Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

冬になる前に

2009/11/24 23:50:31
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 寒い。冷たい。指先がきんと冷える。
 これからの季節、水仕事はだんだん辛くなっていく。
 指先の感覚がなくなって、手を拭いた後、両手を握り合わせる。
 でも、まだ、室内仕事が多いから、平気だ。
 冷たい風に一日さらされることもない。
 私よりも、彼女のほうが、きっと寒い。
 寒がりのくせに、薄着をする、彼女。
 動けば暖かいなんて言って、からだを冷やして。
 だけど、暖かい服を着ろだなんて、私は絶対に言わない。
 今日も、水筒に温かい紅茶を入れて、外に出る。
 お湯に手のひらを浸して、しっかり芯まで温めてから。
 暖かいストールを巻いて、靴をコツコツ鳴らして。
 何事もないように。いつも通り平然と。


 今日は、朝から冷えるなぁ。
 こんなにも晴れているのに、何で寒いんだろ。
 えぇと、確か、ほーしゃれいきゃく、なんちゃら? って現象だって、誰かが言ってた。
 誰だっけ? 最近、館に色んな人が訪れるようになったから、覚えてないなぁ。
 とにかく、そういう現象によって、晴れていても寒いらしい。
 うーん、謎だ。晴れてるんだから、素直に暖かくなれば良いのにね。まったく。
 はぁ、そろそろ、もっと暖かい格好をしたほうが良いかな?
 この前、魔理沙に「見てるこっちが寒いんだよ」とか言われちゃったしなぁ。
 いや、だけど、まだいける。まだ頑張れる! 寒さと張り合うのもどうかと思うけど。
 だけど、寒い! ってしてたほうが、温かさに触れたとき、嬉しさも倍増する。
 はぁ……でも、寒い。指先とか、氷水で冷やしたみたいになってる。
 何だかチルノの手みたい。そういえば、そろそろ活発に動き出す時期だなぁ。
 今年は、あんまりちょっかい出してこないと良いけど……寒いしね。


「美鈴」
「あ、咲夜さん。お疲れ様です」
「お疲れ様。あいかわらず、薄着してるのね」
「あはは……鍛えてるんですよ」
「ふぅん。まぁ、良いけど。風邪は引かないでよね」
「はい。そこは、ちゃんと体を動かして、寒さに負けないように頑張ります!」
「まぁ、それだけ元気なら、大丈夫かしら。……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」


 カップを手渡す、一瞬だけ、触れ合う指先。冷たい、美鈴の指先。
 ほんの一瞬、触れ合うだけなのに、冷たさと、指先の感触がやけにリアルで。
 もう少しだけ触れたいという欲を掻き立てる。
 けれど、今日もこれ以上は触れられなかった。
 一体何のために手のひらを温めてきたのか……。
 まだまだ私は、あれだ。ヘタレってやつだ。
 本当は、触れたり、手のひらを包むだけじゃなくて、抱きしめたいのに。
 あぁ、そんなこと、いつ実行出来ることやら……。


「温かいです。あったまります」
「そう。良かった」


 咲夜さんの指先は、いつも温かい。
 あれなのかな? 子供体温……って言ったらきっと咲夜さん怒りそう。
 一瞬しか、触れられないけど、その一瞬が、私にはかけがえのないもので。
 その一瞬のためなら、少しくらい薄着しても平気。
 咲夜さんの温かさが、冷たい指先に沁みこんで、心を温かくする。
 本当は、もう少しだけ、触れていて欲しいなんて、我侭な気持ちもあるけど。
 でも、温かい指先を冷やすのは、良くないもんね。
 そんな我侭は言わない。こうしていられるだけで、十分満足だ。


「じゃあ、私、仕事に戻るから」
「はい。お仕事頑張ってください」
「……貴女も頑張るのよ?」
「あ、はは……もちろんですよ」


 美鈴に、水筒を手渡す。これが、今日触れるラストチャンス。
 ラスト……って言っても、二回目だけど。
 美鈴の左手に向かって、両手で水筒を差し出した。
 綺麗に切り揃えられた爪。
 けれど、それ以上の手入れは何もしてなさそうな爪。
 もし、貴女を手に入れられたなら、何色のマニキュアを塗ってみようかなんて。
 そんなことを夢想する。……馬鹿らしい。夢想するだけじゃ、駄目なのに。
 触れたい。もっと、触れたい。
 一瞬で離れる冷たさと、確かな感触を心に刻みつける。


「それじゃあね」
「はい! また後で」
「えぇ」


 あぁ、咲夜さん、行っちゃった……。
 寂しいなぁ。でも、咲夜さん特製の温かい紅茶があるし!
 全部飲んだら、後で水筒洗って返しに行けるもんね。
 返しに来ました! って口実で。咲夜さんのところに行こう。
 自然と笑みが零れる。心が温かくなる。
 うん。だから、もう少しだけ、薄着で頑張ってみようかな、なんて。
 真冬になる前の、冬の始まりの、ほんの短い期間のやり取り。
 そんな期間限定のやり取りを、私は特別に思っているから。
 咲夜さんは、どう思っているか分からないけど……。
 でも、どう思われていても、思われてなくても、私は特別に思っているから良いんだ。
 触れた指先を、水筒ごと握り締める。

「ふふ、温かいなぁ……」

「……あの子が厚着になる前に、言わないとね」

 呟きながら仰いだ空は、高く澄み切った青空。
 茜色に染まる頃、あの子は私の元へやって来る。
 ……もし、このまま、曇ることなく夕焼けが見れたら、そうしたら……。
 そうしたら、この想いを伝えてみようか。
 黄昏時、それは私たちにとって、一番ふさわしい時だと思うから。
 いつまでも、ヘタレでなんていられない。今の私は、瀟洒からは程遠い。
 早く美鈴に、暖かくしなさいよ、って言えるようにならないとね。
 徐々に冷えてきた指先を握り締めながら、前を向いて館へ入る。
 ストールを脱いで、靴をコツコツ鳴らして。
 何事もないように。いつも通り平然と。

 ……明日は、暖かなストールも一緒に渡せますように。
寒くなってきたので、温かくほの甘な話が書きたくなりました。
冬場は甘々が恋しくなります。
月夜野かな
http://moonwaxes.oboroduki.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
さくめーはいいものだ
2.名前が無い程度の能力削除
どっちもヘタレなせいでもどかしさに悶えたわ
3.名前が無い程度の能力削除
このヘタレめww
悶えるわちくしょう