「あら、珍しい」
魔法の森にまともな生き物はいない。
あるのは暗い色の草木と、体に悪そうな菌類。
瘴気に覆われているため全うな生き物は入りたがらないのである。
住んでいるのは普通の魔法使いと、人形を使う七色の魔法使い、そしてその魔法使いにつくられた人形ばかり。
そんな森に珍しく迷い込んだ動物がいた。
「ねこ」
七色の人形遣いアリス・マーガトロイドは自宅の庭先でねこを見つけた。
子ねこだった。
雨に打たれて小さく丸くなっていた。随分弱っているようだ。
多分獣か妖怪かに襲われてこの森に逃げ込んだのだろう。
足を怪我しているようだったので、治るまで面倒を見てやることにした。
上海はねこになりたい
羨ましいことに目の前のねこは自分を差し置いてアリスになでなでされている。
家につれてこられたときは雨に濡れ泥で汚れていた体もすっかり綺麗にされ、今ではアリスの膝の上でしっぽを揺らしごろごろいっている。
おまけに普段果物を入れているバスケットにタオルを敷き詰めた特製のベッドまで与えられ、いつのまにかリビングに専用スペースが出来てしまったのだ。
いつもなら人形に話しかけつつゆっくりお茶をしている時間だというのに、帰ってきてからのアリスはねこにかかりっきりだ。
あの白黒い魔法使いが来て、いくら話しかけようが止めない人形制作の手を、今しゃべりもしないねこが独占しているのだ。
くやしい。これは非常に口惜しい。
可愛らしさでは自分の方が勝っているはずである。なんせアリスの作品なのだ。
私もなでなでして欲しい。どうすれば振り向いてもらえるだろうか。
上海は考えた。
考えに考えて もうもの凄く考えた。
しかし悲しいかな、球体関節人形である上海の頭の中はからっぽだったのだ。
アリスの完璧な技術は空洞にすら皺一つ作ることを許さなかったのだ。
これでは話にならぬと上海は脳(なかみ)を持つ仲間に訊ねた。
どうすればあの猫に勝てるか、どうすれば自分もなでなでしてもらえるか、と。
トリアミノ、トリニトロ、ベンゼン、としきりに呟いていたなかみ持ちの彼女はふと顔を上げてこう言った。
やっちまえ。
上海はとても納得した。
そうか、あのねこさえ亡き者にすればこの心持ちも晴れ、アリスも元に戻るというものだろう。
できれば今すぐにねこの元に行きぶすりといきたいところだったが大きな問題があった。
穏やかな心の持ち主であるアリスは人形に無駄な戦闘や殺生は許可していなかった。
主命がなければ殺生はできぬ。
上海は他に案はないかときいた。
下手な殺生休むに似たりということか。いや鉄砲だったか。
まあいい。それならば貴様犬に、いや、ねこになれ。トラでもいいかも。
なかみ持ちは偉そうにそう答えた。
消せぬのならば置き換われということか。
はて、何を以ってして自分はねこになれるだろうか。
ねこにあって上海にないものを手に入れればいいのだろうか。
上海にはふさふさサラサラの髪の毛がある。小さな手と足がある。綺麗な目がある。
無いものといえばそう、尖った耳と長いしっぽだった。
そうか、耳としっぽ。それさえあれば私はねこになる。
ねこになって入れ替わるのだ。
実に素晴らしい計画だった。
そうと決まればアリスに耳としっぽを作ってもらおう。
上海は燃えてきた。
おい近づくな発火する、とはなかみ持ちの言葉だ。彼女のなかみは火薬である。
芸術とは爆発なのだろう。
上海が慌てて少し距離を置くと会話終了の合図と受け取ったなかみ持ちはにやりと笑い、ご武運を祈ると言うとまた独り言に戻っていった。
ヘキサニトロ、ヘキサアザイ、ソウルチタン ……
さて、そうと決まれば行動は迅速でなければならない。
アリスが求めるのは吸血鬼の機動力。鍛えられた上海の速さは中々のものだった。
敵はねこ、望むはアリスの膝の上。
火蓋はねこの知らぬところで切って落とされた。
「アリスー」
「あら、どうしたの上海」
「ワタシヲネコニシテー」
「上海この子が気に入ったの?」
「……ウン?」
「じゃあ あなたにこの子の面倒を頼もうかしら。早く良くして野生にかえさなくちゃね」
「アリス、ナ、ナデナデ…」
「あ、なでたいの?今は駄目よ寝てるから」
「…」
「部屋をもう少し暖めようか」
「上海、薪くべて」
笑顔が眩しかった。
暖炉に薪を放り込むと炎が赤々と燃上がり、部屋の暖かさが増した。
寝ぼけたねこがにゃあと鳴いた。
「…バカジャネーノ……」
ぽつり呟いたそれが誰に対してのものなのか、彼女自身にもとんとわからなかった。
あまりにも中途半端な締めじゃないっすか!?
これから上海がどんな行動をするかwktkしてて読んでて終わりはキツイっす。
それともこの後の展開は自分の脳内で考え(ry
中身持ちの爆薬人形もいい味だしてる!
ところで…
黒のあさんって…まさか…ひょっとして…?
上海にはこれからも頑張っていただきたい。
火薬でモノ考えてんのかよww
しかし大江戸はなんて物騒な物質をw
コメントありがとうございます!
1様> アリスにねこの面倒を頼まれた時点で上海にはぼやくことしか出来なくなったのでここで終わるのが一番いいかと思ったのですが…引き際って難しい…!! この後の展開はあなたの胸の中に!(逃走)
2様> 上海は思考が斜め上に滑るちょっと抜けた子だと可愛いなあと思います。 私は普段絵描きなのでそっちで知ってくださってる…のでしょうか?
3様> 特に決まった人形ではないのですが皆さんが大江戸というのならそれで~ 上海はからっぽの脳で頑張ります!
4様>ありがとうございます!
5様>アリスの攻撃「眩しい笑顔」 上海に∞のダメージ!戦闘不能!
6様>脳が火薬なので考える事も過激なのです。多分頭に綿が詰まってる子は夢見がちで木で出来た子は現実的なんじゃないかと思います。
7様>ちょっとお馬鹿なくらいが可愛いってものです!大江戸は頭の中が火薬でいっぱい。二重の意味で。
何処がとかちょっと明確にわかんないけどこの上海かぁいいわぁ……
ばかじゃねーの?って呟くことあるよなぁw
ありがとうございます!!