Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

東方Project VS 仮面ライダー龍騎:第5話 終焉のトリガー

2016/05/27 06:27:06
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冷えた空気が心地良い朝。弱火でじっくりと炊いてきた釜飯の香りが漂ってきた。
ほんの少しだけ蓋を開け、中の様子を確認する。よし、水気は十分に飛んでいる。あとは蒸らすだけだ。
燃えた薪を取り出し、加熱を止める。蒸らしの間に味噌汁の仕上げに取り掛かろう。

「吾郎さんおはよう、わーいい匂い!」

その時、後ろで女の子が声を上げた。大きなウサギ耳が印象的だ。本物なのか、つけ耳なのかは何となく聞けていない。
たしか、鈴仙・優曇華院・イナバというすごく長くて珍しい名前だった。
彼女の方から“鈴仙って呼んでくださいね!”と言ってくれたので助かった。

「おはようございます、鈴仙さん。もうすぐできますから」
「期待していいよウドンゲちゃん。ゴロちゃんの料理は天下一品だからね」

先生も目が覚めたようだ。ネクタイを外したYシャツ姿で厨房を覗きこんでいる。味噌汁に最後の具材を入れながら挨拶する。

「先生、おはようございます」
「おはよっ、ゴロちゃん」
「秀一さんまで師匠みたいに呼ばないでくださーい……」

ジト目で先生に抗議する鈴仙さんだが、先生が止める気配は今のところない。

「ねぇねぇゴロさん、朝ごはんまだー?お腹すいたー」

とててて、と廊下を走ってきた小さな女の子は因幡てゐ。この子もウサギ耳をしているが、やはり何となく聞きづらい。

「こーら、皆に“おはようございます”は?」
「あ、みんなおはよう!」

まるで姉妹のようだ。聞くところによると、この子も鈴仙さんも人間より遥かに長生きをしてきたそうだが、
見た目相応の少女にしか見えない。さて、そろそろ蒸らしも終わった頃合いだろう。
炊きあがったご飯をお櫃に入れて朝食の準備は完了だ。

「鈴仙さん、すいませんけど、八意先生達を呼んできてもらえますか?ご飯、できたんで」
「はい。ついでにお膳も準備しときますね。ほら、てゐも手伝って」
「えー」
「ありがとうございます」


──


仮面ライダーゾルダこと北岡秀一と、その秘書兼ボディーガード・由良吾郎は、ここ永遠亭に身を寄せている。
これも慧音の取り計らいだ。薬売りが商売とはいえ、力仕事も無いわけではないので、
少し男手があっても良いのではと永遠亭の面々が考えたことと、何より北岡の病魔について知ったことがきっかけだ。
永琳が診察すると、確かに外界の医療技術では末期状態とされてもおかしくない状態だったが、
月の天才と称された彼女の手にかかれば手製の飲み薬で治る病気。早速調合に取り掛かろうとした。しかし。

「ライダーバトルの動機を削ぐ真似をするな」

どこからともなく声が響く。神崎士郎だった。姿見の中からコートを着た男が話しかけてきたのだ。

「どなたかしら。生憎名乗りもしない不躾な方の指図を受けるつもりはありませんの」

永琳は右手に霊力を込める。一張の弓が現れ、永琳は素早く姿見に向けて矢をつがえた。
だが、神崎は構わず続ける。

「俺のことはどうでもいい。警告を無視するなら相応の報復を行う」

永琳は返答せず矢を放った。姿見が粉々になるが、鏡の破片から尚も神崎は語り続ける。

「具体的な話をしよう。北岡を助けたいなら好きにしろ。但し、因幡達にはこの鏡と同じ運命を辿ってもらう」

「……何ですって」

一対一の戦いなら不死身の自分が負ける気はしない。しかし、永遠亭には因幡という人の型を得たウサギたちが十数名暮らしている。
もし、ここにミラーモンスターの大群を放たれれば、全員を守り切る自信はない。

「北岡が助かる方法はただ一つ。あいつ自身がライダーバトルに勝利することだけだ」

「くっ……お前は……あの人達を戦わせて何をしたいというの!?」

「知る必要はない」

それだけ答えると次の瞬間には神崎は消えていた。助けられる患者を見殺しにしなければならないなんて。
永琳にとってこれほどの屈辱はなかった。後には砕けた鏡の破片が残るだけだった。


──


「じゃあ、俺はぐーやん起こしてくるよ」

「お願いします。あの人、なかなか起きてくれないんで……」

苦笑交じりに吾郎がいう。初めは本物のかぐや姫だと聞いて驚いたが、
その生活ぶりは、なんというか自堕落で、子供の頃にお伽話で抱いたイメージが崩れた。
でも、天真爛漫で明るいところが微笑ましい。

「任せといてよ。俺は弁護とぐーやん起こしのプロだからさ」

軽口を叩いて秀一は輝夜の寝室へと去っていった。


10分後、広間に永遠亭のメンバー全員が集まり、朝食の時間となった。

「うーん、秀一ってばあんな起こし方しなくてもいいでしょ~」
「いつまでもぐーすか寝てるからあんな起こし方になるんだよーん」

一番最後に入ってきた輝夜があくびをしながら文句をいい、秀一がふざけた調子で返す。
ちなみにどんな起こし方をしているのかは吾郎にも教えられていない。
一度吾郎が興味本位で尋ねたが、“武士の情け”とやらで教えてもらえなかった。
ともあれ、全員が食事の時間に席につくことができた。そして、

「「「いただきます!!」」」

皆が待ってましたとばかりに朝食を口に運ぶ。

「んー!この干物の焼き加減最高!」

鈴仙が感激した様子で炙ったヒラメの干物を食べている。

「本当、どうして同じお米なのに炊く人によってこんなに違うのかしら」

やっと完全に目が覚めた輝夜も吾郎の炊いた白飯を賞賛する。

「でしょう? さあ、八意先生も冷めないうちにゴロちゃんの逸品をご賞味あれ!」

「え、あら、そうね。あの、秀一さんも吾郎さんも私のことは“永琳”とお呼びになって。
みんなもそうしてるから。“先生”二人じゃややこしいでしょう」

「恐縮です。ではそうさせていただきます」
「すみませんねぇ、助かります」
「もー、なんで永琳は“先生”で私は“ぐーやん”なのよ。しかもタメ口だし!」
「いいじゃん。かわいいよ“ぐーやん”」
「かわいくない!そこは“姫”でしょ“姫”!」

ふふ、と上品な笑みを浮かべる永琳。しかし、その笑みに隠れた僅かな影には誰も気づかない。
自分にできるのは病の進行をわずかに遅らせる薬を、こっそりお茶に混ぜることくらい。
どこで神崎が見張っているかわからない。こんなことしか出来ない状況が口惜しい。


2人の性格が幸いし、秀一と吾郎は女性ばかりの永遠亭にすぐに馴染むことができた。
秀一はどれほど不利な裁判も無罪に持ち込むほどの天才弁護士でありながら(時に決して褒められない手も使うが)、
それを感じさせないフランクな態度と絶妙な距離感で相手を構えさせない。
また、吾郎は口数が少なく大柄な体型だが、どこか優しい眼差しが、女性が抱く警戒感を解きほぐす。そのため、幼い因幡達によく懐かれる。

「ゴロさーん、遊んでー」
「また肩車してー」
「ごめん。お皿、洗わないと。使った分の薪も割らないと足りなくなるから、後でね」

今も、桃色のワンピースを着た小学生くらいの因幡2人に遊び相手をせがまれているが、
朝食後はやることが山積みで、遊んであげられるのはしばらく後になりそうだ。

「じゃあわたしも手伝うー」
「早く終わったら早く遊べるでしょ?」
「ありがとう。じゃあ、薪を取りに行こうか。薪を割るときは離れててね」

炊事場の裏から薪の保管場所へ出る3人。永遠亭は竹林の中にあるため、
外に出れば風に吹かれた笹のサラサラとした心地良い音色が聞こえてくる。良いところだな、と風情を味わう吾郎。
しかし、それも長く続かなかった。1体のミラーモンスターがゆっくりと近づいて来たのだ。
鋭い鉤爪と太い針のような口。茶色を基調とした姿は蝉の怪物を思わせた。すかさず因幡達に告げる。

「2人とも、先生呼んできて。あと、絶対戻ってきちゃ駄目だ。早く!」

当然ライダーである秀一も既に気づいているだろうが、放置しておくわけにはいかない。
吾郎はミラーモンスターに向かって駆け出す。蝉のモンスターが鉤爪で突き刺そうとするが、素早い身のこなしで回避すると、強力なクロスカウンターを浴びせた。
思わぬ反撃に一瞬敵がよろめいた隙に、掌打、アッパー、右フックと連撃を叩き込む。
そして、最後に強烈な回し蹴りを決め、敵が後ろに飛ばされた瞬間、追い打ちをかけるように、どこからか銃撃が3発撃ち込まれ、モンスターは粉砕された。

「ゴロちゃん、怪我ない?」

既に変身したゾルダが銃型武器・マグナバイザーを固定させるため、左腕に右手を乗せたまま呼びかけてきた。

「俺は大丈夫です!それより東からまだ来ます!」
「オッケー、後は任せてゴロちゃん!」

今度は3体、先程と同じタイプの蝉型ミラーモンスターが飛んできた。
ゾルダは即座にカードをドロー。マグナバイザーのマガジンスロットにカードを装填した。

『SHOOT VENT』

カードの力が開放されると、ゾルダの両手に巨大な大砲が出現した。標的は3体の中央。
十分に腰を落として重量のある大砲で狙いを定める。

「照準オーケー、さあ吹っ飛べ!」

トリガーを引くと轟音とともに砲弾が発射され、狙い通り中央のモンスターに命中。爆発の衝撃で他2体も微塵に吹き飛んだ。

「ちょっと、人ん家の庭で暴れてるの誰~?」

のんきな調子で輝夜も裏口から出てきた。

「あぁ、ぐーやん。なんか変な虫が湧いちゃってさ、ちょっと駆除手伝ってくんない?」
「ぐーやん言うな!まぁ、いいけど。気色悪い虫は私もご免だし」
「先生、また正面からです!」
初めに吾郎がモンスターと遭遇した方向からまた5体。どんどん数が増えている。

「ふーん。朝の準備体操にはなるかもね」

輝夜は懐から、色とりどりの宝珠が付いた枝のようなものを取り出し、霊力を込めだした。
すると宝珠が輝きだし、周囲が明るく照らされた。

──神宝「蓬莱の玉の枝 ─夢色の郷─」

輝夜がスペルカードを発動すると、カラフルな霊力の弾があちらこちらに現れ、分裂しながら敵を追い詰めるべく、
華麗な模様を描きながらモンスターの方へ迫っていった。
そして、四方八方から押し寄せる弾幕にパニックに陥ったまま、5体のモンスター達は蜂の巣となり、四散した。

「凄いですね、輝夜さん……」

弾幕の美しさに目を奪われた吾郎が思わずつぶやく。
気を良くした輝夜は、片手間ついでから、完全に迎撃体制に入った。

「ふふん、私もやるときはやるのよ。さぁ、どんどんいらっしゃい!」


その頃、永遠亭正面は少しばかり苦戦していた。
永琳の力なら実体化したミラーモンスターなど容易に撃退できると踏んでいたのだが、数が予想外に多かったのだ。
ざっと見てもその数20。遠目に見ると、竹林の奥からまだまだ飛んでくる影がある。
ウドンゲを、中に避難している因幡達の護衛に付けず、2人で確実に仕留めるべきだったかもしれない。
いや、今更考えても仕方ない。自分一人で片付ければ何も問題はない。永琳は弓を構えた。
次の瞬間、3匹のモンスターが一気に飛びかかってきた。

「舐めるな!」

悠長に一匹ずつ相手などしてられない。永琳は一度に霊力の矢を3本番えると、電光石火の速さで全てのモンスターを射抜いた。
息つく間もなく、第二波が襲ってくる。数7。永琳も空を飛べるが、下手に竹林で空中戦を演じるより、壁を背に確実に数を減らしたほうが良い。
3本装填、発射、命中、回避、3本装填、発射、命中。命中率を維持して同時発射できるのは3本が限界。……!?
しまった、1体見失った! 探せ、近くにいるはず。岩陰?竹藪?
その時、直上から耳障りな羽音が。真上!?
気づいた時には遅かった。急降下した蝉型モンスターの鋭い口が永琳の右腕を貫いた。

「ぐっ……!!」

左腕で矢を実体化させ、モンスターの頭を貫き絶命させたが、その隙を狙って、別の個体が今度は左腕を刺した。

「うっ!ぐ……」

しまった!竹が密集して効果が薄いと判断したスペルカードすら使えなくなった!
再生が間に合わない。姫はまだ裏手、ウドンゲだけじゃ因幡全員を守り切るのは……!!
その時、1発の銃声が響く。同時に永琳を突き刺していたモンスターの頭が吹き飛んだ。
次の瞬間にはゾルダが駆けつけて来て、永琳の前に立ちはだかった。

「永琳さんすいません。ちょっとだけ竹林吹っ飛ばします」

仮面で秀一の表情は読み取れなかったが、その声色はいつものお調子者地味たものとは、わずかに異なっていた。

「何をする気!?」

永琳の問いかけには答えず、ゾルダはカードをドローし、マガジンに装填した。

『FINAL VENT』

「あいにく裁判官は不在でね。俺が代わりに宣告する」

ゾルダの足元に異次元のドアが開き、中から角を生やしたロボット型モンスター・マグナギガが姿を表した。
そして、ゾルダはマグナバイザーをマグナギガの背中にある差込口に挿入し──

「判決は、死刑だ」

トリガーを引いた。次の瞬間、マグナギガの前装甲が開放され、内部に隠された全身の兵器が一斉に全門発射された。
レーザー砲、誘導ミサイル、ガトリングガン。圧倒的火力で、数に頼ったミラーモンスターの群れは粉砕され、
火力が及んだ範囲ではいくつもの大爆発が起きた。前方広範囲の全てを破壊し尽くす「エンドオブワールド」。
ゾルダのファイナルベントでまさに敵の世界は終わりを告げた。

「外界の弾幕も結構なものね……」

裏手を片付けて到着した輝夜が驚いて目を見張る。
そんな輝夜に構うことなく、永琳は辺りを見回し竹の生い茂る空に向かって叫ぶ。

「一体これは何の真似!? 私たちがなにをしたというの!」

「貴様が一番よく知っているはずだ」

神崎の声が響いてきた。石のくぼみに溜まった朝露にその姿が見える。

「……どういう意味?」

「突然、空の湯呑みに粉末が現れた時は何事かと思ったぞ」

湯呑み……? 湯呑み!!
心当たりといえばあれしかない。秀一にこっそり飲ませていた病の緩和薬。

──

永琳は小さく折りたたみ、こっそり手に忍ばせた紙片を湯呑みの上で開く。
さらさらと白い粉が湯呑みに落ちる。そして、すかさず急須でお茶を注いだ。

“秀一さん、お茶がまだでしてよ”
“あ、どうもありがとうございます!”
“永琳さんすみません、気づかなくて”

──

「まさか、湯呑みのお茶まで見張っていたというの!?」

「俺は日がな一日湯呑みを眺めているほど暇ではない。
既にミラーモンスターはこの幻想郷のあらゆる場所に配置してある。もちろんミラーワールドのほうにだが。
しかしそちらで動きがあれば当然鏡写しのミラーワールドにも変化が起こる。
俺はただモンスターに不審な兆候があれば報告するよう命じただけだ」

「なんてこと……」

「最後の警告だ。まだ似たようなことを繰り返すつもりなら、これを遥かに上回る戦闘を覚悟しておけ」

そして神崎の姿は消滅した。例え少しでも延命処置をしている間に状況が変わってくれたら。
そんな僅かな希望すら打ち砕かれた。私は、彼を救えない。絶望感に脱力した永琳は膝の力が抜け、地面に手をついた。

「くぅ……ううっ……あああああっ……!!」

「師匠!大丈夫ですか!」
「永琳、どこかやられたの!?」
「さっき腕をやられたんだ、永琳さん、しっかりして!」

家族や秀一の問いかけにも答えることなく。ただ静かな竹林に永琳の嗚咽が響くだけであった。
気づいたら柄にもなくシリアスっぽくなってました。
AK
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