものかは不明だが、彼女の言葉になんらかの天啓を得た洩矢はポンッと手を打って立ち上がる。
「そっか。ゆかりんみたく雰囲気で醸し出したかったけど、やっぱ見た目が足を引っ張ってるんだね。そうすると……」
そう結論づけた洩矢は、同席しながらも極力関わらぬようにと1人話の輪から外れていた(としか見えない)八意に向かって――
「ねえねえ、えーりんみたいに『ババa
そして歴史は繰り返す。 by けーね
それにしてもゆゆ様は災難だなw
諏訪さまは格好は凄ぇばばぁ臭いと個人的に思ってます。
あと猥談とかした時の反応はおばちゃんぽい気がする(何つー限定条件か)
神奈さまは生娘みたいにカマトトが良いです(聞いてねぇし褒めてもねぇ)
ロリババァはやはり口調だよ。口調。
>拝二拍一拝
二が抜けてますがな
借地「妖怪の山」なるほど、だから橙は妖怪の山の中に猫の里(マヨヒガ)を・・・。
その迷惑料、調査料の一部が霊夢に支払われる異変解決の報酬、と。
うむ、理にかなっとる。