こんにちは、ようこそ紅魔館へ。
取材ですか?
あいにくメイド長とお嬢様は外出中でございますので、許可をお出しする事ができないのですが。
え?
私にですか・・・そんな事をおっしゃるのは貴女が始めてです。
と言いましても、私は何か突出している特技や能力を持っておりません。
えぇ、ただのおとなしい妖精メイドです。
「妙に落ち着いて見える」ですか?
そうですね、他のメイド達と比べて遊びに対する比率は極端に少ないですね。
業務をこなし、その上で休暇をいただき、その休暇を存分に遊び尽くす。それが私の遊びでしょうか。
よく、『妖精メイドは質より量、しかし数居たところで役には立たない』と言われますが、どんな事でも例外は存在するんです。
その例外が・・・まぁ、私なんですけどね。
そうですね、よく言われます。妖精なのに人間味があると。その通りだと思います。
背丈はお嬢様より少しだけ高いですし、知識もある程度は持っています。あくまである程度ですけどね。
毎日が勉強です。貴女はそうではないのですか?
あぁ、そうですか。
同じような日常がお好きではないのですね。
それは大きく同意です。変化のない毎日は退屈ですからね。
かといって、私はその日常にどうやって変化をつけるのかが思いつかないのです。
たとえばですが『魔理沙さんが来る』『妹様が屋敷内を散策する』『お嬢様がお出掛けになる』『メイド長がおやつを作ってくれる』
等の変化はたまに起きます。
でも、これは私ではない別の人物が起こした『変化』ですよね?
そんな変化の中でも私は結局毎日と同じ。
廊下の掃除とか洗濯物の取り込み。庭を歩いてみたりおやつを食べたり。
いつものように仕事をし、いつものように休息を摂り、いつものように食事をし、いつものように就寝する。
なんの変化も起きない。起こしようがないのです。
「起こしてみればいい」・・・か。
そうですね、例えばどんなものが良いですか?
知識はあるのですが、それをどう活用していいものか。それが分からないのです、やっぱり妖精ですから。
掃除は手を抜けば、メイド長かお嬢様に怒られてしまいます。
洗濯物も、汚したり濡れていればやっぱり怒られます。
食事で変化と言っても、妙な味付けには挑戦したくないですし、メニューもあまり突飛なものは作れるかどうか・・・
休憩はただ休むだけですし、屋敷の敷地内では行動範囲も限定されていますよね。
寝るときの変化・・・あまり考えたくないですね。
とまぁ、こんな具合です。
では、逆に私から聞きたいことがあります。
同じ『組織の中に組み込まれている身』でありながら、自由を謳歌している気分はどうですか?
えぇ、そうです。
私から見れば貴女は実に自由に動けているように映っています。
紅魔館など及びも付かない縦社会に組み込まれていながら、そこからいつでも飛び出すことができている。
部下とも和気藹々と暮らしているように思いますが、どうなんですか?
・・・言えない、と。
そうですよね、こうして会っている時や見かけた時が、その人物の本質全てだと決め付けるのはどうかと思いますよ。
貴女にしても、私の知らない他の人物も。
言えないことなんて沢山あります。だからこそ隠しておきたい事も沢山でてきますし、増えていきます。
まして、お互いに組織に属する身。
組織の秘密や暗部など、言えない位に知ってしまっているでしょう?
ですから、私は貴女の取材に答えることはできません。
話せる話題も、先ほどの『私の小さな悩み』程度しかご用意できません。
その他の話題も提供できるかとも思いますが、さりとてそのような時間は無いでしょう。
「なぜ」って?
貴女の後ろを見てください。こっちに飛んでくる3つの影がわかりますか?
貴女を迎えに来た可愛い部下と、私の上司。そして雇用主が。
それとですね、先ほどからこうして会話をしていますが
私の『声』は貴女にしか聞こえていませんよ?
これはですね、聞こえて欲しくない会話をするときに便利なんですよ。あくまで1対1で会話をする時ですけどね。
貴女にもあるはずです。俗に言う内緒話というやつが。
こういう会話をしている時には、周囲は「どんな話をしているんだろう?」と聞き耳を立ててしまうものなんです。
ですから、実際には声の音量を落としていても、かえって周囲の注意を引き付けてしまい「今、何の話をしていたの?」なんて言われてしまえば
逃げ道はないですよね。
実際、私達2人を外から見た場合ですけど、喋っているのは貴女だけで、私はただ少し困って微笑んでいるだけなのです。
ですから、きっとあの距離から見たなら
貴女が私を言いくるめて無理に取材に入ろうとしている
ように見えるかもしれませんね。
会話は聞こえませんから、内緒話でコッソリ入ろうとしているようにも見えますかね。
もちろん、近づいてくれば貴女の声『だけ』は聞こえるようになってきます。
全ての音を消すことができているわけではないですから。
記事を書くのであれば、私の事でよろしければどうぞ。
どのような文章でも結構です。書くことができれば、ですが。
無論の事ですが、屋敷のメンツにかかわることですので、変に書きたててお嬢様の怒りを買ってしまっても私は感知しません。
「妖精と言うよりは、まるで悪魔のようですね」
おかしいですね、自己紹介をしましたよね?
もう一度その時の会話をよく思い出してみていただけませんか?
私は嘘偽りを並べたつもりはございません。
さ、そろそろお帰りのお時間でしょうか。
お連れ様が間もなく到着する頃だと思いますし、こちらとしてもお嬢様をお迎えする準備等がありますので
これで失礼させていただきます。
事と次第によっては、今夜はお泊りになるかもしれませんね
お部屋の準備だけは整えておきますので、その際はどうぞくつろいでいってくださいね。
では。