地下世界、大きな屋敷。ある日の地霊殿に大きな声が響き渡った。
「お姉ちゃんなんて大嫌いよ!」
泣きそうになった。
実の妹に面と向かって言われて私はとりあえず錆びたナイフ(厄仕様)を取り出した。
うん、死のう。妹に嫌われた私なんてしんじゃえばいいんだっ!
「わぁぁぁ!? お姉ちゃん待って待って!」
「? なんですか、もう。妹に嫌われた姉に、存在価値は欠片も無いと言うのに……」
「何言ってるの!? ネガティブシンキングすぎるよ!」
はて、なんで私にゴッドハンドクラッシャーをしたこいしは、今になって私を宥めているのでしょうか。……きっと死に方がちょっとグロめになってしまうからでしょう。では、
「しーゆーこいし。また来世で……」
「どこ行くの!? そっち灼熱地獄だよ!?」
「いいのです、ナイフでだめなら溶解して死にますから。妖怪だけに」
「何よく分からない冗談言ってるの!?」
むぅ、またもこいしに止められた。
「じゃあ一体どんな死に方をすれば……」
「知らないよ! なんで死ぬことになってるの!?」
「だってこいしが……」
「私の所為!? 私嫌いって言っただけなのに!」
「そう、まさにそれですよ!」
「何が!?」
私はふぅ、と溜息をつくと、ゆっくりと歩いて再び先ほどまで読書に勤しんでいたロビーの椅子に座った。
そしてナイフをそそくさと胸元に仕舞うと、こいしをじっと見て、言った。
「姉は、妹がいるから姉と言うんですよ?」
「そこまで面倒なことしてそれ!?」
「妹に嫌われると、姉は姉とは言わなくなるんです」
「何故!?」
「だって、考えてみてくださいよ。妹に嫌われた姉の末路を。きっと薄暗い空間に引きこもってやることはペットと寂しく会話するくらいしか無いじゃないですか」
「今まで普通にやってきたことじゃん! しかもペットとの会話はさびしいどころか慌しかったよ!」
私の言葉を全部つっこむこいし。少し息が荒くなっている。むぅ、我が妹ながらすこしエロいわね。抱き締めたい、けど嫌われてしまっている私にはその権利が無い。……これが欲求不満、というものなのですね。
「エロいわね……」
「いきなり何!?」
おっと、私としたことが少し考えていることが口に出てしまっていたみたいですね。失敗失敗。
「さて、では嫌われ者の姉は地霊殿を去ることにしますよ。沢山の責務とペットの世話を残して」
「なんで去るの!? あと嫌なものだけ残したね!?」
そりゃあ、持って行くの面倒ですし……。臭い物には蓋、かわいい妹には欲情。そういったものは残すのが基本ですよ。
「えーっと、お姉ちゃん?」
「何ですか、私の片思いの相手のこいし」
「名前の前に変なの付いた!? ……じゃなくて、今日が何の日か知ってる?」
「今日? ……こいしの誕生日じゃありませんしこいしの誕生日じゃありませんしこいしの誕生日じゃありませんし……何の日ですか?」
「なんで全部私の誕生日?」
え、だって私の中では特別な日と言えばこいしの誕生日くらいしか……。
「今日はエイプリルフールよ!」
「え、なんですか、その……」
「エイプリル・フールね」
「そうですエブリバディ・バースデイです」
「エしか合ってない!? だからエイプリル・フールだよ!」
「もう何でもいいじゃない!」
「逆ギレ!?」
面倒なことは嫌いなんです。だからペットの世話はペットに、灼熱地獄の管理もペットに妹への愛情は私に任せてるんですよ。
「それで、何なんですか。そのなんとかなんとかは」
「……もういけどね……。……んと、地上の習慣で、毎年四月一日だけは嘘をついても許される日なんだって。……って、この前来た巫女が魔法使いと話しながらイチャイチャしてるのを人形遣いと橋姫がパルパルしてたのをどうでもよさそうに見てたサイドテールの妖精さんと氷の妖精さんが教えてくれた」
「嘘をついてもいい日、ねぇ……ハッ!! まさまさまさか!」
なんと、そういうことならば私の予想が正しいとなると!
「うん、嘘に決まってるじゃん、私お姉ちゃんのことが大好きだよっ!」
「ええっ!?」
「なんで驚く!?」
「いやてっきりもっとひどいことを言われるんじゃないかと思って……」
「どれだけネガティブシンキングなの……」
仕方ないことですよ。実の妹に嫌いと言われたショックが大きかったんです。
「でも、よかった……」
「?」
「本当に、こいしが私のことを嫌いにならなくて」
私はこいしを抱き締める。
「……私がお姉ちゃんのことを嫌いになるなんて、そんなことは無いよ」
こいしは私の耳元で小さくそう言うと、さらに小さくごめんね、と言った。
「いいのよ……ありがとう」
もし、もし心の底からこいしに嫌われたなら私は立ち直れなかったことでしょう。まぁ、もっともその時は、どんな手を使ってでも振り向かせてあげますけどね。
思い、私はふっと笑った。
前半からテンポも良くて楽しめました。
短いからか、オチが若干弱かった気がしますが……。
にとひなSS楽しみに待ってます。
>1さん
ちょいといろいろ用事が立て込んでおりまして……(言い訳
短いのはエイプリルフールに気付いたのが当日で、数時間でこれを仕上げてしまった所為です。もっと早めに気付いていれば……!
にとひなSS,がんばって書きます!
いいぞもっとやれ
>前来た巫女が魔法使いと話しながらイチャイチャ…
そしてアリパルに移行するのですねw
面白かったです
>3さん
可愛すぎる妹に暴走するのは仕方の無いことです。
もっとやってみます。
>#15さん
こういう掛け合いが得意です。どう書いてもこうなってしまいます。
アリパル……新しいかもしれない。
>5さん
すみません、エイは誤字です。修正しました。
楽しんでいただけたみたいで良かったです。