「・・・お腹減った・・・」
縁側に寝そべって霊夢はそう呟いた。もう丸一日何も食べていないのだ。
別に普段から貧乏というわけではない、決して裕福というわけではないが、ある程度普通の生活をしている。
毎月、人里からお金だったり食べ物だったりと施しを貰ったり、定期的な妖怪退治の報酬などで生活を賄っているのだ。
しかし、月末となると貰った備蓄は底をつき、退治で妖怪も減っているため、決まってこの有様となるのだ。
「(・・・そろそろかしら・・・)」
カランカランッ!
「!!」
鈴の音が聞こえると、靈夢は某天狗の新聞記者のように凄まじい速さでその音の方へと飛んで行った。
「魔理沙ぁあああああああ!!」
霊夢の進行方向には参拝に来たのだろうか、魔理沙の姿があった。
「お、おぅ・・・」
鬼気迫る表情で魔理沙の元へと飛んでくる霊夢、あまりの必死さに思わず魔理沙も引いている。
「相変わらずだなお前・・・」
「しょうがないでしょ!丸一日何も食べてないんだから!」
やれやれ、といった様子で魔理沙は霊夢に袋を渡した。中身は勿論、魔理沙の代名詞のキノコである。
それと同時に賽銭箱に、これまたどこから取り出したのか大量の小銭を入れた。
「いつも、もぐ、悪い、むぐ、わねぇ・・・んぐ」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ」
そもそも、キノコを生で食べるのはどうかと思う。
「いやぁ~ホントに助かったわ!今なら魔理沙に抱かれてもいいわよ!」
「気色の悪いこと言うな・・・っていうか先月も全く同じこと言ってたぜ?」
そう、魔理沙は毎月、月末になると決まって博麗神社に来て賽銭を入れていくのだ。
本人曰く、「お前を倒すのは私だから、空腹なんかに倒されちゃ困る」だそうだ。
しかし、ここで霊夢は一つの疑問を覚えた。
「あんたさぁ、いつもお賽銭いれてくれるのはありがたいんだけど、そのお金ってどうしてるの?」
そう、魔理沙は普段、魔法の森に住んでいて人里にもあまり出向かない。ある意味霊夢以上に金策は困難に思える。
しかし、今みたいに毎月の賽銭を入れてくれるばかりか、宴会にも決まってかなり高価な酒や食べ物を持ってくる。
「フッ、それは秘密だぜ」
「・・・あんたまさか、蒐集とかいってお金まで泥棒してるんじゃ・・・」
毎度、本だの骨董品だの、様々なものを盗み・・・もとい借りていく魔理沙である。もしかするとそれに味を占めて金品まで・・・
「ば、馬鹿!私がそんなことするかよ!」
・・・どうやら違ったようだ。
「私は定期的に商売してるんだぜ?近いうちにまた店を開くからな、今はその準備期間だ」
「ふーん・・・商売ねぇ・・・」
「まぁ、そういうわけでだな、私は何かと忙しいんだ。だから今日はもう帰るぜ」
そう言うと魔理沙は箒に乗って飛んでいってしまった。
霊夢はその後姿を見送りながらいつものように
「まぁ、私の知ったこっちゃないわね」
と、我関せずといった様子で・・・
「さぁ、魔理沙を尾行するわよっ!」
ありゃ、尾行するんですか?随分積極的ですね。
「何か臭うわ!そう、お金の臭いがねっ!」
左様ですか・・・そんなわけで魔理沙の後をこっそりつけることにしたようです。
まず魔理沙が向かったのは魔法の森である。
「おーい!アリスー!」
魔理沙が大声で叫ぶと扉が開いてアリスが家の中から出てきた。
「そんなに大きな声出さなくても聞こえているわよ・・・一体何の用かしら?」
「ヘヘッ、実はそろそろ店を開店させようと思ってな・・・アリスにまた手伝いをしてもらいたいんだ」
そう魔理沙が言うとアリスは「やれやれ」というような顔をした。
「またやるの?・・・ハァ、私もそんなに暇じゃないのよ?」
「そこをなんとか頼むぜ。店を開くにはアリスの協力が必要不可欠なんだ」
そう言って魔理沙は手を合わせて頭をペコペコと下げた。するとアリスは「仕方ないわねぇ」と承諾した。
「やるからにはそれ相応の報酬はくれるんでしょうね?」
「前回と同じでいいか?」
「そうねぇ・・・前回の倍でどうかしら?」
「うっ・・・仕方ないな・・・それでいいぜ」
「それじゃあ、私も準備にうつるわね。必要なものは後でここに運んでおいてちょうだい」
「あぁ、わかった。それじゃよろしく頼むぜ」
そう言って魔理沙はまた次の場所へと向かっていった。
「(一体アリスに何を頼んだのかしら・・・?報酬を倍にしてもいいなんていうくらいだから、よほどアリスが必要なのね・・・)」
と、霊夢は物陰でブツブツと呟いていた。そしてまた、気づかれないように魔理沙の後を追った。
続いて魔理沙が訪れたのは紅魔舘。
丁度、レミリア達はティータイムの時間だったようで、魔理沙も一緒に茶をご馳走になっていた。
「・・・ってわけで、今回もまた協力してもらいたいんだ」
「そう、私は別に構わないけど・・・あなた達はどう?咲夜、パチェ」
そう言ってレミリアがフッと笑みを浮かべた。
「私はお嬢様のご命令ならいくらでも協力いたしますわ。それに、魔理沙の報酬は魅力的ですし」
「私はあまりきつい仕事はできないわ。それでもいいなら協力する。・・・それから、報酬とは別に私の図書館から持っていった本を返しなさい。それが条件」
「まぁ、もう読んだ本は別に返してもいいぜ。仕事も一応考慮しておくよ。」
こうして、話はまとまりかけていたところに、レミリアがちょっと待ったと口を挟んできた。
「ところで魔理沙、うちの優秀なメイド長と図書館司書を派遣してあげるんだ。当然私も報酬を受け取る権利はあるわよねぇ?」
「なんだよ、前回はそんなこと言ってなかったじゃないか・・・」
と、魔理沙が少し困った顔をした。
「別にたいしたことじゃないわよ。当日に・・・ごにょごにょ・・・」
レミリアが魔理沙に耳打ちをした。
「・・・まぁ、それくらいなら・・・」
「それじゃあ決まりね」
「だったらついでに門番も貸してほしいくらいだぜ。あいつ案外こういう仕事に向いてると思うし」
「ダメよ。美鈴までそっちの手伝いにまわしたら誰が私とフランの面倒を見るのよ?」
なんとも情けない発言だが、溢れんばかりのカリスマでまるで名言のように聞こえる。
「それじゃ、今日中に他の連中にも頼みに行きたいからそろそろ失礼するぜ」
そういって魔理沙は紅魔舘から勢いよく飛び出していった。
次の場所へ向かう途中、霧の湖によってチルノ達にも声をかけていた。
「魔理沙!またしょーこりもなく来たわね!さいきょーのあたいが今日こそやっつけてやるわ!」
「待て待て、今日は弾幕ごっこをしにきたわけじゃない、最強のチルノを見込んで頼みごとがあるんだ」
「そーか、そーか、やっとあんたもあたいがさいきょーだってことに気づいたのね!いいわ!このチルノ様になんでも頼みなさい!!」
「ってわけで、当日はこの⑨の保護者よろしくな、大妖精」
「はい、わかりました」
「(・・・あれ?あたい今失礼なこと言われた?)」
さて、ここまでのやりとりの一部始終を聞いた霊夢さん。なにやらまた深く考えてるご様子です。
「(咲夜にパチュリーはともかくチルノや大妖精なんかにも声をかけるなんて・・・魔理沙は一体何をするつもりなのかしら)」
ここからはダイジェストでお送りいたします。
冥界
「今回もまた妖夢に手伝いを要請するぜ!」
「是非!よろしくお願いします!」
と、固く魔理沙の手を握る妖夢。その表情はまるで地獄に仏と言わんばかりのものである。
幽々子もいいわよ~と二つ返事でOKをだした。
マヨヒガ
「前回はどっかの親バカによって阻止されたが・・・今回は借りていくぜ!」
「ダメだっていってるだろう!橙にはまだそんな仕事をさせるなんて早すぎる!」
「らーん、あまり過保護にしてても良い式神には成長しないわよ?」
「し、しかし紫様・・・」
「ここは一つ、本人の意思を尊重すべきじゃないかしら?」
「・・・橙、お前どうしたいんだ?」
「私は・・・私はやってみたいです!一杯頑張って早く藍しゃまみたいな強くて素敵な式神になりたい!」
「ちぇぇええええん!!!」
「藍しゃまー!」
「・・・まぁとりあえずは許可がでたってことだよな」
「えぇ、うちの子を貸してあげるんだから、ちゃんと楽しませてちょうだいね?」
「ま、極力頑張るぜ」
永遠亭
「というわけで、今回も人手を貸してほしいんだ」
「いいわよ、それじゃあ前回同様うどんげとてゐの二人でいいかしら?何かあれば私も知恵を貸すわ。・・・それでよろしいですね姫?」
「うむ、よしなに。・・・あ、もちろん報酬はちゃんと頂戴ね♪鈴仙とてゐを貸してる分の!」
「また今回も私達はタダ働きなんですね・・・」
「いいじゃない、鈴仙ちゃん、私は皆が笑顔でいてくれるなら利益なんていらないよ!ウサウサ♪」
「はいはい・・・(また何か企んでるわね・・・この子)」
八目鰻屋
「マスタースパーク!!」
ぴちゅーん
「さ、私の勝ちだ。今回も手伝ってもらうぜ♪」
「お・・・横暴だ・・・(ガクッ)」
人里
「またアレをやろうと思ってだな、協力してほしいんだ」
「あぁ、いいぞ。子供達を含め、人里の皆も毎回楽しみにしているしな、私達も協力しよう。・・・なぁ?妹紅」
「なんで私まで手伝うことになってるんだ?」
「ほぅ、次はいつやるんだ?と私にいつも尋ねていたのはどこの誰だったかな?」
「わー!!それを言うな!!」
妖怪の山
「あややや、そんな面白いことをしていたとは・・・私としたことが今まで気づきませんでした」
「へぇ、そんな楽しそうなことやってたなんてねぇ」
「まぁそれでだ、今回はもっと大々的にやりたいからな、ブン屋の力と河童の技術を借りたいんだ」
「楽しそうだし、私は協力するよー、人間は盟友だしね」
「そういうことなら喜んでご協力しましょう!広告事業も大事な仕事ですからね。ついでに私の可愛い部下もお手伝いさせましょうか?」
「そいつはありがたいぜ。人手はいくらあっても困らないからな」
「煮るなり焼くなり剥くなり好きに使ってください」
「文様!?」
守矢神社
「そういうわけでだな、今回は早苗を借りに来たんだ」
「で、でも、私には風祝としてのお勤めが・・・」
「相変わらず堅いねぇ、いいじゃないか、私達は幻想郷に来て日がまだ浅い、親睦を深めるきっかけとしちゃ絶好じゃないかい」
「それはそうかもしれませんが・・・」
「あーうー、いいじゃん、早苗!面白そうだよ!それに信仰を集めるにもいい機会じゃない」
「・・・わかりました。守矢神社の代表として立派にその役目、果たしてみせます!」
玄雲海
「かくかくしかじか」
「了承(1秒)」
こうして魔理沙はその日一日、幻想郷中を駆け巡り人材を集めた。
そして翌日、魔理沙のもとへ、彼女達はやってきた。
「皆集まったな・・・それじゃあこれから早速、開店に向けての会議を始めるぜ。前回参加した連中はわかってると思うけど今回から参加ってのもいるだろうから最初から説明するぜ」
魔理沙がそう言うと、スッと咲夜とパチュリーが前に出てきた。
「私は説明とかはあまり得意じゃないからな、今から咲夜とパチュリーが説明するからよく聞いてくれ」
「それでは、私の方から説明しますわ。前日に魔理沙から聞いたと思うけど、私達がやるのはメイド喫茶。それを成功させるには様々な事をこなしていかなくてはいけません」
「・・・この準備期間で適材適所に配置してそれぞれ自分の得意分野を伸ばしていくのが一番効率的。そこでそれぞれが準備期間の間にやるべきことをまとめてきたからそれに従って動いて貰うわよ」
以下、それぞれに割り当てられた役割である。
アリス→準備期間:衣装製作。開店後:接客中心に調理も担当。
咲夜→準備期間:衣装製作サポート。接客作法を指導。レシピ考案。開店後:調理場の総指揮。時間帯によって不足している役割のサポート。
パチュリー→準備期間:店内の装飾(指示)。開店後:会計。できる範囲の接客。
大妖精→準備期間:店内の装飾。開店後:接客。
妖夢→準備期間:店内の装飾。開店後:調理。人手が足りない場合は接客。
橙→準備期間:接客作法の習得。開店後:接客。
鈴仙→準備期間:それぞれの健康管理。開店後:食品と道具の衛生面確認。接客。
てゐ→準備期間:宣伝。開店後:客引き、接客。
ミスティア→準備期間:レシピ考察。開店後:調理。
慧音→準備期間:衣装製作サポート。開店後:会計中心に接客。
妹紅→準備期間:レシピ考察。開店後:調理。
にとり→準備期間:接客作法の習得。器具開発。開店後:器具の管理。接客。
椛→準備期間:接客作法の習得。開店後:接客。
早苗→準備期間:接客作法の習得。開店後:接客。余裕があれば調理も担当。
衣玖→準備期間:接客作法の習得。開店後:客引き、接客。
正直、読まなくても大丈夫である。(なら書くなとかいうツッコミはなしで)
ここでチルノが尋ねてきた。
「魔理沙ー!あたいのやることはっ!?」
「お前は最強だからな。他のヤツにはできない特別な仕事があるんだ」
そういって魔理沙はチルノをある部屋へと連れていった。
「ここは?」
「チルノのために用意した部屋だぜ。準備期間中も開店後もずっとここで得意の弾幕を放っててほしいんだ」
「フフン、そんなのあたいにとっちゃ朝飯の前よ!」
そんな二人のやり取りを見た早苗はそっと鈴仙に尋ねた。
「あの・・・あれってもしかして・・・」
「そう、もしかしなくても冷凍庫の代わりよ。ちなみに後ろの方にも部屋があってそっちは冷蔵庫ね。毎回あの子はそのために呼ばれてるのよ」
などと話していると、咲夜がコホンッと咳払いをし、話を続けた。
「今回は天狗の協力を得ているらしいので、宣伝の方には最低限の人材だけで済ませることができます。」
「まぁ、そうは言っても準備期間もそう長くはないから、あまり余裕があるわけじゃないけどね」
とまぁ、そんなわけで各自準備に取りかかった。
それではその様子を少し覗いてみよう。
衣装作成
「一応これが今回デザインしたメイド服の候補よ」
そう言ってアリスは慧音に紙を手渡した。
「随分と凝ったデザインだな・・・作るのに時間がかかるぞ?」
「そうなんだけどね・・・やっぱり製作するには納得のいく作品を作りたいでしょ?」
そう言ってアリスは咲夜を呼んだ。
「咲夜、そっちはもう終わったかしら?」
「えぇ、ばっちり」
そう言って1枚の紙をアリスに渡す。
そこにはそれぞれの名前が書いてあり、その横には数字が書かれていて・・・
「相変わらず・・・これだけはどうも良心が痛むところだがな」
慧音がそう嘆くのも仕方が無い、その紙には各自の身長やらスリーサイズやら、乙女の純情が綴っているのだ。
「時間を止めて測るからえげつないわよねぇ・・・あら?」
と、ここでアリスがふと疑問に思った。
「チルノの分も作るの?」
常時冷凍庫な役割のチルノにメイド服というのは必要のないものである。だが、その紙にはしっかりチルノの数字も書かれていた。
「あの子も一緒に働いてるんだから・・・ね、作ってあげたほうがいいでしょう」
「ああ、そうだな。ついでに・・・咲夜の分もな」
そう慧音が言うと、咲夜はきょとんとした。
「私はすでにメイド服を着てるわよ?」
「あんたねぇ、たった今自分で言ったでしょ。一緒に働くんだから・・・って。そういうあんたが普段着じゃ説得力ないわよ?」
「まったくだな。大体アリスのデザインしたメイド服と咲夜のメイド服は全然見た目が違うじゃないか」
「それはそうだけど・・・」
咲夜が困ったような顔を見せると、アリスは「まったく・・・」と呟き、そのまま言葉を続けた。
「ほら、うだうだ言わないでさっさとサイズを測らせなさい!自分だけサイズを秘密にしてるなんて卑怯よっ!」
「私も手伝うぞ、アリス」
そう言って二人がかりで咲夜を羽交い絞めにする。
「わ、わかったわよ!ちゃんと私も着るから、自分の服は自分で作るわよ!離しなさい・・・きゃぁ!ちょ、どこ触ってるのよ!」
「問答無用♪さぁ大人しく・・・あら?意外と胸が・・・」
「言うなぁあああ!!」
店内装飾
「おーっす、あんた達が店内の装飾班かい?」
屋根の上で寝そべっていた萃香がそう言った。
ちなみに萃香は魔理沙が他の皆に声をかけるよりも早く仕事を頼まれていて、こうして店の建築をしていたのだった。
「相変わらず、鬼の力というのはすごいですね・・・」
目の前に立てられた立派な店をまじまじと見上げ、妖夢はそう呟いた。
「へへん、私にかかればこのくらい朝飯前さ」
「本来なら建築物を立てたらその屋根に上って米や餅、小銭なんかをばら撒くという儀式をすると言われているけど、そんなことしている時間はないわね」
「それじゃあ代わりにこれを撒いてやろうか」
そう言って萃香は屋根の上で瓢箪を振り回した。
「わわ、お酒を撒かないでくださいよー」
「えー、お酒だって縁起がいいんだよー」
「はいはい、馬鹿やってないでさっさと運ぶわよ。中にいれなきゃいけないテーブルだの椅子だの・・・たくさんあるんだから」
というわけで皆が店の中に入ると・・・
「あ、全部運び終わりましたよー」
と、笑顔で答える大妖精。
「えぇ!?この短時間でどうやって・・・」
「テレポートを使ったので簡単でしたよ。それでは次は内装に取りかかりますね」
そう言って大妖精は鼻歌交じりにテキパキとテーブルクロスを敷いていった。
「「「(恐るべし、名無しの大妖精)」」」
レシピ考案
「ああもう、話にならないね!」
「なによっ!あんたが融通が利かないんじゃないのさ!」
すごい剣幕で怒鳴りあう妹紅とミスティア。一体何が原因かというと・・・
「私の得意料理は大半が鶏肉料理なんだよ。なのに鶏肉を使うなってどういうことだ!」
「ダメに決まってるでしょ!何が悲しくて同属を料理しなきゃいけないのよっ!」
そこに衣装の打ち合わせを終えたアリス、咲夜、慧音の三人がやってきた。
「前回もまったく同じことで揉めていただろう?いい加減に学習しないか」
「前は慧音がどうしてもっていうから鶏肉は使わずにやったが、今回は絶対に使わせてもらうぞ、私の本業は焼き鳥屋なんだからなっ!」
結局まわりの説得もあまり効果がなく、二人はそのままずっと対立していた。するとそこに衣玖がやってきて・・・
「ちょっとよろしいでしょうか」
と、ミスティアに話しかけた。
「なによ?」
「ミスティアさん、確かに同属が調理されるのは辛いことかもしれません。ですが、私達が感謝する気持ちさえあれば彼等もきっとわかってくれるはずです」
「そんなこと言ったって騙されないわよ!」
そう強い口調で反発するミスティアに優しく言葉を返す
「妹紅さんが使用する鶏肉というのは人里で売られているものでしょう?つまり遅かれ早かれ食されてしまいます・・・それなら調理する私達が感謝し、食べる人が喜んでくれた方が、彼等の死も意味があるのではないでしょうか?」
「それは・・・」
それに・・・と衣玖は少し寂しそうな表情で
「あまりそんなことを言っていると・・・私も鰻の使用に怒ってしまいますよ?」
「え・・・?それじゃあんたって・・・もしかして鰻の妖怪・・・なの?」
「フフッ、ご想像にお任せします。」
「いや、リュウグウノツカイは鰻とは全然・・・」
別物、と慧音が指摘しようとすると衣玖はそっと慧音に目配せし、人差し指を立て「シーッ」という動作をして微笑んだ。
「わ、わかったわよ・・・今回だけは特別に鶏肉の料理・・・許してあげるわ」
「それでは私は自分の仕事に戻りますね」
そういって去っていく後ろ姿に、一部始終を見ていた咲夜とアリスは・・・
「・・・流石ね」
「えぇ、流石よね・・・」
「「空気を読む程度の能力」」
と、思わず声に出して感心した。
結局衣玖のおかげもあり、妹紅とミスティアも仲直りし、とんとん拍子に出すメニューやそれぞれの役割が決まった。
それぞれ自分の得意分野をということで、妹紅、ミスティア、妖夢、早苗の四人が和食を担当し、アリスと咲夜の二人で洋食を担当することになった。
「だけどさ、和食担当に四人もついていいのか?」
「平気よ。人里の人間の食生活を考えると和食の方が受け入れられると思うし。もし洋食メニューばかり注文されたら・・・咲夜が頑張ってくれるわ!」
「・・・まぁそうなるでしょうね。ただ、お菓子とかは間違いなく多く注文はいるから和洋問わず、前日から下ごしらえして大量に作れるようにしておくべきね」
接客作法講習
「さて、それでは私がメイドとしての作法を皆さんに指導していきますわ」
そう言って咲夜が練習組の前に立った。
「あのぉ・・・大変じゃないですか?衣装も調理も担当してますよね・・・」
咲夜を心配して早苗が気遣ってそう声をかけた。
「心配してくれてありがとう。でも正直に言うと普段よりも余裕があるくらいよ」
かくして、咲夜によるメイド教育が始まった。
「いいですか?常にお客様はご主人様であることを心がけなくてはいけません。・・・しかし、ただ可愛い子を演じればいいというわけではありません。きちんと礼儀をわきまえて・・・」
以下、数十分によるメイドの心得についてのありがたいお話。
「・・・というわけで、お嬢様の寝顔は反則的に可愛いのです。」
・・・なにやら話が違う方向にいっていたようです。
「とりあえずさぁ、実際にやってみせてほしいね。そしたらわかりやすいんじゃない?」
にとりがそう提案してきた。咲夜は「それもそうね」と、実際に手本を見せることになった。
「おかえりなさいませ、ご主人様。あちらに席のご用意をしております。」
そう言って席の方を手で指しつつ、笑顔で答えた。
「ご注文がお決まりになられましたら声をおかけください。それではごゆっくり・・・」
そう言って軽く頭を下げ、スカートの両端を手で持ち上げた。
「このとき、スカートは下着が見えそうで見えないギリギリで止めることが重要よ」
と、いった具合に実演を交えた接客練習がはじまった。
~少女練習中~
一通りの練習が終わり、それぞれその成果がでてきた。
特にめざましい上達を見せたのが早苗と衣玖の二人で、もはや教える立場でもいいと咲夜も認めるほどであった。
橙とにとりもすっかり板について、接客を任せてもいいほどになった。
さて、ここで一人、まだ接客させるには程遠い者が一人・・・
「お・・・おかえりなさいませ・・・ご主人様・・・」
消え入りそうな声でそう呟き、ぎこちない笑顔を見せる・・・
「ほら、そんなんじゃお客様は喜んでくれないわよ?」
「す、すいません・・・」
他の四人はそれぞれ人手が不足しているところに手伝いに行ったのだが、椛は一人、咲夜のつきっきりの指導をされていた。
「まぁ、初めてだから恥ずかしいっていうのもわからなくはないけど・・・本番ではメイド服を着るのよ?これくらいで恥ずかしがってたら大変よ?」
「・・・本番・・・メイド服・・・」
・・・バタンッ!
「ちょ、ちょっと!?」
「きゅー・・・」
椛は急に顔を真っ赤にして倒れてしまった。
「・・・本当に大丈夫かしら・・・」
咲夜は倒れた椛を抱きかかえると、ある場所へと向かった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
咲夜が椛を連れて来たのは、簡易休憩所と書かれた表札がかけられている小さな部屋だ。
ここは、作業中に具合が悪くなった人や怪我をした人の治療や休憩に使用している。
「あら?また誰か来たみたいね」
咲夜達の気配に気づいた鈴仙がやってきた。
「ベッドに空きはあるかしら?この子、急に倒れちゃって・・・ね」
「丁度、その子で満室ね。あなたのところの魔法使いさんも来てるわよ」
奥を見るとパチュリーがすでに片方のベッドを占領していた。その横には妖夢の姿もある。
「あなたが連れてきてくれたのね、ありがとう」
「あたり前のことをしただけです。礼には及びませんよ」
鈴仙がベッドに椛を寝かせると、どうしたの?と咲夜に尋ねてきた。
「よほどメイドをするのが恥ずかしかったみたいね。前回の誰かを思い出しますわ」
そう言ってクスッと咲夜が笑うと鈴仙も思い当たったらしく一緒になって笑った。ただ一人妖夢は顔を真っ赤にしている・・・
と、笑う声が聞こえたのか、椛が目を覚ました。
「あれ・・・?私は・・・」
「あら、目が覚めちゃったの?ゆっくり休んでていいわよ。」
鈴仙がそう言ったが、椛は身体を起こしてベッドから起き上がった。
「咲夜さん、練習中にこんなみっともない所を見せてしまってすいませんでした。しばらく一人で練習してみます」
そうとだけ言うと、椛は出て行ってしまった。
「そんなに無理に頑張らなくてもいいのに」
「そうね・・・あんなに張り詰めてるとまたすぐ切羽詰ってしまうわね」
椛のことを心配する咲夜と鈴仙。と、妖夢が何かを決心したような真剣な表情で椛の出て行った後を見ていた。そして・・・
「彼女のこと・・・私に任せてください」
そう言うと椛の後を追って走って出て行った。
「・・・大丈夫かしら?」
「きっと大丈夫よ、あの子を理解してあげれるのは同じ悩みを経験をした妖夢が適任でしょ」
「そうね・・・それじゃ私は仕事に戻るわね」
と、部屋から出ようとした瞬間、咲夜は鈴仙に手を掴まれた。
「ダーメ、あなたも少しここで休んでいきなさい」
「私はどこも悪くないわよ?」
そう言って仕事に戻ろうとする咲夜に、鈴仙はやれやれといった様子で言葉を続けた。
「無自覚だから余計に性質が悪い。あなたの波長、今すごく乱れているわ。かなり疲れているわね」
「・・・そうかしら?」
「えぇ、そう。ただでさえあなたは仕事が多いんだから、こういう準備期間はもっと他の人達を頼りなさいよ」
そう言って懐からなにやら怪しい瓶を取り出した。
「さぁ、これをあげるわ、グイッといっちゃって」
「・・・何かしらこの怪しい液体は・・・」
「師匠直伝、国士無双の薬よ。これさえ飲めばどんな疲れもあっという間に吹っ飛ぶわよ」
「・・・」
「そんなに警戒しなくても平気よ?私も愛用してるし飲んでも全然問題ないわ・・・四本目まではね(ボソッ)」
「今、すごく怪しい発言があったわよね?」
と、警戒しつつも咲夜はその薬を飲み干した。
「まぁいいわ、お言葉に甘えて少し休ませてもらうわね」
そう言って近くの椅子に腰掛け、咲夜はそっと目を閉じた。
「えぇ、どうぞごゆっくり」
聞こえるか聞こえないかという小声でそう呟くと、鈴仙は咲夜に毛布を優しくかけてあげた。
一方その頃。
「・・・お、おかえりなさいませっ!」
一生懸命声を出す・・・先ほどに比べればかなり声は大きくなった。だが、到底人をもてなすようなものではない。
それは言葉を出した自分自身がよく分っている。
「・・・ハァ、どうしてこうなのかな・・・接客一つ・・・まともにできないなんて」
「頑張ってますね」
妖夢が椛の方へ歩み寄ってきた。
「妖夢さん・・・」
「あなたはかつての私とそっくりです。ただ上手になろうとして必死になって・・・」
「それは・・・いけないことなんでしょうか・・・?」
真剣に妖夢を問い詰めた。そんな必死な椛に、妖夢は微笑みかけた。
「いいえ、大切なことです。ただ・・・そのせいで気づかないものもあるんです」
そう言って妖夢は自分のスカートの裾をそっと持ち上げ・・・
「おかえりなさいませ、ご主人様」
と、優しく微笑んでみせた。
「・・・凄い・・・」
思わず声にだしてしまった。それだけ妖夢のその姿が魅入るものであったのだろう。
「大切なのは声の大きさでも、姿勢の美しさでもない・・・相手に対する気持ちです」
妖夢のその言葉は、椛の張り詰めていた心に余裕を与えるには十分すぎる言葉だった。
「・・・私にも、できるでしょうか?」
「きっとできますよ。・・・そもそも私は椛さんよりもっと酷かったんですよ?」
妖夢はポンッと優しく椛の肩に手を乗せた
「頑張りすぎず・・・気楽にいきましょう」
「・・・はい!・・・もしよければ、お客様役やってもらえませんか?」
「はい、喜んでお付き合いします」
そんな二人をこっそり見ている人影が一つ・・・
「(どうやら私の出る幕ではなかったようですね)」
「あ、こんなとこに居た、探したよー。広告のチラシができたから持ってきたよ」
そう言っててゐが、その人物にチラシを手渡した。
「あややや、これは申し訳ない、きちんとお預かりしますね、てゐさん」
「覗き見はあまりいいもんじゃないよー?やるならもっとばれにくい場所に隠れるべき!」
「ご忠告ありがとうございます。まぁ、もう済んだことですし、私はこのチラシを刷って幻想郷中に撒いてきますね」
そう言い残すと文はさっさと飛んでいってしまった。
「ま、いいや、私も鈴仙のとこに遊びにいこーっと」
さて、そんなこんなでそれぞれ開店に向けて準備をしている中、当事者の魔理沙の姿がそこにはない。
一体どこへ行ったのだろうか・・・?
「やれやれ、誰かと思えばまた君か」
「勝手に邪魔してるぜ、こーりん」
魔理沙がいたのは香霖堂であった。何やら店の品物を物色している。
「ここにきていいのかい?皆頑張って開店準備しているんだろう?」
「私だってサボっているわけじゃないぜ。食料調達と客寄せのために今日も西へ東へ大忙しだったんだぜ?」
霖之助は「そうかい」と相槌をうって、そっと魔理沙の傍に茶の入った湯のみを置いた
「で、今は僕の店で一体何をやってるんだい?」
「まぁ、こーりんには教えてもいいかな。・・・他のヤツにはナイショだぜ?」
魔理沙はそっと霖之助に耳打ちした。他に誰もいないこの店内、わざわざそんなことをしなくてもいいのではと思うが、ここは幻想郷、壁に耳あり障子に目あり、空間にはスキマありなのだ。
「なるほど、君らしいね」
「それでさ、ソレに使えそうな物がないか探してるんだよ」
「それなら奥の方にいいものがあるよ・・・ただ、貴重なものだから値は張るよ」
「それじゃ御代はこれな」
そう言って魔理沙は霖之助に小さな紙を一枚手渡した。
「食事券・・・?」
「それを出せばなんと全品一割引だぜ」
「たった一割引きかい・・・まぁいい、魔理沙が無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないしね・・・」
霖之助はやれやれといった様子でため息をつき、魔理沙を奥の部屋へと通した。
太陽の光が届かない世界・・・天狗によって撒かれたチラシは偶然にもこんな場所にまで飛ばされてきたようだ。
「ちょっとちょっと!これ見てごらんよ!」
「へぇ・・・なんか最近地上が騒がしいと思ったら・・・こんな面白そうなことがあるんだねぇ」
「私達はこんな薄暗い場所で暮らしてるっていうのに、地上の奴らはこんなことをして楽しんでいるのね・・・あぁ妬ましい」
「フフッ、ちょっと覗きに行ってみようか?」
「いいねぇ、久しぶりにアイツと酒を飲み交わしたいと思ってたところだし」
果たして、メイド喫茶は成功するのだろうか・・・
魔理沙は一体何を企んでいるのか・・・
そして、この謎の集団の正体とは・・・
様々な謎を残しつつ、ついに店は開くのであった。
~To be continued~
どうしよう俺こんな事してる場合じゃねえぞたまんね助けてメーリン!
東方のメイド化はいつ読んでも良いものだ。
個人的にはゆかりんのグレイズなメイド姿を見てみたいとひっそり思ってる。
>>1様。すいません、スキマ日誌がわかりません!どなたかの作品でしょうか?ちょっと興味がありますのでもし知ってる方がいれば詳細を教えていただけると嬉しいです。
>>2様。妖夢は前回、涙目で顔を赤らめてメイドをやった経験があるのです(という設定)。ちなみに後半は現在書いてる最中ですが・・・ゆかりんのメイドなんて発言されるとホントに出てくるかもしれませんのでお気をつけて。
>>3、しんっ様。ありがとうございます。後編も楽しんでいただけるように頑張ります!
>>4様。すいません、思惑なんてありません。完全に誤字です・・・辞書に東方関連の文字を一括で登録した際に『靈夢』が最初に出るようになってました。指摘ありがとうございます。本文も修正させていただきました。というか・・・指摘されるまで気づかれないとか・・・もっとしっかり誤字脱字チェックがんばります。
とある掲示板に『ゆかりんのスキマ日誌』というスレがありまして、そこでは住人達がキャラに成り代わってそれぞれの日誌を書いていくのですが、こういったイベント事もしばしばあるわけです。
そのときの流れもこんな感じだったので、ひょっとしてここの方なのかなぁと。
例えば万能な者(こちらはアリスでしたが)がもの凄く忙しくなってしまって倒れそうになっているところに鈴仙が栄養ドリンクを差し入れたり
その時の反省から他の能力を持った人妖(咲夜など)が次のイベントではサポートしたり、などですね。
このスレは一時期荒れていたのですが、最近テンプレでルールを設けたことによって大分落ち着いています。
もし興味がおありでしたら覗いてみるのもよろしいかと。
後編楽しみにまってます!