「ちわーっす! 鍵山でーす! 厄回収しに来ましたー!」
珍しく私の家に誰かがやって来た。というか、本当に誰だ。何で新聞の集金に来ました、みたいな感じなんだろうか。
開けなくて無視していれば良いかな。
「風見幽香さーん! 居るんでしょ? 入るわよ?」
いやいや、鍵閉まってた筈。無視よ、無視。
「鍵山の鍵は~どんな鍵でも開ける鍵~♪」
玄関から、ごとりと鈍い音がした。
まさか……いや、ありえない。大体、相手は私を風見幽香と知っているようだし。最凶最悪と噂される私に、近付くやつなんて普通は居ない。
まぁ、その噂はただの噂で、実際に私が誰かを潰してたり、暴れてる姿を目撃した者は居ない。当たり前だ。私はそんなことしてないのだから。
つまり、噂だけが一人歩きしている状態。
別に私は危険じゃあ無い。なのに、姿を見せただけで避けられる。少し、寂しい。
「どうも、鍵山雛よ」
「……誰?」
いつの間にか、私のリビングにあるテーブルに座っている。
「ってテーブルの上はおかしいでしょ!?」
「あら、これ椅子かと思ったわ」
どんな目してるのよ。私がジッと目を見つめると、彼女も見つめ返してくる。
大きくて綺麗な瞳が、私を捉えている。
「あなた、どうやって入って来たのよ?」
「不用心ね、あなた」
不用心?
もしかして、鍵を開けっ放しだったのかしら。
「鍵穴に硫酸流したら開いたわよ?」
「は?」
「まったく……不用心ね」
「明らかに強硬突破じゃない!」
「眠いわぁ」
私には関係無い、といった感じに欠伸をしているこいつ。一体何なんだ。
「あなたに言ってんだけど」
「え! 私? ごめんなさい、独り言かと」
わざとらしく驚いた様子を浮かべる。え、本気で何なんだろうこいつ。喧嘩売っているのだろうか。
「喧嘩売ってるのかしら?」
「いくらで?」
「殺す」
「そんな言葉軽々しく使っていたら、弱く見えるわよ?」
不敵に笑うこいつ。
よほど力に自信があるのか。面白い。
最近は私を見るだけで、みんな避けるから、身体が鈍っていたところ。そんなに自信があるなら、相手してもらおう。
「それじゃあ、やりましょうか」
「え? 何を?」
「何って、もちろん弾幕勝負よ」
「え、ちょ、ちょっと待って!?」
両手をぱたぱたと上下に振って、慌てている。
何を慌てているのか。挑発をしてきたのはそちらではないか。
「問答無用!」
「やぁっ!?」
私はとりあえず、様子見。手加減レベルで殴りかかった。
少女、戦闘中。
「……よわっ!?」
「きゅぅ~」
いや、まさかこんな弱いなんて。
目の前でボロボロになった鍵山雛とやらが、涙目で倒れている。
「待ってって言ったのに……」
「喧嘩を売ってきたのはあなたでしょう?」
「……そんなつもりじゃなかったわよ」
あれで、そんなつもりじゃなかったのか。どんなお気楽な頭をしているのだろう。
「いや、そんな恨めしそうに睨まれても。というか、あなたその程度の実力で誰かを挑発なんてしないことね」
「あなたが強すぎるのよ!」
あぁ、確かに私は力には自信あるわね。
そうか、こいつが特別弱いわけじゃなくて、私が強すぎるのか。いや、でもかなり手加減したんだけど。
「手加減した筈よ。かなりね」
「ぅ……噂通り、あなたは凄く強いのね」
「噂?」
「そう。目が合ったら半殺しにされる。かなりの性悪などなど」
あーやっぱりね。
そういう噂か。
というかこいつは、本人目の前にして言うなんて、また喧嘩売ってるとしか思えないのだが。
「それで? そんな嫌われ者の私に、一体何の用かしら?」
「あなただけが嫌われ者じゃないわ。私も、好かれる存在では無い」
どこか、寂しそうに俯く。ん? 確かこいつ、鍵山雛って名乗ってたわね。
もしかして、あの鍵山雛か。
「あなた、厄神の?」
「そう、厄神の鍵山雛。通称、雛っち」
「いや、聞いたこと無い」
「気軽に鍵山って呼んで良いわよ?」
「そこは雛っちじゃないのね」
「雛っちって何?」
「あなたが言ったんでしょうが!」
傘を手に取り、腕を振りかぶる。
さっきボコボコにやられた恐怖が蘇ったのか、怯えた表情で頭を押さえた。まるで、雷を怖がっている子どもみたいだ。
「いじめる?」
潤んだ瞳で、そんなことを言われると、弱い者苛めをしているみたいで、嫌な気持ちになる。
「いじめないわよ」
溜め息を吐いて、傘を投げ捨てる。
やる気がすっかり削がれてしまった。
「いじめない?」
「いじめないって」
「本当に本当?」
「本当に本当よ」
「本当の本当に本当?」
「えぇいしつこい!」
首を傾げながら、何度も訊いてくる。鬱陶しいわ。
膝を抱え、丸まるような姿勢を取る雛は、どこか小動物みたいだった。
「で、その厄神様が何の用かしら?」
「あなたの厄を回収しに」
「なら、さっさと回収して帰りなさいな」
「いえ、あなたは特別なタイプなのよ」
「は?」
「友達居ないでしょう?」
いきなり失礼なことを言う。
本気で殴り飛ばしてやりたい。いや、確かに居ないけど。
「それがあなたの不幸! つまり私と友達になれば良いのよ!」
「だが断る。意味分からないわ」
「……え?」
雛が物凄く悲しそうな表情になる。
え、ちょ、何故だろう。
まてよ、確か雛も好かれる存在では無いと言っていた。もしかして、さっきのは。
「あなた、友達が欲しいの?」
「な!? ち、違う!」
顔を真っ赤にして慌てている。どうやら図星のようで。
しかし、何故私なんだろうか。
「何故私なの? あなたが好かれない存在だとしても、他にそんなこと気にしない奴等が居るでしょう」
赤くなったまま俯いて、うーうー唸っている雛に訊く。
そう、気にしない奴等だっている筈。
例えば、博麗霊夢。嫌がる表情を浮かべながらも、受け入れてくれるだろう。
例えば、霧雨魔理沙。厄すらも、面白そうだと言って、笑いながら受け入れてくれそうだ。
例えば、八雲紫。あいつは何を考えているか分からないやつだけど、なんだかんだで面倒見が良い。
「私、ある新聞を読んだの。清く正しくholidayとか叫んでいる天狗の」
あぁ、あの烏天狗か。確か射命丸文といったか。そして、holidayは言ってなかった気がする。まぁ、どうでも良いけど。
「その新聞に、友達居ないランキングが載っていて、あなたと私が同率一位だったの」
よし、今度あったらあの烏天狗を捻り潰そう。
「それで、同じ寂しさを理解してくれるのは、あなたしかいないと思って!」
まぁ、確かに寂しい時はある。
分からないことは無い。
だからといって、傷の舐め合いみたいな関係は御免だ。
「友達っていうのは、そんな動機でなるものじゃ無いと思うわ。それに、時間をかけて信頼関係を築きあげてから、初めて友達と言えるんじゃないかしら」
「そう、かもね……」
悲しそうな表情を浮かべながら、ぽつりと言う雛。
思い出してみると、悲しい表情ばっかりをさせてしまっている気がする。
だけど、同情みたいなものから友達になるなんてのはおかしいと思うから。
心の中で、ごめんねと謝る。
「なら!」
「ん?」
「それなら、これから互いに知り合っていけば……友達になれるかしら?」
これから、か。
なるほど、確かに知り合っていって、互いを好きになれたら、信頼関係が築けたのなら、それは立派な友達だ。
「そう、ね。なれるかもね」
「な、ななら! 改めて、鍵山雛です」
雛が顔を赤くして、勢い良くお辞儀をした。
こういうことに慣れていないのだろう。そんな様子が可愛らしくて、思わず小さく笑ってしまう。
「風見幽香よ、よろしく」
私がそう言って、手を差し出す。
すると、雛は今日初めての笑顔を見せてくれた。
太陽みたいに、明るくて眩しすぎる笑顔。
「よ、よろしく!」
そう言って私の手を握った。
雛と私が、果たして友達になれるのか分からない。けれども、上手くやっていける気がする。仲良くなれる気がする。
雛は、未だに私の手を嬉しそうに握ったまま、離さなかった。
扉と窓に鍵がかかった部屋にどうやって入ったでしょう
答え:壁に穴を開けて
みたいですね
ここで持ってかれたwwwww
毎日休日って事?
こんな組み合わせも良いですよね!
>>アクセス様
ありがとうございます。
>>3様
反則技ですよね。
>>奇声を発する程度の能力様
清く正しい休日を過ごしているのでしょう。
斬新な組み合わせですね…今後に期待!
まさかのシマリス君かwww
シマリス君、懐かしいですよねw
>>7様
地味に好きでした、シマリス君w