紅い館での戦い、亡霊嬢の花咲か祭り（ただし非常に大規模）、「いい月だな、少し借りるぞ……」
幻想郷を賑わせた数々の事件から、長い長い時が過ぎて――――
かつて紅魔館でメイド長をやっていた元・できる女、十六夜 咲夜は太陽となっていた。
いわゆる咲夜SUNである。
太陽候補としては風祝の東風谷 早苗さんも有力選手として名が挙がっていたのだが、
彼女は「常識に囚われない活動がしたい」と語り、太陽になってみませんか……という誘いを丁重に辞したのち、磯野家と名乗る秘密結社との戦いに赴いた。
噂のサナエさんである。
まあ、それはさておいて。
吸血鬼に仕えていた咲夜が太陽になるとは、運命の巡り合わせは何とも皮肉なものだ。
そして主はと言えば、突拍子もなく夏になっていた。
つまりはお嬢SUMMERである。
彼女達は人間や妖怪としての形を既に捨て、言ってみれば“概念”という存在となっている。
今やレミリアは、リリーホワイトからバトンを受け取る立場になったのだ。
幻想郷の四季は、
リリー→レミリア→秋姉妹→レティ
このサイクルで回っている。
今となっては笑い話だが、初めて夏したときのレミリアのはしゃぎっぷりは筆舌に尽くしがたいものであった。
「夏にはスコールが付き物よね！」と言ったかと思うと人里にグングニルの雨を降らせ……
「夕立だぞーっ！」とバンザイポーズをしながら永遠亭にスカーレットデビルな落雷をぶち込んだ。
この事件を受けて、「夏の不始末の落とし前は私たちが付ける」と名乗り出た秋姉妹により
お嬢SUMMERには朗らかな制裁が加えられた。
稲の束で殴られたことによってお嬢SUMMERから大量のカリスマエキスがほとばしり、大地に降り注ぐ――
こうして、幻想郷には次々と新たな概念やミステリースポット、怪奇物質・怪奇生命体が誕生することになったのである。
寝ている間に体が勝手に浮遊してしまう奇妙な夢 “れい夢”。
訪れた者達が例外なく最低レベルのIQになってしまう恐怖の原野 “ちる野”。
その一方で、分け入った者が例外なくナイスバディになったり賢くなったりする不思議な森林 “めー林”“えー林”。
お参りすると、体調を崩す代わりに深遠なる知識を得られるという謎の寺院 “ぱちゅりーのーれっ寺”。
手先がやたらと器用で、多数の人形を操って肉食獣を襲うげっ歯類 “あリス”。
食べると例外なく鬱状態になる厄介な棒付きアイス “るなさ・ぷりずむりバー”。
投げ込んだ食べ物が瞬時に消滅する奇怪な湖 “ゆゆ湖”。
飲むと鳥目になるお茶 “みすティー”。
見るたびに描かれているモチーフが変化する奇妙な絵画 “ぬ絵”。
――列挙していくとキリがないほどである。
人里は阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、命蓮寺には救いを求める民たちが連日連夜行列を作るに至った。
こんな状況の幻想郷を放っておくことが出来るはずもなく、
幻想郷好き好き協会会長・八雲 紫さんは各地から実力折り紙つきの戦士達を集めて秘密戦隊の結成に踏み切る。
「ゆかりん！」
「香霖！」
「美鈴！」
「永琳！」
「優曇華院！」
「ゆうかりん！」
「にとりん！」
「お燐！」
「さとりん！」
「ナズーリン！」
「一輪！」
「ひじりん！」
「12人合わせて……」
「いや、ちょっと待って。“ゆうかりん”って、この中だと明らかに無理やりじゃないかしら？」
「確かに……本来、彼女の名前は“風見 幽香”。どこにも“ん”の字が最後に来る要素がない」
「それを言ったら、“ゆかりん”だっておかしいじゃない？」
「“ひじりん”も“さとりん”も、なんかズルい感じがするなあ」
「でも、親しまれている渾名だから良いかと思って」
「この中に“優曇華院”が混ざってるというのも、なんか個人的に落ち着かないのよね」
「要は、名前か苗字の最後に“ん”をつけても不自然じゃない人なら入隊できる、ということですか？」
せっかく錚々たるメンバーが集まったというのに、名前で揉めてしまうこの浅はかさ。
激論は三日三晩に及び、秘密戦隊の名前さえ満足に決まらなかった。
そうこうしている間に、人里の長が逃げた子牛を追いかけているうちに
うっかり“ちる野”に足を踏み入れてしまった。
かつては人望篤く、人里の歴史始まって以来の賢人と讃えられていた彼だったが、
“ちる野”から帰ってきたときには全てが手遅れだった。
彼はもんぺを頭に被り、「チラコイド！ ゴルジ体！」と奇声を発するばかり。
里の人々は、泣きながら彼に向かって“あリス”の群れをけしかけた。
それから三日ほどして、人里は爽やかに滅亡した。
それは、あの秘密戦隊のチーム名がようやく決定した五分後のことであったという。
チラコイド！ゴルジ体！（もんぺ被りながら
どうしてこうなったｗｗｗｗｗ
妹SUMMERの登場はまだか。