風に乗って作者: 天河らん

　　筆を持ったまま手を止める

　　さて、何を書こうか

　　たまには、何か長いこと書いてみるかな

　博麗の巫女のことはどうかなぁ、なんだかんだで世話焼いてたみたいだし

　今の巫女はよく里に顔を出しに来る、気がする

　私も何度か顔合わせたことあるけれど、なかなかいい子だった

　まぁ、相変わらず神社で妖怪達と宴会開いたりしてるみたいだけれど

　あそこの空気は、いつまでも変わらない、ずっと続く幻想の証

　湖の紅い洋館は、前と変わってるよなぁ

　吸血鬼の姉妹、前より仲が良くなってた気がした

　あと、なんだかしっかりしてきた気がする、って魔法使い達が言ってたな

　いつの間にかあそこは魔法使い達の集会所にもなってたのな

　ただ、前と変わってしまった、減ってしまった役者は還ってこない

　冥界は……どうなんだろう、私はあまり行かないからよく判らない

　それでもきっと、あそこは変わってないんだろうな

　少なくとも、宴会で見るあいつらは変わっていない

　暢気な主と、真面目な従者

　あ、でも従者の方は顔が少し大人っぽくなってたかも、本当に少し、少しね

　……永遠の屋敷、変わる訳がない

　変わる訳がないはずなのに、変わってきている気がする

　竹林じゃなくても、里で見掛けたりするようになった

　なんだこの気持ちは、憎いのか、悔しいのか

　私が、取り残されただけなのか　

　貴女はもう、とっくに世話になっただろうね

　時々、宴会であの死神と飲み交わすよ　

　なかなか気が合うんだ

　閻魔と面向き合って話した事はないけれど

　きちんと、ねぇ？　私が何心配してるか、判るでしょ？

　妖怪の山、話聞いたときの事、覚えてる？

　あれから、きちんと行ったよ、きちんと行けたよ

　きちんと謝れたよ

　それで、時々、あの方と呑むんだ、昔を想って

　ずっと遠い昔から、ずっと近い昔まで、不尽の話を

　地底の妖怪がちょこちょこ顔出すようになったとき、すっごい不満そうだったねぇ

　賑やかになって良いじゃない、って言って、頭突かれたっけか

　なーに、安心してよ、忌み嫌われてた妖怪達もここのルールは守ってる

　貴女が心配してるような事は起こってないよ

　それに、何かあったら私が飛んでいってやるよ、今の生き甲斐はそれだから

　幻想郷に寺が出来たとき

　周りに悟られないようにしてたけど、知ってるよ、少し嬉しそうにしてたの

　人間も、妖怪も認める僧侶さん

　貴女と考え方が似てたもんね

　人でも、妖でもなく、その間としてあり続けた貴女と

　最近お鍋がおいしいよ

　生徒達が授業費代わりに食材くれたりするんだ

　そもそも授業費なんかとってないのにねぇ

　変わってるけど、変わってないよ

　生きてるよ

　　おかしい、手紙に何を書こうか悩んでいたはずだったのに

　　いや、今の幻想郷はどんな感じか書こうとしてたのに

　　いつの間にか昔を思い返してただけだ

　　前から書きたい事はたくさんあるはずなんだけど、面白いほど纏まらない

　　どうしたものか

　　結構悩んだ気もするし、悩んでない気もする

　　結局いつもと変わらない文を綴って

　　封をして

　　握りしめて家を出た

　　空には満月

　北風が吹く。寒い。せめてもう少し厚着してくるべきだったか。
そんな事を思いながら、竹林を上に向かって飛ぶ。
上へ、上へ、天へ。
空に近づけば近づくほど風が強くなる。やっぱり厚着してくるべきだったか。
風が強い。

　しょうがない事だって、自分でも判ってる。
毎月欠かさず続けてるけれど、所詮自己満足なんだ。
それでも、

　目の前に満月。昔から満月の日は欠かさず会っていた。
満月を見て思い浮かぶのが、奴じゃなくて貴女になったのはいつからだっただろうか。
そんな話をしたら、笑うだろうか。

　手に握った手紙を見る

　手に握った手紙を燃やす

　手に握った灰が

　風に乗って飛んでいく

　判ってる。こんな事したってどうにもならないって。
生者と死者の境界はどうしようもないんだって。
判ってる、判ってるよ。

　だけど、ここは幻想郷なんだ。
幻想を夢見ても良いではないか。
ここは幻想郷なんだから。

だから、どうか、

　どうか、風に乗って

　　君まで届け、この想い

　『　元気だよ　ありがとう　』

　帰る前、冬なのに、温かい風を感じた気がした

風に乗って

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