Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

容疑者 ─八意 永琳─

2009/05/19 22:01:54
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   ☆この作品はミステリーではありません☆
 


 

 幻想郷某所に佇む永遠亭。周囲を『迷いの竹林』に囲まれるここは、月から逃げてきた者達と地上の妖兎達の楽園であった。
 さきほどまでは。
 現在では凶悪な殺兎未遂事件の容疑者が存在する、この世界でも有数の危険な場所へと成り果てていた。

「黙っていては話が進まないわ。申し開きがあるなら聞きましょうか」
 永遠亭の主、蓬莱山 輝夜は苛立っていた。
 目の前の容疑者は、先ほどから一貫して黙秘を続けている。事件の第一報を聞いたとき、輝夜は己の耳を疑ったものだ。
「……………………」
 ──八意 永琳容疑者。とはいえ当人が罪を認めていないだけで実質的には被告なのだが、ここでは容疑者と表記する。
 月を逃れ、永い時を共にしてきた従者の乱心。それは、輝夜の心をも千々に乱すものであった。

 事の起こりはこうだ。
 朝方、一匹の妖兎が日課のラジオ体操を行うために中庭へ出てきた時のこと。
 襖の開かれた永琳の寝室内に倒れている、鈴仙=優曇華院=イナバを発見した。被害者に外傷はなかったものの、意識の混濁と異様な血圧の低下がみられる為、毒物の吸引が原因だと思われた。
 すぐさま診療所に運ばれ、詰めていた数匹の看護兎の手によって救命措置が施された。被害者は現在、小康状態を保っている。 
 その後、警備兎第4班が寝室内部で眠っている永琳容疑者を発見、確保。
 そして、現在に至る。

 永遠亭には、毒物、薬物の類が数多く存在する。その管理は、永琳と数匹の弟子イナバによって行われており、部外者が持ち出すことは不可能に近い。
 中でも、危険な毒物に関しては永琳と鈴仙しか保管庫の鍵を所持しておらず、そのうち一人が被害者である現状から永琳容疑者の逮捕と相成った。

 突然の事件に、永遠亭は揺れていた。
 主従が向き合う大広間には、たくさんの野次兎が集まり、ちょっとした兎の山が形成されていた。かわいい。
 まったくもって埒が明かない。犯行が可能であった唯一の容疑者は黙秘を続け、被害者も一命を取り留めたものの意識が戻っていない。
 第一発見者の因幡 てゐも、鈴仙の容態を気にして診療所へ行ったきり戻ってこない。
 
 輝夜は天を仰ぐ。何も見えてこない。
 鈴仙は、永琳の一番弟子で信頼も厚く、相思相愛といって差し支えない関係だったはずだ。肉体的にも精神的にも。
 輝夜が生きてきた年月に比べれば、とても短い時間で築かれたものであったかも知れないが、それでも永琳に、鈴仙を殺害しようとする動機が見あたらない。
 今一度、輝夜は永琳に問いかける。
「ねぇ、何か言ってくれないかしら。せめて、貴女がやったのかどうかだけでも確認させてちょうだい」
 無駄とは思いつつも、怒りを抑え、辛抱強く永琳の言葉を待った。
 これが、鈴仙の自殺未遂か何かで、それを悟った永琳が鈴仙の名誉を守るため、彼女の意識が戻るまで黙秘しているというのであれば理解はできる。 
 だが、輝夜は直感的に永琳が犯人であると感じていた。
 鈴仙の自殺未遂であったとしても、一緒に生活していてその兆候すら嗅ぎ取れないはずは無かったし、当てつけのように永琳の寝室内で服毒する理由も無い。

「姫様!」
 一匹のイナバが一枚の紙切れを手に、息せき切って駆けてきた。確か、科学捜査班に配属されているイナバであったはずだ、名前は……。 
「ご苦労様、タウリン=イナバ。で、何か分かったのかしら?」
「はい! 毒物の内容が判明しましたので、ご報告に」
 タウリンは、たどたどしくも紙に書かれた文面を読み上げる。 
「毒物は有機リン系化合物。揮発性の高い特殊なもので、致死量は60kgの人体で約8g。KT50(生物の半数がノックダウンする時間)は40秒。管理責任者は永琳様のようです」
 輝夜は、報告を聞いて眉を顰める。   
 揮発性の高い毒物で毒殺を試みるなら、致死量が1gに満たないような強い毒性を持つものを使用するのが一般的である。一般的、という言葉が毒殺にそぐわないことを別にしても。
 この間、戯れに持ち上げてみたときの優曇華=イナバの体重は40kg前後。今回使用された毒に対する致死量は5gといったところか。
 気化した薬物を、呼吸のみによって5gも摂取するためには、相当な回数の吸引が必要になる。
 優曇華=イナバに外傷は無かった、という看護兎の言葉を信じるならば、もともと永琳に殺意が無かったとも考えられる。  
 それとも、突発的な諍いで、使用する薬物を選り好みできなかったのか?
 いや、そうではあるまい。『永琳に殺意は無かった』この考えに間違いは無いはずだ。 
 ならば、何故?  
 動機は見えてこない、殺意も無かった。使用薬物は揮発性で、毒性も人を殺すには不向き。 
 と、なると……。 
 この可能性しか残されていないではないか!
「永琳、今回の事件は、いえ、一件は……」
 永琳が、びくっと震える。続けられるであろう輝夜の言葉に、俯き歯を食いしばって耐えている。 


「事故なのね?」


 永遠亭の主が、真相の一端に手を掛けた瞬間であった。

     ※
          ※
 永遠亭ナンバー2の朝は早い。診療所の営業準備に姫のお世話、時間を見つけてイナバ達とのふれあいも忘れない。
 洗濯物を干す永琳の姿に『おかあさん……』と、つい口にしてしまうイナバが続出する。
 夜は、既存薬の改良と新薬の開発。加えて弟子の指導と、息つく暇もないほどだ。
 そんな彼女が、疲労困憊で深夜、自身の寝室にたどり着き、愛しの布団へ横になったとき。
 奴等はやってきた。

 ぷぃぃぃ~~~~む。
 うぅ~~ぅぅぅん。
 
 微睡みから引きずり出され、高音の羽音によって意識がかき乱される。耳の近くを付かず離れず、こちらを苛つかせる為としか思えない軌道を描き、ぷいむぷいむと飛び回る。
 試しに手で追い払おうと試みるが、成功しても一時のこと、すぐに戻ってきてぷぃむうわんとやり始める。
 何故、蚊帳を掛けておかなかったのか、永琳は激しく後悔した。だが、もう遅い。
 疲れに弛緩した躰は脳の命令を無視し、力なく横たわるだけの物体と化していた。
 
 うわぁ~おぉん。
 ぷぅぅ~~~~~ぅぅぅぅん。

 作戦を変更する。躰を起き上がらせることが出来なくとも、腕だけならば何とかなる。
 奴等がこちらの攻撃範囲に入ってきたときがチャンスだ。生まれてきたことを後悔するほどの一撃をくれてやる。 
 ………………今だ!
 ぱちん! 
 耳を中心に平手を叩き込む。もちろん自分にも被害が出るが、永琳は気にならなかった。奴らに鉄槌が下せるのなら、例えこの身が朽ちようとも構わない。
 しかし。
 
 いぃぃいぃぃぃぃ~~~ぃいぃいぃぃいいいぃん。

 幾分かの狂気と驚喜を含んだ羽音は消えない。目も開かず、音だけで判断して奴らを駆逐するなど地雷原を目隠しで突破するようなものだ。
 苛立ちが募ってゆく。
 眠れない。部屋の中に蚊取り線香はあるのだが、そこまでたどり着き、火を付けるなどという芸当が今の永琳にできるとも思えない。
 このまま布団を頭まで被って寝てしまおうか。
 それすらも、夏が近い気候と、竹林の中に建つ立地に起因する蒸し暑さで出来そうにない。
 ならば、いっそのこと。
 
 布団の傍らに置いた『エーリン鞄』から薬瓶を取り出した永琳は、痺れの残る腕で蓋を開く。 
 白色の煙が、すぐさま室内へと広がってゆく。 
 ああ、ようやく、これで。
 彼女を苦しめていた騒音が止み、静寂によって心に落ち着きが取り戻されていくのがわかる。
 やりとげた者だけが作りうる笑顔で、永琳は睡魔に意識を手放した。

     ※ 
          ※
「これが、私にわかる全て、です」 
 語り終えた永琳は、苦悶に顔を歪ませていた。疲労に身を任せた甘え、安易に毒物に頼った迂闊さ、それが原因で愛する弟子を、死の淵に叩き込みそうになった後悔。
 それらは、目覚め、事情を説明された後も延々と永琳を苛み続けた。鈴仙は、永琳を起こしに来て巻き込まれただけなのだろう。  
 疲れ果てた永琳に対して、布団はいとも容易く彼女の最大の武器である『思考力』を奪っていったのだ。  
 だからこそ、彼女は「あれは事故なんです」と言い出すことも出来なかった。
 
 無茶をする。いくら蓬莱の薬の効果により毒物を無効化できるとはいえ、部屋に猛毒を撒いたのだから。
 ネズミ一匹を殺すために、地球を破壊できる威力の爆弾を持ち出す青ダヌキを笑えないではないか。
 話を聞き終わったとき、輝夜は泣いていた。野次兎達も泣いていた。永琳にそこまでの負担を掛け、なおかつ奴等の襲来から護ってあげることの出来なかった不甲斐なさに泣いていた。
「永琳」「永琳様」「永琳様」「永琳様」「おかあさん」「永琳様」「まま」「えりーん」
 輝夜を皮切りに、次々と兎達が永琳に抱きついていく。全員が永琳の元に辿り着いたとき、そこには妖兎で出来た小山があった。かわいい。  
 
 感動の場面が、いくらかの落ち着きを取り戻した頃、永琳が口を開く。
「姫様、此度は私の短慮ゆえに、ご迷惑をお掛けいたしました。かくなる上は、如何様な処罰でも受け入れる所存です」
 深々と頭を垂れる。
 
 輝夜としてみれば、この物言いは面白くない。 
 むしろ申し訳なく思っているのは此方だというのに、持ち前の責任感で勝手に視野を狭める従者に、軽い憤りすら感じていた。
 よし、それなら。もっと働いてもらおうじゃないの。 
「わかったわ。それほどまでに言うのなら、貴女に新たな仕事を命じます」
「姫様ひどい」「おにちく」「永琳様は悪くない」「おかあさんをいじめないで」「代わりにわたしが働きますから」「ままをいぢめるな」「えりーん」
 妖兎達がそろって反発する。もちろん、それも予測済みだ。輝夜とて鬼ではない、こういう場の納め方くらいは心得ている。   
「落ち着きなさい、貴方たち」 
 一言で、妖兎を黙らせる。こほん、とひとつ咳払い。

「永琳。貴女には罰として、これから同じ様な事態が起こらないように『簡単に使えて、長持ちする蚊取り線香の開発』を命じます」
 
 驚いたのは妖兎達。そんな彼女たちに、輝夜は追い打ちをかける。
「貴方たちも。仕事をサボってこんな所にいるのだから、罰を与えます。ここにいる者達が交代で、永琳の部屋に蚊帳を取り付けること。いいわね?」
 わっ!! 
 妖兎達は輝夜を中心に小山を形成した。かわいい。息が出来なくて死にそうだが。






 そんな、幻想郷の無着火時限式蚊取り線香開発秘話。
奴等に対する憎しみが、このSSを書き上げさせた!
めたる
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ああ……次はバルサンだ……
2.名前が無い程度の能力削除
永琳の気持ちが良く判る…
寝ているときほど蚊の音が鮮明に聞こえてイライラするものです。
しかし本当に青ダヌキを笑えない結果にwww
3.名前がない程度の能力削除
吹いたwww
おにちく流行ってんなぁ
4.名前が無い程度の能力削除
>>肉体的にも

詳細希望。

というか、鞄に常に毒薬を携帯している永琳に笑いました。
5.名前が無い程度の能力削除
兎たちかわいい///
6.名前が無い程度の能力削除
実はうどんげがこっそり布団に潜り込んだんですね
7.名前が無い程度の能力削除
これは良作!