Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

スリーピング・ビューティーン

2009/05/28 16:39:26
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 陽の光が暖かい。
 穏やかな風は心地よい。
 膝の上で眠る子猫も愛らしい。

 うたた寝日和ね――と、妖は思った。

 彼女は口に手を当て欠伸をし、静かに瞼を閉じる――。

 寸前。

 膝の猫が駆けだす。
 風が強く吹き付ける。
 雨までもが降ってきた。



 今年一番の瞬間降水量。



「んが! それが世界の選択か!?」



 土砂降りの雨に吹き付けられ、マヨヒガに訪れていた八雲紫は握り拳を作ってそう吠えた。



「洗濯物洗濯物っ」
「や、貴女は外に出ない方がっ」
「椛の言う通りだぞ、橙。私に任せなさい」

 順に、橙、椛、藍。椛は遊びに、藍は紫に従いやってきていた。

 室内から出てきた三名が見たのは、けれど、ずぶ濡れの紫だけ。
 寒さからか怒りからか、肩がプルプル震えている。
 くちゅん、とくしゃみを一つ。

 真っ先に、藍が口を開いた。

「おぉ。虹が美しいぞ、フタリとも」
「他に言う事はないの、藍っ!?」
「わざとらしいくしゃみですね、紫様」

 目を逸らしたのは紫。自覚があるようだ。

 干してあったタオル――何故か水滴の一粒もかかっていなかった――を橙が取り、椛と二匹がかりで紫の髪や衣装を拭く。
 式の式である橙のみならず、椛にさえ、濡れた紫は普段よりも一層美しく思えた。
 感嘆の念をあげそうになるが、出過ぎたマネかと押し黙る。

 暫くして、紫は笑みながら二匹の頭を撫でた。

「ありがとう、フタリとも。もう結構よ。――離れていなさい」

 一転、鋭い眼差し。
 二匹に向けていた笑みも、形を変えた。
 好敵手を迎え撃つ、そんな挑発的な微笑を浮かべる。

 気迫に、橙と椛は身を震わせた。
 藍が、二匹の肩を掴み、やんわりと引き寄せる。
 紫の溢れんばかりの妖力が、更に増す。

「貴女がどれだけ私の意思を否定しようと、私は私を貫くわ――」

 眼差しは、大地に、空に――『世界』に向けられていた。

「フタリとも。紫様はあぁ見えてな」

 主の覚悟を読み取り、式は身を遠ざける。



「――『幻想郷』。私は、必ず寝てみせるわ!」
「物凄く大人げないんだ。物凄く」



 万感の思いが込められた溜息に、二匹は顔を見合わせ、結局、口を開けなかった。



 光よし。
 風もよし。
 小猫は逃がしていた。降りかかるであろう自然現象に小さな命を巻き込むのは、彼女の本意ではない。

 紫は小さく伸びをし、ゆっくりと瞳を細める。

 直前。

 震動。
 雷鳴。
 発火。

「や、やってくれるわね、幻ちゃんっ!?」

 体を揺らされつつ身を貫かれながら炎に包まれる紫。

「どうして紫様の周りだけ、色々凄い事になっているんだろう……」
「いやいや、全て自然現象。起こり得るものさ」
「ところで『幻ちゃん』って何方でしょう?」
「幻想郷」

 でも、めげない。

「くー! すぴー! すやすや!」

 途端、紫を直撃する宇宙の意思。
 もとい、石。
 隕石。

「げはぁ!? ちょっとおイタし過ぎよ! ゆかりん、真面目に結界張っちゃうんだから!」

 穿たれた腹部を再生させつつ、紫は妖力を解放し結界を結ぶ。
 範囲は彼女個人を包む程度のものだったが、その分、防御効果は絶大だ。
 如何な自然現象に妨げられようと防ぐ自信があった。仮に、ビックバンが巻き起こされようと。

 陣を結び終え、いからせた肩を沈める。
 呼吸はすぐに収まり、心拍も落ち着いた。
 頭を数度指で弾く。睡眠を催すデルタ波を呼び起こす為だ。

 蚊帳の外で三名が見守る中、万全の状態を整え、紫は四度目の正直とばかりに瞳を閉じた。

 瞬間。
 向かい来る旋風。
 紫のみを狙う風は、疾く鋭い。

 けれど、結界の大妖は薄く笑う――。



「甘いわ、幻ちゃん。
 私の結界にとってその程度はそよ風。
 いいえ、自然現象ならば、全ての……ふぇ?」



 ――吹き飛ばされながら。



「ラ・ヨダソウ・スティアーナぁぁぁ!?」



 飛んでった。



「結界の特性を限定し過ぎたんだろうなぁ……なぁ?」
「あややややぁぁぁぁぁ!?」
「――文、っと」

 旋風に遅れ、突っ込んできたのは射命丸文。
 縁側に激突する寸前、両手を広げ、藍が押し留める。
 必要はなかったのかもしれない――などと思いながら。

 心配げに駆け寄る椛に手を振りながら、文は首を捻る。

「なんか、急に妖力が溢れた……なんなのよ……」

 驚きの為か、珍しく素の口調での発言。

「制御を狂わせる陣でも張られていたんだろう。気にするな」
「あー、確かに今はどうともないわねぇ。……なんでよ」
「話すとややこしいんだが……」

 藍は微苦笑を浮かべつつ、事の始めからを文へと伝えた。

 タイトル。
 寝ようとする紫。
 妨げるのは世界――幻想郷。

 聞き終え、文は藍へと半眼を投げつける。

「……タイトル?」
「うむ。まぁ、余り真面目に語るつもりもない」
「自然現象の風じゃなくて妖力が沁みた風を利用したって事?」

 頷く藍。

 投げやり極まりない解説から自身に関する事だけを掴み、文はとりあえず納得した。
 仮に今、突っ込んで尋ねてもはぐらかされるだけだろう。
 既に解説者は、弾幕ごっこに興じる二匹に釘付けだった。

「迎えに来たんだろう?」
「まぁね。ちょっと早かったみたいだけど」

 藍が座る縁側の隣に腰を下ろし、文も二匹を眺める。

「どっちが優勢?」

 椛と橙。前者は単体だが、後者には前鬼と後鬼、加えて、式がついてる。

「椛だな。以前よりも、また力が増してないか?」
「超エリートですもの。スペルカードはまだだけどね」
「とは言え、通常弾がスペルカード並じゃないか」
「避けにくいのよねぇ。――賭ける?」
「橙一択」
「早!?」



 ――数時間後。



 遊び疲れた橙と椛はすやすやと寝息をたて、藍と文も促されたように欠伸する。

 陽の光は未だ暖かい。
 風も優しく彼女達を覆う。
 そして、狐と鴉の膝には愛しい猫と狼。

「んぅ。紫様ではないが……」
「うたた寝日和ではあるわねぇ。ふぁ……」

 呟きの様に零し、彼女達は合わせたように、瞳を閉じた。

 同時。

 震動。
 雷鳴。
 発火。

「私達もあかんのか、幻想郷ぉぉぉ!?」
「少女! 『風神少女』! 同期の藍も!」

 納まる自然現象。

「文、お前……!」
「ふん。貸し一つよ、藍」
「む……体で返そうか?」
「あら、じゃあ今からくんずほぐれつね」
「はっはっは、寝かせないぞぉ、文ぁ!」

 荒ぶる大地。
 轟く雷。
 業火。

 巻き起る、暴風。

「うぉぉぉ、下ネタも駄目と申すか!?」
「カマトト! この、カマトげふぁ!?」

 加えて、隕石も降ってきた。
 直撃を受け、仰向けに沈む狐と鴉。
 つまるところ、残されたのは――。



「ふにゃ……」
「わぅぅ……」



 ――健やかに眠る、愛らしい寝顔の少女二匹だけだった。






                      <了>
ティーン:主に十代を指す。

イメージ的に、藍様と文はキャリアウーマン。
ゆかりんは、……ねぇ?

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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
これは酷い幻想郷の意志w
千歳越えでもみんな少女で良いじゃない!
2.名前が無い程度の能力削除
誰かお嬢様連れて来い!!
3.名前が無い程度の能力削除
これはあんまりだ w
4.名前が無い程度の能力削除
幻想郷自重しろww