第5話
「いろいろと世話になった。ありがとう。」
深く礼をする。
霖之助達は見ず知らずの俺に親切にしてくれた。本当に感謝しなければ。
「困った時はお互い様さ。むしろこちらが礼を言いたいくらいだね、君のおかげで珍しいものが手に入った。」
「利害の一致というやつか。お互いラッキーだった。」
・・・・ここ以外の場所に入ってきていたら、大分大変だっただろう。
「・・・・じゃあそろそろ行くよ。地図、ありがとう。」
「何か入用のときはぜひうちに来てくれ。安くしとくよ。」
「ああ、わかった。魔理沙、朝食御馳走様。」
魔理沙は霖之助の隣に立っている。
こうみると兄弟に見えなくもない。おそらく長い付き合いなのだろう。そんな雰囲気だ。
「おう、途中で妖怪に食われたりするなよ?寝覚めが悪い。」
「なら送ってってくれ。その箒、飛べるんだろう?」
魔理沙が持っている箒を指して言う。
いかにも空を飛びそうな箒だ。小さい頃、跨って遊んでいた記憶がある。
「たしかに飛べるが・・・私はあまり人里にはいきたくないんだ。悪いな。」
・・・ふむ何か事情でもあるのか。
「冗談さ。ここから人里への道のりも覚えておきたいし、な。いつも地図があるとは限らない。」
本音を言うと、少し妖怪というものに興味があった。
なにせおとぎ話の住人達だ。実に興味をそそられる。
・・・だが、人を食う妖怪もいるようだし用心しないとな。
「じゃあ、またな。」
香霖堂を後にする。
・・・・・ああそうだ
「魔理沙。」
ん?と魔理沙がこちらを向く。
「早いとこ捕まえないと他のに取られるぞ。そいつ、意外と狙われてる。」
・・・多分な。
「!?」
魔理沙の顔が少し赤くなる。
結構動揺してるようだが、前よりはましだ。
「余計な御世話だ!さっさと行け!」
ポケットから何かを取り出し、俺のほうへ向けてくる。
何なのかよくわからないが、八角形で真ん中に穴があいている。
・・・・何かやばい。
本能が告げていた。あれは銃なんかと同じくらい、もしくはそれ以上物騒なものだと。
「・・・・撤退する!!」
それだけ言って雅人は人里の方へ走って行った。
・・・まったく、人の純情を弄びやがって。
ああいう手合いは苦手だ。なんだか見透かされてるような気がする。
少し紫に似てるかもな、と考える。
「魔理沙、どうしたんだい?」
霖之助が不思議そうに問う。
・・・ああ、まったくどいつもこいつも。
「・・・なんでもない。ほら、昨日雅人から買った道具の整理をするんだろ?手伝うぜ。」
「・・・?ああ、助かるよ。」
・・・・こいつも少しは心を見透かすようになってくれないかなぁ。
そう思い大きなため息をつく魔理沙だった。
「ふう、危なかった。」
人が歩くうちに道になったというような道を歩きながら呟く。
この道を外れなければ、少なくとも迷うことはないだろう。
「さて、人里への道は・・・・」
地図を開いて道を確認する。
距離はそれほど遠くない。日が高いうちに着きそうだ。
「妖怪が出たら事だ、急ぐか。」
走っていくことにした。体力には自信がある。これくらいの距離ならそんなに疲れないだろう。
案の定、ある程度走ったら塀の様なものが見えてきた。
「おお、あれが人里か。」
走るスピードを落とす。太陽は丁度真上。腰には刀という荷物があったが問題なく走り切ることができた。
・・・人里に着いたらまず昼食をとろうかな。
などと考えていると、かすかに悲鳴とも泣き声ともいえる声が聞こえた。
おそらく子供のものだ。
何事だ。と思い走って一気に森を抜け、あたりを見回す。
・・・・いた。
ここから約40メートル、人里の塀から50メートルほど離れた場所、森へ入る一歩手前。
そこに小さい子供が3人、それを取り囲むように黒い狼のような動物が五匹。
黒い狼は今にも子供たちに飛び掛かりそうだ。
遊んでいたところに森から妖怪がやってきた、といったところだろう。
「見過ごすわけにもいかんか・・・・!!」
走る。もうあまり猶予はない、全速力で走る。
・・・・まずは突撃、混乱に乗じて子供を逃がす!!
少々無謀だが問題無い。こちらにもそれなりの備えがある。
右手に刀の柄を握る。
昔、親父に刀一本持たされて山に放り出されたことがあった。
無茶をする父親だった。今思えば何故死ななかったのか不思議だ。
・・・山で会った熊に比べれば、幾分かましだ!!
刀を抜こうと腕に力を入れる。
・・・・・・・・・・抜けない。
紐で括ってあるかのように動かない。
「!?」
焦る。
想定外だ。香霖堂では抜けたはずだ。なぜ?どうする?
いったん引く・・・間に合わない。
助けを呼ぶ・・・同じだ、間に合わない。
「・・・ええい、ままよ!!」
鞘をしたままの刀を構える。
敵はすぐそこだ。
一匹がこちらに気づいた。
野生の狼にしては勘が鈍いな!!
もうこちらの間合いだ。刀を下段に構え、踏み込む。
「・・・ふっ!!」
ドガッ!!
掬いあげるような一撃は狼の胴体に直撃。その体を宙へと飛ばす。
走った勢いそのままに、滑り込みながら子供たちの前へと移動する。
「おい!走れるか!?早く逃げろ!そして助けを呼んで来い!!」
突然の乱入者に子供たちも狼も呆然としているが、双方同時に俺がどちらの味方でどちらの敵なのか理解したようだ。
「あ・・・ありがとうございます!」
一番年が上であろう女の子が言う。
そして泣いている子供の手を引き人里の方へ逃げて行った。
「・・・・よし。」
狼たちが子供を追う様子はない。
どうやら獲物を俺に変更してくれたようだ。
縦に割れた瞳孔がこちらを睨んでいる。
あとは助けが来るまで時間稼ぎか。幻想郷の中で人が住んでいる場所だ。何らかの自衛手段は持っているだろう。
それよりも問題はこちらだ。不意打ちで殴り飛ばした一匹は地面に倒れたまま動かない。死んではいないだろうが、しばらく動けないだろう。
残り四匹。
刀を正面に構え警戒する。
「さて、やるか。」
所変わって場所は人里内のある寺子屋。
そこでは二人の女性が一仕事終えた後のお茶を楽しんでいた。
一人は薄い青、銀ともいえる髪を腰のあたりまで伸ばした女性。頭に変わった帽子を乗せている。
名を上白沢慧音。
半人半獣であり寺子屋の教師を務めている。人里を守護する人物の一人だ。
もう一人はアリス・マーガトロイド。
魔法の森に住む魔法使いであり人形遣い。
「今日はありがとう。子供たちにもいい勉強になった。アリスさえよければまたお願いしたいんだが、どうだろう?」
アリスはその蒼い瞳を慧音へ向けた。
少しだけウェーブのかかった金髪のショートヘア。その均整のとれた風貌は、どこか人形のような雰囲気を醸し出す。
「気が向いたらね。私もなかなか楽しかったし。」
今日は寺子屋の授業としてアリスが人形劇を披露した。内容はちゃんと子供たちの勉強になるようなものだ。子供たちの反響は凄まじく、人形劇が終わった後も子供たちはアリスの傍をなかなか離れようとしなかった。
「よろしく頼むよ。それにしても・・・・大人気だったな、アリス。」
「・・・まあ、悪い気はしなかったわ。でも、あれは少し疲れたわね。」
思わず溜息が出る。何せしばらくの間大勢の子供たちに囲まれて質問攻めだったのだ。
やれ次来るのはいつだとか、やれ人形はどうやって動かしているのだとか。
まったくあの元気はどこから来るのだろうか。
「それだけ好かれているということさ。」
苦笑混じりに慧音が言う。
「そんなもんかしらねぇ。」
「教師の私が言うんだ、間違いない。」
しばらく二人で雑談していると、寺子屋の中に一人の女の子が飛び込んできた。
「慧音先生!!助けてください!!」
かなり切羽詰まった声だ、何かあったらしい。
「どうしたんだ?落ち着いて言ってみなさい。」
慧音の表情は、先ほどまでの穏やかなものから一変して真剣なものになっていた。一瞬女の子は考えるように黙り込み、そして一気に喋り出した。
「里の外で遊んでたら狼に襲われて、誰かが助けてくれた!!その人が助けを呼んで来いって・・・・!!」
「なるほど。わかった。里の外というと森へ続く道か?」
女の子が頷く。
「森へは近づくなと言っただろう。後で説教だ、ここで待っていなさい。」
「・・・はい。」
申し訳なさそうに女の子は頭を垂れる。
「すまないアリス。少し出てくる。」
「私も行くわ。」
聞いてしまった手前、無視もできない。
「・・・わかった、ありがとう。では行くぞ!」
寺子屋を飛び出し、人里の道を慧音と二人並んで飛翔する。
このスピードなら、そう時間はかからないだろう。
助けに入ったという人物は無事だろうか。
・・・というか、助けに入った奴が助けを求めるなんておかしな話ね。
正義感からの無謀か、はたまた子供を逃がすための自己犠牲か。どちらにせよ、馬鹿な奴が居たものだ。
「・・・・・しっ!!」
飛びかかってきた狼の牙をかわし、すれ違い様に胴を放つ。
ドッ!!
狼は地面へ滑り込むようにして倒れた。
・・・真剣だったらこれで終わりなんだけどなぁ。
胴を食らった狼はよろけながらも立ち上がる。
さっきからずっとこんな感じだ。あちらの攻撃は当たらないがこちらの攻撃も致命傷にはならない。
この狼、動きは単純だったがやけにタフだった。はじめに殴り飛ばした狼も、もう起きあがっている。おそらく妖怪なのだろう。これは異常だ。
そう思っていると、森の方から大きな黒い狼がやってきた。
・・・・他の狼より一回り大きい。こいつらのボスか?
それはゆっくりとこちらに近づいてきている。
こちらを見た。
「・・・・・・・」
目は逸らさない。まっすぐにその目を見返す。
見た目に似合わないきれいな瞳だ。
・・・・まずいな。こいつは無理だ。
その狼の振る舞いは他の狼とは全く違う。下っ端も倒しきれない俺じゃあ、あまり長くは持たないだろう。
せめて鞘が抜ければな・・・・
その時、後ろから声が聞こえた。
「大丈夫か!?」
横目で後ろを確認する。空を飛んでやって来る人物が二人。
「・・・・ふぅ。」
思わず安堵する。
飛んでくる二人を見た大きい狼は、地面に倒れている狼を口に咥えて森へ歩いて行った。
・・・・賢いな。
「おい、大丈夫か?」
後ろを振り向くと二人の女性が立っていた。
「ああ、大丈夫だ。危ないところだった、ありがとう。」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。子供たちを助けてくれてありがとう。」
お互いに頭を下げる。
援軍は女性二人か。てっきり屈強な男でも来るかと思っていたが。
・・・幻想郷の人物は見た目で判断してはいけない・・・
香霖堂での言葉を思い出す。この二人もただの人間ではないんだろうか。もしかすると人間ですらないかもしれない。
「あなた、あんなのに襲われてよく無事だったわね。」
金髪の女性が聞いてくる。
「まあ、一応武術をやってる身だからな。」
「へえ、武術ね・・・・・ところで人里では見ない顔だけど、あなたもしかして外来人?」
「ああ、そうだ。元の世界には当分帰れないそうなんでな。ここに仕事を探しに来たんだ。」
ふ~ん、と金髪の女性。珍しいものを見る目でこちらを見ている。外来人はそんなに珍しいものなのだろうか。
「ふむ、名前は何と言うんだ?」
「遠峯だ、遠峯雅人。」
「遠峯か、わかった。私は上白沢慧音。ここ人里の寺子屋で教師をしている。」
「アリス・マーガトロイドよ。今日は訳あって人里に来ているわ。よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
なんだか最近自己紹介が多いな。まあ、見ず知らずの場所だからしょうがないか。
幻想郷に来て何度目かの挨拶に若干デジャヴの様なものを感じていると、慧音がこちらに言った。
「立ち話もなんだ、寺子屋まで行こう。何か礼もしたいしな。」
「あー なら仕事を紹介してくれないか。さっき言ったとおり仕事を探しに来たんだ。」
ふむ、と頷く。
「仕事か。ないことはないが・・・・まあ、後で話すよ。」
そう言って人里の方へと歩き出す。
俺は慧音の少しあとをアリスと並んで歩いた。
寺子屋までの道にはいろいろな店が建っており、人のにおいというものが確かに感じられた。自然と安心感が湧いてくる。
慧音は道行く人にたびたび声を掛けられていた。こちらを見て少し変な顔をする人もいたが、気にしない。
「さあ、上がってくれ。今お茶を用意するよ。」
慧音に促され玄関を上がる。
「お邪魔します。」
「居間はこっちよ、ついてきて。」
アリスについて居間へと歩く。
「・・・一つ聞いていいか?」
「なにかしら?」
居間に着いた。適当な場所に腰をおろして、問う。
「アリスも寺子屋の教師なのか?」
「違うわよ。今日は子供たちに人形劇を見せに来たの。」
「人形劇?」
「ええ。」
どこからか人形が一体、ふよふよとこちらへ飛んでくる。
「この子は上海、かわいいでしょう?」
上海という人形は、しばらく俺の顔をじぃっと見詰めた後、頭の上に乗ってきた。
「あら、気に入られたみたいね。」
「・・・アリスが操っているのか?」
さながら「たれパ○ダ」のように俺の頭に乗る上海。
「その子は半自律よ。自分の意志で動いているわ。私は大まかな指示を出すだけ。」
「へえ、すごいな。・・・アリスは人形師?」
「私は魔法使い。人形遣いとも呼ばれているわね。」
魔法使い・・・・そういえば魔理沙も自分のことを魔法使いだとか言っていたな。
なんでもありか、此処は。
「遠峯殿、少しいいか。」
慧音が入口に立っていた。
その後ろに身を隠すように立っているのは、確か狼に襲われていた子供たちだ。
ほら。と慧音に促され子供たちが前へ出る。
「・・・あ・・あの・・・・」
さっきの女の子だ。何やら恥ずかしそうにしている。
「助けてくれて・・・ありがとう。」
絞り出すように出したその声は小さかったが、はっきりと俺の耳に届いた。
「・・・・おう。もうあんな危ない所に行くんじゃないぞ。」
ポン、と頭に手を乗せる。
「うん・・・わかった。もう行かない。おじちゃん、ありがとう。」
「・・・・!?」
唐突な言葉に、結構傷ついた。純粋な子供の言葉だから余計に堪える。
周りの子供たちもお礼を言ってくる。
ありがとー
おじちゃんありがとー
おじちゃんあそぼー
純粋な言葉がさながら呪詛のように俺の心を軋ませる。正直しんどかった。もう半分涙目だ。
慧音とアリスは苦笑を浮かべてこちらを見ている。
助けてくれ、と目で訴える。
「あー前達、今日はもう帰りなさい。家の人が心配してるだろう。」
「「「はーい。」」」
子供たちが一斉に帰ってゆく。
「・・・・・・・なぁ、俺って老けてるのか?」
二人に問う。
俺はまだ二十二だ。おじちゃんは早いと思うんだが。
「ちなみに、いくつ?」
「・・・・・二十二だ。」
一息。
「「あ~~・・・・・・」」
なんだ、その顔は。
ああ、そうかそういうことか。
「・・・・・・・」
「「・・・・・・・」」
「・・・・・・・バカジャネーノ」
「。* ゚ + 。・゚・。・ヽ( ゚`Д´゚)ノウワァァァァァァン」
「いろいろと世話になった。ありがとう。」
深く礼をする。
霖之助達は見ず知らずの俺に親切にしてくれた。本当に感謝しなければ。
「困った時はお互い様さ。むしろこちらが礼を言いたいくらいだね、君のおかげで珍しいものが手に入った。」
「利害の一致というやつか。お互いラッキーだった。」
・・・・ここ以外の場所に入ってきていたら、大分大変だっただろう。
「・・・・じゃあそろそろ行くよ。地図、ありがとう。」
「何か入用のときはぜひうちに来てくれ。安くしとくよ。」
「ああ、わかった。魔理沙、朝食御馳走様。」
魔理沙は霖之助の隣に立っている。
こうみると兄弟に見えなくもない。おそらく長い付き合いなのだろう。そんな雰囲気だ。
「おう、途中で妖怪に食われたりするなよ?寝覚めが悪い。」
「なら送ってってくれ。その箒、飛べるんだろう?」
魔理沙が持っている箒を指して言う。
いかにも空を飛びそうな箒だ。小さい頃、跨って遊んでいた記憶がある。
「たしかに飛べるが・・・私はあまり人里にはいきたくないんだ。悪いな。」
・・・ふむ何か事情でもあるのか。
「冗談さ。ここから人里への道のりも覚えておきたいし、な。いつも地図があるとは限らない。」
本音を言うと、少し妖怪というものに興味があった。
なにせおとぎ話の住人達だ。実に興味をそそられる。
・・・だが、人を食う妖怪もいるようだし用心しないとな。
「じゃあ、またな。」
香霖堂を後にする。
・・・・・ああそうだ
「魔理沙。」
ん?と魔理沙がこちらを向く。
「早いとこ捕まえないと他のに取られるぞ。そいつ、意外と狙われてる。」
・・・多分な。
「!?」
魔理沙の顔が少し赤くなる。
結構動揺してるようだが、前よりはましだ。
「余計な御世話だ!さっさと行け!」
ポケットから何かを取り出し、俺のほうへ向けてくる。
何なのかよくわからないが、八角形で真ん中に穴があいている。
・・・・何かやばい。
本能が告げていた。あれは銃なんかと同じくらい、もしくはそれ以上物騒なものだと。
「・・・・撤退する!!」
それだけ言って雅人は人里の方へ走って行った。
・・・まったく、人の純情を弄びやがって。
ああいう手合いは苦手だ。なんだか見透かされてるような気がする。
少し紫に似てるかもな、と考える。
「魔理沙、どうしたんだい?」
霖之助が不思議そうに問う。
・・・ああ、まったくどいつもこいつも。
「・・・なんでもない。ほら、昨日雅人から買った道具の整理をするんだろ?手伝うぜ。」
「・・・?ああ、助かるよ。」
・・・・こいつも少しは心を見透かすようになってくれないかなぁ。
そう思い大きなため息をつく魔理沙だった。
「ふう、危なかった。」
人が歩くうちに道になったというような道を歩きながら呟く。
この道を外れなければ、少なくとも迷うことはないだろう。
「さて、人里への道は・・・・」
地図を開いて道を確認する。
距離はそれほど遠くない。日が高いうちに着きそうだ。
「妖怪が出たら事だ、急ぐか。」
走っていくことにした。体力には自信がある。これくらいの距離ならそんなに疲れないだろう。
案の定、ある程度走ったら塀の様なものが見えてきた。
「おお、あれが人里か。」
走るスピードを落とす。太陽は丁度真上。腰には刀という荷物があったが問題なく走り切ることができた。
・・・人里に着いたらまず昼食をとろうかな。
などと考えていると、かすかに悲鳴とも泣き声ともいえる声が聞こえた。
おそらく子供のものだ。
何事だ。と思い走って一気に森を抜け、あたりを見回す。
・・・・いた。
ここから約40メートル、人里の塀から50メートルほど離れた場所、森へ入る一歩手前。
そこに小さい子供が3人、それを取り囲むように黒い狼のような動物が五匹。
黒い狼は今にも子供たちに飛び掛かりそうだ。
遊んでいたところに森から妖怪がやってきた、といったところだろう。
「見過ごすわけにもいかんか・・・・!!」
走る。もうあまり猶予はない、全速力で走る。
・・・・まずは突撃、混乱に乗じて子供を逃がす!!
少々無謀だが問題無い。こちらにもそれなりの備えがある。
右手に刀の柄を握る。
昔、親父に刀一本持たされて山に放り出されたことがあった。
無茶をする父親だった。今思えば何故死ななかったのか不思議だ。
・・・山で会った熊に比べれば、幾分かましだ!!
刀を抜こうと腕に力を入れる。
・・・・・・・・・・抜けない。
紐で括ってあるかのように動かない。
「!?」
焦る。
想定外だ。香霖堂では抜けたはずだ。なぜ?どうする?
いったん引く・・・間に合わない。
助けを呼ぶ・・・同じだ、間に合わない。
「・・・ええい、ままよ!!」
鞘をしたままの刀を構える。
敵はすぐそこだ。
一匹がこちらに気づいた。
野生の狼にしては勘が鈍いな!!
もうこちらの間合いだ。刀を下段に構え、踏み込む。
「・・・ふっ!!」
ドガッ!!
掬いあげるような一撃は狼の胴体に直撃。その体を宙へと飛ばす。
走った勢いそのままに、滑り込みながら子供たちの前へと移動する。
「おい!走れるか!?早く逃げろ!そして助けを呼んで来い!!」
突然の乱入者に子供たちも狼も呆然としているが、双方同時に俺がどちらの味方でどちらの敵なのか理解したようだ。
「あ・・・ありがとうございます!」
一番年が上であろう女の子が言う。
そして泣いている子供の手を引き人里の方へ逃げて行った。
「・・・・よし。」
狼たちが子供を追う様子はない。
どうやら獲物を俺に変更してくれたようだ。
縦に割れた瞳孔がこちらを睨んでいる。
あとは助けが来るまで時間稼ぎか。幻想郷の中で人が住んでいる場所だ。何らかの自衛手段は持っているだろう。
それよりも問題はこちらだ。不意打ちで殴り飛ばした一匹は地面に倒れたまま動かない。死んではいないだろうが、しばらく動けないだろう。
残り四匹。
刀を正面に構え警戒する。
「さて、やるか。」
所変わって場所は人里内のある寺子屋。
そこでは二人の女性が一仕事終えた後のお茶を楽しんでいた。
一人は薄い青、銀ともいえる髪を腰のあたりまで伸ばした女性。頭に変わった帽子を乗せている。
名を上白沢慧音。
半人半獣であり寺子屋の教師を務めている。人里を守護する人物の一人だ。
もう一人はアリス・マーガトロイド。
魔法の森に住む魔法使いであり人形遣い。
「今日はありがとう。子供たちにもいい勉強になった。アリスさえよければまたお願いしたいんだが、どうだろう?」
アリスはその蒼い瞳を慧音へ向けた。
少しだけウェーブのかかった金髪のショートヘア。その均整のとれた風貌は、どこか人形のような雰囲気を醸し出す。
「気が向いたらね。私もなかなか楽しかったし。」
今日は寺子屋の授業としてアリスが人形劇を披露した。内容はちゃんと子供たちの勉強になるようなものだ。子供たちの反響は凄まじく、人形劇が終わった後も子供たちはアリスの傍をなかなか離れようとしなかった。
「よろしく頼むよ。それにしても・・・・大人気だったな、アリス。」
「・・・まあ、悪い気はしなかったわ。でも、あれは少し疲れたわね。」
思わず溜息が出る。何せしばらくの間大勢の子供たちに囲まれて質問攻めだったのだ。
やれ次来るのはいつだとか、やれ人形はどうやって動かしているのだとか。
まったくあの元気はどこから来るのだろうか。
「それだけ好かれているということさ。」
苦笑混じりに慧音が言う。
「そんなもんかしらねぇ。」
「教師の私が言うんだ、間違いない。」
しばらく二人で雑談していると、寺子屋の中に一人の女の子が飛び込んできた。
「慧音先生!!助けてください!!」
かなり切羽詰まった声だ、何かあったらしい。
「どうしたんだ?落ち着いて言ってみなさい。」
慧音の表情は、先ほどまでの穏やかなものから一変して真剣なものになっていた。一瞬女の子は考えるように黙り込み、そして一気に喋り出した。
「里の外で遊んでたら狼に襲われて、誰かが助けてくれた!!その人が助けを呼んで来いって・・・・!!」
「なるほど。わかった。里の外というと森へ続く道か?」
女の子が頷く。
「森へは近づくなと言っただろう。後で説教だ、ここで待っていなさい。」
「・・・はい。」
申し訳なさそうに女の子は頭を垂れる。
「すまないアリス。少し出てくる。」
「私も行くわ。」
聞いてしまった手前、無視もできない。
「・・・わかった、ありがとう。では行くぞ!」
寺子屋を飛び出し、人里の道を慧音と二人並んで飛翔する。
このスピードなら、そう時間はかからないだろう。
助けに入ったという人物は無事だろうか。
・・・というか、助けに入った奴が助けを求めるなんておかしな話ね。
正義感からの無謀か、はたまた子供を逃がすための自己犠牲か。どちらにせよ、馬鹿な奴が居たものだ。
「・・・・・しっ!!」
飛びかかってきた狼の牙をかわし、すれ違い様に胴を放つ。
ドッ!!
狼は地面へ滑り込むようにして倒れた。
・・・真剣だったらこれで終わりなんだけどなぁ。
胴を食らった狼はよろけながらも立ち上がる。
さっきからずっとこんな感じだ。あちらの攻撃は当たらないがこちらの攻撃も致命傷にはならない。
この狼、動きは単純だったがやけにタフだった。はじめに殴り飛ばした狼も、もう起きあがっている。おそらく妖怪なのだろう。これは異常だ。
そう思っていると、森の方から大きな黒い狼がやってきた。
・・・・他の狼より一回り大きい。こいつらのボスか?
それはゆっくりとこちらに近づいてきている。
こちらを見た。
「・・・・・・・」
目は逸らさない。まっすぐにその目を見返す。
見た目に似合わないきれいな瞳だ。
・・・・まずいな。こいつは無理だ。
その狼の振る舞いは他の狼とは全く違う。下っ端も倒しきれない俺じゃあ、あまり長くは持たないだろう。
せめて鞘が抜ければな・・・・
その時、後ろから声が聞こえた。
「大丈夫か!?」
横目で後ろを確認する。空を飛んでやって来る人物が二人。
「・・・・ふぅ。」
思わず安堵する。
飛んでくる二人を見た大きい狼は、地面に倒れている狼を口に咥えて森へ歩いて行った。
・・・・賢いな。
「おい、大丈夫か?」
後ろを振り向くと二人の女性が立っていた。
「ああ、大丈夫だ。危ないところだった、ありがとう。」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。子供たちを助けてくれてありがとう。」
お互いに頭を下げる。
援軍は女性二人か。てっきり屈強な男でも来るかと思っていたが。
・・・幻想郷の人物は見た目で判断してはいけない・・・
香霖堂での言葉を思い出す。この二人もただの人間ではないんだろうか。もしかすると人間ですらないかもしれない。
「あなた、あんなのに襲われてよく無事だったわね。」
金髪の女性が聞いてくる。
「まあ、一応武術をやってる身だからな。」
「へえ、武術ね・・・・・ところで人里では見ない顔だけど、あなたもしかして外来人?」
「ああ、そうだ。元の世界には当分帰れないそうなんでな。ここに仕事を探しに来たんだ。」
ふ~ん、と金髪の女性。珍しいものを見る目でこちらを見ている。外来人はそんなに珍しいものなのだろうか。
「ふむ、名前は何と言うんだ?」
「遠峯だ、遠峯雅人。」
「遠峯か、わかった。私は上白沢慧音。ここ人里の寺子屋で教師をしている。」
「アリス・マーガトロイドよ。今日は訳あって人里に来ているわ。よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
なんだか最近自己紹介が多いな。まあ、見ず知らずの場所だからしょうがないか。
幻想郷に来て何度目かの挨拶に若干デジャヴの様なものを感じていると、慧音がこちらに言った。
「立ち話もなんだ、寺子屋まで行こう。何か礼もしたいしな。」
「あー なら仕事を紹介してくれないか。さっき言ったとおり仕事を探しに来たんだ。」
ふむ、と頷く。
「仕事か。ないことはないが・・・・まあ、後で話すよ。」
そう言って人里の方へと歩き出す。
俺は慧音の少しあとをアリスと並んで歩いた。
寺子屋までの道にはいろいろな店が建っており、人のにおいというものが確かに感じられた。自然と安心感が湧いてくる。
慧音は道行く人にたびたび声を掛けられていた。こちらを見て少し変な顔をする人もいたが、気にしない。
「さあ、上がってくれ。今お茶を用意するよ。」
慧音に促され玄関を上がる。
「お邪魔します。」
「居間はこっちよ、ついてきて。」
アリスについて居間へと歩く。
「・・・一つ聞いていいか?」
「なにかしら?」
居間に着いた。適当な場所に腰をおろして、問う。
「アリスも寺子屋の教師なのか?」
「違うわよ。今日は子供たちに人形劇を見せに来たの。」
「人形劇?」
「ええ。」
どこからか人形が一体、ふよふよとこちらへ飛んでくる。
「この子は上海、かわいいでしょう?」
上海という人形は、しばらく俺の顔をじぃっと見詰めた後、頭の上に乗ってきた。
「あら、気に入られたみたいね。」
「・・・アリスが操っているのか?」
さながら「たれパ○ダ」のように俺の頭に乗る上海。
「その子は半自律よ。自分の意志で動いているわ。私は大まかな指示を出すだけ。」
「へえ、すごいな。・・・アリスは人形師?」
「私は魔法使い。人形遣いとも呼ばれているわね。」
魔法使い・・・・そういえば魔理沙も自分のことを魔法使いだとか言っていたな。
なんでもありか、此処は。
「遠峯殿、少しいいか。」
慧音が入口に立っていた。
その後ろに身を隠すように立っているのは、確か狼に襲われていた子供たちだ。
ほら。と慧音に促され子供たちが前へ出る。
「・・・あ・・あの・・・・」
さっきの女の子だ。何やら恥ずかしそうにしている。
「助けてくれて・・・ありがとう。」
絞り出すように出したその声は小さかったが、はっきりと俺の耳に届いた。
「・・・・おう。もうあんな危ない所に行くんじゃないぞ。」
ポン、と頭に手を乗せる。
「うん・・・わかった。もう行かない。おじちゃん、ありがとう。」
「・・・・!?」
唐突な言葉に、結構傷ついた。純粋な子供の言葉だから余計に堪える。
周りの子供たちもお礼を言ってくる。
ありがとー
おじちゃんありがとー
おじちゃんあそぼー
純粋な言葉がさながら呪詛のように俺の心を軋ませる。正直しんどかった。もう半分涙目だ。
慧音とアリスは苦笑を浮かべてこちらを見ている。
助けてくれ、と目で訴える。
「あー前達、今日はもう帰りなさい。家の人が心配してるだろう。」
「「「はーい。」」」
子供たちが一斉に帰ってゆく。
「・・・・・・・なぁ、俺って老けてるのか?」
二人に問う。
俺はまだ二十二だ。おじちゃんは早いと思うんだが。
「ちなみに、いくつ?」
「・・・・・二十二だ。」
一息。
「「あ~~・・・・・・」」
なんだ、その顔は。
ああ、そうかそういうことか。
「・・・・・・・」
「「・・・・・・・」」
「・・・・・・・バカジャネーノ」
「。* ゚ + 。・゚・。・ヽ( ゚`Д´゚)ノウワァァァァァァン」
まさかのおじちゃん呼ばわりwwwww次が楽しみです
あと、たれパ○ダみたいに頭に乗っかってる上海可愛いよ!
そしてやっぱりこれまで通りつまらなくてガッカリです。
この外界から来たというのにそれらしさが感じられない、むしろ人間味もない、無駄に都合の良い設定ばっかりもっていて、なおかつ人格がぶれている、というよりも何から何まで薄っぺらい、ついでに名前もややこしい、この22歳のふけ顔おじさんさえいなければもう少し面白いストーリーになると思います。