はじめに
VOCALOIDの曲を聴きながら浮かんだアリスとメディスン達の小話をまとめてみた。
あくまでイメージした光景を書いたものですので元の歌を知らない人でも平気……だと思う。
~絵本『人柱アリス』~
神様がいました。
神様はいろんな世界、生物を作ることができました。
ですが、生物……特にヒトを作るのは難しかったのです。
それは心というものがあるからでした。
神様は夢を見ました。最高のヒトを。それを「アリス」と名付けました。
作りだしたヒトの中でいくらかの傑作を仮の「アリス」とし、それぞれにひとつの世界を与えました。神様は表舞台から姿を消し、彼女たちの傍観者となりました。
さあ。絵本は開かれたのです。
一番目の「アリス」は最も強く何者をも恐れない少女。美しさと凛々しさを兼ね備えた彼女は剣を持ち世界を赤く切り開きました。彼女に逆らう者はすぐさま切り捨てられ、飛び散る血は「アリス」の服を赤く染めました。
彼女の歩く先は常に血でできた赤いシートが引かれていたいたのです。
神様は嘆きました。勇ましさも残虐が加わればただの暴力です。
神様の失望を買った彼女は深い森の牢獄に閉じ込められて「アリス」を剥奪されました。
――あなたは「アリス」を守る最強の武器となりなさい。
彼女は剣をナイフに変え、「夢子」となりました。
二番目の「アリス」は常に新しいものを取り入れていく「アリス」でした。
新しい服、新しい文化、新しい兵器
古いものと扱われたものはことごとくゴミとなり処分されました。それは生き物も同じでした。やがてカラスの体をしたハトや犬の頭をした熊など生態系もなにもかもが狂い、世界はごちゃごちゃとなりました。
――あなたは「アリス」に外からの新しい風を吹きこみなさい。
神様に言われた彼女は「ルイズ」として様々な世界に向かわされました。
三番目の「アリス」は可愛らしく国の王女としてみんなに愛されました。その可愛さで城の男をたぶらかし、飽きると外の男達に近づきました。
彼女を巡り男達は争い、多くの血が流れました。
――あなたには城を守ってもらいます。
かつての王女は「サラ」という門番に生まれ変わりました。
森の小道にはバラ園。さらにまっすぐ進みますと白いお城が見えます。
ハートのトランプを持っておいでなさい。
四番目の「アリス」は二人で一人の双子の子。いろんな扉を好奇心のままくぐりぬけて
遊びまわりました。
気が強く、少々無鉄砲な姉と狡猾な妹。「アリス」に近いものを吸収していく二人でしたが、
最終的に彼女達はお互いだけが見れていればそれが世界だと考えてしまいました。
――「アリス」に教えてあげなさい。
二人は「ユキ」、「マイ」としていずれ現れるアリスに教える日を待ち続けました。
溜息をつく神様でしたが、ある日のこと、ひょんなことから人間の子供を拾ってきました。子供は女の子で、素直で可愛らしい子でした。神様はかつての「アリス」達と共にその子を育てることにしたのです。
名前は――『ありす』。
夢子は勇ましさを。
ルイズは視野の広さを。
サラは信念の尊さを。
ユキは積極性を。
マイは生き延びる知恵を。
それぞれ『ありす』に授けたのです。
『ありす』は彼女達を「お姉ちゃん」、神様を「お母さん」と慕い幸せに暮らしていきました。『ありす』はみんなを家族としたのでした。それは神様の理想を超えた「アリス」の姿だったのです。
――今日、遠い世界で暮らすようになったアリスは久しぶりに故郷と呼べる世界へ帰ってきました。みんなは温かく迎えてくれて、大人びたアリスも安堵した表情には昔の面影がちらほら見え隠れしていました。
アリスが寝静まると、五人の姉達が音もなく寝室に入ってきて、次々とアリスの頬にキスしていきました。
誰もが顔を上気させ、うっとりと愛おしそうに唇をつけていました。中には髪を撫で、首を舐める姉もいました。
神様は美しき姉妹愛を満足そうにいつまでも見守っていました。
~幽霊人形~
ザアザア……雨が一定のリズムを保ち降り続いている。実にいやな夜だ。私は半分カップに残っていたコーヒーを
一気に胃に流し込み、乱暴にテーブルに置いた。こういう日はさっさと眠ろう。朝になればたとえ雨がまだ降っていても
明るくはなっているだろう。
コンコン。
控え目なノックのはずなのに大きく響いた気がするのはこんな雨の夜だからか。しかしもう夜更けだ、出ない方が身のためであろう――それなのに私の体は勝手に立ち上がってこともあろうかノックのする入口の扉へと向かっているのだ。意思ではないのに動かされている。まるで操り人形のようだ。
とうとう私は扉を開く。雨の中一人の少女が佇んでいた。黒いローブで全身を覆っているようだが顔は確認できた。
人形のような白い肌で可愛らしい少女だ。おそらく今ここで自分の意思で体が動くようになったとしてもこの少女からは目が離せまい、そんな怪しげな魅力を持っている。少女に目が行きすぎていたのか、
気付かなかった。彼女の傍ら、左右に一体ずつ人形が浮かんでいたのを。人形が私の顔をじっと見ていた。
「……うっ!?」
ガタガタと全身が恐怖に震えだす。ずっと無表情だった少女がくすっと笑い、
「思い出したでしょうか?」
私を打ち崩すのに十分すぎる笑顔であった。
「今日みたいな雨の夜――あの、惨劇の夜」
2体の人形はそれぞれ大きさに合わせた剣を取り私に向けている。
「まだあの映写機はあるのでしょうか? 双子――この子たちを殺した記憶」
人形達が剣を持ち近づいてくる。私に復讐するために。人形に姿を変えて私を裁きに。
「朽ちていけ」
――ずぶり。
深紅に染まる世界で少女と人形が笑っていた。
~暗い森のサーカス~
暗い暗い森の中。そこの館は人形達の楽園だという。
その館の主はとても人形が好きな少女。人形達も彼女の側を決して離れない。
人形は言葉を発さない、それでも彼女は人形達の笑い声に包まれて暮らしている。どんな遊びもみんな
楽しんでくれる。
バラバラになっても修理でき、生まれ変われるから。
今夜も彼女は新しい人形を持ち帰る。人形は色のない目で涙を流すがそれを彼女はおいしそうに舐め、
人形に口づけをする。
すぐにあの人形も笑うだろう。
なぜならここはとても楽しいのだから……。
~曾根崎心中~
人形が人形遣いに恋をするのならば、全てを捧げなければならない。
人形遣いが人形を恋し愛するのならば、魂を共有しなければならない。
人形は心臓を持ち、それが人形遣いとのつながりとなる。
死す時は互いの首に糸を巻いてつないで、あの世にいっても切れないようにする。
さすれば永遠の恋の手本となるだろう。
~magnet~
無名の丘の鈴蘭畑。
冬も枯れぬ鈴蘭の花達がしおれていく。
しかし訪れる者のいない場所で気づく者はいなかった。
ここにいた少女のことさえも――。
地下室の扉を開き、アリスは鼻歌混じりにある一室へと向かっていた。
秘密の場所、知る者は彼女ただ一人。
ぎいぃ……重く開かれた扉の向こう、石でできた壁に力なくもたれかかる少女……メディスンはアリスを見て色のない瞳を輝かせた。
「メディ、いい子にしてた?」
メディスンは首がちぎれそうな勢いでコクコクと頷き、アリスはそれを見てくすりと笑いメディスンの前にしゃがみ込んだ。
「そう、じゃあご褒美よ」
アリスはメディスンを抱きよせ、開きっぱなしの唇を自分の唇で塞いだ。乱暴に舌を侵入させ、口内を
暴れまわった後にメディスンの舌に絡みつく。
ぴちゃ、ぴちゃ……しばらくアリスはメディスンの唇を貪り続けた。
首輪代わりに巻かれた赤い糸。メディスンがアリスだけの人形となった証だ。アリスは自分だけの可愛い人形を心から欲し、メディスンは自分を愛してくれる主を求めていた。
「ご主人様……」
「メディ……」
毒にあてられたのかもしれない。
魔力にあてられたのかもしれない。
だが今となってはどうでもいいことであった。
二人はもう一度キスをし、抱き合った。
無名の丘、最後の鈴蘭の花が力なく折れた。
~メルト~
好きな人ができました。永琳や幽香が言うには、この好きという気持ちは恋というものらしい。
ならばこれは初恋というものか。……恥ずかしい。
初恋の相手。それは本来ならば敵になるであろう人形遣い。
だが想像していたのとは裏腹に人形達から慕われ、優しい人形遣いだったのだ。不覚にも怪我をした私も介抱してくれたし。
……思えばあれから好きになったのね。ああ、なんて単純! でも仕方ない、好きなんだから。
ライバルもたくさん。霊夢や魔理沙、パチュリー他にもいっぱいいる。そこで一世一代の大勝負に出ることにした。
「ねえアリス、明日二人でお出かけしようよ!」
すごく勇気のいる一言だった。ねえ、「いいわよ」って言ったけど、アリスは気付いてるのかしら?
鈴蘭の柄のドレスに鈴蘭の髪飾り、今日の私はちょっとだけお洒落。
「素敵ね」
言われただけであーうーと言葉が続かない。手を引かれてそのままついていく。
里の様子を眺めたり、小川の近くでお弁当を食べたりした。一生懸命作ったサンドイッチ、アリスがおいしそうに食べてるのを見てるだけでおなかがいっぱいになり、
「メディはいらないの?」って聞かれて答えたおなかがいっぱいというのは嘘じゃない。
魔理沙達もいない。
上海達他の人形達もいない。
今日はアリスは私だけのアリスなんだ。
誰にも邪魔なんてさせないんだから!
でもでも楽しい時間というのは残酷なくらいに短くて、あっというまに夜になる。
帰りましょうというアリスに「いやだ!」と駄々をこねて走り去る私。
――いやな子だね。
やはり駄目だ。魔理沙達と比べて私は子供すぎる。
アリスには似合わない――なんて考えてたら転んでしまった。
痛さよりも情けなさで泣きそうになる私の手を包み込む手――アリスのだ。
アリスはいつもみたいに優しく微笑み、
「今日はうちに泊まってって」
おそるおそる頷くといきなり抱きあげられた。噂に聞くお姫様だっこで。
「今はこれで勘弁ね」
そういっておでこに魔法のキス。
今なら死んでもいい、いや、やっぱり死にたくない。
だって――もっとアリスと一緒にいたいんだもん!
アリスの腕の中、こっそり瞳を閉じてお姫様気分。
『好き』
――これはまだ、とっておくことにした。
アリスを含め旧作魔界組ってこうなんというかシリアスな背景を想像させるようなキーワードが多いですから。
誤字報告:
人間の子供を拾ってました→人間の子供を拾ってきました
曲聞きながらもう一読しよう。
今度は聞きながら読んでみる
ただ後半はちょっときついかな…