- グリモワール・オブ・マリサ -
文「やれやれ。私としたことが、まさか手帳を落としてしまうなんて。
まぁでも無事取り返せたし、今度からは…
ああっ!
写真が抜かれてる!!!」
- エターナルミーク -
戦いは終わりとなった。
熾烈を極めた戦いは、結果的に見れば幼き吸血鬼の完膚なきまでの負けであった。
完全な決着を望んだ吸血鬼は自らが科していた弱点という名のハンデの全てを取り払い、大賢者たる隙間妖怪も自らの力の全てを解き放ち雌雄を決していたのだった。
だが、いくら数百年の長きに渡り生きながらえ、強大な力を持った吸血鬼といえど、千年以上の経験と知識を持つ大賢者たる隙間妖怪には手も足も出なかったのである。
突如として幻想郷に現れ、一時は数多くの妖怪達を屈服させるにまで至ったレミリア・スカーレットは、今ではその心臓を完全に握りつぶされ地面に大の字に倒れていた。
はっきり言ってしまえば、死である。
いかに強大な力を持とうともその心臓が完全に失われれば、当然息絶えることとなってしまう。
心臓を抉り出され、紅く染まるかつて、つい先ほどまで吸血鬼だった「もの」を見下しながら、八雲紫は湖畔の反対側に目をやった。
紫の介入によって勢い付いた妖怪達が、まさに群れを成して紅魔館と吸血鬼たち一派が呼ぶ、幻想郷という土地とはひどく不釣合いな館に攻め込もうとしていた。
それを複雑な表情で見つめていたのである。
大結界を張ってから妖怪達は気が緩む一方だった。
人間という天敵にして糧となる存在を前にしながら、戦いを禁じられ、外から供給される人間を労せず得る生活の中で、妖怪達からはいつしか闘志、戦意、そういったものが失われていったのである。
それが百年以上積もった結果がこの有様だった。
自身の知っている、かつての人間に脅威を振りまく強大な妖怪という存在ばかりであれば、こんな事態にはならなかったのかもしれない。
吸血鬼に対して遅れをとることなく、適度に負けて、適度に勝って、そして互いにしこりなく和解という形で落ち着いただろう。
そうなっていれば、この戦いで妖怪達が致命的に傷つくこともなかっただろう。
そう思うと奥歯を噛み砕かんばかりである。
妖怪という存在の安息を追及する余り、肝心なことを忘れていた紫自身の、決して軽くはない過ちであった。
だが、例え自らの過ちが引き起こしたことだとしても、紫にはどうしても許すことが出来なかったのである。
この楽園を乱し、汚し、歪ませた吸血鬼に対して怒りを抱いたのであった。
千年以上の長きに渡り、見届け、愛し、手塩にかけたこの幻想郷を、土足で踏みにじったレミリア・スカーレットという名の悪魔を必ずこの手で絶命させる、と心に誓い、それを今果たしたのであった。
…そのはずだった。
紫「っ!?そんな馬鹿な!?なぜ動く!?心臓をつぶされてまで!
…おのれ、この死に損ないがっ!
…あくまで抵抗するのならば…、完全な無を貴様にくれてあげるわ!」
紫が目にしたのはあり得ない光景であった。
心臓を失い息絶えたはずの吸血鬼が今まさに立ち上がろうとしていたところだった。
咲夜(…お嬢様、…お嬢様。)
心臓を失い完全なる死の寸前であった、レミリアは薄れ行く意識の中で唯の一つ、聞き覚えのある声を聞いていた。
それは自身の忠実なる従者にして、自身が信頼を置く数少ない存在の一人、十六夜咲夜のものだった。
その声を聞きながら、脳裏にはかつての記憶が順に呼び覚まされていった。
咲夜との始めての出会い。
それだけではない。
その他、意気投合し、あるときは助け、またあるときは助けられた、真に仲間と呼ぶことの出来る者達。
そんな仲間達が今まさに妖怪達の津波の如き力に完全に飲み込まれようとしていた。
救いたい。
護りたい。
ただそれだけが、今の死に掛けのレミリアが考えることの出来る全てだった。
心臓はつぶされてしまって、動くことはおろか生きることするもう不可能に近い。
それでも、それでも必死に指を動かし、羽ばたき、立ち上がろうとしていた。
紫「有と無の狭間に消えなさい、吸血鬼!
紫奥義「弾幕結界」」
紫は自らの力の全てを解き放って、最後の一撃をレミリアに対して加えようとしていた。
死体すら残らず、無の存在へと成り果て消えさる結界の力が放たれる寸前であった。
その時、レミリアはついに動くことが出来たのである。
自らの死などどうでもいい、目の前の妖怪も、この幻想郷でさえも…。
今、頭に、心にあるのはただ護ろうとする意志のみだった。
それがレミリアに対して力を与えた。
止めどなく漏れ出ていた血が、逆にレミリアの体へと入ってきて赤血球の一つ一つが力を生み出していた。
中枢たる心臓が失われ、循環するはずのない血がレミリアの全身を、まるで意識を持ったかのように流れ、全身に力を与えていった。
光を失い、うつろだった瞳には目を背けたくなるほど邪悪な紅色が宿っていた。
もちろん、レミリアは未だ虫の息である。
それでもこれほどまでの力を生み出し、死を超えた、その全てはひとことで表すことが出来る。
そう、まさしく「奇跡」だった。
レミリア「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」
結界の力が放たれようとする、まさにその時、レミリアの放った紅い瘴気に包まれた一本の槍、アースガルドの主神オーディンの持つ神器と同じ名を持つ、紅い槍が紫の体を貫いたのだった。
紫「がはっ!
…認めないわ…。吸血鬼の力など…、」
唐突にして、致命的な一撃を受けた紫はその場に崩れ去った。
大きな隙を突かれ、体を貫かれてなお、重傷であれど持ちこたえたことは紫がいかに強大な力を持っているのかを端的にあらわしていた。
互いに致命打を受けた両者は、その時、理解した。
この戦いが引き分けに終わったということに…。
小悪魔「妖怪総攻撃まで後61秒」
メイド妖精A「防御結界を張れ!」
美鈴「無駄よ!それが何になる。」
紅魔館では、今まさに最後のときを迎えようとしていた。
大量の妖怪達は間近に迫り、一方の紅魔館側はすでに何の抵抗も出来ずにいた。
時間を操る力も、
莫大な知識と魔法の力も、
心技体を極めた純粋な力も、
全てを破壊する力も、
大量の妖怪達の前では完全に無力だった。
どれだけ弱ろうとも吸血鬼に襲われようとも妖怪達も一体一体がそれぞれ力を持っていた。
戦う意志を失い弱った力でも、安息の中で使い道のほとんどなかった力でも、合わさればあらゆる力に対抗することが出来る。
皮肉なことに吸血鬼という存在がもたらした力と恐怖が、幻想郷中の力を平穏から呼び覚ましたのだった。
咲夜「…これが私達の運命だというのですか、お嬢様。」
咲夜は一人決して届くはずのない主に向かって、呟いたのだった。
レミリアは傷をおして紅魔館へと向かって飛んでいた。
自身の傷は癒えてはおらず、死から解き放たれたといっても致命傷には変わりなく、絶対安静と長い休息が必要だった。
同じような状態となった紫は、飛び立つレミリアを追う事もせず、ただその後姿を見つめるのみであった。
ひょっとしたら自らの過ちの大きさに押しつぶされているのかもしれない。
とはいえ、今の状態の自分に何が出来るのだろうか、レミリアの脳裏にはそんな考えが無尽蔵に湧き出ていた。
この傷だらけの状態で妖怪の群れに飛び込んだとしても、倒せる数はたかが知れていた。
ハンデをなくしたとはいっても、レミリアは夜の住人である。
この太陽の輝いている状況では100%の力は出せても、それ以上の力を出すことは不可能であった。
すなわち万事休すである。
レミリア「…紅魔館がっ…。」
レミリアは先ほど自身におきた奇跡を、歯がゆくも思っていたのである。
間に合わないのなら、なにもできないのなら、どうして、と。
そんなレミリアの心にまたしても聞き覚えのある声が響いていたのだった。
だがそれは、先ほどのものとは違いはっきりとした意志と共にレミリアに対して向けられたものだった。
パチュリー「…レミィ、レミィ。
今こそ放つのよ。
全てを終局に、始まりに導く、紅き十字を!」
それは今まさに危機迫る友人の声だった。
彼女の言う、紅き十字。
それはレミリアの最大の一撃、解き放てば山すら崩れ消え飛ぶほどの強大な魔力の放出による一撃を意味していた。
レミリア「十字…。…でも、それには太陽が邪魔なの。
日没までにはまだ…。」
パチュリー「私の魔力の全てを使って、太陽を沈めるわ。」
レミリア「太陽を!?」
太陽を沈める。パチュリーははっきりとそう言った。
確かに彼女は百年以上の長きに渡り、知識と魔法を高めた大魔女と呼んで差し支えない存在である。
だが、そんな彼女でも、自然現象を弄るほどの大魔術を行使すれば、最悪どうなるのか、レミリアには分かってた。
そして、今の状態で最大の一撃を放つことで自分自身がどうなるのかも。
…今、友人が命の全てを賭けようとしていた。
ならば、自分が賭けないわけにはいかなかった。
この危機の全てを終わらせるために、残った者たちが新たなる生き方を始めるために、レミリアは残る全ての力を集めたのだった。
美鈴「なんなの?いったいどうしたというの?」
メイド妖精B「日没です!太陽が沈みました!」
辺りは唐突に闇に包まれた。
信じられないことが起きたのた。
日没である。
まだ、数時間以上あった昼という時間が終わり、幻想郷は漆黒の夜に包まれたのだった。
妖怪達は突然の日没に若干の驚きを見せたものの、その程度で足が止まるほど、にわかな意志を持つものは誰一人いなかった。
彼らはただ平穏という名の全てを取り戻そうと必死だったのである。
吸血鬼が現れて、戦いの中で多くのものを失い、苦しみが突きつけられて、ようやく妖怪としての意志を取り戻したのだった。
そこにはかつての安息の中でだらける愚かな者はいなかった。
そこにいるのは、幻想郷という名の故郷を守り抜こうとしている防人達のみであった。
咲夜「太陽が…。
お嬢様!!」
異常な事態を前にして、咲夜は一言、主の名を呼んだのだった。
今がそのときであると伝えるためだろうか、
それとも、主の決意を止めようとしての、精一杯の抵抗だったのだろうか、
それは誰にも分からなかった。
レミリア「神鬼「レミリアストーカー」!!!」
レミリアは両手を広げ、全身で十字を作ると、集めた力の全てを妖怪の群れへと放ったのであった…。
-第118季-
-Blood Rain to the Elysion-
-門は撃ち抜かれ、本の間に風が流れ、絨毯には黒く、赤く足跡がついていた-
レミリア「おい。チグリス・ユーフラテス、チグリス・ユーフラテスはどこだ?」
咲夜「はい、お嬢様。ちなみに、お嬢様にご報告がございます。」
レミリア「あなたは口を挟…、なによ?」
咲夜「良い知らせと、悪い知らせがございます。」
レミリア「悪い知らせから聞くわ。チグリッパ。」
咲夜「…お聞きになりますか。」
レミリア「なるわよ。」
咲夜「…人間がお屋敷の内部50箇所を完全に制圧いたしました。」
レミリア「情け容赦なしね。」
咲夜「左様でございます。」
-紅い全てを土足で踏みつけ、それらは徐々に月明かりの中でだた佇む文字盤に向かってくる-
-そんな気配が感じられた-
咲夜「我らが大賢者パチュリー様はこのような恐るべき事態を想定してこう記しています。」
レミリア「恐れ知らずね。」
咲夜「第十一章六節、ラストスペル。」
レミリア「なんと。」
咲夜「あるいはファイナルエクステンド。」
-音も無く魔女が一人姿を見せた-
パチュリー「遠い昔…。
遠い昔、世界の中心であった。
鷹はまやかしの魚介類に立ち向かい、性別は変わり、絆は地獄の果てまで繋がり…」
レミリア「基板でやったわ。」
パチュリー「…蜂は怒り狂った。」
咲夜「こちらにもそう書かれております。」
レミリア「テーブルマナーについて書かれた本だと思っていたわ。」
-妖精たちの悲鳴が刹那に鳴り響く-
-ほぼ同時に崩れる音、破裂する音、その他破滅に属する音が順に、時に同時に鼓膜を揺らす-
パチュリー「っ!」
咲夜「くっ!
お嬢様お逃げください。ここは私に…」
レミリア「あなたは口を挟まないで、十六夜咲夜。」
咲夜「…!」
レミリア「私の名前はレミリア。日本国 幻想郷 紅魔館主――、
レミリア・スカーレット。」
-それまであった、あどけない少女の顔が消え去る-
-目を背けたくなるほどの邪悪な笑みを残して-
咲夜「さすがでございます。その構え、名古屋撃…」
レミリア「オーラ撃ちよ。」
-紅く黒光る槍と雪鏡の如きナイフが遥か先を睨み付ける-
レミリア「では、良い知らせを聞かせなさい。」
咲夜「お聞きになりますか。」
レミリア「わくわくするわね。」
-幼き魔候、ここにあり-
-千の針と自らに抱かれし幻想を以って、職人のごとく紅を紡ぐ-
-今宵、楽園は紅となる-
- その時、奇跡が起こった! -
霊夢「あんたが元凶ね。」
紫(ずいぶんと派手なことをしでかしてるわね。)
萃香(馬鹿げたもの飲み込んでくれたわ。)
文(そのわりに頭の方は弱すぎるようですね。)
霊夢「観念しなさい。アホ鴉。」
空「自分達の身勝手な理由でこの地底を荒し、
そのうえ、私のこの力を奪おうとするお前達を、絶対に許さない!」
-シュキン!-
空「変身!」
-キュルリリーン!-
-シュン、シュン!-
空「私は地底の太陽!
霊烏路 空!RX!」
- 盗んでるんじゃないぜ。死ぬまで借りるだけだぜ! -
- 私は博麗の巫女としての責務を果たしているだけよ。 -
- 主を引き立てるのが従者の役目です。 -
魔理沙「こいつは借りてくぜ。私が死ぬまでな!」
パチュリー「こら、待ちなさい。まったく。」
魔理沙「こいつは借りてくぜ。私が死んだら取りに来な!」
アリス「…はぁ、まったく。」
魔理沙「こいつは借りてくぜ。そのうち返すぜ!」
霖之助「やれやれ。」
魔理沙「また、いろいろ借りてきたぜ。」
阿求「いつもありがとう。」
「…ねえ、魔理沙。」
魔理沙「どうした?」
阿求「どうしていつも私の頼みを聞いてくれるの?」
魔理沙「…決めたんだ。少しでも多く阿求のやりたいことができるよう、私が手助けするって。」
阿求「…ありがとう。じゃあ一つ欲しいものがあるんだけど。」
魔理沙「私に任せてくれ。」
阿求「…魔理沙を借りてくわ。私が死ぬまで。」
魔理沙「…借りられるぜ。」
霊夢「…。」
藍「寂しそうね。」
霊夢「…珍しいわね。何か用かしら。」
藍「紫様に頼まれたのよ。」
霊夢「嘘でしょ。」
藍「ええ。」
霊夢「じゃあ、さっさと仕事に戻りなさい。あいつに怒られるわよ。」
藍「怒られてもいいから、あなたを笑顔にしたいの。」
霊夢「…大切な人が怒られてるときに笑顔になれるわけが無いじゃない。」
藍「…ごめん。」
霊夢「その気持ちだけでもうれしいわ。」
藍「ありがとう。…仕事に戻るわ。」
霊夢「…待って。」
藍「何?」
霊夢「博麗の巫女たる者、大結界の状態を間近で把握しておくことも必要よね。」
フランドール「咲夜、ドレスを用意しなさい。純白がいいわね。」
咲夜「はい、ただいま。」
フランドール「咲夜、タキシードを用意しなさい。夜のように黒いやつよ。」
咲夜「かしこまりました。」
フランドール「咲夜、指輪を2つ用意しなさい。プラチナで飾り気の無いものがいいわ。」
咲夜「すぐ手配いたします。」
フランドール「…咲夜、私と結婚しましょう。」
咲夜「お断りします。」
フランドール「…えっ…。」
咲夜「妹様には、ドレスがお似合いです。」
フランドール「…?」
咲夜「妹様、私と結婚してください。」
フランドール「…喜んで。」
- 世界の中心でロリコンをカミングアウトした吸血鬼 -
光なき夜に汝ら陽光、住まう場所なし。
乾いた。
飢えた。
糧となれ!
レミリア・インパクト!
- 東方地霊伝 26話「霊夢」 -
早苗「ああ…、強い…。
ばたんキュ~…。」
霊夢「はぁはぁ、これでひと段落ね。
常識だかなんだか知らないけど、なに考えてるのかしら。」
紫「霊夢!」
霊夢「なによ。一体…、っ!?」
紫「神じゃないようね。」
霊夢「妖怪!?第三の目!?」
こいし「…逢いたかった。逢いたかったわ!、人間!」
霊夢「スペルカード!?」
こいし「お姉ちゃんとペット達の仇、討たせてもらうわ!この無意識を操る程度の能力で!」
霊夢「っ!」
こいし「なんと!、まさしく仇の巫女さんじゃない。
やっぱり、私とあなたは運命の紅い糸で結ばれていたようね!」
こいし「そう!戦う運命にあった!」
霊夢「っ!」
こいし「ようやく理解したわ。私はあなたの圧倒的な容赦のなさに私は心奪われた。
この気持ち…、まさしく愛よ!!」
霊夢「愛!?」
こいし「でもね、愛を超越すれば、それは憎しみになるの。
行き過ぎた信仰が、内紛を誘発するように!」
霊夢「それが分かっていながら、なぜ戦うの!?」
こいし「妖怪に戦う意味を問うとはね!ナンセンスよ!」
霊夢「あんたは歪んでいる!!」
こいし「そうしたのはあなたよ!
心を垂れ流す、他者という存在よ!」
霊夢「なに!?」
こいし「だから私は目を閉じた。
幻想郷なんてどうでもいい。
自分の気の向くまま、好きに生きればそれでいい!!」
霊夢「あなただって幻想郷の一部よ!」
こいし「あなたには分からないでしょうね。
幻想郷の声というものがっ!!」
霊夢「あんたは自分の目の前の問題から逃げているだけよ!
あんたのその歪み、この私が断ち切る!!」
こいし「よく言ったわ。人間!!!」
霊夢「夢想封印!!!」
こいし「サブタレイニアンローズ!!!」
こいし「おねえちゃん…。仇は…。」
文「やれやれ。私としたことが、まさか手帳を落としてしまうなんて。
まぁでも無事取り返せたし、今度からは…
ああっ!
写真が抜かれてる!!!」
- エターナルミーク -
戦いは終わりとなった。
熾烈を極めた戦いは、結果的に見れば幼き吸血鬼の完膚なきまでの負けであった。
完全な決着を望んだ吸血鬼は自らが科していた弱点という名のハンデの全てを取り払い、大賢者たる隙間妖怪も自らの力の全てを解き放ち雌雄を決していたのだった。
だが、いくら数百年の長きに渡り生きながらえ、強大な力を持った吸血鬼といえど、千年以上の経験と知識を持つ大賢者たる隙間妖怪には手も足も出なかったのである。
突如として幻想郷に現れ、一時は数多くの妖怪達を屈服させるにまで至ったレミリア・スカーレットは、今ではその心臓を完全に握りつぶされ地面に大の字に倒れていた。
はっきり言ってしまえば、死である。
いかに強大な力を持とうともその心臓が完全に失われれば、当然息絶えることとなってしまう。
心臓を抉り出され、紅く染まるかつて、つい先ほどまで吸血鬼だった「もの」を見下しながら、八雲紫は湖畔の反対側に目をやった。
紫の介入によって勢い付いた妖怪達が、まさに群れを成して紅魔館と吸血鬼たち一派が呼ぶ、幻想郷という土地とはひどく不釣合いな館に攻め込もうとしていた。
それを複雑な表情で見つめていたのである。
大結界を張ってから妖怪達は気が緩む一方だった。
人間という天敵にして糧となる存在を前にしながら、戦いを禁じられ、外から供給される人間を労せず得る生活の中で、妖怪達からはいつしか闘志、戦意、そういったものが失われていったのである。
それが百年以上積もった結果がこの有様だった。
自身の知っている、かつての人間に脅威を振りまく強大な妖怪という存在ばかりであれば、こんな事態にはならなかったのかもしれない。
吸血鬼に対して遅れをとることなく、適度に負けて、適度に勝って、そして互いにしこりなく和解という形で落ち着いただろう。
そうなっていれば、この戦いで妖怪達が致命的に傷つくこともなかっただろう。
そう思うと奥歯を噛み砕かんばかりである。
妖怪という存在の安息を追及する余り、肝心なことを忘れていた紫自身の、決して軽くはない過ちであった。
だが、例え自らの過ちが引き起こしたことだとしても、紫にはどうしても許すことが出来なかったのである。
この楽園を乱し、汚し、歪ませた吸血鬼に対して怒りを抱いたのであった。
千年以上の長きに渡り、見届け、愛し、手塩にかけたこの幻想郷を、土足で踏みにじったレミリア・スカーレットという名の悪魔を必ずこの手で絶命させる、と心に誓い、それを今果たしたのであった。
…そのはずだった。
紫「っ!?そんな馬鹿な!?なぜ動く!?心臓をつぶされてまで!
…おのれ、この死に損ないがっ!
…あくまで抵抗するのならば…、完全な無を貴様にくれてあげるわ!」
紫が目にしたのはあり得ない光景であった。
心臓を失い息絶えたはずの吸血鬼が今まさに立ち上がろうとしていたところだった。
咲夜(…お嬢様、…お嬢様。)
心臓を失い完全なる死の寸前であった、レミリアは薄れ行く意識の中で唯の一つ、聞き覚えのある声を聞いていた。
それは自身の忠実なる従者にして、自身が信頼を置く数少ない存在の一人、十六夜咲夜のものだった。
その声を聞きながら、脳裏にはかつての記憶が順に呼び覚まされていった。
咲夜との始めての出会い。
それだけではない。
その他、意気投合し、あるときは助け、またあるときは助けられた、真に仲間と呼ぶことの出来る者達。
そんな仲間達が今まさに妖怪達の津波の如き力に完全に飲み込まれようとしていた。
救いたい。
護りたい。
ただそれだけが、今の死に掛けのレミリアが考えることの出来る全てだった。
心臓はつぶされてしまって、動くことはおろか生きることするもう不可能に近い。
それでも、それでも必死に指を動かし、羽ばたき、立ち上がろうとしていた。
紫「有と無の狭間に消えなさい、吸血鬼!
紫奥義「弾幕結界」」
紫は自らの力の全てを解き放って、最後の一撃をレミリアに対して加えようとしていた。
死体すら残らず、無の存在へと成り果て消えさる結界の力が放たれる寸前であった。
その時、レミリアはついに動くことが出来たのである。
自らの死などどうでもいい、目の前の妖怪も、この幻想郷でさえも…。
今、頭に、心にあるのはただ護ろうとする意志のみだった。
それがレミリアに対して力を与えた。
止めどなく漏れ出ていた血が、逆にレミリアの体へと入ってきて赤血球の一つ一つが力を生み出していた。
中枢たる心臓が失われ、循環するはずのない血がレミリアの全身を、まるで意識を持ったかのように流れ、全身に力を与えていった。
光を失い、うつろだった瞳には目を背けたくなるほど邪悪な紅色が宿っていた。
もちろん、レミリアは未だ虫の息である。
それでもこれほどまでの力を生み出し、死を超えた、その全てはひとことで表すことが出来る。
そう、まさしく「奇跡」だった。
レミリア「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」
結界の力が放たれようとする、まさにその時、レミリアの放った紅い瘴気に包まれた一本の槍、アースガルドの主神オーディンの持つ神器と同じ名を持つ、紅い槍が紫の体を貫いたのだった。
紫「がはっ!
…認めないわ…。吸血鬼の力など…、」
唐突にして、致命的な一撃を受けた紫はその場に崩れ去った。
大きな隙を突かれ、体を貫かれてなお、重傷であれど持ちこたえたことは紫がいかに強大な力を持っているのかを端的にあらわしていた。
互いに致命打を受けた両者は、その時、理解した。
この戦いが引き分けに終わったということに…。
小悪魔「妖怪総攻撃まで後61秒」
メイド妖精A「防御結界を張れ!」
美鈴「無駄よ!それが何になる。」
紅魔館では、今まさに最後のときを迎えようとしていた。
大量の妖怪達は間近に迫り、一方の紅魔館側はすでに何の抵抗も出来ずにいた。
時間を操る力も、
莫大な知識と魔法の力も、
心技体を極めた純粋な力も、
全てを破壊する力も、
大量の妖怪達の前では完全に無力だった。
どれだけ弱ろうとも吸血鬼に襲われようとも妖怪達も一体一体がそれぞれ力を持っていた。
戦う意志を失い弱った力でも、安息の中で使い道のほとんどなかった力でも、合わさればあらゆる力に対抗することが出来る。
皮肉なことに吸血鬼という存在がもたらした力と恐怖が、幻想郷中の力を平穏から呼び覚ましたのだった。
咲夜「…これが私達の運命だというのですか、お嬢様。」
咲夜は一人決して届くはずのない主に向かって、呟いたのだった。
レミリアは傷をおして紅魔館へと向かって飛んでいた。
自身の傷は癒えてはおらず、死から解き放たれたといっても致命傷には変わりなく、絶対安静と長い休息が必要だった。
同じような状態となった紫は、飛び立つレミリアを追う事もせず、ただその後姿を見つめるのみであった。
ひょっとしたら自らの過ちの大きさに押しつぶされているのかもしれない。
とはいえ、今の状態の自分に何が出来るのだろうか、レミリアの脳裏にはそんな考えが無尽蔵に湧き出ていた。
この傷だらけの状態で妖怪の群れに飛び込んだとしても、倒せる数はたかが知れていた。
ハンデをなくしたとはいっても、レミリアは夜の住人である。
この太陽の輝いている状況では100%の力は出せても、それ以上の力を出すことは不可能であった。
すなわち万事休すである。
レミリア「…紅魔館がっ…。」
レミリアは先ほど自身におきた奇跡を、歯がゆくも思っていたのである。
間に合わないのなら、なにもできないのなら、どうして、と。
そんなレミリアの心にまたしても聞き覚えのある声が響いていたのだった。
だがそれは、先ほどのものとは違いはっきりとした意志と共にレミリアに対して向けられたものだった。
パチュリー「…レミィ、レミィ。
今こそ放つのよ。
全てを終局に、始まりに導く、紅き十字を!」
それは今まさに危機迫る友人の声だった。
彼女の言う、紅き十字。
それはレミリアの最大の一撃、解き放てば山すら崩れ消え飛ぶほどの強大な魔力の放出による一撃を意味していた。
レミリア「十字…。…でも、それには太陽が邪魔なの。
日没までにはまだ…。」
パチュリー「私の魔力の全てを使って、太陽を沈めるわ。」
レミリア「太陽を!?」
太陽を沈める。パチュリーははっきりとそう言った。
確かに彼女は百年以上の長きに渡り、知識と魔法を高めた大魔女と呼んで差し支えない存在である。
だが、そんな彼女でも、自然現象を弄るほどの大魔術を行使すれば、最悪どうなるのか、レミリアには分かってた。
そして、今の状態で最大の一撃を放つことで自分自身がどうなるのかも。
…今、友人が命の全てを賭けようとしていた。
ならば、自分が賭けないわけにはいかなかった。
この危機の全てを終わらせるために、残った者たちが新たなる生き方を始めるために、レミリアは残る全ての力を集めたのだった。
美鈴「なんなの?いったいどうしたというの?」
メイド妖精B「日没です!太陽が沈みました!」
辺りは唐突に闇に包まれた。
信じられないことが起きたのた。
日没である。
まだ、数時間以上あった昼という時間が終わり、幻想郷は漆黒の夜に包まれたのだった。
妖怪達は突然の日没に若干の驚きを見せたものの、その程度で足が止まるほど、にわかな意志を持つものは誰一人いなかった。
彼らはただ平穏という名の全てを取り戻そうと必死だったのである。
吸血鬼が現れて、戦いの中で多くのものを失い、苦しみが突きつけられて、ようやく妖怪としての意志を取り戻したのだった。
そこにはかつての安息の中でだらける愚かな者はいなかった。
そこにいるのは、幻想郷という名の故郷を守り抜こうとしている防人達のみであった。
咲夜「太陽が…。
お嬢様!!」
異常な事態を前にして、咲夜は一言、主の名を呼んだのだった。
今がそのときであると伝えるためだろうか、
それとも、主の決意を止めようとしての、精一杯の抵抗だったのだろうか、
それは誰にも分からなかった。
レミリア「神鬼「レミリアストーカー」!!!」
レミリアは両手を広げ、全身で十字を作ると、集めた力の全てを妖怪の群れへと放ったのであった…。
-第118季-
-Blood Rain to the Elysion-
-門は撃ち抜かれ、本の間に風が流れ、絨毯には黒く、赤く足跡がついていた-
レミリア「おい。チグリス・ユーフラテス、チグリス・ユーフラテスはどこだ?」
咲夜「はい、お嬢様。ちなみに、お嬢様にご報告がございます。」
レミリア「あなたは口を挟…、なによ?」
咲夜「良い知らせと、悪い知らせがございます。」
レミリア「悪い知らせから聞くわ。チグリッパ。」
咲夜「…お聞きになりますか。」
レミリア「なるわよ。」
咲夜「…人間がお屋敷の内部50箇所を完全に制圧いたしました。」
レミリア「情け容赦なしね。」
咲夜「左様でございます。」
-紅い全てを土足で踏みつけ、それらは徐々に月明かりの中でだた佇む文字盤に向かってくる-
-そんな気配が感じられた-
咲夜「我らが大賢者パチュリー様はこのような恐るべき事態を想定してこう記しています。」
レミリア「恐れ知らずね。」
咲夜「第十一章六節、ラストスペル。」
レミリア「なんと。」
咲夜「あるいはファイナルエクステンド。」
-音も無く魔女が一人姿を見せた-
パチュリー「遠い昔…。
遠い昔、世界の中心であった。
鷹はまやかしの魚介類に立ち向かい、性別は変わり、絆は地獄の果てまで繋がり…」
レミリア「基板でやったわ。」
パチュリー「…蜂は怒り狂った。」
咲夜「こちらにもそう書かれております。」
レミリア「テーブルマナーについて書かれた本だと思っていたわ。」
-妖精たちの悲鳴が刹那に鳴り響く-
-ほぼ同時に崩れる音、破裂する音、その他破滅に属する音が順に、時に同時に鼓膜を揺らす-
パチュリー「っ!」
咲夜「くっ!
お嬢様お逃げください。ここは私に…」
レミリア「あなたは口を挟まないで、十六夜咲夜。」
咲夜「…!」
レミリア「私の名前はレミリア。日本国 幻想郷 紅魔館主――、
レミリア・スカーレット。」
-それまであった、あどけない少女の顔が消え去る-
-目を背けたくなるほどの邪悪な笑みを残して-
咲夜「さすがでございます。その構え、名古屋撃…」
レミリア「オーラ撃ちよ。」
-紅く黒光る槍と雪鏡の如きナイフが遥か先を睨み付ける-
レミリア「では、良い知らせを聞かせなさい。」
咲夜「お聞きになりますか。」
レミリア「わくわくするわね。」
-幼き魔候、ここにあり-
-千の針と自らに抱かれし幻想を以って、職人のごとく紅を紡ぐ-
-今宵、楽園は紅となる-
- その時、奇跡が起こった! -
霊夢「あんたが元凶ね。」
紫(ずいぶんと派手なことをしでかしてるわね。)
萃香(馬鹿げたもの飲み込んでくれたわ。)
文(そのわりに頭の方は弱すぎるようですね。)
霊夢「観念しなさい。アホ鴉。」
空「自分達の身勝手な理由でこの地底を荒し、
そのうえ、私のこの力を奪おうとするお前達を、絶対に許さない!」
-シュキン!-
空「変身!」
-キュルリリーン!-
-シュン、シュン!-
空「私は地底の太陽!
霊烏路 空!RX!」
- 盗んでるんじゃないぜ。死ぬまで借りるだけだぜ! -
- 私は博麗の巫女としての責務を果たしているだけよ。 -
- 主を引き立てるのが従者の役目です。 -
魔理沙「こいつは借りてくぜ。私が死ぬまでな!」
パチュリー「こら、待ちなさい。まったく。」
魔理沙「こいつは借りてくぜ。私が死んだら取りに来な!」
アリス「…はぁ、まったく。」
魔理沙「こいつは借りてくぜ。そのうち返すぜ!」
霖之助「やれやれ。」
魔理沙「また、いろいろ借りてきたぜ。」
阿求「いつもありがとう。」
「…ねえ、魔理沙。」
魔理沙「どうした?」
阿求「どうしていつも私の頼みを聞いてくれるの?」
魔理沙「…決めたんだ。少しでも多く阿求のやりたいことができるよう、私が手助けするって。」
阿求「…ありがとう。じゃあ一つ欲しいものがあるんだけど。」
魔理沙「私に任せてくれ。」
阿求「…魔理沙を借りてくわ。私が死ぬまで。」
魔理沙「…借りられるぜ。」
霊夢「…。」
藍「寂しそうね。」
霊夢「…珍しいわね。何か用かしら。」
藍「紫様に頼まれたのよ。」
霊夢「嘘でしょ。」
藍「ええ。」
霊夢「じゃあ、さっさと仕事に戻りなさい。あいつに怒られるわよ。」
藍「怒られてもいいから、あなたを笑顔にしたいの。」
霊夢「…大切な人が怒られてるときに笑顔になれるわけが無いじゃない。」
藍「…ごめん。」
霊夢「その気持ちだけでもうれしいわ。」
藍「ありがとう。…仕事に戻るわ。」
霊夢「…待って。」
藍「何?」
霊夢「博麗の巫女たる者、大結界の状態を間近で把握しておくことも必要よね。」
フランドール「咲夜、ドレスを用意しなさい。純白がいいわね。」
咲夜「はい、ただいま。」
フランドール「咲夜、タキシードを用意しなさい。夜のように黒いやつよ。」
咲夜「かしこまりました。」
フランドール「咲夜、指輪を2つ用意しなさい。プラチナで飾り気の無いものがいいわ。」
咲夜「すぐ手配いたします。」
フランドール「…咲夜、私と結婚しましょう。」
咲夜「お断りします。」
フランドール「…えっ…。」
咲夜「妹様には、ドレスがお似合いです。」
フランドール「…?」
咲夜「妹様、私と結婚してください。」
フランドール「…喜んで。」
- 世界の中心でロリコンをカミングアウトした吸血鬼 -
光なき夜に汝ら陽光、住まう場所なし。
乾いた。
飢えた。
糧となれ!
レミリア・インパクト!
- 東方地霊伝 26話「霊夢」 -
早苗「ああ…、強い…。
ばたんキュ~…。」
霊夢「はぁはぁ、これでひと段落ね。
常識だかなんだか知らないけど、なに考えてるのかしら。」
紫「霊夢!」
霊夢「なによ。一体…、っ!?」
紫「神じゃないようね。」
霊夢「妖怪!?第三の目!?」
こいし「…逢いたかった。逢いたかったわ!、人間!」
霊夢「スペルカード!?」
こいし「お姉ちゃんとペット達の仇、討たせてもらうわ!この無意識を操る程度の能力で!」
霊夢「っ!」
こいし「なんと!、まさしく仇の巫女さんじゃない。
やっぱり、私とあなたは運命の紅い糸で結ばれていたようね!」
こいし「そう!戦う運命にあった!」
霊夢「っ!」
こいし「ようやく理解したわ。私はあなたの圧倒的な容赦のなさに私は心奪われた。
この気持ち…、まさしく愛よ!!」
霊夢「愛!?」
こいし「でもね、愛を超越すれば、それは憎しみになるの。
行き過ぎた信仰が、内紛を誘発するように!」
霊夢「それが分かっていながら、なぜ戦うの!?」
こいし「妖怪に戦う意味を問うとはね!ナンセンスよ!」
霊夢「あんたは歪んでいる!!」
こいし「そうしたのはあなたよ!
心を垂れ流す、他者という存在よ!」
霊夢「なに!?」
こいし「だから私は目を閉じた。
幻想郷なんてどうでもいい。
自分の気の向くまま、好きに生きればそれでいい!!」
霊夢「あなただって幻想郷の一部よ!」
こいし「あなたには分からないでしょうね。
幻想郷の声というものがっ!!」
霊夢「あんたは自分の目の前の問題から逃げているだけよ!
あんたのその歪み、この私が断ち切る!!」
こいし「よく言ったわ。人間!!!」
霊夢「夢想封印!!!」
こいし「サブタレイニアンローズ!!!」
こいし「おねえちゃん…。仇は…。」
何故その状況になっているのかが分からない。
こういう糞真面目な顔をしたギャグ作品、好きだなあ。